実力至上主義の学校に数人追加したらどうなるのか。※1年生編完結   作:2100

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終盤を迎えました。
では、どうぞ。


ep.27

 俺はDクラスを裏切った。その証拠であるこの紙を誰にも見られるわけにはいかない。

 どう保存しようかと考えたが、支給されるビニールにいれて地面に埋めるのが最善だという結論に至った。

 だが、日中はみんなの目があるので不可能。やるなら夜遅くだ。俺はこの試験中こまめに昼寝をしているので、他のクラスメイトより眠気は少ない。

 時刻が午前2時を回ったころ、俺は皆が寝ているのを確認して、隠し通していた紙を持ってテントの外に出た。

 あらかじめ茶柱先生に要求していたビニールに紙を入れ、テントから離れたところ、しかし離れすぎてもいない場所を見つけ、土を掘り返す。

 これくらいか、というところで手を止め、紙の入ったビニールを入れて再び土を戻した。

 

 掘り返された跡。爪の間に挟まった土。薄汚れた手。

 それは、初めて伊吹を見た時の状況と酷似していた。初日に焚き木を拾っていた周辺まで足を運ぶ。

 

「確か、この木だったよな……」

 

 元から、機会を見てここは調べてみるつもりだった。大体のあたりをつけ、掘り返す。

 すると、予想の範疇のものが出てきた。

 

「無線機か……」

 

 これで、一つ目の謎は解決した。そして同時に、伊吹はCクラス、恐らく龍園から送りこまれたスパイであることも。BクラスにいるというCクラスの生徒も同じだろう。

 二つ目の謎は、伊吹の鞄が木にぶつかった時に聞こえた鈍い音。船から持ってこられる私物の中で、あんな音が出るような固いものはない。

 再び土を元に戻し、俺はみんなの鞄があるところに移動する。1人だけ色の違う鞄を開けて、中を探った。

 何かを隠したい時には、底に入れるのが定石だ。カバンの底に、タオルや着替えなどで覆い隠すようにしてあったカメラを発見した。

 

「これか……」

 

 木にぶつかった時の外傷もある。少し傷ついていた。恐らくこれでキーカードを撮影するつもりだったんだろうが、電源がつかない。故障しているようだ。

 ただの故障か。木にぶつかったはずみで壊れてしまったのなら納得できないこともない。実際、佐倉は一月ほど前にカメラを落として故障させている。

 だがもし、あの時点ではカメラは壊れていなかったとすれば、誰かの手によって意図的に壊された可能性がある。

 カメラの存在に勘付くことができる人間は、あの場では伊吹を除いて4人。

 俺、佐倉、山内、そして綾小路。

 間違いなく俺ではない。佐倉や山内にそんな行動力はない。この故障が意図的ならば、やったのは100パーセント綾小路だ。

 だが、行動の意味はわかっても、その先にある目的は全くわからない。これまでの綾小路は、やる気はないながらも、堀北の協力者という体でのらりくらりと協力してきた。堀北を利用することはあっても、ゼロから進んで行動を起こしたということはなかった。

 なのに今回は完全な単独行動だ。少し様子が違っている。

 

 綾小路に何かあったのだろうか。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 試験4日目の午後。俺は綾小路と共にCクラスの現状を知るため、浜辺へと向かっていた。

 

「Cクラスのポイントの使い方、お前はどう見てるんだ?」

 

 綾小路が俺に聞いてくる。綾小路の考えは、以前堀北を介して聞いている。

 

「お前と同じ感じだ。多分全員リタイア作戦だろうな」

 

 浜辺に出ると、この前までのお祭り騒ぎは何処へやら、ガラーンとしていてほとんど人はいなかった。まだ数人リタイアしていない生徒がいるようだが、恐らく今日までにはリタイアするだろう。一応身を隠しながら光景を見つめる。

 

「いやー、ほんとびっくりだよ。ここまでやるなんて。神崎くんの言ってた通り、リタイア作戦かもね」

「お前らも偵察か?速野、綾小路」

 

 後ろから声が聞こえたので振り向くと、そこにはBクラスの一之瀬と神崎が立っていた。

 一応偵察だが、この場では何も言わないほうがいいか。

 

