実力至上主義の学校に数人追加したらどうなるのか。※1年生編完結   作:2100

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では、どうぞ。


ep.37

 この間からルーティンに組み込まれたバスケット。うだるような暑さの中でそれを終えた俺はシャワーを浴び、昼寝をして、ベッドに寝転びながら本を読んでいた。

 そんな時、脇にあった携帯が震えだした。

 

「……佐倉から?」

 

 バカンスでの特別試験が終わってから、佐倉とは電話やメールを一切していない。何の用事だ、と思いながら、端末を操作して電話に出る。

 

「……もしもし?」

『あ、速野くん……いま、大丈夫?』

「ん、ああ、別に」

 

 ただひたすらダラダラしてただけだしな。

 

「どうしたんだ」

『そ、その……実は、櫛田さんに呼び出されてて、大事な話があるからって……』

「櫛田から?」

『うん……で、でも、覚えがなくて……私何かしちゃったのかなって不安で……』

「ふーん……」

 

 櫛田から呼び出しか。大事な話ならお互いの部屋のどちらかですればいいとは思うが……わざわざ暑い中、外で話すメリットとは。

 

「櫛田だろ?悪いようにするとは思えないけどな」

『う、うん、そうなんだけど……あの、迷惑じゃなかったら、一緒に来てくれない、かな?』

「え……1人で来いって言われてるわけじゃないのか?」

『い、一応、言われてないかな……』

 

 なんだ、ますます意味がわからん。1人で来いと言うと佐倉が警戒すると思ったんだろうか。

 

「まあ、いいぞ」

『ほ、ほんとにっ?』

「暇だしな」

『ありがと』

「いいよ別に。で、いつなんだそれ」

『えっと、30分後なんだけど……』

 

 随分急だな……と思ったこちらの意図を察したのか、俺に連絡するか今の今まで迷っていた、と付け加えた。

 

「分かった。じゃあ10分後くらいに」

『うん。ご、ごめんね、わざわざ』

「いいって」

 

 そんな感じで通話を終え、携帯を閉じる。

 櫛田からの大事な話なら俺が行かないに越したことはないんだろうが、あの店員の件が佐倉の中でトラウマになっていてもおかしくはない。

 店員があの行動に出たのは、ある意味俺に責任の一端があるわけだしな。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 約束の場所に向かうと、佐倉はすでにそこに立っていた。

 

「悪いな。待ったか」

「う、ううん、全然……」

「時間まではあと20分か……」

 

 少し早い気もするが、時間にルーズよりはいいだろう。

 

「わ、私、何かしちゃったのかな……」

 

 まあ、急にこんな形で呼び出されたら不安にもなるか。でも櫛田だしな。それに佐倉も、誰かに迷惑をかけるようなことをするとは思えない。

 

「あー……無責任かもしれないが、多分大丈夫だと思うぞ」

「そ、そうかな?」

「ああ。何かしたわけじゃないならな。何言われても、自分の本音を言えばいい」

 

 櫛田が本音で言うとは限らない。学校生活での様子を見ていると、本音で語っていない割合の方が多い気がする。もちろん俺の勘違いで、本当に櫛田が善意の塊だというのならそれでいいんだが。

 俺はどうも、櫛田のことを信用しきれない。

 いや、まあそれは櫛田に限らずなんだけど。

 

「そろそろ行ったらどうだ?まだ時間は早いが、向こうがもう来て待ってたら悪いしな」

「う、うん、そうするね……、あ、あの」

「ん?」

 

 歩き出そうとした佐倉が足を止め、こちらを振り返る。

 

「ま、待っててくれる?」

「……ああ、分かった」

 

 そう確認を終え、安心した表情を浮かべながら佐倉は指定された場所に向かっていった。

 

 何だこれ。保護者かよ俺は。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 10分ほどがたち、佐倉がゆっくりとした足取りで戻ってきた。

 

「お疲れさん」

「う、うう……」

「……」

 

 少し目を逸らされてしまった。

 と、そこで佐倉の手に白い封筒が握られているのに気づく。

 

「その封筒は……?」

 

 条件反射的に質問してしまう。だがそれを聞いた瞬間、佐倉はさらにあたふたし始めた。

 

「え、ええ、えっと……その、綾小路くんから、渡されて」

「……は?」

 

 一瞬混乱してしまう。え、綾小路が?佐倉に?なにそれ想像できない。

 

「ていうか、呼び出したの櫛田じゃなかったのか?」

「じ、実は綾小路くんが頼んでたみたいで……」

 

 ……事態が飲み込めない。

 

