機動戦士ガンダム 英雄黙示録   作:京勇樹

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タイトルでわかりやすいか


王達の願い

場所 ある軍施設地下

 

「さて、この間試した連中だが」

 

と、義之が数十人の隊員を前に言った瞬間だった

 

義之の後ろの机の上に設置された、電話が鳴った

 

「義之、外線よ。しかも、直通」

 

と、電話を覗き込んだ麻耶が珍しそうに告げた

 

「直通外線とは、珍しいな」

 

義之はそう言いながら、受話器を取った

 

義之達が居る軍施設は、外部から電話が掛かってくると一旦中央通信オペレーターが取り次ぐ形式になっている

 

それは機密の漏洩を防ぐ為の機構だ

 

しかも、義之達が居るのは軍の中でも機密性が高い特殊部隊

 

尚更機密性は高いのだ

 

故に、直通外線を掛けられるのは限られている

 

「はい、ワルキューレ隊隊長桜内です。………あ、さくらさん」

 

どうやら、相手は大統領の芳野さくらだったようだ

 

「どうしました? ここに掛けるなんて、珍しいですね………え? ……確か居ますが……」

 

義之は机の上から、一枚のプロフィール用紙を取って眺めた

 

すると、目を見開き

 

「は? ちょ、ちょっと! それはどういうことですか!?」

 

義之の驚いてる声に、隊員達は顔を見合わせた

 

「はい……はい………はい、今からそっちに行きますので……それでは」

 

義之は受話器を戻すと、体を隊員達に向けて

 

「予定を変更して、これから通常シフトに入る! 俺と沢井少佐は少し出るから、なにか採決が必要な場合は、伊隅中佐か朝倉大佐に頼んでくれ。伊隅中佐、朝倉大佐。頼みます」

 

と義之が言うと、二人の女性

 

伊隅みちると朝倉音姫(あさくらおとめ)が立ち上がって

 

「了解しました」

 

「うん、お姉ちゃんにお任せ!」

 

と、それぞれ返事をした

 

そして、隊員が移動したのを確認すると義之は上着をハンガーから取って部屋から出た

 

その後を麻耶が追随する

 

「義之。なにがあったの?」

 

麻耶の質問に義之は苦い表情をして

 

「あーほれ、対象の訓練生の中に、土見禀って居たろ?」

 

義之が聞くと、麻耶は目をしばたいて

 

「え? ええ、居たわね。その子がどうしたの?」

 

と、首を傾げた

 

「実はな………そいつを採用しても、実戦部隊に入れるなって、言われたんだよ」

 

「え、ええ!? なんで!」

 

義之の言葉に、麻耶は目を見開いて驚いている

 

「そんなの、俺が知りたいよ………でも、さくらさんも何か困ってたみたいだし………」

 

「困ってた?」

 

義之の言葉に、麻耶は首をかしげた

 

「ああ……あんな声、初めて聞いたよ。しどろもどろになってたんだぜ?」

 

「あのさくらさんが?」

 

義之の言葉に、麻耶は驚いた

 

「とりあえず、大統領府に急ぐぞ」

 

「ええ」

 

義之は麻耶を引き連れて、出口に急いだ

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

二人が出口に着くと、眼鏡を掛けた女性が車の傍に立っていた

 

「大佐。お車を用意しときました。行き先も入力済みですので、後は乗るだけです」

 

と、眼鏡をかけた女性

 

布仏虚(のほとけうつほ)技術大尉は、敬礼しながら微笑んだ

 

「ありがとうございます。虚さん」

 

「すいません、虚さん。本当なら、私がしないといけないのに……」

 

義之は微笑みながら敬礼するが、麻耶は申し訳無さそうに頭を下げた

 

すると、虚は微笑んで

 

「いえ、好きでやってることなので」

 

と、ドアを開けた

 

義之と麻耶は中に入った

 

そして、ドアが閉まり

 

「いってらっしゃいませ」

 

と、虚は恭しく頭を下げた

 

軍用電動車は目的地に向かい、静かに走り出した

 

電動車は橋を渡り、本島に向かっている

 

橋を渡りきると、窓から閑静な住宅街が見えた

 

「大分、復興も進んだわね」

 

麻耶は窓から住宅街を眺めると、嬉しそうに喋った

 

「ああ、そうだな」

 

義之もそれに同意するように、頷いた

 

今から、二年前に起きた、タイタン戦争

 

戦後、少しずつだが復興が行われて、ほとんど昔の風景に戻っていた

 

