実力至上主義の学校に数人追加したらどうなるのか。※1年生編完結   作:2100

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予告通り、答えあわせ。
では、どうぞ。


ep.29

「ちゃんと来たな」

 

 場所は屋上のラウンジ。五分ほど待ったところで、俺と取引を行ったAクラスの生徒2人がやって来た。

 部屋を出る直前に酔い止めを飲んだ俺は、そのままの流れでペットボトルの水を持っている。

 この2人は契約の紙を持っていないようだ。残念。

 

「お前……俺たちを騙したのかっ……?」

 

 向けられる視線は敵意剥き出しだ。

 

「騙した?そんなことするわけないだろ。契約の内容覚えてないのか?」

 

 そう、あのルール設定では俺は嘘をつくことができない。ついても、バレれば俺が損をするだけだからだ。

 

「それに、葛城からもちゃんと確認取れたんだろ?あいつは俺たちのリーダーだったやつのキーカードを見てるはずだ」

「っ……それはそうだが……」

 

 あの時点で俺の言ったことが嘘ではないことは、Aクラス自身が目撃し、証明している。俺は何1つ契約違反などしていない。

 この2人は何も気づいていないようだ。保険も打ってあったのに、それも必要なかったな。

 

「じゃあ、早く払えよ。違約で100万ポイント払うことになるぞ?」

「くっ……」

 

 ポイントが大量にあるAクラスのことだ。100万ポイントだって払えないことはないだろう。俺としても、それならそれで万々歳だが、こいつらがそんな展開にさせるわけがない。契約内容に素直に従い、俺の端末に35万ポイントを譲渡した。

 

「……どんな手を使ったんだ?」

「だから、別に何も騙してないんだって。お前らの計算違いじゃないのか?」

「まだとぼけるのか!」

「人の話は聞けよ……」

「くそっ!」

 

 そう吐き捨て、Aクラスの2人は去っていった。どんなカラクリかはいずれ分かることだ。もし一生わからないなら、それはもう諦めるしかないな。

 

「ちょっと」

 

 その場から立ち去ろうとした時、突如として怒りのこもった声が俺に降りかかった。

 

「さっきの、どういうこと?あなたはクラスを売っていたということ……?」

 

 声の主は堀北だ。

 表情を見ても分かる。怒り心頭。軽く逃げ出しそうになるが、その後のことを想像してなんとか踏み止まる。

 

「……まあ、そうなるな」

 

 当初の予定通り、素直に認める。

 

「なんでここに?」

「あなたにも話を聞きたかったからよ。でも、いくら電話をかけても出ないから、端末の位置情報で場所を突き止めたけれど……来て正解だったわね」

 

 ……そうだった。

 連絡先を交換した相手が許可すれば、その人の端末の位置情報がすぐに分かる。そうだ、あの時に許可設定にしてから変更してなかったな。抜かった。

 

「これは大問題よ。けれど、今このことをクラスに明らかにしても混乱するだけ。黙っていてあげるかわりに、あなたがこの特別試験で行ったことを、包み隠さず全て話しなさい」

 

 強い口調でそういう堀北。

 

「……何から聞きたい?」

「全てと言ったでしょう。最初からよ」

「最初からな。分かった。ちなみに聞くが、綾小路からは話を聞いたのか?」

 

 そう質問すると、堀北は目を見開いて驚いた表情を見せた。

 

「あなた……彼のやったことを知ってるの?」

「……まあ、大体は」

 

 だが、綾小路の話はとりあえず後だ。今は堀北に真実を語ろう。

 

「試験が始まる前から、お前体調悪かったろ?」

「……気づいてたのね」

「ああ。お前ならもう分かったと思うが、俺がお前をリーダーに強く推したのはそれが理由だ。もし仮にリーダーが見破られても、きちんとした『正当な理由』でリタイアさせ、リーダーを変えられると思ったからな」

 

 まあ、ここら辺は綾小路から説明を受けているだろう。Dクラスのポイントが高かった理由の1つはこれだ。

 ちなみに、もし俺の解釈が間違っていて、リタイアの場合でもリーダーは変更不可だったとしても、堀北なら務まると思ったのは本当だ。

 

