実力至上主義の学校に数人追加したらどうなるのか。※1年生編完結   作:2100

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では、どうぞ。


ep.24

 集合場所に戻ったとき、はじめに探索に出ていた池が熱弁していた。

 

「川だよ、川があったんだよ!めっちゃ綺麗で、なんか装置みたいなものもあったんだ!あれがスポットってやつなんだよきっと!」

 

 こちらとは違い、かなり確定的な成果を上げたらしい。この場に須藤と山内がいないところを見ると、2人は見張り番か。

 

「それはお手柄だね池くん。でもまだ2チーム戻ってきてないから、もう少し待ってから移動しようか」

「悪い平田、高円寺とも途中ではぐれた」

「ああ、高円寺くんならさっき戻ってきて海に行ったよ」

 

 本当に1人で迷わずにここに戻ったようだ。

 

「ちゃんと統率がとれてなかったの?」

 

 綾小路の申告を聞いていた堀北がため息をつきながら言う。

 

「あれは俺たちが制御できるような人間じゃない……歩くペースは速いし、森での身のこなしも完璧だった。多分、森の構造について詳しいんだろうな」

「なるほど……性格以外は本当に完璧なのね」

「ああ、まあ誰かと似てるな」

「それは誰を指しているのかしらね」

「何でもございません……」

 

 強い視線で睨まれ、俺はその場を逃げるように立ち去った。鬼め。

 そのすぐ後ろに佐倉の姿があったが、俺と目が合った瞬間にどっかに走って行ってしまった。そしてこけそうになる。おいおい……

 残りの2チームも無事帰還し、池の案内で歩を進めるDクラス一行。

 10分経たないくらいのところで、先ほどと同じような開けた場所にたどり着いた。

 

「うん、川もあるし、木陰で太陽も防げる。それに地面も整備されてるみたいだ。ここならベースキャンプに向いてるね」

 

 周りを見渡して確認すると、不自然にでかい岩が一つある。

 平田もそれに気づいて確認すると、どうやらそれにはスポットの装置が埋め込まれているようだった。

 

「なあ、この川って俺たちが使っていいんだよな。どうやって証明するんだ?」

 

 確かに、川はかなり長く続いているようだ。気づかないうちに他クラスに使われてる、なんて事態もあり得ないことじゃない。

 綾小路と堀北が川に沿って歩いていく。俺はその場にとどまったが、こちらからギリギリ確認できる距離に立て看板があることに気づいた。

 語尾に禁ずる、と書いてあることはわかったが、それ以外は読めない。詳しい内容は後で2人に聞いとくか。

 

「ここをベースキャンプにするのは決まりだね。あとは占有するかどうか」

「するに決まってんじゃん!ポイントも入るんだし、メリットしかないだろ」

「いや、占有に動いたらリーダーを見破られるリスクも大きくなるよ」

「それは、あれだよ。こう、みんなで囲うようにして守れば見えねえって」

 

 確かに、背の大きな生徒に囲ませれば隠れるか。多分他のクラスも同じような感じで動くだろう。最低限取るべきリスクだ。

 

「じゃあ、あとはリーダーを誰にするかだね」

 

 鍵はそこだ。この重責を誰が負うのか。

 櫛田は何か提案があるのか、みんなに小さく円を作るように言って小さい声で話を始めた。

 

「私ちょっと考えてみたんだけど、リーダーになるには、平田くんや軽井沢さんだと目立ちすぎるでしょ?でも、責任感が強い人じゃないといけないし……その二つを満たしてるのは、堀北さんだと思うんだけど、どうかな?」

 

 櫛田からありがたい提案だ。本人はまさか櫛田から推薦があるとは思っていなかっただろうが、驚きの色は見られなかった。

 

「僕も賛成、というか、元々僕も堀北さんがリーダーに適任だと思ってたんだ。堀北さんさえよければ、頼めるかな?」

 

