実力至上主義の学校に数人追加したらどうなるのか。※1年生編完結 作:2100
2020/1/11、大幅に改稿いたしました。ぜひお読みください。
1
厄日の翌日。つまり入学2日目。
昼飯の直前の授業の一コマを利用し、新入生に向けた部活動説明会が、体育館で開かれることになっていた。
俺たち新入生は、敷地外に出ること、および外部との連絡は一切禁止、という旨の説明を受けている。じゃあ対外試合の場合はどうするのか、ということは個人的に気になっていたが、それは普通にオッケーで、その代わりに現地では厳重な監視がつくらしい。
連絡といえば、昨夜、藤野から本当に連絡が来て軽くびびった。
確かに「今日の夜連絡するね」とは言われたが……あんなのふつうは社交辞令だと思うじゃん。
で、どんな会話をしたかというと、藤野の「よかった、ちゃんと繋がったね」、という言葉で始まり、今何してたかを言った後、話題が尽きて沈黙が流れ、じゃあまた明日、で終わった。
まったくもって面白味のないやりとりだったが、俺にまともな会話スキルを求めたのが悪い、と責任転嫁しておくことにした。すまんな藤野。
それにしても、どうしてこの学校は外部との連絡を固く禁じているのだろうか。
漏れたら困る情報があるのか。
悪評が広がるのを未然に防いでいるのか。
しかし現時点では、この学校に悪評が生じる要因なんてない気がするんだが。
不自然ではあるが、大量のポイントが付与されている。
それに昨日1日過ごしただけでも分かるが、設備のレベルも相当高い。
昨日改めてパンフレットを見てみたが、本当に多種多様の娯楽施設が完備されていて、おおよそ生徒たちは不自由しないだろう。強いて言えばテーマパークが存在しないが、高校3年間、遊園地の類に行かない人なんてザラにいる。
持ち上げているように聞こえるかもしれないが、ここで1日過ごしてみての素直な感想だった。
少し気になる点といえば、校内のいたるところに監視カメラがついているということ。
巧妙に設置されており、普段から神経質な人間でなければ気づかないだろう。
現に須藤は昨日のコンビニでの場面、カメラには全く気づいていなかった。
今日の朝、教室にも設置されているのを見つけたが、それも昨日の時点では分からなかった。
普通に考えれば、監視カメラをつける目的なんて防犯くらいのものだ。
しかしこの学校の特性や、教室にもカメラがあったことから、それだけが理由だとは考えにくい。
生徒を監視して緊張感を与える、という目的でつけるなら、生徒にカメラの存在を周知しておかないとその効果は期待できない。
とすれば、生徒の出来るだけ自然な姿を見たい、という事だろうか。
それなら、生徒に監視カメラの存在がバレるまでは効果的だと言える。
だが、それでも早い段階で監視カメラの存在は周知の事実になるだろう。もって2ヶ月くらいか。
効果的ではあるが、長続きはしない。こんな方法を政府が取るかといえば、少し疑問だ。
さて、なぜ部活動説明会の真っ只中にこんなことを考えているかというと、説明会に全く興味が湧かなかったからだ。
上級生たちは新入部員獲得のため、新入生の興味を引こうとして頑張っている。
たまにウケを狙ってくる人もいたが、ドン滑りで失笑を買うだけだった。
運動は得意でも不得意でもないが、それ自体が嫌いなわけじゃない。
少なくともバスケは好きだ。
だが、部活に入ってまでやりたいとは思わなかった。
部活に所属すると、知らず知らずのうちに自分の中で「練習行かなきゃ……」といった義務感が働く。
俺は、スポーツはやりたい時にやり、やりたくないときはやらない、というのが一番いいと思っている。
こんなこと言ったらプロを目指している人に怒られるかもしれないが、俺はただの趣味に義務感で時間を割くような真似はしたくなかった。