「俺らは探索係だ。食べ物探してたら、たまたまこっちに出ただけだ」

「そっか。Cクラスのリーダーくらい当ててみようかと思ったんだけどねー。これじゃ無理かな。全員リタイアなら、リーダーも何もないもんね」

 

 というかそもそも、Cクラスはポイントを全て吐き出している。リーダーを当てられたとしてもペナルティは何もない。Cクラスが本当に全員リタイアしているなら、だが。少なくとも伊吹とBクラスの金田はリタイアしていないわけだし、そいつらがリーダーである可能性は捨てきれない。俺らがまだ見つけていないスポットがあって、夜にそこを更新しているのかもしれないし。

 

「あんまり褒められたことじゃないけど、この作戦、結構すごいよね」

「奇抜な発想だが、思い立っても実行しないことだ。ポイントをプラスに持っていくことを放棄した時点で龍園の負けは決まっている」

 

 神崎がそう主張する。

 

「この件はあんまり関わらないほうが良さそうだね」

「手堅く試験を乗り切るのが正解らしい」

「うん。私たちには地道なやり方があってるよね」

 

 そんな会話を繰り広げるBクラス2人。それは嘘か本当か。地道な作戦はマイナスにならないことに強く効果を発揮するが、プラスに持っていくことに関しては向いていない。BクラスとAクラスのクラスポイントの差は大体300ポイント強。この差を詰めるには、地道な作戦だけでは絶対に不可能だ。どこかでダッシュをかける必要がある。

 どのタイミングで、かは知らないが。

 

「一つ聞きたいんだが、Aクラスの葛城と坂柳って仲が悪いのか?」

「うーん、仲が悪いっていうか、クラス内で対立してる感じだね。それがどうかしたの?」

 

 昨日藤野から聞いた話と同じような内容の会話が聞こえてくる。聞き流してもいいだろうと判断し、俺は遊び終わってリタイアしようとしているCクラスの生徒に目を向けた。

 こちらには気づいていない様子だ。だが、気づかれたところで何もないだろう。残っているのは不要な遊び道具とテントだけだ。向こうとしても既に見られて困るものなんてないだろう。

 強いて言えば、何もないことこそが一つの答えにつながっているのかもしれないな。

 

「俺たちもそろそろ戻る。手ぶらで帰ったらどやされそうだからな」

「うん。怪我には気をつけてね?」

「分かった」

「じゃあ、また今度」

 そうして4人はそれぞれ自分のベースキャンプへと戻っていった。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 以前にもいった気がするが、俺はこまめに昼寝をしている。この試験を乗り切るためには、体力温存は必須だと考えているからだ。

 だが昨日はそれをし過ぎたのか、午前4時ごろに目が覚めて以降、ほとんど眠ることができなかった。

 そのため2日目の朝とは違って意識は覚醒しており、やけに怒気を含んだ女子の声もすぐに耳に飛び込んできた。

 

「ちょっと男子、集まってくれる?」

 

 第一声、恐らく篠原のものと思われる声に反応した男子は1割ほど。他の男子は深い眠りについている様子だった。

 しかし女子に声はそれに続き、さっさと出てこいだの何だの、穏やかではない口調で男子テントに向かって言ってくる。

 いい加減うるさくなった俺はテントの入り口のジッパーを開ける。平田も起き出して同じタイミングで外に出た。

 

「どうしたの?」

「あ、平田くん……悪いんだけど、男子全員起こしてきてもらえる?」

 

 篠原が申し訳なさそうに平田に言う。

 女子たちは、こちらを強く睨んでいた。やはり怒りが含まれている。

 平田の声かけに応じ、目をこすりながらぞろぞろと男子が出てきた。

 

「こんな早朝にどうしたんだい?」

「ごめんね、平田くんには関係ない話なんだけど……今朝、軽井沢さんの下着がなくなってたの。これ、どういうことか分かる?」

「え、下着が……?」

「今、泣いてる軽井沢さんをテントで慰めてる……」

 

 一瞬視線をテントに向けた篠原だが、すぐに男子たちに戻し、強く睨みつける。

 

