実力至上主義の学校に数人追加したらどうなるのか。※1年生編完結 作:2100
南にルールを理解させた後、堀北と2人になった。
これから説明を受けるであろう生徒達で騒がしかった廊下を外れ、今はしんとしている。
「あなたはどう思う?この試験」
恐らく、これを聞くためにわざわざ移動したのだろう。こちらの考えを相手に聞かせる必要はない。
「どう思うか、と言われれば、かなり複雑で面倒な試験だとしか……」
結果3、4の裏切り者のルールまではまだいい。だが、実質5つめ以降の結果となる特殊グループに関する決まりで、だいぶかき回されてしまった。
課題は大きく分けて2つ。最優先事項は優待者の特定。その上で特殊グループがどこかを発見できればなおのこといい。だが、他のクラスとの情報交換が実現しなければ発見はほぼ不可能だ。
だが、学校側はノーヒントで課題をこなせと言っているわけではない。先ほどの説明の時にも、あちらこちらにヒントが隠されていた。
「少し個人的な意見になるけれど、連絡先の交換義務というのが気に入らないわね。試験中に必要になるのかしら」
堀北は1人を好む以上、むやみに連絡先の交換はしたくないんだろう。俺と交換したのだって、元々は業務連絡用みたいなもんだしな。
「確か、プロフィールも絶対に書かないといけないんだったな」
俺も茶柱先生の説明内容を思い出しながら言う。
「もう1つ気になるのは、あの右下のアルファベットね……茶柱先生はああ言っていたけれど、間違いなく意図的よ。綾小路くんもそれには気づいてた。アルファベットの文字はAqだったらしいわ」
「Aq……」
言われてすぐに思い浮かんだフレーズは、アンサーとクエスチョンの頭文字。だが、それに何か意味があるとは思えない。
「……実は、俺が席に座るときに持っていったあの紙にも、同じようにアルファベットが書かれてたんだ」
「本当?」
「ああ」
当初言うかどうか迷っていたが、綾小路が漏らしたんならいいだろう。
「大文字のSと小文字のc。俺らが渡された紙同様、かなり小さくな。それから、俺はそれを裏側から読んだ。つまりあれは鏡文字。俺らが見た小文字のqと大文字のOも同じ理屈だとすれば……本当に学校が見せたかったのは、大文字のOに小文字のpってことになるな」
わざわざ鏡文字にする必要があったのは、入室した際に椅子の上にあった紙に載っていたアルファベットを、紙を裏返したまま俺らに見せるためか。そうだとすれば、これはもう100パーセント学校側からのヒントだ。
「それから……優待者の説明があった時の『厳正な調節』という言い回しも気になるわね。振り分けにはある程度の法則があるということかしら?」
「……その可能性は高いな。優待者の特定には、その法則性を見つけるのが鍵ってことか」
つい先日の無人島研修前の「有意義な景色」というのと同じ感じだ。微妙な言い回しによってヒントを与えるのは、この学校の常套手段。無人島の時は堀北のコンディションがコンディションだったから仕方がないとしても、今回の堀北はしっかりアルファベットにも気づいたし、学校側の微妙な言い回しもよく聞いている。やっぱりこいつも優秀だってことだ。
優待者の法則性。ScとOp、そしてAqの意味。
アルファベットは、上の3つも含めて13通りあると見て間違いないだろう。全てのアルファベットを知るためには、この情報をクラスで内密に共有する必要がある。
堀北に今の考えを伝えた上で、提案する。
「堀北、平田の協力が必要だ。あいつ以上に拡散力があるやつはいない」
「それに関しては同意するけれど、彼と連絡を取る手段はあるの?」
「普通に連絡先持ってるからな」
「……意外ね。似合ってないわよ」
「うっせ、自分でもそれは分かってる」
俺と平田が連絡先を交換したとしても、別に友達同士になったわけじゃない。向こうの認識は知らないが、俺からすれば平田と連絡先を交換するのも、堀北と交換したのと同じ理由。クラスが上に上がっていくための協力関係。コミュニケーションの効率化だ。
それに、平田といつでも連絡を取れるというのはかなりプラスに働く。今までもこれからも、平田はDクラスの情報庫になるだろうからな。
恐らくは櫛田も。
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試験開始まで残り3分。俺は一足先に指定された部屋にいた。
