義之がフリーダムで出撃する、少し前
最外周部人工島
その倉庫郡の一画に、ユーラシア連合所属のMS部隊が居た
左肩には、部隊章がペイントされている
炎によって熱せられている剣が
部隊名・ジャール大隊だ
『ターシャ、ザルカの様子はどうだ?』
と問い掛けたのは、ジャール大隊指揮官
フィカーツィア・ラトロワ大佐である
『応急処置は済ませました。しかし、一度母艦に帰還する必要があります』
と答えたのは、ターシャこと、ナスターシャ・イヴァノワ大尉だ
その年齢は15歳と幼いが、真面目な副官である
そんな彼女は、被弾し負傷した部下の様子をラトロワに報告した
それを聞いて、ラトロワは数瞬黙考してから
『よし、母艦に帰投するぞ。政治将校も、どさくさ紛れで始末出来たしな……それに、そろそろ本国で同志達が動く頃合いだ』
と告げた
それを聞いて、ターシャは
『わかりました。ザルカの機体は、どうしますか?』
と問い掛けた
その問い掛けに、ラトロワは
『放棄しろ。重荷になる』
と命じた
『了解。ザルカを、私の機体に乗せます』
ターシャはそう言うと、ザルカと呼ばれた少年を背負った
ザルカの見た目は幼く、大体12歳位だろう
しかも、腕には特殊な模様の布を巻いている
ザルカは、ダルクス人である
実を言うと、ジャール大隊の殆どはユーラシア連合にて身分が低い者達で構成されている
ユーラシア連合にて正式にロシア人と認められているのは、ラトロワとターシャ含めて、たった三人だけだ
しかも、その内の一人は戦死している
ラトロワが戦闘のどさくさに紛れて始末したのだ
そもそも、なぜ政治将校が部隊に居たのか
その理由は、ラトロワが軍上層部に信用されていないからだ
彼女、ラトロワ大佐はユーラシア連合内部では、数少ない人種差別しない人物だ
それに、彼女にはダルクス人の夫と子供が居たのだ
しかし、その夫と子供は特殊警察により強制労働所と軍キャンプに送られてしまった
その理由が、たった一度だけ政府に対する不満を溢しただけなのに、政府に対する不穏分子と判断されたからだった
勿論だが、ラトロワは密告はしていなかった
しかし、家に盗聴機が仕掛けられていたのだ
それを知ったのは、二人が連れてかれた後だった
夫は木工品にて生計を建てていたのだが、夫が作るのとは違う木工品が置いてあったのだ
それを砕くと、中から盗聴機が出てきたのだ
そして、その盗聴機は政府が使っているのと同じだった
つまり、政府はラトロワを信用していないのだ
そして、夫と子供が連れてかれて少しすると、部隊に政治将校が配属されたのだ
機体の優先操縦権限を有する、政治将校が
それ以降、ラトロワはその政治将校を廃除するタイミングを伺っていた
それが、この戦闘中だった
本国で、ラトロワが所属する反乱軍が決起するだろうこの時
ラトロワは以前から、ユーラシア連合の人種差別はおかしいと感じていた
そして、夫と子供が連れてかれたのを契機に、反乱軍に接触
実働部隊の指揮官の一人にまで登り詰めた
死んでしまった、二人の仇と国を変えるために
『ザルカ、収容完了しました!』
『よし……ジャール大隊は、母艦シチルストイに帰投するぞ!』
『了解!』
ジャール大隊はラトロワの指示に従い、母艦シチルストイに帰投を始めた
時は戻り、シチルストイでは
「ちょっと! 何時まで待たせる気よ!?」
「もう一時間は待ってますよ!?」
とある二人
姫路と島田の二人が騒いでいた
そんな二人が居るのは、シチルストイのとある小部屋だ
二人はシチルストイに入ると、機体を渡すよう要求
用意するまで、待っていてくださいと案内されたのが、その部屋だった
しかし一時間待っているのに、未だに部屋で待たされていた
二人が騒いでいると、部屋の入り口に居た警備兵が
「ただ今当艦は、帰投してきた機体の補給や整備を優先しております。貴女方の機体の用意は後回しになっています」
淡々とそう告げた
すると二人は、警備兵に詰め寄り
「なんで、ウチ達の機体の用意が後回しになってるのよ!」
「そうですよ! おかしいです!」
と喚いた
その時、部屋のドアが開いて
「艦長命令よ、お客さん」
と第三者の声が聞こえた
ドアから入ってきたのは、パイロットスーツを着た女性
亦菲だった
鈴と戦っていた彼女は、味方がある程度撤退したのを確認すると離脱
シチルストイに消耗した弾薬と推進材を補給しに戻っていたのだ
「そもそも、アンタらの所属は沈んだボーリンダ。この艦にとっては外様よ……そんなアンタらより、所属機体のほうが優先なのは当たり前でしょ?」
亦菲の言葉に、二人は口をつぐんだ
彼女が言ったことは、道理である
普通は、所属機体のほうが優先だ
そのことに二人がイライラしていると
「軍曹、その二人は放っておけ。そろそろ、動くぞ」
と亦菲が言った
それを聞いて、警備兵は背負っていた小銃に弾を込めた
そして、亦菲と一緒に部屋から出た
そのことに首を傾げていると、スピーカーから一瞬ノイズが流れてから
『鳥籠は開け放たれた。繰り返す、鳥籠は開け放たれた』
と放送が流れた
その直後、艦内で銃声が鳴り響いた