実力至上主義の学校に数人追加したらどうなるのか。※1年生編完結   作:2100

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今回もボリューム満点の割に内容は原作とほぼ被っています。
ただ、少しはオリジナル要素入れました。丸10個を満点とすると、丸3個、つまり○○○オリジナルってことです。なんか卑猥ですね。
では、どうぞ。


ep.15

 

 7月に入って数日。日に日に暑さが増していく今日この頃。

 高度育成高等学校の校舎内は、殆どの箇所で空調が効いており、授業中は暑さを感じることはない。

 外界の気温を肌でひしひしと感じるのは登下校の時間だ。

 学校へ向かう道のり、比較的汗をかきやすい体質である俺は、持参しているハンカチで何度も汗を拭きながら歩いていた。絶対後で臭くなるパターンだよこれ。

 

「あ、あのっ……」

 

 突然声が聞こえて振り向くと、そこにはオドオドした佐倉が立っていた。

 

「佐倉……どうしたんだ?」

「え、えと、その、お、おお、おはようございませっ」

 

 変なところで噛むなよ。いらっしゃいませと混ざってるぞ。

 

「……おはよう」

 

 噛んだところには突っ込まず、一応俺も挨拶を返す。

 焦り具合がバスケットコートの時よりひどい気がする。暑さでおかしくなったのか?

 

「どうしたんだ。俺になんか用か?」

 

 聞くと、佐倉の身体がビクッと跳ねた。

 挙動不審すぎる……

 ひとまず歩きながら、佐倉の言葉を待つこと数分。

 カップラーメンが一個できるくらいの時間が経ち、ようやく佐倉は口を開いた。

 

「あ、あの、実は、わ、私……」

「……」

「その、す、すうう……」

「……吸う?」

「す、すす、すど……」

「……すど?」

「す、素通りできない性格でっ! こえ、かけたんですけど……」

「そ、そうなんですね……」

 

 あまりにも不可解な佐倉の態度に、俺はそう頷くしかなかった。

 だが!普段の佐倉なら絶対俺のことなんてスルーしてるはずだ。

 佐倉の言いたいことが分からない。

 

「で、ではっ!」

 

 そう言うと、佐倉は小走りで先に行ってしまった。

 

「……佐倉は何がしたかったんだ?」

 

 わけのわからない佐倉の振舞いに呆然としていると、肩をちょんちょんと触られた。

 

「ん?」

「おはよ、登校中に会うの初めてだね」

 

 後ろに立っていたのは、先ほどの佐倉とは真逆の、明るい雰囲気を放つ藤野だった。

 

「ああ、おはよう」

「さっきの子、同じクラス?」

「ん、ああ。俺と同じでコミュ力がない子でな」

 

 なんなら俺よりもひどいかもしれない。

 俺も初対面の人に対してはかなり挙動不審になってしまうこともあるが、2回目以降なら多少和らぐはずだ。

 

「私思うんだけどさ。速野くんって会話の力がないってわけじゃないんじゃないかな」

「は?」

「なんていうか、会話っていうより、協調性がないんだよ、多分」

「それどう違うんだ……?」

「だってほら、私とはちゃんと話せてるでしょ?でも、周りに合わせて、っていうのはできなさそうだもん」

「……なるほど」

 

 いや、まあバッチリメンタルにダメージは来てるんだが、確かにその通りだと納得してしまう。

 俺は自分から話しかけるのはダメだが、人から話しかけられたら基本的には対応する。質の良い対応かどうかはおいといて。

 みんなが「空気を読む」という能力を身につける時期にずっと一人でいたために、その能力がしっかり身につかないままに育ってしまったってことだろう。

 

「ところで、Dクラス、大丈夫?」

 

 大丈夫、というと、十中八九須藤の暴力事件のことだ。

 Aクラスにも、目撃者の挙手要請があったんだろう。

 

「まあ……大変といえば大変だ」

「私にも何か協力できること、ないかな?」

 

