実力至上主義の学校に数人追加したらどうなるのか。※1年生編完結 作:2100
では、どうぞ。
ep.extra edition
「はあ、はあ……ふう、きっつ」
手元には、大量の汗を吸い込んだタオルと自販機で買った無料の水。
そして、割と新品のバスケットボール。
これは先日、クラスポイントとして入ってきた87ポイント、プライベートポイントに換算して8700ポイントから出したものだ。
そろそろバスケがしたくなったのと、最近の体力低下を危惧して、運動不足解消のために買った。
因みに服は持っていなかったので、ジーパンだ。
場所は、佐倉と初めて会ったバスケットコート。今日もやはり無人だった。
まあ、その方が都合はいい。もし2人や3人と一緒になったら、シュートを外した時とかにボールを取ってあげないといけない暗黙のルールのようなものがコートにはある。そういうのは気まずいんで遠慮だ。
「速野?お前何してんだよ」
「?ああ、須藤か……」
そこに、セカンドバッグを持った須藤が現れた。
「俺は見ての通りだ。お前は?普段ここに人なんて来ないが」
「午後から部活なんだけどよ、始まる前に練習しとこうと思って早めに出たんだ。そしたら、誰かがバスケしてるっぽいから寄ったんだ。バスケ好きなのか?」
「ああ、まあ球技の中では一番だな」
「おお、いいこと言うじゃねえか!やっぱバスケが一番だよなあ」
「お、おう……てか、お前はどっちかって言うと個人競技向きのタイプだと思うんだが、他のスポーツはどうなんだ?」
こいつのスポーツの才能なら、基本的なスポーツならなんでもいけると思うんだがな。
「俺も元々はそう思ってたんだ。でも、やってみた中でバスケが一番しっくりきたんだよな」
「ふーん」
まあ、そういうこともあるか。
「時間あるし、ちょっとやろうぜ。1on1」
「お前が相手だと勝負にならないだろ……」
「やってみようぜ!いいだろ?」
「……わかったよ。俺が雑魚すぎて文句言うなよ」
「わあってるって」
ほんとにわかってんのかな……
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「はあ、はあ……お前、ダンクなんか止められるわけねえだろ……」
須藤の動きは、相対してみると予想以上だった。とにかく速く、でかい。
しかもダンクもかましやがる。身長差10センチ近いのに、俺が止められるすべなんてあるはずがなかった。
「もう時間ないし、ほら、お前のボールで最後な」
「ああ」
須藤が俺にボールを渡す。
それを受け取り、ボールをつき始める。
須藤は俺にあまり近づいて来ない。
それを見て、俺はスリーポイントラインの割と後ろの方からシュートを打った。
「は!?」
予想していなかった須藤は跳ぶこともなく、宙に浮くボールを眺める。
俺がバスケで一番自信があるプレーは、フリーの状態でのスリーポイントだ。
1人で黙々と練習できるからな。
ボールは狙い通り、綺麗にリングを通った。
「ふう……」
「ま、まじかよ……もっかいだ!」
「いや、俺はいいんだけど……時間がないって」
「いいからやるぞ!」
「分かったよ……」
もう一度ボールを受け取る。
今度は間髪入れずにシュートを……
「やらすか!」
須藤はそれを読んで反応する。
まあ、フェイクだけど。
「だからやらすかよ!」
須藤はそれも読んでいた。素早く反応して俺の前に回り込む。
俺は須藤の体重のかかっている方向を読んで、それと逆方向にボールをつき、須藤を抜き去る。
しかしそれにもついてきたので、さらにかわそうとターンアラウンド。そして台形のあたりでシュートを打った。
「届けっ……!」
「うお……」
追いつけないと思っていたのに、須藤は全力で跳んで阻止しようとした。
そして、ボールはリングに阻まれ、落ちた。
「くっそ……お前、触ったのか」
「指先だけだったけどな」
どうやら、須藤はボールに触れていたらしい。
「やっぱすげえな。レギュラーなのも頷ける」
「そりゃこっちのセリフだぜ。なんでお前、こんなに上手いのにバスケ部入らなかったんだよ。小宮とか近藤よりは上手いぞ」
このあいだの件のCクラスのバスケ部2人の名前が出る。
「買いかぶりすぎだ。体力的な面も考えて無理だろ」
「んなの後から付いてくるって。入れよ。顧問には俺から話しとくからよ」
「やめろって。俺は入る気は無い。いいからいけよ、遅れるぞ」
少し語気を強めてそう言った。
「あ、ああ、分かったよ。じゃあな」
「ああ、頑張れよ」
須藤は俺の態度に疑問を感じながらも、やはり遅れるとまずいのか、走って行ったようだ。
前にも言ったが、部活に入るとどうしても義務感が出てしまうため、あんまり好きではない。ポイントが入る可能性もあるかもしれないが、俺レベルでは恐らく貰えないか、貰えても大した分量ではないだろう。そういう分野での稼ぎ頭は須藤だ。
