天翼の淑女と不死者の王   作:ヤクサノイカヅチ

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あ、どうも。
今回も本編を進めること無く番外編となっております。本当に申し訳ない(メタルマン並感)

スランプに苦しみながらギル祭回ったりドルフロやったり転スラ見たりゴブスレ見たりトネガワ見たりオバロ見たりしてました。
何時ぞやの感想に会ったいづなは出ないの?という声にお応えしました。本編にはでねーけどな。これ以上キャラ増やしたら死ぬゥ!

いつもより字数が少ないですが、これは二本立てにする予定だったものの名残です。それはまた次回になるのかねー

……いい加減本編進めろって?俺もそう思うわ。


EX.02 もし彼女のNPCがいづなだったら

 

 バハルス帝国の南東、スレイン法国の東に位置するは竜王国。

 真なる竜王『七彩の竜王(ブライトネス・ドラゴンロード)』が血を引く女王、ドラウディロン・オーリウクルスの治めるこの国は今幾度となく侵攻を重ねるビーストマンの脅威に晒されている。

 

 彼らは竜王国を都合の良い餌場としか見ていない。

 人の軍?そんなものは障害にすらならない。むしろ率先して向かってくる分探す必要も無い家畜だ。

 何人かの英雄級、アダマンタイト級冒険者を中心にして撃退は出来ているものの、それは戦場での一時的な勝利に過ぎない。圧倒的兵力差の前では侵略を食い止めることすら出来ず、じわりじわりとビーストマンの魔の手は竜王国の首を締め上げている。

 

「ビーストマン共の侵攻だと……!馬鹿な、何故この時期に!?いや、今はそんな事を考えている場合では無いな。損害はどれ程だ!」

 

「そ、それが……現時点で都市が二つ落とされました。住民らの生存は例によって絶望的です。また、その都市から大平原を挟んだもう一つの都市に向けてビーストマンの大群が侵攻中です。数は推定で……」

 

「どうした、早く申さぬか。数が分からなくては対策も碌に打てぬ」 

 

 たった今息も絶え絶えの状態で走り込んできた伝令の男に童女の如き姿の女王が先を話す様に急かす。急いできた疲れも当然あろうが、それ以上に見たくない何かを直視してしまったかのようにその顔は青ざめてしまっている。

 

「す、推定……五万。都市の占領に幾分か割いているとしても、侵攻軍の総勢は三万は下りません……!」

 

 その言葉をこの場の誰もが信じることが出来なかった。

 

「……さ、三万……?それに加えて、各都市に一万以上のビーストマンが……?」

 

 何かの冗談ではないか。これは悪い夢なのだと。そんな無意味極まりない思考に逃げられるほどドラウディロンの頭脳は悪くなかった。……この場合では、現実を直視出来ない方が幸せだったかもしれないが。

 現実を正しく認識してしまったドラウディロンの全身からは激しい怒威が溢れ出していく。いくら曾孫の代にまで薄れてしまったとは言え、竜王の血脈にある彼女のソレは並の人間に耐えきれるものでは無い。

 

 伝令の男はその意識を容易く手放し、白目を剥いて膝から崩れ落ちる。人間としてのレベルが違うためなんとか耐えることの出来た一部の近衛兵は、彼が王座の間で粗相をしないうちに退出させた。

 

「どうすればいいのだ……スレイン法国からは何もないのか!どれだけの額を寄進していると……ええい!」

 

 既に都市に住んでいた人々は殆どがビーストマンの胃の中に収まっているだろう。その他にも兵士たちが決死の抵抗を行い、その上で未だ三万が侵攻を続けているのである。

 今までは一度で精々が5000程度、多くて一万に届くかどうかといった量だったのに今回はそれを遥かに越えている。

 

 ……竜王の子孫であるドラウディロンは、その身に持つ異能(タレント)によってドラゴンロードの秘奥たる始原の魔法(ワイルド・マジック)を行使することが可能である。しかし、その代償は民の犠牲。竜王として未熟な彼女では、数多の人の魂を対価としなければ発動出来ない。

