実力至上主義の学校に数人追加したらどうなるのか。※1年生編完結   作:2100

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遅くなってしまいすいません。徐々によう実ssが増えてきて嬉しいです。
では、どうぞ。


ep.26

「綾小路、どっか行くのか?」

 

 3日目の、太陽が南中する1時間ほど前だろうか。綾小路がベースキャンプを離れようとしているのを見つけ、声をかけた。

 

「高円寺が一昨日、思わせぶりなこと言ってたから佐倉のハンカチで目印つけただろ。そこに行くんだ」

「ああ、あそこか」

 

 そういえば、佐倉のハンカチはそこに放置されたままだったな。回収も兼ねて、ということだろうか。

 

「お前も来るか?その方が助かるんだが」

「え?あー……」

 

 少し迷うが、特にやることもないし、まあいいだろう。俺も高円寺のあのセリフは気になっている。

 

「分かった。一緒に行く」

「あ、あの……私も一緒に、いいですか?」

 

 後ろから、肩で息をした佐倉が言った。

 ハンカチは佐倉のだし、拒否する理由はないな。

 

「ああ、いいぞ」

「あ、ありがとう」

 

 足場の悪い土の上を歩きながら、少し考え事をする。

 四月から今までの流れを。

 怠惰を続けたDクラス。藤野の存在。支給ポイントの裏。Cクラスの策略。佐倉の一面。操られていた堀北と俺。操っていた綾小路。そして今。

 俺は今も、隣にいるこいつの手のひらの上なのか。こいつの手のひらの上にいることは、俺にとってプラスになることなのか。

 ……いや、考えるまでもないな。

 綾小路の中で、俺は既に完全に手駒。そして現時点で、それに反発する必要性は皆無。それが結論だ。

 

「そういえば……あの男、事件の後退職したらしいな」

 

 綾小路のそんな声が耳に入る。

 佐倉、いや、アイドル雫の熱狂的なファンで、ストーカーに化けてしまった家電量販店の店員。あのまま業務が正常に続けられるとは思っていなかったが、退職したというのは初耳だ。

 

「あの時はありがとう……綾小路くんと速野くんのおかげだよ」

「いや……俺は何もしてない。感謝なら一之瀬や櫛田に」

 

 俺がしたことといえば、事件の現場で変なタイミングで金属音鳴らしたくらいだ。

 

「あれから何も起こってないよな?」

「大丈夫。今はブログの方も止めてるから」

 

 ブログの方は、外部とつながりを持つこともできる。佐倉の判断は賢明だろう。

 ちなみに外部とのつながりができるのはネットだけだ。俺らが持っている端末は、この学校の敷地内にいる人としか連絡先が交換できないようになっているらしい。

 

 それ以降も、綾小路と佐倉の会話に時々入りながら目的地まで足を進めて行く。

 そして急に綾小路が立ち止まった。

 俺はそれにぶつかってしまい、バランスを崩して倒れる。

 それに驚いた佐倉も枝につまづいてこけてしまった。

 

「いたた……」

「いって……」

「……なんか悪い」

 

 こんな事態は予測していなかったのか、少しキョトンとした顔で謝ってくる。

 

「何で立ち止まったんだ?」

「少し休憩入れた方がいいかと思ってな」

 

 休憩、という単語で、佐倉が少し安心した表情を浮かべた。

 綾小路が木の根に腰掛ける。佐倉がその隣に座り、俺はもう一つの大きめの根に腰を下ろした。

 ふう、と一息ついた時、一枚の葉っぱがひらひらと佐倉の頭に落ちた。それには本人も綾小路も気づいていない様子。

 俺も特に気にはしていなかった。しかし、どうも様子がおかしい。風はほとんど吹いていないのに、なぜか不自然に動いている。

 それに注目していると、葉っぱが落ちた。

 そして、動きの正体が判明する。

 

「あっ……」

 

 思わず声が出てしまい、2人がこちらを向く。

 

「あっ……ついな、やっぱり」

「?う、うん、そうだね……?」

 

 何と粗末な誤魔化し方だろう。佐倉が天然で助かった。

 誰でも、あんな気持ち悪い物体がうねうね動いていれば驚いてしまう。

 

 佐倉の頭を這っていたのは、毛虫だった。

 