「それに、神族と魔族の方達も増えたみたいだし」

 

閑静な町並みに居るのは、人族だけではなかった

 

中には、耳が長い姿がチラホラと見受けられた

 

それが神族と魔族の証であった

 

神族と魔族とはなにか

 

それは、今から約10年前に太平洋のある遺跡から始まった

 

その遺跡内に突如、巨大な門が出現し、開いたのだ

 

これが今に言う、【開門事件】である

 

そして、その門から現れたのが神族と魔族だったのだ

 

この神族と魔族との交流で、それまでお伽話と思われていた魔法が実在すると証明されたのだ

 

人族の各国政府は、この神族や魔族との交流の為に、交流都市を制定したのだ

 

なお、初音島は両世界と同盟を結んでいるので、交流都市の規模はかなり大きい

 

そして、再び橋を渡りしばらく走ると本島に到着した

 

本島に到着してからもしばらく走り、一棟の巨大な建物の前に到着した

 

車のドアが自動で開き、義之と麻耶は車から降りて建物に入った

 

建物は広く、正面に受付があった

 

「失礼する。自分は特務部隊隊長、桜内義之大佐」

 

「同じく、副官の沢井麻耶少佐です」

 

義之と麻耶が名乗ると、受付嬢が顔を二人に向けて

 

「はい。本日はどういったご用件でしょうか?」

 

と、聞いてきた

 

「大統領の芳野さくら様に呼ばれて来た」

 

義之は簡潔に用件を述べると、視線で確認するように促した

 

「承りました。少々お待ちください」

 

受付嬢は受話器を取ると、短く確認を取り

 

「確認できました。大統領は地下三階の執務室にいらっしゃいます」

 

と、右側のエレベーターを手で示した

 

「感謝する」

 

義之は端的に謝意を述べると、エレベーターに向かった

 

すると、後方から

 

「ねえ、今の英雄よね!?」

 

「間違いないわ! 初音島の守護神よ!」

 

と、受付嬢達の興奮した声

 

「人気者ね、義之♪」

 

「英雄とか、ガラじゃないんだけどなぁ………」

 

義之はボヤきながら、エレベーターに乗ってB3と書かれたボタンを押した

 

するとエレベーターは、無音で下っていった

 

そして、地下三階に到着してドアが開くと

 

「うんしょ……よいしょ……」

 

と、銀髪が印象的な小さな少女が高く積まれた書類を持ってフラフラと歩いていた

 

義之と麻耶はそれを見ると、苦笑いして駆け寄り

 

「さすがに、危ないぞ。アイシア」

 

「手伝うわよ」

 

と、書類を抱え上げた

 

「あ、義之君に麻耶ちゃん!」

 

銀髪の少女、アイシアは義之たちを見ると、笑みを浮かべた

 

「どうして、ここに?」

 

「俺達はさくらさんに呼ばれて、ここに来たんだ」

 

義之の言葉を聞いたアイシアは、驚いた様子で

 

「だったら、早くさくらの所に行きなよ~! 私なら大丈夫だから!」

 

と、先を急がせた

 

だが、義之たちは首を振って

 

「アイシアが副大統領なのは知ってるけど、流石にその書類の量は危ないって」

 

そう、彼女。アイシアは初音島の副大統領なのである

 

一応彼女のために言っておくが、彼女は少なくとも、義之達よりも年上である

 

しかし、その見た目は完全に十代の少女のそれである

 

いわゆる、年齢不詳という奴である

 

なお、それはこれから会う芳野さくらも言えたことだが

 

閑話休題

 

「だけど……」

 

と、アイシアが渋っていると

 

「桜内様、沢井様。手伝いは私がします」

 

右側から女性の声が聞こえた

 

三人がそちらに視線を向けると、居たのはメイド服を着た女性だった

 

「あら、美冬(みふゆ)。調子はどう?」

 

「はい、沢井様。調子はオールグリーンです」

 

麻耶の問いかけに、美冬と呼ばれた女性はそう返した

 

なぜそう返したのかというと、この女性

 

ロボットなのである

 

美冬は現在市販されているロボット、ミューのプロトタイプなのである

 

それゆえに、感情モーションのリミッターが設定されておらず、まるで本物の人間のように感情豊かなのである

 

「っと、それよりも早く芳野様の所へ向かってください。少しお困りの様子でしたから」

 

美冬の言葉に、義之は少し考えて

 

「わかった。ここは頼む」

 

と、美冬に任せることにした

 

