実力至上主義の学校に数人追加したらどうなるのか。※1年生編完結   作:2100

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最近文字数ちょっと抑え気味です。
では、どうぞ。


ep.19

 目撃者佐倉という手札が加わった、翌日。

 俺はいつも通りにエレベーターで一階に降りようとしていたところ、四階でエレベーターが停まってしまった。

 

「……おはよう」

「……おはよう」

 

 乗って来たのは綾小路。割りと一緒に行動する機会が多く、クラスの中でも親しい方ではあるが、絶対評価で見たときに親しい仲だと言えるかどうかに関しては首を振らせてもらう。

 お互いに何かを語るでもなく、寮を出て一緒に登校した。まあそうなるよな。

 今日も暑い。持参していたタオルで顔の汗を何度か拭いているうち、綾小路が聞いてきた。

 

「汗、かきやすいのか」

「ん、ああ、まあな……不便だ」

 

 割と切実だ。普通に臭くなるときがあるので注意したい。

 校舎内へ入った瞬間、外界とは大違い。適温に調節された空気が身に染みるぅ……

 現代人、みんなエアコン依存症だ。生活保護受給者でもエアコンの所持は認められてるし。

 教室に向かう道のり、階段を登っているとき、その踊り場の一つの貼り紙が目に入った。

 

「これ……」

 

 須藤とCクラスの事件に関する情報提供を呼び掛ける紙だ。ありがたい。恐らくだが、これはBクラスだろう。読み進めていくと、有力な情報提供者には報酬を支払う用意があると書かれている。一之瀬たちが動き出してくれた。

 てか報酬のやつマジでやってるよ……Bクラスの懐はどんだけあったかいんだ。羨ましい。

 

「おはよー2人とも」

 

 俺も綾小路も貼り紙に感謝していたところ、登校してきた一之瀬に声をかけられた。

 

「ああ、おはよう」

「この貼り紙、一之瀬が?」

 

 綾小路が問うと、一之瀬は少し考えるような仕草を見せた後、こう言った。

 

「なるほどなるほど、そういう方法もあるか……」

「あれ、一之瀬じゃなかったのか?」

「これは多分……あ、いたいた。おーい、神崎くん」

 

 一之瀬は歩いていた1人の男子生徒を呼び止めた。その男子は、ゆっくりとこちらに近づいてくる。

 

「おはよー神崎くん。この貼り紙、多分神崎くんだよね?」

「ああ、用意して貼り付けた。それがどうかしたか?」

「ううん、2人が誰がやったのか気にしてたから。あ、紹介するね。クラスメイトの神崎くん。こっちは、Dクラスの綾小路くんと速野くん」

「神崎だ。よろしく」

 

 握手を求められ、俺はそれに応じる。綾小路とも握手を交わしていた。静かそうな雰囲気だが、案外話しやすそうな人だ。いいなあ、俺にもこんな会話スキルが欲しかったよ。とほほ。

 

「速野、と言ったな。噂は聞かせてもらってるぞ」

「え?あ、ああ、はは、そりゃどうも……」

 

 どうやら俺は完全に警戒の対象に入ってしまっているらしい。

 まあ、隣の住人からすれば、それが好都合なのかもしれないが。

 

「どう?情報集まった?」

「残念ながら、有力な情報は一つも」

「そっかー、残念。じゃあこっちの掲示板も見てみようかな」

「え、他にも何か貼り付けてるのか?」

 

 掲示板、という言葉で、先日の一之瀬とのやり取りを思い出す。一之瀬はあの後ページを立ち上げ、マジでやっていたのだ。

 

「こっちにも報酬をつけてるんだな」

「あ、ポイントは気にしないでいいからね。私たちが勝手にやってるだけだから。それとこれ、速野くんがアドバイスしてくれたんだよ」

「ほう、そうだったのか」

 

 神崎は興味深そうに俺を見る。だが、ちょっと違うだろそれは。

 

「いや……俺が言ったのは、一度にみんなが見られる方法を探したほうがいいんじゃないか、ってことだけで、ホームページを使うこと自体は一之瀬が考えついたんだぞ。俺は確か放送室ジャックして、とか馬鹿げたことしか言ってなかっただろ」

