実力至上主義の学校に数人追加したらどうなるのか。※1年生編完結   作:2100

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はい、原作三巻分の始まりです。
それと、活動報告でも仄めかしていたように、近々更新スピードの低下が予想されます。
では、どうぞ。


第3巻
ep.22


 青い空。

 青い海。

 今の俺の居場所は太平洋。

 つまり船の上だ。

 船、といっても、多くの人がすぐに思い浮かべるレベルの旅客船じゃない。

 豪華客船。そりゃもうやりすぎだろってくらいの。

 高級レストラン、プール、シアタールーム、高級スパなんてものまで……しかもそれらが全て無料で使えるという待遇だ。

 中間、および期末テストで赤点を出さないという条件を見事クリアした俺たちDクラスは、晴れてこの夏休みのバカンスにありつくことができた。

 もちろん、それは大変喜ばしいことだ。普通はテンション爆上げだろう。朝の出発時にも、皆一様に浮かれた表情をしていた。

 しかし……少し憂鬱になる生徒がいることもご理解いただきたい。

 俺の今の最大の敵、それは「酔い」だ。

 幸い出港前に服用した酔い止めが効いているのか、まだ船酔いはしてないが……油断はできない。

 酔ったが最後、ここは逃げ場のない船の上だ。地獄の船旅が続くだろう。そのため船に乗り込んでからほとんどの時間を、俺は船内の自室で過ごしていた。

 今も特に何をするでもなく、部屋のベッドでゴロゴロしてぼーっとしている。暇潰しアイテムがないのはこれほど辛いことなのかと実感しているところだ。

 本なんて読もうものなら、一瞬でリバースの未来が見えるので今日は持ってきていない。勉強道具は一応持ってきはしたが……まあ、使うことはないんじゃないだろうか。多分。

 酔わないだけならプールにでも入っていればいい。あそこはある程度揺れるのが当たり前だし、船の揺れを感じないので酔うリスクは少ない。ただ、今日はそこまで活動的になれなかった。何より、プールでは沢山の生徒が賑やかに遊んでいるはず。その中に飛び込む気にはどうしてもなれない。

 思考を巡らせても、暇つぶしの方法は見つからない。

 考えるのを諦めて再びベッドに寝ころがろうとしていたその時、ピンポンパンポーンというありがちな機械音が部屋内に響いた。

 

『生徒の皆様にお知らせします。お時間がありましたら、デッキにお集まりください。まもなく島が見えてまいります。数分間の間、非常に意義ある景色をご覧にいただくことができるでしょう』

 

 そんな、一、二箇所突っ込ませてほしい内容のアナウンスが耳に入り、聞こえてきた方に目を向けた。いやまあ、目を向けてもあるのはスピーカーだけなんだけど。

 酔うのを恐れて、これまでこの無駄に豪華すぎる客船内をまともに歩いたことがなかった俺だが、さすがに今の放送は気になって、指示の通りデッキに出てみることにした。

 部屋にいた時から感じてはいたが、この船、かなり揺れが少ない。恐らくそういった設計になっているのだろう。歩いても、酔う気配はほとんどない。

 この程度の揺れなら、あまり臆病になることもないかもしれないな。クルージングはあと2週間ほどある。程々に楽しんでみることにするか。

 少し歩き、曲がり角に差し掛かった時だ。

 コツン、と誰かにぶつかってしまう。

 

「っと」

「あ、ごめんなさ……じゃあ」

 

 クラスメイトである堀北鈴音は、ぶつかったのが俺であると判明した瞬間に謝るのを止めて立ち去ろうとする。

 

「せめて謝罪し終わってから行ってくれよ……ぶつかったのは俺も悪かったが」

 

 堀北はジャージの上下をつけ、上の方はチャックを完全に閉め切っている。船内は適温だが、堀北には少し寒かったのか。

 それに、佐倉ほどではないが少し猫背の気もする。普段の姿勢のいい堀北であるからこそ少し気になるポイントだ。

 それから、その手に持っている白い袋はなんだ?