「なんか、他の人から渡してくれって頼まれた、みたいで……その、このラブレター……」

「あー……なるほど」

 

 やっと理解できた。綾小路が渡しにきたってことは、多分そのラブレターを書いたのは山内だろう。そして櫛田に呼び出しを頼んだのも恐らく山内。だが勇気が出ず、手紙を渡すのを綾小路に頼んだってところか。

 

「それで……読んだのか?」

「それはまだだけど……1人で読んだ方がいいよね?」

「まあ、多分その方がいいだろうけど……」

 

 ラブレターなんて書いたこともないし渡されたこともないからよく分からないが、佐倉に好意を抱いて書いたラブレターを俺にも読まれるというのは嫌だろう。

 

「どう返事するにしても、手紙はちゃんと読んでやってくれよ。もしかしたら好きな人からかもしれないしな」

「その可能性はもうないし……」

「……え、なんで分かるんだ?」

 

 手紙はまだ読んでないはずだが。

 

「あ、えっと、その、私好きな人いないからっ……!」

「そうか……」

 

 それにしては妙な言い方だったが、まあ気にするのも野暮だ。佐倉は自分で考えて自分で答えを出せばいい。佐倉がどんな結論を出そうが自由だ。俺の関知するところではない。

 

 だが、エレベーターに乗っている間、佐倉は終始不安そうな表情を浮かべていた。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 夕飯と風呂を済ませ、そろそろ寝ようとしていた頃。夕方に引き続き、携帯が鳴った。今度は電話ではなくメールらしい。

 

『いま大丈夫?』

 

 佐倉からの短い文面のメールに返信する。

 

『ああ』

『起こしちゃった……?』

『大丈夫だ』

『ごめん。今から電話かけてもいい?』

『ああ。というか、一々確認取らなくてもいいぞ』

『ありがとう』

 

 そこで連絡方法がメールから電話に切り替わる。

 

『もしもし……?』

「どうした。不安か?」

『う、うん、明日の5時に山内くんに返事をしなくちゃいけないんだけど……あっ、山内くんだって言ってなかったね』

「別にいう必要はなかったぞ」

 

 予想はしてたし、綾小路に確認すれば済むことだ。

 

『返事をする前に、会えないかな……?』

 

 正直、より深く事情を知っている綾小路の方が適任だとは思うが

 

『その、やっぱりそのことを考えると、不安で寝付けなくて……』

 

 告白される側っていうのも、やっぱりそうなってしまうのか。佐倉みたいなタイプは特に顕著だろうな。

 

「俺にはその気持ちはよく分からんけど、慣れてるとかじゃなければ全員そうなるんじゃないか」

 

 恋愛小説なんかが売れるのは、登場人物の気持ちに共感する人が多いからだと考える。映画でもそうだ。ストーリーによって、甘かったり、時に悲しかったり。そういった紆余曲折を全てひっくるめて恋愛なんだろう、と、恋愛経験ゼロの俺は思っている。うわあ、説得力ゼロ。

 

『あ、あのね?余計なことかもしれないけど……』

「なんだ」

『その、速野くんは、あの、好きな人とか、いたりするのかな、って……』

「?聞いてどうするんだ」

『あ、や、やっぱり嫌だよねっ。ごめん、忘れて?』

「いや別にいいんだけど……一応言っておくといないぞ」

『そ、そうなのっ!?』

「ああ。なんでちょっとテンション高いんだ……」

『あ、えっと、私と同じだな、って!』

「……」

 

 好きな人はいない。これは佐倉の答えだと受け取っていいのだろうか。

 

「……もう大丈夫か?」

『う、うん、ありがと。どうにか眠れそう』

「そりゃよかった。じゃあおやすみ」

『うん、おやすみ』

 

 そこで通話は終了し、電話口からプー、プー、という機械音が聞こえてくる。

 

 俺は人を好きになったことはないし、嫌いになったこともない。

 

 ただ1つ、絶望したことはある。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 翌日、俺は佐倉に指定された場所に、指定された時間通りに来ていた。

 場所は第2体育館前。山内は、この近くにある校舎裏を返事を聞く場所に指定したらしい。

 佐倉はそこに立ち尽くしている。俺の来訪に気づくと、ゆっくりと顔を上げてこちらに近づいて来た。

 

「ごめんね、わざわざ来てもらって……」

「いい。それより、考えはまとまったか?」

 

 山内には5時にと言われたらしいが、すでにその時間まで残り20分を切っている。

 

「うん……私、断ることにする」

 

 静かに、佐倉の気持ちを俺に告げてきた。だが、未だその表情には不安の色が見え隠れしている。

 