 堀北は少し考えたあと、俺の方に視線を向けてきた。

 俺は黙って、やってくれ、という気持ちを込めて見返す。

 すると、小さくため息をついてから言った。

 

「分かったわ。引き受ける」

 

 堀北が了承の意を示すと、平田はすぐに茶柱先生のところに報告に行き、キーカードを受け取って堀北に渡した。

 そしてスポットの占有の操作を行う。もちろん一連の作業の間、池の提案のとおり全員で堀北を覆い隠している。

 

「よし、これで風呂と飲み水はいけるな!」

「え、まさかこの水飲むの……?」

「あんた正気?」

 

 池はこの川を飲み水としても利用するつもりらしいが、当然反対意見が出る。

 

「なんだよ、綺麗な水じゃんか」

 

 確かに見た感じ透き通っていて、飲んでも問題なさそうに見える。しかし抵抗を感じる人は大勢いる。

 

「ね、ねえ平田くん、やっぱり無茶だよ、川の水飲むなんて……」

「なんだよみんな、何が不満なんだよ。天然水みたいなもんだろ?せっかく見つけた川なんだしさ、有効活用しようぜ!」

「じゃあ試しにあんたが飲んでみなさいよ」

「は?まあ別にいいけどさ……」

 

 篠原に言われ、池は川の水を手ですくい上げて一気に飲む。

 

「キンキンに冷えててうっめえー!」

「うわ、マジで飲んだよ。ドン引きなんだけど」

「はあ!?お前が飲めって言ったんだろ!?」

「無理無理、こんな野蛮人、私が一番嫌いなタイプだわ」

「なんだと!?」

 

 はあ、今度は飲料水の問題か……あと、池と篠原は対立しすぎだろ。

 先ほど川魚が見えた。魚が生息しているということは、その中には微生物やプランクトンが大量にいるということ。誰かが調子を崩さないとも限らない。俺自身、川の水を飲むことに抵抗がないといえば嘘になる。

 だが、最終的な結論としては別に飲み水に使ってもいいと思った。プランクトンと言っても、身体に害を及ぼすようなものは学校側が取り除いている、と思う。少なくとも人の手が加わっていることは確かだ。でないとここまで澄んだ川は実現しない気がした。

 まあ、元々水源が綺麗なだけかもしれないが。

 それに単純な話、安全性が確認されればいいわけで。

 

「篠原、お前いちいち文句つけんなよ。みんなで協力しないといけない試験だろ、これって」

 

 突然、須藤がまともなことを言い出した。その姿に少し驚いてしまう。

 こんな冷静で常識人っぽい須藤は初めて見た。

 

「ちょ、なに笑わせにきてるの?それ須藤くんが言う?」

「俺が迷惑かけたことは分かってんだよ。それで分かったんだ。自分がやったことは自分に跳ね返ってくるってな」

「……なにそれ。結局須藤くんもポイント使いたくないだけでしょ?」

「そんなこと言ってねえだろ。寛治、お前も少し落ち着けよ。いきなり川の水飲むなんて言われたら俺も抵抗あるし。なあ、確か水って沸騰させたら殺菌できるんじゃなかったっけ?とりあえずそれで試してみるってのはどうだ?」

 

 煮沸処理か。確かにそれでもいけるな。

 

「沸騰って、化学の実験じゃないんだから……思いつきで発言するのやめてよ」

 

 だが、篠原の方は引くに引けなくなっている状態。須藤の冷静タイムも限界が来そうだったところで、平田が2人の間に入って言った。

 

「とりあえず解散にしよう。今喧嘩しても意味はないし、まだ時間もあるしね」

 

 出た結論は、保留。

 なら、その指示に従おう。俺はその場を離れ、川に近づく。

 そしてジャージの内ポケットから、道具の目的外使用が可能かどうか確認した直後に俺が勝手に茶柱先生に申請した吸水ポリマーシートを取り出し、川の水に浸した。

 これはちょっとした実験。

 果たして、結果はどうなるだろうか。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 Dクラスのベースキャンプから少し離れた森にいた俺。日暮れの時間が近づいたので、持ってきたバッグを肩にかけて戻ることにした。

