実力至上主義の学校に数人追加したらどうなるのか。※1年生編完結 作:2100
今回も長いです。
「ふう……」
堀北が帰り、皿洗いと風呂を済ませてから、あいつの指示通りテスト範囲に絞り込みを行なっていた。
今はそれがひと段落し、一息ついていたところだ。何かの場面と勘違いしちゃった人、滝に打たれて心を浄化して出直して来なさい。
冷蔵庫から水を取り、コップの4分目ほどまで入れる。
この水は買ったものではなく、水道から沸かして作ったものだ。
自分の部屋にあるものは、全て無料で使用できる。電気ガス水道はもちろん、テレビも無料だ。あと俺は髪があまり短くないので、ドライヤーも使わせてもらっている。
入れた水を飲み干し、コトン、とシンクの台にコップを置いた瞬間だった。
『♫ー』
初期設定のデフォルトから変更されていない着メロが部屋に響く。
ベッドの上で充電中だった端末をプラグから外し、画面を見ると、そこには「藤野麗那」の文字が表示されていた。
そういえば最近連絡取ってなかったな、と思いつつ、電話に出る。
「もしもし」
『あ、速野くん、今大丈夫?』
「ああ。どうした。久しぶりだな」
『う、うん。その、Dクラス大変みたいだったから……』
クラスのことを指摘されて思い出す。
藤野はAクラスだったな。都合のいい解釈をすると、最近連絡がなかったのは、気を遣われたってことか。
「大変といえば大変だな」
『速野くんは大丈夫?』
「おかげさまで」
俺がここまで節約できた大きな要因は藤野のスーパーの件だ。あれを知らなかったら、俺はもう2、3万ポイント使う羽目になっていたかもしれない。
「Aクラスは流石だな。ノーヒントのまま減ったクラスポイントが60だけなんて」
当たり前のことを当たり前に行える、というのは社会で生き残るために必要で、また有用な能力だ。
それでも60減っているということは、Aクラスの中でもそれができない奴が一部だがいた、という事なんだろうか。
『う、うん、そうなんだけどね……』
俺の羨望の声とは裏腹に、藤野の声は沈んでいた。
「……なんかあったのか?」
『……話、聞いてくれる?誰かに話すだけで気が楽になることもあるかもしれないから……』
確かにそれは間違いない。
心理的ストレスは発散しないと気が狂う。だから、一見ストレスがなさそうに、楽しく、優しく生きている人でも、見えないところでは様々な形でストレスを発散しているのかもしれない。
藤野のように誰かに話したり。あとは日記をつけるのも一つの方法だ。
だから話を聞いてやろうとは思うのだが、問題は、俺にその効果が期待できるかどうかだ。
藤野が先に述べたような効果を欲しがっているなら、俺よりも寧ろ櫛田の方が適任だろう。
「櫛田に相談した方がいいと俺は思うぞ。親身になって聞いてくれるだろうし」
『桔梗ちゃん、普段いろんな人から相談受けてて……あ、速野くんが暇そうだって言ってる訳じゃないよ? それに、誰かにこの事を相談したいって思った時に、はじめに思い浮かんだのは速野くんだったから……』
どういうことだろうか。
信頼度の点から言って、俺が櫛田に敵う項目なんて一つも存在しないはずなのに。
しかも、以前の名字呼びから名前呼びに変わっていることから、2人の仲は以前より深まっているとみて間違いない。
藤野の感覚は俺にはよく分からないが、向こうから話を聞いてくれ、というなら断る理由はない。
「……聞くだけなら、いいぞ」
『ほんと? ありがとっ』
電話口からでも分かる、安心したような声色。あまり過度な期待はして欲しくないな、と思いながら、俺は耳を傾けた。
『実は……クラス内がちょっと殺伐としてて……』
「というと?」
『なんか、派閥争いっていうか』
「……政争かよ」
少し戯けて突っ込みを入れてみたが、よくよく考えてみると、案外ハズレでもない気がした。
茶柱先生の言う通りなら、Aクラスは、この学校でも最優秀の生徒が集中しているクラス。優秀な者同士、意見や考え方がぶつかれば、そういうこともあるのかもしれない。
そして恐らくそれは、ただの高校生のくだらない内輪揉め、といった具合で済まされるものではないんだろう。
『それで、クラスが二分されちゃってて……今まで両方の人と仲良くしてきたけど、どっちつかずって言われちゃったらそれまでだし、そもそもこの立ち位置にいられるのも時間の問題でさ……』
「ふーん……」