「はい。芳野様はいつもの執務室にいらっしゃいます」

 

美冬はそう言いながら、執務室の方向を指差した

 

「わかったわ」

 

「アイシアのこと、頼むな」

 

二人はそう言うと、執務室の方向に歩き出した

 

「まったね~♪」

 

アイシアの言葉を背に、二人は歩き続けた

 

そして、数分後

 

二人の前には木製の大きな扉

 

「相変わらず、デカいことで」

 

義之は呟きながら、ドアをノックした

 

すると

 

『どうぞ~』

 

中から、少女のような声が聞こえて、入室を促してきた

 

声を聞いた二人は、入室すると

 

「「失礼します!」」

 

二人そろって、敬礼した

 

「二人共、よく来てくれたね~」

 

二人を出迎えたのは、身長は百四十くらいの金髪碧眼の少女だった

 

この見た目少女こそが、初音島の大統領

 

芳野さくらである

 

「待ってたよ~、義之くんに麻耶ちゃん!」

 

さくらはトテテと走って、近づいてきた

 

一応、彼女のために説明しておくが、彼女はこの場の誰よりも年上である

 

正確な年齢は不明だが、少なくとも、統合防衛軍総帥の朝倉純一(あさくらじゅんいち)と年齢は近い筈である

 

閑話休題

 

「さくらさん、アレはどういうことですか? 土見訓練生を採用しても、実戦部隊には入れるなって」

 

「うにゃ~……それは……」

 

義之が問い掛けると、さくらは困った様子で言葉に詰まっていた

 

すると

 

「その理由は」

 

「俺達が説明しようじゃねーか」

 

二人の男性の声が聞こえた

 

義之と麻耶の二人は、声のした方向に顔を向けた

 

そこに居たのは

 

片方は、ガッチリとした体格に着流しを着た神族の男性

 

もう片方は、ひょろりとした長身に全身黒一色の服を着た魔族の男性だった

 

そして、その二人を義之は知っていた

 

「神王ユーストマ様に魔王フォーベシィ様!」

 

そう、その二人こそが神界と魔界を代表する二人であった

 

その二人を見た義之達は、慌てて姿勢を正し敬礼をすると

 

「いらっしゃるとは知らず、大変失礼しました!」

 

神王と魔王の二人に対して、謝罪した

 

「いや、構わねーよ」

 

「そうそう、今回は非公式なんだし、気楽にしてくれたまえ」

 

義之と麻耶の謝罪に王達は、軽い調子で手を振っていた

 

なお、王達の前の机の上には湯のみとカップが置かれてある

 

中はそれぞれ、緑茶と紅茶である

 

大統領執務室には、緑茶、紅茶、コーヒーが完備されている

 

そして、麻耶が二人分のコーヒーを持って着席すると

 

「それで、土見訓練生に関しての事はどういうことですか?」

 

義之は王達に問いかけた

 

「あーいやー……」

 

「それなんだがな……」

 

義之からの問いかけに、王達は喋りづらそうに口ごもった

 

だが義之は、王達の言葉を待たずに両手を机に突いて

 

「そもそも、分かってるんですか! あなた方がやってるのは、条約違反なんですよ!?」

 

王達に対して、義之は怒りだした

 

条約違反とはなにか

 

それは、魔界と神界が人間界に交流都市を設置した際に制定されたもので

 

その内の一つは

 

《魔法のMSや軍事的転用への禁止(医療は別)》とされていて、それに付随する形で

 

《魔界神界の双方は、如何なる理由があろうとも、人間界の軍事に関する干渉を禁ずる》

 

とあるのだ

 

今回、王達がやろうとしているのは軍の人事権への干渉

 

立派な条約違反である

 

「あー…うむ、それはわかっているんだがねぇ」

 

「こっちにも、深いワケがあんだよ……」

 

義之からの詰問に、王達は苦い表情をしながら呟いた

 

「ワケですか……お話ください」

 

落ち着いたのか、義之は腰をソファーに落ち着けた

 

「あー……詳しく話す前に、義之くんは私達の娘を知っているよね?」

 

フォーベシィからの意図せぬ質問に、義之は首を傾げたが

 

「ええ、知っています。魔界皇女のネリネ様と神界皇女のリシアンサス様ですよね?」

 

義之率いるワルキューレ隊は、特務部隊として護衛の任務も引き受けたことがあり、その際に会ったことがある

 

「その皇女様方が、如何なさいました?」

 

義之としては、何故王達が彼女達のことを上げたのかわからなかった

 