「俺は初日、綾小路と佐倉も一緒に葛城がキーカードを手にしていたのを見ている」

「葛城くんの隣にいた弥彦という男子生徒がリーダーだったと聞いたわ」

「ああ。綾小路は一目見ただけで確信が持てたらしいが、俺はそれには至らなかった。そこで、探りを入れることにした。具体的には2日目の夜に」

「2日目の夜……そういえば、あなた確か散歩に出かけて長い間帰ってこなかったわね。まさかそのときにAクラスのベースキャンプに行ったというの?」

「ああ」

「一体どうやって……懐中電灯の明かりだけでは絶対に不可能よ」

 

 確かに、普通は無理だ。森には道しるべが存在しないから。

 だが、存在しないのなら自分で作ってしまえばいい。

 俺は持っていた紙を一枚、横長に使って、間を空けながら左右交互から途中まで切り込みを入れた。そして、堀北の前で広げる。

 

「こうやって切った紙を伸ばせば、一枚の紙でも結構な長さになる。これを標識に使って、Aクラスのベースキャンプ付近まで行ったんだ」

 

 これなら、懐中電灯で地面を照らし、この紙の続いている方向へ歩けばいい。もちろん、試験中に使ったのは無制限に支給されたシートだ。

 

「船でのヒントのことはもう知ってるだろ?あの洞窟の近くにはスポットがいくつかあった。見つかりやすいものから、はじめに目をつけていなければ絶対に見つからないものまでな。俺は見つかりにくい方のスポットを観察して、リーダーが戸塚だってことが分かった」

 

 1日目に俺が目撃した時点で、リーダーは葛城か戸塚。2人のどちらかだ。だが、2日目の夜に見に行ったとき、スポット更新の場に葛城はいなかった。これでやっと確信が持てた。そして、この部分が葛城のミスだろう。

 まあ綾小路は分かってたようだからいらない情報だったが、もし平田がリーダー当ての紙に書いた名前が葛城だったら直していた。

 

「AクラスとCクラスが協力関係にあったのは知ってるか?」

「綾小路くんがもしかしたら、と言っていたわ。事実なの?」

「ああ。2日目の午後くらいに、俺も佐倉とCクラスの様子を見に行ったんだ。そのとき、大量の食糧がテントの中に保管されてあったのに、釣竿が数本あったんだ。変だと思わないか?」

「……そうね。食糧が大量にあったなら、釣竿を注文する必要はないわね」

 

 俺たちは食糧を確保できることを期待し、その都度一食分しか注文しなかった。Cクラスは初めからそれを諦めていたということだ。

 

「そうだ。それから、ポイントで注文するやつには必ず貸し出し用ってシールが貼られてるだろ。食糧があるなら釣竿はいらないはずだ。この釣竿の行き先が気になって、そのシールの粘着面にペンでちょっとした模様を描いたんだ」

 

 わざと釣竿を倒し、それを直すフリをして行ったことだ。疑われたかと思ったが、模様もシールの様子もそのままだったことから、バレはしていなかったんだろう。

 

「その後、3日目にもう一回Aクラスの探索に行ったときに、そのシールが貼られた釣竿を発見したんだ。リーダーの名前を教えるって取引も、そこでやった。伊吹がスパイだってことは、BクラスにもCクラスの生徒が拾われてたって話を聞いたときに薄々疑ってたしな」

 

 そして案の定、カメラと無線機を発見した。

 また、俺がこまめに昼寝をしていたのは、夜通し起きるためだ。伊吹が何か行動を起こすとすれば夜だと考えたから。だが、俺はその前に寝落ちしてしまったようだ。伊吹が下着泥棒だということは俺には分からなかった。

 

「……つまり、一概にクラスを売ったとも言えないというわけね。はじめから綾小路くんの狙いに気づいていた、というより、同じことをやろうとしていたんだもの」

 

 そう。俺が綾小路の狙いに気づくことができたのは、俺も同じようなことをやろうとしていたからだ。

 

「もしかして、食糧探索だと言って森の中を連れ回したのは、わざと私の体調を悪化させるため?」

「ああ。気の毒だとは思ったが。でも、お前4日目か5日目の時点でかなりきつかっただろ。言い訳みたいになるが、俺が何もしてなくても、お前は体調崩して強制リタイアだったと思うぞ」

 

 伊吹の後を追う足取りを見ていれば、相当ヤバイ状態だったことは想像に難くない。

 

「山内がお前に泥塗りたくったときに、綾小路がお前をリタイアさせようとしてるって分かったから、後は綾小路に任せたけどな」

 

 伊吹にベースキャンプを抜け出す機会を与えるためにマニュアル燃やすとは思ってなかったが。

 