両方の側の人間と仲良くできている、ということは、派閥争いが起こる前から、藤野はAクラスメンバーのほとんどと良好な関係を築いていたということか。
派閥争いの様相は全く見えてこないが、藤野を引き入れようと両方の派閥が取り合いになる構図は想像に難くなかった。
俺には無縁な悩みだな……
「悩み相談なんて初めてだからよく分からんけど、ここで俺が何か言っても、無責任になことにならないか?」
『そんな訳ないよ。相談したのは私だから……何か思いついた、ってこと?』
藤野は俺の発言をそう捉えたらしく、期待のこもった声で聞いてくる。
「いや、特には……取り敢えず選択肢は、頑張って中立公平を保つか、どちらかの派閥につくか……どっちかにつくにしても、その判断基準が何なのかで話は変わってくるな……自分に合った考えの側か、優秀だと思った側か、決めきれないなら、神様の言う通りにしてみるのも一つの手だ」
といっても、ここまでは藤野にも分かっているだろう。それが解決できないから相談しているわけだしな。
ここで一つ、考えてみる。
藤野麗那という女子生徒について。
「藤野。突飛な発想だが……」
『うん、何でも聞かせて』
コミュニケーション能力は櫛田並み。普段の様子を見る限り、Aクラスでは相当な信頼と人気を誇っている。そのことを加味した上で、俺は第三の選択肢を藤野に言った。
もちろん、これも藤野の中で思いついていたことだろう。
だが、藤野からは中々返事が返ってこない。
「……やっぱりぶっ飛びすぎだよな。悪い、今のは忘れてくれ」
『……ううん、なんか話しててすごいスッキリした。ありがとね、真剣に考えてくれて』
そう言う藤野の声には、言葉通り、さっきまでの不安そうな色は薄まっているように感じた。
「いや、別にいい。また悩み事があったら誰かに吐き出せよ。溜めこむと、ストレスにもなると思うし」
『うん。じゃあその時は速野くんに相談するね』
「……お手柔らかにな」
そう答えると、電話口からはクスッという藤野の微笑が聞こえる。
『本当にありがとう。おやすみ、速野くん』
「ああ、おやすみ」
お互いにそう言い、俺は画面の通話終了ボタンを押した。
藤野は冗談めかしていたが、Aクラスの悩み事はハイレベルそうだから、本気で勘弁してほしい。
それに対し、まずは中間テストを乗り切らなければ、というのが悩みであるDクラスの方が、格段にやりやすく思えてきた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
今日は何やら、後ろの2人が微妙な感じだ。
なんでも、綾小路が櫛田に頼んで須藤、池、山内の3人を説得して参加を決めさせた。しかし、櫛田が綾小路の要求を呑む条件として提示したのは、自分も勉強会に参加することだった。で、そのことに堀北が腹を立てたということらしい。
堀北も苛烈だ。綾小路が呼びかけても応答はなし。しかしながら綾小路が無視を決め込む態勢をとると、すかさずコンパス攻撃準備。
これを例えるなら、『やる気がないなら帰れ!』→帰り支度を始める→『舐めてるのか!?』という理不尽。
綾小路はどうしていいか分からないだろう。俺にも分からん。
1日の授業の日程を消化し終わり、放課後、勉強会開始の時刻になる。
「勉強会に参加する人は、過不足なく集まったかしら?」
それまで綾小路のことなどガン無視だった堀北が、今日初めて綾小路と口を聞く。過不足なく、というのは櫛田のことを揶揄しているんだろう。
「櫛田が説得してくれてる。多分全員集まると思う」
「彼女に参加させない旨は伝えたの?」
「ああ、伝えた」
堀北はどうやら、どうしても櫛田を参加させたくないらしい。
こいつの他人に対しての当たりが強いことは、何も櫛田だけじゃない。平田にも突き放した言い方はしていたし、俺にも綾小路にもそうだ。
それでも、櫛田に関しては一際当たりが強いように見える。
櫛田は積極的に堀北と仲良くしようとしているが、堀北はそれに強く反発する。
堀北が櫛田を嫌う理由として以前聞いたのは、無理やり自分に関わろうとしてくるから。
堀北に普通が通用するかどうかはさておき、通例、好意を持って接してくる人を嫌う理由の多くは、嫉妬だ。
しかし、堀北が櫛田に劣っている部分なんてほとんどない。2人ともタイプは違うが、容姿はトップクラス。甲乙つけがたい。
勉強や運動の面においては、櫛田は堀北に及んでいない。
唯一目立って劣っているとすれば、コミュニケーション能力と、それに関連する顔の広さや人からの信頼度、求心力など。
