天翼の淑女と不死者の王   作:ヤクサノイカヅチ

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※サブタイトルと内容は一切関係がございません。この作品は丸山くがね様のオーバーロードを原作とした二次創作です。決して『ドワォ』もしなければ『虚無る』こともありません。




だからゲッペラー様は因果の果てで大人しくしててください(震え)

よ ん だ ?

お前じゃねえよ座ってろ終焉の魔神


真(チェンジ!!)アインズ・ウール・ゴウン カルネ村最後の日

 モモンガさんがデスナイトを作成して騎士を虐殺するように命令するという些細な事の後、合流したアルベドと会話してNPC達との認識の違いっぷりを痛感し、助けた二人の少女にキメ顔で

 

「我らが、いや……()()()を知る栄光をくれてやろう。我こそが――アインズ・ウール・ゴウン」

 

等とのたまった骸骨に内心呆れながらも――ちなみにアルベドはほぼイキかけたような顔をしていた――村の中心部へと移動を始める私たちでしたが、流石に人間達の前に異形丸出しの姿で赴くのは如何なものだろうかと思い至り、全身鎧『ヘルメス・トリスメギストス』を装備しているアルベド以外は明らかにマズイ部分を隠す変装を行うのでした。

 

 モモ……アインズさん(仮称)はアイテムボックスから取り出した嫉妬マスクと無骨な鉄製のガントレットで自身の露出を完全に抑え、私は頭上の輪を非アクティブに変更し腰から生えた一対の翼は身体ごと茶色の適当なローブで覆い隠します。ローブにかけられた隠蔽の効果で外からはローブの内部が闇で見通せなくなるので、下から覗かれても構うまいと全員<飛行(フライ)>で向かうことになりました。

 私は自前の翼で飛行出来ますが、ローブを被っている現状で羽撃くのは余り宜しくありません。出来ないことは無いのですが、ローブの内側でわさわさと何かが蠢く人物など怪しい以外の何者でもないでしょう。……全身鎧に謎の仮面を被った魔法詠唱者とローブを纏う超絶美少女(自称)の集団が既に怪しいと?それを言ってはお終いでございます。

 

 村の上空には直ぐに到着した。のどかな広場は一部が血が酸化した様な黒で埋め尽くされ、僅かな生き残りの騎士と複数の死体。それと直立した死の騎士(デス・ナイト)のみが残っている。

 

死の騎士(デス・ナイト)よ、そこまでだ」

 

 なんとも気軽な声色が広場に響き渡る。目の前の惨状に一切感情を抱いていないと分かる、一歩間違えればゾッとする程の冷酷な声に感じるだろう。

 アインズさん(仮)がアルベドを伴ってゆっくりと地上に着地した。私もそれに合わせてアインズさん(仮)の斜め後ろに降り立ち、無言で佇む。仮にも戦士職でありながら死の騎士(デス・ナイト)程度とすらまともに戦えない弱者と言葉を交わす趣味などありませんし。

 

 それから暫くして。

 騎士に脅しをかけてから見逃がすという強者特有の余裕を見せつけた我々一行は村人達へと歩みを進めます。しかし両者の距離が縮まっていくにつれて、村人達の顔が青白く変貌していき……ああ、なんだかんだ言って私もユグドラシルの気分が抜け切れていなかった、ということですね。

 彼らは紛れもない弱者で、私達は全員がLv100の猛者。まさしく生きた心地もしなかったのでしょう、それに配慮する気などこれっぽちもありませんが。

 

 アインズさん(仮)も空気を感じ取ったのか、ある程度の距離を取って村人の生き残りと対話を試みていた。ある程度、というよりかなり警戒されていたのは確かではあったが、少なくともこちらに危害を加える気は無いと信じて貰えたようだった。彼らはこの世界の重要な情報源、しかも恩で縛り上げるという最も遺恨の少ない関係でいられる可能性があるという、ね。

 

≪―――という訳で、ジブリールさんは少しの間彼らの護衛をお願いします。アルベドは此処に置いていくと何をするか分からないので、私に同行させます≫

 

≪了解致しました。アインズさん(仮)≫

 

≪……あの、その(仮)ってなんですか。プレイヤーネームとはいえ安易に晒すのは危険だという判断は間違ってました?≫

 

≪ユグドラシルで悪名轟く私達のギルド名を名前に使う方が危険だと思いますよアインズさん(仮)≫

 

