実力至上主義の学校に数人追加したらどうなるのか。※1年生編完結 作:2100
勉強会崩壊の後、俺はすぐには帰る気になれず、寮を通り過ぎて、散歩道を歩いていた。
やはり夕焼け空は綺麗だし、見惚れる。
だが、こんな話を聞いたことがある。
普段都会で生活している人が、田舎の満天の星空を見ると、「気持ち悪い」という感情を抱くことがあるらしい。
都会には高層ビルが乱立していて、空を見上げる機会などそうそうない。
そもそも「光害」によって、田舎のようにきれいな星は空に見えないのだ。
見る側の人となりや立場、環境によって、同じものを見ていても、抱く感情はこれほどまでに変わってくる、という典型例だ。
俺が住んでいたのも田舎ではなかったが、俺にはまだそう言ったものを綺麗だと思う感性は残っているらしい。
空を見上げながら歩くなんて、俺にしては珍しいこともあるもんだな。
「上を向いて歩こう」
ふと、そんなフレーズが頭に思い浮かんだ。
何かの歌詞の一部で、確かこの後には涙が溢れないように、と続いていた。
……俺が最後に涙を流したのはいつだっただろうか。
もう思い出せないほど遠い昔の記憶。
……あーいや、そういえばこの前寮でカレー作ってる時玉ねぎのせいで号泣したわ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
放課後に賑わうのは、カフェやショッピングモール。寮の奥側に行く人なんて誰もいないだろう。
寮を過ぎてからは1人も見かけなかった。
寮を過ぎて直進すると、小さなバスケットコートがあるということはどれほど知られているだろうか。
恐らく上級生は知っている。だが新入生は知らないだろうな。配られた地図や、端末に入っている学内マップには「バスケットコート」とは書かれてなかったし。
完全な気まぐれ。俺はそこを折り返し地点にすることにした。
一歩一歩踏み出すごとに、バスケットコートが近づく。
プレーしている人はいないようだ。
プレーしてる人は。
「……?」
バスケットコートの脇にあるベンチ。そこに座っている女子生徒を見つけた。
長めの髪を後ろで2つにまとめて、メガネをかけている。
その顔とその雰囲気には、覚えがあった。
「え……」
「……?」
向こうも、俺が突っ立っているのに気がついたようだ。
そして目が合う。
「あ、あ、……」
見られたくないシーンだったのか、その女子生徒は急いでカバンを持ってダッシュ。
「あ、おい……」
グアアアアアアアン
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「っぅぅ……」
「……大丈夫か?」
「あうう……」
その女子生徒、同じクラスの佐倉愛理は、猪突猛進で頭から電柱に突っ込んだのだった。
さぞかし痛かっただろう。ぶつかって倒れたときに目が回ってて、「佐倉、戦闘不能!」という声が頭の中で再生されて、ちょっと吹き出しそうになったのは別の話。
佐倉はどうやら、自撮りをしているところだったようだ。恐らく、ここなら誰も通らないと踏んでのことだったんだろう。そんなところにいきなり俺が来たら、まあ驚くし、焦るわな。
「あ、あの……」
「……ん?」
「その……こ、このことは誰にも言わないでくれますか……?」
「……電柱とケンカしたって?」
「そ、そっちじゃなくてっ。あ、そっちもだけど……そ、その、自分で自分を撮ってたこと、です……」
丁寧語で話す佐倉のセリフを受け止め、少し考えてみる。
……ふむ。でもそもそも言う人いないしなあ。
「別に言うつもりはないけど……」
そういうと、佐倉は少しほっとしたような表情になった。
確か水泳の授業のとき、佐倉は胸がでかいだの何だのと言われて、一時期男子から注目を浴びていた。「胸がでかい女子ランキング」の優勝候補にもノミネートされていた気がする。
ただし話題が沸騰したのはその一瞬だけで、あとは雰囲気の地味さからか、徐々にフェードアウトしていった、っていう流れのはずだが……
何だろう。今隣に座っている佐倉はからは、普段の地味さが微塵も感じられない。いや、地味どころか、容姿はクラストップレベルだ。はっきり言ってめっちゃ可愛い。
何で……と考えていると、普段の佐倉と今とで、決定的な違いがあることに気づいた。
「……佐倉、普段メガネかけてなかったか?」
「え!? あ、そ、そうなの! カメラの前ではかけないことにしてるんです!」
慌てふためいた様子で、メガネをかける佐倉。
カメラの前ではかけないってことは、その方が可愛く映ると自分でもわかっているということだ。
じゃあ何でわざわざ地味にしてるんだ……?
