実力至上主義の学校に数人追加したらどうなるのか。※1年生編完結   作:2100

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ボリュームたっぷり。ただしほとんど原作通り。
では、どうぞ。


ep.20

 そして、いよいよ運命の時。

 いや、運命というより命運だ。Dクラスの命運。それが決まる日だ。

 佐倉はちゃんと登校してくれた。朝顔を合わせたが、もう迷いは残っていない、ような気がした。

 

「心の準備はいい?須藤くん」

「ああ、ばっちりだ。むしろ遅すぎるぐらいだぜ。お前には散々ばかにされてきたが、言いたいことは言わせてもらう」

「勝手にしなさい。言って聞く頭じゃないでしょう?」

「けっ、相変わらず生意気な女」

 

 そう答える須藤。こちらも迷いはなさそうだ。まあ、こいつは元々バリバリ無罪主張だしな。

 

「須藤、一応一つだけ言っておくぞ」

「あ?何だよ速野」

「相手の態度にムカついても、飲み下せ。自分から印象を悪くするような真似だけはするなよ」

「わーってるって」

 

 どうだかなあ……こいつの怒りの沸点が低すぎるところは多々見てきたし、まあ、こいつが暴れそうになったら頭抑えつけよう。……いや無理だわ。

 

「みんな、頑張ってね」

 

 櫛田のエール。俺は頷き、堀北はスルー、須藤はガッツポーズを作ってそれに応えた。やっぱり堀北はブレない。

 

「佐倉、大丈夫か?」

 

 綾小路が、まだ席に座ったままの佐倉に声をかける。

 これは……だいぶ緊張してるな。

 

「うん、大丈夫……」

 

 そう答えはするものの、体が震えているのが分かる。ここにきてちょっとした不安要素だ。

 だが、俺にはどうすることもできない。佐倉本人に頑張ってもらうしかないだろう。

 

「行きましょう。遅れると心証が悪いわ」

 

 堀北が言う。気づけば、審議開始まで10分を切っていた。悠長にはしていられないな。

 須藤、堀北、佐倉、俺の4人で職員室前に移動すると、そこにはふわふわした感じの先生が俺らに手を振っていた。

 

「やっほー、Dクラスのみんなこんにちはー」

 

 この人は確か……Bクラスの担任の星ノ宮先生だ。綾小路は結構前から知ってる風だったが、俺はつい最近知った。

 

「なんか大変なことになってるんだってね」

「また何をやってるんだお前は」

「ありゃ、もう見つかっちゃったかー」

「お前がこっそり出て行く時は、大体私に見られたらまずいことがある時だ」

「ばれちゃった?」

 

 と言いながらウィンクをかます先生。正直、こういう何考えてるかわからん人は苦手だ。計算尽くの態度なのか、ただの天然か。多くの場合前者なんだが。

 駄々をこねる星ノ宮先生を職員室に放り込み、茶柱先生は俺たち4人を先導する。

 

「職員室でやるわけではないんですね」

「そうだ。この学校の審議は当事者間とそのクラスの担任教師、そして生徒会を交えて行われる」

 

 生徒会、という単語に堀北が反応を見せる。

 茶柱先生が今言ったことは、一応校則にも書いてあった。かなり隅っこの方だったが、読み込んでいてよかった。堀北の方は完全に計算外のはずだ。

 

「やめるなら今のうちだぞ、堀北」

「……いえ、大丈夫です。やります」

 

 そういう堀北だが、その表情は動揺の色が隠しきれていない。やっぱエレベーターの中で言っておくべきだったか……まあ、今更後悔しても遅い。それに、あの場で言っていても同じように動揺していただけだ。

 この話を聞けばこんな感じになるだろうとは予想していたので、俺はポケットにあるものを仕込んでおいた。

 職員室から生徒会室に移動し、茶柱先生が扉をノックする。

 ドアが開き、中に入るよう指示され、それに従う。堀北は一瞬ためらいを見せたが、中に足を踏み入れた。

 これは、あんまり良くない展開になりそうだな……

 室内には長机が用意されており、その片側には訴えたCクラスの生徒3人と、その担任教師である坂上先生が既に着席していた。

 

「遅くなって申し訳ありません」

「お気になさらず。予定時刻はまだですので」

 

 そんなやり取りが聞こえてくる。

 部屋の奥には、生徒会長である堀北学が、妹には目もくれずに書類を見ていた。

 対する堀北鈴音は、兄が気になって仕方がないようだ。

 頼むから始まったら集中してくれよ……

 

