実力至上主義の学校に数人追加したらどうなるのか。※1年生編完結 作:2100
7巻読みました。すごかったっすね。あの展開を書き切らないと行けないとなると、かなり骨の折れる作業になりそうです。まあ、それだけ執筆のしがいもあるってことで(白目)。
では、どうぞ。
ep.40
「かなり複雑な仕組みだったんだね……」
2学期の始業日。午前でお勤めを終えた俺たちは、綾小路、堀北、軽井沢、平田、俺という少し難解なグループで、学校に併設されているカフェパレットに集まっていた。
「速野くんが言ってたあの2文字のアルファベットが、星座が鍵だと気づくためのヒントだったわけだね」
「どうもそうらしいな」
「私は本来魚座だけど、十三星座でいうなら水瓶座。だからAqって紙に書かれてた私のグループは私が優待者だったんだね」
「同様に櫛田さん、南くん、吉野くんにも同じことが成り立つわ」
俺たちは、自力で星座という答えにたどり着いたわけではない。
学校側はもちろん公式発表をしたわけではないだろうが、それでも噂は立つ。何より、龍園は法則を見破っていたのだ。情報は漏れても仕方がない。8月下旬あたりだっただろうか、『星座』が答えにつながるという話をちらほら聴き始めたのは。
言っておくが、情報を流したのは断じて俺ではないし、藤野でもない。この噂に関しては本当に無関係だ。
「龍園くんは、多分自力で法則性にたどり着いていたよね」
「でも、それならなんでミスしてるわけ?っていうか、私たち同率1位になっちゃってるし。どういうこと?」
軽井沢の疑問はもっともだ。
「私も気になってはいたわ。でも、単にクラスのメンバーの早とちりという線が濃厚じゃないかしら。あのクラスには不満を溜め込んでいる人間が結構いそうだもの」
「僕も概ね同意見だよ。統率しきれていなかった生徒が誤った可能性は高いと思う」
現時点で下せる判断はそれくらいだろう。裏に隠された真実とやらがある可能性は捨てきれないが、俺も堀北や平田の意見はいい線いってると思う。
「けれど、Dクラスの謎の高得点に関しては見当もつかないわ。何回か計算してみたけれど、やはり何かあったのは私たちのグループで間違いなさそうだし」
この場にいる全員、俺が船で何をしたかは知らないし、俺と藤野が協力関係にあること、Aクラスに第三勢力が生まれていることも知る由もない。
先の試験では匿名性に配慮し、ポイントを受け取る者は素直に受け取らず、分割して受け取ったり、仮IDを発行したりする手段を取ることができる。
俺が着目したのは仮ID。あれは案外優れもので、自分でポイントを追加で振り込むことができる。つまり俺は二つ目の財布を手にしたことと同義だ。俺はその二つ目の財布の中に、元々振り込まれていた船上試験で手に入れたポイント100万に加え、藤野から見返りとして受け取った150万、佐倉のストーカーからぶん取った50万ポイントを振り込み、保存している。
Aクラスから受け取った35万ポイントも振り込もうかと考えたが、堀北や綾小路は俺がその件で何をしたか知っている。万が一端末が見られ、俺にポイントがなければ不自然に感じるだろうことは予想できるため、あえて入れなかった。
「これは今まで共有していなかった情報なんだけど、いい機会だから話すね。実は船上での試験が終わったあと、僕の部屋の扉にDクラスの優待者全員の名前が書かれていた紙が貼られてたんだ」
葛城もそのようなことを言っていた。
「これは……龍園くんの仕業と見ていいのかしらね」
「僕もはじめはそう思った。自分が見抜いた全クラスの優待者が書かれた紙を、そのクラスの代表がいる部屋の扉に貼る。彼ならやってもおかしくないことだね」
「はじめは、ってことは、今は違うと思っているということかしら」
「うん。実はそれと同じ行為がAクラスからDクラス、漏れなくやられていたそうなんだ。もちろんCクラスにもね。彼がやるなら、Cクラスの分までっていうのは不自然じゃないかな」
「なるほど。それには同意だわ」
龍園がやったとするなら、確かに自クラス分までやる必要はないな。目的は俺らへのアピールなんだろうし。
「ちょ、ちょっと待って。その龍園以外にも法則を見抜いたヤツがいたってこと?」
「そういうことになるね」
少なくとも2人以上に優待者を見抜かれた状態で、Dクラスがあれだけの成績を残せたことは奇跡に近い出来事だった。
「誤解を恐れずに言うと、今回の結果はその2人に感謝しないと行けないかもしれないね」
「そうね……悔しいけれど」
堀北は歯噛みしながらも、平田の言葉に同意する。
「何にせよ、こうして堀北さんや綾小路くん、それに速野くんと話し合いをもてて嬉しいよ。無人島で速野くんが加わってくれて、船上試験では綾小路くんも協力してくれるようになった。そこに堀北さんが加わるなんて、頼もしいよ」
「仕方ないでしょう。船上試験や無人島試験は、1人では絶対に攻略が不可能なものだった。今後もそれが予想されるなら、協力するしかないもの」
あくまで堀北の中では必要悪という形で処理されているだろう。今はそれでもいい。1人で戦うことはほぼほぼ不可能だと言う結論に達してくれたなら、堀北は以前より確実に成長している。