≪わ、分かりましたからせめて普通に呼んでください……≫

 

 なんて話の後、二人は徒歩で村の外れの方に歩いて行った。……アルベド、途中で暴走とかしないといいんだけどなぁ。

 ちなみに護衛自体は、そもそも彼らはまだ恐怖が抜けきっていないようで勝手な行動をしようともせず、この状態の村に攻め込んでくるような生物がいる訳でもない訳で。実に簡単な仕事でございますねぇ。

 余りの暇に耐え切れずふわぁと欠伸を吐き出して、そういえばこの身体の生理活動はどうなのでしょうかと取り留めのない事を考えるのでした。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 例の二人姉妹――姉のエンリ・エモットと妹のネム・エモット――を回収してきたモモンガは村長宅での話し合いを終え、ジブリールと合流して村の墓場での遺体の埋葬を少し離れたところから観察している。

 ジブリールがモモンガの手元をちらりと覗き見ると、ローブの中に隠し持たれていたのは蘇生の短杖(ワンド・オブ・リザレクション)。第七位階の蘇生魔法が込められた短杖(ワンド)アイテムの一種だ。

 確かに、それを使用すれば村の死者を蘇らせることは可能ではあるだろう。しかし……

 

≪……モモンガさん≫

 

≪ええ、分かっています。死を与える魔法詠唱者(マジックキャスター)と死者を蘇らせることの出来る魔法詠唱者(マジックキャスター)では、どちらがより問題事を生む火種になり得るかは理解しているつもりです≫

 

≪いつかは蘇生魔法の効果やデメリット確認も必要ですけど、今すべきではないですしね≫

 

≪今回は村を救ったことで十分でしょう≫

 

 葬儀も恙なく終わり、村人が瓦礫等を撤去しているのを横目で見ながら夕焼けの照らす村の中を歩いていく。

 取り敢えず『アインズ・ウール・ゴウンなる人物が村人を救った』という情報を作ることに成功した。情報なんてものはいつかは流出するもの、変な噂なりが流れる前にこちらにとって都合の良い情報を事前に広めてしまう方が良いに決まっている。それがモモンガとジブリールの結論だった。

 それに彼ら二人という前例がある以上、同じユグドラシルのプレイヤーがこの世界に存在している……あるいはユグドラシルプレイヤーが存在して()()。そして、

 

「既にユグドラシルプレイヤーの影響を受けた国が存在するかもしれない……か?」

 

 村長の話によると、この村が属する『リ・エスティーゼ王国』と『バハルス帝国』、それと南方に位置する『スレイン法国』が周辺の国家である。リ・エスティーゼ王国とバハルス帝国は山脈を挟んで国土を分けており、両者の仲は非常に悪いとのこと。

 どの国の国力が優れているなどの情報は得ることが出来なかったが、現時点ではかなり重要な情報であることに変わりは無い。

 

 この世界の人間のレベル、そして『死の騎士(デス・ナイト)』に手も足も出ずに虐殺された兵士の質を鑑みるにモモンガ達の脅威になり得る存在はそれほど多くはないと考えられる。

 しかし、ユグドラシル製の強力な装備やアイテム、現代人の発想などがあるのなら話は別。特に、レベル100のプレイヤーやワールドアイテムなんかが相手となるとアインズ・ウール・ゴウンの総力を挙げて対抗しなければならなくなるだろう。

 

「さて、この村ですべきことは終わった。ナザリックに帰還するぞ」

 

「承知いたしました」

 

 どことなくだが、アルベドが不機嫌そうな雰囲気を漂わせている。特段彼女の気に障るようなものが此処にある訳ではないとモモンガは考えているが、それは人間としての感性を一応は持ち合わせているからそう感じただけである。異形種オンリーの、そしてプレイヤーキラーキラーを主な目的とするギルドで作成され、しかもカルマ値を-500に設定されたアルベドにとっては人間と言う下等生物がただそこに居るだけで不愉快になり得るのである。

 

「アルベド、人間は嫌いか?」

 

「好きではありませんね。脆弱な生物、虫けらの様なモノ。五体を引き千切りばら撒けばさぞかし見物になるでしょう」

 

「……そうか、私はお前の嗜好を否定するつもりは無い。だがここでは冷静に振舞え。演技という物は存外重要なことだぞ」

 

「はいはい、どうせもう帰るんですしそんなにピリピリしてはいけませんよ? モモンガさんは優しい女の子が好みなんですから」

 