 その願いは通じず、戦況は不利だ。

 佐倉は人前で話すことを苦手としているが、俺だって別に得意じゃない。むしろ苦手だ。1対1でのコミュニケーションすら怪しいんだから。

 そして堀北は現在無力化中。非常にまずい。これは、俺も腹くくってやらないといけないかもな。

 司会進行を務める書記の橘という生徒が、双方に問う。

 

「須藤くんとバスケット部2人の間には、度々衝突があったと聞きますが」

「衝突というか、須藤くんが絡んでくるんです。彼は僕らよりバスケが上手く、それをひけらかしてくるんです。僕らも一生懸命練習していますが、馬鹿にされるのはいい気分ではありませんでした」

 

 それに対し、須藤は反論する。

 

「何一つ本当じゃねえ。小宮たちが俺にちょっかい出してきたんだ。こっちが練習してる時も、邪魔してくるなんて四六時中だったじゃねえか」

 

 どちらも平行線。決まらない。

 俺も反応を示すことにした。これを皮切りに堀北も機能してほしいという願いも込めて。

 

「すみません。発言よろしいでしょうか」

「どうぞ」

「今の話、どちらが本当か、それはバスケットボール部員に聞けば真偽が分かる話です。この話題に関しては判断の勘定に入れないほうがよろしいかと思います」

「判断の勘定に入れない、とはどういうことですか?何かまずいことでも?」

 

 坂上先生が俺に聞いてくる。

 

「こちら側の主張に何一つ嘘はありませんので、まずいことなんて一つもありませんよ。ですから生徒会側とCクラス側のコンセンサスを得られれば、私個人としては後日証言を取るという対応でも構いません。どうしますか?小宮くん、近藤くん」

 

 一瞬名前の呼び方に迷ったが、さん付けは変だし、呼び捨てもおかしいかと思ったので、君付けにしておいた。

 しかし、それに反応したのはCクラス側ではなく生徒会長だった。

 

「速野、それは受け入れられない。時間を長引かせるだけだ」

「そうですか。会長がおっしゃるなら、このことは勘定に入れない、ということでよろしいですか」

「では、今ある証拠で話を進めるしかありませんね」

「僕たちは須藤くんに、一方的に殴られて怪我を負いました」

「嘘つくなよ。お前らが俺を呼び出してお前らから仕掛けたんだろうが。正当防衛だ」

 

 Cクラスは焦点を怪我の事実に当ててくる。まあ、当然といえば当然の流れだ。Cクラスとしてはそれが最も強力で確実な武器。利用しない手はない。

 

「……」

 

 堀北を見るが、全くこの場が見えていない。今最も無力なのは堀北だった。

 これは……そろそろだな。

 

「Dクラス側、これ以上の証言がなければ終了しますがよろしいですか」

「……」

 

 だめだ、打つ手がない。遅延させるか?いや、この会長の前では封殺されるだろう。

 

「どうやら、議論するまでもなかったようだな。どちらが呼びだし、先に仕掛けたにせよ、須藤が相手を殴り怪我をさせたというのは事実だ。それを元に判断を下す他ないだろう」

「ちょ、ちょっと待ってくれよ!納得いかねえ!こいつらが雑魚だっただけだろ!」

「ほう、力の差がある相手に正当防衛を主張するのか?」

「待ってください。力の差があるかどうかは相対してみないと分からないはず。相手の力が未知数の上で、須藤くんは先に仕掛けられたんですから、それに対して正当防衛を行なっただけのことです。その反論は的外れではないでしょうか?」

「だが、実際に怪我をしたのは私たちCクラスの生徒だけです」

 

 俺も自分なりに頑張るが、それでも状況はこれ以上ないほど不利だ。

 いい加減俺もしびれを切らし、今までの報復も込めて、俺はポケットからあるものを取り出した。

 そして……

 

 グサリ

 

「いっ!?」

 

 グサリ、グサリ、グサリ

 

「いっ、がっ!?ちょ、何を……」

 

 俺は堀北の体に、取り出したコンパスを刺していた。

 ああ、もちろん針の方じゃなくて柄の方で。針で刺してたら堀北が血まみれになってしまう。

 大体20回くらい刺したところで、手を止めた。殺される勢いで睨まれるが、俺は悪くない……悪くないんだ……でも怖い……

 

「いい加減にしろ堀北。お前の相手はCクラスだ」

「……」

「次集中してなかったら、マジで針の方で刺すからな」

 