「……そうか」

「でも、まだ勇気が出せなくて……その、私なんかのことを気にかけてくれたことに、罪悪感みたいなのも感じてて……私に人の気持ちを否定する資格なんてあるのかな、って思ったりするの……」

 

 人の気持ちを否定する権利、か。

 

「これは俺個人の意見だから、聞き流してもらってもいいが……」

「……ううん、聞かせて」

 

 これはあくまで佐倉と山内の問題。俺と綾小路は付属品みたいなもので、本来ならこの件には関わることのなかった人間だ。そんな立ち位置の俺が意見することには少し気が引けたが、今のままでは佐倉はかなり中途半端な返事をしてしまうだろう。

 

「お前が今言った、人の気持ちを否定する権利だけど……そんなの誰にもないと思うぞ」

「……え?」

「ああ、そういう意味じゃない。告白を断るっていうのは、別に気持ちを否定することにはならないんじゃないか、ってことだ」

 

 気持ちを否定するというのは、好意そのものを否定してしまうことだ。だが、佐倉は一度その好意を受け止めているからこそ、ここまで悩んでいる。そして受け止めることと受け入れることは、こと人の感情に関しては全くの別物だと俺は思う。

 

「それに、気にかけてもらったことに対して罪悪感を感じてるなら、むしろはっきりと自分の気持ちを言った方が俺はいいと思うけどな」

 

 佐倉が山内の告白を断ることは既に確定している。ここで俺が告白を断るなとか、断れとか、そんなことをいう意味はないし、それこそ言う『権利』がない。

 だが、恋愛経験ゼロの俺でも、これだけはわかる。中途半端に期待を持たせれば、後々面倒なことになる。それは佐倉にとってはもちろんのこと、山内にとってもマイナスでしかない。

 

「少し強い言い方になるが……受け入れる、断る、どっちにするにしても、告白に対して返事を返すのは権利じゃなくて義務だと思う」

 

 思いが叶ったら嬉しいし、叶わなければ悲しみ、そして少し時間を置いてスッキリした感情が流れてくる。

 だが、無視された場合はどうだろうか。

 自分の存在を認識されない、あるいはいないものとして扱われる感覚は、嫌いだと面と向かって言われることよりもつらい。

 

「……そう、だよね。直接、はっきり言わないとダメだよね……」

「ああ。それがお互いのためでもあるんじゃないか」

「わかった……断るね」

 

 言っている内容は先ほどと同じ。だが、佐倉にあった不安は少しだけ軽減されている気がした。

 

「……そろそろかな。行ってくるね」

「ああ、頑張ってくれ。俺は戻るから」

「ま、待って!ここにいてくれない、かな……?」

 

 立ち去ろうとした俺の服の袖を掴み、そう言う佐倉。

 

「お願いっ……」

 

 その腕は少し震えている。

 

「……わかった。待ってるから早く行けよ」

「……ありがとう」

 

 佐倉は腕を離し、山内が来るであろう校舎裏へと向かって行った。

 正直、告白の現場に立ち会いを頼まれる可能性すら考えていたが、待っているだけならお安い御用だ。

 

 

 

 

 

 

 

 佐倉が戻って来るのを待っている間、少し意味は違うが俺も告白しようと思う。

 

 俺がなぜ佐倉に罪悪感を感じているのか、その種を。

 

 時間は須藤の事件のあと、佐倉、櫛田、綾小路、俺の4人で家電量販店に行った日に遡る。俺が動いたのは、その夜のことだった。

 

 

 

「……連絡先、教えますよ。心が繋がってるだけじゃ、ちょっと寂しいですよね」

 

 目の前にいる男は、佐倉のストーカー。俺はこの楠田という男を使ってあることをしようと考えていた。

 

「ほ、本当に教えてくれるんだね……?」

「はい。持ってますから」

 

 数時間前、綾小路と櫛田が帰ったあとに少し佐倉と話した空間。監視カメラがないことは既に確認済みだ。

 

「じゃ、じゃあ、早速……!」

 

 アイドルの連絡先をもらえる、それだけが頭にある男は、少し興奮気味で俺に迫って来る。少し気持ち悪いが、牙を剥くのは今じゃない。

 

「……その前に、これは個人情報の漏洩だということはお分りいただけます?」

「そんなことどうでもいいじゃないかっ」

「よくないです。もしバレたら俺は終わる。その危険を冒してあなたに接触してるわけですから、それ相応の対価を頂かないと……」

「ぽ、ポイントかい?いくら欲しい……?」

 