「僕から一つ提案があるんだけど、いいかな」
平田の発言に無言を貫く堀北。話せ、ということだろう。
「クラスが一丸となるために、櫛田さんを仲間に引き入れたいんだ。僕ら4人では補えない部分を、彼女なら補ってくれると思う」
クラスのまとめ役である平田は、あくまでも「クラスの」まとめ役だ。言っている意味がわからないと思うが、悪く言えば個々人に対しては強い影響力を持たない場合があると言うこと。女子からの人気は絶対的だが、一部男子からは嫉妬のような感情を向けられていて、上手くコントロールできない可能性もある。平田はその部分を櫛田に頼ろうとしているわけだ。
「不要ね。あなたと軽井沢さんが力を貸してくれれば、問題はそれで解決されるはずよ」
もちろん、堀北は櫛田を認めない。
「誰かさんのように捻くれていなければ、だけれど」
そう言って綾小路の方を見る堀北。
「失礼な。俺は長いものに巻かれる有象無象の1人だ。つまりコントロールが効く程度の小さい人間ってことだな」
堀北や俺を隠れ蓑にして裏で色々動いてきた奴がよく言う、とは思う。ただ、別に責める気はない。
綾小路が前回、前々回と積極性を持って動いたのは、恐らくそうせざるを得なかったから。ここまでの状況を整理すれば、茶柱先生から何らかの圧力が掛かっていると考えた方が自然だ。
そう考えたとき、俺にはその心当たりがあった。1学期の終業式の日、今日と同じく午前中で授業を終え、ホームルームの直前。綾小路は茶柱先生にホームルーム終了後に指導室に来るよう言われていた。
一度茶柱先生に接触の機会を持ってみるのもいいかもしれないな。
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「さて、二学期が始まったわけだが、一ヶ月間、体育祭に向けて体育の授業が増えることになる。新たな時間割を配布するのでしっかり保管しておけ。また、付け加えて体育祭の資料も配布するので、確認しておくように」
前の席から配布資料が2セット回ってきて、そのうちの1セットを取ったのち残りを後ろの綾小路へと回す。
俺の場合、時間割は配布された時点で携帯に全てメモしているので、保管に関してはそこまで神経をとがらせる必要はないだろう。
にしても、体育祭か。
俺は正直言ってあまり好き、というか得意分野ではない。体育祭で求められる要素は、その多くがスピードやパワー。どちらも俺が不得手としているものだ。球技と違って単純なため、その差はより如実に現れる。
特に二人三脚とか借り物競走なんかは苦手中の苦手だ。理由は察しろ。ただし言うなよ?目から発汗する俺を見たくなければ。
「先生、これも特別試験の一環ということなんでしょうか」
クラスのリーダー、平田が質問する。だが茶柱先生からの返答は意外なものだった。
「どう捉えるのもお前たちの自由だ。まあ、どちらにせよクラスポイントに影響を与えることに変わりはないがな」
随分と曖昧な言い方だが、生徒の半分ほどは気に求めていない様子。運動の得意な生徒からは歓喜が、逆に苦手な生徒からは悲鳴が上がっていた。
少し教室がざわついている中、俺は資料を読み進めていく。
そこには、少し意外な内容が書かれていた。俺の斜め後ろに座る堀北に目を向けると、向こうも俺と同じように資料を読んでいたのか、少し驚きを含んだ表情で俺を見返してきた。
「すでに読み進めている者もいるようだが、この体育祭では全学年を紅白2つの組に分けて競う方式を取っている。抽選の結果、今年度の赤組はAクラスとDクラス、白組がBクラスとCクラスという組み合わせに決まった」
これは……喜んでいいんだろうか。
Aクラスには藤野がいる。個人的ではあるが協力関係を結んでいるため、一見好都合といえば好都合。だがそれは同時に、今までよりAクラスの目がDクラスに届きやすくなるということだ。油断して動いたら、藤野筆頭の第三勢力の存在が明るみに出る可能性がある。
葛城は既に失脚したも同然だ。だから残る問題は坂柳という女子だが、俺はその生徒についてほぼ情報を持っていない。藤野から、葛城とは真逆で攻撃的な性格だということは耳にしているが……性格はともかく、実力がいかほどかが最重要だ。
相当高いであろうことは想像がつく。坂柳は夏休み中にあった2つの特別試験を欠席しているにも関わらず、勢力を着々と伸ばしているらしい。
そんなことを考えながら、俺は資料のページをめくった。それと同時に、茶柱先生から体育祭のルールの要点の説明が始まる。
どうせ紙に書いてあることとほぼ同じことだ。俺は俺で勝手に紙を見て理解することにした。
・全員参加競技の点数配分について
個人競技については、1位15点、2位12点、3位10点、4位8点、5位以降は1点ずつ下がっていく。団体戦の場合、勝利した組には500点が与えられる。
・推薦参加競技の点数配分について
個人競技については、1位50点、2位30点、3位15点、4位10点、5位以降は2点ずつ下がっていく。最終競技のリレーでは3倍の点数が与えられる。
