実力至上主義の学校に数人追加したらどうなるのか。※1年生編完結   作:2100

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遅れてすみません。しかも遅れた割に原作通りです。
では、どうぞ。


ep.23

 俺がそこに戻ると、池と篠原の言い争いは一旦収まったようだ。

 星ノ宮先生もいなくなり、茶柱先生もそれを見計らって説明を始める。

 

「では、これより追加ルールを説明する」

「え、ま、まだ何かあんの……?」

「まもなくお前らにはこの島を自由に移動する時間が与えられるが、島の各所にはスポットという場所が設けられている。そこには占有権が存在し、占有したクラスにのみそのスポットの使用権が与えられる。ただし占有権の効力は8時間のみで、時間ごとに権利がリセットされる。つまり、その度に他クラスにも占有のチャンスがあるということだ。そして、一度占有するごとに1ポイントのボーナスポイントが与えられる。ただしこのポイントは試験中に使用できないので注意しろ。試験終了時にそのボーナスポイントは加算される」

「え、それめっちゃ重要じゃないっすか!ポイントも付くとか!今すぐ俺らで全部取ってやろうぜ!」

 

 試験終了時刻が6日後の正午であること、スポットを探し出す時間を考慮し、スポットの場所をそのままベースキャンプにできると仮定すると、一つのスポットを占有しきれば試験終了までに16から17ポイントのボーナスが入る。そこそこ重要な要素だ。

 だが、ひとえに占有しまくっていいものでもないらしい。

 茶柱先生に指示され、指定されたページを広げて見てみる。そこには、スポットについての詳細と茶柱先生の言ったリスクが書かれてあった。

 

・スポットを占有するためには専用のキーカードが必要である。

・他クラスが占有しているスポットを許可なく使用した場合、50ポイントのペナルティを受ける。

・キーカードの使用権はリーダーのみが有する

・正当な理由なくリーダーを変更することはできない。

 

 そして最終日、各クラスのリーダーを言い当てる権利が与えられ、他クラスのリーダーを1人当てるごとに50ポイントを得ることができる。反対に、言い当てられた場合は50ポイントずつ失う。そして、言い当てることができずに外してしまった場合は50ポイントのマイナス、そしてそれまでのボーナスポイントも剥奪。言い当てる権利も乱用していいものではなさそうだ。

 学校側の性格が見え隠れするルール作りだな。

 

「リーダーは必ず1人決めてもらう。無理にスポット占有に走らなければ、見破られることもないだろう。リーダーが決まったら私に報告しろ。その際にリーダーの名前が記されたキーカードを渡す。また、今日の点呼までに決まらなければこちらで勝手に決めることになる。以上だ」

 

 リーダーの名前が刻印されるということは、盗み見られてもダメということか。

 そうなると……

 

「リーダーを誰にするかは後で決めよう。まずはベースキャンプをどこにするかが先決だね。このまま浜辺に陣取るのか、森の中に入って場所を見つけるのか」

 

 平田がそう言うのに合わせて、もう一度追加ルールについて見てみる。

 その後ページをパラパラめくると、目が止まったページがあった。

 

「……なんだこれ。白地図?」

 

 おそらくこの島の簡易的な地図だ。地形図や等高線などは一切書かれていない。

 そして個人個人にボールペンも用意されていた。恐らく自分たちで埋めろ、ということか。

「浜辺でいいんじゃね?先生たちもいるし」

「いや、ここには何もないからね。水や食料、自分たちで確保するにはある程度探したほうがよさそうだ。スポットの存在もあるしね」

 

 平田の言う通り、浜辺に陣取るのは得策とは言えなさそうだ。いろいろ不便が多い。

 それに、占有されたスポットの許可のない使用にはペナルティが課されている。裏を返せば、スポットには利用するメリットがあるという風にも受け取れる。ならば、スポットをそのままベースキャンプとして使用できる可能性も高い。

 しかし、森の状況も分かっていない現状で森の中にむやみに入るのも危険が高い。ここは平田の指示待ちかな。

 

「つか、俺もう我慢できねえよ。トイレトイレ」

 

 言いながら、須藤は先ほど茶柱先生が組み立てた簡易トイレを持って、テントを組み立てて中に入っていった。その様子を見て、簡易トイレに反発していた女子たちは無理無理と言ってドン引きの表情を見せる。

 