 ここから、商談スタートだ。

 

「そうですね……理想をいえば、100万は欲しいですね」

「ひゃ、ひゃく!?何をいって……!」

「アイドルのグッズに何百万かける人もいると聞きます。今回の場合はそれが妥当では?」

「し、しかしっ……そんな大金……」

「じゃあ、諦めますか?」

「くっ……じゅ、10万なら……」

「話になりませんね」

 

 あまりに少ない金額を提示してきたので、即座に否定する。

 アイドルの連絡先にどれほど金をかける価値があるのか、俺には分からない。だが、この人は間違いなく熱狂的なファン。ブログへの粘着、ストーカー行為まで働いてる始末だ。うまくいけばものすごい大金を引き出せる。その見通しからして、10万は少なすぎるのだ。

 

「じゅ、15万っ……」

「80万」

「じゅ、18万……」

「75万」

「た、高すぎる!」

「知りません。払えなければ破談です。……あなたが本当にそれでいいのなら、ですけど」

 

 大きすぎる金額に負けて未練を捨ててもらっては困る。それではここで交渉した意味がない。

 

「に、20万だっ……!」

「はあ……」

 

 わざとらしいとは思いつつも、大きくため息をつく。

 

「だ、だがこれ以上は……」

「60万」

 

 徐々に譲歩していく。

 

「最初は100万だったんです。これくらいで妥協しませんか?」

「ぐ、くぅっ……」

 

 悩みに入ってる。好感触だ。最後のセリフで、60万という金額ではなく、100万から40万も値下げされている、という事実を植え付けることができた。

 

「まだ決断できませんか?」

「くそっ……!じゃ、じゃあ、50万だ!これ以上は無理だ!」

 

 50万、という数字を聞いた瞬間、俺はにやけそうになるのをこらえながら、言った。

 

「……分かりました。最初の半額。俺としてはもう少し上乗せしたいですが……それで手を打ちましょう。まずはポイントを支払ってください」

「まさか、払った瞬間に逃げる気じゃないよね……?」

「ポイントを支払う間、俺の端末をあなたにお渡しします。それでいいですよね」

 

 俺はポケットから携帯を取り出し、楠田に手渡す。

 そこから俺と楠田はポイント譲渡の手順を終え、俺の端末には50万のポイントが入った。

 よし。

 

「じゃ、じゃあ、連絡先を……」

「はい。画面開くんで、こっちに向けてください」

 

 こちらに指示通り、俺が操作できるように画面をこちら側に見せて来る。

 俺が操作すると、連絡先と思われる文字列が並んだメモが表示された。

 

「これです。メモっていいですよ」

「ああ、こ、これが、雫ちゃんの……っ!!へへへへ!」

 

 その声に、俺は何も答えない。

 

「もういいですか」

「あ、ああ」

 

 短く答え、楠田は俺に端末を返して来る。

 

「では、この現場を誰かに見られるわけにもいかないんで、俺はこれで失礼します。それから一つアドバイスをしておくと、送ったメールは消した方がいいですよ。あんまり大量に履歴が残ると、ちょっと不自然ですから」

「ああっ……雫ちゃんの、雫ちゃんの……!」

 

 狂気じみたその声を背に、俺は寮に戻った。履歴は多分消してくれるだろう。

 

 

 

 

 

 

 この取引には、一つ大きな嘘がある。

 俺はたしかに、アイドル雫の連絡先をダシに楠田からポイントを奪った。

 だが俺はこの取引の間、一言たりとも「アイドル雫の連絡先」という単語を出していない。

 この事実が指し示すことは、簡単。

 

 俺があの男に教えた連絡先は、佐倉のものではない。

 

 じゃあ、誰のものなのか。

 

 あの男は間違いなく、アイドル雫へと向けたはずのメッセージを1日に何十件も送信するだろう。もちろんほかの人に知られないように、俺のアドバイスした通り履歴は消すはず。

 

 ちなみにだが、学校側はポイントが誰から誰に譲渡されたか、そして誰が誰に連絡を取ったかまでしか把握できず、その内容までは分からない。

 このことを利用し、俺のリスクを排除した。

 

 まず、俺が教えたあのメールアドレスは佐倉のものではなく、俺自身のものだ。佐倉本人のものを教えるわけにもいかなかったということもあるが、そこにはもう一つ、別の狙いがある。

 俺には恐らく、大量のメールが送られて来る。もちろん返信はしない。その都度削除していく。

 何の反応もしなければ、佐倉本人に確認しない限り、この連絡先が佐倉のものではないとバレることはない。佐倉があの男と接触した際、俺が変な金属音を鳴らしたのはそれを話題にさせないためだ。一之瀬が出て行きそうだというのは想像できたしな。