 

 三万、三万のビーストマンの軍勢ならば殲滅できよう。たとえ引き換えに王都の人命の大半を失ったとしても。

 それでも都市を占領しているビーストマンらまでは手が届かないのだが。

 

「アダマンタイト、奴らを向かわせろ。この際ワーカーだろうと招集させる。軍を至急揃えてビーストマンを迎え撃つ!今回は私も出るぞ。始原の魔法(ワイルド・マジック)が使えずとも戦力にはなる」

 

 決死の覚悟を決めたドラウディロン。その姿はか弱い童女のものから妖艶な美女である本来のものに変貌する。

 

 

 竜王国の徹底抗戦が、今ここに幕を切って落とされた──!

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 所変わって、ここは件の大草原。

 既に三万以上のビーストマンの軍勢が平原の六割ほどを埋め尽くしている。このままでは間もなくもう一つの都市に差し掛かるだろう。

 ビーストマンの巣窟と化した都市に向かうものなど誰も居ない。その筈だというのに、ビーストマンの行く手を遮るようにして二つの影が直立している。

 

 一つは腰の辺りに一対の白翼を持ち、先に向かうにつれて七色のグラデーションが掛かる桃色の頭髪と頭上に浮遊する幾何学的模様の円環が特徴的な少女。

 

 一つは黒髪黒目に大きく長い獣の耳と尾、それらの身を和装に包んだ先の少女よりも幼く見える童女。

 

「さて、今回の私達の目的について再確認しましょう。何をする為に私達はここにいますか?」

 

「目の前の獣くせぇ連中をぶっ殺してこの国に恩を売る為だ……です。それと、この世界でのいづな達の能力を確かめる、です」

 

「はい、正解です。いづなちゃんは偉いですねー。ご褒美にわしゃわしゃしてあげましょう」

 

 白翼の少女が獣耳の童女に後ろから近寄り、腰を屈めて頭を文字通りわっしゃわっしゃと撫でまわす。最初はまんざらでもない表情をしていた童女だったが、直ぐに頭を振って拘束を外し前に歩み始めた。

 

「ジブリール様はそんなに撫でるの上手くねーからここまでだ、です。もっと精進しやがれ……です」

 

 そういう彼女だが、尻尾は犬の様にぱたぱたと振られており、本人の言とは異なっていることが見て取れる。

 当然そのことはいづなの主人であるジブリールも理解しており、微笑ましい目線で見守っているのだが。

 

 ビーストマンの大軍が迫りくる中日常の様な振る舞いを続ける二人だが、気が触れた訳でも現実を直視していない訳でもない。無知でも蛮勇でもなく、事実この程度の敵勢力なら容易く捻り潰せると確信しているからだ。

 

 なにせ、既にはぐれビーストマンを数体捕らえて実験を行い、ユグドラシル換算で20から30程度のレベルであるという結果が出ている。レベル100の前衛職二人の前ではその程度の畜生が幾ら集まろうと塵に等しい。

 

「さあ、蹂躙を始めましょう。私は右翼から攻めるので、いづなは左翼から」

 

「りょーかいだ、です。鬱憤晴らしにはちょーどいい、です」

 

「ああ、そうでした……性能確認も兼ねていますからね。『血壊』の発動を三秒まで許可します」

 

「一秒もいらねー、です」

 

 そんな軽口を叩き合いながら、二人は迫りくるビーストマンらを視界に収める。距離は間近とは言えない物の、接敵には最早間もなくであろう。

 揃ってジブリールは右前方を、いづなは左前方に向き直り戦闘態勢をとる。

 

「では」

 

「やるぞ、です」

 

鏖だ

 

 大地を踏みしめた爆音がビーストマンの最前線にまで届いた時には、既に数十匹の個体の命が奪われていた。ある者は首を圧し折られ。ある者は頭部を粉砕され。ある者は胴体を吹き飛ばされ。そしてある者は縦に叩き潰された。

 