 

「おい堀北、どこ行くんだ? そこはデッキじゃないぞ」

「デッキ……? 私はデッキには行かないわ。水を買いに行くのよ」

「……そうなのか。船酔いか?」

「私は乗り物には酔わない体質よ。さっきまで本を読んでいたもの」

「ああ、そう」

 

 それだけ行って、堀北はその廊下の先の自販機に向かって行ってしまった。

 堀北なら、今の放送に違和感を感じてもおかしくないと思ったんだがな。

 そうでないとしたら、あいつは多分……

 まあ、今気にしても仕方ないか。

 そう思って、デッキに出た時。

 

「あ、あのよ堀北。ちょっと、いいか?」

「オレは堀北じゃない」

 

 須藤と綾小路のそんな会話が聞こえてきた。

 須藤が綾小路のことを堀北と呼び、綾小路はそれに対し当然の反応を見せる。なに、コント?

 

「何をやってんだお前ら……」

 

 呆れた顔で俺が聞くと、須藤が反応した。

 

「お、おお、速野! じゃあお前でもいいや。今、堀北のことを名前で呼ぼうとしてるんだけどよ」

「今話しかけてたの綾小路だっただろ」

「だからその練習だ練習! さっきは綾小路を堀北に見立ててたんだよ。いいから付き合えよ!」

「近づかないで。気持ち悪い」

 

 俺は少し顔を赤らめてそう言う須藤に、努めて突き放した言い方をした。

 

「な、なんだよそれ!一緒にバスケした仲じゃねえかクソが!」

 

 須藤は俺の反応に少し切れたようだ。いや別にバスケやったのは関係ないんじゃ……

 だが、こいつは半分勘違いをしている。

 

「いや……お前がさっきみたいなこと言った時の堀北の反応、だいたいこんなもんだと思うが……」

 

 須藤は少し間の抜けたような顔をした後、ああ、と俺の言ったことの意味を理解したようだ。

 そう、俺は須藤の言う通りしっかりと協力してやったのである。

 

「そういうことか……お前、やっぱいいやつだな」

「今回は別にいい。演技の必要もなかったしな」

「は? どういう意味だよ」

「なんでもない」

 

 堀北が言いそうなことと、俺の本音が被ったってことだよ。

 これ以上ここにいるとまた面倒なことになりそうだったので、その場を離れデッキの側面に移動した。

 すると、柵から外を見ている1人の女子生徒の姿が目に入った。

 

「あ、速野くんだ」

 

 この学年の最優秀クラスであるAクラスに所属しており、且つ俺の知り合いである藤野麗那だった。

 船を叩く潮風が、藤野のショートボブカットの銀髪をなびかせる。

 俺は軽く手を上げながらその場所に向かった。

 

「なんか久しぶりだね。最近買い物一緒に行ってなかったからかな?」

「まあ、多分そんな感じだろうな」

 

 俺と藤野は須藤の事件の後、一度も連絡を取っていなかった。何故かは分からないが、お互いに連絡するのが気まずくなってしまったのだ。

 そのため、約2週間ほど連絡を取らない状況が続いて現在に至るが……なんか、あっさりと話せたな。

 

「あ、島ってあれのことかな?」

 

 そう言って藤野が指差す方向を見ると、たしかに島の輪郭が確認できた。

 夏休みのバカンスの日程の一つ、無人島でのペンション宿泊はこの島で行われるのだろう。

 船はどんどん島に近付いていく。もうすぐ到着だという話を聞きつけたのか、他の生徒たちもぞろぞろとデッキに集まってきていた。

 そしてついに、島に生えている木の1本1本が肉眼で確認できるような距離にまで接近。このまま船着き場に船を停めるのかと思いきや、そこをスルーし、何故か旋回を始めた。

 しかも割と速度が速い。

 

「結構綺麗だねえ……船が着いたら、ここのビーチで自由に泳げるんだよね?」

「ん、まあ、自由行動って書いてあったしそれもいいんじゃないか」

 

