実力至上主義の学校に数人追加したらどうなるのか。※1年生編完結 作:2100
では、どうぞ。
生徒会長が近づいてくる。
走って逃げることも考えたが、それでは見つかるのは必至だ。
だから、俺は敢えて逃げず、迎え入れることにした。
足音が近づく。
街灯に照らされ、伸びた影が俺の真横に来ると同時に、俺は声を発した。
「……どうも」
その声に反応し、生徒会長は立ち止まった。
「お前は……あの時、トイレでハンカチを忘れた奴だな」
「覚えてるんですね……」
「俺は一度見た人間のことは忘れない」
すごい記憶能力をお持ちで……
「そのご時世はお世話になりました……」
「そんなことはどうでもいい。ここで何をしている」
「ただの散歩。通りすがりですよ」
そう答える。
すると次の瞬間、先ほどと同じような、ものすごい速さの正拳が俺の顔面に迫って来る。
「っ……」
その拳は、俺の鼻の前で止まる。
俺は避けなかった。
「……なぜ避けない?」
「俺は綾小路みたいに殴り合いの喧嘩はできませんから。……それに、避けない方が色々と都合がいいですし」
「どういう意味だ」
「いえ、特には。ただ……この学校が、恐らく最大の信頼を置く生徒会、その長も、監視カメラがなければあそこまで暴力的になるんですね。驚きました」
通常はあって、この空間にないもの。それは監視カメラの存在だ。
つまり、学校側の監視の死角。何をしてもバレない。
「この件を学校に報告するか?」
「そんな面倒なことはしない、いえ、したくないんですけどね……俺が何言っても、具体的な証拠を示せと言われるだけですし。綾小路や堀北が証言しても外傷はない……噂だけ流してあなたの信用を落とすことは出来るかもしれないけど、それでは俺は得しませんからね」
「その通りだ。そして、人の噂は七十五日。お前が具体的な証拠を見せなければ、その噂はすぐに収束するだろう。要するに徒労に終わるということだ」
「ええ、分かってますよ。……それが本当にただの噂なら、ですが」
「何が言いたい?」
「あなたの言う具体的な証拠……それがもしあったら?」
言いながら俺は、ポケットにしまっておいた学生証を取り出す。
「もう少し明確に言うと……例えばさっきの現場が撮影、録音でもされていたら?」
学生証端末を操作し、俺は撮影していた動画を流す。
『お前には上に行く資格も実力もない。それを知れ』
「それをどうするつもりだ」
「これ、お互い怪我してないだけで、あなたは暴力振るっちゃってますしね。停学、いえ、生徒会に置かれている信頼と、『生半可な気持ちで立候補すると、この学校に汚点を残す』というあなたのセリフを加味すると、Aクラスの特権剥奪や、退学、なんて事態もあり得ない話ではないんじゃないですかね」
信頼度が高い分、それを裏切った罪は重い。
会長は落ち着いた表情を作り、答える。
「お前が言っていたように、ここには監視カメラがない。つまり如何様にも出来るということだ」
要約すると、力づくで奪うこともできる、ってことか……
「……実力行使をするなら、俺は無抵抗に受け入れ、俺自身があなたの暴力の証拠になるだけです」
俺に生徒会長に応戦する力はない。武道の心得があるわけでもないし、喧嘩慣れもしていない。
だが今の一言で、会長は俺に攻撃できなくなった。
「もしそれをしても、お前に得はないぞ」
「もちろん、その通りです。問題にして、生徒会や3年Aクラスがどうなろうと俺には関係ないし……しかし、あなたはそれをされると困る。違いますか?」
「困らない、と言ったら?」
「いや、実際に困るはずです。もしあなたがこの暴力を生徒会長の肩書きを利用して隠蔽したら、嘘に嘘を重ねることになり、バッドトリップにはまる」
嘘を隠すには、それとはまた別のもう一つの嘘が必要になる。
処分の重さの詳しい基準は知らないが、嘘を重ねれば重ねるほど、発覚した時に下る処分は大きくなるだろう。
「これを手札に持ったまま、というのも一つの策ではありますが……一応会長には恩がありますから、あまり長引かせたくはない。でも、ハンカチ一枚と校内暴力ではわけが違う」
ここでトイレでの一件を出し、逃げ道を塞ぐ。
「なので会長。取引しましょう」
会長に提案する。
その言葉を聞いた会長は、少し間を置いてから答えた。
「取引の内容を提示しろ」
「分かりました。難しいことではありませんよ。今この場で……そうですね、70000、いえ、恩を考えて、少し値下げして60000ポイントを払うなら、俺はあなたが見ている前で、この端末にある映像を削除します」