「ねえ平田くん、トイレのことも早めに決めておいたほうがいいんじゃない?」

「決めるなんて言ってもよ、あれで我慢するしかないんじゃ?」

「いや、そうでもないよ。マニュアルには、20ポイントで仮設トイレを買うことができるって書いてある」

 

 平田は、試験用ポイントを使って購入することのできるモノの一覧を見ながらそう言う。

 

「絶対いる!てか、正直それでも嫌だけど……あんなトイレよりマシ!」

「ちょ、ちょっと待てよ!20ポイントだぜ!?一個もらってるんだからそれで我慢しろよ!」

「あんたが勝手に決めないでよね。意見をまとめるのは平田くんなんだから。ね?平田くん?」

 

 篠原は池の意見を無視し、平田に同意を求める。いや勝手に決めようとしてんのはどっちなんだか……なんて思っても絶対に口にも態度にも出さない。女シ、コワイ。

 

「うーん、そうだね。少なくとも女子にはちゃんとしたトイレがあったほうが……」

「平田、お前が意見をまとめるのは勝手だけどさ、なんでもかんでも決めていいわけじゃない」

 

 トイレ購入に賛同しようとした平田を、池が止めに入る。

 

「あーもう、軽井沢さんからも何か言ってよ!」

「え?あー、私は我慢してもいい、かな。ポイントは多く残したいし、学校は最低限の物は用意してくれてるみたいだし。我慢も必要じゃない?」

「そんな……軽井沢さん」

 

 女子のリーダー格、軽井沢は我慢する側に回ったようだ。

 そしてさらに我慢する派の幸村が参戦し、またこの不毛な言い争いは続いていく。俺はそれを傍観していた。

 意見を取りまとめるというのは、多数ある意見を調合して適度な状態にすることと同義だが、今回の場合は真っ向から対立しすぎていて平田も苦労しているようだ。若干購入側である平田も、男子からの反対意見がある以上それは無視できない。

 多数決を取ったら……どうなるだろうか。男子の7割くらいは我慢派だろう。女子も数人は軽井沢の意見に流されることを考えると、優勢なのは一応買わない派か。

 

「統率の取れていないDクラスを見ていると、先が思いやられるわね。平田くん、平和主義すぎるせいで意見の取りまとめがうまくいっていないじゃない」

 

 俺と同じく傍観していた堀北が、重めのため息をつきながらいった。

 

「なら、お前がやってみたらどうだ?まとめ役」

「冗談でしょう。私にできると?」

 

 ドヤ顔すんじゃねえよ。まあ確かにこいつは引っ張るっていうより引きずり回しそうだな。

 

「まあ、そういう意味でのリーダーはお前にはちょっと厳しいかもしれないな。でも俺は今回の試験、お前をリーダーに推す」

「リーダーって……カードを所有するリーダーのこと?」

「ああ。そこそこ優秀で、責任感も普通にあり、平田や櫛田、軽井沢よりも目立たない。その他諸々の条件もひっくるめて、俺はお前が妥当だと思ってるよ」

 

 まあもしかしたら、クラスのほとんどは自分じゃなきゃ誰でもいいと思っているもしれないが。カードの管理や使用は責任重大だし、これを進んでやりたがる奴は少ないだろう。だが堀北はAクラスを目指している。やる気の面は申し分ない。

 

「まあ、誰もやりたがってなさそうなら立候補してみろよ」

「……あまり気は進まないわね。何もかもが未知数すぎる。まだ自分なりの考えもまとまっていないし」

「お前の得意分野ではなさそうだもんな」

「あなたも得意だとは言えなさそうだけれど」

「得意でもないが、集団生活って点を除けば別段苦手意識もないな。自然自体は嫌いじゃない」

 

 自然の場合、答えが一つに決まってるからな。

「お前は我慢も苦にしなさそうだよな。上位クラスと差を詰めるチャンスなんだし」

「もちろん、我慢は必要よ。でも、それだけで1週間という期間を耐え抜くことができるかどうか、自信がないというのが正直なところね。何もかもが初見で分からないことだらけ。……あなたはどうなの?」

「俺も同じだ。何も分からん。でも風呂やトイレとかの長期間利用できるものに関しては、途中で瓦解するくらいなら初めから買っておいたほうが効率はいい」

 

 俺がそう答えると、堀北は少し驚いた表情をした。

 

「意外ね。とにかく生活費を切り詰めている守銭奴の発言とは思えないわ」

 

 守銭奴って……そこまで言うか。

 