 どうすりゃいいんだこれ……直接告げたら、佐倉がパニックを起こす未来が容易に想像できる。そうなれば、今よりまずい事態になるだろう。

 ……バレないようにそーっと取るしかないか。

 かと言って、直接手で触るのは抵抗がある。俺はそこらへんに落ちていた葉っぱを拾ってそーっと近づけ、毛虫の大量の足と佐倉の髪の毛の間に差し込む。

 それは上手くいき、何とか葉っぱに乗ってくれた。

 その直後。

 

「速野くん?」

「えっ!?あっ、いや、何でもないぞ?」

 

 急に佐倉が振り向き、俺は毛虫の乗った葉っぱを隠す。

 

「?」

「……」

 

 俺の反応が不振だったのか、首を傾げながら俺を見てくる佐倉。

 そして次の瞬間。

 

「うわああああああ!!!!」

 

 ゾワっという感覚が手のひらに走り、俺は奇声をあげながら全力で手をぶん回してそれを振り払った。佐倉の反応を気にしている間に、葉っぱから俺の手に毛虫が移動したらしい。なんとか毛虫はどこかに飛んで行ってくれた。

 

「……色々と大丈夫か速野?変だぞ」

「あ、ああ……」

 

 この感触は……ちょっと気持ち悪すぎる。

 いやな経験をした後、適当に雑談をしながら目的地に向かった。

 佐倉のハンカチが巻き付けてある木を発見し、周りを見渡してみる。しかし、どこにも違いはないように思えた。

 

「……この近辺を3人で探してみるか。ただし、お互いがお互いを確認できない距離までは離れないように時々確認しながらな」

 

 綾小路の提案だ。俺と佐倉も首肯し、それぞれ三方向に別れて捜索開始だ。

 あの時高円寺が見ていた方向は……確かこの辺りだったな。そこを重点的に探そう。

 大体の目処をつけそこに向かうと、何やら一際茂みが濃くなっている場所に来た。……ん?

 それをかき分けながら進むと、その空間は周りを茂みに覆われて、何故か土の色が少し違っていた。

 しかも、何か黄色の実が姿を見せている。

 

「これ……おい綾小路、佐倉。高円寺が言ってたのって、もしかしてこれのことじゃないのか?」

 

 2人を呼んで、その光景を見せる。

 この黄色の実は恐らくトウモロコシだろう。茂みに囲まれた中には大量に植えられていた。

 

「うわっ、すごい量だね……」

「トウモロコシ、みたいだな」

 

 明らかに人の手によって植えられている。高円寺はこれのことを言っていたのだ。それを伝えなかったのはあいつの性格か……高円寺には何をやっても敵う気がしない。

 試しに一本だけ引き抜いてみると、学校敷地内のスーパーの一般のコーナーで売っていてもいいような、形のいいトウモロコシが出てきた。かなり管理が徹底されているんだろう。

 

「鞄、持ってくればよかったね……一度には無理だよ」

 

 そういえば、佐倉が焚き木拾ってる時に俺カバン持ってたっけ。今も持ってればなあ……

 

「取り敢えず、往復で取るしかないな。俺がここに残るから、2人はベースキャンプに戻って人を呼んできてくれ」

 

 俺がそう提案すると、2人とも頷いてベースキャンプの方向に歩いていった。40分くらい後にカバンと人手を引き連れて戻ってきてくれることだろう。

 ひとまず佐倉のハンカチを回収し、俺はトウモロコシの区画のその先にある大木のところに向かった。

 

「……もう俺しかいないから出てきてもいいぞ」

 

 その木の裏に隠れるようにして体を屈めていたのは、藤野他2人。その2人は、初日にAクラスのベースキャンプに行ったときに弥彦と葛城と呼ばれていた男だ。

 俺が声をかけると藤野は少し驚いたような表情を浮かべた後、観念したように体を上げた。

 

「あはは……いつから気づいてたの?」

「最初にこの茂みに入った時にお前らが隠れるのが見えた」

「かなり最初の方からだね……何でその時に言わなかったの?」

「面倒な展開になると思ったからな」

 

 特に佐倉は、見知らぬ3人が急に現れたらあたふたするだろう。それよりはベースキャンプに戻って人を呼んできてもらったほうがいい。

 

「あ、紹介まだだったね。この2人は葛城くんと戸塚くん。こっちはDクラスで、私の友達の速野くん」

「Dクラス……って、スパイに来てたクラスだな!?」

「は?」

 

 葛城が戸塚の頭をごつん、と叩く。

 