12人分の椅子が並べられている以外は、何の変哲も無い無機質な部屋。ドアの外側には、ここがグループIの集合場所だと分かるように『I』という文字が刻まれたタイルが付いていた。
昨日堀北と別れたあと、俺は平田に連絡を取ってアルファベットの件をクラスのほとんどに伝えてもらっていた。その結果、20時以降に説明を受けた組に加え、元々気づいていた人がいたグループのアルファベットが明らかになった。
グループCはGe。グループDはCa。グループEはLe。グループKは、グループDと同じくCa。
おさらいしておくと、俺と堀北が所属するグループIはOp。綾小路や一之瀬が属するグループLはAq。そして調べた結果、俺が見たScというアルファベットはグループHのものであることが分かった。
何かの頭文字か、或いは元素記号か……とも思ったが、元素記号ですらないものが含まれている。頭文字だとしてもこれだけではまだ全く分からなかった。この文字が何を示し、それを解くことができればどのような成果が得られるのか。
そして他のクラスでは、このアルファベットの分析がどこまで進んでいるのか。何も分からない。
今確実なのは、俺も堀北も優待者ではなかったという残念なお知らせと、やはり、このグループ分けには確実に意味があるということだけだ。
その証拠に、グループKのメンバーは錚々たるものだった。
Dクラスからは櫛田と平田、王という女子。
Cクラスからは龍園。Bクラスからは神崎。そしてAクラスからは葛城と藤野。
誰がどう見ても、学校側が仕組んだものだ。だが、それにしてはあってもおかしく無い名前が存在していない。
1人は堀北。グループKにクラスの中心を集めているのなら、堀北の名前はあってしかるべきだ。
そして次、これは堀北以上の疑問なんだが、一之瀬だ。
Bクラスは、間違いなく一之瀬を中心に回っている。あの場にいない理由が全くわからない。
まあ、それは今考えても仕方のないことだ。
試験開始1分前を切ったところで、続々と部屋に入ってくるグループIのメンバー。堀北は俺とは1つ椅子を飛ばして座った。
入室してくる面々を見ていると、見知った顔があった。須藤の冤罪事件で色々あった石崎。向こうも俺と堀北を認知しているのか、少し強めに睨まれるが、すぐに視線は外された。
そしてもう1人、俺がCクラスのベースキャンプに探りを入れに行ったとき、釣竿に細工し終わったところで俺に声をかけてきた大人しそうな女子生徒。グループの名簿からすると、こいつは椎名ひよりという奴だろう。
そして、高校生とは思えない巨体を持つ、色の黒い男子生徒も入ってきた。なんかこのグループすごいな……
『では、初めのディスカッションを開始してください』
そして、ついに試験が始まった。
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1時間後、初めのディスカッションが終了した。
何のことはない、学校側からの指定があった自己紹介を簡単に済ませてからは、流れ的にBクラスの浅田が場を仕切る形になり、ディスカッションは進んで行った。
だが、Aクラスは話し合いに一切参加しないという提案をしてきた。話し合いを持たなければ優待者が見破られることはなくなり、必然的にクラスポイントに影響の出ない結果1または2になる。一見デメリットのない提案のように思え、グループ内でもその方向で進もうとしていた。
だが、Bクラスはその意見が出ることを予見していたように、それは下位クラスからすれば上位クラスに追いつけるチャンスを棒にふる行為で、一概に損がないとも言えないと反論した。
討論自体は浅田と里中が行なっていたが、恐らく中身は別。
一之瀬と葛城は、俺や他の生徒たちの見えないところでバチバチ火花を散らしている。この2人のやり取りは非常に高度だ。
結果的にAクラスは、そちらが話し合いをしたければ勝手にやれという態度を取り、時間が来て解散となった。
Aクラスのこの作戦は、間違いなく葛城が提案したものだ。だが、先ほどの話し合いの中で、葛城の名前が出た瞬間に雰囲気が変わったやつが少なくとも1人いた。