「え、なに、俺たち疑われてんの!?」

「当たり前でしょ。どうせ、夜中に誰かが荷物を漁って盗んだんでしょ?荷物はテントの外にまとめてあるから、誰にでもできたわけだしね!」

「いやいやいや、え!?」

 

 池は大慌てだ。

 

「そういやお前、遅くにトイレに行ったよな、結構長かったし……」

「いやいや、あれは暗かったから苦労しただけだって!」

「ほんとか?」

「マジだよ!」

 

 男子の中でもなすりつけ合いが始まる。

 

「とにかくこれ大問題だと思うんだけど?下着泥棒がいるなかで一緒に生活とかありえないし」

「だから平田くん……犯人、見つけてもらえないかな?」

「でも……男子が犯人だって証拠はないんじゃないかな。紛失しただけっていう可能性もあると思うし」

「そうだ!俺らは犯人じゃねえ!」

 

 必死で無実を主張する男子一同。

 

「平田くんが犯人じゃないのは分かってるけどさ……取り敢えず、男子全員の荷物検査させて」

 

 女子たちは一貫して男子を疑っている。もちろん、それが自然だ。

 

「は?意味わかんねえし。断れよ平田」

「取り敢えず、男子で集まって話してみるよ」

「ちょっと待ってくれ」

 

 俺は、自分の意見を言うことにした。もちろん、これは俺が苦手としている行為だが、この場ではそうした方がいいと判断した。

 

「何よ」

「荷物検査をするのには反対しない。でも、もし平田のバッグから出てきたらどうする?」

「は?馬鹿じゃないの?そんなことあるわけないでしょ」

「決めつけるなよ。俺だって平田が犯人だなんて思ってない。仮定の話だ。いいから少し考えてみてくれ」

「そんなの、平田くんに誰かがなすりつけたに決まってるでしょ。……」

「そうそう、そういう可能性もあるんだよ。だから荷物検査をして誰かの鞄から出てきたとしても、犯人の特定はできない。それを理解してくれ」

「何よそれ。あんたが自分で盗んで、自分のバッグに入れたのを誤魔化すために言ってるだけなんじゃないの?」

 

 やっぱり聞く耳を持ってくれないか……

 

「勿論、その可能性もあり得る。そういうのも含めて、全員が平等に犯人の可能性があるってことだ」

「とにかく、荷物検査はさせてもらうから」

「ああ」

 

 それで見つかるなら見つかるでいい。だが、平田はもし誰かのバッグから見つかってもそれを言わないんじゃないだろうか。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

「さっきはありがとう、速野くん。女子たちもあれで少し冷静になれたと思う」

「あ、ああ……そんなに変わってないと思うけど」

 

 見方によっては、疑いの目を全員に広げたというのもまた事実な訳だし。

 

「それでも、助かった。……実は、綾小路くんが軽井沢さんの下着を持っていた」

「は?」

「でも綾小路くんが言うには、池くんの鞄から下着が見つかって、自分が押し付けれてしまったらしい」

 

 荷物検査の時にあそこら辺がもたついてたのはそれが原因か。

 

「そうなのか……で、お前はそれを信じたのか?」

「綾小路くんには犯人探しを頼んだんだ。頑張ってくれると思う」

 

 なるほど、いい手だ。

 俺もああは主張したが、誰かが持っていたとすれば、必然、その誰かが犯人である可能性は高く想定される。綾小路が犯人である場合は、犯人探しをさせることで再犯の抑止につなげる。犯人でなかった場合には、単純に信頼して探偵役を頼んだという形にできる。どちらに転んでもいいようにしたわけだ。

 直接的な表現はしなかったが、平田は綾小路のことを全く信用していない。

 

「お前はそれを誰にも言わないつもりだったんだろ。なんで俺に話した?」

「それは……1人では無理だと思ったから。君が協力してくれたら本当にありがたいと思ったんだ」

 

 と、ここで考える。平田は俺の裏切りに気づいているのかどうか。

 昨日、紙は小さくたたんでポケットに入れ、バッグを開ける自然な流れでそっと忍ばせた。見つかるタイミングはなかったはずだ。

 だとすれば平田は、俺のことを単純に信頼しているのか。

 

「疑われてることは気に食わないし、勿論協力する。でも、あんまり期待はしないでくれ」

「ありがとう。協力してくれるだけでも嬉しいよ」

 

 信頼されているなら、それに答えておかないとな。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 女子たちの主張によって、平田と綾小路、そして俺が女子用テントの場所を男子から遠ざけた。

 当初の予定では平田だけが協力する予定だったのだが、堀北の謎の推薦によって俺と綾小路も手伝わされることとなった。その時にむっつりスケベだの人畜無害だの言われたが、気にしない気にしない……気に、しないっ……!