 その道中、俺はある人物を発見する。

 

「……佐倉?」

「ふえっ!?あ、は、速野くんっ……ど、どうしたの」

「いや、俺が聞きたいんだけど……」

「そ、その、焚き木拾い。綾小路くんを手伝ってて……」

 

 なるほど、佐倉は十数本ほどの枝を両腕で抱えている。

 

「……焚き木ね。じゃあ、俺も適当に拾ってみる。でも佐倉」

「な、なに?」

「湿ってる枝は多分ダメだと思うぞ。火つけるんだし」

 

 俺はキャンプ経験がないから、焚き木にどのような枝が向いているかなんて知らないが、湿ってたら火がつきにくいことくらいは分かる。

 だが、佐倉が持っている枝の中には湿ったものが結構あった。

 

「あ、そ、そっか……ありがと。でもこれどうしよう……」

 

 俺の話を聞いて、佐倉は湿ったものを捨てようとしているらしい。

 

「いや、捨てなくていい。俺が言ったことが当たってるかはわからないし、一応持ってってくれ」

 

 作業の量的にも、そっちの方が効率的だ。

 

「うん、分かった」

 

 それで納得したらしく、佐倉は歩き出した。俺もその後ろについて歩き、乾いた枝を拾い集める。

 木の枝の種類は二つの判断基準がある。

 太さと長さ。

 どの枝が適当か分からないので、俺は全種類を満遍なく拾う。

 そんな感じで歩いていると、そこに山内が現れた。

 

「佐倉、それ重いだろ、って、なんで速野がここにいんだよ!?」

 

 感嘆の声を出す山内。佐倉はビビったのか、俺の後ろに隠れてしまった。……いや、その、俺を盾にされても……

 取り敢えず山内の疑問に答える。

 

「いや、偶然枝拾ってる佐倉見つけたから……焚き木拾いなんだろ?俺も手伝ってるんだ」

 

 そう言って、山内に俺の腕の中の枝を見せた。

 

「く……で、でさ、佐倉。それ重いだろ?持ってやろうか?」

「い、いえ、大丈夫です……速野くんとか、綾小路くんとかの方を手伝ってあげてください……」

「かーっ、佐倉は優しいなあ!よし速野、持ってやるよ」

「綾小路の方手伝えよ。あいつ枝何本か落としてるぞ」

 

 そう指摘すると、しゃあねえなあ、と言って綾小路の元へ駆けて行った。

 

「……佐倉、山内って最初からいたのか?」

「え、えっと、うん。綾小路くんが初めに誘った時は断ってたみたいだったけど……」

「あれ、そうなのか」

 

 にしては山内の持ってた枝の本数、何故か佐倉より少なかったな……まあいいか。取り敢えず山内は佐倉への下心が隠しきれてないので間抜けだな。

 佐倉のペースに合わせ、ゆっくり歩いていく。

 

「……佐倉って結構活動的なのか?」

「え?えっと……どうして?」

「いや、さっきの探索にも参加してたし、焚き木拾いもやってるし……やけに熱心だなー、と」

 

 俺が考えていた佐倉の人物像と少し違う気がした。

 

「い、いや、そんなことないよ。ほんと、今もまだ混乱してて……」

 

 まあそりゃそうか。ってか、佐倉でなくても混乱するよな、この状況は。バカンスかと思いきや無人島サバイバルなんて。

 それでも、佐倉なりに頑張ろうとしてるのか。それならこれ以上何か言うのは野暮だろう。

 

 もう十分か、というくらい枝を拾い終わり、ベースキャンプへの帰り道。

 俺たちは、大きめの木にもたれて座り込んでいる少女を目撃した。

 同じクラスではないので無視すればいいだけの話だが、この少女は顔に痛々しい傷を作っている。強い力で殴られた後のようだ。

 それを見過ごせなかったのは山内だ。少女のもとに駆け寄ろうとし、綾小路に引き止められる。

 

