実力至上主義の学校に数人追加したらどうなるのか。※1年生編完結 作:2100
では、どうぞ。
夕食の時間が近づいてきた。さっきから腹が何度か鳴っている。
池がアウトドアに精通していることがわかり、先程から目覚ましい活躍を見せている。
「これ、クロマメノキだよ。桔梗ちゃんが見つけたの?すげーじゃん。あ、こっちはアケビだぜ。甘くて美味いよ。いやー、懐かしいな」
俺たちがみたこともない植物の種類を、一目見ただけで当てる池。どうやら食料としていけるらしい。とても助かる。
その流れで、先ほどの真っ向から池と対立していた篠原も仲直りできたらしい。
今までで一番クラスがまとまっている瞬間かもしれないな。
そして平田はこれを好機と見て、話を始める。
「皆、少し聞いてほしい。この試験を乗り切るためには、クラス全員で協力していかないといけない。揉めることもあって当然だ。でも、慌てず騒がず、力を合わせて乗り越えていきたい」
そこで一旦言葉を切り、次にマニュアルを手にしながら再び話し始める。
「誰だって1ポイントでも多く残したいよね?そこで、僕なりに現実的な数字を叩き出してみたんだ。その結果、試験終了時に120ポイント残せるかどうか、それがカギになると思う」
「つまり180ポイント使うってことか?納得し難いな」
幸村がそれに反論する。
しかし、平田はあくまで落ち着いた口調でつづけた。
「まずは最後まで聞いてほしいんだ。ここにポイントの内訳を書いてあるから、みんな見てほしい」
視線を移すと、そこには細かい計算結果が書かれていた。
栄養食と飲料水のセットが一食10ポイント。日に二食、今日の夕飯と試験終了日を一食ずつで合計12食。テント2つ、トイレ、その他諸経費を加算して180ポイントという計算だ。
「残りポイントが少なく感じてしまうのは、皆300ポイントっていう印象が強いからだと思ってほしい。今までのクラスポイントの変動から見ても、120っていう数字は決して低くないプラスだと思うんだ」
確かにそうだ。先月のDクラスのポイントは87のプラス。Aクラスでも、プラス値は100に届いていなかった。
「それに、この数字はあくまで最低ラインだ。例えばみんなの1日分の食料と水を確保できたら、それだけで20ポイント節約できる。さらに飲み水に困らないっていうことなら、4、50ポイント近く削減できるんだ」
飲み水に困らない、つまり、川の水を飲料水として利用するなら、ということだ。
それにボーナスポイントが加算されれば、得られるポイントはさらに多くなるだろう。
「俺はそれでいいと思うぜ。120ポイントから、俺らが頑張ればどんどん増えていくってことだろ?やろうぜ」
開始時に300ポイント全て残す気でいた池とはまるで別人。この現実的な策を受け入れた。幸村の方も、池が折れたことで納得せざるを得なかったようだ。
その後も、平田の意見に異論が出る様子はない。これには、平田の言葉選びの上手さも効果を発揮しているだろう。
マイナスの面から伝えて、最後にプラスの面を一気に知らせる。そういう順番にするだけで、人が抱く印象は大きく変化するのだ。
「そうだ平田、ちょっと確認……」
綾小路が平田に声をかけようとしたが、活発な話し合いが行われている今、そこに入り込む隙はない。
恐らくCクラスの伊吹のことを伝えようとしているんだろう。今は平田に言うのは無理だと判断したのか、遠くからこちらを傍観していた伊吹の方へ歩いていった。
「聞きたいんだけど、川の水を飲んでもいいってやつ、手を上げてくれないか?」
池がそう呼びかける。どうやら話し合いの話題が次に移ったようだ。
様子を伺っていると、少数の女子と約半数の男子は手を上げている。
だいぶ前、池は川の水を飲んでいた。もし飲んだらまずいものが川に入っていたら、すでに体調に何らかの変化が訪れていてもおかしくないはず。しかしそんな様子は見られない。結果的に池が実験台となって、川の水の安全性を高めたことになる。
川の水は信頼しても良さそうだな。
俺もすっと手を上げた。
「さっき健が言ってた沸騰させるって話、悪くないと思う。怖かったら、まずはそこから始めてもいいんじゃないか?」
池がそう言うと、さらに6人ほどの手が上がる。