「すまない、この男にも悪気はないんだ。許してやってくれ」

「は、はあ……」

「それから、ここにあるものは君らが見つけたものだ。横取りするつもりはないから安心してくれ」

「ほ、本気ですか葛城さん?」

 

 戸塚の反応はもっともだ。

 

「見つけたのはあんたらも同じだから、別に取られても文句は言えない。誰にも独占はできないしな」

「君らが3人で来たのは正解だったな。1人が残って見張ることができる。制度上は独占が不可能でも、ある程度のプレッシャーにはなるだろう」

「この人数になったのは偶然だけどな」

 

 佐倉が申し出なければ、俺は綾小路と2人でここに来ていただろう。

 

「行くぞ2人とも」

「ほ、本当に帰るんですか?」

「ああ、俺は取らないと決めた。長居は無用だ」

 

 少し不服そうな表情の戸塚だが、葛城の指示に従う。

 

「私は後から戻っていい?道は覚えてるから」

「あまりお勧めはしないぞ。道に迷うなよ」

「大丈夫だよ」

「なら、わかった」

 

 そう言うと、葛城と戸塚はAクラスのベースキャンプの方向に歩いて行った。

 

「で、なんで残ったんだ?」

 

 葛城と戸塚の後ろ姿を見ていた藤野に声をかける。

 

「うーん……速野くんとお話しするため?」

「それだけのためにわざわざ残ったのか……」

 

 何かちゃんとした理由があるかと思ったら……。森の中で1人で動くことは高いリスクを伴うはずだが。

 

「前、速野くんに電話で相談したことあったでしょ?」

「ああ……クラスが二分されてるってやつか」

「うん。そのうちの一つの派閥のリーダー格が、さっきの葛城くん。もう1人は坂柳さんって女子なんだけど、このバカンスには初めから来てないの」

 

 そう言えば初日に全体で整列した時、一名参加できなかった生徒がいるって言ってたな。それが坂柳ってやつのことか。

 

「そんなに大きく対立してるのか?」

「うん。2人ともタイプが本当に真逆でさ……葛城くんはかなり慎重な人なんだけど、坂柳さんは攻撃的でどんどん進んで行く感じ。それでどっちもすごい優秀だから、もしあの2人が和解したらすごいことになると思うんだけどなぁ……」

「そりゃ怖い……」

 

 なんせ、対立した現状でも高いポイントをキープできているのだ。歯車が噛み合えば恐ろしいクラスになるだろう。

 

「お前は葛城派なのか?」

「そういうわけじゃないよ。一応まだ中立を保ててるけど……この特別試験では坂柳さんがいないから葛城くんがクラスを引っ張ってるの。それについていってる感じかな。坂柳さん派の人たちは気乗りしてない感じだけどね」

「まあいくら派閥が違うっていっても、葛城以上に優秀な奴がいなければどうにもならないからな」

 

 やっぱりその2人が頭一つ抜けてるってことだ。

 

「Aクラスのベースキャンプの場所、知ってる?」

「なんだ急に?」

 

 意図がわからず、質問し返す。

 

「なんとなく。速野くんなら把握してそうだなーって」

「Bクラスの一之瀬って奴は知ってて、その一之瀬から教えてもらった奴ならうちのクラスにいるぞ。一応そいつから説明は受けた」

「そっか。ガード堅かったって言ってた?」

「なんか、随分と秘密主義だったってことくらいは」

 

 堀北がそう言っていた。

 

「葛城くんの作戦だからね。石橋を叩いて渡るタイプだから」

「そうなのか」

 

 それほど慎重な男なのか、葛城は。なるほどな。

 坂柳がどのような人物なのか気になるが、今はいいだろう。この場にいないんだし。

 

「そういえば、なんでここに?」

「葛城くんがここら辺に何かあるって思ったみたいで、私は戸塚くんに誘われて来たの」

 

 だから少し不思議な人数構成になっていたわけか。

 

「じゃあ、私もそろそろ戻ろうかな。一緒に来る?歓迎はされないと思うけど……」

「いや、ここで待ってることになってるし、急にいなくなったらびっくりするだろ、あいつら」

「それもそうだね。じゃあ、またね」

「ああ」

 

 そう言い残して、藤野は自分のベースキャンプへと戻って行く。

 二分されたAクラス。葛城派としては、対立相手のいないこの無人島試験で成果を上げようと必死だろう。だがもし坂柳が妨害してきたら、クラス内から崩れてしまう事態もありうる。

 