「はあ……あなたたち2人に、全員がいいようにやられたというわけね。開いた口が塞がらないわ……」

 

 堀北からすれば、綾小路だけでなく、俺にも利用されてしまったことは心底気に入らないだろう。

 

「……あなたの実力がここまで高いとは、正直思っていなかったわ。どうして今まで隠していたの?」

「別に隠してなんかないぞ。バレたらまずいことはバラさないようにしていただけで」

 

 結果的に堀北にはバレてしまったが。これに関しては完全に俺のミスだ。

 

「あなたのやったことは気に入らないし、受け入れる気もない。でも、このクラスがAクラスに上がるためには、あなたや綾小路くんの協力が必要よ。手を貸して」

 

 形的にはクラスを売ったことになっていて、その秘密を握られている身からすれば、拒否権はない。

 そして同時に、拒否する気もなかった。

 

「綾小路は手を貸すことになったのか?」

「ええ。理由は言わなかったけれど。でも彼の過去には興味はないもの」

 

 綾小路が、この特別試験で積極的に動いた理由か。

 気にならないといえば嘘になる。だが、本人が話したくないのならば、話すことを強要するのは間違っている。誰にでも、知られたくない過去の1つや2つあるはずだ。

 

「……分かった。Aクラスに上がるために協力しよう」

 

 俺は承諾した。

 堀北と協力関係を結べば、プラスにつながることを期待して。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 コンコンコンコン、と国際標準マナーに従ってノックをする。

 

「入っていいよ」

「失礼します……」

 

 場所は地上5階、502号室。

 5階はスタッフが寝泊まりする場所となっている。そしてこの502号室に泊まっているのは……

 

「久しぶりだね速野くーん。4日ぶりくらい?」

「まあ、そんな感じですね……」

 

 Bクラスの担任教諭、星之宮先生だ。

 

「約束通りポイント払いに来ました。まあ、先生に打ってもらった保険は使わなかったですけど」

「あら、Aクラスの2人は気づかなかったんだね」

 

 俺は3日目、契約を交わした後Bクラスのベースキャンプに行き、星之宮先生と会った。そこで、こんな取引をしたのだ。

 

 もし仮に試験終了前にリーダーが変更になったとしても、契約内容は変更されず、通常通りポイントを支払うことになる、というのを署名付きで一筆書いて欲しい、と。

 

 結果、5万ポイントで受けてもらえることになった。

 そのため、Aクラスがカラクリに気づいたとしても何もできない手筈になっていたのだが、そもそも気づいてすらいなかったな。

 譲渡が完了し、俺は携帯をポケットに入れる。

 

「クラスにバレたら速野くん、袋叩きだね」

「まあ、どうとでも誤魔化せますよ」

 

 Dクラスが1位だったことで、大抵のことは不問になるだろう。

 契約内容が書かれた紙は、俺の側は既に処分したが、Aクラス側のものはまだ処分されていないだろう。もし取引の現場であいつらが紙を持って来ていたら、事故に見せかけて持って来ていた水をこぼして紙を消すつもりだったんだが。そう思惑通りにはいかなかった。

 

「このことは内密にお願いしますよ」

「もちろん。でも、もしバレても私は責任負わないよ?」

「分かってますよ」

 

 では、と言い残して、俺は自室に戻った。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 以前、櫛田にこんなことを問われた。

 もし自分と堀北が対立したら、どちら側につくか、と。

 俺は自分が得する方につく、と答えたはずだ。

 どちらの味方にもなり得るし、どちらの敵にもなり得る。

 

 なあ、櫛田。俺や綾小路ですら勘付いたんだ。お前が堀北の体調不良に気づいてないわけがないよな。

 

 なら、どうしてお前は堀北をリーダーに勧めたんだ?

 

 単純に堀北のことが嫌いで、体調不良を悪化させようとしたのか。

 

 それならまだいい。

 

 だが、何か別の目的があった場合。

 

 

 

 櫛田の言っていた、堀北と真っ向から対立するシチュエーションは、案外近いところまで来ているのかもしれないな。




はい、これにて原作3巻分が終了です。お読みいただきありがとうございました。
このep.31と30を繋げるかどうか迷ったんですが、文量が多くなり過ぎてしまうので分けることにしました。なので今話はかなり短めになっています。
次回は、以前のように番外編は入れず、直接原作4巻分に入っていこうと思います。次回もお楽しみに。
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