紹介された部活は、いま俺が言及したバスケ、バレー、野球、サッカー、陸上、水泳等々、王道な部活は揃っていた。
文化系部活もあったが、そちらはそもそも印象に残っていない。
ともあれ、俺が部活に入るということは、現時点ではなさそうだ。
「……」
そう結論付けると、いよいよ退屈である。
本当に退屈した時は、無性に体をひねったり動かしたりしたくなる。俺もその欲求に従って首を回し、ついでに周りを見回した。
割合にして半分くらいの生徒たちは、俺同様退屈している様子だった。
俺のように、部活そのものに興味がない人だけではなく、既に興味のあった部活の紹介が終わって退屈していた人も中にはいるだろう。
そして首が右を向いた時、隣に堀北がいることに気がついた。
もしかして最初から隣にいたのか……?気づかなかった。
その堀北の視線は、舞台上に一直線に注がれている。
もちろん、今は部活動説明会。本来そうすることが正しいのだが、堀北が向けている視線には、説明している先輩を見る目とは違う、何かしらの他意を感じた。
見ていることに気づかれても困るので、俺も堀北と同じ方向に目線を向けた。
「カンペ持ってないんですかー?」
1人の生徒のヤジが飛び、場内は笑いに包まれる。
堀北が視線を向けるその上級生は、舞台に立っているにもかかわらず、一言も話さない。
始めはみんな、その上級生をいじるような雰囲気だった。
しかし上級生は微動だにしない。
そのうち、体育館の中は妙な空気に包まれ始める。
徐々に、徐々に話し声が小さく、少なくなっていく。
そしてあのヤジから十数秒と経たないうちに、誰も一言も喋らない、いや、喋ってはいけないと思わせるような静寂が訪れた。
そのタイミングで、壇上の男は話し始める。
「私はこの学校で生徒会長を務める、堀北学です」
堀北。
その苗字は、隣にいる俺のクラスメイトと同じものだ。
「生徒会でも、他の部活同様、一般生徒から役員を募ります。立候補に必要な資格はありませんが、入会した場合は、他の部活動の掛け持ちは、原則認められません」
丁寧な口調で淡々と説明していく生徒会長。普通なら、特別な感情を抱くことはないはずだ。
しかし、体育館にいる新入生160名は、そのほとんど全員がこの人物の演説に聞き入っていた。
この生徒会長が、いや、堀北学という男が話す一言一言には、確かな鋭さがあった。
そして、と、生徒会長は言葉を続ける。
「生徒会は、半端な気持ちでの立候補者は必要としていない。もしもそのような気持ちで立候補した場合、恥をかくだけでなく、この学校に汚点を残すことになることを理解してもらいたい。この学校の生徒会は、それだけの学校からの信頼と誇りを持って活動している。本物の信念を持つもののみ、ぜひ私たちとともに活動していこう」
あまりの静寂に、拍手すら生まれなかった。
司会進行を務めていた橘という生徒が「堀北さん、ありがとうございました」と告げるまで、この場にいる者は誰1人として口を開くことができなかった。
説明会が終了し、新入生がゾロゾロと体育館を出ていく。
さて、俺も戻るか、と歩き出そうとしたところで、ふと、不自然な光景が目に入った。
「……おい、堀北?」
「……」
立ち尽くしたまま、一言も喋らない堀北。
無視して先に行ってもいいのだが、少し気になる。
「おーい」
「……」
やはり無反応だ。
これ、俺の声聞こえてないんじゃ……?
パンッ
「ひあっ!」
「……」
「……な、何を……」
「いや、呼んでも無反応だったから……」
ビンタしたわけではない。
顔の目の前で手を叩く、所謂猫騙しというやつだ。
堀北を驚かせて気づかせるのには成功したのだが、あまりに意外すぎる堀北の小動物的な反応に、逆にこっちが驚かされてしまった。