同じくAクラスの神室という女子生徒。俺の勝手な予想だが、神室は坂柳の派閥に属しているんだろう。ディスカッションへの不参加を最初に提案した里中という平田級のイケメンは恐らく葛城派。残りの和田に関しては何とも言えなかった。藤野と同じく中立を保っている奴なのか。
ひとまず話し合いのことは一旦そばに置いておき、俺は5分ほど前に届いたメールをもう一度見返した。
昨日に引き続き、俺は佐倉に呼び出されてしまっている。場所は船首だ。
そこには、タイタニックの真似事でもできそうなほど広い空間が広がっていて、そこにいるのは隠れるようにして縮こまっている佐倉だけ。人通りも少ないし、いい場所だ。
今度は驚かせないように……と注意しながら近づいていく。
「……んだけど、どう、かな?」
佐倉との距離が縮まるにつれ、何かごにょごにょと声が聞こえてくる。
「そ……その、わ、私とで、でー……」
だが、その声ははっきりと聞こえて来ず、何を言っているのか分からない。
「……」
「とぅぉをおおおおおおおおおおおおおおお!!?は、速野くんいつから!?」
「い、今です……」
突如ボリュームを上げた佐倉の反応にこちらまで驚かされてしまった。
「え、じゃ、じゃあ聞こえちゃった!?私が今言ってたこと!!?」
「い、いや、声小さかったし、波の音でかき消されて……」
「は、はああ………よかった……」
そんなに俺に聞かれたくないことだったのか。だったら俺を呼び出したタイミングでやらなきゃいいのに。
「それで、今度はどうしたんだ?」
肝心の要件を聞くと、少しギクッという表情をしたあと、誤魔化すように付け加えた。
「え、えーとぉ、そ、そう!グループのことでちょっと……」
いつもより声がでかい佐倉に少し疑問を感じながらも、差し出された紙を見る。確か佐倉はAグループだったな。
Aクラス…沢田恭美 清水直樹 西春香 吉田健太
Bクラス…小橋夢 二宮唯 渡辺紀仁
Cクラス…時任裕也 野村雄二 矢島麻里子
Dクラス…池寛治 佐倉愛理 須藤健 松下千秋
はあ、どうもこのバカンス中、佐倉にはことごとく運がないらしい。まだ話すことのできる堀北と同じグループに属す俺は幸運な方だ。
「この件に関しても……残念ながら俺は役に立てそうにないな。悪い」
池や須藤に佐倉と仲良くしてやってくれと言うのも不自然だろう。それにそれは佐倉が好むかどうか。ディスカッション中の閉鎖空間で急に2人から話しかけられたら、佐倉は耐えられないだろう。
あと、松下に関しては顔と名前以外ほぼ何も知らない。
「う、ううん、大丈夫。私の方こそ……その、事あるごとに呼び出したりなんかして……」
「別にいい。解決できるかは分からないが、話を聞くだけならいつでも」
「……ありがと」
そうやってお礼の言葉を言われると、やっぱり少し胸が痛むな。
だが、佐倉が徐々に自分のことを発信しようと頑張るようになっている。これまでの佐倉なら、グループ内の人間関係なんて諦めていただろうに、それもなくなっている。
このバカンスで一番変化があったのは佐倉かもしれないな。
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午後8時からのディスカッションも進展ゼロで終え、現在時刻は23時50分。試験の経過の話し合いをするとのことで、俺は綾小路、平田、幸村、高円寺が宿泊している部屋に来ていた。
「来てくれてありがとう、速野くん」
「いいよ別に。暇だったしな」
そんな会話の隣では、上半身裸の高円寺が逆立ちのまま腕立て伏せをしている。マジでなんなんだこいつは……末恐ろしいというか、掘っても掘っても底が見えて来そうにない。
「高円寺くんも参加してくれると嬉しいんだけどね」
「すまないね平田ボーイ。私は今、肉体美の追及中だ。邪魔しないでくれたまえよ」
はっはっは、と笑いながら言う高円寺。すまないね、とは微塵も思ってないだろう。
正直、高円寺が味方になればこれほどすごいことはないと思うが、あいつが俺らに協力するなんて地軸が180度変わってもあり得ない気がする。つまりあいつのことは気にするだけ無駄ということだ。
「実は、僕のところに2人、優待者が名乗り出てくれたんだ」
「何?……それは誰だ?」
幸村は、平田の衝撃の告白に食いつく。
「それは……言えないよ。信頼して教えてもらってるからね」