だが堀北は、自分に友達やコミュ力がないことを(少なくとも表面上は)全く気にしていないのだ。
それにそもそもの話、堀北が嫉妬なんてする人間には思えなかった。
やっぱり、堀北が櫛田を一方的に嫌う理由を推察するのは難しい、か。今考えても、すぐに答えが出る問題でもない。
そう結論付け、勉強会の会場だと堀北に指定された図書館へ向かう。
勉強会に参加する人数は恐らく6人。櫛田が参加するとすれば7人。それだけの人数の席が確保できる机に腰掛けた。
少しして、赤点組のご登場である。
うまく説得することができたらしい。
櫛田が3人の来訪を伝えながら、図書館に入ってきた。
ここまでは予想通り。しかし、1人想定外の人物がいた。
「沖谷? お前赤点だったっけ?」
小さい体。この世に男の娘って存在するんだなあ、と思わせられる、そんな容姿をした男子だった。
「赤点じゃなかったんだけど……その、かなりギリギリで、不安だから……参加してもいい、かな? 平田くんのグループには入りにくくて……」
あー、わかるわかるその気持ち。あそこ女子が多いし、リア充限定みたいな雰囲気がある。
それに比べ、こっちは普段からぼっちの奴×3だ。さらに言えば櫛田に誘われたから行きやすくなった、というのもあるだろう。
「……そういうことなら、拒否はできないわね」
堀北が承諾すると、沖谷の表情がぱっと明るくなり、席に着いた。
そして、今度は櫛田が言った。
「あの、じゃあ私も参加していいかな?」
「あなたはギリギリどころか、上位の成績だったはずよ」
「あの小テスト、選択問題が多かったから、実はほとんど当てずっぽうの偶然だったんだ。実力的には、沖谷くんと同じか、それより下だと思うの……だから私も不安で」
これは櫛田の作戦だろうか。だとしたら素直に感心した。
沖谷の参加を認めさせることで、この勉強会への参加基準が赤点組かそうでないかではなくなる。
これで、堀北は櫛田の参加を拒否する理由がなくなってしまった。
「……分かったわ。好きにして」
「ほんと? ありがとう」
恐らく櫛田の狙い通り、堀北は参加を了承した。
だがもしこれが策略なら、櫛田の学力レベルは並以上ある可能性が高い。その場合、この場にいる全員に嘘をついたことになるし、沖谷は心理的に少しダメージを負うだろう。
そこまでして、堀北の開く勉強会に参加したかったのか。
堀北の変人っぷりばかり取り上げていたが、櫛田の執着のしかたも異常だと言わざるを得ない。
「では早速だけど、まずは問題を解いてもらうわ。あなたたちには、赤点のラインを余裕で超えられるレベルにまで伸びてもらうつもりよ」
「え、でもそれって大変なんじゃ……」
「ギリギリのラインを狙うのは危険が高すぎる。もし失敗したら、もっと大変なことが起こるぞ」
すなわち退学だ。
発言の意図は察してくれたらしく、堀北が渡した問題を解き始めた。
内容は数学の連立方程式。
「えっと、A+B+C=2150で……」
沖谷の方は、割と順調に連立方程式を組み立て始めていた。それを櫛田が笑顔で眺めている。
いやお前は解かなくていいのかよ。一応沖谷より学力低いって設定だろ。
まあ、そちらはどうでもいいとして、問題は赤点組の方。
「わっけ分かんねえ……」
「俺も……」
始めの問題から躓いていた。
ついひと月前の入試問題とは、とてもじゃないが比べ物にならないくらいに易しい問題だ。
それを「わっけわかんねえ」って……
これは教えるのに相当苦労しそうだ。
そして、解き方が分からない問題と睨めっこを続けるのは、苦痛でしかない。
「あーもう、やってらんねえ」
「こんなに早い段階から諦めてたら、この先無理だぞ」
シャーペンを放り出した須藤に、綾小路が警告を入れる。
「まさか連立方程式も分からないなんて……いい?これはこう解くのよ」
堀北がそう言い、ノートに文字式を組み立てて問題を解き明かしていく。
模範的な解き方。
しかし、それでも赤点組は理解できていなかった。
「やっぱ分かんねえよこんなの」
「これは考え方次第では、連立方程式を習っていない中学1年生でも解ける問題よ。もっとちゃんと考えてみなさい」
「え、じゃあこれも解けないって、俺ら小学生並み……?」
まあ、確かに中一でも解けないことはない。
連立方程式と似たような問題を解くために、難関私立中学受験の対策を行なっている塾では、鶴亀算やら仕事算やらを頭に叩き込ませているだろう。