 体に強い刺激を与えたのが功を奏したのか、ようやく堀北は目を覚まし、現在の最悪の状況を把握する。

 

「……申し訳ありません。私からいくつか質問してもよろしいでしょうか」

 

 ついに堀北が動いた。橘書記が生徒会長に了承を仰ぐ。

 

「いいだろう。だが、次からはもっと早く答えるように」

「ありがとうございます。先ほど須藤くんに呼び出されて特別棟に行ったと聞きましたが、須藤くんは誰を、どんな用件で呼び出したのですか?」

 

 堂々とした立ち振る舞い、堀北の真骨頂だ。ちゃんと復活してくれたらしい。

 

「答えてください」

「俺と近藤を呼び出した理由は知りません。ただ、部活が終わって着替えている途中に、今から顔を貸せって言われて……俺たちが気に入らないとか、そんな理由じゃないでしょうか」

 

 そう主張する小宮に、俺も反応する。

 

「……部活が終わった後着替えている途中に、と言いましたね。つまり、他の部員も同じ場所にいてもおかしくない。その部員に証言を頼めばよかったのに、あなたたちはそれをしなかった。なぜですか?」

「……その、須藤くんは、他の部員が帰った後に声をかけたんです。僕らは居残り練習をしていて、須藤くんは部室で僕らを待ち伏せしていたようですから」

「嘘だ、真逆だろうが!」

「須藤くん」

立ち上がって激昂する須藤を堀北が制し、さらに続ける。

「つまり、証拠はないということですね。続けます。では、なぜその場に石崎くんがいたのでしょうか。彼はバスケット部員ではないですし、無関係のはずですが?」

「それは、用心のためですよ。須藤くんが暴力的だというのは噂になっていましたから。いけませんか」

「では、暴力を振るわれることを想定していたということですね」

「そうです」

 

 堀北も元々この質問をする予定だったんだろうが、Cクラスもそれはお見通しだったようだ。

 

「なるほど、それで中学時代、喧嘩が強かったという石崎くんを連れて行ったわけですね」

「自分の身を守るためです。それに石崎くんを呼んだのは信頼できる友人だったからで、喧嘩が強かったなんて知りませんでした」

「あなたたちが知らなかった、というのは証明のしようがありません。しかし、喧嘩慣れしていた石崎くんを含めてあなたたちは3人、こちらは須藤くんが1人です。一方的にやられたというのは不自然ではないでしょうか」

「それは、僕らに喧嘩の意思がなかったからです」

「喧嘩に発展した場合、無抵抗な者がそこまでの傷を負うことは通常あり得ないことだと思いますが」

「須藤くんにはその通常が当てはまらなかったということです。僕らは無抵抗に、須藤くんに殴りつけられた。その結果がこれです」

 

 やはりCクラスが傷を負った、という証拠は強いか。

 

「Dクラス側の主張はこれで終わりか?」

 

 堀北の兄、堀北学は冷たく言い放つ。

 

「……須藤くんが相手に手を出したのは事実です。しかし、須藤くんは先に相手に挑発を受けました。その様子をを見ていたという証人もいます」

「では、Dクラスから報告のあった目撃者は入ってきてください」

 

 橘書記が佐倉の入室を促す。

 そして、遠慮がちな佐倉が背中を丸めて入ってきた。

 

「1年Dクラス、佐倉愛理さんです」

「おや、目撃者がいるとは聞いていましたが、Dクラスの生徒とはねえ」

「何か問題が?」

「いえいえ、続けてください」

「では佐倉さん、証言をお願いします」

 

 呼びかけられる佐倉だが、俯いたまま何も答えない。

 

「佐倉さん……」

 

 堀北の呼びかけにも佐倉は無言のままだ。

 

「どうやら、彼女は目撃者ではなかったようですね。これ以上は時間の無駄でしょう」

「何を急いでるんですか坂上先生」

「急ぎたくもなります。このような無駄な時間で、私の生徒の貴重な時間が奪われているんですよ」

「確かに、そうかもしれませんね」

 

 坂上先生はCクラス側に味方する一方、茶柱先生はどちらの味方もしていない。以前はこの姿勢に好感を持てていたのだが、何だろう、今になって非常に憎たらしい。

 佐倉はまだ口を開かない。すでに入室してから2分ほどが経過していた。

 俺も頼む……という視線を佐倉に向ける。

 すると一瞬、目が合った気がした。しかしそれだけで、佐倉はまだ話を始めない。

 これ以上は無意味だと判断した茶柱先生が、ゆっくりと口を開いた。

 

