筆が進まない
あれから何事もなく時は過ぎ、12月中旬
珍しく大統領執務室からは、さくらの怒った声が響いていた
「だから! あれは正当な人道的支援だって言ってるでしょ!? その前は、正当防衛! そっちが、こっちのMSを撃墜したから、こっちもやり返したんじゃない!」
さくらはそう言いながら、左手で机をバンバンと乱暴に叩いた
もし、美秋やアイシア。他の秘書官が見たら、唖然とするだろう
それほどに、さくらが怒るというのは珍しいのだ
「ボク達は、JEU艦隊から亡命したいって言われたから、それを受け入れたの! その亡命者達を君たちが攻撃してきたから、こっちは守るために攻撃したんじゃない! 頭が堅いなあ!」
どうやら、話題は数ヶ月前に起きたJEU艦隊防衛戦らしい
ということは、相手はユーラシア連合の外交官だろうか
すると、さくらが片眉を上げて
「え? もう、これ以上は話す意味がない? 武力行使って……こら! 切るなぁ!」
どうやら相手は一方的に電話を切ったらしく、さくらはワナワナと受話器を見ると
「もうっ!」
と悪態を吐きながら、受話器を叩き付けるように戻した
そして、深々と溜め息を吐くと
「うにゃぁー……困ったことになっちゃったなぁ……」
と呟くように言うと、少ししてから受話器を取りボタンを押して耳に当てて
「あ、やよいちゃん? お兄ちゃん居る? ちょっと、面倒なことになっちゃったんだぁ……」
と少し弱気な声で、会話を始めた
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
それから、数日後
「これはどういった茶番だ!!」
と怒鳴ったのは、初音島統合防衛軍の閣僚の一人である
そして、憤っているのは、その閣僚だけではなかった
たった一人を除き、ほぼ全員が怒りを露わにしていた
なぜならば……
「我々ユーラシア連合は、以前初音島の一方的な攻撃により、被害を被った。よって、初音島に以下の要求をするものである。
一つ、初音島は、所有するあらゆる技術をユーラシア連合に無償で明け渡すこと
二つ、現政権及び、全軍の解体
三つ、全国土を明け渡し、属国となるべし。以上の要求に、72時間以内に従わない場合、武力によって制圧する……茶番にも程があるわぁ!!」
閣僚は持っていた紙を読み上げると、それを握り潰して、机に叩きつけた
それは、ユーラシア連合が送ってきた事実上の降伏勧告だった
しかもそれを肯定するように、モニターには夥しい数のユーラシア連合艦隊の映像が表示されている
総数、約60
しかもその内の一隻は、アークエンジェルに酷似していた
ただし、色はアークエンジェルと違って黒系に塗装されている
どうみても、アークエンジェル級なのは間違いない
「監視衛星によれば、占領した日本帝国領土より、60余りの艦艇が出撃したのを確認しております……観測した速度から計算した結果、到着するのは……今月、12月30日未明かと……」
それは、ユーラシア連合が告げた72時間の1日前
そして、降伏勧告をしてきたのは朝の7時
つまりは、12月31日にユーラシア連合は攻撃を仕掛けてくる
しかも、ユーラシア連合は言わずと知れた大国であり、初音島は小国
軍事力には、激しい差があった
初音島は中立国連盟を結んでいるが、他の国はユーラシア連合という大国相手に尻込みしており、動かないのは目に見えていた
政府から派遣されてきた閣僚は、ユーラシア連合となんとか和平交渉をしたいと言うが、軍の閣僚は一蹴した
そして、会議が紛糾していると、それまで黙っていた純一が立ち上がった
すると、それまで紛糾していた会議室が一瞬にして静まり返った
「政府は、繰り返しユーラシア連合へ会談要請を」
純一がそう言うと、政府の官僚は
「それでは、和平を?」
と首を傾げるが、純一は首を振って
「全軍に第二種非常態勢を宣言する……」
と告げた
それを聞いて、官僚や閣僚達は息を飲んだ
「これより我々は……ユーラシア連合と戦争に入る! 整備隊には、各防衛設備の点検整備をさせろ!」
「「「「「はっ!」」」」」
第二非常態勢
それは、事実上の交戦下に入る一歩手前だった
そして、これが発令された場合、全軍人は一切外出が規制され、別命あるまで自宅か寮での待機となる
こうして、初音島は危機を迎える