篠原も渋っていたようだが、自信なさげながらもゆっくり手を上げた。
そして最終的に、堀北と綾小路以外全員が挙手するという展開が出来上がってしまった。
それに気づいた2人も面倒くさそうにしながら手を上げた。視線が集まるのが不快だったのか。
「みんなありがとう。ただ、いきなりはやっぱり厳しいと思うから、まずは今日の分の水を買いたい。ペットボトルも再利用できるしね。いいかな?」
平田の声に、皆一様に頷く。
「池くん、お願いだ。これから力を貸してくれないかな?キャンプ経験を生かして、僕らを手助けしてほしい」
「……まあ、どうしてもっていうなら」
「ありがとう!」
これで、Dクラスには池という手札が本格的に加わった。かなり強力だ。
その後の話し合いでは、シャワーと釣竿、調理器具などを追加で購入することが決定。話の流れの中で、平田がシートの保冷効果についても説明してくれた。
追加での支出はあったが、クラス全員が川の水で我慢することを決定したことで、最低ラインよりは少し多めのポイントが期待できそうだ。
「あのさ。そこにいる子って、確かCクラスの伊吹さん、だよね?」
1人の女子生徒が尋ねる。
「えっと、なんかクラス内でトラブルがあったらしくてさ……」
事情を少しだけ知っている山内が説明する。
「そっか。それはいい判断だね。困ってる子は放って置けない」
「で、でも平田くん、あの子スパイかもしれないよ?」
「あ、そっか、リーダー当てるってルールが……」
山内は、そこでようやくリスクに気がついたようだ。
「それも確かめよう。綾小路くんと速野くん、いいかな?」
伊吹と関わった俺たちが呼び出される。佐倉が外されたのは平田の配慮だとしても、山内が外されたのは……交渉には向かないと判断されちゃったんだろうか。
伊吹が座り込んでいる場所に向かい、まず平田が話しかける。
「ごめん、少し時間いいかな?」
「邪魔だろ私は。今まで居座ってて悪かったな」
「そうじゃないよ。……話を聞かせてもらえないかな?力になりたいんだ」
「話したところでどうにもならないことだってあるだろ。それに、これ以上作戦が筒抜けになるのも嫌じゃないのか」
伊吹には先ほどの俺たちの話が聞こえていたらしい。
「もしも君がスパイなら、自分から追い出されるようなことはしない。違う?」
「とにかく、これ以上世話になるつもりはない。私は自分で寝るところを探すだけだから」
意地でもここに残るもりはないらしい。よっぽどクラス内での揉め事がひどかったのか。
「女の子が1人で野宿なんて危険すぎる」
「危険でもそうするしかないんだ。私を助けて何になる?」
「損得は関係ない。困ってる人を助けたいだけだよ」
そう言い、笑顔を向ける平田。こいつは本気でそう思ってる。眩しすぎるくらいだ。
「……クラスである男と揉めて叩かれた。それで追い出されただけだ」
言いながら、苦々しい表情を浮かべる。これは本当のことのようだ。
「ひどいな。女の子に……」
「これ以上詳しくは話さない。じゃあな」
「ちょっと待って。事情はわかった。クラスの子に君を置いてもらえないか頼んでみるから、少し時間をくれないかな?」
そう言うと、平田は俺を連れてDクラスのみんなに確認を取る。
結果、クラスの7割ほどは賛成した。平田は喜んでそれを伝えに行く。
と言っても、クラスのみんながみんな善意からというわけではなかった。伊吹がずっとここに留まることで、Cクラスは点呼のたびに5ポイントを吐き出す。最終日まで続くとしたら、60ポイントを失うことになる。そう言うリターンも勘定に入れた上での納得だった。
やがて日が暮れ、夕食の時間。今日の分の食料はさすがに購入するしかなく、手元には栄養食と飲料水がある。
俺含め一部の男子生徒は川の水を飲んでいる。平田の提案で、飲料水を川で済ませる人の分のペットボトルは川に入れて保存し、冷やしておくことにした。川には、まだ未開封のペットボトルが10本ほど浸されている。
伊吹は、櫛田から手渡されたものを食べていた。櫛田たちはグループで分け合うことにしたらしい。
「馬鹿じゃないのどいつもこいつも。お人好しすぎ」
そんな反応を示す伊吹。平田と櫛田は、クラスに1人2人はいるお人好しという人種だ。以前も言った気がするが、俺はどうしてこの2人がDクラスにいるのか全く理解できない。