「もういい。佐倉、下がってい」

 

 と、言いかけたところで急に佐倉が声を上げた。

 

「わ、私は確かに見ました!はじめにCクラスが須藤くんに殴りかかっていたところを……間違い、ありません!」

 

 勇気を振り絞った佐倉の声。それは予想以上に大きく、部屋全体に響き渡った。

 

「すまないが、私から発言させてもらっても構わないだろうか。本来教師は口を挟むべきではないというのは承知の上だが、この状況は生徒があまりに不憫でならない」

「許可します」

「私は君を疑っているわけではない。だが、本当の目撃者なら、もっと早くに名乗りをあげるべきだった。そうじゃないかな?」

「そ、それは、その……勇気が、出なくて……人と話すのが、その、苦手なので……」

「なるほど。ではもう一つ。人と話すのが苦手な君が、どうして今になって名乗りを上げたのかな?このタイミングでの目撃者の出現、私は、Dクラスが口裏を合わせているようにしか見えない」

「わ、私はただ、本当の、ことを……」

「私は君を責めているわけではない。恐らく、須藤くんを救うため、クラスを救うために嘘をつくことを強いられたんじゃないのかな?」

 

 次々と襲う坂上先生の心理的攻撃。見るに耐えかねた堀北が発言する。

 

「それは違います。佐倉さんは確かに人前で話すことが得意ではありませんが、本当の目撃者だからこそ、今この場に立ってくれているんです。それに、堂々と証言させるだけなら、他の代役を立てるだけでいいのではないでしょうか」

「私はそうは思いません。Dクラスにも優秀な生徒はいる、それは堀北さん、君のような生徒です。佐倉さんのような人を指名することで、目撃者にリアリティを持たせようとしたのではないですか?」

 

 本気でそんなことを思っているわけはない。どうにかして難癖をつけようと頑張っているのだ。

 だが、あまりのこじつけ論に俺は少し苦笑してしまった。

 

「何かおかしいことでもあるんですか?」

 

 それを見た坂上先生が俺に言う。

 

「あ、ああ、いえ、お気になさらず」

 

 だが、その難癖は確実に効果を発揮している。難癖をつけられるということは、逆に言えば証言が完璧ではなく難癖のつけようがあるということだからだ。以前堀北の言っていたように、身内が目撃者ということで信ぴょう性はガタ落ちする。

 もうダメか、と思っていた時、佐倉が身を乗り出して言った。

 

「証拠なら、あります!!」

「はあ、もう無理はよしなさい。いい加減見苦しいよ」

 

 すると佐倉は、机の上に何かを置いた。

 

「これが、証拠です……」

「会長、これは……」

 

 橘書記が会長にもそれを見せる。

 それは、特別棟で撮った佐倉の自撮り。いや、より正確にいうならばグラドルの雫の自撮りをプリントアウトしたものだった。

 

「少し待ってほしい。それは何で撮影したものだい?」

「坂上先生、パソコンに取り込んで日付データを変えたということはあり得ません。写真を最後までご覧ください」

 

 言わんとすることをいち早く予想して回り込み、堀北が言う。

 

「こ、これは……」

 

 写真の束の一番下には、まさに須藤とCクラス3人が写っていた。

 それを見たCクラスは、明らかに動揺している。これなら佐倉の証言能力をある程度認めざるを得ない。

 

「なるほど、どうやら君がその現場にいたというのは本当のようだ。しかし、これでは本当に須藤くんが先に仕掛けられたのかどうか、判断はつきませんね」

 

 しかし、坂上先生は素直には認めない。

 

「どうでしょう茶柱先生。ここはお互い、妥協点を見つけませんか」

「妥協点、ですか」

「今回の事件、私はDクラス側が嘘をついたものだと確信しています」

「なんだと!?」

「おい」

 

 また立ち上がった須藤を、今度は俺が声で止める。

 

「いつまで続けても、まったく時間の無駄ですよ。双方、相手が嘘をついていると言ってやめない。決定的な証拠もない。そこで、妥協点です。私は、Cクラスの生徒にも幾ばくかの責任はあると思っています。3対1だったことや、石崎くんに喧嘩慣れしている過去があったことは問題でしょう。ですので、私の生徒には1週間、須藤くんには2週間に停学処分とする。違いは相手を傷つけたかそうでないか。これでいかがでしょうか?」

