――――男性IS操縦者、出現!!
その速報は世界中を駆け回り、幾億もの人々と、ありとあらゆる組織を震撼させた。
適合したのは二人。
一人は『織斑一夏』。
ブリュンヒルデとして名高いIS操縦者『織斑千冬』の実弟であり。
ISの開発者たる『篠ノ之束』とも少なからず縁がある、今年で16歳の少年。
もう一人は『鐘子明』。
日本政府が実施した適性検査で引っかかった、今年で19歳になる青年。
元は九州の出身であること、身内が武術に覚えがあるという以外はいたって普通。
正直、一夏以上に何故適合したかが分からない。
そんな彼らは、様々な組織の干渉を避けるためという名目で。
世界で唯一のIS教育機関『IS学園』に入学することとなる。
(これは、想像以上にきっつい・・・・!)
春麗らかな季節のIS学園。
入学したての一年生の中、顔色悪く項垂れるのは『織斑一夏』。
ひょんなことから女性にしか動かせないはずのISを起動させてしまい、実質女子校のここに強制入学となってしまった。
同年代とはいえ、クラスの九割が女子というこの状況は、実に堪える物がある。
(いや、耐えろ織斑一夏!ここには俺以上にきつい人がいるんだ・・・・!)
参りそうになっていた精神を支えていたのは、教室の後ろのほうにいる『もう一人』の存在。
政府が行った適性検査に引っかかった二人目、『鐘子明』。
一夏の第一印象は、ガタイのいい物静かな男だったが。
『入学式に出たら会場がパニックになるから』と、職員室で待たされている間。
趣味のことや、暇を持て余すなどの他愛ない話題を話しかけて。
口数が少ないなりに、年下の一夏を気遣ってくれたのだ。
(自分だって留年みたいで気まずい思いしてるだろうに、俺のこと気ぃ使ってくれたいい人なんだから)
だから真っ先に根を上げるのはかっこ悪いと、どうにか耐えている次第であった。
だが根性だけではどうにもならないのも事実。
やっぱり無理かも・・・・と折れそうになったそのとき、
「織斑くん?織斑くん!」
「は、はい!」
「ひゃっ!?」
名前を呼ばれたことに気付いて、思わず勢い良く立ち上がる。
すると、読んだ本人である『山田真耶』は、もっていたファイルを盾にするようにして驚いた。
「ご、ごめんね!?でも、自己紹介が『あ』から始まって、今織斑くんの『お』なんだよね!?」
「分かりました、あと怒ってるわけじゃないので、安心してください」
完全に臆している真耶をどうにかなだめた一夏は、背筋を正す。
一番前のど真ん中というだけあって、視線の集中砲火がますます激しくなる。
「ぉ、織斑一夏です・・・・」
搾り出すように名前を言うと、『で?』という無言の圧力。
耐え切れなかった一夏は、しかしただ引き下がるのも情けないと判断して。
「以上です!いっでぇ!?」
「自己紹介くらいまともに出来んのか、たわけ」
言い切った次の瞬間、脳天に衝撃が襲い掛かった。
何事かと振り向けば、この人生で見慣れた、凛とした目元。
「げぇッ!関羽!!」
「誰が三国志の英雄だ」
「あだッ!!」
『織斑千冬』は、ネタを口走った不届き者にもう一撃加えて。
羨望と憧れの眼差しを真正面から受け止め、教室を見渡す。
「諸君、私が担任の織斑千冬だ。私の仕事はお前達を若干15歳から16歳に鍛えること。逆らうのは構わないが、言うことは聞け、いいな?」
ISという、ある種の危険物を取り扱うからだろう。
通常の学校では考えられない、中々棘のある言い回しだったが。
「きゃあああああああ!!」
「千冬様ー!!」
「わたし千冬様に会いに来たんです!北九州からー!!」
まだ入学したての、うら若きお嬢さん達にはあまり効果がないようだ。
どちらかというと、憧れの『千冬お姉さま』が目の前にいることに興奮を覚えているようだった。
「全く、毎年コレだけのバカが集まるとは感心させられる。よもや、こういった連中だけ私の管轄によこしているのではあるまいな?」
ため息をつきながら、千冬はなお言葉の棘を隠さない。
「千冬様ー!叱って罵ってー!!」
「時には優しくしてー!」
「そして付け上がらないように躾してー!!」
当然火に油を注ぐばかりで、お嬢さん達はなお盛り上がるのだった。
千冬は目の前の光景に頭痛を覚えつつ、一年後には意識に変化があってほしいとこっそり願った。
「さて、時間も押している。ひとまず『もう一人』で自己紹介を一区切りにして、残りは次の時間に済ませてしまおう」
「えっと、それじゃあ、鐘子くん!」
千冬に目を向けられ、意図を察した真耶が名前を呼ぶと。
窓際の一番後ろ。
ぬ、と立ち上がったのは青年。
高身長と固く結んだ口元、それとどこかくたびれた目が、何ともいえない威圧感を持っていて。
千冬の登場に騒いでいたクラスが、静まり返る。
「・・・・鐘子明、特技は家事全般・・・・よろしく」
だからだろう。
少し控えめに行われた自己紹介は、やけにはっきり聞こえた。
「知っている人もいるかもしれませんが、鐘子くんは皆さんより三つ年上なんです」
「高校課程も既に修了しているため、織斑と違い、この学園に在籍するのは一年となっている」