恩を感じているのは本当のことだ。会長はAクラス。60000ポイントなんてはした金だろう。
「一つ確認しておく。その映像はいつ、何時も誰にも公開しない、そう誓えるか?」
「ええ、もちろん」
俺の言葉が信用に値するものだったのか、それは知らないが、要求通り、俺の端末に60000ポイントを譲渡した。
「これで言質と証拠は取らせてもらった」
「……は?」
会長はそういうと、端末を俺に見せ、画面をタッチする。
『60000ポイントを払うなら、俺はあなたが見ている前で……』
俺の声は録音されていた。
まずい。
「お前は誰かにその映像を送っているだろう。もしそうなら、お前の端末に残っていなくても、その誰かの端末にデータは残る。必要になったらその人物から改めてデータを得る。お前はその行為自体に問題はないと踏んだんだろうが……俺にそれがバレた時点でお前はアウトだ。誰にも公開しないと誓えるか、と俺が言ったタイミングで、すでに誰かに公開していたなら、お前はそれを告げなければならない。これは詐欺行為だ」
「……」
やられた。相手の話している文面をもっと注意して聞くべきだった。
これで実質同点、いや、逆転されたと見るべきだ。
まさか相手から俺に校則違反をさせるように仕向けられるとは。
「はは……」
「その笑みは何を表す?」
「……いえ、してやられました。こっちの作戦がこんな簡単に見破られるとは思わなかったです」
「お前の作戦が未熟だった、それだけだ」
そりゃそうだ。こういうバッサリと切るところは兄妹で似てるんだな……
「速野知幸。お前は詰めが甘い。お前の入学学力試験の成績は5教科総合で498点。入試は首席で突破している。これは近年で最も高い点数だ。誇ってもいい。だが、落とした2点は数学の基本問題1問。資料によれば数学が最も得意のはずだが、お前は実力を過信し、最後の確認を怠った。その詰めの甘さは、いずれお前に致命傷を負わせることになるだろう」
「ご丁寧にどうも……俺の個人情報は会長に筒抜けですか」
「そうでもない。俺は教師から話を聞かされただけだ。今年は面白い生徒が数人いる、とな」
「……?」
一瞬、ほんの一瞬会長が笑った気がしたが、すぐに無表情に戻り、こう言った。
「……俺を失望させるなよ」
「……!」
ゾクッ。
蛇に睨まれた蛙とは、まさに今、俺のことを表しているのだろう。
会長はすでに立ち去った。
やっぱり、この学校の生徒の頂点に立つ人間は、強い。
今の俺じゃ到底追いつけない。
いや、一生かかっても追いつけるかどうか。
結局俺がこの場所から立ち去ったのは、あの衝撃的な光景から十分ほど経った後のことだった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
しかも脅した結果脅し返されてるっていうね。俺としては60000ポイントのプラスだから形的には勝ちでいいのだが、いらないリスクを背負ってしまったせいでお互いが弱みを握りあう形となってしまった。
因みに俺があの映像を送った相手は堀北だ。あいつ自身も言ってたように、パスワードを設定してファイル自体は開けないようにしてある。元から可能性は高くないが、そうすればこいつが他者に送る可能性がもっと低くなると考えたからだ。開くことが不可能な不気味なファイルを送ろうとは思わないだろう。その前にこいつに送る相手がいるのか謎だが。
送信先は藤野でもよかったんだが、数学の解説を送った後だったから送信履歴の一番上に堀北がいて、それを押してしまった、というわけだ。
ブスッ
「たぁぁぁう!!」
突然腕に激痛が走り、教室内で奇声をあげてしまった。
「おい、今刺したなお前……」
コンパス攻撃で有名な堀北を睨みつける。
「綾小路くんとは違って利き手ではない場所よ。感謝しなさい」
「感謝する要素なんてどこにもねえだろうが!ああいてえ……」
綾小路……コンパスで刺されるのってこんなに痛いんだな……しかもお前利き手だったもんな……改めて同情するぞ……
「あなたが呼びかけにも応じずボーッとしているからでしょう。そろそろ図書館に移動しないと間に合わないわ。早くして」
「わ、わかった……」
だからってそこまでする……?
速野は裏でこんなことをしてました。一応あちらこちら伏線は張ってたんですが、この件に関しては多分全部回収し切れたんじゃないかと。
次回から原作二巻分に入ります。また、どこかのタイミングで速野と藤野の高度育成高等学校学生データベースも書こうと思います。
では、次回もお楽しみください。
感想、コメントお待ちしております。