 

 これは、Cクラスの譲歩だ。堀北の本領発揮や、佐倉の証言がなければ恐らく須藤の停学期間はもっと伸びていたはず。

 

「ざっけんな!冗談じゃねえ」

「あなたはどう思われますか、茶柱先生」

「聞くまでもないことでしょう。そちらの提案を蹴る理由はありません」

 

 通常であれば、こちらも茶柱先生と同じ考えだ。隣を見ると、堀北は天を仰ぐように上を向いている。もう無理だ、と考えているのだろう。

 いや、堀北はよくやったと思う。少なくとも、俺よりはよほど貢献したはずだ。

 しかし俺は一つ、ある指示を預かっている。

 

『たとえ相手が譲歩してきても、何があっても、堀北に勝負を投げさせるな』

 

 俺の後ろの席の、似非事なかれ主義からのお言葉だ。

 なら、俺はその言葉を遂行するだけ。

 なんせ、操り人形ですから。

 

「どうだ堀北。もう終わりか?」

 

 少し挑発的な言い方になってしまうが、堀北の気を引くためにはこれがいい。

 

「俺はお前と違って頭でっかちだからな。この現状をひっくり返すために今打てる手は思いつかない。なんなら、妥協案を受け入れてもいいと思った」

「ふふ、そうでしょう」

「須藤の無実なんて誰も証明できない。坂上先生の言っていたように、佐倉が撮った写真だけじゃ、どちらが先に仕掛けたかなんて判断はつかない。例えばそれが動画だったなら、或いは証明できるかもしれない。だが、そんなものは元々存在しない。今の特別棟の設備じゃ、証明なんて無理だ」

 

 一呼吸置いて、もう一度続ける。

 

「てか、そりゃそうだよな。どちらが嘘をついているにしても、証拠が残らないように最低限確認してからやるはず。おちおち証拠を残すようなヘマは期待できないってことだな」

 

 さて、俺の役割はここまでだ。あとは堀北の国語力次第。

 

「もう1人語りは終わりましたか?では代表の堀北さん、意見をお願いします」

 

 坂上先生は俺の言葉を敗北宣言と受け取ったようだ。Cクラスの生徒も同様。安心しきった表情を見せている。

 

「分かりました……私は今回、須藤くんにも、この事件に関して反省する余地はあると思います。普段の生活態度や、経歴、性格など、彼には非常に問題があります」

「て、てめえ……」

 

 また声を上げようと凄む須藤を、堀北はさらに強く睨みつける。

 

「須藤……お前のそういう性格に付け込まれたことにそろそろ気づけよ」

 

 俺もそれに乗っかって言った。

 須藤ははめられた、これだけは間違いない。

 

「ですから私は元々、彼の手助けをすることに対して消極的な立場を取っていました。ここで変に手を差し伸べては、また二の足三の足を踏むだけだと考えていたからです」

「ようやく正直に話してくれましたね。これはもう決着がついているでしょう」

「ありがとうございました。着席してください」

 

 橘書記にそう言われるが、堀北は従わない。まだ言い残していることがある、と言いたげに。

 立ったまま、Cクラス側を凝視し、そしてついに口を開く。

 

「彼は反省すべきです。しかし、それは過去の自分の戒めという意味で、です。この事件に関しては、彼に非はなく、完全無罪を主張します。よって、どんな罰であろうとも受け入れるつもりはありません」

 

 その言葉で、部屋中に衝撃が走った。当然だ。堀北はさっきまで、敗北宣言のようなことを口にしていたのだから。

 

「それは……どういうことだ?」

 

 兄である生徒会長が、堀北の目を見ながら問う。

 しかし、もう堀北は怯まなかった。

 

「私たちは今回の事件を、Cクラス側が意図的に仕組んだものであると確信を持っている、と言うことです」

「はは、何を言いだすかと思えば。生徒会長、あなたの妹は不出来であると言わざるを得ませんね」

「佐倉さんの言う通り、須藤くんは全面的に被害者です。どうぞ、慎重な判断を求めます」

「ぼ、僕らは無実です生徒会長!」

「俺が無実だ!こいつらの言ってることは全部嘘だ!」

「そこまでだ、黙れ」

 

 嘘の押し付け合いに、会長が喝を入れる。それだけで場の主導権が一瞬で堀北学という男1人に移った。

 

「いま、これ以上の話し合いは無意味だ。どちらの主張も並行線。つまり、どちらかが非常に悪質な嘘をついているということだ。確認しておこう。Cクラス、お前たちの主張に嘘偽りはないな?」