 答えながら、俺は思わず藤野の水着姿を想像してしまう。

 うーむ……そもそもこいつどんな水着着るんだろう?よく分かんね。

 俺の妄想力はここまでだったよ……池や山内とかなら、そのさらに先の先まで行けるんだろうけど。

 しかし何を隠そう、藤野は文句なしの美少女なのだ。

 そんな横顔を見ていると、思わず胸が……ちょっとムカムカと……

 

 やべ、酔ったかも……

 

「じゃ、じゃあ……その、良かったら……ってあれ? 大丈夫速野くん?」

 

 俺の様子を見た藤野が少し戸惑った顔で言う。

 

「なんとか……な。あと、あんまこっちを目に入れないほうがいいぞ……」

「え……? あ、あー……うん、分かった」

 

 意味を理解してくれたようだ。

 いつリバースしてもいいように、俺は柵から顔を出して高速旋回が終わるのを待った。

 なんで急に島の周り回るんだよ……しかもあんな速いスピードで……

 文句を垂れつつも我慢し、1分ほどで船は完全に停止した。

 

『これより、当校が所有する無人島に上陸いたします。生徒は全員ジャージに着替え、所定の荷物と携帯電話を確認した後、それらを忘れることのないように持参し、30分後にクラスごとにデッキに集まってください。それ以外の一切の私物の持ち込みを禁止します。また、暫くお手洗いに行けない可能性がございますので、忘れずに済ませてください』

 

 そんな注意事項が再びアナウンスで流れ、デッキにいた生徒は散って行く。

 悠長にしている時間はあまりない。俺たちもすぐに戻って準備する必要がある。

 だが藤野と別れる直前、最後に少し気になったことを質問した。

 

「なあ、お前さっき何か言いかけなかったか?」

「え?……あ、ううん、何でもないよ。気にしないで」

「……そうか、ならいいんだが」

「じゃあ、また後でね」

「わかった」

 

 何でもない、と言われるが、そういう時って大体何かあるんだよな……まあ、踏み込んでくるなという意味だろう。無理な詮索はやめておいた。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

『敷地内への携帯の持ち込みは禁止だ。各担任にしっかりと預けるように』

 

 拡声器から聞こえる声に従い、生徒がぞろぞろと船から出ていく。

 太陽が容赦なくジリジリと照りつける中、下船には意外と時間がかかり、生徒からは暑い暑いと不満が出ていた。

 時間を取っている原因は、タラップの両脇の教師が降りる生徒一人一人の荷物検査をしていることだ。

 普通登校日は私物の持ち込みは自由なのに、何故バカンスであるはずのこの日だけはこんなにも厳しいんだろうか。普通逆じゃね?

 それ以外にも気になることはいくつもある。

 客船のヘリポートにとまっているヘリは何のためにあるのか。

 また、無人島に建てられているペンションで1週間を過ごす、という話のはずだったのに、先ほど高速旋回した際に、宿泊施設らしきものは確認できなかった。

 ふと、先日の一之瀬との会話が頭に浮かぶ。

 

『私は何もないとは思えないなー』

 

 もう、この時点でお盆でも隠しきれないくらい怪しさ100パーセントだった。

 しかしほとんどの生徒たちは、まだこれが単なるバカンスであると信じて疑っていないらしい。暑い暑いと文句は言いながらも、その表情は明るいものだ。

 やがて荷物検査と下船を終えた俺たちに、担任の声が響く。

 

「これよりDクラスの点呼を行う。名前を呼ばれたものはしっかりと返事をするように」

 

 素早く40人分の点呼を終え、ピシッと整列する各クラス。ジャージは長袖なので暑い。袖を曲げたいが、日焼け止めをつけていないこの状態では、蛇の脱皮のように皮膚が剥けてしまうだろう。

 そんな中、1人の大男が用意されていた壇上に上がった。

 以前藤野から話を聞いていた、Aクラスの担任の真嶋先生だ。堅物で真面目。一見体育系だが、頭脳は明晰で、複数の教科を教えることもできるらしい。

 