堀北自身も今の反応は恥ずかしかったのか、ちょっと顔が赤くなってる。
珍しいものが二連発で見れたなー、とか思っていると、堀北の表情はいつの間にか普段通りに戻っていた。
今後このことを言い出そうものなら殺すと堀北の目が語っている。言わねえよ。言わねえから睨むな。怖いなまったくもう。
「……みんな戻り始めてるぞ。早く歩けよ」
「先に行けばよかったでしょう。待ってほしいなんて頼んでないわ」
「……でも、お前あのまま1時間くらい立ち尽くしてそうだったぞ」
「……別に、少し考え事をしてただけよ」
堀北はそういって、何も問題がないことを強調する。
ここはひとつ、探りを入れてみるか……
「堀北、お前下の名前なんだ?」
「答える必要があるかしら。というかそもそもあなたには苗字も教えた覚えはないのになぜ知っているの?」
「昨日、コンビニで綾小路が口走っててな。てか、俺もお前に名前教えた覚えないのに、俺の名前知ってるだろ。同じようなことだ」
「言われてみれば確かにそうね。でも、下の名前まで知る必要はないと思うけれど」
「お前あの生徒会長と同じ苗字だし、一応区別するためにな。いやならいやでいいが」
生徒会長、という単語を俺が口にした瞬間、堀北の肩がわずかに跳ねた。
「……鈴音よ。鈴に音。これで満足?」
「……ああ、まあ」
俺が言った「生徒会長」というワードの影響かは分からないが、思っていたよりも素直に答えが返ってきた。
だが、さっきの反応で確信に変わった。これ、絶対何かあるな……
とは思うものの、他の家族の問題に首突っ込むような野暮なことは、面倒臭そうだししたくない。
そう思いつつも、すでに堀北とあの生徒会長が家族だという前提で話を進めている俺であった。
2
「速野くん、だよね?」
「……?」
放課後を迎え、寮に帰宅しようとしていると、突然名前を呼ばれた。
「僕は平田洋介。よろしくね」
「あ、ああ。よろしく。速野知幸だ」
爽やかな雰囲気で、且つイケメン。ザ・好青年という感じの男子生徒だった。
「……何か用か?」
「ああ、ごめんね。そんなに時間は取らせないつもりだよ」
「いや、急いでるわけじゃないんだが……」
平田は今朝、多くの生徒(特に女子)から頻繁に声をかけられていて、目立っていた。
そんなクラスの人気者が、いったい俺に何の用なのか。
「実は昨日、クラスで自己紹介をしたんだ。でも、速野くんはその場にいなかったよね?」
「ん……ああ、話は聞いてる。先生が出て行った後にやってたらしいな。ちょうどその時トイレに行ってたんだ」
昨日と同じく「雉を撃ちに行ってた」と言おうとしたが、やめた。
「そうだったんだ。安心したよ」
「……安心?」
俺がトイレ行ってたことで安心する要素なんてあるか?
強いていえば俺が便秘じゃないことが確認されたくらいだが……そうなると、平田が初対面の生徒の腸内事情を心配する変人ということになる。
「実は、自己紹介を拒んで教室を出て行ってしまった人たちがいてね……当然、強制することじゃないから、不快に思わせてしまったことを申し訳なく思ってたんだけど、速野くんはそういうわけじゃなかったんだ」
ああ、なるほどそういう話か。納得。
自己紹介を拒んだのは、多分堀北や堀北、それに堀北とかのことだろう。
話を聞く限り、自己紹介をやろうと発案したのはこの平田らしい。
きっとこれから、クラスのまとめ役的な存在になっていくんだろうな。
「今日の部活動説明会、何か気になる部活はあった?」
「いや……どこにも入る気はないな」
「そうなんだ。僕はサッカー部に入ろうと思ってる。中学から続けてるんだ」
「……そうなのか」
サッカー部か……なんというか、イケメン要素を詰め込んでるな。
いまここで俺に話しかけてるのは、自己紹介ができなかった俺への気遣いだろう。
……あれ?
