ユーラシア連合と初音島統合防衛軍が開戦して、早一時間
両軍は一進一退の攻防を繰り広げていた
その光景を、新アメリカ連邦のアラスカユーコン基地の海兵隊仕官
リリア・シェルベリ大尉はテレビで見ていた
その表情は真剣で、行く末を見守っているようだった
そこに、同じNAU陸軍の男性仕官
デリック・アイアンサイド少佐が現れて
「気になるか、シェルベリ大尉?」
とリリアに問い掛けた
「アイアンサイド少佐」
リリアがアイアンサイドの名前を呼ぶと、アイアンサイドはリリアの隣に吸って、コーヒーの入った紙コップを差し出した
「ありがとうございます、アイアンサイド少佐」
リリアはコーヒーを受けとると、一口飲んでから、再びテレビを見て
「気になりますね」
と言った
画面では、桜が咲いている初音島の至るところで爆発が起きている
しかし、なぜ彼女が初音島で起きている戦争を見ているのか
普通だったら、他国での戦争は関係ないという考えを持つ軍人がほとんどだろう
中には、《その国が好きだから、気になる》
という軍人も居るだろう
そして、リリアはそれだった
タイタン戦争の時、彼女の所属していた最初の部隊は欧州方面に派遣された
NAU軍の戦法は、膨大な数の機体と潤沢な補給を活かした圧倒的弾幕を形成しての暴風を彷彿させる射砲撃戦闘である
しかしこの戦法は、《補給が万全にされる》ことが大前提である
だが、リリアの所属していた部隊を載せていた艦隊は、数度に渡り、タイタンの妨害により補給が滞った
その結果、弾薬や部品類が減る一方で、タイタンとの戦闘を余儀なくされた
そして、ある戦いでリリアの所属していた部隊と艦隊は壊滅
リリアは脱出出来た艦のクルーと一緒に、救命ボートに乗って海を漂流した
それから数日後、リリア達が乗っていたボートは、近くを航行していたNAU海軍の原子力空母
ジョン・F・ケネディに保護された
そして暫定的にだが、その空母預かりとなっていた海兵隊
ブラックナイブス隊に所属することになった
そしてそのブラックナイブス隊が所属していたJFKに、アジア大陸に上陸作戦が発令された
JFKはその命令に従い、アジア大陸へと部隊を上陸させた
しかし、そこでもまた補給線が寸断される事態が発生
部隊だけでなく、艦隊も全滅
彼女一人が生き残ったのだ
その後、彼女は一人無人の廃都市を歩いた
だが彼女は、生きることを諦めてなかった
緊急用ビーコンと携帯用救急キットを肩から下げて、彼女は一人でアジア大陸の横断を始めた
彼女がそのような行動を取ったのは、訳がある
ブラックナイブス指揮官
ダリル・マクマナス大尉が、彼女だけを逃がしたのである
『お前は生きろ』
と言って、指揮官権限で機体の操縦権を奪い、オートパイロットで装着された増槽《ドロップタンク》とバッテリーの続く限り、遠くまで逃がしたのだ
最初彼女は
『私も最後まで共に戦う』
と言った
だが、それをダリル・マクマナスは一喝すると
『一人でも生き残れるなら、絶対に生きろ』
と言って、彼女を逃がしたのだ
その時、ダリル・マクマナスを含めて、他の部隊はもはや損傷が大きく、生き残れる確率が低かったのだ
たった一人、リリアだけを残しては
そして、ダリル・マクマナスやブラックナイブス隊、他の海軍MS隊の思いに押されて、リリアは生き残るために歩いた
そして、携帯食料も尽きかけて、ビーコンのバッテリーも危うくなった時、リリアはアジア大陸に派遣されていたまりもの部隊に保護された
そこから暫くの間、リリアはまりもの部隊に同行する形でNAU軍との合流を目指した
その間、リリアはまりもから
『パイロットならば、死んでいった仲間達のことを誇らしく語り継いでやれ』
と教わった
死んでいった仲間達のことに縛られるのではなく、仲間達がどうやって戦い死んでいったのかを、後世に教えていってやれと
それを教わったリリアは源隊復帰すると、後輩や部下達に最初の部隊の仲間達や、ブラックナイブス隊、海軍の部隊がどうやって戦い散っていったのかを誇らしく語った
一人でも多く、彼らの思いと、散っていった仲間達のことを覚えていてほしくて
それと、リリアがまりもの部隊で学んだことはもう1つあった
それは、格闘の重要性である
リリアはその時まで、NAU軍学校で習った射砲撃戦闘を守って戦ってきた
しかしそれは、潤沢な補給があって初めて成り立つ戦法である
戦争というのは、いわばシナリオの無い劇だ
何が起こるかなど、当然予測出きるわけがない
ある程度予測出きるとはいえ、その予測通りに進むわけがない
たった一発の弾で兵士が死ぬこともあれば、何発撃とうが、当たらない場合もある
たとえ凄腕のメカニックが整備しようが、急に壊れることもある
リリアはそれを学んだ
例え、祖国が万全の補給態勢を敷こうが、襲撃されたら物資は失われる
そして、物資が来なければ、弾が切れて、自慢の射砲撃戦闘も出来なくなる
弾が切れたら格闘戦しか無くなるが、NAU軍では射砲撃戦闘ばかり偏重して教えられるために、格闘戦は最低限しか教えられない
だから、格闘戦が得意というパイロットはほとんど居ない
しかし、格闘戦を使うことにより、弾の消費を抑えられることを学んだ
それを行っていたのが何を隠そう、初音島の部隊だった
初音島のMSはビーム兵器を標準装備しているが、実弾米兵装も少なからずある
しかし初音島の部隊は、射砲撃戦闘だけでなく格闘戦闘も行うことで継戦能力を上げていた
その戦い方は、NAU軍学校では習わなかったことだった
そして、射砲撃戦闘には致命的な欠点があった
それは、混戦になると、味方誤射になりかねないために、下手に撃てないのだ
事実、最初に所属していた部隊も、それで壊滅した
格闘戦闘の重要性に気付いたリリアは、源隊に復帰すると、格闘戦闘能力を磨いた
そして、彼女に部下が宛がわれると、彼女は口を酸っぱくするほどに、格闘戦闘の重要性を説いて教育した
その結果、彼女率いるブラックナイブスは軍一番の戦死が少ない部隊となった
そして今、彼女が恩義を感じている初音島がユーラシア連合軍により、戦火に焼かれている
「ユーラシア連合め………」
人知れず、リリアは呟いた
リリアは今回の戦争の理由を、知り合いの情報屋から聞いていた
だから、ユーラシア連合のやり方を知って、恥知らずと思った
その時だった
警報音が鳴り響き、窓からは即応MS部隊のリーオーMkーⅡやエアリーズMkーⅡが次々と出撃していくのが見える
それを見て、リリアは持っていたカップのコーヒーを飲み干すと立ち上がった
すると、同じようにコーヒーを飲み干したアイアンサイド少佐が
「最近、やたらとスクランブルが増えたな。また、ユーラシア連合だろ」
と溜め息混じりに告げた
アイアンサイド少佐の言った通り、ここ約一ヶ月程はユーラシア連合絡みで緊急出撃が多いのだ
ユーラシア連合がどういった目論見でこんなに手出ししてくるのかは知らないが、どうせ碌なことではないだろう
リリアはカップをゴミ箱に捨てると、アイアンサイド少佐に向き直って
「行きましょう」
と言って、ロッカー目掛けて駆け出した
心中で、初音島の軍人達にエールを送りながら