「なんかさ、女子のグループってかなりはっきりしてるよな」
女子の方を見ていた山内が言った。
女子グループは大きく分けて五つ。軽井沢グループ、櫛田グループ、篠原グループ、で、単品で堀北、佐倉。後ろ二つに関してはグループですらないが、まあ、独立しているということで。
男子は円になって食べている。夕飯が配られる直前にその場にいなかった俺は円から若干外れてるが、そこに隔たりらしきものはなかった。
男女の特性の違いというやつだろう。
そんな風に考えながら、男子が形成している円を俯瞰した時、あることに気づいた。
「……高円寺は?」
「あれ、そういやいないな」
俺の左前にいた池が反応する。
「ああ、高円寺なら先ほど体調不良でリタイアして船に戻ったぞ。つまりお前らは30ポイントマイナスだ。高円寺には、船内で治療と休養が義務付けられた」
「「「はあああ!!!???」」」
「何考えてんだあいつ!!」
悲鳴とともに、幸村が地面を蹴り上げる。
勝手にリタイアするのは想定外だった。あいつにとっては一月3000ポイントの損よりも、このバカンスを満喫することの方が魅力に感じたのか。
それとも、この森に対する興味は既に失われたのか。
その日の夜、堀北や平田の判断で更新のタイミングをずらし、次の更新時刻が翌朝8時の点呼のタイミングと重なる時刻に設定した。つまり日付が変わる直前。
一応そこにも立ち会ったが、俺はしばらくの間起き続けた。
地面固くて寝られたもんじゃないし。
まあ、夜遅くまで起きたことである程度成果もあったが。
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「……やの、速野!起きろって!点呼だぞ!」
「……ん?」
身体中が痛む、最悪の目覚めだった。
須藤に叩き起こされ、テントの外に出ると、既にクラスの大半が一ヶ所に集まっていた。
茶柱先生が呼ぶ順に返事をして、確認していく。この時点でCクラスは5ポイントを失っているはずだ。
点呼を終え、各々自由行動を開始する。
俺はひとまず川の水で顔を濡らし、就寝中にかいた汗を拭き取り、その後歯を磨いた。
支給された歯ブラシセットなどをバッグの底を覆うようにして片付けていると、突然の来客があった。
「ずいぶんと質素な生活してんなー。さっすがDクラス」
ポテトチップスやジュースを口に入れながら、馬鹿にしたように言う男子生徒2人。
それは以前、須藤の事件で関わったCクラスの小宮と近藤だった。
そこに行って見てみると、2人と一瞬目が合ったが、すぐに逸らされてしまった。まあ、色々あったしな。
「龍園さんからの伝言だ。バカンスを満喫したかったら、今すぐ浜辺に出てこいよ。こんな草や虫食ってるような生活が嫌になるような夢の時間を共有させてやるから」
突然出てきた、『龍園翔』の名前。俺はそいつについてほとんど情報を持っていないが、以前、「Cクラスをまとめているのは龍園という男だ」と誰かが話していたのをたった一度だけ耳にしたことがある。
その後10分ほど、地面にポテチをわざと落としたりして俺たちに対して嫌がらせを続けた2人は、人だかりができ始めたのを引き際と見て、立ち去って行った。
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「速野くん、少しいいかな」
「ん……?なんだ」
綾小路と堀北がCクラスの様子を見に行った後、突如として平田から声をかけられた。
「昨日してくれたシートのアドバイス、凄く役に立ってるみたいだ」
平田の指差す方向を見てみると、トイレ用のシートをタオルがわりに使っているクラスメイトが多数見受けられた。
「そりゃよかった」
「速野くん。クラスがこの1週間を乗り切るために、君の知恵を貸してほしいんだ。お願いできるかな?」
一瞬迷ったが、まあいいか、とすぐに返事する。
「別に構わない。気づいたことがあったら、俺が言える範囲でお前にも共有するよ」
「ありがとう!助かるよ」
すんなり返事を貰えるとは思っていなかったのか、少し大きな喜びようだった。平田の中で俺がどんな人となりをしているかは知らないが、今のは不自然だったか?