 だが、もしバレた場合。

 その時はただ、あの男のストーカー行為を知って、口外しないよう脅された、と言えばいい。

 その供述につながる状況証拠もある。

 俺に送られて来る大量のメールは、誰にも言うな、という脅しのメール。

 払われた大きすぎるポイントは、俺がその時に要求した口止め料。

 そしてあの男が異常なのは、調べれば調べるほどどんどん出てくる。

 それに加え、あの男は迂闊に警察には相談できない。

 ここまでの状況を加味した上での行動だった。

 

 

 

 無人島のときの綾小路のセリフが嘘でないとすれば、あの男は退職した。それは多分、俺の影響によるところも大きいと思う。

 俺はそこから2日ほど後、あの店員がいないタイミングを見計らってあのカウンターに行き、女性店員にこう話した。

 

 この店の楠田という店員が、どうもアイドルのブログに粘着行為をしているらしい。自分は脅されているので、あまり大ごとにはしないでほしい、と。

 

 こう伝えておくことで、あの男が何か問題行動を起こした時、処分が大きくなる。退職してくれればなおのこといいとは思っていたが、まさかここまでうまく行くとは。

 

 こんなことをしておいて何だが、これが佐倉に罪悪感を抱いている要因だ。

 

 俺が生徒会長に目をつけられているのは、恐らく、須藤の事件の訴えが取り下げられて俺がポイントの多くを支払うことになった際、60万近いポイントを所持していたのを目にしたからだろう。正直、あの時もう少しうまく隠せていれば、と後悔している。相変わらずどこかで必ず凡ミスをする癖は治ってないな。

 

 と、そこまで考えたところで、佐倉が戻ってきた。

 

「……お疲れ」

「……ありがとう。待っててくれて」

「別に。……ちゃんと言えたのか?」

「うん……断っちゃった」

「それが佐倉の決断なら、誰も責めないだろ」

 

 きっと山内も覚悟の上だったんだろう……と勝手に思ったりしている。

 

「……?」

 

 急に、佐倉が右手を広げながら空を見上げる。

 それにつられて俺も見上げた瞬間、目の中に水が落ちてきた。

 

「っと……雨か?」

 

 俺がそう呟いた瞬間、バケツをひっくり返したように雨が強まった。

 

「うわっ……」

「……取り敢えず屋根の下行くぞ」

「う、うん……」

 

 2人で屋根の下に移動し、これ以上の被害を防いだものの、既に体はずぶ濡れだ。

 

「はあ……大惨事だな。大丈夫か佐倉」

「う、うん。私は大丈夫……速野くんは?」

「俺も別に」

 

 こうしてずぶ濡れでいると、無人島でのことを思い出すな。あの時よくも風邪ひかなかったなーと自分でも思う。

 にしても、危なかったな。告白のタイミングじゃなかっただけ良かったのか。

 

「あ、あの、これ良かったら使って?」

 

 佐倉はそう言うと、俺に白いハンカチを差し出してきた。

 

「い、いや、俺はいいから」

「でもずぶ濡れだよ?」

「それはお互い様だろ。お前から拭いてくれ」

「私結構丈夫だから」

 

 俺が頑なに拒否していると、佐倉はなんと背伸びをして俺の髪や肩を拭いてくれた。

 

「……佐倉?」

「……うん、ちゃんと拭けた」

 

 そう言いながら頷いて、そのハンカチで自分の髪も拭き始めた。

 俺はいま唖然とした表情をしているだろう。佐倉がこんな突拍子もない行動に出るとは思っていなかった。

 

「……色々ワガママ言っちゃったから……その、お礼……」

「……ぃや……」

 

 あ、あれ、佐倉ってこんなやつだったっけ……?なんかキャラが……いや、でもたまに発狂するしな……やっぱよくわかんねえや。

 

「ま、まあ……ありがとう……?」

 

 どう反応していいかわからず、微妙な返しになってしまう。

 

「……うん」

 

 佐倉は静かに頷いた。

 

 この後一緒に寮まで戻ったのだが、さっきの行為が恥ずかしくなったのか、単純に俺といるのが嫌なのかは知らないが、佐倉は「うぅ……」と呟きながら頑なに俺と目を合わせてくれなかった。

 

 いや、ちょっと恥ずかしかったのはお前だけじゃないぞ……俺が言ってもキモいだけかもしれんけど。




はい、一つの伏線を回収し終わりました。次回もお楽しみに。

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