「――――えっ?じゃあ鐘子さん、あの島津の親戚なんすか?」
セシリアとの決闘が決まったその日。
早速鍛錬を行うことになった一夏と明。
剣道大会で全国優勝経験のある箒の指導の下、主に一夏を鍛えることになったのだが。
その合間の休憩での、何気ない会話に出た、家族についての話題で。
一夏は驚いた声を上げる。
『島津家』と言えば、近年漫画やゲームといったサブカルチャーで、度々その規格外っぷりが取り上げられており。
歴史に詳しくない一般人でも、どんな人々かが何となく想像できるくらいには知名度がある。
箒からもぎょっと目を向けられた明は、ふるふる首を振ってから。
「無関係とは言えんが、親しいかというと微妙」
曰く、『父方の祖母の実家の本家』。
確かに親戚かどうかを聞かれると、ちょっと反応に困る距離感だった。
「けど、少なからず関係があるなら納得です。私よりも教えるのがお上手でしたから」
「・・・・じーちゃんを真似ただけ、だから、すごいのはじーちゃん」
何度も頷きながら納得する箒へ、明はまた首を横に振りながら答える。
確かに『ぐっといって、ばって感じだ!』『ひょいっと、ぎゅっと!』と擬音が多めな箒に対し、『目線を突き刺すように』『背筋に鉄心が入るイメージ』と、明は具体的なアドバイスをしていた。
感心している様子の二人からすれば、頼れる年上として是非リスペクトしたいところなのだろうが。
明にしてみれば、自身の師たる祖父のやり方を真似しているだけなので。
慕ってくれるのは嬉しいものの、何だかくすぐったい気分になったのだった。
「でも、何だか安心しました」
「・・・・?」
スポーツドリンクを飲んだ一夏は、言葉通りの声と表情でそう言う。
「だって島津っていったら、一時期『
「確かに、その武勇は今にも轟いているしな」
現代はともかく、戦国の世の彼らと来たら。
『助かるために敵を撃破すればいい!』だの『前進オッケー、左右後ろに動くのも敵を殺すためならオッケー、それ以外は死刑』だのが日常茶飯事なイメージがある。
そんな彼らと関係があると言われて、更にこうやって戦いの技術を学んでいると来れば、確かに身構えてしまうのは仕方が無いのかもしれない。
「・・・・あの辺よりは、大人しい県民やけん」
「ですよね、戦国とかならともかく、今は違いますし」
明の出身が、
少なくともあの辺りの強烈な逸話は聞いた事が無かったので、一夏は安心した。
・・・・安心して、完全に油断していた。
「精々生首片手に踊るくらいば」
「何それ初耳ッ!?」
「――――結局、一週間剣道しかやってなかったなぁ」
「訓練機が借りられなかったのだ、仕方あるまい」
月日が流れるのはあっというまで、気付けば試合当日。
IS用のスーツに着替えた一夏は、どこか遠い目でしみじみと語り。
同じくISスーツ姿の明は、黙って何度も頷く。
そんな彼らを見た箒は、ため息とともに肩を落とした。
「すまんな。特にこの時期は、どうしても二・三年生が優先的になってしまう」
「・・・・先生が謝ることやないです」
一年生以上に、進学や就職がかかっている先輩達なのだ。
入学したてのこの季節は、どうしてもそちらを優先せざるを得ないのだろう。
申し訳なさそうに顔をしかめた千冬に、明は首を横に振る。
「そうだよ、千冬姉が悪いってわけじゃないんだしさ」
「・・・・織斑先生だ、馬鹿者」
一夏の頭を小突いたその顔は、どことなく照れくさそうだった。
と、待機していたピットの入り口で、扉が開く大きな音。
「来ました!来ましたよ!織斑君!」
巨大なコンテナを引き連れて、真耶がぱたぱたと駆け込んできた。
「織斑君の専用機、届きました!」
どこか自慢げに両手を広げる真耶の後ろ。
重々しくコンテナが開いて、中の機体が出てきた。
「織斑君用に、倉持総研が作り上げた専用機!その名も『
――――白。
第一印象は、その一言に尽きた。
名は体を表すとはよく言ったものだと、明は一人納得すると同時に。
これ以上一夏の専用機が遅れるようなら、『先にアリーナで待っているセシリアの相手を自分がする』という提案はしなくてよさそうだと。
確認するように小さく頷く。
「背中を預けるようにしろ・・・・そうだ」
