実力至上主義の学校に数人追加したらどうなるのか。※1年生編完結   作:2100

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またまた原作の通りの展開となってしまいましたが、ちょこちょこ主人公が変化を入れてます。
では、どうぞ。


ep.16

 次の日の放課後、俺はホームルーム中に強烈な尿意を感じ、終了と同時にトイレに駆け出した。

 ギリギリでトイレにたどり着き、なんとかセーフ。

 高校生にもなって廊下でジョーというマジで洒落にならない事態は寸前で回避された。

 少し長めのトイレを終え、手を拭きながら教室に戻る。

 佐倉が目撃者かもしれない、という情報は、昨日集まったメンバーのうちでしか共有されていない。

 平田たちは今日も変わらずに目撃者探しするんだろう。気が遠くなるような思いだったが、まあ仕方ないか。

 そう思いながら教室のドアを開けた瞬間、ドンっ、と誰かと正面衝突してしまった。

 

「あっ、悪、い……」

 

 俺は大丈夫だったが、相手の方が倒れてしまったので謝りながら見おろすと、そこには件の人物、佐倉がいた。

 

「あ、い、いえ、こっちこそ、ごめんなさい……」

 

 そう言いつつ、佐倉は素早い手つきで俺の足元に落ちていたデジタルカメラを拾った。

 ぶつかった衝撃で落としてしまったようだ。

 カメラの無事を確認したいようで、電源を入れようとする佐倉だったが、その表情にはみるみるうちに焦りが現れていく。様子が変だ。

 

「どうかしたか……?」

「う、嘘、動かない……」

 

 どうやら、落下障害で壊れてしまったようだ。

 ……ちょっと待て、佐倉の趣味が自分を撮ることってことは、そのカメラ……

 

「わ、悪い佐倉……大丈夫か?」

「は、はやのく……い、いえ、不注意だったのは、私なので……さ、さよなら」

 

 そう言って、落胆した様子でカメラを両手で持って走り去ってしまった。

 やっばー……どうしよう。これ弁償した方がいいのか?いや、でもこういうのって保証効いたりするし……てか、そもそも佐倉の連絡先知らないから実際どうした方がいいのか聞けない……

 不注意だったのはお互い様なので、俺だけが責任を感じろという意見には断固反対させてもらうが、それでも申し訳ないことをしてしまったのは確かだ。

 ため息をつきながら教室に入ると、堀北と須藤の間で険悪な雰囲気が流れていた。

 

「あなたのお友達すら協力する気にはなれないそうよ」

「ったく、なんで俺ばっかこんな目にあうんだ。使えねえ連中だな」

「その言葉がブーメランになってること、自覚して言ってるのかしら?」

 

 俺が用を足してる間に何が起こったんだ……てか、今といい、入学初日の自己紹介の時といい、俺って割と重要な時にトイレにいるよな。何だろう、この嬉しくもない不思議な縁。

 教室内の雰囲気が少し悪く、今日は帰ろう、と思って荷物を取りに行こうとした時だ。

 

「君は退学しておいた方がよかったんじゃないか?君の存在は、もはや醜いと言ってもいい。レッドヘアー君」

 

 その声の主は、人に変なカタカナ語をつけて語る癖があり、ポテンシャルは計り知れず、クラスでも一際目立っている男、高円寺だった。

 

「あ?もう一回言ってみろクソが!」

「同じことを繰り返すなんてナンセンスだ。君は理解力が足りていないようだねえ」

 

 手鏡を見て髪型を整えながら、須藤の方など向かずに独り言のように言う高円寺に態度に、須藤も切れていた。

 ガンッ、と須藤が強く机を蹴り、それまで少しは茶化すような雰囲気があった教室だが、今のでそれが消えた。帰りたい……でも、動き出せない。

 

「そこまでだよ、2人とも」

 

 勃発しそうになった喧嘩を未然に止めたのは、クラスのリーダー、平田だった。

 助かった。この2人の喧嘩が始まったら、多分生徒会長か……綾小路くらいしか止められる奴いないだろうからな。

 

「私は産まれてから、間違っていることも悪いと思うこともしたことがないのでね。君たちの勘違いだ」

「上等だ。全身の骨へし折ってから土下座させてやる」

「も、もうやめてよ2人とも!友達同士が喧嘩するの、私もう見たくないよ……」

 