明が座ると同時に、千冬と真耶が補足を入れる。
「たかが一年だが、されど一年だ。教師としても、私個人としても、諸君が諍い無く過ごしてくれることを願う」
千冬が最後にそう締めくくり、朝のホームルームは終了した。
「――――明さん、大丈夫っすか?」
休み時間になるなり、明の下へやってきた一夏。
苦笑いしながら話しかける彼に、明はこっくり頷いた。
「・・・・頑張ろう」
「はい!俺、出来ること少ないかもだけど、何かあったら遠慮なく相談してください!」
「ん」
同じ男、しかも年上と言うことあって、女子より話しやすいのだろう。
先ほどとは打って変わって、一夏の顔はすこぶる明るかった。
「・・・・鐘子さん×織斑くん?」
「年下攻めもアリだと思うの」
「でも年上がリードする王道パターンも捨てがたいッ・・・・!」
腐敗した会話なんて、彼らの耳には届いていない。
届かないったら、届かない。
と、そこへ。
「少し、いいか」
「ん?おお、箒!やっぱそうだったのか!」
一夏の後ろから、離しかけてくる女生徒。
結い上げられた長い髪が、凛とした雰囲気を演出している。
「知り合い?」
「はい、幼馴染なんす!」
会うのは久方ぶりなのか、一夏の顔は一団と明るい。
「・・・・じゃあ、そっちと話せばいい」
「え、でも・・・・」
「俺は、いつでも話せる」
このまま二人で行ってしまうと、明を一人残すことになる。
それを気にした一夏に対し、明は首を横に振ってそう言ったのだった。
「・・・・なら、行くか箒。ここじゃなんだ」
「ああ、すみません鐘子さん、一夏を借ります」
「ん」
頭を下げてきた箒に、また小さく頷き返して。
去っていく二人を見送った。
周りのクラスメイト達は、箒のような昔なじみでなければ、明のような同性でもないため。
一夏との距離を測りかねていたのだろう。
慣れた様子で並ぶ二人を見て、『抜け駆け!?』とかすかに騒いでいた。
「えっと、じゃあ・・・・」
一夏がいない今、もはや話しかけられる男子は明しかいない。
大きな図体と寡黙さから、何となく怖い印象を抱いていたが。
さきほど一夏と話していたのを見る限り、単に口数が少ないだけらしい。
別にとって食われるわけでもなさそうなので、何人かが腹を決めようとしたとき。
「あっ」
明はポケットから音楽プレイヤーを取り出し、イヤホンを耳に。
そのままノートと参考書を広げて、自習を始めてしまった。
完全に周囲とシャットアウトするその姿に、腹を決めた面々はがっくり肩を落とした。
一夏と程度が違うだけで、彼もまたこの異性塗れの状況に参っていたらしいと結論付ける。
なお、本当は『年上の自分を怖がっている』と思い込んだ明が、彼女達が話しかけなくてもいいように配慮した結果なのだが。
当人達がこのすれ違いに気付くことはなさそうである。
この後。
集中しすぎた明はプレイヤーを没収されてしまうのだが。
その時のこっそり肩を落とした姿が、意外と可愛いという話が広まるのは。
また別の話。
――――放課後。
一夏が参考書を捨ててしまうというトラブル以外、特に何か起こったわけでもなく。
つつがなく一日が終了した。
現在明は、千冬の後ろをついていっている。
本来は一週間自宅から通う予定だったが。
明や一夏の身の安全を考え、早速今日から寮住まいとなった。
「ここがお前の部屋だ、荷物は着替えと充電ケーブルが運び込まれている」
一夏は普通の学生寮に向かったが、明が案内されたのは教員用の寮だった。
何でも、男性と一緒に生活させるのを心配した親御さんがいたとのこと。
同い年ならともかく、年上相手なら心配して当然だなと。
明は一人納得する。
「後日外出許可を出すので、足りないものはその時に取りに行くといい」
「はい」
聞いてみると、外出許可の下りる日もそこそこ近い。
特に質問も文句も無かったので、素直に頷いた。
「それと、これは返しておく。もう煩わせるんじゃないぞ?」
「はい、すみませんでした」
音楽プレイヤーを受け取った明は、どこかいたずらっぽく笑う千冬に顎を引いてから。
明は自室に入った。
「おおう・・・・」
出迎えたのは、学校の寮にしては小奇麗でセンスのある部屋。
高級とまでいかないホテルの内装と言われたら、あっさり騙されそうだった。
流石は天下のIS学園と、また一人納得しながら。
ふと思い出した明は、学生鞄を漁った。
取り出したのは写真立て。
鞄に入れるには聊か不似合いだが。
誰かに取られるかもと思ってしまうと、どうしても気になって持ってきたのだった。
三年ほど前に撮った親友二人との集合写真を、早速机の上に立てかける。
照れくさそうな笑顔と、ちょっと無愛想な笑顔と、眩しい笑顔。
この中の一つが、もう見られないと思うと。
何となく物悲しい気分になるのだった。
◆ ◆ ◆
「――――この子がいいんだね?」
「血統も人格も申し分なし、加えて『歌姫』さんと顔見知りかぁ」
「この私が期待してるんだ、精々応えてくれよ?鐘子明」
最後の人物・・・・。
いったいどこの天災なんだ・・・・。