早速乗り込み、機体の手を握ったり開いたりする一夏。
実際に動くISを見ると、遠い世界の存在だったそっれが間近にいるのだという実感が湧いてくる。
胸に生まれた高揚感を確かめながら、明は食い入るように見つめていた。
「悪いが、フォーマットとフッティングは試合中に済ませてくれ。これ以上時間を食わせるわけにはいかん」
「ああ、オルコットも待ちくたびれてるみたいだしな」
千冬に頷き返しながら、一夏はモニターに目をやる。
アリーナの上空、青い機体を纏ったセシリアが、対戦相手を今か今かと待ちぼうけているのが見えた。
「箒、明さん」
カタパルトに乗った一夏は、徐に振り向く。
名前を呼ばれた明と箒の二人は、何事かと見上げる。
「――――いってくるッ!」
「・・・・ああ」
「・・・・ん」
一夏は気合たっぷりに親指を立てて笑い。
明と箒は、すぐに飛び出して行った彼を見送った。
「ちーちゃんが離れたッ、今がちゃーんすッ!」
「箒ちゃん、には、悪い、けどッ・・・・!」
「でええぇいッ!腹決めろ私ッ!妹のためならえんやコラーッ!!」
――――クラス代表決定戦。
時間にして三十分ばかりの試合は、一夏の自滅という形で幕を引いた。
「いや、
試合を見守っていた明は、我に帰って静かにぼやく。
結論から言うなら、一夏はよくやったと思う。
設定が終わっていない序盤は、危うい所まで追い込まれてはらはらしたものの。
ミサイルの直撃を受けた黒煙から飛び出してきたときには、ガラにも無く手に汗握って昂ったものだ。
セシリアの現時点での弱点も見抜き、さあ反撃だといわんばかりに手にした剣を輝かせたと思ったら。
試合終了のブザーが響き、セシリアが勝者だと判定されたのである。
「恐らく、
「織斑先生の?」
「はい」
首をかしげている明を見かねたのか、同じく頭を抱えていた箒が解説を入れてくれた。
『零落白夜』の名前は、IS素人の明でも聞いた事がある。
現役時代の千冬が、愛機『暮桜』と共に愛用していた『
シールドエネルギーを犠牲に、強力な一撃を叩き込む技だったはずだ。
その強力な技と千冬の技術が上手くかみ合ったことで、今もなお轟くブリュンヒルデの称号を手にしたのである。
ここでふと、明は疑問を抱いた。
「・・・・
「普通ならありえないはずですが、私もそこまで詳しいわけではないのでなんとも・・・・ですが、
「ん、なるほど」
またぼやかれた疑問へ律儀に返事をした箒は、途中申し訳なさそうに首を横に振る。
よく分からないのは明も同じなので、同じ様に首を振っておいた。
「ま、まあ!情けない形ではありますが、及第点は挙げてもいいでしょうね!」
「ん、ようやった」
負けた理由は非常に残念だが、代表候補生というエリート相手だと考えるなら、よく健闘した方だろう。
箒はどことなく顔を赤らめながら、胸を張る。
――――この一週間の付き合いで分かったのは、箒の不器用さと恋心。
特に不器用な部分に関しては、親友に通じる部分を数多く見てきたため。
明は茶化すことなく、微笑ましげに見下ろすだけだった。
モニターの向こう、何だか納得行っていない一夏を見物していると、
「うんうん、いっくんは頑張ったほうだよねー」
千冬でも、真耶でもない。
明は知らず、箒は思っても見なかった。
第三者の、声。
「「――――ッ!?」」
ばっと、同時に身構えて振り向けば。
「はろはろー!箒ちゃんはおっひさー!」
機械的なウサ耳のカチューシャ、不思議の国のアリスのようなエプロンドレス。
「そして、初めましてだね?鐘子明?」
ISの開発者にして、日本が生んだ稀代の天才。
『篠ノ之束』は、意味深に明の名を呼んだ。
作中に出てきた生首云々の話は、知り合いが先輩に聞いたという「浮立の面」の話を参考にしたのですが。
インターネットで検索してもそれらしい話を見つけられず、首をかしげている次第です。
真偽が不確かなものを載せるのはとちょっとためらいもしましたが、薩摩以外でのぶっとんだ話が中々見つけられなかったため、記載させていただきました。
まあ、とどのつまり何が言いたいかといえば。
『あんまり突っ込まんといて・・・・!』という、皆様へのお願いだったりします←