「その話後で詳しく教えていただいてもよろしいですか?」

 

「おいコラジブリール、何勝手なことを――ん?」

 

 馬鹿話へとシフトしかけた会話をモモンガが中断し、微かに聞こえた困惑する村人達の声に耳を傾ける。

 広場の片隅で村長と村人数人が集まって真剣に相談をしているようだった。心なしかその顔には緊張感が浮かんでおり、厄介事が起きたのだと理解できる。

 

「残業確定ですね」

 

「はあ、仕方が無い。……どうかされましたか、村長殿」

 

 そう苦虫を噛み潰したようにして、モモンガは村長の許に近づいて話しかけた。

 

「おお、アインズ様。実はこの村に騎士風の者達が近づいているようでして……」

 

「なるほど……」

 

 村人達が助けを求める様にモモンガに目を向け、彼はそれに応えるように返答する。

 

「分かりました。村長殿の家に生き残った村人達を至急集めてください。村長殿は私達と共に広場に」

 

 死の騎士(デス・ナイト)を村長宅の前に、ジブリール達は広場の中央で待ち構える。モモンガの隣に立つ村長も覚悟を決めたのか身体の震えは弱まっており、皴の入り始めた顔には苦笑が浮かんでいた。

 

 やがて村の中央を縦断するようにして、騎兵らしき集団が隊列を組んで広場へ進んでくる。各々がバラバラの、統一性の無い装備で姿を固めており、騎士ではなく歴戦の戦士といった印象だ。悪く言えば纏まりの無い傭兵集団である。

 

 装備を統一していないという事は、彼らは正規軍ではないという事だろうか。若しくは、何かしらの理由から疎まれていて装備を回して貰えていないというのもあるかもしれない。先頭に立つ黒髪黒眼の屈強な男は今までの兵士より数段上の強者――あくまでこの世界のという注釈は付くが――であるのは一目で分かる程であるため、彼クラスがゴロゴロ居るのでなければ後者が正しいのだろうとジブリールは心中でそう結論付けた。

 

 そうこうしているうちに騎兵隊は広場に乗り込んできた。数はざっと見て20人程、村長宅前の死の騎士(デス・ナイト)を警戒しつつもジブリール達の前で綺麗に整列を行う。

 

 先頭の男が前に進み出、鋭い視線がジブリールを射抜く。

 

 他の兵士達より強いとはいえ、レベル100というこの世界では神に等しい程の力量を持つジブリールにとっては彼の威圧など暖簾に腕押し以外の何物でもなかった。

 ジブリールが平静を貫いたことに満足したのか、男はハッキリとした口調で話し出す。

 

「私は、リ・エスティーゼ王国、王国戦士長ガゼフ・ストロノーフ。この近隣を荒らしまわっている帝国の騎士達を討伐する為、王のご命令を受け村々を回っている者である」

 

「王国戦士長……」

 

(ビーフ・ストロガノフ?そんな料理が何処かにあったような……)

 

 ジブリールがアホの塊のような連想をしている間にも話は進んで行く。

 

「この村の村長だな? 横に居る者達は一体誰なのか教えてもらいたい」

 

 ガゼフの重々しい声音が有無を言わさんとばかりに村長へと投げかけられる。が、それに村長が反応を返そうとした所を押し止め、モモンガが一歩前に踏み出し軽く一礼をした。

 

「それには及びません。はじめまして、王国戦士長殿。私はアインズ・ウール・ゴウン。この村が襲われておりましたので助けに入ったしがない魔法詠唱者(マジックキャスター)です。どうぞよろしく」

 

 それを聞いたガゼフは馬から降り、モモンガの前に立つと重々しく頭を下げた。

 

「この村を救っていただき、感謝の言葉も無い」

 

 ザワリという動揺が村人と騎士の中で起こる。王国戦士長という明確な地位に就く男が、見ず知らずの身分さえ明らかではない怪しい人物であるモモンガに頭を下げるという行為に驚愕を隠せないのだろう。

 人権のじの字すら碌に存在しないこの世界で、このようなことを躊躇すらせずに行うことが出来る。それだけでモモンガとジブリールはガゼフという男の度量の広さを理解したのだった。

 

「いえ、私達はちょっとした魔法の失敗で飛ばされて来た者でして。何分この辺りの地理にも疎いのでこの村を救うことで恩を売ろうと考えたまでです」

 