「今日、この場所に無事につけたことを、まずは嬉しく思う。しかし、1人の生徒が病欠でこの行事に参加できなかったことは非常に残念でならない」

 

 それは可哀想だ。

 普通の旅行でも悲しいだろうに、この訳わからんくらい豪華な旅行となれば、残念さの度合いも桁違いだろう。

 まあ本当にこれがバカンスであったなら、だが。

 そのうち、先生たちの行動に、生徒がようやく疑問を持ち始める。

 特設テントに、複数台のパソコン。そして教師の険しい表情。

 そして生徒が疑問を持つようになるのを待っていたかのようなタイミングで、一際大きい声が拡声器から鳴り響いた。

 

「ではこれより、本年度最初の特別試験を開始する」

「と、特別試験?」

 

 やはり、何か仕掛けてきた。一之瀬の不安は的中していた。

 

「期間はこれより一週間。8月7日の正午に終了となる。試験の内容は、これから1週間、この無人島でクラスメイト全員と集団生活することだ。また、これは実在する企業でも実施されている現実的、且つ実践的なものであることをはじめに告げておく」

「無人島で生活って……この島で、寝泊まりするってことですか?」

「その通りだ。その間君たちは寝泊まりする場所はもちろん、食料や飲料水に至るまで、全て自分たちで確保することが必要になる。試験実施中、許可のない乗船は許されない。試験開始時点で、各クラスにテント2つ、懐中電灯2つ、マッチを一箱支給する。また、歯ブラシに関しては各生徒に1セットずつ、日焼け止め、女子生徒のみ生理用品は無制限で支給する。各クラスの担任に願い出るように。以上だ」

「は、はあ!? マジの無人島サバイバルかよ!? そんなの聞いたことないっすよ! 漫画の世界じゃないんですから! 第一テント2つで全員寝られるわけないじゃないっすか! てか、飯も自給自足とかどういうことっすか!?」

 

 池がその場にいる全員に聞こえるほど大きな声で喚く。

 しかし、真嶋先生はその声に呆れたように返答した。

 

「君は今聞いたことがないと言ったが、それは君が歩んできた人生が浅はかなものであったことにすぎない。はじめに説明しただろう。これは実際に企業研修でも取り行われているものだと」

「そ、そんなの特別じゃないっすか!」

「これ以上みっともないマネはするな。真嶋先生が言ったのはほんの一部。これは、誰もが知る有名企業でも取り入れられていることだ。それを、まだただの高校生に過ぎないお前らに否定する権利があると思ってるのか?」

 

 そう池に冷たく言い放ったのは茶柱先生だ。

 確かに、世の中には様々な企業が存在する。成人した社会人でもない俺らには頭ごなしに否定する権利はなかった。

 しかし、それではいくつか疑問が残る。

 

「しかし先生、今は夏休みですし、この行事の名目は旅行のはずです。企業研修なら、こんな騙し討ちのような真似はしないと思いますが」

 

 ある生徒が疑問をぶつける。それも俺が気になった部分の1つだ。

 もう1つ気になったのは、中途半端に物資が支給されている点。食料は全員自給自足、日焼け止めや生理用品は無制限だからいいとしても、池の言った通り、テントが2つでは全員が寝られるようなスペースがない。もし企業研修なら、こんな不平等を生み出すだろうか。

 真嶋先生は、質問した生徒に少し感心したように答えた。

 

「なるほど、確かにそういう点では不満が出るのも納得できる。だが特別試験と言っても、これは苦痛を強いるものではない。この1週間、君らは何をしようと自由だ。海で泳いだり、バーベキューをしたり。キャンプファイヤーで友と語り合うのもいいだろう。この試験のテーマは『自由』だ」

「んっ? え、試験、なのに自由って……? ちょっと頭こんがらがってきた……」

 

 池がそうなるのも無理はない。他の生徒も困惑している。

 

「この無人島における特別試験では、まず、試験専用のクラスポイントを全クラスに300ポイント支給する。これを上手く使うことで、この試験を乗り切ることが可能だ。今から配布するマニュアルには、ポイントで購入できるすべてのものが載っている。食料や水、無数の遊び道具なども取り揃えている」