「あはは、そうだったね。でも、速野くんの視点がこれに繋がってるのは間違いないから……あ」

「どうかしたか?」

「何件か書き込みがあるみたい。えーっと……」

 

 一之瀬は自身が読み終えた後、男子3人組にも画面を見せた。

 

「訴えたCクラスの石崎くん、中学では相当なワルだったんだって。喧嘩も相当強いらしいよ」

「……それ、俺が綾小路にメールで送ったやつだな」

「そういえば、一昨日そんなメールがあったな。この書き込み、もしかして速野が?」

「俺もこれはある人からもらった情報だからな。情報源は本人に確認してないからちょっと伏せさせてもらうが。それに、その人もその情報は誰かの受け売りらしいからな」

「じゃあ書き込みはその人かもしれないな。それにしても、興味深い書き込みだ」

 

 神崎と一之瀬にとっては初耳の情報で、興味を示している。あー、事前に共有しといたほうがよかったかな。

 

「神崎くんはこれ見てどう思う?」

「もしかしたら、須藤にやられたのはわざとかもしれないな。そうだとすれば、何故須藤が無傷で済んだのかも説明がつく」

「うん、私もそう思う。速野くんと綾小路くんは、この情報を知った時どう思った?」

「俺も変だとは思ってたが、神崎のところまでは頭が回らなかった。速野は多分、神崎と同じ感じじゃないか?確かそう言ってたよな」

「ああ」

 

 メールで俺の意見は一通り書いておいた。内容は今の神崎のものとほぼ同じ。違うところといえば、Cクラスの思考が短絡的すぎる、という個人的な意見を追加したくらいだ。

 

「この情報の裏付けが取れたら、須藤くんの無罪に一歩近づくかもね」

「でも、まだ弱いな。須藤が相手を殴ってしまったことが事実である以上、厳しいことに変わりはない。責任の割合を減らすことはできるかもしれないが……」

「あ、そういえば、Dクラス側で見つけたっていう目撃者はどうなったの?」

 

 一之瀬の質問には、俺が口を開く前に綾小路が答える。

 

「それが、まだなんともいえない状況でな」

「そっか……何か事情があるのかな」

 

 綾小路は、まだ佐倉が出ると確定していない以上はっきりしたことは言わないという考えか。もしくは、佐倉への配慮か。

 だが、佐倉は出るだろう。本人はないと言っていたが、迷いも少なからずあるだろう。だが、俺の希望的観測も含めて、恐らく佐倉は証言台に立つ。

 

「でもいいのか?ここまでしてもらって。Cクラスには睨まれると思うが……」

「大丈夫大丈夫。元々睨まれてるし」

「その通りだ。問題ないさ。それに、今回のはルールから逸脱した場外乱闘だ。許していいことじゃない」

 

 真っ直ぐだなこの2人は。ルールの道から逸れたことはしないだろう。そして見方を変えていえば、ルールの範囲をフル活用するとも取れる。

 

「Dクラスはもう知っちゃってたみたいだけど、この情報どうしようかな……ポイントは」

「無理しなくてもいいと思うぞ」

 

 俺は払わないことを提案する。

 

「いや、ここは出しておいたほうがいい。情報提供の数にも関わってくるかもしれないからな」

 

 神崎はそれに反論した。確かに、神崎と一之瀬はこれを有用な情報だと認めた。有力な情報提供者には報酬を出すと公言してる以上、払わなければただの詐欺行為だ。何より、Bクラスの評価を落とすよりはいいと考えたんだろう。一之瀬も払うことを決定した。

 その情報提供者は匿名らしく、綾小路が一之瀬に匿名の人物へのポイント譲渡の方法を教えていた。なんで知ってんだよそんな方法……

 

「……ん?」

「……どうかしたか、神崎」

「ああ、掲示板を利用して情報提供を呼び掛ける書き込みが、一之瀬の他にももう一件あってな」

「そうか。まあ、多いに越したことはないんじゃないか。そのほうが一之瀬の出費も抑えられるだろうし」

「確かにそうだな」

「一つ聞きたいんだが、いいか」

「なんだ。答えられる範囲で答えよう」

「Bクラスの生徒、平均してどれくらいのポイントが残ってるんだ?一之瀬はかなり余裕ありそうだが」

「全員のものを把握してるわけじゃないから正確なことは言えないが、大体のクラスメイトは、入学してから60000から100000は使っていると思う」

 