 モモンガの口からスラスラとでっち上げの嘘が語られる。流石にここまでは話が伝わっていなかったのか、ジブリールが思わずギョッとして目を向けたがそれに反応を返すことは無かった。

 

「ふむ、心中お察しするが、二つ、いや三つだけお聞かせ願えますかな?」

 

「構いません」

 

「ではまず、アレは一体?」

 

 そう言って、ガゼフは村長宅前に鎮座する死の騎士(デス・ナイト)へと視線を向ける。王国戦士長の位に就くだけあって、死の騎士(デス・ナイト)に漂う微かな血の匂いを感じ取ったのだろう。

 

「アレは私の生み出したシモベです。騎士達の()()はソレに任せました」

 

 ほうと感心するような声を溢しつつも、ガゼフのモモンガに向ける視線は段々と強いものになっていく。

 

「では……その仮面は?」

 

「これ自体が一種のマジックアイテムでしてね、魔法詠唱者(マジックキャスター)としての理由と魔法効果の強化の為に被っています」

 

「外していただいても構わないか?」

 

「お断りします。私一人ならどうとでもなりますが――」

 

 ガゼフを見据えたまま、死の騎士(デス・ナイト)を指差して

 

「アレが暴走すれば間違いなく村人達にも被害が出てしまいますから」

 

 死の騎士(デス・ナイト)が騎士達を虐殺していたのを目の前で目撃していた村人達と村長は顔色が一気に悪化する。その雰囲気の変化を感じ取ったのか、ガゼフがそれ以上の追及を行う事は無かった。

 

「では最後に――そこのローブの人物は何者なのかね?」

 

 そう言って、ガゼフが視線を向けたのは頭にフードを掛けて顔を隠したローブ姿の人物。そう、ジブリールであった。

 

「あら、私の事でしょうか?」

 

 ローブの隙間から伸びた腕がフードを払いのけ、頭部のみ隠蔽の効果が解除される。グラデーションの掛かった桃色の髪と芸術品のように整った顔がその姿を現した。

 正面から彼女の顔を見てしまった騎士たちは思わず見惚れてしまい、ガゼフはその強靭な精神力で耐え抜いたがそれでも一度は目を奪われたのは確かだった。

 

「ごめんあそばせ。私は()()()()()、アインズの友人です」

 

「そ、そうか……協力感謝する」

 

 素性も何も伝えること無く、ただ顔と名前を明かしただけで話は途切れてしまった。それでもモモンガと違い顔を見せた事で血の通った人間であると認識されたのか、或いはこれ以上会話が続くことに危機感を抱いたのか、蒸し返したりせずに別の話題へと話は変わろうとしていた。

 

 しかし、そこに一人の騎兵が広場へと駆け込んできたことで状況は移り変わる。

 息を切らせた騎兵は大声で緊急事態の報告をガゼフに行う。

 

「周囲に複数の人影。村を囲むような形で接近しつつあります!」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

≪で、殺すのですか?捕らえるのですか?徹底的に心を圧し折ってみます?≫

 

≪この機に乗じてただ暴れたいだけでしょうにアンタは。とはいえ、王国戦士長に恩を売りつつ別方面の情報源を確保できるのは渡りに船です≫

 

≪相手の主力が天使の時点で余程の事が無い限りは私一人で封殺出来ますから≫

 

≪ああ、確か一定レベル以下の天使種モンスターを支配するスキルがありましたね≫

 

≪<天畏隷属>は正確には50レベル以下は完全支配、それ以上のものになると効きが悪くなるのでそこまで万能ではありませんが、まあ問題ないでしょう≫

 

 恐らくこの村を包囲せんとする集団こそが、今回の村を襲撃した者達の主力なのだろう。ユグドラシルにも存在していた『炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)』に酷似した天使を引き連れ、ゆっくりと村へ近づいている。何の価値も無いこの村にここまでの襲撃をかける狙いはガゼフにあるとモモンガとガゼフ両名は至った。

 

 ガゼフら王国戦士団は既に村を出て囮の役割を果たさんとしている。モモンガはガゼフに村の人々を守ってほしいと願われ、それに『アインズ・ウール・ゴウン』の名をかけて誓いを立てた。最後にガゼフに掌サイズの小さな変わった彫刻を手渡し、その背が小さくなり消えるまで黙って見送っていた。ジブリールもガゼフの死をも覚悟した気高き意志を感じたのか、冗談の一つも言う事は無かった。

 