 懇願するような顔で2人の間に入ったのは櫛田だ。

 今日は一際険悪な雰囲気が流れる教室だが、Dクラスのシステムは正常だ。

 喧嘩が勃発しそうになる→まず平田が止めようとする→それでも止まりそうになければ櫛田が止める→なんとか鎮まる。こういう流れは今までも複数回あったことだ。

 まあ、こんなシステムが完成してるからこそ、Dクラスのまとまりのなさを日々感じるんだが……俺もはみ出し者でした。えへ。

 平田と櫛田に説得され、須藤は高円寺を睨みつけながら教室を出て行った。高円寺の方も、デートの時間だ何だと言って出て行ってしまった。

 ふーん……やっぱ須藤のキレやすさは相当だな。

 

「……私、頑張って佐倉さんを説得する。もし佐倉さんが証言してくれたら、この悪い流れも変わるかもしれないから」

「そうかしら。佐倉さんが証人として出てきたとしても、学校側はそれを素直には受け取らないでしょうね」

 

 櫛田の言葉に堀北が反論する。以前堀北が言っていた、佐倉が証人で手放しで喜べない理由はこれだ。

 

「じゃあ、どんな証拠なら確実なのかな……」

「奇跡を願うなら、関係しているクラス以外で事件の一部始終を目撃していて、尚且つ信頼度の高い生徒が証人なら期待できるかも知れないけれど、そんな人いないわ」

「じゃあ、どうやっても須藤くんの無実を証明するのは……」

 

 櫛田も希望を失いかけていた。

 しかし、その時。

 

「今回の事件、教室で起こったとかだったら、すぐにでも片付いてたかも知れないのにな」

 

 突然、綾小路がそんなことを言い出した。

 

「え、どういうこと?」

「ほら、教室にはカメラが設置されてるだろ。これなら、どっちが嘘をついてるかなんて一発だと思うんだけどな」

 

 確かに、教室の他にも校内にはいたる所に監視カメラが仕掛けられている。恐らく、生徒を監視してポイント変動の参考にするため。

 もちろん、プライバシーなどに配慮してつけられていない箇所はあるが、基本的に教室には全てつけられているだろう。コンビニにもあった。

 

「私、全然気づかなかった……」

「お、俺も……」

「案外気づかないものね。私も始めの1ヶ月は全く気づかなかったから」

「まあ、普通の人間はカメラの有無なんて気にしないからな。いつも使ってるコンビニの前にもカメラあること、気づいてないだろ?」

 

 お、おう、俺今綾小路に普通の人間ではない認定されちまったんだけど……まあ、仕方ないか。カメラの位置把握してる人なんて、やましい考えがある人か、よっぽど神経質な人か、偶然目にして覚えていた人か。この三つに大別される。

 

 ……さて、お前はどっちのパターンなんだろうな、綾小路。

 

 そう思いながら、俺は横目に綾小路の顔を見た。

 

「綾小路くん、一緒に帰らない?」

「……」

 

 綾小路は堀北のその誘いを聞いた瞬間、堀北の額にそっと手を当てた。

 あれ、なんか前もこんなことあった気が……ああ、あれは堀北が逆に綾小路に手を当ててたのか。

 

「……言っておくけど、熱はないわよ?少し聞きたいことがあるの」

「まあ別にいいけど……」

「なあ、やっぱお前らデキてんじゃねえの?須藤なんてこの前、肩触っただけで殺されそうになってたのに……」

 

 池は疑いの目で2人を見る。

 

「……手、どけてもらえるかしら?」

「あ、ああ、悪い」

 

 謝りながら綾小路は手をどけた。

 

「帰る前に、ちょっと寄り道していいか?」

「長くならないならね」

「10分くらいだ。それと、速野も連れてっていいか?」

 

 うん?俺?