「つまり……その300ポイントで欲しいものがなんでも買えるってことですか?」

「そうだ」

「で、でも試験っていうくらいだから、何か難しいのがあるんじゃ……」

「いや。2学期以降への悪影響は何もない。それは保障しよう」

 

 また、この学校は変な言い方をしてくる。

 真嶋先生は「悪影響」という言葉を使った。

 つまり影響がない、というわけではない。

 俺たちにはまだ説明されていない、2学期以降に影響が出る何らかのルールがあるんだろう。

 俺のその疑問を含め、次の真嶋先生の言葉ですべてが明らかになった。

 

「この特別試験終了時には、各クラスに残ったポイントをそのままクラスポイントに加算し、夏休み明け以降に反映する」

 

 生徒全員に衝撃が走る。

 やはりきた。2学期以降への「影響」。

 つまり、これはプラスを積み重ねることを目的とした試験。

 そして、今まで俺たちが経験してきたものとは別種の試験だった。

 単純な学力や運動能力ではなく、忍耐力や環境への適応力が問われている。

 

「今からマニュアルを配布する。紛失の際は再発行も可能だが、ポイントを消費するので確実に保管しておくように。また、試験中に体調不良などでリタイアした生徒がいるクラスは30ポイントのペナルティを受ける。今回の旅行の欠席者はAクラスだ。よって、Aクラスは270ポイントからのスタートとなる」

 

 Aクラス自体に驚きはなかった。しかし、他クラスにとっては無条件でAクラスとの差が30ポイント縮まった瞬間でもある。「おお!」と思った生徒も少なくはないだろう。

 残りは各クラス担任から説明を受けるよう指示され、クラスごとに分かれて集まり始める。池は来月から3万だ!と喜び、女子もポイントが入ったら何を買おうか相談しながら歩いていた。

 Dクラスの集合場所には、担任である茶柱先生が立っていた。

 前の長テーブルの周りには、テントなど、最初に全クラスに配布される支給品が積み上げられている。

 

「今から全員に腕時計を配布する。試験中、この腕時計を許可なく外すことは認められていない。これには時刻だけではなく、GPS機能、体温、脈拍など、様々な機能が搭載されている。非常事態に備えて、学校側にそれを伝える手段も用意されている。緊急時には迷わずそのボタンを押せ」

「非常時って、まさかとは思いますけど熊とかいませんよね……」

「仮にもこれは試験という形を取っているからな。結果を左右する質問には答えられない」

「大丈夫だと思うよ。学校側もできるだけ危険を取り除いているだろうし。多分この腕時計は、僕らの健康管理が目的なんだよ」

 

 平田がそう言って安心させる。

 まあ、生徒の命に関わるようなことがあれば国として困るだろう。この学校は国主導だ。そんな責任問題になるようなことはしないはずだ。

 客船にもヘリみたいなのがあったが、あれはドクターヘリということか。

 

「これ、つけたまま海に入ってもいいんすか?」

「完全防水だから安心しろ。万一故障した場合、直ちに担当者が代用品を持ってくることになっている」

 

 やっぱり、準備に抜かりはない、か。故障の際には何かしらのサインがあるということだろう。

 

「先生、ポイントを支出しない限り、僕らは全て自分たちで何とかしなければならない、ということですか?」

「そうだ。解決方法を考えるのも、この試験の一環。私の関知するところではない」

「大丈夫だって。魚とか果物とか捕まえてさ、寝るのは葉っぱとかでなんとかすりゃいいじゃん。最悪体調を崩してでも」

 

 池はそういうが、学校側はそれを認めていない。

 

「残念ながら池、お前の目論見は外れている。マニュアルの最後のページを見てみろ」

 