「しかし……なんだ。初対面の人間になどそこらの虫に向ける程の親しみしか出てこないが……どうも会話をしてしまうと小動物に向ける程度の愛着が湧くな。まさか自分にまだこの様な思いが残っているとは」

 

「……別に、良いのでは? 彼は確かに私達と比べれば紛れもない弱者でしたが、その内面は私が認めるべき戦士足り得ました。今後も修練を重ね装備を万全なものにすれば、もしかしたら私達に傷を付けることが出来るかもしれません」

 

「まさか、ジブリール様がそこまでおっしゃられるとは。ですからアインズ様もあの尊きお名前にかけてまでお約束をされたのですか?」

 

「ああ、かもしれん。……目前にある避け得ぬ死、それを見据えて尚進み続ける人の――」

 

 ――その強い意志に、俺は憧れたのだ。

 

「……アルベド。周囲のシモベに伏兵がいないか索敵させろ。もしいた場合は意識を奪え」

 

「直ちに行います。……アインズ様、村長達です」

 

 アルベドが離れると殆ど同時に、村長が息を切らせ走り寄ってきた。到着すると息を整えようともせずにすぐさま口を開いた。

 

「アインズ様。我々は一体どうすれば良いのでしょう。何故、王国戦士長は我々を守って下さらずに村を出ていかれたのですか?」

 

 村長の言葉からは不安と恐怖が、そして自分たちは見捨てられたのではないかという思いが憤怒へと変化しようとしていた。

 

「いえ、あの対応は間違いではないですよ。推測になりますが、敵の目的はガゼフ殿にあります。彼は自分がこの村にいると皆さんを戦いに巻き込んでしまう。そう考えたからこそ出ていったのです」

 

「おお、戦士長殿が外に向かわれたのはそういう意味が……自分勝手な思い込みで私は何を……」

 

「申し訳ありませんが村長殿。今は時間がありません。ガゼフ殿の覚悟を無駄にしない為にも迅速な行動を」

 

「そ、そうでしたな。……アインズ様は如何するおつもりでしょうか」

 

「……私は一先ずは状況の変化を見届けようと思います。そして、機を見て皆さんを守りつつこの村を脱出するつもりです」

 

「何から何までありがとうございます。幾度となくご迷惑を……」

 

「なに、気にしないで下さい。ガゼフ殿とお約束もしましたので。……では、村人の皆さんを大きめの家屋に集めましょう。私の魔法でちょっとした防御を掛けておきます」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「……何者だ、貴様ら」

 

 先程まで死闘を繰り広げていた筈の王国戦士団は、その悉くが草原から姿を消していた。

 入れ替わるように草原に現れたのは三名。

 ガゼフを追い詰めていたスレイン法国特殊工作部隊、陽光聖典隊長であるニグンは三人を冷静に見据える。

 

 一人は怪しげな仮面で顔を隠し、高価そうな漆黒のローブを身に纏う魔力系魔法詠唱者(マジックキャスター)風の者。

 一人は茶色のローブで身を隠した桃髪の女。鎧も武器も持っていないことから、何らかの魔法詠唱者(マジックキャスター)であるか踊り子(ダンサー)、またはモンク系の職に就いているのだろうと推測できる。

 一人は漆黒の全身鎧に身を包んだ者。これも高価そうな鎧であり、そんじょそこらでは手に入らない物だろう。見た目だけで考えても一級品のマジックアイテムだと考えられる。

 

 転移魔法なのか、それともマジックアイテムか。謎の手段でガゼフと戦士団を転移させた謎の三人。少なくともそんな魔法をニグンは知っておらず、未知の魔法を使う正体不明の人物を前に警戒の度合いを引き上げる。

 

 ニグンは周囲に散開させていた天使を自分と部隊員たちの前方に固めて配置し、距離を取って出方を窺おうとする。

 前に立つ魔法詠唱者(マジックキャスター)が一歩前に踏み出す。

 

「はじめまして、スレイン法国の皆さん。私の名はアインズ・ウール・ゴウン。どうかアインズ、と親しみを込めて呼んでいただければ幸いです」

 

 本来大声でもなければ届く筈もない距離があるというのに、その声は風によって運ばれているのか問題なく耳に入ってくる。

 

 ()()()()()()()。ニグンという男の心境はこの一言に過ぎた。ふと頬の古傷を手でそっとなぞると、ピリピリとした痛みを帯びていることが分かる。

 