「俺個人なら俺が我慢すればそれでいいが、集団生活となると勝手が違うだろ。俺はDクラスの忍耐力をそこまで高く見積もってない」

 

 Dクラスというか、他のクラスもそんなもんじゃないかと思ってる。

 1週間、まともな風呂トイレなしでの生活は可能なのか。それに伴って発生するストレス、不満などに耐えられるのか。

 たぶん無理だ。

 ならば、初めから長期間使うものに関しては初日から買っておけば7日間使い続けることができるし、これは買ったんだから少しは我慢しよう、という皆の意識も高まる。

 初めから我慢しすぎるとそれが裏目に出て、耐えられなくなった時にそれが爆発して一気にポイントが減る、なんて事態にも陥りかねないしな。

 堀北はそれを納得したのか、なるほどね、と呟いた。

 

「リーダーの話、ちゃんと考えといてくれよ。正直お前より適任がいないんだから」

 

 一応、念を押しておく。それが本音だった。

 堀北は少し考える仕草を見せ、言った。

 

「気乗りはしないけれど、ロクでもない人に決まりそうなら、考えておくわ」

「ああ、そうしてくれ」

 

 それで堀北との目線を一旦切ったとき、ある女子の声が聞こえた。

 

「ね、ねえ、AクラスとBクラス、もしかしてもう話し合い終わったんじゃない?」

 

 振り向いてみると、確かにそのようだ。

 まとめるとは違う、統率力を持つリーダーがいるクラス。それがスピードの差に現れている。スポットは早い者勝ちみたいな部分があるし、方針が決まったのなら浜辺に留まる理由はない。

 

「あーもう、トイレの話なんかしてる場合じゃないって!スポットの場所とか探してくる。幸村、女子に勝手にポイント使わせんなよ」

「そのつもりだ」

 

 幸村はトイレ購入を我慢する派だ。普段池と幸村はそこまで仲は良くないはずだが、利害の一致というやつか。

 

「池くん、ちょっと待って。無計画に森に入るのは危険だよ」

「ここで悩んでても解決しないだろ。ベースキャンプとかに使えそうな場所見つけたらすぐ戻るからさ。そのあと、全員そこで話し合えばいいじゃん。簡単だろ?」

 

 一理あるだけに、平田も無理に止めることはできない。須藤と山内も池についていくらしい。

 色々見つけてくる、と言って意気揚々と森の中に入っていった。

 ふと周りを見ると、皆暑い暑いと言いながら汗を拭いている。汗をかきやすい俺はそれ以上で、もうやばかった。

 平田もその様子を察知したらしく、みんなに言った。

 

「日陰に移動しようか。そこでも話はできるしね」

 

 その声に続き、Dクラス全員、森へと足を向ける。

 そんな時。

 

「ねえ……須藤くん、ちゃんとトイレ片付けたのかな?」

 

 俺含め、女子の声が聞き取れた数名は、立ち止まってテントを見る。

 この環境の中、テントの中の地獄絵図は想像に難くなかった。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 目の前に広がる巨大な木々。奥も見えず、一見やばそうな場所だが、きちんと安全の確認はされているはずだ。

 島の面積は、確かおよそ0.5平方キロメートル。マニュアルの地図にある島の形は円形に近い。直径はどんなに長くても1キロはないだろう。迷っても、6時間くらい同じ方向に進み続ければ海岸に出ることはできそうだった。絶対にオススメはしないが。

 男子は荷物持ち担当。俺は、他の荷物を持っていて、自分の分を持つことができない人のバッグを4人分持って歩いていた。私物の持ち込みが禁じられ、中に入っているのが水着やタオル、着替えだけだったとしても、それだけ持っていたら多少重さも感じる。

 そんなとき、危なっかしい様子で歩いている佐倉が目に入った。

 今もあちこちの枝につまずきそうになりながら頑張っている。

 佐倉は気分を良くしないだろうが、注意喚起をしておいた方が良さそうだったので声をかける。

 

「……大丈夫か。転けるなよ?」

「うぇっ!?あ、あ、うん、頑張るね……」

 

 話しかけられて驚いたのか、またこけそうになる。大丈夫なのか本当に……

 なんにせよ、ここで変に怪我してもらっては困る。今リタイアしてしまっても30ポイント失うだけだ。

 しっかし、一応何かあるとは思っていたとはいえ、こんな予想の斜め上を攻めてくるとは。一之瀬もここまでの超展開は予想していなかっただろう。

 1人が好きな人間は、当たり前だがこういう集団生活は苦手だ。堀北はある程度周りを無視できるし、状況が状況なだけに例外として、佐倉なんかはちょっと辛いバカンスになりそうだ。少し気の毒。