それにこのメガネ……いや、詮索はよそう。
何か事情があるんだろうし。
「あ、あの……」
再び、佐倉が俺に話しかけてきた。
「変、ですか?自分を撮るのが趣味なんて……」
恐る恐る、といった感じで佐倉が質問する。
俺に見られたことを相当気にしているらしい。
まあ普通に考えて、隠していた自分の趣味を他人に知られたら、恥ずかしいだろうな。俺は知られて困るような趣味もないしよく分からないけど。
「……さあ。他の人がどんな趣味持ってるかなんて知らないから比較していうことはできないが……でも、ちゃんとした趣味があるってのはいいことだと思うぞ」
「……ほ、本当、ですか?」
「ああ。別に他に迷惑かかってるわけでもないんだろうし……」
趣味は最大限尊重されるべきだとは考えているが、迷惑がかかるようなことは自重すべきだ。
法的な言葉を借りるなら、「公共の福祉」に反しない限り、個人の趣味嗜好を馬鹿にする権利は誰にもない。
まあ、たまにびっくりするような趣味持ってるやつはいるんだろうが……佐倉のはその限りではないだろう。佐倉とは方向性は違うと思うが、世の中の高校生なんてパシャパシャ自撮りしまくってるしな。
「……ありがとうございます」
「……別に感謝されるようなことは何もしてないぞ?」
「その、こんなところ誰かに見られたのなんて初めてで……もし見つかったらどんな反応されるんだろうって、怖かったから……」
俺は素直に感想を述べただけだが、対応の仕方としては、どうやら正解のくじを引いたらしい。
「……じゃあ、俺はもう戻る。じゃあな」
「あ、私も戻ります……」
そう言って立ち上がった佐倉は、猫背で、地味な雰囲気を持った、あるいは「意図的に醸し出した」いつもの佐倉だった。
寮のエレベーターで別れるまで、会話は一切生まれない。別れる際も、俺が少しだけ手を上げ、佐倉もそっぽを向きながら控えめに手を振り返す、というものだった。
まあ、仕方ないよね。コミュ障だもの。多分お互いに。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
その夜、勉強の息抜きに、夜風にあたりに外に出た。
5月中旬とはいえ、夜も更けてくると少し肌寒い。
堀北の説得は難しいだろうが、俺はまだ勉強会を開くことを諦めたわけではない。最悪、俺1人でもやるつもりだ。
残酷なことを言うようだが、今この瞬間、短期的な視点で見れば、須藤たちにこの学校にいてもらう必要はない。
堀北の言っていた通り、現時点であいつらはクラスのマイナス要因だ。
だが俺はクラスポイントのため、勉強以外の面で、いつかあいつらが必要になると確信している。
適当な道を通って、数時間前と同じように散歩をしていると、ちょっと衝撃的な場面に出くわした。
「お前には上に行く資格も力もない。それを知れ」
そこにいたのは同じクラスの堀北と、生徒会長の堀北だった。
今、生徒会長が相手の方を投げとばそうとしている。
その瞬間だった。
「おい、あんた今本気で投げとばそうとしてただろ。下コンクリだぞ。兄妹だからと言って、やっていいこととダメなことがあるんじゃないか」
その生徒会長の手を取ったのは、俺の逆側の建物の影から出てきた綾小路だった。
兄妹って……まあ予想はついてたが、やっぱりこの2人は兄妹だったのか。
「手を離せ、というのはお互い様だ。そちらが離せ」
「やめて、綾小路くん……」
堀北の、怯えた猫のような震えた声が耳に入る。
こいつ、こんな声も出すのか……
そんな風にのんきに考えていた時、生徒会長のとんでもない速さの裏拳が綾小路に迫った。それを綾小路は腕で守る。その直後、急所を狙った蹴りが、またしても凄まじい勢いでとんでくるが、それを手ではたき落とす。今度は綾小路の服の襟を掴んで地面に叩きつけようとするが、それも手ではねのけた。
そうして、お互いに距離を取る。
何だこれとんでもねえな……
生徒会長の攻撃は、1発でもまともに食らえば確実に意識が飛ぶだろう。しかも速い。
そして、それを完全に防ぎきった綾小路。あれは全部の動きを見切っていた動きだった。
2人とも武道には精通しているんだろうか。ポケットに物を入れながら、3人の様子を息を殺して観察する。
