直哉と唯衣の二人は、定番としてメリーゴーランドに乗ってから、コーヒーカップに乗った
そして今は、少し早めの昼食を取っていた
直哉が取りに行っている間に、唯衣は周囲を軽く見回した
一年中桜が咲く不思議な島国でありながら、やはり、日本帝国に近い雰囲気があった
紅葉に混じって桜の花びらが舞い、秋空に桜の木が栄えている
最初は違和感を感じたが、今では良いと思っている
そして、そんな初音島に居るからか、唯衣は早く祖国を取り戻したいと思っている
いや、それは唯衣だけでなく、全日本人が思っているだろう
その矢面に立って戦うのが、帝国軍人たる自分の役目だ
と唯衣は自身に言い聞かせた
その時、直哉がトレイを両手に持って戻ってきた
直哉の姿を見て、唯衣は
「後で、直哉に話を聞かないとな……」
と呟いた
直哉と約十年振りに再会して、唯衣は直哉の変貌に驚ろいた
黒かった髪は白く右目は赤に変わり、左目に付けられた眼帯の下からは、何らかの駆動音が聞こえた
確かに、成長することは予想していた
だが、予想外の変貌に驚愕した
再会した時には聞けなかったが、今日こそは聞こうと心に誓っていた
「お待たせ。確か、唯衣はスパゲッティだったな」
「ああ」
唯衣が頷くと、直哉は右手に持っていたトレイを唯衣の前に置いた
「流石に、和食は無かったな」
「まあ、予想はしていたよ」
二人はそう会話すると、手早く食事を始めた
二人共に軍人なので、基本的に食事は早い
だが、唯衣は自身が食べているスパゲッティの味に懐かしさを覚えて、手を止めた
味付けがなんとなく、母が作ってくれたスパゲッティに似ていたからだ
唯衣の家は古くから続く武士の名家で、日本帝国を昔から守ってきた防人の一族である
それ故か、食事は基本的に和食ばかりだった
だが、何回か母が洋食を作ったことがあった
ハンバーグやスパゲッティなど、母は元々料理好きだったから、色々と作っていた
父がタイタン戦争の時に、烈火に乗って前線に向かい、帰ってはこなかった
なんでも、現地の民間人の避難の時間を稼ぐために奮戦し、最後の一体と相討ちになって戦死した
帰ってきたのは、父が残した家宝の刀と家族写真だけだった
覚悟はしていたが、実際にそうなると、唯衣は泣き叫んだ
母はそんな唯衣を優しく抱き締めて、泣き止むまで頭を撫でてくれた
その数ヶ月後、唯衣は正式に帝国近衛軍人の士官となり、父の背中を追い掛けながら、母から料理を教わった
だが、その母もユーラシア連合の侵攻により、生死不明になった
唯衣個人としては、生きていることを信じたかった
だが軍人としては、死んでいると分かっていた
唯衣の家があった地域は、ユーラシア連合軍のMS部隊のミサイルと砲撃により吹き飛んだ
部下だった雨宮中尉は気遣っていたが、その時は外面的には冷静だった
だが、心中では怒りの炎が大きく燃え上がっていた
唯衣は何回も母に対して、避難を促した
だが、母は頑なに『唯衣が帰ってくるべき家を守るのが、私の役目よ』と譲らなかった
(母様……)
唯衣が母を思っていると、直哉が
「どうした?」
と問い掛けた
「む? なにがだ?」
直哉の言葉の意図が分からず、唯衣は首を傾げた
すると直哉は、唯衣を見ながら
「泣いているぞ?」
と言った
「え……? っ……なんで?」
直哉に言われて、唯衣は自身の目元に手を持っていき、自分が泣いていることに気付いて驚いた
「す、すまない……なぜ……?」
唯衣はなんとか泣き止もうとするが、全然涙は止まらなかった
すると、直哉は立ち上がって唯衣に近寄って
「俺では役不足かもしれんが……」
と言うと、直哉は唯衣の頭を優しく抱き締めた
「な、直哉……?」
唯衣が不思議そうに問い掛けると、直哉は唯衣の頭を撫でながら
「泣くのは、我慢すべきではない……泣きたいなら、泣いていいんだ」
と告げた
すると、唯衣はグッと歯を食いしばって
「すまない……ありがとう……っ!」
と言うと、静かに泣き始めた
それは、押し殺していた感情の奔流だった
部下やユウヤ達の前では気丈に振る舞い、指揮官として、軍人として、冷静に、しかし熱く戦った
だが、それも限界に達してしまった
軍人としての篁唯衣ではなく、一人の人間として
一人の篁唯衣として、直哉の胸の中で泣いた
そして直哉は、そんな唯衣が泣き止むまで、静かに、黙って唯衣の頭を撫で続けた
それは、一人の年頃の少女の慟哭だった