 もう少し足を進めると、前の人が立ち止まり、俺も止まる。

 

「ここなら、誰かに話を聞かれる心配はないね」

「なあ、俺たちもスポット探索に動くべきじゃないか」

「僕もそう思う。でも、まずはトイレの問題が先じゃないかな」

「それなら支給されているもので我慢すればいいだけの話だろう」

 

 ここでまた我慢派対購入派、平田と幸村の対決が始まろうとしていた。

 

「そのことについて、冷静になって歩きながら考えたんだ。結論から言うと……まずはトイレを一台購入すべきだと思う」

 

 今までとは違う、少し語気の強い平田の口調。

 

「勝手に決めないでくれ。反対意見も出ていただろう」

「トイレの設置は必要経費だよ。本当に簡易トイレ一台だけで、30人以上のクラスを回しきれると思う?」

「そこは……うまく使うんだ」

 

 それは無視できない問題だ。幸村も初めて言葉に詰まる。

 

「最悪の場合、トイレが1時間以上待ちなんてこともあり得ない話じゃない。言わせてもらうと現実的じゃないよ」

「それこそ現実味のない仮定だ。使う時間が1人3分だとしても、20人以上並ぶなんてそうそうないだろ。学校側も現実的だと判断したから一つだけ支給したんだ」

「幸村くんも、もう分かっていると思うんだ。トイレもそうだけど、支給されたテントもこれじゃ中途半端。これは学校側が、ポイントはある程度効率よく使った方がいいことを示してるんだと思う。それに、我慢がプラスになるとは考えにくいよ。不満やストレス、衛生面の問題もある。リタイアする人が出たら、30ポイントも失ってしまうんだ」

 

 一応俺も購入派。平田の意見には同感だ。

 それを抜きにしても、平田のロジックは強かった。最終的に全員とまではいかなくても、過半数の同意は得られると踏んで説得に踏み切ったんだろう。

 

「……分かったよ。じゃあ、買えばいいだろ」

 

 幸村が折れ、我慢する派だった他の男子にも「まあ、仕方ないか」という空気が浸透していく。

 重量は100キロ以上あるようだから、設置は少し骨だな。

 トイレの設置問題は解決し、ようやく話し合いは次の段階に移行する。

 

「次に、さっきも意見が出てたけど、僕もベースキャンプの探索はすべきだと思う。ポイントの消費にも関わってくるからね」

 

 確かにそうだ。ベースキャンプ、スポットの獲得は初日の最重要課題。

 探索の志願者を募るが、挙手したのはわずか2、3人。まあ、好き好んで森に入りたがる奴はあまりいないか。池や須藤が少し特別なだけだ。

 俺としては別に行ってもいいんだが……

「あの、私でよかったら行くよっ」

 

 と、そこで櫛田が手を挙げた。

 するとそれを皮切りにして男子が次々と手を挙げる。櫛田目当てが半分くらいだろう。

 挙手ラッシュがすぎ、現在上がっている手の数は11本。少しキリが悪い。

 

「あと1人、挙げてくれたら3人ずつのチームが組めるんだけど……」

 

 平田がみんなを見渡しながら言う。

 誰も挙げる気配がなかったので、俺が手を挙げた。

 

「あ……」

 

 同時に、佐倉も手を挙げた。

 それに気づき、俺はすっと手を下ろそうとする。

 しかし。

 

「ありがとう佐倉さん、速野くん。13人だけど、1チームを4人にすれば問題はないと思う。残りの3チームも、絶対に1人では行動しないようにしてほしい」

 

 俺が手を下ろし切る前に平田が俺の名前を口にしたおかげで、辞退しようにもできなくなってしまった。

 皆思い思いにチームを組み、残ったのは余り物。

 俺、綾小路、佐倉。

 そして……

 

「実に美しい太陽だ。私の体がエネルギーを欲しているようだねえ」

 

 Dクラスの曲者代表、高円寺六助だった。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 高円寺はどんどん先に進んで行ってしまう。こちらのペースなど意に介していない。