「あの村とは少々縁がありましてね」

 

 首筋から背中にかけて冷たい汗が伝う中、ニグンはなんとか平静を保ちつつ言い返す。

 

「村人の命乞いにでも来たのか?」

 

「いえいえ、実は――」

 

 太陽が沈まんとし、夜闇に夕焼けの名残が混ざり黄昏色に空が変わる中、アインズと名乗る者のローブが吹いてきた風によって煽られ大きくはためき、

 

「――お前と戦士長の会話を聞いていたのだが、本当に良い度胸をしている」

 

 それまで丁寧な口調だったアインズの声色と雰囲気が唐突に変貌する。

 

「お前たちはこの私が、手間をかけてまで救った村人たちを殺すと公言していたな。これ程不快なことがあるものか」

 

 草原を走る風がアインズの方からニグンたちに向かって吹いてきた、それだけの筈なのにニグンは自分でも信じられない程の精神的疲弊を感じた。

 

「……ふ、不快とは大きく出たな魔法詠唱者(マジックキャスター)。で、だからどうした?」

 

「私はこれでも慈悲深いのでね。貴様らに一度だけチャンスをくれてやる。今すぐ頭を垂れ、命乞いをしろ。さすれば苦痛なく命を摘み取ってやろう。だが――」

 

 アインズが差し出した鋼の籠手で覆われた手が上向きにグッと固く握られる。

 

「――拒絶するというのなら、その愚劣さの対価として絶望と苦痛の中で死に絶えることになるだろう」

 

 ニグン自身も信じがたい程の強者の威圧。ビリビリとする衝撃波まであるのではないかと誤認してしまう今まで受けたどの威圧よりも強いソレは部隊員たちから容易く冷静さを削り取っていった。それが怯えに変わる前にニグンは命令を下す。

 

「天使たちを突撃させよ!」

 

 壁としていた一部の炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)をアインズにへと襲い掛からせる。光の翼を羽撃かせながら、風を切り裂いて両手に持った炎の剣をアインズに突き刺さんとし――

 

 〈天畏隷属:停止せよ

 

 剣がアインズを貫く直前で二体の炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)はピタリと静止した。召喚主である部隊員が焦りを隠さずに命令を与えるが、それに炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)が反応を返すことは無かった。

 

「馬鹿な!どういう事だ。何故天使が命令を聞かない!?」

 

 理解出来ないことが目の前で起きていることに困惑するニグンらであったが、それはアインズの次なる行動で更に加速することとなった。

 眼前に突き出された炎の剣にへと()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 アインズへの恐怖は一瞬で嘲笑にへと変わる。天使の異変は何事かと心底驚いたが、何のことは無い。天使がアインズの自ら裁かれたいという最期の願いを汲み取ってやったに過ぎなかったのだと。要するにアインズは最期に一花咲かせようとした哀れな魔法詠唱者(マジックキャスター)だったということだ。

 

 部隊員と共に安堵の息をほうと吐き出す。偽りの威圧に押され、あまつさえ死のイメージまで浮かべてしまった自分を恥じつつ、残りの二人にへと視線を向けようとした。

 

「は、ははははははははは!! 面白い余興だったぞ魔法詠唱者(マジックキャスター)! 自ら天使の剣に裁かれる事を……」

 

 ……おかしい。何故いつまで経ってもアインズとやらの死体は大地に倒れない?

 天使も慈悲をくれてやった以上、その場に留まり続ける必要などない筈だ。

 

「おい、何をしている。剣が刺さっていては倒れないではないか。さっさと天使を下がらせろ」

 

「い、いえそう命じているのですが……」

 

 部下の戸惑いを隠せていない声に、ニグンは弾かれるようにしてアインズを再び注視する。

 

「……言った筈だ。抵抗することなく命を差し出せ、と」

 

 二体の炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)の頭部がそれぞれ鉄の籠手で掴まれ、ゆっくりと強引に左右に押し開かれてその姿が現れる。

 

 明らかに胸部と腹部を剣で貫かれているというのに、全くダメージを負った雰囲気すらないアインズの姿が。

 

 はったりでもトリックでも無い、しかし現実に起きている理解不可能な現象の前に彼ら全員は思考が停止した。

 その間にアインズは地面に拳ごと炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)を凄まじい速度と力で叩き付ける。これにより天使の生命は完全に尽き果てた。

 

「人の忠告は素直に聞き入れるものだぞ?」

 