そこから15分ほどあと、帰り支度をしながら水を飲んでいるときだった。
「君、バスケ部に入る気は無いかね?」
「……は?」
須藤が監督に伝えたにしても早すぎるだろ、と思って、声のする方に振り向いた。
「やっほー速野くん」
ハイテンションで俺に声をかけてきたのは、一之瀬。そしてその隣にいたのは神崎だった。この2人の私服姿も初めて見るが、まあ、ファッションセンス高いな。ジーパンで運動してる俺よりは。
「お、おお……どうしたんだ?」
いつもはここ、誰も来ないはずなんだけどな……今日はどうしてか来客が多い。
俺はコートから出て、寮に向かって歩きながら質問した。
「今からお出かけだよ。そしたら、速野くんっぽい影が見えたからここに来たの」
「ふーん、2人でか」
見た所、他に人はいなさそうだった。もしやデートという格好か。
「違う。Bクラスの何人かで今から昼飯でも食べようという話になってな。向こうで待ってもらっている」
ああ、よく見たら3人か4人くらい集まってるな。
「じゃあ早く行ったほうがいいぞ。なんか悪いし」
「そうだな。速野、今から暇なら一緒にどうだ?」
「え?」
突然の誘いに、少し驚いてしまった。
「うん、それがいいよ。みんなも歓迎してくれると思うよ?」
「い、いや、俺普通にアウェイだろ……」
Bクラスで集まって、と言っていたし、俺以外は全員Bクラスだろう。
「大丈夫。みんないい人ばかりだから。ね?」
「俺としてもその方が助かる。男子の参加者が少なくてな」
神崎はそう言うが、女子は割とあんた目当ての気がするけど……
「ま、まあ、誘いは嬉しいんだが……遠慮させてもらう。今汗だくだし、少し風呂に入りたい」
言いながら、俺は自分の上着を指差す。汗に染まって、色が完全に変わっていた。
「うーん、そっか。じゃあ残念だけど、諦めるしかないね」
「ああ、悪いな」
「ううん、また誘うね。あ、もちろん速野くんからの誘いもウェルカムだよ?」
「機会と余裕があればな……」
Dクラスは、当然のことながら金銭的余裕は他に比べて少ない。俺も頑張ってはいるが、このボールに奮発してしまったからな。
それ以降も振られる話題に答えつつ、を繰り返していると、寮の出入り口に到達し、俺は2人に別れを告げて中に入った。
涼しいー……とエアコンの恩恵を一身に享受していると、隣に一之瀬がまだいることに気がつく。あれ、さっきじゃあなって言ったのに……
「何してんの……」
「あはは、ごめんごめん。ちょっと速野くんに聞きたいことがあってさ」
「聞きたいこと?」
「うん。今度から始まるバカンスがあるじゃない?あれについてちょっと意見を聞きたくて」
言われて、そういえばそんなのあったな、と思い出す。中間テストの時に男子が一斉に沸き立ったあれか。
「意見、って言っても……俺は正直憂鬱だ」
「え?楽しみじゃないの?」
「もう俺には船酔いしない未来が見えなくてな……酔い止めを今から大量に購入しとく必要があるな、と」
言うと、一之瀬が少し気の毒そうな表情をして答えた。
「へー、意外。酔いやすい体質なんだ」
「ほんとに不便なんだよな……」
何とかしたいが、何とかしようとして治るものでもないしな。こればっかりは仕方がない。
……ほんと、いろんな意味で遺伝子を恨む。
「えっと、私が聞きたかったのはそっちじゃなくて、学校側のこのバカンスの狙い?みたいなもの。速野くんはどう考えてるのかなーって」
「一之瀬は何かあると思ってるのか?」
「今までの経験から、私は何もないとは思えないなー」
「なるほどな……」
確かに、ただバカンスを楽しませるだけ、なんてこの学校がするとは思えない。何もないほうが不自然だ。
そこで、つい先日配られた日程表を思い出しながら言う。
「確か、大きく分けて二つ日程があったよな」
「うん。無人島のペンションで1週間と、残りが船上でくつろぐ、だったかな」
「じゃあ、そのどっちか、あるいは両方に何かしら仕掛けてくる可能性はあるな。油断はしないほうがいいかもしれない」
素直な意見を述べると、一之瀬はそれにうんうんと頷いた。
「だよね。貴重な意見ありがとう。じゃあ、お昼ごはん行ってくるね」
「ああ、楽しんでこいよー」
一之瀬は手を振って、Bクラスに合流して行った。
無人島で何かがある。
船の上で何かがある。
船上が戦場か。うん、我ながら気温を下げるいいダジャレだな。
その日からバカンスまで運動し続けたおかげで、そこそこ体力も戻り、体重が1キロくらい減りました。
豪華客船って言うから大丈夫だと思うが、船の揺れによってはそのバカンス中に3、4キロ減りそうだな。リバースで。
船酔いがひどくならないことを祈りながら、俺はバカンスに向けた荷物の準備を始めていた。
はい、次回から原作三巻分の本編に行こうと思います。
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