 高円寺が先頭、綾小路と佐倉が並んで歩き、俺はしんがりを務めている。2人は何か話しているようだが、内容は聞こえてこなかった。

 木陰とはいえ、やっぱり暑い。むしろ木陰だからこそ熱がこもっているようだった。

あんまり離れているとまずいな、と考え、俺は少し歩くスピードを早めて綾小路、佐倉との距離を縮めた。

 森を見渡し、進行方向を向いたその瞬間。

 

「うわぅ!?」

 

奇怪な叫び声とともに、佐倉がこけそうになる。やば、と思って俺は瞬間的に佐倉の腕を掴んだ。

 

「……大丈夫か?さっきもだったけど、注意してくれよ」

「え、あ、あ、うん……あ、ありがとうっ」

 

 言いながら目をそらす佐倉。その反応を見て、女子の体に触れることへの抵抗やためらいの感情が今になってやってきた。すぐに佐倉の腕を離す。

 少し気まずさが流れる中、再び歩き出した。

 茂みの深さによって、あちらこちらで進行方向が強制的に変更されるせいで自分がどこにいるかは分からないが、進んでいる大体の方向は掴んでいた。

 

「これじゃ、4人チームでも実質3人だな」

「……そうだな」

 

 高円寺はメンバーとは言い難かった。というか、向こうもこちらをチームだとは毛頭考えていないだろう。あいつの迷いのない足取りに、俺たちはついて行くだけ。まあ進行方向に文句を言う必要がなかったからなんだが。

 

「佐倉に速野、悪いが少し急ぐぞ」

「えっ!?う、うん……」

 

 高円寺に振り切られることを危惧した綾小路が歩くペースを上げる。

 俺はあまり問題なかったが、佐倉の方はさっきにも増して危なっかしい。

 

「こ、高円寺くん速いね……」

「あれは異常だ……」

 

 少し呆れながら佐倉に言った。

 

「高円寺、あんまり速く歩くのは危険じゃないか。迷うぞ」

 

 綾小路が言うと、高円寺は立ち止まり、髪をかきあげながら振り返って言った。

 

「私は完璧な人間だ。この森ならば、多少のことが起こってもノープロブレム。困ることがあるとすれば、それは凡人の君らが私を見失った時だ。その時は諦めたまえ」

「この森ならば、ってどう言う意味だ?」

「ここは自然の森とは言えない。少なくとも、日中迷うような愚かなことはしないさ。ま、だからこそ多少興味もあるがね」

 

 普段自分にしか興味がない高円寺が興味を持つ森。ただの妄言かもしれないが、高円寺がこの森を天然ではないと捉える根拠はなんだろうか。

 高円寺は直後、歩くペースをさらに速めた。

 

「お、おい……」

「大丈夫。頑張るから」

 

 佐倉がついていけるペースではないと判断し、高円寺に声をかけようとしたが、佐倉がそれを遮るように言った。

 

「……本当に大丈夫か?」

「うんっ」

 

 正直、無理されるよりはここで立ち止まってもらった方がいい。怪我でもしたらリタイアになるリスクがある。

 なので迷ったが、どうやら佐倉は決心固いらしい。

 

「……分かった」

 

 ここは頑張ってもらうことにした。

 内心すぐにばてるんじゃないかと思っていたが、結構頑張ってペースについてきていた。足元に注意して出来る限り大股で歩いて行く。相変わらず危なっかしいが、今までよりは集中しているようだ。

 

「凡人の君たちに質問があるんだがいいかな?」

 

 急に高円寺が立ち止まり、そんなことを言った。

 そして間髪入れずに次の言葉を吐き出す。

 

「君たちから見て、この場所がどのように映っているのかを聞かせてもらえないだろうか」

「ど、どう意味かな……」

 

 言われて、周りを見渡してみる。

 なんの変哲もない、森だ。

 強いて言えば、先程から少しだけ歩きやすくなった。足場は特に変わっていないから、少し傾斜がゆるやかになっているということか。

 

「オーケー、もういい。やはり凡人は凡人ということだね」

 

 興味を失ったように踵を返し、さらにずんずん進んで行く。あの無尽蔵の体力はどこから湧いてくるんだか……そういやプール授業の時、こいつ物凄い体格してたな。ほんとにポテンシャルが計り知れない男だ。

 

「あ、高円寺くん見失っちゃう……急がなきゃ」

 

 俺の左隣にいる佐倉がそう言う。ちなみに俺が真ん中で、綾小路が一番右だ。

 