 笑顔でそう問う藤野。

 とても嬉しい申し出だ。藤野の顔は広いだろうし、目撃者探しもスムーズに行くだろう。

 だが、少し疑問がある。

 

「お前はDクラス側の証言を信じたのか?俺に協力要請したら、自動的にDクラス側に付くってことになるが」

「主張の信憑性はDクラスの方が高いって思ってるよ。聞いたんだけど、訴えたCクラス側の3人のうちの石崎くんって人、中学ではかなりのワルだったらしくてさ。なのに話を聞くと、3対1なのに一方的にやられたって言ってるらしいし。不自然じゃない?」

 

 初耳の情報だが、それが本当なら確かに不自然だ。

 

「……まあ、確かに。てか、それどこからの情報だ?」

「誰かは忘れちゃったけどね。確認したら本当のことだって」

「そうか……それ、Dクラス側で共有していいか?」

「もちろん。そのための情報提供だしね」

 

 これで、Cクラス側の心証が多少下がるな。どちらが本当か分かっていない今の状況なら、須藤の責任も少し軽くなるだろう。

 

「なあ、聞いていいか?」

「うん。なんでも聞いて」

「訴えたCクラスの3人は、その石崎ってやつと、バスケ部の小宮、近藤だってのは聞いたんだが……あとの2人はどんなやつなんだ?」

「うーん、石崎くん以外の話は聞いたことないな……ちょっと友達にも聞いてみるけど、あんまり期待しない方がいいかも。何かわかったら連絡するね」

「頼む」

 

 連絡、という単語で少し思い出した。

 今の俺の端末の連絡先の数は大変なことになっている。

 その数、なんと!

 

 7人!!

 

 ちなみに勉強会メンバー+藤野だ。祝勝会の時に櫛田に言われ、流れで全員と交換した。え、少ないって?うるせ、簡単に交換できるようなコミュ力持ってたら苦労してねえよ……多分。

 

 校舎内に入り、DクラスとAクラスの教室への分かれ道。

 

「じゃあ、頑張ってね」

「ああ。情報ありがとうな」

「うん」

 

 藤野は手を振りながら、廊下をまっすぐ歩いて行った。

 

 

 

 

 

 

 

「なんで俺最初からAクラスじゃなかったんだ……」

「Aクラスの人たちって、今頃夢みたいな生活してるんだろうなー……」

 

 目撃者の情報交換から無い物ねだりに変わっていたDクラス教室内。どこで方向転換しちゃったのかね……

 

「一瞬でAクラスに行ける裏技でもあればいいんだけどなー」

「喜べ池、一瞬でAクラスに行ける方法は一つだけある」

 

 池のつぶやきに答えたのは、教室前方の入り口の茶柱先生の声だった。

 

「またまた、嘘でしょ先生ー」

 

 池は冗談半分に受け取ったようだ。

 

「本当だ。この学校にはそう言った特殊な方法も用意されている」

 

 しかし、先生の様子に冗談めかした様子はない。

 

「え……じゃあ何なんですか、その方法って……」

 

 山内が問う。教室内の注目も、みんな茶柱先生に向いていた。俺も知っておいて損はないと思い、耳を傾ける。

 

「入学式の日、お前らに説明しただろう。この学校にはポイントで買えないものはない、と。つまり、ポイントを支払えば強引にクラスを変えられるということだ」

 

 そう言うと、茶柱先生は教室の角に座る俺、綾小路、堀北を見た。

 俺は買えないものはない、から解釈して強引に取引を行なった。

 あの時、俺の点数を売る以外に、須藤の点数を買うことも可能だった。実際どちらが安上がりだったんだろうと考えることもあるが……まあ、今更その件についてあれこれ考えてても仕方ないか。

 

「何ポイント貯めたらそんなことできるんすか!?」

「2000万ポイントだ。それを用意すれば、好きなクラスに上がることができる」

「に、にせんまんって……無理に決まってるじゃないですか……」

 