「も、もちろんです」

「Dクラスはどうだ」

「俺は嘘なんか一個もついてねえ」

「では、明日の同時刻、同じ場所でもう一度審議を行う。その時刻までに相手の主張の嘘を証明できなければ、今ある材料のみでの判断を下す。以上だ」

 

 生徒会長はそう言って締めくくった。

 猶予は丸一日。その時間内に行動が間に合うかどうか、それをシミュレートする。

 堀北は時間が足りないと抗議しているが、これ以上の延長は無理だろう。

 限られた時間の中でやるしかない。

 退室を指示され、その場にいた、生徒会の2人以外の全員が外に出される。

 坂上先生は、泣きそうになっている佐倉に近づき、嘘つきがどうのと責め立てた。

 俺は少し可哀想になったが、ここではどうすることもできない。

 その時。

 ドンッ、と体がCクラスの石崎とぶつかってしまった。

 

「ん、ああ、悪い。不注意だった」

「チッ、気をつけろよ嘘つき野郎」

 

 そう悪態をつきながら、Cクラス側4人は立ち去って行った。

 

「随分と大見得を切ったな堀北。傷口を広げる結果になるかもしれないぞ?」

「負けるつもりはありません。では、これで失礼します」

 

 そう言って、堀北がその場から立ち去る。須藤もそれに続いた。茶柱先生も、2人とは違う方向に歩いていく。

 残されたのは俺と佐倉。

 見ると、すでに佐倉の目には涙が浮かんでいた。

 

「ごめん、速野くん……私が、もっと早く名乗り出てればっ……」

「お前は悪くない。むしろ俺は感謝したいくらいだ。佐倉の証言のおかげで、もう1日チャンスがもらえたんだ。今はその結果だけで十分だ」

「っ……でもっ……」

 

 坂上先生の追及や、須藤を救いきれなかった自責の念。様々な感情がないまぜになり、ついに佐倉の目から大粒の涙が流れた。

 人の涙、か。

 

 確かあれは……2年くらい前だったかな。

 俺の身内が亡くなって、親戚はみんな悲しんでいた。

 その時、俺は何をしてたっけ。

 全く思い出せなかった。

 ただ、その時の俺も、今の佐倉と同じように様々な感情が混ざっていて、非常に不安定な状態だっただろう。

 数分経って佐倉の涙が収まり、教室へ戻ろうとした時。

 

「なんだ、まだいたのか」

 

 感情のこもっていない冷たい声。生徒会室から出てきた堀北学のものだった。

 

「失礼、もう帰りますよ」

「どうするつもりだ」

「は?」

「お前と鈴音がこの場に来た時は、何か策を見せるものだと思っていたのだがな」

「Dクラスの俺に何を期待してるんですか」

「つまり、鈴音の暴走だった、と」

「さあ、妹さんの考えてることはよくわかりません……ただ、話し合いに参加していたのはあの場にいた11人だけではないですから」

 

 会長はそれを聞いて一瞬意外そうな表情を作り、俺に言った。

 

「……なるほど、面白いことをしてくれたな」

「え?え?」

 

 会長は恐らく、その一瞬で俺がやったことを看破したのだろう。書記のほうはまだ分かってなさそうだ。まあ、書記も優秀なんだろうし少し考えれば分かるだろ、多分。

 

「それから、佐倉と言ったな。目撃証言とその証拠写真は、確かに議論の場に出すだけのものだった。だが、その信用度はお前がDクラスということでどうしても下がってしまう。今回、お前の証言が素直に受け入れられるとは思わない方がいい」

「わ、私はただ……本当に……」

「ならば、それが戯言にならないよう証明するんだな」

「それは俺の管轄外です。妹さんなんかが上手くやってくれるんじゃないですか」

「ふっ、期待しておこう」

 

 そう言い残し、会長は去っていった。

 期待なんて一ミリもしていないだろう。できるはずがない、というような反応だった。

 

「佐倉、そろそろ」

「わ、私……」

「早く戻ろう。俺はもちろん、綾小路も、堀北も、櫛田も須藤も、誰1人としてお前を責める奴はいない」

「でも……」

「教室に入らなくてもいいから。いつまでもここにいるわけにはいかんだろ」

 

 そう言って、俺は少し強引にこの場から離れさせた。

 

 らしくないな、と思いつつも、佐倉の手首を引っ張って。




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