「なんだよ?」

「あ、いや……悪い」

 

 しかし綾小路はすぐに掴んだ肩を離した。

 

「なあ、大丈夫か?何があったんだ?」

「……別に、なんでもない。ほっといて」

「いや、なんでもないって……なんでもないような傷じゃないじゃん。誰にやられたんだ?先生よぼうか?」

「クラス内で揉めただけ。気にしないで」

 

 自嘲を含んだ微笑を浮かべ、山内の申し出を断る。

 

「俺たちDクラスなんだけどさ、ベースキャンプに来るか?」

「は?そんなことできるわけないでしょ」

「ほら、困った時は助け合いっていうか、な?」

「私はCクラス。つまりお前らの敵ってこと。分かった?」

 

 Cクラス……ふーん。

 

「いや、でもほっとくなんてできないって。な?」

 

 山内の問いかけに、綾小路も佐倉も頷いて同意する。

 俺は特に反応しなかった。

 ほっとけないのは確かだが、それを素直に実行できないのはこの学校のシステムが原因だろう。

 

「女子1人残して行けないって。君が動くまで俺もここに残るから」

 

 そう言って地面に座り込む山内。はあ、やっぱ根は善人なんだなあ……

 まあ、その言葉もこの少女には届いていないようだが。

 

「にしてもさ、森の中ってジメジメして嫌な感じの蒸し暑さだよな。佐倉暑くない?」

「い、いえ、私はその……大丈夫です」

 

 そう答える佐倉だが、これは嫌な暑さに分類されるな。カラッとした暑さなら心地よさも感じるが、こういうジメジメした暑さには不快感を感じる。

 そこであの実験結果が大事になってくるんだが……後ででいいや。

 そこから十分ほどたち、山内の粘りに負け、その少女は腰を上げた。

 

「……相当なお人好し。うちのクラスじゃ考えられない」

「困ってる子をほっとけないだけさ」

 

 まあ、いい奴なんだよな、基本は。他クラスに自分たちの情報が漏れるリスクより救済を取ったんだから。

 

「でも、良かったわけ?お前らのキャンプの場所教えるなんて。案内までするとか」

「え?なんか不都合あんの?」

「……」

 

 あ、ただリスクを分かってなかっただけなのか。大丈夫か本当に……

 まあでも、ベースキャンプの場所なんていつかバレる。遅いか早いかの違いだ。

 それに大事な情報さえ漏らさなければ大丈夫だろうし、手はある。

 

「大丈夫だ。別に問題はないと思うぞ」

「だよな?じゃあノープロブレムってことで。俺は山内春樹。よろしく!」

「やっぱり馬鹿だ……私は伊吹」

 

 傷跡のある頬をなでながら言った。

 そしてその手の爪には、何故か土のようなものが挟まっている。さっきまで座っていた場所の土が掘り返されたような感じになっていることも少し気になった。

 

「最近の女の子って殴り合いの喧嘩すんのかよ……こわっ」

「ほっとけよ。他のクラスには関係ないことだろ」

 

 恐らく、山内の予想は外れている。誰がこの傷を作ったか、俺はなんとなく想像がついた。

 我慢はしているが、時々痛そうに頬を撫でる。

 そしてどこか煩わしそうにカバンを持ち直した伊吹の仕草を見て、山内は突然綾小路に持っていた枝を押し付けながら言った。

 

「な、カバン面倒臭いんだろ?持ってやるよ。な?」

 

 なるほど、さっき山内が持ってた枝の本数が少なかった理由と綾小路の枝が数本落ちてた理由がわかった。

 

「いいって、ちょっと、やめろよ」

 

 伊吹はそれを拒絶し、山内から離れようとして体を移動させた瞬間、バッグが木にぶつかってゴン、という鈍い音がした。

 