「俺たちが信用できないっていうのか。お前が知っている以上、俺らにも知る権利はあるはずだ。それに優待者の情報を共有することで、何かわかるかもしれないだろ」
「……そうだね。僕も相談したいと思っていた。実は……」
「平田、一応携帯かなんかに打ち込んだほうがいい」
平田が人物名を口に出す直前、俺はそれを引き止める。平田もそれがいいと思ったのか、携帯を取り出して文字を打ち始めた。非常になれた手つき。メールに慣れてない俺の5倍くらい速そうだ。
『グループKの櫛田さん、グループIの南くん、グループGの吉野くん』
ほお、南が優待者だったとは。全く気づかなかった。
「平田、こいつの連絡先持ってるか?」
平田の端末の画面に表示されている吉野の文字を指で示す。南のは同じグループなので元から持っている。
「え?うん、持ってるけど……ただ、本人の許可なく連絡先を教えることはできないよ」
「俺が知りたいのは連絡先じゃなくて、プロフィールだ」
ずっと変だと思ってはいたのだ。なぜわざわざプロフィールを全て書かせる必要があるのか。グループのメンバーに個人情報を共有する必要があるのか。
その理由を求めることも含めてシンキング、ということなんだろうか。
その旨を伝えると、平田は少し迷ったようだがプロフィールを見せてくれた。俺は部屋に備え付けてあったメモ帳とペンを取り、それをメモする。
学籍番号、名前、ふりがな、生年月日、血液型。これらの情報から得られるものは……
アルファベットということなら、一番は血液型との関連性が考えられる。でもpとかLとかあるし、違うなこれは。そもそも13ってのと繋がらない。
一旦考えるのをやめ、話し合いに意識を向けた。
「グループLでも話に出たんだが、恐らく優待者は各クラス同じ人数存在する。特殊グループを合わせたら、1クラスにつき優待者は4人。少なくとも、あと1人黙っている奴がいる」
幸村の言うことは恐らく正しい。そして他の生徒もそう考えたからこそ、葛城のあの案に皆流されかけた。
「うん、僕もそう思う。でも、名乗り出ることを強制はできないよ。本人の意思の問題もあるし、誰かに話せばその分リスクが高くなるわけだしね」
平田の言う通り。つまり平田は今そのリスクを取っているわけだが。
そんな感じで話を煮詰めていく中、部屋に中に鼻歌が響き出した。どうやら発生源は高円寺。逆立ち腕立て伏せをしながら鼻歌歌えるってどういう構造してるんだこいつの体は。
それに集中を乱された幸村が、しびれを切らして高円寺に言う。
「ああくそ高円寺!気が散るから鼻歌を止めてくれっ!それと、最後までちゃんと試験に参加してくれよ。無人島の時みたいなことは絶対にするな」
「そう言われても、私はあの時本当に体調を崩したんだ。無理はできないさ」
「っ、仮病のくせにっ……!」
無人島から船内に戻った際、高円寺の身体は1週間みっちり焼かれていたことが目に見えた。こいつが体調を崩したと言っても信じる奴は1人もいないし、高円寺もそんなことはどうだっていいんだろう。
「ふむ、この面倒な試験があと2日も続くのは面倒だねえ」
「面倒って、まともに考えてもいないくせに何言ってるんだ」
「意味のないことを真面目に考えても仕方がないだろう?嘘つきを見つけるだけの簡単なクイズさ」
言いながら、ベッドの上に置いてあった携帯を取ると、何かを打ち込んで再びベッドの上に戻した。
「お、おい、何をしたんだ!?」
そう叫ぶ幸村だが、時すでに遅し。高円寺が操作を終えるのとほぼ同じタイミングで、この部屋にいる5人全員に一斉にメールが届く。
『グループDの試験が終了いたしました。グループDの方は以降の試験に参加する必要はありません。他のグループの妨げにならないよう、注意して行動してください』
「おい、グループDってお前のグループだろ高円寺!」
「その通りだよ。私は晴れて自由の身となったわけだね。では、アデュー」
そう言ってバスルームへと消えていく高円寺。俺らは呆気にとられてしまい、何も言うことができなかった。
「くそっ、なんてことをしてくれたんだ……俺らが必死に考えてる間にっ!」
「まだ分からないよ。彼なりの考えがあったのかも……」
「考えが甘い!あいつは自分がよければそれでいいんだ!最悪だ!」
幸村が叫ぶ。だが、本人もその性格はよく理解している。三ヶ月前のあのバスの中で、高円寺ははっきりと自分はそう言う性格だと自己紹介していた。