 

「……別に、構わないわ」

「悪いな」

 

 なーんでそんな不満顔なんですかねえ、堀北さん……

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 結局俺も、綾小路と堀北のコンビについて行くことになった。

 綾小路が寄りたいと言った場所は、5階の特別棟。須藤の暴力事件が起こった場所だ。

 

「暑いな、ここ」

「そうだな」

 

 この特別棟に近づくにつれ、人は疎ら。この場所の周辺に差し掛かってから、俺ら3人は1人の人間ともすれ違わなかった。

 これは、真相が明らかになってなくても不思議じゃないな。

 

「悪いな。こんな場所に連れてきて」

「あなた、これ以上何をしようとしてるの?目撃者もわかって、それでも打つ手がないことは分かったはずよ」

「ま、須藤は初めて出来た友達だからな」

「何だそれ。お前やっぱり事なかれ主義じゃないだろ」

「俺が1人でここに来たのは、櫛田とか、平田とかとグループで行動するのが苦手だからだ。事なかれ主義らしいだろ?」

「それ、矛盾してるわよ」

「人間なんてそんなもんだろ」

 

 なんかちょっと壮大な話になってきたな……なんで須藤の事件から人間の本質まで話題が移っていったんだ?

 

「まあ、綾小路くんの考え方なんて私には関係ないし、干渉するつもりもない。それに、集団行動と彼らを嫌う姿勢には近しいものを感じるわ」

「俺は苦手なだけであって、嫌いとは言ってないぞ?」

「似たようなものよ」

 

 苦手と嫌いの違いなんて考えるだけ無駄だと思うが、強さ的には苦手の方がマイルドな言い方ではあるな。

 

「……ここにはなかったわね。残念だわ」

「?ないって何がだ?」

「監視カメラよ」

「ああ、そう言えばそうだな。そんなものがあれば、確かに真相は一発だな」

 

 堀北も綾小路も周りを見渡しているが、それらしきものは見当たらない。

 

「なんか、一応コンセントはついてるみたいだな。元々ついてたとか?」

「そうかもしれないな」

「ただ、付いてたとしても大分前だな。もし最近まで付いていたとしたら、円形の日焼け跡が残っているはずだ」

 

 それこそ、この学校が始まった直後くらいに。まあ、設計上コンセントだけつけておいて、監視カメラは元々なかったっていう可能性の方が高いが。

 

「そもそもこの校舎、廊下にはカメラ付いてなかったよな?」

「ええ。それと更衣室やトイレの周辺にも付いてないわ」

「だな。あとは大体ついてると思う」

「一応、校舎の外にもいくつかついてるぞ。綾小路が教室で言ったコンビニ前もそうだし、通学路にも、寮の周辺にもな。一部を除いて」

 

 一部を除いて、という俺の言葉を聞いた瞬間、堀北の雰囲気が少しだけ変わったのを感じ取った。

 寮の周辺の監視カメラが付いてない一部。そこは、綾小路が自身のスペックの片鱗を初めて見せた場所でもあり、俺が生徒会長に敗北した場所でもある。

 

「……まあ、今更残念がることでもないかもな。そもそもカメラがあるんなら、学校側はこの事件を問題にもしてないだろうし」

 

 てか、須藤にしてもCクラスにしても、監視カメラがあるんならこんなことしないよな。

 

「それで、須藤くんを救う手立ては思いついた?」

「そんなわけないだろ。それを考えるのは堀北と速野の仕事だ」

「ちょっと待て。いつから俺がそんな役割になった?」

「……違ったのか?」

「いや逆に違わないのか?」

 

 少なくとも俺はそんな職業に就いた覚えはない。

 

「それにあれだ。堀北も俺がいたら邪魔になるだろ。1人の方が考えやすいんじゃないか?」

「ええ、それは間違いないわね」

 

 知ってたけど、バッサリ切られるとこうも心が痛むんだな……

 

「須藤を救って欲しいとは言わないが、Dクラスがいい方向に転ぶ手助けをして欲しい」

「私を利用しようと?」

「佐倉が目撃者ってことで、逆に状況が悪化する可能性もある。手を考えておいて損はないはずだ」

 

 どうやら、今回の件に関して綾小路は堀北の考えに少し近いらしい。須藤を救うこととDクラスのプラスになることとを別で考えている。だから、綾小路は須藤の無実を証明するのを手伝ってくれ、とは言わなかった。

てか、無実の証明なんて気軽に口にしてるが、これは所謂悪魔の証明で、ないことを証明するのは不可能。教室で櫛田が沈んだ表情で「どうやっても須藤くんの無実を証明するのは……」と呟いていたが、元々そんなことは不可能なんだ。