 池が崩れ落ちる。まあ、今月の8700ポイントを必死に守ろうとしてる俺らには、ちょっと現実離れしすぎてるな。

 

「確かに通常は無理だ。だが、無条件で好きなクラスに行けるんだ。それくらいは当然だろう。もしも現実的な額になったら卒業前には全員がAクラスだ。そんなものに価値はない」

「じゃあ先生、前にそれでAクラスに行ったやつとかいるんすか?」

「残念ながら過去にはいない。さっきも言ったように、通常では不可能な額だ。もしも三年間、クラスポイントを1000のままキープしても、卒業までにもらえるのは360万。効率的にポイントを伸ばしても500万には届かないだろうからな。だが、システムが存在している以上不可能なことではない」

「そんなの不可能とほぼ同じじゃないっすか……」

「だが、禁止はされていない。これは非常に大きな違いだ」

 

 段々、この学校の決まりの性格がわかってきた。ここの校則はネガティブリスト。物事を常識で測らず、どれだけ頭を使って発想できるかが鍵になってくる。

 だが、教室内はこの話に関してほとんど興味を失っていた。理由はさっきも言った通り、現実離れしすぎているからだろう。

 

「先生、私からも質問よろしいでしょうか」

 

 挙手したのは堀北。こいつも最近はよく質問するようになっていた。

 

「過去、最高でどれほどのポイントを貯めた生徒がいたのか、参考例としてお聞かせ願います」

「いい質問だ。数年前、確かBクラスの生徒だったと思うが、1200万ポイントを貯めた生徒がいたな」

「せ、せんにひゃく!?」

「まあ、結局ポイントを貯め切らないまま退学になったがな。そいつはポイントを集めるため、入学したての1年生に詐欺行為を働いたんだ。着眼点は悪くなかったが、ルール違反だ」

 

 なるほど。入学したてなら騙されてもおかしくないな。てか、知識の浅い生徒を騙してたって言うならこの学校もそこまで変わらないと思うんだけど。

 

「どうやら、大人しくクラスポイントで上を目指す他なさそうね」

 

 質問した本人である堀北も興味をなくしたようだ。

 

「……そうか。お前らの中に、まだ部活でポイントを獲得した生徒はいなかったな」

「は?なんすかそれ」

 

 初耳の情報だ。

 

「コンクールでも、優秀な成績を修めると景品がもらえる場合があるだろう。それと同じことだ。部活で活躍した者には、その具合に応じてポイントが入る。恐らくこのクラス以外では既に伝達されているはずだ」

「そ、そんな酷いっすよ!なんで言ってくれなかったんすか!?」

「言っていたら部活に入っていたとでも言うつもりか?そんな気持ちで入った者に、ポイントが入るほどの活躍ができるか?そもそも、部活はポイントのためにやるものじゃない。このことをいつ知っても、さして問題はないはずだ」

「それは、そうかもしれないっすけど、分からないじゃないっすか!」

 

 これもまた、伝達忘れか?俺らはまだまだ甘かったみたいだな……

 

「堀北。須藤を救う価値、少しは出てきたんじゃないか?」

 

 俺が呼びかけられたわけではないが、綾小路の声に反応して後ろを向く。

 

「須藤がバスケ部のレギュラーになりそうだって話は聞いただろ?」

「あれ、本当の話だったのね……」

 

 どうやら堀北は軽い冗談だと思って聞いていたらしい。

 

「まあ、ポイントは大いに越したことはないからな。あればあるほど行動の幅が増す」

「協力しろとは言わないが、須藤の存在も認めてやる必要があるかもな」

 

 俺に続いて綾小路が言うと、その言葉を聞いた堀北は少し考えるような仕草を見せていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その放課後、俺は堀北の机の前に立った。

 

「堀北。一つ確認するぞ」

「何。私はもう帰るけれど」

 