俺が自己紹介をしてないってことは……
「そういえば平田、なんで俺の名前知ってたんだ?」
俺は自己紹介をしていないんだから、本来平田が俺の名前を知っているはずがない。
「ああ、君が持っていた教科書にそう書かれているのを見たんだ」
「でもそれだけだと、『すみの』と間違えやすいと思うんだが、よく『はやの』って読み方が分かったな」
「綾小路くんがそう呼んでるのを耳にしたからね。すまない、驚かせちゃったかな」
「ああ、謝る必要はないが、ちょっと驚いた」
小学校や中学校の先生も、俺の苗字の読み方を間違えることは多々あった。
些細なことだが、名前を正しく呼ばれるというのはうれしいことだ。
「ごめんね、急に呼び止めたりして。これからよろしく、速野くん」
「あ、ああ。こちらこそ」
そう言うと、平田は荷物を持って教室を出て行った。
確か、部活の申し込みは今日からスタートだったな。サッカー部に入ることをすでに決めている平田は、恐らくそれをしに行くんだろう。
俺はこれ以上学校にいる用事もないので、寮に帰宅することにする。
ただ、俺と同じように放課後に直帰するのは少数派だ。
多くの生徒は、与えられた大量のポイントを使い、昨日と今日で仲良くなったメンバーで娯楽施設に遊びに行く。
中には未だに友達を作れていない生徒もいるかもしれないが、一人でも楽しめる娯楽施設は敷地内に多数存在する。
「平田と何話してたんだ?」
自分の席に戻って荷物を背負ったとき、綾小路に話しかけられた。
「別に……世間話みたいなもんだ。昨日俺が自己紹介に参加してなかったから、気を遣って話しかけたんだろ」
「なるほどな」
綾小路と並んで教室を出る。
こいつもそのまま寮に行くらしいので、一緒に帰ることになりそうだ。
とはいえお互いによく話すタイプではないので、俺たちの間には沈黙が大半を占める。
……学食の無料の商品のこと、綾小路にも共有しておくか。
「もう学食行ったか?」
「いや、まだ行ってない。昨日も今日もコンビニだった」
確かに、今日の昼も教室でコンビニ飯食ってたな。
「実は、学食にも無料のモノがあったんだ」
「……本当か?」
「ああ。『山菜定食』ってメニューだったんだが、マジでおいしくなかった」
「食べたのか……」
「今日の昼にな。……悪いか?」
いいだろ別に昼飯に何食っても。
ちなみに山菜定食の味だが、先ほど言ったように確かに全くおいしくない。しかしポイントは、決してまずいわけでもない、ということだ。
美味しくないので積極的に食べようとは絶対に思わないが、「食べたくない」とは思わない。むしろ無料というメリットを考えると、「食べてもいい……のか?」と思ってしまう、非常にタチの悪い商品だった。
「コンビニの次は学食にも、か」
「それと、あそこにあるミネラルウォーターも無料だ」
「……本当だ」
マジかよ。今歩いてる場所から自販機まで割と距離あるんだが、見えるのか。目いいなこいつ。モンゴルの遊牧民かよ。
「ポイントが足りなくなったら、オレも使わないといけなくなるかもな」
「そりゃそうだろうけど、昨日堀北が言ってたように、10万も貰って足りなくなるって普通じゃないと思うけどなあ」
「まあ、確かに」
支給されるポイントが減る可能性については全く考えていない体で会話を進める。
そのことについても言おうか迷ったが、話がややこしくなりそうなのでやめておいた。
「なあ、速野」
「ん、何」
「一つ頼みがあるんだが」
「……急だな。どうした」
大したことではないだろうとは思いつつも、少し身構える。
「よければでいいんだが、連絡先交換しないか?」
……前言撤回。俺にとってはめちゃくちゃ大したことでした。
マジで急だな。いや、もちろん大大大歓迎なんだが。
「ああ、いいぞ」
交換の操作は滞りなく終わり、無事二人目(クラスメイトでは初めて)の連絡先を入手することに成功した。
「そういえば、Dクラス全体と、男子用のグループチャットができてるんだ。一応招待しておくぞ」
「あ、ああ、助かる」
もうそんなのできてたのか……
それに綾小路がすでに参加していたということにも、失礼ながら少し驚きを感じてしまった。
俺が招待された二つのチャットのルームにはそれぞれチャットへの参加人数が表示されており、クラスの方は35人、男子の方は18人が参加していた。
クラス全体で40人、男女比は半々だから、クラスチャットには5人、男子チャットには2人、それぞれ参加してない人がいることになる。クラスの方の5人のうち1人は絶対に堀北で確定だとして、それを除いてもあと4人も参加していない人がいるんだな。少し意外。
そういえば、綾小路は何人の連絡先を持ってるんだろうか。
せっかくだし聞いてみるか。
「今までに何人と連絡先交換したんだ?」
「速野含めて4人だ」
「……なるほど」
いや、何がなるほどなのかは自分でもわかってないんだけど。
俺の倍か。
4人という数字が少ないのかは分からないが、恐らく多い方ではないだろう。
対して、俺の2人という記録が少ない数字であることは間違いない。
そんな会話を交わしているうちに寮に到着し、エレベーターに乗り込む。
綾小路は4階、俺は5階に自室があるため、俺がエレベーターの中に残って綾小路を見送る形になる。
「じゃあ、また明日」
「ああ」
エレベーターのドアが閉じる直前に軽く手を上げて、綾小路と別れた。
ちょっと少なめですね。
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