だが高円寺はもしかしたら、さっきの言葉通り「嘘つき」を見つけたのかもしれない。
高円寺の行動により、全生徒は混乱を起こしていた。このバカンスに入る直前に、綾小路に入らないかと言われて初めて入ったクラス内のグループチャットの通知がどんどん溜まっていく。それとは別で、堀北からもメールがあった。
「ごめん、みんな混乱してるみたいだね」
そりゃそうだ。初日時点で裏切り者が出るなんて誰も予想できなかっただろう。
「くそ、あいつのせいで話し合いどころじゃなくなったじゃないか」
幸村の我慢も限界らしい。話し合いが行われないのなら、俺はもうここにいる必要はないな。
「じゃあ、俺は戻る」
そう言って、俺は部屋を後にした。
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「速野」
自分の部屋に向かっている最中、背後から声をかけられて、振り向くと、綾小路が立っていた。
「なんだ?」
「少し話せないか」
「話すって、何を?」
「その前に場所を移したいんだが、いいか」
「……ああ」
綾小路の背中についていき、行き着いた先は、今日の昼に佐倉と会った船首だった。
「で、なんなんだよ、話って」
「速野、お前の無人島試験でのことは堀北から聞いた」
やっぱり、その話題だったか。
堀北から、綾小路に話した、という報告は聞いていない。だが、堀北が話しているなら話しているでいい。俺は綾小路の行動を把握してたわけだし。
「そうか。でも、お前は俺を責められないだろ?」
俺と綾小路のやろうとしていたことはほとんど同じだった。他クラスにリーダーの確実な証拠をリークした上で、最後の最後に堀北をリタイアさせ、リーダーを変更する。その過程で取る手法などは違っていたとしても、行き着くゴールは同じだ。
「別に責めるつもりはないさ」
そう答える綾小路。
普段と比べて、雰囲気がだいぶ違う。俺には無能を装う必要がなくなったからか。ここはある程度警戒した方がいいだろう。利用されるだけならば構わないが、俺が不利になることがあれば対処する必要がある。
「お前の優秀さを買った上で、頼みたいことがある」
「なんだそれ、嫌味かよ」
「そうじゃない」
俺以上に優秀なこいつにそんなこと言われても素直に受け取ることなんてできるはずがない。そもそも、俺の行動を堀北から聞いたというのもどこまで本当か分からない。
恐らく堀北から聞いたのは本当なんだろう。それは堀北に確認すればすぐに分かることだ。今、こいつが俺に対して嘘をつくメリットはない。だが、堀北に聞く以前から綾小路が俺の行動を把握していたのなら、そこには見えない嘘が発生する。
まあでも、たとえそうだとしても俺にはなんの不利益もない。
「分かった。話は聞く」
「助かる」
そして最後まで詳しく話を聞き、理解する。
綾小路の提案は、とても面白いものだった。確かにこれは有効な一手だ。ルールを上手く使っている。
そしてそれはクラスのポイントへと繋がる。
「もちろん、それ相応の対価としてポイントを支払う用意はある」
「いや、いらない」
「どうしてだ?」
「不確定な約束をしたくないだけだ。お前のその作戦にはまず自クラスの優待者が必要。そいつが協力してくれるか分からない以上、安易には言えないな」
「……そうか、分かった」
納得したらしく、小さく頷いた。
「俺はちょっと酔い止め飲むための水買いに行くが、どうする?」
「俺はいい。ちょっと夜風に当たりたくてな」
「そうか。風邪引くなよ」
「ああ」
短い会話を済ませ、俺は船内へと戻っていった。
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恐らく綾小路も理解してくれたはずだ。
もちろん、綾小路に直接言ったこともポイントを断った理由のひとつではある。
だが、俺の本音ではない。
俺がポイントを受け取るということは、綾小路は短期で俺に見返りを払い終わるということ。実に楽な方法だ。
だから俺は言外にこう言ったのだ。
ポイントはいらん。貸しひとつだぞ、と。
答えがわかってしまった方は、感想などでは言わず、「うっわこの作者レベルひっく」と思ってください。
感想、評価お待ちしております。