 俺らが証明できるのは、Cクラスか須藤、どちらかが嘘をついていること、矛盾を発見することだ。

 ただ、ここにいても何も得るものはなさそうだった。何か事件に関する映像でも残ってればよかったんだが……俺の周辺で、そんなの持ってる奴とかいないよな。そんな奇跡期待するだけ無駄だ。てかそもそも、俺の周辺にいる人の数の少なさと言ったらもう……

 ここにいてもこれ以上得るものはないと判断し、綾小路も堀北も戻るようだ。

俺がそれまで立っていた場所的に、俺が先頭になってしまう。

 角を曲がった時、数十分前と同じように誰かとぶつかってしまった。

 

「っと、悪い」

「あ、いえ、こちらこそ不注意で……」

「あ……」

 

 なんと、ぶつかった相手も、数十分前と同じ佐倉だった。

 

「あーその、悪い……」

「い、いえ、別に……」

 

 佐倉はその後、俺の後ろにクラスメイトの綾小路と堀北がいることに気がついた。すると、少し焦りが見え始める。

 

「え、えと、私、実は写真を撮るのが、しゅ、趣味で……」

 

 ……あ、もうそれ言っていいの?

 

「趣味って、何撮ってるんだ?」

「え?そ、その、外の風景とか、廊下、とか……」

 

 ああ、自撮りっていうのは伏せるのか。

 見ると、佐倉の手には携帯が握られていた。

 なるほど、こんな場所で携帯を操作しながら歩いている不自然さの言い訳として、風景の写真を撮る、とだけ言ったのか。

 考えられているんだか、そうじゃないんだかよく分からない嘘だ。自撮りが趣味だというのを伏せるのはいい考えだが、そもそも多くの人はどこで携帯をいじってても気に留めないし、自分からその理由の説明も始めたりしない。今ので綾小路と堀北の佐倉への疑惑度は上昇しただろう。

 

「佐倉さん、少し聞いてもいいかしら」

 

 堀北の質問に、後ずさりする佐倉。綾小路は堀北を手で制した。

 

「さ、さよならっ」

 

 小走りで逃げかえろうとする佐倉。その背中に、綾小路が声をかけた。

 

「佐倉、お前が目撃者だとしても、無理する必要はないからな。詰め寄られたらいつでも言ってくれ」

「わ、私本当に何も見てないから……ひ、人違い、だよ……」

 

 あくまで佐倉は目撃者だということを否認する、か。まあ確かに、俺と堀北が佐倉を目撃者だと断定しているのも、根拠は状況証拠だけだしな。

 

「あれで良かったの?」

「本人が違うって言ってるんだ。無理強いするのは違うだろ。それに堀北も、Dクラスの証人は証拠として弱いって言ってたよな」

「まあ、そうだけれど」

 

 果たして、綾小路の言ってることが本心かどうか。本心なら、なんであの場面で声をかけたのか。無理強いするなということは、イコールそっとしておいた方がいい、ということのはずなのに。それに綾小路は、詰め寄られたら自分に相談してくれ、とまで宣った。

 深読みしすぎかもしれないが、綾小路の本心がどこにあるのかが全く分からない。

 

「ねえ君たち、そこで何してるの?」

 

 思考のドツボにはまりそうだった俺の頭を抜け出させてくれた声に振り向くと、そこにはどっかで見覚えのある女子生徒が立っていた。

 あー……確かあれは2ヶ月くらい前、中間テストの赤点組救済勉強会中、図書室で喧嘩騒ぎが起きそうだった時に誰よりも勇敢に間に入ってそれを止めた、のがこいつだったっけ。その時、Cクラスの山脇だったかに一之瀬、と呼ばれていたはずだ。

 俺は苗字以外何も知らないが、確かあの時、こいつは俺のこと知ってる風だったような……

 

「私たちに何か用?」

「用っていうか……何してるのか気になるなーって」

「別に、うろうろしてたらここにたどり着いたんだ」

 

 綾小路のちょっと苦しい主張。まあ、堀北の圧ってすごいもんな……

 