「なあ、早速いいか」
「なんだい?」
「寝るとき、地面が固くて痛いんだ。それを改善したいんだが」
昨日は全員色々疲れて熟睡だったが、快眠とまではいかなかったはずだ。満足に疲れを取るのは難しいだろう。
「それについては僕も考えてたんだ。昨日速野くんが言ってた、ビニールも何かに利用できないか、って考えを軸にね。そこでなんだけど、テントの下にビニールを大量に敷き詰めてクッションの代わりにする、っていうのはどうかな」
中々いい案だ。俺もそれに賛成の意思を表明する。
「いいと思うぞ。ただ、ビニールの中にシートをまとめて詰めて、それを敷き詰めた方が柔らかさは増すと思う」
折角無制限なんだし、色々活用していかないとな。
「そっか……それがいいかもしれない。あとで皆にも提案してみるよ。意見ありがとう。これからもよろしくね」
「ああ、わかった」
そう言って、平田はみんながいる場所に駆け出していった。
一応、平田からのある程度の信頼は得られた、ということか。
悪い気はしないな。
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午後3時を回ったころ、俺はベースキャンプを離れ、浜辺に向かっていた。
今朝の2人の口ぶりからして、Cクラスは浜辺付近に陣取っているようだし。その方向なら、昨日通った道を辿ればいいだけだから覚えている。
そこを迷うことなく歩いているうち、後ろから佐倉が追ってきていることに気づいた。
「どうしたんだ?」
「はあ、はあ……ど、どこに行くのかな、って……」
「ああ……朝、Cクラスの奴らが浜辺に来いって挑発してきただろ。だからそこに向かってる」
挑発に乗っかるみたいで癪ではあるが、俺も個人的に気になっていたので行くことにした。
「そ、その……私もついていってもいい、かな……?足手まとい、だけど……」
少し申し訳なさそうに佐倉が言う。
「足手まといって……俺は別にそんなこと思ってないけど、じゃあなんでついて来るんだ?」
「っ……」
少し棘のある言い方になってしまった。佐倉は怯えたような、不安そうな表情を俺に向ける。
「あー……悪い。別について来る分にはいいんだけどな。ただ森の中は足場悪くて危ないし、何も面白いことはないと思うぞ?」
「そ、そんなことないもんっ!!」
佐倉の予想外の反応に少し驚いてしまった。
「あっ、そ、その、そういうことじゃあぁ!!うわああーっ!」
「……」
こんなテンション高めな佐倉を見たのは久しぶりだ。以前須藤の件で証言する前日に、佐倉に部屋に呼ばれた際に見た以来。正直見ててちょっと面白い。
なんだ、こいつそんなCクラスの様子気になってたのか。
「……じゃあ、行くか?」
「う、うん……」
顔を真っ赤に染めながら頷く佐倉。
置いて行くわけにもいかないので、歩くスピードを少し落とす。佐倉も頑張ってついてきていた。昨日よりは危なっかしさが取れている。
そこから数分歩いて、目的地の浜辺に出た。
そこにあったものは。
「なんだあれは……」
Cクラスは、文字通り豪遊していた。
遊び呆けている奴らだけではなさそうだったが、遠目から確認できるだけでも、水上スキー、バーベキュー道具、パラソルなど、今朝のセリフ通り、このバカンスを満喫しているようだった。
「す、すごいね、どうやって……」
それは言うまでもない。買ったんだろう。クラスのポイントで。
俺は茂みに隠れながらさらにCクラスに接近する。すると、段々中の詳しい様子が見えてきた。
木陰に立てかけられている大量の釣竿。仮設トイレは3台、シャワーは4台。の割に仮設テントは1台しか購入しておらず、そこには人ではなく日光よけのターフに守られた大量の栄養食が保存されていた。おそらく、あれだけで2日分ほどはあるだろう。
「佐倉。悪いけどここで隠れて待っててくれないか」
「え?」
「頼む。すぐ戻るから」
「う、うん……速野くんが言うなら」
佐倉の了承を得て、俺はさらに近づいた。
しかし相変わらず足場は悪く、少しよろけてしまう。それが悪かったのか、俺は立てかけられていた釣竿を数個倒してしまった。
「やべ……」
左手でグリップの部分を持って一つずつ立て直す。
「何をしてるんですか」
その最中、女子生徒に声をかけられた。
綾小路とは違ったベクトルでつかみどころのないその女子。少し垂れ目で、雰囲気はかなり大人しそうだ。
「今朝、Cクラスの生徒に浜辺に来いって言われたから来ただけだ」