 目の前で同胞が肉塊と化したビーストマンは目の前の光景を認識したその直後に、更なる踏み込みを以って突撃したいづなの手によって肉体を腕の一振りで両断されその意識を消失させた。

 

 小さな童女が腕を振るう。ただそれだけの行為で何体ものビーストマンがまるで紙を引き裂くが如く、容易く切断される。強引に引き千切られた断面から鮮血と内臓が噴き出すも、その瞬間にはいづなの姿はそこには無い。

 

 ビーストマンのいわゆる逆関節の足を背後に回り込んだいづなが蹴飛ばすと、べぎりと鈍い音を立てて強引に正関節の形になるもその衝撃に耐えきることなく、膝の部分が消し飛んで崩れ落ちた。その個体は自身に何があったかを理解する間もなくいづなに頭部を踏み潰され、真っ赤な華を大地に咲かせて命を散らせた。

 

 無造作に背中へと貫手を放つと、肉に腕が埋まるどころか周囲ごと弾け飛んでビーストマンの胸に大穴が空く。

 

 肩を踏み台にして空に飛び上がれば、そのビーストマンは腹の辺りにまで自分の筋肉がめり込み、先の腕も僅かな皮で辛うじて繋がっている状態に。

 

 この辺りで惨劇にビーストマン達がようやく対応を始めだす。差し当たって周囲のビーストマンが一斉に空中にいるいづなへと飛び掛からんとするが──

 

 

 

血壊

 

 

 

 ぱぁん、という破裂音が戦場に鳴り響く。

 いづなの周りにいた数百体が瞬き一つにも満たない間に血煙と化した。恐らくどのビーストマンも自分が死んだという認識すら出来なかっただろう。

 

 死滅したビーストマンらが円形の空白痕、その中心に降り立ったいづなは頭髪と瞳が真っ赤に染まり、全身には燃え立つような緋色の紋様が浮かんでいた。だがそれも直ぐに掻き消えて元の黒髪黒目の姿に戻る。

 身体の調子を確かめるかのようにその小さな拳をぐっぐっと握り締め、血飛沫の一切も付着していない和服の袖がはたはたと彼女の呼吸に合わせてひらめいている。

 

「せーぜーこんなもんか……です。事前に分かってたとはいえ、ここまで弱いとつまんねぇ、です」

 

 一体目のビーストマンが死んでから、未だ二十秒すら経過していない。正しく蹂躙、正しく鏖殺と呼ぶに相応しい光景であった。一面の緑が広がっていた平原は今や、夥しい量の獣の血が塗りたくられ赤く染まっている。

 

「キルスコア600飛んで49、まだまだたんねー、です。ジブリール様より多く殺して、ご褒美に毛繕いしてもらう、です」

 

 ビーストマンにとっての悪魔が、再び大地を蹴りつける。

 軍の左翼ではいづなが、右翼ではジブリールが地獄もかくやと言わんばかりの惨劇を繰り広げていた。

 最早ビーストマンに出来ることは無く、ただ痛みなく死ねることを祈るだけであった。

 

 この日、竜王国に侵攻した全てのビーストマンは一体の例外も無く死に絶えた。

 

 




ビーストマンのレベルは、ソウルイーター(難度100~150)三体に十万人が殺害されている。成人した人間の十倍の力を持つ。辺りから推測してユグドラシル換算で20~30としました。

いづなたんきゃわわ。いづなたんのレベルは作中にもあった通り前衛職のレベル100です。修行僧(モンク)系統とか、無手での戦闘に特化したクラス編成になってます。
血壊はまあ、そういうスキルって扱いにしてくだせえ。
所詮は番外編ですからね、そこら辺はふんわりでね。

今回の話ではナザリックは竜王国の近くに転移しています。カルネ村は犠牲になったのだ、人類の犠牲にな……
今回被害に遭ってもらった竜王国。原作であった三万の侵攻にちょっと色を付けさせてもらいました。
多分この後はいづなとジブリールを通してナザリックと取引して、最終的にはアインズ・ウール・ゴウン魔導国に吸収合併されるんじゃないですかね。あんま考えてませんけど。

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