「心配するな池。連立方程式以外の解き方で解ける中一は少ない」
「やっぱそうだよなー。そいつら、頭の構造からして俺らとは違ってるんだよ」
「いや、高校で連立方程式解けないってのは不味いレベルだぞ」
「えー、上げて落とす感じかよ速野ー」
「……」
反応するところそこかよ……てか、お前らを上げたんじゃなくて頭が柔軟な中一を上げただけだぞ。
その様子をみて、櫛田も会話に参加する。
「でも、堀北さんと速野くんの言う通りこれはちょっと不味いレベルかも。諦めないで、もうちょっと考えてみようよ。ね?」
「……まあ櫛田ちゃんが言うならもうちょっとやってみるけどさ。てか、櫛田ちゃんが教えてくれたらもうちょっと行けると思うんだけど」
「え、えっと……」
そう言われた櫛田は困ったような表情を向ける。
だが、手段を選んでいる場合ではない。何にしても、こいつらのモチベーションが上がるなら櫛田にやってもらうしかないだろう。
「えっと、これは堀北さんも言ってたように、連立方程式を使って解く問題なの。一回、問題文を文字で表してみるね」
そんな感じで櫛田の解説が続いていく。俺から見ればそこそこ分かりやすい解説だ。難しいことは特に言っていない。
だが問題は、堀北の解説のスローモーションのようになってしまっているということだ。
「だから、答えは710円になるの」
「……え、これで答え出るのか? なんで? てかそもそも、さっきから言ってる連立方程式って、なんだ?」
その言葉に、俺のみならず、櫛田や堀北も閉口していた。
そして、堀北から視線を送られる。
次はお前だ、とでも言いたそうだ。
一応俺も教える側としてここに来ているし、やることはやっておくべきか。
連立方程式の利用方法どころか、名前すら知らないこの状況では、堀北や櫛田の考えでは無理だ。
恐らく「文字で表す」ことの意味すら理解していない。
この勉強会にふさわしいとは言えないが、堀北が言っていた中一でも解けるやり方でやってみるしかない。
「数直線を使って考えてみる。まず、全体が2150だ。次にAとBの関係を書くと……」
文字を使っていないだけで、やっていることはあまり変わらない。それを具体的に数直線上で表しただけだ。
「で、590+120で、答えは710円だ」
何とか分かってくれ、という気持ちを込めて3人を見つめる。
「……なんか、急に計算の量が増えた気がするんだが……」
いかん、解き方の内容に突っ込んでくれない。
「今まで我慢していたけれど、あえて言うわ。あまりに無知・無能すぎる」
「あ?」
「聞こえなかったかしら。あなたたちは無知・無能だと言ったのよ。この程度の問題も解けない頭で、この先どうしていくつもりなのか理解できないわ」
「お前には関係ねえだろうが。勉強なんて不要なんだよ」
「何をもってそのようなことが言えるのか、気になるところね」
そこから、堀北と須藤の言い争いが始まる。
堀北が降りかざす論を、須藤が独自の考えで拒否していく。どちらが正しいのかは明らかだが、堀北の口撃には全員が唖然としていた。
そして堀北の言葉の矛先は、須藤の部活、つまりバスケにまで向いた。
「どうせ、練習に対しても真摯には取り組んでいないでしょう。あなたはさっきバスケットのプロになると言ったけれど、そんなに簡単にいく世界だと思っているのかしら。そもそもプロになれたとして、満足な収入が入ってくるとは思えない。そんな職業を選択する時点で、あなたは愚かよ」
「てめえ!」
須藤はブチギレ、堀北の胸倉を掴んだ。
しかし堀北は、コンビニの件同様引く様子を見せず、一層冷たい視線を須藤に送っていた。
「そうやってすぐに暴力に走り、場の雰囲気を壊すその性格も、あなたはクラスにとってマイナスの要素でしかない。今すぐに学校をやめてもらって構わないわ」
「……ああそうか、お望み通りやめてやるよこんなもん。じゃあな」
「そう。さようなら」
荷物をまとめて席を立つ須藤の姿を、堀北は侮蔑を込めた目線で見ていた。
すると、須藤以外の池、山内も片付けを始める。
「俺も帰る。そんな上から来られたら勉強する気もなくなるって。みんながみんな、堀北さんや速野みたいに頭いいわけじゃないんだからさ」
もうこの流れは止められない。勉強会は完全に崩壊した。
これ以上、池や山内の恨み言も、櫛田の説得も堀北には意味をなさない。
沖谷も帰り、残ったのは堀北、綾小路、櫛田、俺の4人だけとなった。