 言葉通り、堀北は既に帰り支度を済ませていた。

 

「俺が昨日言った、お前が演説中に見てたって言う人物……佐倉なんじゃないか?」

 

 手間を取らせては不機嫌になるだろうと考え、声を潜めながらも単刀直入にそう聞いた。

 

「……どうしてそう思うの?」

「実は今日の朝、佐倉に声をかけられた。挙動不審で『すど、すど……』って言ってたんだよ。佐倉が須藤って言いたかったんなら、あいつが目撃者の可能性もあるだろ。もしそうだとしたら、佐倉の動きに不自然さが現れてもおかしくないし、それがお前の目に入ったんだとしたら、一本筋が通るだろ。佐倉の席はちょうどお前が見てた方向だったしな」

 

 俺の席からは、他のやつに隠れて席に座る佐倉を視界に捉えることができない。だから堀北の視線の先に何があるのか分からなかったのだ。

 根拠を説明し終わると、堀北は観念したように話し始めた。

 

「……認めるしかなさそうね。あなたの言う通り、私は佐倉さんを見ていたわ。彼女、櫛田さんの説明のときに話に集中するでもなく、興味なさそうにするでもなく、ただ目を伏せたのよ。自分に無関係なら、あんな態度は取らないはずよ」

「……なるほどな。それ、本人に確認はとったのか?」

「しているわけないでしょう」

「まあそうだよな」

 

 堀北はこの件に関して非協力的だ。今、俺の予測に対して反応を見せたのも実は意外だったりする。今朝の先生の話と綾小路の言葉を聞いて、少し考え方が変わったんだろうか。

 

「……実は、今から確認を取ろうとしていたところよ。一緒に来てくれる?あなたの話によれば、彼女は何故かあなたには伝えようとしていたようだし、話してもらいやすくなるかもしれないわ」

「……まあ、別にいいけど」

 

 綾小路に今日の放課後の目撃者探しには参加しない旨を伝え、その後堀北と合流。

 廊下を歩くと、そそくさと帰ろうとする佐倉の背中を見つけ、堀北が呼び止めた。

 

「佐倉さん。少しいいかしら」

 

 突然の堀北の声に、佐倉は身体を跳ねさせる。

 

「えっ?えと、何、かな……?」

「須藤くんの事件のことで、少し聞きたいことがあるわ」

「い、いや、その、わ、私、用事がっ」

「手間は取らせないわ。この件に関して何か知っていることがあれば、話してもらえる?」

「あ、わ、私は、本当に何も見てないんですっ!」

 

 佐倉はそう言って、朝と同じように逃げ出してしまった。

 

「……お前、警察の取り調べかよ。めっちゃビビられてたぞ」

「単刀直入に聞いただけよ。それに、あなたも役に立たなかったでしょう」

「まあそうだけど……」

 

 ただ、俺が質問しても大して結果は変わらなかったような気がする。一度言おうとして自分からやめてしまったし、そもそも、俺に言おうとしてたってのも俺の勝手な想像だしな。

 

「けれど……あの反応と受け答えからして、佐倉さんが目撃者だということは間違いなさそうね」

「……そうだな」

 

 佐倉の対応には、挙動不審だったこと以外にも妙な部分があった。

 

「何か知っていることを話してくれ、って頼んだのに、何も見てないって答えるのは不自然だからな」

「ええ。彼女は墓穴を掘ってしまった、ということね」

 

 気の毒そうに堀北が言う。まあ、佐倉は話す気なさそうだったのに俺らに勝手に目撃者認定されてるしな。

 

「それから、身近に目撃者がいたというのは……果たして、手放しで喜んでいいことかしら」

 

 堀北の言う通り、あまり喜ばしいことではない。証言だけの場合、内輪では比較的話が聞きやすい分、他クラスから見ると、同じクラスをかばうための嘘だとも捉えられやすく、信憑性が低くなってしまう。