「ああ、実は……」

 

「ネリっ子とウチのシアがな……」

 

王達はそこまで話すと、目を合わせて

 

「「稟殿(ちゃん)に一目惚れしててなぁ(ねぇ)……」」

 

あまりにも、予想外の言葉を告げた

 

義之と麻耶は目を丸くして固まり

 

「つ、つまり……」

 

「土見訓練生は……」

 

「「次期王様候補だ」」

 

王達の言葉に、義之は額に手を当てて

 

「それは、確かに、出しにくいですね……」

 

思わず、唸っていた

 

その時

 

「頼む!」

 

「娘達の初恋を叶えさせてくれ!」

 

義之に対して、王達は頭を下げた

 

それを見た義之は慌てて

 

「頭を上げてください! そんな簡単に、王が頭を下げないでください!」

 

と、二人に頭を上げるように促した

 

すると、王達は頭を上げて

 

「それじゃあ、聞き入れてくれるのかい!?」

 

と嬉しそうに、義之を見つめた

 

が、義之は首を振り

 

「すみません。こちらとしても、聞き入れたいのですが、ようやく獲得した新人ですし……なにより……」

 

義之はそこで一旦、言葉を区切った

 

「「なにより?」」

 

区切ったのを不思議に思ったのか、王達が問いかけた

 

「これは彼が選んだ道なんです。彼が自ら望み、進んで選んだ道なんです。それを部外者たる自分達が、決めていいはずが無いんです」

 

義之の言葉に、王達はハッとして

 

「すまねぇ」

 

「少し、焦っていたみたいだね……」

 

義之に対して、謝罪した

 

「いえ、お気持ちは察します……」

 

義之はそこまで言うと、数瞬黙考して

 

「なんだったら、自分が直接聞いてきましょうか?」

 

と、王達に提案した

 

「そいつぁ……」

 

「どういうことだい?」

 

義之の言葉の意味がわからないのか、王達は首を傾げながら義之に質問した

 

「総合戦闘技術演習の最終日に、面接があるんです。その面接を自分が行って、彼に問いかけるんです。最前線を望むか、後方を望むか」

 

義之の提案を聞いた王達はしばらく悩んで

 

「それじゃあ、すまねぇが……」

 

「お願い…できるかい?」

 

「はい、承りました。麻耶、頼む」

 

王達の頼みに義之は頷くと、麻耶に視線を向けた

 

「わかったわ」

 

麻耶は頷くと、空間投影式キーボードを出現させてタイピングした

 

すると、さくらの前にウィンドウが表示されて

 

「許可しま~す」

 

とさくらは、ウィンドウをタッチした

 

それを見た義之は、首を傾げて

 

「あれ? 朝倉総帥はどうしました?」

 

「お兄ちゃんなら、今日は会議で忙しいんだって。だから、僕が許可を出しました!」

 

義之からの質問にさくらは、両手を腰に当てながら答えた

 

「今日も会議ですか」

 

大変だなぁ、純一さんも

 

と義之が嘆息すると

 

「おや? 確か、ワルキューレ隊は朝倉総帥の直轄部隊じゃなかった?」

 

魔王フォーベシィが、義之に質問した

 

フォーベシィの質問を聞いた義之は、頷いて

 

「はい。確かに、我々ワルキューレ隊は朝倉総帥の直轄部隊ですが、同時に、芳野大統領の直轄部隊でもあります」

 

そのハッキリとした義之の言葉に、王達は目を丸くして固まった

 

「つまり……お前さんの部隊は、大統領に匹敵する権限を持ってるってわけかい?」

 

いち早く立ち直ったユーストマが、義之に聞くと、義之は頷いて

 

「その通りです。ですが、自分としてはあまり使いたくありません」

 

そう言って、首を左右に振った

 

「それはどうしてだい?」

 

義之は視線をまっすぐ前に向けて

 

「自分は、権力だけを振りかざす人間になりたくないんです」

 

毅然とした態度で断言した

 

すると義之は立ち上がり

 

「それでは、自分達はこれで失礼します」

 

と敬礼して、部屋から去った

 

それを三人は見送ると

 

「なかなか、いい眼をしてるじゃねーか」

 

「そうだね。あの眼をしてるのは、護衛騎士団の中でもなかなか居ないよ」

 

王達が賞賛の言葉を並べると、さくらは嬉しそうに笑って

 

「それはそうですよ。義之君は僕達の切り札なんだからね!」

 

と、二人に語った

 

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