 

「堀北。そんなところで何してるんだ?」

 

 作業を終えて一息ついたところで、日陰に突っ立っていた堀北に声をかける。

 

「見ての通りよ。何もしていないわ」

「なら、食糧の探索に付き合ってくれないか。声かけやすい状態なの、お前しかいなくてな」

 

 普通なら綾小路を誘うところだが、あいつは作業を終えた後数分経ってからテントに引っ込んでしまったため、声をかけづらかった。

 

「……別に構わないけれど」

「助かる。平田に頼まれててな」

 

 了承を得て、森の中に入る。相変わらず湿度が高くて不快だ。足場は悪く、隣の堀北は早々に肩で息をし始めている。

 

「下着泥棒の件、お前はどう考えてるんだ」

「男子が犯人である可能性が高いことに間違いはないわ。けれど、決めつけることもできない。 軽井沢さんは女子のリーダー的存在だけれど、恨まれやすい性格でもあるわ。女子が怨恨でやった可能性もある。あるいは彼女、伊吹さんがクラス内の撹乱を狙ってやった可能性も否定しきれないわね」

「まあ、そうなるよな」

 

 女子は男子が犯人である可能性を相当高く見積もっているようだが、残りの2つの可能性も捨ててはいけない。というか、男子が犯人で、動機が変態的な理由なら、わざわざ荷物の中に隠さないだろう。荷物検査や身体検査が行われるであろうことは想像に難くないはずだ。

 

「……あなたにも報告しておくわ」

「は?何をだよ」

 

 ここで話題が切り替わる。

 

「あなた、テントを持ち上げた時に何か感じなかった?」

「テント?……さあ、3人で運んでもやっぱり重いなーとしか思ってなかったから……」

「テントを運ぶ直前、女子がテントの入り口を閉め切ったのは分かったわよね?」

「あ、ああ、なんか慌ただしかったな……」

 

 閉めるから近づかないで、中見ないで、などなど色々言われた。俺はただ単にこの件の反動で男子の視線に過敏になっているだけだと感じていたが、堀北の口ぶりからしてそうでもないようだ。

 

「あの中には、軽井沢さんたちが勝手に購入したものがあるのよ。勿論、女子用テント両方にね」

「は?マジで?」

「ええ、私が見た時には全てが揃った後だった。綾小路くんにもこのことは言ったけれど、あなたたちの反応からして平田くんは男子には情報を共有していないようね。だから彼は信用ならないのよ」

 

 予定外の出費だ。堀北の話によれば、テント2つ分で8ポイント。もし平田が床の件を解決していなければ、恐らくフロアマットまで購入されていただろう。

 だが、別に平田は悪意があって隠したわけではないだろう。事実、下着が見つかったという情報もまだ女子には通達していない。混乱を避けるためのあえての黙秘。だが、堀北はそれが気にくわないらしい。

 

「俺に話したのは、協力して欲しいってことか?綾小路がいるなら俺はいらないと思うんだけど」

「ええ、あなたの優先度は、私の中では綾小路くんより下ね」

「そうですか……」

「でも、クラスの中ではその次に信用しているわ。消去法だけれどね。だからあなたをテント移動の手伝いに指名したのよ」

「面倒なことを……」

 

 堀北の中での信頼度が比較的高めだというのは素直に喜べることだが、そのせいで億劫な作業が俺に回ってきたのは少し腹立たしかった。

 

「……あなたは今回、何もしていないの?」

「は?なんだそれ」

「須藤くんの件では綾小路くんと共闘して色々やっていたんでしょう?」

「いや別に共闘なんてしてないけど……俺たちはただ利用されただけだ」

「普通、自分が利用されてるなんて気付かないわよ。あなたはそれでいいの?」

 