 天使の成れの果てである光り輝く粒子がキラキラと舞い散り空気に溶けてゆき、ニグンからは恐怖の擦れ声が漏れ部隊員からは慌てふためき混乱する叫び声があがる。

 

「上位物理無効化。データ量の少ない武器や低位のモンスターの攻撃を完全に無効化するパッシブスキルなんだが……」

 

 天使をいとも容易く捻じ伏せたアインズはゆっくりと立ち上がりながらニグンたちにとっては意味不明なことを口走る。

 

「やはり、ユグドラシルの炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)と同じということか」

 

 姿勢を正しながら両の手を大きく、そしてゆっくりと広げるその姿は、お前たちを殺すのに武器など何も必要ないと言っているようなもので。

 

「お前たちが何故ユグドラシルと同じ魔法を使い、同じモンスターを召喚出来るのか知りたかったんだが……まあ、それは一先ず置いておくとしよう」

 

 気持ち悪いぐらいの静寂の中、アインズの大きな声が草原に響き渡る。

 

「いくぞ?──鏖殺だ」

 

 今すぐ撤退するべきだ。この化物は必殺の策なくしては戦闘行為すら行ってはならない!

 肛門から氷柱をぶち込まれたかのような吐き気に催され、数多の亜人異形を屠ってきた歴戦の勇士であるニグンでさえ得体の知れない何かを感じ取った。

 

「全天使を突撃させよ!急げ!」

 

 その悲鳴にも似た叫び声に反応し、全ての炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)がアインズに迫りくる。

 しかし、その決死の突撃でさえも――

 

 〈天畏隷属:自害せよ

 

「……は?」

 

 鈴の音の様な軽やかな女の声が何かを呟くと同時に、全ての炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)は持っていた炎の剣で自らの身体を刺し貫いて消滅した。目の前で行われた天使の自死は余りにも素早く、ニグンはただ呆然とそれを見ているだけだった。

 

「……あ、あり、ありえない……」

 

「どうした? たかが炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)の数十体が倒されただけではないか。それとも……貴様らの力はこの程度という事か」

 

 自分の中に浮かんだ最悪の想像を頭から振り払い、ニグンは落ち着くために懐に手を当て、そこにある最高位の天使召喚魔法の封じ込められた水晶に触れる。

 そうだ、自分にはまだこれが残っている。これさえ使えば如何なる状況だとしても打開できると信じて。

 

 しかし、ニグンの様に心の支えがない部隊員たちは別の手段でそれを作ろうとした。

 

「化物め!」

 

「消えやがれ!」

 

「ふざけるなぁ!」

 

 最早悲鳴でしかない声を上げながら、天使が駄目ならば自分たちが信じる魔法を使うまでと立て続けに詠唱を始めたのだった。

 

 〈人間種魅了(チャームパーソン)〉、〈正義の鉄槌(アイアンハンマー・オブ・ライチャスネス)〉、〈束縛(ホールド)〉、〈炎の雨(ファイヤーレイン)〉、〈緑玉の石棺(エメラルド・サルコファガス)〉、〈聖なる光線(ホーリーレイ)〉、〈衝撃波(ショック・ウェーブ)〉、〈混乱(コンフュージョン)〉、〈石筍の突撃(チャージ・オブ・スタラグマイト)〉、〈傷開き(オープン・ウーンズ)〉、〈(ポイズン)〉、〈恐怖(フィアー)〉、〈呪詛(ワード・オブ・カース)〉、〈盲目化(ブラインドネス)〉、etc……

 

 様々な種類効果の魔法の雨あられがアインズに打ち付けられるが、その悉くが上位魔法無効化によって触れることさえできずに消失していく。

 

「やはり知っている魔法ばかりだ。……これは誰から教えられたのだ?スレイン法国の人間か? それとももっと別の人物か? ううむ、聞きたいことがどんどん増えていくな。実に楽しみだ」

 

 陽光聖典の彼らに降りかかる悪夢は、まだ始まったばかりだ。




……これ、ぶっちゃけジブリールが主人公の必要性あるのだろうか。
ノゲノラ要素もぶっちゃけ少ない上にオリジナルのスキルばっか使ってるし。

いやね、現地でバンバンスキル使われたら大陸消滅の危機だから……うん。

まーた暫く時間空くと思いますけど、戦闘中を長引かせる気は無いのでちゃっちゃとかいて早く投稿したいです。出来ればねー

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