その後綾小路と堀北と数言交わした生徒会長は、あろうことかこちらに向かってきた。
逃げようか、とも考えたが、今走っても見つかるのは必至だ。
結局俺がその場を離れたのは、それから十分ほど経った頃のことだった。全く、とんでもない息抜きタイムだ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
午前中の授業を終え、昼飯の時刻となった。
直前の授業で使用していた教科書類をバッグに入れ、その代わりに、中から弁当箱を取り出す。
その蓋をあける直前、堀北に声をかけられた。
「速野くん、少しいいかしら」
「ん……なんだ」
「あなたが昨日送ってきた解説、わかりやすかったわ」
「そうか、なら良かった」
昨日の佐倉の件の後、寮に戻った俺は、堀北に図書館で出した問題の解説を要求されていたことを思い出した。
そして7分くらいでぱっと解説を作成し、勉強会のための業務連絡用としか考えていなかった堀北の連絡先にそれを送った。やっぱり連絡先があると便利なものだ。
「それで、その後に送ってきた不気味なファイルは何なの? 開こうとしてもパスワードがかかっていて開けなかったわ」
「ああ……悪い、あれはただのミスだ。あんま気にしなくていい。削除していいぞ」
「そう、ならそれでいいけれど……」
口ではそう言うものの、納得はしていないだろう。
昨夜のことを思い出すと、やっぱり俺は詰めが甘いな、と感じる。ちゃんと引き締めなければ。
「で、何の用だ?」
まさか、昨日の解説のことを言うためだけに話しかけてきたわけでもあるまい。
「今日の放課後、また一緒に来てくれる?」
なるほど、ここからが本題か。
放課後に何をすると言うのだろうか。以前の夕飯の件もあるし、正直乗り気ではなかった。
「……それ、断ってもいいか?」
「断りたいのね。それでもいいけれど、あなたの身の回りに奇怪な現象が起こらなければいいわね」
「……と、いうと……?」
「そうね…………で、どうするの?断る?」
何も言わないのが余計に怖い……
「放課後に何があるんだ。それが何かによる」
俺も学び取ったことはある。まずは要件を聞いてからだ。謎のままついていくと、どんな結末になるのか分かったもんじゃない。
「……昨日、あなたがなぜ私のことを無能無能と言っていたのか、分かったわ。私は、あの問題だけで無能と判断されるのはいい心地がしなかった。でも、私も彼らの勉強面だけを見て無能だと決めつけた。あなたはそこが気に入らなかったんでしょう?」
「……どう解釈しようがお前の自由だが、どうした。心境の変化でもあったのか?」
あったとすればあの時。
昨夜、堀北が綾小路に助けられた場面だが……
「ええ、そうかもしれないわね。どこぞの事なかれ主義のせいで」
そう言うと堀北は、机に突っ伏している綾小路を見た。
ということは、生徒会長がこの2人の前を去った後、綾小路が堀北をどうにかして言いくるめたのか。
「事なかれ主義のくせに、論破しちゃったのか」
「……」
綾小路の背中に言うが、反応はない。
「ちょっと、人の話を聞いているの? 頭は大丈夫?」
堀北は手のひらを綾小路の額に当て、その後、自分の額にも当てた。
「風邪を引いたわけではないようね」
「引いてねえよ! つか、失礼だろ!」
「人の話を無視して寝たふりを決め込んでいたのは誰かしら?」
堀北が即答で正論を言う。
「……ちょっと長めの回想に入ってただけだ。それで、オレに何か御用でしょうか……」
「須藤くん達にもう一度勉強会に参加してもらうために、あなたには体を張ってもらわなければならないわね」
「体を張るって……」
「具体的に言うと、土下座でもしてみたら?」
「なんでそうなるんだ……そもそもお前が揉めたんだから、お前が自分でなんとかしろよ」
「あの勉強会が壊れたのは学ぶ姿勢のなかった側の責任よ」
「おいちょっと、ストップストップ」
話についていけなくなった俺は、2人に会話を強引に止めた。
「お前ら、もう一回勉強会やるのか?」
「ええ。そうなんでしょう綾小路くん?」
「いや、開くのお前だろ」
「あなたが私を引き戻したんでしょう。最後まで責任を取りなさい」