 つまり臨時収入が入っていない限り、大体みんな100000ポイント以上は残ってるということか。

 

「やっぱりちゃんと計画的だな。Dクラスの一部は初めの1ヶ月で全部使い切ったやつもいた」

 

 池とか山内とか、あたし昨日ポイント使い切っちゃったー、って叫んでた女子とか。

 

「それは、さぞ大変だろうな。因みに、お前のポイント状況はどうなんだ?」

「四月に配布された100000から、大体10000くらい使ったな」

「随分と切り詰めるな……お前の方が計画的じゃないか」

「いや、その場その場でポイントを使わない選択をしてるだけで、それは計画的とはちょっと違うだろ」

 

 俺のやっていることは、ある意味無計画な貯蓄とも言える。使うべき場面で金を使わないのはただのドケチだ。

 ただ、毎日の食費がゼロになれば、これまでで10000の消費で抑えることは可能だ。

 

「今月、2ヶ月ぶりにポイントが入るかもってなったんで、須藤の件を聞いたときは少しがっくりきた。まあ、ポイント獲得のためにも頑張るつもりだ」

「こちらも、できる範囲でサポートする。何か意見があれば遠慮なく言って欲しい」

 

 そう言って、神崎は自分の端末を取り出し、新しい連絡先の登録画面を開いて俺に見せてきた。それに応じ、連絡先の交換を行う。

 ……ちょっと待てよ、これで……

 

「……っしゃ」

「どうした?」

「ああいや、ついに連絡先の件数が二桁を突破してな」

 

 それで少し喜んだのだ。

 

「……そうか」

「……ああ」

 

 頼むから哀れみの視線を引っ込めてくれ……悲しい気持ちになってきた……

 心の中でさめざめと涙を流しながらも、なんとか立ち直って、神崎に言った。

 

「感謝する。他クラスの協力はこちらとしても本当に助かる」

 

 本当に、な。

 綾小路と一之瀬のやりとりが終わり、全員それぞれの教室に向かった。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 ホームルーム終了後、教室を出ていった茶柱先生を職員室の前で呼び止める。佐倉が目撃者である旨を伝えるためだ。

 

「佐倉が目撃者?」

「はい。事件の一部始終を、佐倉さんが見ていたんです」

「と、櫛田は言っているが、どうなんだ、佐倉」

「は、はい……間違い、ありません……」

 

 茶柱先生に睨まれつつも、ゆっくりと真実を話す佐倉。現場にいた者にしか分からないことだ。俺も知らない。

 

「なるほど、お前の話は分かった。だが、それを素直に受け取ることはできないな」

「え?な、なんでですか?」

「どうしてこのタイミングになって証言した。私がホームルームで呼びかけた時点では、何故名乗り出なかった?」

「先生、佐倉さんは」

「私は佐倉に質問している。口を挟むな」

 

 反論しようとした櫛田を黙らせる。あら珍しい、その声には少し怒気もこもっていた。

 

「そ、その、人前に出るのが、苦手で……でも、私の証言で、クラスが助かるかもって……思ったので……」

「なるほど、お前なりに勇気を出してのことだったんだな」

「は、はい……」

「お前がそう言うなら、私は学校側にそう報告する義務がある。しかし、それがなんの疑いもなく受け取られ、須藤が無実になることはないだろう」

「そ、そんな」

「私はマイナス評価を受けることを恐れ、お前らがでっち上げた嘘なんじゃないかと疑っている。当然の話だ。Dクラスの人間となればなおさらな。放課後、人気のない校舎に1人でいて偶然一部始終を目撃した。出来すぎだ」

 

 茶柱先生の言い分はもっともだ。しかし、反論はさせてもらう。

 

「ですが先生、嘘の目撃者を仕立て上げるならもっと早いタイミングでやっているはずだとは考えられませんか。それに、マイナス評価を恐れて嘘をついたらそれは本末転倒でしょう」

「それもお前らが事前に用意していた理屈かもしれないだろう?どっちにしても信憑性は高くない。だが、名乗り出た目撃者を無視するわけにはいかない。佐倉、お前には明日の審議に参加して証言してもらうことになるだろう。人前に立つのが苦手なお前にそれができるか?」