 物証があれば話は変わってくるが……仮にあったとして、佐倉が協力してくれるかどうか。本人がその気にならないなら、俺は強く頼むことはできない。

 何かきっかけでもあれば、佐倉も話す気になってくれるだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 その後、今回の件について色々堀北と言い合いながら寮に戻った。

 エレベーターに乗り、俺は自分の部屋の階のボタンを押す。

 そして堀北は、何故か四階のボタンを押していた。

 

「お前どこ行く気だ?」

「綾小路くんの部屋よ。あなたの言う通り、彼には話を通しておくことにするわ」

「そうか……俺も少し気になることあるし、行くことにする」

「そう。別に気にしないわ。あなたのストーキングなんて」

「前にも言っただろ?お前を好き好んでストーキングする奴なんていないから」

 

 やったらコンパスで眼球刺されそうだし。想像するだけで恐ろしい……

 押した五階のボタンを放置し、四階でエレベーターを降りて綾小路の部屋に向かった。

 時間も遅めだし、もう部屋にいるだろう。

 堀北がインターホンを押すと、当たり前っちゃ当たり前なんだが、予想通り綾小路が出た。

 

「堀北、と速野もか」

「目撃者に関して進展はあったのかしら?」

「いや、まだ何も」

「あなたにだから話すけど、目撃……」

 

 言いかけたところで、堀北の視線が下に向いた。

 靴が5足。いつものメンバーで集まっていたということだ。

 それに気づき、堀北が帰ろうとする。

 

「止まれ堀北」

 

言いながら俺は襟を掴んだ。

 

「うっ」

 

その瞬間首が絞まったのか、苦しそうな声が堀北から漏れた。

 

「……なんかすまん」

「あれ、堀北さんと速野くん?」

 

中から櫛田の呼ぶ声が聞こえる。堀北はそれにうんざりしたような表情を見せた。

 

「上がるしかなさそうだぞ?」

「……そうらしいわね」

 

 玄関で靴を脱ぎ、綾小路の指示通り部屋に入る。

 総勢7人。寮の部屋はこの人数を収容することを想定して作っていないんじゃないだろうか。

 

「お、おう堀北」

 

 まず最初に反応したのが須藤。しかし、隣に俺の姿を捉えるとこっちを敵視するような目で見てきた。いや、その、なんかすいませんね。

 

「もしかして協力してくれるの?歓迎するよ!」

「別にそんなつもりはないわ。目撃者、まだ見つかっていないそうね」

「じゃあ、何しに来たんだ?」

「速野くんが気になることがあるというから、ついて来たのよ」

「おい堀北……」

 

 突然の俺への濡れ衣。まあ確かに気になることがあるって言ったし嘘じゃないんだけど……お前さっき俺のことストーカー扱いしたよな?それでその言い草はなんなんだよ?お?と目だけで訴えておく。

 

「ああ、実はそうなんだ。俺がそのことを言ったら、堀北もどんなプランで行動しているのか気になる、って言ってな」

「ちょっと……」

 

 自業自得だ、堀北。それに目撃者のことを大っぴらに言わなかっただけ感謝しろよ。

 

「でも、それでも嬉しいよ。速野くんは用事、もういいの?」

 

 櫛田に言われて思い出す。そうだ、綾小路には今日用事があるからって言って抜けたんだった。

 

「ああ、もう済ませた」

「そっか。実は今、目撃者を目撃した人を探すのがいいんじゃないか、って話になってたんだ。事件の日、須藤くんじゃなくて、特別棟に入っていった人を見た人を探すの」

 

 なるほど、難易度を一段階下げたか。

 

「悪い手だとは言わないわ。十分な時間をかければ、いずれ実を結ぶんじゃないかしら」

 

 堀北は、暗に時間が足りていないと指摘する。確かタイムリミットは来週の火曜日だったはずだ。それまでにその作戦が功を奏すとは思えないな。

 