「なんとなく、ね。3人とも、Dクラスの生徒だよね?」

「……知ってるのか?」

「君とは直接話したことはないけど、2回くらい会ったよね。そっちの2人も図書館で見た気がする。そしてそのうちの君は速野くん、だよね。結構有名だよ?」

 

 最後に俺のことを指差して言ってきた。

 

「……俺が?」

「ありゃ、これは自覚なしかな?四月に受けた小テストで、満点がDクラスから出たー、って話題だったよ?」

「そんなにか……?」

「確かあのテスト、Aクラスの一位が95点だったはずだから。先生たちもまさか満点が出るなんて思ってなかったと思うよ」

「ふーん」

 

 だから図書館で俺のこと知ってる風だったのか。いやー、一躍有名人だなあ俺。なぜかあんまり嬉しくないけど。

 一方的に知られてるって、少し不気味だな。

 

「でもそっか、なんとなくか。てっきりあの暴力事件について調べてると思ってたんだけど。昨日その件でBクラスに来たみたいだし。ここなんでしょ?事件が起こった場所って」

「仮に私たちの目的がそうだとして、あなたに何か関係ある?」

 

 お前、その言い方だと俺らの目的がそうだって認めてるようなもんだぞ。綾小路もなんかちょっと不満そうな顔してるし。

 

「うーん、関係はない、かな。でも、クラスで事件の概要を聞いて変だなーと思ったから。ちょっとここに来てみたんだけど。……他クラスのことに興味持っちゃいけない?」

「いや、別にそんなことはないが」

 

 綾小路の言う通り、別にダメなことではない。話を聞く限り別に妨害するでもなく、単なる興味本位という感じだし。

 さっきの一之瀬のセリフからおそらく一之瀬はBクラスだと思われるが、Bクラスは他人の事情に首を突っ込む余裕があるということだ。そしてそれは同じく、昨日俺に協力を申し出た藤野にも同じことが言える。

 今まで自分のクラスのことだけで精一杯だったDクラスは、どうやら他クラスの情報戦などにおいては完全に遅れをとっているらしい。

 

「話、聞かせてくれない?私たちは大雑把にしか聞かされてなくて」

 

 綾小路は堀北の様子を伺って、問題ないと判断し一之瀬に事情を説明し始めた。

 説明したのは事件の概要だけ。Dクラスに事件の目撃者がいるかもしれないという情報は伏せていた。賢明な判断だろう。まだみんなが一之瀬という生徒の信頼度が高くない状態で、内部の事情を変にひけらかすのは愚策だ。

 

「へえー、そんなことがあったんだ。初耳だなあ」

「……?」

 

 一之瀬の反応を見て、俺は少し疑問を感じた。

 取り敢えず、一之瀬は聞き上手で優しいやつかもしれない。ただし信用は下がった。あとで質問しよう。

 

「ねえ、それって結構大きい問題じゃない?どっちかが嘘をついてる暴力事件ってことでしょ?」

「だから一応調べに来てたんだ」

「君たちはクラスメイトとして、Dクラス側の……須藤くん、だっけ。の主張を信じてるんだよね?じゃあ、もしもの話だけど、須藤くんが嘘をついてて、その決定的な証拠も出て有罪確定だったらどうするの?」

「その時は、彼に正直に言わせるわ」

「うん、私もそれがいいと思う。嘘をつき続けてもデメリットしかないしね」

 

 もし須藤が嘘をついてるとしたら、か……それは多分ないと思うけどなあ。勝手な推測だが。

 

「情報は与えたわ。もういいかしら?」

 

 堀北は、あまり情報を与えることをよしとしていないらしい。

 

「うーん、あのさ。もしよかったら協力しようか?目撃者探しとか。人出は多くて困らないでしょ?」

「どうして他クラスに手伝ってもらう話になるのかしら?」

「これ、クラスとか関係ないと思うんだよね。クラス間で競わせてるこの学校なら、こういったトラブルはいつ誰に起こるかわからないから。個人的に見逃せないっていうのもあるし、嘘をついてる方を勝たせるわけにはいかないじゃない?それに、DクラスだけじゃなくてBクラスも一緒に立てた証拠っていうことなら、信憑性も上がると思うよ。どっちに有利なものかは分からないけど……でも、悪い提案じゃないと思うけどな」