「あなたは今、この釣竿を倒しました。他クラスへの妨害行為にあたると訴えてもよろしいですね?」
無表情のまま、脅しのように言ってくる。
恐らく訴えられても何もないだろう。だが、言い切ることは出来ない。
「……そりゃ困る。勘弁してくれ」
「では、今すぐ立ち去ってください」
「ああ、そうさせてもらう」
言われた通りに立ち去ると、その女子生徒は左手に無線機を持った男と何事か話していた。
すぐに佐倉のいる場所に戻る。
「悪い、少し話してた」
「う、ううん、大丈夫……何、話してたの?」
「ここで何してるんだ、って言われてな」
佐倉に釣竿を倒してしまったことも、軽く脅されたことも合わせて伝えておく。
「た、倒しちゃったんだ……それって大丈夫なの?う、訴えられたら……」
もしそうなれば、佐倉はまた俺についてきていた人間として証言しなければならない可能性が出てくる。恐らく佐倉はそれがこわいんだろう。
「いや、多分あいつらは訴えてこない。前回、Cクラスが妙なタイミングで訴えを取り下げたことは教師の頭にも入ってるはずだし。今回に関しては向こう側が不利になるはずだからな」
それに、今朝のCクラスの挑発行為や、ポテチを落とすなどの環境汚染の行為にあたるかもしれない案件がこちらにはあるのだ。Cクラスが訴えるメリットはほぼないだろう。
まあ、向こうも訴えられたとしても痛くもかゆくもないと思うけど。
「でも、これでどうしてCクラスが伊吹を連れ戻しにこないかわかったな」
「え?えっと……ど、どうしてなの?」
「ほら、先生言ってただろ。ポイントがゼロになったら、それ以降はマイナスにならないって。あの様子だとCクラスは多分、今日までにほぼ全てのポイントを吐き出してる」
意味を理解した佐倉が、驚愕の表情を見せる。
「そ、そんな、じゃあCクラスはこれからどうやって……」
佐倉に問われて少し考えたが、案外すぐに答えは出た。
「多分、ほぼ全員リタイアするんだと思うぞ。そうすれば船に戻れる」
「そ、そっか、そういう……」
ポイントを全て使ってビーチで夏を満喫した後は、豪華客船でのんびり過ごす。これで完璧なバカンスの完成だ。多分高円寺も今頃……はあ……
本当の体調不良でなくても、仮病でもなんでも使えばいい。ストレスに耐えられない、とか。そうすれば学校側は仮病かどうか判断がつかず、たとえこの特別試験で生活態度のモニタリングを行なっていたとしても個人の評価は下がらない。
それに、外傷があれば堂々とリタイアできる。
だから俺はずっと疑問を抱いていた。
なぜクラスを飛び出した伊吹は、とっととリタイアせず、野宿をすると言ってまでこの島に残ろうとしているのか。
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日が暮れる直前、俺は出先から戻ってきた。
ああ、もちろん1人で。アイアムアぼっち。
ベースキャンプでは、平田が俺の案を取り入れ、シートを詰め込んだビニールをテントの下に敷き詰める作業を行なっていた。
作業が終わった女子用テントから声が聞こえてくる。
「これすごい寝やすいよ!」
「ほんとだ、ふかふかー」
完成後のテントから歓声が上がる。
完成後の歓声。あら、今日は氷河期かしら。
そんなことを考えていると、突然肩を突かれた。
「ん?」
「ねえ、一つ聞くけれど、この試験中、あなた一之瀬さんに会った?」
俺の後ろに立っている堀北がそう聞いてくる。
「は?……なんで」
「今日、Cクラスの様子を見に行ったついでにAとBのベースキャンプにも足を運んだのよ。その時、Bクラスの一之瀬さんは、あれと似たような方法で地面の固さの問題を解決していたの」
「俺は会ってないし、ビニールを使ってクッションがわりにするのをはじめに思いついたのは平田だぞ。シートを敷き詰めるのは俺が提案したが」
「……彼がそんな提案を?」
「ああ」
どうやら堀北は、平田の能力を低めに見積もっていたらしい。
にしても、一之瀬もやっぱり工夫してたか。堀北から偵察の成果を聞いていると、大体Dクラスの上位互換といった感じだ。
「それから、Bクラスにも、Dクラスと同じようにCクラスの生徒が1人いたわ」
「Bにも?」
まあ、一之瀬が見捨てるわけはないか。あの性格だもんな。
その後、CとAの様子も報告しあい、数分後に別れた。
俺はその日の夜、10時ごろに散歩に出かけた。
少し長い間いないかもしれないが、心配しないでくれ、と平田に付け加えて。
これからは1週間に一度更新を目標にします。
感想、評価お待ちしております。