 クラス内に裏切り者がいるなんて、この学校は想定していないんじゃないだろうか。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 午後2時。一番暑い時間帯だが、太陽は雲に隠れて少しだけ緩和されていた。

 といっても、薄い雲だ。いずれ厳しい日差しが俺の身体を襲うだろう。

 トウモロコシを収穫し終わり、ベースキャンプに戻って少しした後、俺はもう一度先ほどと同じ方向に足を運んでいた。

 行き先はAクラスのベースキャンプ。……ではなく、その周辺。

 初日に葛城が言っていた通り、船でのアナウンスと高速旋回は俺たちへのヒントだった。だから俺は崖の場所を正確に把握し、この白地図に書き出すことができた。

 そして、船の上から見えたのは崖だけではない。

 記憶を頼りに、Aクラスのベースキャンプがある洞窟の崖に沿って道を進んでいくと、見えづらい場所にハシゴが設置されているのを発見した。錆もなく、頑丈だ。それを伝って下に降りて行く。

 そこには、いくつかの小屋が確認できた。それぞれに装置が付いており、これらが全てスポットであることがわかる。この場所は目隠しもあり、占有してもリーダーを見破られる確率は低そうだった。

 この場に誰もいないことを確認し、俺は小屋の中に足を踏み入れる。Aクラスが占有しているが、中に入るだけなら違反ではないはずだ。

 中には数本の釣竿があった。ポイントで購入したものには必ず付いている『貸し出し用』というシールがないことから、この場所に元々あったものだとわかる。

 隣の小屋も見てみると、そこにも釣竿が5本ほど。しかしそれにはシールが貼られてあった。

 

「えーっと……」

 

 俺はその中の一つ、シールの中に空気が入り込んでしまっている釣竿のシールをはがし、粘着面を確認する。

 

「……なるほどな」

 

 作業を終え、小屋を出る。

 船で見た景色を思い出しながら、記憶を頼りにして進んで行く。もう一度ハシゴを使って上へ登って歩いて行くと、少し大きめの施設が目に入った。

 その建物にもハシゴが打ち付けてあり、伝って屋根に上がる。そこからは、浜辺を一望することができた。俺らが乗ってきた船も確認できる。だが、それ以外には何もなさそうだった。

 そんなに高い屋根ではなかったので、ハシゴを使わずに飛び降りる。草原がクッションとなり、落下時の衝撃を和らげてくれた。

 その後装置を確認するが、占有はされていなかった。いい判断だ。ここは開けていて、誰に見られているかわからない。リーダーを見極められる可能性が高くなる。これも葛城の作戦だろう。

 

「そこで何をしている。ここは俺たちAクラスが利用している場所だ」

 

 急に声をかけられて振り向くと、2人の男子生徒が俺を取り囲むようにして立っていた。恐らくだが、俺がハシゴを使って登ってくるところから見られていたんだろう。

 そのうちの1人が装置を確認する。占有したかの確認か。

 

「誰だお前は?」

 

 一之瀬は俺のことを有名と言ったが、こいつには認知されていないらしい。男子生徒の1人は木の枝を喉元に突きつけてくる。だが、ここで暴力を振るうことはできない。誰かに見られれば、いらぬ弱みを握られてしまう。

  もしくは、俺がここで一歩進んで喉を怪我すれば、こいつらを退学に追い込むことができるだろうか。

 いや、証拠不十分だ。俺が訴えただけではどうにもならないだろう。

 

「Dクラスの速野だ」

「速野……そうか、お前が速野か。聞いたことがある。それで、何の用だ?スパイか?」

「なんで俺がスパイなんて」

「他クラスの場所に行くなんて、それくらいしか目的がないだろう」

「……ただの散歩だ」

「それで信じると思ったか?何か持っていないか調べろ」

 

 そう言うと、指示を受けた1人が俺のポケットに手を突っ込んだり、服の中に何か仕込んでいないか調べてくる。

 

「ボールペン?……なるほど、地図か」

「返せ。略奪行為はペナルティになるぞ」

 

 特に何もないと考えたのか、ボールペンで紙を挟み、俺の足元に放り投げた。

 

「もう一度聞くぞ。何が狙いだ?これはお前1人の行動か?」

「……俺が何を答えても、お前らは信じないんだろう?なら言っても無駄じゃないか」

「信じるか信じないかは、お前の答え次第だ」

 

 別に信じられる必要はない。だが、すこし考えてから言う。

 