 そこには注意事項として、マイナス査定の項目があった。

 大きく体調を崩したり、大怪我をしたりして続行不可能と判断された場合はマイナス30ポイント、そしてリタイアとなること。

 環境を汚染する行為を発見したら、マイナス20ポイント。

 午前午後8時の1日2回ある点呼に遅れた場合、1人につきマイナス5ポイント。

 最後には最も重い罰として、他クラスへの暴力、略奪行為、器物破損を行なった場合、そのクラスは即失格、対象者のプライベートポイントを全て没収するとあった。

 最後を除いた3つは、単純な我慢比べになることを避けるため作られたルールだな。

 

「無理するのは勝手だが、リタイアする者が多くなればその努力は水の泡になることを覚えておけ」

 

 10人がリタイアになれば、300ポイントは全て失われる。

 

「ねえ、それってある程度のポイントの消費は仕方ないってことじゃないの?」

「初めから妥協する戦い方は反対だぜ。やれるとこまで我慢すべきだ」

「でも、体調を崩したら大変だよ」

「そんなこと言うなよー。我慢あっての試験だろ?」

 

 早速、池と篠原の間で意見が割れている。

 俺はマニュアルに載っている、ポイントで購入可能なものの一覧のページを開いた。

 真嶋先生の言っていた生活必需品は言うまでもなく、ボールやビーチフラッグ用の旗、パラソル、水上バイク、ボートなど、様々な遊び道具が取り揃えられていた。中にはこれ使う奴いるの?というものも。これだけ色んなものが取り揃えられているなら、この夏の思い出をしっかりと形にして残すことができるだろう。

 少し不安になるのは、担任に申し出ることで誰でも申請が可能、という点。誰でも申請可能にして大丈夫なんだろうか。

 

「先生、可能ならばお答えください。300ポイント全てを使い切ってから、リタイアする生徒などが出てきた場合、ポイントのマイナスはどうなるんでしょうか」

 

 堀北が挙手して質問する。

 

「その場合はリタイア者が増えるだけだ。ポイントがマイナスになることはない」

 

 真嶋先生が言っていた、悪影響はない、とはそういうことだ。

 だが、ずるい言い方だ。言葉通りに受け取ってポイントを吐き出したら夏休み明け以降他クラスとの差が広がり、実質悪影響にしかならない。その点Dクラスは最も影響が少ないとも言えるが。

 

「僕からもいいでしょうか。点呼というのはどこで行われるんですか?」

「クラスの担任は、自分のクラスのベースキャンプのそばに拠点を構えることになっている。ベースキャンプが決まったら報告しろ。点呼はそこで行われる。また、一度決めたベースキャンプは正当な理由なく場所を変更できない。それから、テントは8人用の大きなものになる。重量もあるので、運ぶ際には注意するように」

「なあ先生、話の途中悪いんだけどよ、トイレどこだ? さっきジュース飲んだせいで我慢できなくなっちまって」

 

 発言したのは須藤。だからトイレ行っとけって言われたのに……

 

「トイレか。今から説明しよう。トイレは男女共用、クラスに1つ支給されるこれを使え」

 

 そう言って茶柱先生が示したのは、段ボールだった。

 

「そ、そんな段ボール使うんですか!?」

「段ボールといっても、これは意外と優れものだ」

 

 言いながら茶柱先生はスムーズにトイレを組み立てた。

 手元には青いビニールと白いシートらしきものが見えた。

 

「これは吸水ポリマーシートといって、汚物を保護し固めるものだ。これで包んで汚物を隠すとともに、消臭する。その上にシートを重ねれば、1つのビニールにつき5回ほど使用できる。また、このビニールとシートだけは特別に無制限で支給される」

 

 無制限で支給か。

 しかし、女子の方は拒絶するような表情を浮かべている。

 

「む、無理! 絶対無理!」

「トイレくらいそれで我慢しようぜ篠原」

 

 ギリギリまで我慢してポイント支出を抑えたい池はそう反論する。

 

「男子には関係ないでしょ。段ボールのトイレとか絶対無理だから」

 

 しかし篠原も譲らない。

 池と篠原がぶつかる。言い争いが勃発しそうなタイミングで、茶柱先生は興味なさそうにその場を離れた。

 そこに近づき、茶柱先生に話しかける。

 