「わ、悪い、悪気はなかったんだって」

「分かってる。でも、私はお前らのことをまだ信用してない」

 

 そう言うと、伊吹はそれっきり黙ってしまった。山内もそのまま歩きだす。

 綾小路に押し付けた枝を取ることなく。

 

「……綾小路、少し持とうか?」

「……悪いが頼む」

 

 俺は上の部分の湿ってない枝を数本取り、自分の枝に加えた。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 結果から言えば実験は成功だ。一応平田に報告しておこうかと思ったが、ちょうど出かけているらしく、姿は見当たらなかった。

 

「俺に任せろよ!いいとこ見せるからさ!」

 

 早速火をつけるらしく、山内が意気込んでそう言う。

 俺はまだ自分が拾ってきた枝を持ちっぱなしだったことに気がついた。

 あ、と思ったが、気付いた時にはもう遅く、数十回チャレンジした山内がマッチに火をつけることに成功する。

 まあ、後で追加する用ってことでいいか……

 少し諦めかけたが、予想は外れて木には引火しなかった。

 

「あれ?」

「もっとじっくり火をつけるんじゃないか?」

「おし、じゃあ次はもっとじっくり……くそ、また折れた。不良品じゃねえのこれ?」

 

 不良品は俺たちだけどな、と言おうとしたが、空気がぶっ壊れるのが予想できたので口にしなかった。俺成長してる。

 山内は次々に失敗し、火がつかないまま折れてお役御免となったマッチが一本、また一本と地面に落ちていく。

 3本目の失敗のあたりでいい加減心配になってきた。久しぶりにダジャレっぽくなっちゃったっ♫

 そんなことはどうでもいいんだ。

 

「山内、このままのペースだと1週間もたないぞ」

「大丈夫だって。まだこんなにあるし」

 

 言いながら、マッチが大量に入った箱を見せてくる。いやまあ、多いは多いんだが……大丈夫かな本当に。

 

「おし、ついた。今度こそ!」

 

 ようやく成功し、今度は綾小路の指示通りじっくりと火をつける。

 しかし、火は枝を少し燃やすだけで簡単に鎮火してしまった。

 

「くっそ、なんでだよ。俺どこも間違ってないよな!?ちょっと先生に聞いてくる」

 

 そう言って山内は駆け出していくが、あの先生が俺らにアドバイスする確率はゼロに近いだろう。期待しない方がいいな。

 綾小路が、火をつけようとしている枝に近づく。俺もそれを見てそこに移動し、佐倉もそれについてきた。

 

「なんでつかないんだろうね……やっぱり速野くんの言った通りなのかな?」

「速野、なんて言ったんだ?」

「え?あ、ああ、佐倉には湿ってる枝はやめといた方がいい、とは言ったな。水分含んでちゃ、火がつきにくいのは当たり前だろうし。他に何か気付いたことあるか?」

「もしかしたら、火は予想以上に弱いものなのかもしれないな」

 

 佐倉には綾小路の言いたいことが伝わらなかったようで、首を傾げている。

 

「テレビとかで見る焚き木って太いイメージあるだろ?だから俺らはイメージ通りの太い枝を持ってきたけど、最初からこんなに太い枝じゃ火がつかないんじゃないか?速野の言ってるように湿ってるのも多いし。ちょっと手間だけど、乾いた細い枝とか枯葉とかを……」

「あれ?何してんのお前らこんなところで」

 

 綾小路の発言の途中で、池が戻ってきた。

 

「ちょっといま焚き木に苦労しててな」

「焚き木……って、そんな太いのでつくわけないじゃん。最初はもっと細い枝からやっていかないと上手くいかないぜ?それに湿ってる枝も多いし。だっせー」

「あ、それ綾小路くんが……」

「そうなのか。よかったら教えてくれないか?」

 

 フォローしようとした佐倉を遮って、綾小路が言う。

 