「現状は把握できたし、これで失礼するわ」

 

 立ち上がり、俺に睨みをきかせる。いうんじゃねえぞ、ということだろうか。

 

「堀北。お前、何か知ってるんじゃないのか?目撃者のこととか」

 

 しかし、それは綾小路にあっさりバラされてしまった。玄関で言いかけたもんな。仕方ない。

 堀北も観念した様子で、もう一度座った。

 

「……あなたたちに一つ情報をあげるわ。ここで話し合っている期待の薄い作戦より、よっぽどプラスになる情報よ。須藤くんの言っていたかもしれない目撃者。いたかもしれないではなく、実際にいるわ。それもかなり身近にね」

 

 堀北が言うと、全員が全員驚きの表情を見せる。

 

「な、なんだよそれ。目撃者を見つけたってことか!?」

「ええ。あとは彼から聞くといいわ。私は帰るから」

 

え、俺?

 

「お、おいいぎゃっ!!」

「さよなら」

 

 止める間もなく、堀北は部屋を出て行ってしまった。つかなんで俺の足踏んづけてんだ……あれか、さっきの襟掴んだやつの仕返しか?

 

「だ、大丈夫?え、待って。速野くんも知ってるってこと?」

 

 櫛田が言うと、一斉に俺に視線が集まる。注目の視線が痛い……まあ堀北から許可出たし、いいだろ。

 

「あいつが見つけた目撃者は……多分佐倉だ」

「佐倉さんって、同じクラスの……?」

 

 櫛田は分かっているようだが、池や山内は誰そいつという感じだ。

 

「速野、根拠はあるのか?」

 

 綾小路に聞かれる。一応示しておいたほうがいいか。

 

「俺が直接見たわけじゃなくて、堀北が言ってたんだけどな」

 

 そう前置きして、堀北から聞いた通り、同じように説明した。

 

「じゃあ、その名倉が目撃者の可能性が高いのか」

「誰だよ名倉って……可能性が高いじゃなく、多分間違いない。実は放課後、堀北が佐倉に直接聞いたんだ。認めてはいなかったが、反応からして多分、な」

「あ、あいつ、俺のために……」

 

 今まで協力姿勢を見せていなかった堀北が実は動いていたことに、一同感動しているようだ。まあ、俺もはじめびっくりしたよ。

 

「えーっと、これって堀北さんが手助けしてくれた、ってことだよね?」

「本人は否定するだろうが、まあ助けになったのは確かだな」

「なーんだ、堀北ってツンデレだったんだなー」

「それ、本人の前で言ったら殺されると思うぞ池」

 

 にんまりと笑顔を見せる池に釘を刺しておく。さっきの容赦ない攻撃見たろ?未だに踏まれたところ痛えんだけど。

 

「速野くんは、このこと知ってたの?」

 

 櫛田が俺に聞く。

 これはどう答えるべきだろうか。正確にいうと今日の朝だが……

 

「佐倉が目撃者らしいって知ったのは今日が初めてだ」

「なんだそれ。じゃあ他のことは何か知ってたってのか?」

「堀北が何か知ってるかもしれないってのは、さっき言った櫛田が前で話した時から思ってはいた。あいつ、話の途中に一つの方向じっと見てたからな。変だなーとは思ってたんだが、その時堀北が見てたのが佐倉だったってことだ」

 

 今日の朝、と言うとあの佐倉の挙動不審な態度と発言まで言わないといけなくなり、そうするとなんで佐倉が俺には話そうとしたのかってことに話が展開されていく。多分佐倉が俺に伝えようとしたのは……あれ、知り合いっていうなら櫛田でもよくね?なんで俺に……佐倉の容姿のことをしっかり秘密にしたままでいるから、その見返りの情報提供、ってことなのか?