その言葉で、綾小路は何もいえなくなる。
どうやら本当に堀北の説得に成功していたらしい。
綾小路がここまでするとは思っていなかった。昨日はどうすることもできないって言ってたのに。
まあでも、勉強会が再開されるというのは朗報だ。
「話を戻すわ。それで放課後だけではなく、今日のお昼時間にも来てほしいの」
「……分かった。行く。場所は?」
「まだ決まってないわ」
「なら、この弁当を持ち込める場所にしてくれ」
「そうね。あなたのせいで雰囲気を壊されるのは他人が迷惑するでしょうし」
「そうそう。ねえ、お前はディスを入れないと気が済まないの?」
「何か間違ってた?」
まあ間違ってはないんだけどさ……
そこで、綾小路が忠告するかのように言った。
「堀北。分かってると思うが、櫛田の協力は必須だぞ」
「……ええ。分かってる」
そう言うと、堀北は櫛田の席に向かい、話しかけた。
「櫛田さん。お昼、少しいいかしら?」
「堀北さんからのお誘いなんて珍しいね。うん、もちろん!」
櫛田は快諾。昼飯の場所に選ばれたのは、校内で絶大な人気を誇るカフェパレットだった。
なんか、流れに身を任せていたらパレットに来てしまったが……ここ、俺が弁当食ってもいいのか?
持ち込み禁止とは書いてなかったけど……
ま、いいか。とっとと食っちまおう。
「お代は私が出すわ」
「ありがとう。それで、お話っていうのは……?」
「須藤くんたちの勉強会。もう一度協力して欲しいの」
「それって、やっぱり……堀北さん自身のため?」
「ええ、クラスのためではなく、私のため。それでは手を組めない?」
「ううん、正直に言ってくれて嬉しい。それに私たち、クラスメイトだもん。喜んで協力するよ」
「ありがとう。助かるわ」
堀北が素直にお礼を言う姿は初めて見る。
1日でこんなに変化があるのか。
よっぽど綾小路の言葉が響いたらしい。
「堀北さん。もう一回聞くけど、これはAクラスに上がるためにやってるんだよね?」
「その通りよ」
「それって出来るのかな……あ、堀北さんを馬鹿にしてるんじゃないよ? でも、たとえ中間テストを乗り切っても、ポイントが入るかどうか……正直、クラスのほとんどの人は現実的に考えてないんじゃないかな、って……」
Dクラス内での認識として、概ね櫛田の言う通りだろう。
上に行きたいとは思っていても、精々頑張ってもCクラスに行ければいいかな、くらいにしか思っていない人がほとんどのはずだ。
いくら「進学、就職時の安泰」という入学目的があっても、俺たちは以前、教師から「不良品」と面と向かって言われてしまったのだ。
そして、それを表す顕著なポイントの差。
Aクラスっていいよね、という声はあっても、堀北のようにAクラスに上がりたい、という声は聞いたことがなかった。
しかしそれでも、堀北はブレない。
「私はやるわ。Aクラスに上がるために。私自身のためにね」
「綾小路くんと速野くんも?」
「ええ。2人とも私の助手として、Aクラスに上がるために日々活動していく所存だそうよ」
いきなり助手認定され、顔を見合わせる俺と綾小路。そんな俺たちの心情はスルーで、堀北と櫛田は会話を続ける。
「……うん。分かった。じゃあ、私も堀北さんたちの仲間に入れてくれる?」
「ええ。だから勉強会の手伝いをお願いしているのだし」
「ううん、そうじゃなくて。Aクラスを目指す仲間に入れて欲しいの。私にも何か協力できることがあるかもしれないし……ダメ、かな?」
言いながら櫛田は、堀北の表情を伺うように覗き込む。
俺、堀北、綾小路が3人集まった文殊の知恵でも足りないものを、4人目の櫛田は持っている。断る理由はない。
「ええ。では、この勉強会が無事成功したら、正式にお願いするわ」
「ほんとに?やった」
堀北の了承を得ると、櫛田は体を起こして、手をぱっと堀北と綾小路の前に差し出した。
両者ともに(綾小路の方は少し渋りつつも)手を握る。
そして今度は、俺の前にも手を差し出してきた。
「速野くんも、ね?」
少し抵抗があったが、俺も櫛田の手を取った。
女子との握手。それで少し藤野とのことを思い出した。
そして、少し考える。
今改めて、藤野と櫛田の雰囲気が似ているかどうか。