「しょうがないなあ。俺がレクチャーしてやる。まずはそこらへんで手頃な枝を……あ、速野が割といいの持ってんじゃん。それ貸してくれよ」

「あ、ああ」

 

 池に持っていた枝全てを手渡す。

 そして山内とは違い、一度も失敗せずスムーズにマッチに火をつけ、まずは細い枝から火を放っていった。その後頃合いを見て太い枝を追加していく。すると、見る見るうちに俺たちが思い描いていた焚き火になった。

 

「ま、ざっとこんなもんだな」

「やっぱキャンプ経験者は違うな。ありがとう」

「焚火のやり方は基礎中の基礎だからな。やり方がわかれば誰でもできるさ」

 

 池がキャンプ経験者……だから川の水に一切抵抗がなかったのか。この合宿、池がうまく機能することがクラスとして重要事項になりそうだな。

 

「くっそ、先生何も教えてくれな……って、なんで出来てんだよ!?」

 

 戻ってきた山内が悔しそうに言う。お前がいない間に池が全部かっさらっていったぞ。綾小路も焚火の仕組みには気づいてたみたいだが。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 しばらくして平田が戻ってきたので、俺は実験の結果の報告をすることにした。

 

「は、速野くん」

「……?」

「さっきから気になってたんだけど、その……手に持ってるシートって何?」

 

 佐倉がてとてとと小走りで近づいて俺に問う。

 

「あれだ、簡易トイレに使うシートだよ。ちょっとそれに関して報告してくる」

 

 俺は持っていたシートを佐倉に手渡す。

 

「あれ……なんだか冷たいような……」

 

 少し驚いたような反応を見せる佐倉。これで確信した。成功だ。

 平田の元へ近づく。佐倉もそれについてきた。フリーになるタイミングを見計らって声をかける。

 

「平田、ちょっといいか」

「速野くん。どうしたの?」

「これ簡易トイレのシートなんだが、暑さ対策に使えそうだ。タオルがわりに」

「え、タオルがわり?」

 

 俺は佐倉に頼んで、さっき渡したシートを平田に渡してもらう。

 

「冷たいね……もしかして川の水につけたの?」

「ああ。大体2時間くらい前に」

「2時間前……そんなに冷たさが保たれてるの?」

 

 佐倉も平田も驚いている。

 

「ちょっと説明してくれないかな」

 

 俺にシートを手渡しながら平田が言う。

 

「このシート、茶柱先生は吸水ポリマーシートって言ってただろ?高分子吸水ポリマーって物質は、保冷剤の中身にも使われてるんだ。それでこれも保冷できるかもしれないと思って、解散直後に川の水に浸して実験してた。役に立つかと思って」

 

 本当にただの勘だったが、結果が伴ってよかった。

 

「そういう使い方もできるんだね。すごいよ速野くん。このシートは無制限に支給されるからいくらでも作れるね」

「使い終わったシートはビニールにまとめれば環境の汚染の方も大丈夫だろ。ああそうだ。ビニールも何かに利用できないか?」

 

 この特別試験でポイントを残すには、用意されているものを使用用途以外に工夫して使うこともポイントになると思う。まあ微々たるプラスにしかならないが。

 

「ごめん、ちょっといまは思いつかないかな。でも本当に助かるよ。早速明日から探索するときにはみんなに持って行ってもらうことにしよう」

「ああ、じゃあそれ頼む」

「うん、わかった」

 

 そう言って、俺はその場を離れた。ずっと俺の後ろに隠れていた佐倉もそれに合わせてくる。だからなんで俺を盾にするんだよ……

 

「平田と話したことないのか?」

「あ、あるには、あるんだけど……その……話しかけてきてくれるのに、やっぱりどうしても会話するのは苦手で……」

「綾小路とは普通に話せてるみたいだし、頑張ればいけると思うぞ」

「……うん、ありがとう」

 