「……俺はそもそも、1人で何か行動を起こせるほど優秀じゃない。ただの下っ端だ」

「不良品の自覚はあるようだな。幸村と似たようなものか」

 

 幸村は、学力成績で言えばAクラスの上位にも食い込む生徒だが、それ以外の性格面などに問題があり、Dクラス配属となった生徒だ。

 

「Dクラスはさぞかし居心地が悪いだろう。何を頼まれたかは知らないが、これ以上は余計な行動をしないことだな。ベースキャンプでおとなしくしていろ」

 

 ずいぶん高圧的な態度だ。初対面で木の枝突きつけるところとかも含めてなんでこいつらAクラスなんだ?戸塚という生徒もそんなに優秀には見えなかったし。

 

「お前らは監視なのか?」

「お前には関係のないことだ。余計な真似はするなと言っただろう。ああ、それともう一つお前に言うことがある。キーカードを受け取ったリーダーが誰かを言えば、報酬を支払う用意があるぞ」

「……クラスを金で売れということか?」

「どう解釈しようがお前の勝手だが、これは早い者勝ちだということは理解しておけ」

 

 つまり、他の奴にも同じような話を持ちかけるのか。

 クラスを金で売って何になる?もしリーダーを当てられたら、俺らは50ポイントマイナス、ボーナスポイントも全没収だ。つまり合計で65ポイントほどのマイナスとなる。

 そんなことをして、俺になんのメリットがあるというのだろう。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

「……分かった。言おう」

「ほう、随分簡単に売るんだな」

「さっきお前が言った通り、居心地が悪いんだよ、Dクラスは。ポイントもろくに使えず、次から次へと問題を持ってくる。と言っても、お前らの言葉を鵜呑みにするわけにはいかない。念書でも書いて形に残るようにしてくれ」

「……まあいいだろう。この紙にリーダーの名前をかけ」

 

 あらかじめ用意していたのか、紙を俺に手渡してくる。

 

「……待て、まずお前ら2人の名前をここに書いてくれ。それから、リーダーの名前を書くのは一番最後だ」

「どうした。何か不都合なことでもあるのか?」

「ペナルティを設定する。その方が信用度が上がるだろう。お互い、他クラスの奴の言うことを信用できないだろ?」

 

 話を煮詰めながら、条項を決めていく。どちらかが誤魔化すことを防ぐために、全く同じ内容が書かれた紙を2枚用意し、お互いが一枚ずつ持つ。直筆のサインで筆跡もあるし、不自然な指紋も残っている。文書を偽造しても、そこにはどちらか片方の指紋しか残らないため、誤魔化しは絶対に効かない。

 そもそも、設定したペナルティ的に、嘘をつくなんてできない。いや、俺が嘘を吐くメリットをなくすためにあえてかなり厳しい条件を設定した。

 

「さあ、早くDクラスのリーダーの名前を書け」

「分かったよ。今のリーダーの名前は……」

 

 いいながら、俺は名前を書き込む。

 

「普段は平田や櫛田が纏めてることが多いけどな」

「そんなことに興味はない。だが、あまりにもペナルティが厳しすぎないか?」

「そんなの、慣れっこじゃないか。定期テストで赤点とったら一発で退学の世界だぞ、ここは。嘘をついていなければペナルティの条項はあってないようなものだろう。それに条件的に言えばこちらに厳しくしてる」

「……まあいいか。嘘をついていればそちらが苦しくなるだけだ。じゃあ、もう帰っていいぞ」

「ああ、次は船でな」

 

 そう言い残し、俺はその場を立ち去った。

 太陽は雲から顔を出し、容赦なく照りつける。

 とても貴重な条項が書かれた紙を持って、俺は堀北から聞いていたBクラスのベースキャンプに向かった。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 Aクラス、Dクラス学級間協定

 

・8月3日、DクラスはAクラス側にDクラスの現在のリーダーの名前を教え、本用紙に記述する。

・Aクラス側は、Dクラス速野知幸に報酬として合計35万ポイントを支払う。支払いに関しては、8月7日午後10時に船の屋上のラウンジに集合とし、30分以上遅刻した場合は違約とみなされる。

・本用紙の記述は、全て事実であることを証明する。もし記入の時点で内容に虚偽があった場合、偽証者は相手側に100万ポイントを支払う。

・この協定を無効にする場合は違約と見なされる。

・違約の場合、相手側に合計100万ポイントを支払う。

 

Dクラスのリーダー『堀北鈴音』




主人公がついにやらかしました。

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