 何度か自問自答してきた質問が堀北からも飛んでくる。

 だが、俺の答えは変わらない。

 

「今の段階で綾小路はクラスにとってマイナスになることはしないだろ。なら別に、変なプライドで抵抗するより、利用されてたっていいんじゃないか」

「……そういう考え方もあるのかしら」

「まあ、あるんだよ」

 

 プライドが高い堀北には理解しがたいものがあるのかもしれないが。

 

 その後食べ物を見つけたはいいものの、少し道に迷ってしまい、1時間半ほどかけてなんとかベースキャンプに戻ってくることができた。

 

「はあ、はあ……あなた、方向音痴なの?」

「悪かったって……でも、お前も道把握してなかっただろ」

「あなたが探しに行こうと言ったんでしょう……?」

「……まあそうだけどさ」

 

 とにかく、うまく戻れてよかった。

 

「汗流してこいよ。だいぶ疲れただろ」

「言われなくてもそうするつもりよ……はあ……」

 

 よほど疲れたのか、堀北の足取りはおぼつかなかった。まあ、色々険しい道引きずり回したからな。ゆっくり休んでくれ。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

「うわああああああ!!!」

 

 誰かの叫び声で飛び起きた。周りを見渡すと、どうも声の主は綾小路らしい。こいつこんな声も出るんだな。まあ俺も同じような叫び声出したけど。あれは本当に思い出したくない感覚だ。

 腕時計を見ると、二度寝している時間もなさそうだ。テントを開けて外に出る。

 

「これは……」

「夜中、少し降ったみたいだな」

 

 隣で綾小路がそう呟く。テント付近には小さな水たまりがてきている箇所もあった。そして今も曇っている。かなり厚い雲だ。6日目にして、いよいよお天道さんも機嫌を悪くしてきた。暑さはある程度緩和されるだろうが、湿度が高くなるせいで不快感は増すだろう。

 程なくして点呼を終え、それぞれやるべきことに取りかかる。最優先事項は食糧の確保だ。それぞれ班に分かれて行動する。

 俺が配属されたのは、綾小路、堀北、山内、佐倉、櫛田のチームだった。

 

「櫛田、このグループでよかったのか?」

「あー、えっと、うん。ちょっとね」

 

 俺の問いかけに対して、少しばつが悪そうな反応を見せる櫛田。仲違いとは思えないし、男子には言えない、または言いにくい事情なんだろうか。

 だが、それでも不可解だ。こんな余り物グループの他には櫛田と仲のいい人物が固まっている班があるはずなのに、それをしていない。

 というかそもそも、櫛田は初日にも不可解な行動を取っていた。

 

「堀北さんとは旅行中ほとんど話せてないから、おしゃべりしたいなーって」

 

 どうやらそんな理由らしい。お互い嫌い合っていながら、櫛田はグイグイ行く。この2人の関係はよく分からない。

 

「伊吹、お前も一緒に来ないか?」

 

 出発の直前、綾小路は伊吹に声をかけた 。

 

「私……?」

「嫌なら無理強いはできないが……」

「……Dクラスには助けられた恩もあるから、分かった。手伝う」

 

 そうして伊吹の加入も決定。女子が増えたことに、山内はテンションが上がっているようだった。こいつのこれはスルーするとしても、何がしたいんだ、綾小路は。

 山内は機会があれば佐倉に話しかけているが、その度に佐倉はどんどん離れて行く。だからそんな目でそんな方向見るからだっつの。人に話しかけるときは胸じゃなくて顔を見なさいって教わらなかった?