 返事した佐倉の表情は、微笑だった。これは安心を表している、と捉えておこう。

 この合宿をきっかけにして、佐倉にもちゃんとした友達ができることを願う。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

「おい、速野、ちょっと」

「は?いや、おい……」

 

 佐倉と別れ、先ほどの焚火の場所をうろうろしていたところ、急に山内に引っ張られた。

 

「なんなんだよ急に……」

「なあ、俺たちって友達だよな?」

 

 おお、こういうセリフを吐かれたことがないからなんと反応すればいいのかわからん……

 

「友達かどうかは知らんが、クラス内では比較的親しい方なんじゃないか。連絡先交換してるし」

 

 一応無難なことを言っておく。

 

「な、ならその親しい奴を応援してくれるよな?」

「なんの話だ急に……」

 

 文章に目的語がなくて意味がわからない。

 

「綾小路にも言ったんだけど、ここだけの秘密な?」

「お、おう……」

「俺さ……佐倉を狙おうと思うんだ」

 

 この場合の狙う、とは、どうにかして恋人同士の関係に持っていきたい、という意味か。

 

「ああ、だからお前枝拾いに参加したのか……」

 

 やけに佐倉に下心持ってるなー、とは思ってたが、なるほどそういうことだったか。

 

「なんでまた急に。あいつがアイドルだからか?てか、お前池と一緒に櫛田狙ってなかったっけ?」

 

 山内は、佐倉がグラドルであることを知っている1人だ。綾小路に知っている人リストを報告された。佐倉本人の希望でまだほとんど広まってないと思うが。

 

「それもあるし、なんと言ってもあの胸だぜ。やばすぎだって。それから櫛田ちゃんはレベル高すぎて無理だし、この際佐倉で、いや、佐倉がいい!それに佐倉って人と関わるの苦手だろ?優しいとこ見せたら落ちると思うんだよな」

 

 本人が聞いたら確実に嫌われるであろうことを次々言ってくる。

 

「お前なんでか知らないけど佐倉と仲いいじゃん?是非とも協力してほしいわけよ。な、この通りだ!」

 

 手を擦り合わせてお願いしてくる山内。

 リア充ってこういう相談が普段から飛び交ってるんだろうか。なんていうか、友達多いやつのデメリットの部分を垣間見た気がする。

 

「はあ……別に邪魔するつもりはないし、応援もする。ただ協力はしない。佐倉本人の意思も関わってくるだろうからな」

 少なくとも現時点で、佐倉の山内に対する印象は良くないだろう。それに、俺が協力したとして事態が好転するとは思えなかった。

 

「綾小路と同じようなこと言うなよー。お前も狙ってんのか?」

「なんでそうなるんですか……」

 

 綾小路もそんな感じのことを言ったらしい。

 薄々感じていたことだが、俺と綾小路の価値観は割と近しいものがある、気がする。少なくとも俺はそう感じていた。あいつには色々謎が多すぎるからよくわからないが。

 数字で例えたら分かりやすいかもしれない。綾小路を0として、一般の人が10離れているとしたとき、俺と綾小路の距離は大体7か8くらい。あれ、あんまり他の人と差なくね?

 

「まあ、頑張ってくれ。ちゃんと応援はするから」

「ちい、分かったよー。頼むぜ?」

 

 協力はしないと分かった瞬間、急に頼み方が雑になった。

 まあいいか。山内は本能に割と忠実みたいだし、そこが短所でもあり長所でもあるんだろう。

 

 虚言癖は直したほうがいいけど。




主人公はこんな実験をしてました。一応ググってみて保冷剤の中身だってことは本当らしいんですが、吸水ポリマーシート自体には保冷効果はないかもしれません。知っている方は教えてください。ただ、当作品は実在する団体、個人名、「現象」を必ずしも元にしたものではありません。御都合主義です。ご了承ください。
次話投稿にはまた少し時間がかかるかもしれません。申し訳ありません。
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