 よく分からないな、佐倉は。てか櫛田って基本的には信頼されてるけど、たまに信頼されきってない人いるよな。藤野も櫛田にはクラスのこと話してなかったっぽいし。

 

「てかさ、佐倉って誰だ?」

「俺もよく覚えてないな……」

「あ、あれだろ、須藤の隣のやつだろ?思い出したぜ」

 

 いや、確か須藤の右斜め前だった気が……

 

「違うよ山内くん……須藤くんの右斜め前だよ」

 

 櫛田は訂正する。よかった、正解だったようだ。

 まあ佐倉は意図的に雰囲気薄くしてるからな。俺は印象が強すぎて覚えていただけで、ここは須藤たちを責めるというより佐倉を褒めるべきだろう。口止めされてるし、言わないけど。

 

「まだ分かんねえな……」

「やたら胸だけでかい子、って言えば分かるか?須藤もなんか言ってたじゃん」

「あー、あの地味メガネ女か」

 

 うわ、ひでえ言い草……

 

「ダメだよそんな覚え方してたら」

 

 櫛田に注意され、池も山内もなんとか誤解を解こうとするが、そもそも誤解じゃないんだよなあ。

 

「速野くん、佐倉さんはどこまで知ってると思う?」

「わからん。今から聞いてもらってもいいか?」

「うーん、多分電話には出てくれないんじゃないかな……」

「今から部屋行った方がいいんじゃね?」

「あんまりお勧めできないな」

 

 多分佐倉はそういうのを嫌がるだろう。行くならせめて櫛田が1人で行った方がいい。

 

「……てか、佐倉ってどんな顔してたっけ?」

 

 池が言う。どうやら本当に胸だけのイメージで覚えていたらしい。普通顔も覚えないか?

 

「あれ、てか山内って確か佐倉に告白されたって言ってなかったか?」

「え?……あ、ああ、なんかそんなこと言ったような」

 

 一瞬驚いたが、どうやら嘘らしい。この虚言癖はなんとかならないのか……

 結局明日、櫛田が1人で佐倉に確認するという方針で決まった。

 

 綾小路の部屋を出てエレベーターホールに着く。上方向に行くのは俺と櫛田だけらしく、他のやつは隣のエレベーターで帰って行った。

 

「あ、ねえ、そう言えば速野くん、気になることがあるって言ってなかった?」

 

 櫛田の指摘で、部屋に入った時のことを思い出す。

 

「ん、ああ、そう言えばそれで綾小路の部屋に行ったんだったな。一つ聞いていいか?」

「うん」

「訴えたCクラスの3人って、石崎、小宮、近藤なんだよな」

「そうだよ。小宮くんと近藤くんは須藤くんと同じバスケ部で、石崎くんは2人の友達」

「その3人についての目撃情報はあったか?」

「あ、そういえばその方向では調べてなかったかも……」

 

 あの場でも話題に上がっていたのは須藤の目撃者か喧嘩の目撃者。訴えた側の話題は上がってなかったな。

 

「その3人の写真あるか?知らなくてな」

「写真?多分あると思うよ。ちょっとまってね……」

 

 櫛田が端末を操作し、写真を表示した画面を開いて俺の隣に来る。近い近い……

 

「これが石崎くんで、これが近藤くん。その左に写ってるのが小宮くんだよ」

 

 ふーん、なるほど……

 

「わかった、ありがとう」

「ううん、また気になることがあったら聞いてね。電話でもいいから」

「そうさせてもらう」

 

 そのやりとりが終わったところで上りのエレベーターが到着し、俺と櫛田はそれに乗り込んだ。




主人公が綾小路たちと連絡先交換するシーンも書こうかと思ったんですが、突っ込む場面がなくて、描写をカットした祝勝会ですでに交換していることにしました。
ハーメルンのよう実ssで一番長かった作品が急に消えてしまいまして、現状今作品が一番文字数が多いことになってしまいました。少し気になりますが、帰還お待ちしております。
原作の大幅コピーという面で私自身も心配なんですが……大丈夫、ですかね……


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