「……堀北さん、何であんなこと……」
「足手まといな人たちは、クラスのポイントが0で、実害がないうちに消えてもらった方がいいと判断した。それだけのことよ」
「そんな……2人からも何か言ってよ……」
「堀北がそう判断したなら、いいんじゃないか?」
「綾小路くんまで……」
「あの3人を見捨てたいとは思ってない。でも、俺にもどうにもならないからな」
「……速野くんは?」
今度は櫛田が名指しで言ってきた。
「あー……とりあえず堀北」
「何かしら?」
「場を乱す性格ってのは、間違いなくブーメランだと思うけどな」
「私は事実を事実として言っただけよ」
「そうか。それなら俺から言えることは何もねえよ」
言って、俺は堀北から目線を切った。
「そんな、何で……でも、私はなんとかしてみせる。大切なクラスのメンバーのために」
「あなたがそう言うなら勝手にやってちょうだい。でも、私はあなたが本心からクラスのメンバーのためにやっているとは思えない」
「どうしてそんなことばっかり言うの?意味わかんない。私、悲しいよ……」
言うと櫛田は俯き、悲しんでいる表情を見せる。しかしすぐに向き直り、カバンを持った。
「じゃあ、また明日、ね……」
短い別れの言葉を述べ、櫛田は図書館から出ていった。
終わってみれば残ったのは、堀北とその手下2人。
「これで勉強会は終了よ。あなたたちは、残りの人たちよりましな人間のようね。速野くんには必要ないでしょうけど、綾小路くんには特別に勉強を教えてあげても構わないわよ?」
「いや、いい」
堀北の誘いを断った綾小路は、荷物を片付け始めた。
「帰るの?」
「いや、須藤たちと雑談しに、な。俺は友達と話すのが嫌いなわけじゃない」
「友人と言っておいて、退学を止めようとはしないのね」
「さっきも言ったが、俺にはどうすることもできないからな」
「そう。勉強会は終わったのだし、自由にしてもらって構わないわ」
「ああ。じゃあな」
綾小路も退室し、残ったのは俺と堀北だけとなった。
「あなたはここで勉強を続ける?」
堀北はそのまま勉強を続けるらしく、新たに教科書を開いている。
「それもいいかもしれないが……そうだな、堀北。この問題解いてみてくれ」
「構わないけれど……」
そう言って、堀北は俺が差し出したノートを受け取り、問題に取り組む。
この問題は、さっき堀北が言い争っている間に過去にある参考書で出題されたのを思い出し、それを書いたものだ。
難易度は非常に高め。小テストの最終問題よりも難しいと思われる。
堀北は考えているが、これはそうそう考えて解けるものではない。こんな問題が出たら間違いなく後回しにする。
そのまま7分ほどが経ち、堀北はついにシャーペンを置いた。
「悔しいけれど、手に負えないわ。これは私が解ける範囲なの?」
「ああ。何なら中学の知識だけでも解けないことはない」
「……本当に?」
「ああ。つまりお前は中学生以下ってことだ」
「……何が言いたいのか分からないけれど、取り敢えず解説してもらえるかしら?」
「自力で解かなくていいのか?」
「この問題はテスト範囲外の上に、明らかに常軌を逸した難易度よ。実際の試験で出題されたらまず後回しにするでしょうね」
堀北が言っていることは至極真っ当だ。大学入試の数学は大体5~6割でも合格圏内に入る。そしてその中には捨てるべき問題も存在する。
だが、ここで俺が言いたいのは受験テクニックではない。
「お前の言い訳なんて知らん。何を言おうが、お前はこの程度の問題を解き明かせない無能ってことだろ?」
「この程度というけれど、この問題はほとんどの生徒が解けないはずよ」
「根拠に乏しいな。それはお前の主観でしかないだろ?」
「それは屁理屈と言うのよ」
確かに、堀北の言う通り俺が言っているのは屁理屈だ。
だが、堀北はそろそろ俺が何を言いたいか気づいてくれてるんじゃないだろうか。
「まあ、じっくり考えてくれ。その問題の解説は後で送るから。ただ、テスト勉強の妨げにならない程度にな」
言いながらカバンを持ち上げ、席を立った。
「……ええ。そうするわ。また明日」
「ああ」
図書館を出ると、広がっていたのは、以前にも見覚えがあるオレンジ色の空だった。
まあ、勉強会が始まってからまだ1時間も経ってないしな。
だだ長く感じさせてしまうのは、完全に実力不足です。これから精進していきたいと思っているので、応援よろしくお願いします。
コメント、評価など随時お待ちしております。