「いや、もう無理だろ……俺もちょっと疲れたし、これ以上行っても離され続けるのが関の山だ」

「俺も少しきつい。ゆっくり行きたいんだが、いいか?」

 

 俺に続き、綾小路も言う。その提案には賛成だ。3人でペースを落とす。

 

「多彩な才能の持ち主だな、あれは」

「ああ……」

 

 あの男には底が見えない。あれでもうちょいクラスに協力的なら……いや、もしそうならあいつはDクラスにはいないか。

 綾小路が佐倉からハンカチを借り、木にくくりつける。こいつも高円寺の発言が気にかかるらしい。

 その後数分、茂みをかき分けながら歩いて行く。すると、急に開けた場所に出た。

 

「これ、道、なのかな……」

「そうみたいだな」

 

 太い木の幹が根元の方から切り倒され、通りやすくなっている、明らかに人の手が加わっている様子だ。

 だとすると……

 

「わ、すごい……」

 

 そこに、洞窟が現れた。これもどうやら人工物。重要な場所だと踏み、手元の地図に印をつけておく。

 

「これ、スポットかな……」

「さあ……近づいてみないことにはなんとも」

 

 スポットなら、占有を示すための装置が設置されているはずだ。しかしここからは確認できない。

 近づくために綾小路が一歩踏み出したところで、洞窟の中から人が出てくるのがわかった。俺は佐倉の腕を引っ張って左に、綾小路は逆サイドの物陰に身を隠す。

 佐倉が声を出さないように、俺は佐倉の手を掴んで口に押し付けた。

 やがて、1人の男が出てきた。スキンヘッドで身長も高めの男子生徒。割と目立つ見た目をしている。

 男の手には、カードらしきものが握られていた。

 すると洞窟からもう1人が姿を現し、会話が始まる。俺は耳をすませてそれを聞いた。

 

「この洞窟があれば、テントは二つでも十分ですね。でも、幸運でした。こんなに早くスポットが見つかるなんて」

「運?お前は船でのアナウンスで何も感じなかったのか」

「え……ただの観光目的のアナウンスじゃないんですか?」

「それにしては、旋回のスピードが速すぎた上に、内容も妙だった。そして、旋回の途中に開けた場所が見えていた。それがこの場所だ。あれは恐らく、学校側からのヒントだったんだろう」

「お、俺は全く気づかなかったです……でも、さすがです!成果が出れば、『坂柳』も黙るかもしれないですね!」

「内側に目を向けすぎていると足をすくわれるぞ。そして発言には気をつけろ。俺にはリーダーとしての監督責任がある」

「……す、すみません……」

「行くぞ弥彦。船からはあと二つほどスポットが見えていた。長居は無用だ」

「は、はい」

 

 2人はそう言って違う場所に向かった。数分待ってから出た。

 集中を切ると、近くから荒い息が聞こえてくる。

 

「あ、悪い……」

 

 佐倉の口を塞いだままだということを忘れていた。解放された佐倉は呼吸を整える。

 

「はあ、はあ、し、死ぬかと思ったぁっ……」

「そ、そこまで苦しかったか……」

「あっ、ち、違うの!苦しいって意味じゃなくてっ、そ、その……」

 

 言いたいことはよくわからなかったが、一応もう一度謝罪の言葉を述べた。

 佐倉の息が整ったあと、洞窟に足を運ぶ。

 そしてその内部には、壁に埋め込まれるように装置が設置されていた。

 残り7時間55分、Aクラスと表示されている。恐らくこれがスポットの装置だろう。

 藤野が言ってたようにクラス内で対立があるようだったが、学校側のヒントを看破した点はやはりさすがAクラスだな。

 

「ね、ねえ、さっきの人、自分がリーダーだ、って……」

 

 そう、致命的なミスがあるとすればそこだった。だが、ちょっとあまりにも油断しすぎじゃないか。

 洞窟の奥に入って調べてみるが、誰もいない。

 ってことは……

 

「ど、どうしよう、すごい秘密知っちゃった……」

 

 佐倉は興奮気味に言う。これでAクラスは高い確率で50ポイントとボーナスポイントを失うことになった。これはAクラスにとって痛いだろう。

 

「後で俺が平田に報告しておくよ」

 

 そう言った綾小路の言外には、このことは誰にも言うな、というニュアンスが含まれているように感じた。 




無理やり主人公を探索に突っ込みました。
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