前よりも2人について詳しくなっているのが原因かは分からないが、以前よりも違いがはっきりするようになってきた。
ただ、未だにその違いが何なのかは見当もつかない。
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櫛田が赤点組の3人を呼び、堀北が勉強会についての話を始める。
堀北が提案した勉強方法は、授業中にとにかく集中する、ということだった。
この3人は、もともと授業をまともに聞いていない。そのため、堀北の案をこなすだけで、単純に6時間ほど勉強時間が増える。
授業で分からなかったところは、休憩時間の十分以内に俺、堀北、綾小路、櫛田が解説する。
以前と比べて、かなり効率的な方法だ。これなら須藤が放課後に部活を休む必要もなくなる。
「私と速野くんが、授業中にテストに出題されそうな部分をまとめるわ」
「え、俺も?」
「当然でしょう。あなたは授業中暇を持て余しているようだし、これは私たちの勉強にもなる。違う?」
「……まあ、確かに」
授業の要点をまとめることで、俺自身のテスト勉強の効率化も測ることができる。さらに人に教えることで理解も深まる。一石二鳥というわけだ。
ここまで説明を終え、池と山内は好感触だった。
しかし、小テストでクラス最下位を記録した須藤は……
「……納得いかねえ。あのな、俺はお前が言い放ったことを忘れちゃいない。まずは謝罪から先だろ」
納得いかない、というより、納得したくないといった様子で突っぱねる。
プライドが邪魔しているんだろう。
それほど、バスケットと自分の夢を馬鹿にされた怒りは大きかったということか。
それに対し、堀北が言う。
「私はあなたが嫌いよ須藤くん」
「は!?」
「でも、あなたがバスケットを好きなのは伝わってくる。あなたはバスケットに対してなら全力を出せることも。その集中力を、今回は少し勉強に向けて欲しい」
それは堀北から須藤への、少しだが、明確な歩み寄りだった。罵倒するしかなかった昨日の堀北とは見違えるほどだ。
「……俺は興味ねえ。もう戻るぞ」
しかし、須藤には届かず。そのまま店を出て行こうとした。堀北もそれを止めない。
俺ももう無理か、と思ったとき。
それまでだんまりを貫き通していた綾小路が動いた。
「櫛田、お前もう彼氏できたのか?」
突然の綾小路の質問。櫛田も少し戸惑いながら答える。
「え、今はいないけど……ど、どうして?」
「じゃ、じゃあ、この中間テストで平均50点取ったら、俺とデートしてくださいっ」
そう言うと、キレのある動きで櫛田の前に手を差し出す。
その様子を見て、池も山内もすかさず反応した。
「な!? じゃ、じゃあ俺は51点取るから俺と行ってくれ櫛田ちゃん!」
「な、なら俺は52点だ!」
この2人は天然でやってるだろう。綾小路の狙いに気づいたとは考えにくい。
俺もこの流れに乗っておこうと思う。
「じゃあ、俺は53で……」
「「お前は満点取れ!」」
「無茶言うなよ……」
池と山内から思いっきり突っ込まれる。だが、満点取っても櫛田とデートすることはないから大丈夫だ。
「え、えと、私、テストの点数で人を判断したりしないよ?」
「でも、モチベーションの向上にも繋がると思うんだよ。頑張った後のご褒美みたいなもんで」
綾小路がそう言うと、櫛田も綾小路のやりたいことが分かったらしい。
「じゃ、じゃあ、一番点数が高い人と、っていうなら……目標のために頑張れる人って、かっこいいと思うな」
「「うおっしゃああー!!」」
「見とけよ速野!負けねえからな!」
「お、おう、頑張ってくれ……」
池の気合いに気圧されながらも、激励しておいた。
そうして、視線は残りの1人、須藤に集まる。
「……デートか、悪くねえ。俺も参加してやる」
綾小路がやったのは、須藤が参加しやすいようにするきっかけづくり。
結果、須藤も折れて参加が決定した。
「覚えておくことにするわ。男子は単純で馬鹿だと言うことを」
こうして、一度完全崩壊した勉強会の改修工事が終了し、再び機能することとなった。
最後のセリフは、堀北なりに考えた須藤を迎え入れるためのものだと信じたいが……多分9割9分本音だよなあ……
いよいよ終盤になってまいりました。評価、感想お待ちしております。