 

「少し急いだ方が良さそうね。雨雲が近づいてるわ。予想より早く雨が降るかもしれない」

 

 腕時計にはコンパスの機能も付いており、それをもとにすると雨雲は南西の方から来ている。堀北の言う通り、あまり時間はかけられないだろう。

 

「ねえねえ速野くん」

 

 名前を呼ばれたので振り向くと、背後には櫛田が立っていた。

 

「なんだ?」

「速野くんと綾小路くんって、堀北さんと仲いいよね。どうやって仲良くなれたの?」

「いや、これは仲が良いとは違うと思うが……それに、俺より綾小路の方が親しくしてると思うぞ。ほら、今も隣歩いてるし」

「確かに。うーん……」

 

 そう答えると、再び考える仕草を見せる。まあ、クラスメイト、どころか学校全員と仲良くなろうとしている櫛田のことだ。その手法が気になるではあるんだろうが、綾小路と堀北はただの協力関係だ。櫛田もその中には入れているのだから、立場的に言えば綾小路も櫛田も堀北とは同程度の関係だと言える。

 差が出ているとすれば、堀北が櫛田を嫌っていること。恐らく一朝一夕でどうにかなる問題でもないんだろうと思う。

 

「あっ」

「どうしたんだよ櫛田ちゃん?」

「私、見つけちゃったかも。速野くんと綾小路くん、それに堀北さんの共通点」

「え?」

 

 俺たち3人の共通点、と聞いてすぐに思い浮かぶのは、僕らは友達が少ない、略して「はがない」くらいだが、櫛田が言ってるのはそういうことではないだろう。

 

「なんだよそれ」

「3人の共通点はねー……全員、ほとんど笑顔を見せない!」

 

 言われて、少し思い出してみる。確かにほとんど笑ったことはない。佐倉の行動に吹き出しそうになったり、諸事情で笑顔を見せなければいけなかった以外には、俺は基本的に真顔だ。

 堀北の笑顔は本当に一度も目にしたことがない。

 

「あの2人はそうかもしれないけど……でも俺は笑ってるだろ?」

「苦笑いとかなら見たことあるけど、本当に心から笑ってる顔は綾小路くんのも見たことないよ。私に見せてないだけ、とか?」

 

 言いながら、櫛田は綾小路の顔を下から覗き込む。今日も櫛田は健在だ。

 

「この辺りを探しましょう。絶対に2人以上で行動することだけは心がけて。良いわね」

 

 堀北のその声を皮切りに、それぞれグループを作っていく。櫛田は伊吹と。山内は佐倉と。堀北は綾小路と。そして俺は……俺はっ、余り物の中の余り物、つまり真の余り物だ!何これすっげえ悲しいんだけど……

 

「速野くん、私たちと来てよ。男の子の手も欲しいからさ」

 

 空からの涙よりも先に心の中で涙を流しているところに、櫛田からありがたい申し出があった。

 

「悪い、そうさせてもらう」

 

 一言断りを入れ、櫛田と伊吹に合流した。

 ここでも、櫛田は話題を尽きることなく振ってくる。伊吹も櫛田の会話量に驚いて少し目を逸らしながら時々話す。俺も話を振られたらそれに答えるという感じで、弾んでいるんだかそうでもないんだかイマイチわからん会話が繰り広げられていた。

 食べられそうな木の実などを採集していた中。

 

「あっ!」

 

 綾小路のそんな声が聞こえて来た。すぐに振り向くと、目に映ったのは堀北が何かを上着のポケットに入れている場面だった。

 

「どうしたんだろう?」

「さあ、何か落し物じゃないか」

 

 それか、単に毛虫を見つけて驚いたとか。やべ、思い出したくなかったのに……

 堀北は何故か激怒していて、綾小路を鬼の形相で睨みつけていた。それにたじろいだのか、綾小路はその場を離れ、佐倉と作業をしていた山内に声をかけていた。会話の内容は聞こえてこないが、山内は何か神妙な顔をしている。

 

「速野くん?」

「え?……あ、ああ、悪い。集中する」

 

 櫛田の声かけで我に帰り、再び作業を続けた。

 

「うはははは!泥だらけだぜ堀北!いや、ドロ北だドロ北。あははは!!」

 

 そんな頭の悪そうな笑い声に反応して振り向くと、泥にまみれた堀北が無言で立ち尽くしていた。

 犯人は山内。その山内は堀北に綺麗な一本背負いを喰らっていた。

 

 山内の身体が宙を舞った瞬間、俺は綾小路のやりたいこと、全てを理解してしまった。




今更過ぎるんですけど、綾小路って一人称「オレ」なんですよね……今更ということもあるので、今のところ修正は考えていません。

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