「そ、それは……」

「佐倉さん、大丈夫……?」

「う、うん……」

 

 佐倉は明日のことを想像し、かなり萎縮しているらしかった。

 まあ、このままだと須藤と2人で参加だもんな……ちょっとまともな話し合いになるとは思えない。

 

「先生、その審議には、当事者間以外に数人の同席が認められていたはずです。櫛田や綾小路を同席させる許可をください」

「お前の言う通り、須藤が認めれば同席は許可する。ただし、最大2人までだ。人選は考えておいたほうがいいぞ」

 

 そう言い残し、先生は少し強引に俺たちを職員室から追い出した。

 教室に戻り、堀北にそのことを話す。

 

「まあ、予想通りね」

「ご、ごめんなさい……私がもっと早くに出ていたら……」

「残念だけれど、これは遅いか早いかの問題ではないわ。目撃者がDクラスというのが不運ね」

その通りだ。その不利を消すためには、客観的な物証が必要になるが……

「それと櫛田さん。話し合いには私と速野くんでいかせてくれるかしら。あなたが佐倉さんの励みになるのは承知しているけれど、討論になるなら話は別よ」

「……うん、そうだね。私じゃ力不足だから」

「佐倉さんも、それで構わないかしら?」

「う、うん……」

 

 櫛田、佐倉に確認した後、俺にも視線を向けてくる。鋭い視線だ。断らないわよね、と訴えかけてくる。

 

「……分かった、分かったから睨みつけるのをやめてくれ」

 

 佐倉よりも俺の方が萎縮しちゃうでしょうが。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 放課後、藤野との買い物から帰ってきたあと、俺は明日の手立てを考えながら自室にいた。

 そんな時、一件のメールが入る。

 差出人は佐倉だった。

 

『明日、もし私が学校を休んだらどうなりますか』

 

 なるほど……やっぱりまだ迷ってたか。

 

『どういうことだ?休みたいって言うなら俺は止めないが、無断欠席や仮病使うのはやめてくれよ』

『いま何してますか』

『部屋でぼーっとしてた』

『今から会ってくれませんか。できれば、誰にも秘密で』

『分かった。どこでだ』

『1106号室に今からきてくれませんか』

『できるだけすぐ行くが、少し待っててくれ』

 

 完全に部屋着だった俺は、ズボンだけジーパンに履き替え、端末と鍵を持って部屋を出た。

 ボタンを押して、エレベーターが来るのを待つ。到着したのは、俺の正面のエレベーターではなく右のものだった。

 そこで、買い物袋を持った堀北と鉢合わせてしまった。

 

「……乗らないなら閉めるわよ」

「待て、乗る」

 

 本当に閉ボタンを押しかけていた堀北は、その様子を見て開ボタンを押した。

 それに乗り込み、11階のボタンを押す。

 

「10階じゃなくていいの?」

「は?」

「いえ、何でもないわ」

 

 10階に何があると言うのだろう。帰りに寄ってみようかとも思ったが、やめておいた。

 

「買い物、か」

「ええ。あなたは何してるの?」

「特に何も。あれだ。エレベーター使って異世界に行くみたいなやつあるだろ」

「答える気がないのは分かったから、くだらないことをこれ以上口にしないで」

「すいません……」

 

 これ以上言ったら買い物袋で殴られそうだ。

 

「お前の方こそ、明日大丈夫なのか?」

「大丈夫、とはどういうことかしら?」

「いや、明日は……やっぱ何でもない。気にするな」

 

 無理に不安にさせることはないな、と、口を紡いだ。

 

「そう。まあ、何を考えていようが私には関係ないけれど」

「そうですね……」

 

 ただ、堀北にとっては重要だと思うんだけどなあ。

 明日は生徒会の人間も参加することは。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

「どうぞ」

「お邪魔します……」

 

 初めて入る女子の部屋。というか、そもそも女子の階に来ること自体、今が初めてだった。

 

「で……どうしたんだ急に」

「そ、その……大丈夫、なのかな……」

「……大丈夫って?」

「見たことをそのまま話せばいい、って分かってるのに……全然、イメージができなくって、怖くって……学校、休みたいなんて思っちゃって……あああ、何で私はいつもこうなるのぉ!!!」