「先生、質問あるんですけど」

 

 茶柱先生は冷たい目で俺を見る。

 

「なんだ。なぜさっき挙手しなかった?」

「恥ずかしいじゃないですか」

「……早く済ませろ」

 

 俺の言い訳に呆れたようだ。いや、だって全体の場で質問するってなかなか勇気いるぞ?平田と堀北の度胸がいいだけで。気になっていることを質問しない理由なんて、たいていが恥ずかしいとか目立ちたくないとかそんなもんだろ。

 まあでも先生からすれば二度手間だろうし、手短に済ませたほうがいいだろう。

 

「さっきビニールとシートは無制限支給と言ってましたが、それらの目的外使用は可能ですか」

 

 あまり確率は高くないが、もし1日で2、3日分の食料が手に入った時、保存するのに使用するのも手だ。吸水ポリマーシートには消臭効果もあるようだし、汎用性は高いだろう。

 

「それはお前らの好きにするといい。ただし、説明した通り環境を汚染する行為は禁止されている」

「分かってます」

 

 どれだけ使ってもいいが、むやみに捨てたりはするなということか。

 その後少しのやりとりを経てDクラスの話し合いに戻ろうとしたとき。

 

「やっほー」

 

 そんな気の抜けるような声が茶柱先生の後ろから聞こえてきた。

 

「……何をしてるんだ」

「うーん、スキンシップ、みたいな?」

 

 声の主はBクラス担任の星ノ宮先生だった。

 

「お前は学校のルールを知らないのか?他クラスの情報を盗み聞きするのは言語道断だ」

「私だって教師なんだから、何か聞こえても漏らしたりなんて絶対しないわよ。それよりもさ、なんか運命感じない?2人揃ってこの島に来ることになるなんて」

 

 言いながら茶柱先生に絡む星ノ宮先生。

 俺はその話し方に引っかかりを覚えた。

 茶柱先生抜きでなら来たことがあるというような口ぶりだ。もしくは、前に一度2人で来たことがあって、長い間二度目の機会がなかった、というようなニュアンスか。

 この2人の勤続年数は知らないが、同じ学年の担当になったことがないということか、それとも……

 

「あ、速野くんもやっほ」

「……どうも」

 

 この人とは三回くらいしか会ったことがないはずだが、やけに馴れ馴れしい。高校時代は櫛田に近いタイプだったんだろうなあ、と勝手に想像する。

 前にもいったが、苦手なんだよなこの人。一応会釈はしたものの、多分いま俺の目は死んでるんじゃないだろうか。

 

「もー、そんな顔しないの。せっかく掴んだバカンスのお楽しみなんだからもっと楽しまなきゃ。ね?」

「そうですねー……」

 

 そえ思ってるなら、ちゃんとしたバカンスを用意して欲しかったんですけどね。まあ初めからあまり期待してなかったけど。

 

「サエちゃんと私はねー、高校時代からの友達なんだよー」

 

 へー、と適当に返事をする。

 

「おい、これ以上は問題行動として上に報告するぞ」

「う、分かったよー。そんな強く睨まないでよ。じゃあねサエちゃん、速野くん」

 

 そう言って、星乃宮先生は立ち去っていった。

 茶柱先生は心底疲れたような顔でため息をついている。

 しかし、俺はどうも気が気でなかった。

 

 思考を星乃宮先生に見透かされている気がして。

 

 しかし、気になってしまったものは仕方ない。

 

「あの、先生」

「話は以上だ。この意味が、お前なら分かるだろう」

 

 つまり、これ以上は何も答える気は無いってことか。

 聞かれたくない質問をされることを予想した上で。

 

 やっぱ、人の過去に踏み込もうとするもんじゃないな。

 新たな人生の教訓を一つ学んで、俺はDクラスの集まりに戻った。




大部分が原作通りでしたね。
それとこれ多分原作の誤字なんですけど、吸水ポリマーシートが給水ポリマーシートって書かれてたんすよね。いや、逆に給水してどうすんのっていう。因みに3巻40ページの12行目です。

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