 

 両方の可能性を指摘した上で、悪い提案じゃないとこちらに言ってくるということは、一之瀬個人としてはCクラスの方に疑いがあるんだろう。Cクラスが嘘をついていて欲しいというBクラス側の希望的観測の側面もあるかもしれないが。

 それとも、こう言ったボランティア活動みたいなことをやれば学校側がポイントでも恵んでくれるんだろうか。なんだよ、それなら俺毎朝ゴミ拾いとかしようかな。

 いや、このどちらかが嘘をついている状態でその嘘を部外者が暴いて学校側に報告したなら、多少ポイントがゲットできる、という可能性もなくはない。ただ、一之瀬の他に動きを見せている部外者は藤野だけ。今の俺の考えが正しいなら、もっと動いている人数が多いはずだ。

 あー、やっぱりこの学校はよく分からん。

 

「手伝ってもらいましょう」

 

 考え込んでいた堀北が、俺と綾小路を見てそう告げる。

 個人的には一之瀬が協力する分には構わないと思っている。そもそも知られて困るような情報なんて共有されてないしな。それに、そもそも決定権持ってるのは堀北だし。

 

「決まりだね。えーっと」

「堀北よ」

 

 珍しく、堀北が自分から嫌がることなく自己紹介をした。協力関係だと認めたからだろう。

 

「うん、堀北さんだね。あと、綾小路くんだっけ。速野くんも、よろしくね」

「ああ」

「それから目撃者のことだけど、一応こちら側で見つけてあるのよ。残念ながらDクラスだったけれど」

 

 一之瀬は堀北の残念ながらの意味を理解したのか、少し残念そうな表情になる。

 

「あー、まあでも、貴重な証人は大切にキープしておくべきだよ。それに、その人以外に目撃者がいないとは限らないでしょ?」

 

 表に出てくるかは期待極薄だが、確かにそうだ。

 

「でも須藤くん、だっけ。一年生でバスケ部のレギュラーになれるかもしれないって、すごい財産だよ。学校は部活や慈善活動なんかも評価に入れてるし、試合に出て活躍したら、個人だけじゃなくてクラスポイントも……って、あれ、知らなかったの?」

「俺らが聞かされてたのは、個人にポイントが入るって事だけだった」

「あとで問い詰める必要がありそうね……」

 

 堀北の怖い一言が耳に入る。やっぱり情報の伝え忘れ、残ってたか……

 

「なんか変だね。Dクラスの担任の先生」

「生徒に無関心なんじゃないか。そういう先生がいてもおかしくはないと思うが」

 

 俺も別に不自然には思わなかったが、一之瀬は引っかかっているようだ。

 

「やっぱり変だよ。この学校の教師の評価って、卒業時のクラスで決まるんだよ?これも知らなかった?」

「それは初耳ね……」

「……そういや速野、お前あの時そんなこと言ってなかったか?教師にも実力主義がどうのこうの、って。知ってたのか?」

「は?」

 

 突然話を振られて少し驚いたが、ああ、須藤の赤点をなんとかした時の話か。

 

「あれはただの推測だ。知ってたわけじゃない」

 

 ただ、あの時先生は俺のその言葉を否定しなかった。今までも可能性はジリ貧であるんじゃないかと思っていたが、一之瀬の言葉でそれが確実となった。

 ただ、当たってんなら肯定ぐらいしてくれればいいのに。与えられる情報が少なすぎて対等じゃない。

 そう言えばあの時、評価が下がらないで済むっていう俺が提示したメリットにも大した反応を見せなかった。自分の評価はどうでもいい、という姿勢なんだろうか。

 ほんと、何がしたいんだろう。

 

「ねえ、スムーズにやり取りしたいし、3人の連絡先教えてくれるかな?」

 

 言われて、俺と綾小路は応じたが、堀北はそれを拒否した。堀北が特異なだけだろうが、これも男女の違いの一つか。俺としては一之瀬という女子生徒とは是非とも良好な関係を築きたいと思っている。……まあ、一之瀬普通に可愛いし?なんて下心も少しはあったりする。

 

 それに、会話をしている限り、優秀だというのは伝わってきた。




一之瀬の登場回でした。
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