 

 オドオドした佐倉の突然の発狂に少し驚き、何も言わないまま一歩後ずさりしてしまった。机に頭を押し付け、足をバタバタさせている。

 

「はっ!?」

 

 我に帰った佐倉は俺の方を見て真っ赤になり、必死に否定した。

 

「こ、これはそのっ、ち、違うの!」

「いや、違うって言われても……」

 

 浮気現場を見つかったみたいな反応だが、これはこれで、佐倉の隠れた一面なんだろう。少し面白かった。

 

「そ、その……速野くんは、私がアイドルだって知ってても、変な目で見たりしないんだね……」

「……変な目?」

「うん。ずっと、見る目が変わっちゃうんだろうな、って思ってたから……その、男の人って、急に怖くなったりするから……」

「ああ、まあ確かに……」

 

 あの店員が最たる例だろう。今何やってんのかな、あの人は。

 そんなことはさておいて、俺は佐倉に向き直って、素直な意見を言う。

 

「変な目で、って言われても、俺の知り合いはアイドルの雫じゃなくてDクラスの佐倉だからな。普段通りに接するだけだよ。佐倉だって、学校でアイドルはやりたくないだろ?」

 

 俺が学校で佐倉をそういう目で見ることは、佐倉にアイドルでいることを強制するものになる、と俺は思っている。公私混同はやっちゃいけないことだ。

 

「……ただ、本当に嫌な時は言ってくれ。佐倉が目撃者だってことは茶柱先生も把握してるし、俺からも言っておく」

「怒らないの……?」

「須藤は怒るだろうけどな。ただ、誰もお前を責めることはできないし、櫛田が責めさせないだろ」

 

 あいつは佐倉の気持ちを十分に理解しているはず。人前で話すことが、佐倉にとってどれだけハードルが高いかということも。

 

「速野くんは、どうするのが一番だと思う……?」

 

 ここで俺に意見を求めるか……難しいな。どう答えたら正解なのか。

 

「そうだな……同じことを前も言った気がするが、無理しないことが一番だ。結局、佐倉がどうしたいかだな」

 

 俺は答えないという選択を取った。俺としては是非とも証言してほしいが、強要はできない。

 

「佐倉、なんで俺を呼んだんだ?励ましてほしいなら櫛田の方がいいと思うし、男の俺を部屋に上げるのも抵抗あっただろ?」

「そ、その、何となく、かな……速野くんは、あのこと、誰にも言わないでくれたから……安心、できたの」

 

 確かに俺は佐倉の素顔を誰にも言わなかった。いう奴がいなかったということもあるが、それは俺なりの善意のつもりだった。自分で言うのもなんだけどな。

 ただ、佐倉から信頼されていると自覚すればするほど、少し罪悪感が芽生えていた。

 でも、俺はやったことを後悔はしていない。

 それに自分自身、少しだけ安心した。

 

「じゃあ、そろそろ時間だし、俺はもう……」

「……う、うん。あ、ありがとう。その、会いにきてくれて……」

「別にいいんだ。もしまだ不安なら、また誰かに吐き出せばいい。櫛田とか堀北とか、綾小路とかにな。頼りになるやつは結構いるぞ」

 

 平田でもいいんだが、佐倉と平田はあまり絡みはなかったと記憶している。

 

「……ありがとう。励ましてくれて」

「励ましになったんなら、よかった。……本当に、無理だけはするなよ。そんなこと誰も望んでないからな」

「うん。……わかった」

 

 また明日、と言い残して、俺は佐倉の部屋を出た。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 本当に、安心した。

 俺にもまだ、罪悪感が芽生える余裕が残っていたんだと。

 

 俺は佐倉がアイドルであることを利用して、あることをした。

 実害が及んだ店員にも、少しは罪悪感を感じていたが、ついさっき佐倉のゴミ箱を見てそれは完全に消えた。

 大量の白い封筒。一瞬だけ見えた、佐倉の写真。佐倉は別の方向を向いていたから、恐らくそれは盗撮だ。

証拠はない。ただ、確信があった。

 

あの日の夜、俺は……




佐倉を励ます役割は速野がやったほうが自然かな、と思い、こうしました。
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