・組の結果について
全学年の点数を総合して負けた組のクラスは等しく100クラスポイント引かれる。
・クラスの結果について
学年ごとのクラス別の点数による結果に応じ、クラスポイントが以下のように変動する。
1位のクラスには、50クラスポイントが与えられる。
2位のクラスのクラスポイントは変動しない。
3位のクラスは、クラスポイントが50引かれる。
4位のクラスは、クラスポイントが100引かれる。
・個人競技の報酬について
各競技で上位を獲得した生徒には、以下の報酬が与えられる。
1位を獲得した生徒には5000プライベートポイント、又は筆記試験における3点分の点数が与えられる。
2位を獲得した生徒には3000プライベートポイント、又は筆記試験における2点分の点数が与えられる。
3位を獲得した生徒には1000プライベートポイント、又は筆記試験における1点分の点数が与えられる。
※筆記試験における点数は次回中間テスト時のみ使用可能とし、他人への譲渡は不可能である。
各競技で最下位を獲得した生徒は、1000プライベートポイントのマイナスを受ける。所持ポイントが1000ポイント未満である場合、筆記試験における点数を1点減点する。
・成績優秀者の報酬について
全生徒の中で最も高い得点を獲得した最優秀生徒には、10万プライベートポイントが与えられる。
学年別で、最も高い得点を獲得した優秀生徒上位3名には、それぞれ1万プライベートポイントが与えられる。
※ただし、最優秀生徒に選ばれて10万ポイントの贈与を受けた者には、学年別の報酬は与えられない。
・反則事項について
各競技のルールを遵守すること。違反者は失格同様の扱いを受け、悪質な者については退場処分や、それまでの獲得点数を剥奪する場合もある。
「ちょ、先生!筆記試験の点数って……!」
これまで、個人の報酬として採用されていたのはプライベートポイント。だが今回、筆記試験の点数という初めて見る項目があった。
「お前の想像している通りだ山内。使用できるのは次回の中間テストでのみとなるが、テストで獲得した点数を補うことができる。大いに役立ってくれるだろう」
勉強が不得意な山内にとっては渡りに船だ。だが当然、学校側が用意するのはプラス面だけではない。
資料には、こんなルールも記述されていた。
・体育祭終了後、全競技で獲得した点数を学年別で集計し、下位10名にはペナルティを課す。ペナルティの内容は学年ごとで異なる場合があるため、各自担任に確認すること。
「せ、先生、このペナルティって……」
「今年度の1年生に課されるペナルティは、筆記試験における10点の減点だ。どのような形で減点されるかについての質問はここでは受け付けない。試験説明時、下位10名とともに通告する決まりになっている」
「まじかよ!?」
もしその中に入ってしまうと、次の試験はかなり苦しいものとなる。少なくとも、赤点を余裕で回避できるほどの点数を取らなければいけない。
池の悲痛な叫びをターニングポイントとして、話は体育祭の競技そのものへと移っていった。
資料にはこう書かれてある。
全員参加競技
・100m走
・60mハードル走
・男子棒倒し
・女子玉入れ
・男女別綱引き
・障害物競走
・二人三脚
・騎馬戦
・200m走
推薦参加競技
・借り物競走
・四方綱引き
・男女混合二人三脚
・3学年合同1200mリレー
全員参加競技は、文字通り全員に参加が義務付けられる競技。つまり少なくとも9競技には強制的に出場ということだ。
「うわ!めちゃくちゃハードじゃんこれ!普通1人がやるのって3つか4つだろ!?」
「1日でできないっすよこんなの!」
「競技の多さに関しては、学校側も配慮してある。この学校の体育祭では、応援合戦や組体操などは一切用意していない。あくまでも体育祭は身体能力を競う行事だ」
いや、それでも大分ハードなのに変わりはない。体育祭翌日は筋肉痛で寝込むことも覚悟しておいたほうがいいかもしれない。今のうちに湿布買っとこうかな……
冗談半分にそう考えている中、非常に重要な情報が耳に入ってきた。
「静かにしろ。非常に重要なことを話すぞ。今回の体育祭、お前たちは競技に参加する順番を全て自分たちで決め、この参加表に記入して担任の私に提出する。文字通り全てだ。どの競技の何組目に誰が参加するかまで、全てお前たちが話し合って決めろ。提出期限は体育祭の一週間前から前日の午後5時まで。それ以降は如何なる理由があっても変更は受け付けない。また、提出期限を過ぎた場合はランダムで組まれるので注意するように」
なるほど。
今までに行われた行事でも同じようなことがあった。無人島ではキーカード、船上では優待者が、なによりも守り通さなければならない存在、クラスの最重要機密事項だった(情報を売った俺が言うのもどうかと思うが)。そのトップシークレットが、今回の体育祭の場合はこの参加表というわけか。
「私から質問してもよろしいでしょうか」
俺の右斜め後ろの堀北が手をスッと上げる。茶柱先生からの承諾を得、発言した。
「当日、欠席者が出た場合はどうなるのでしょうか。団体競技の場合、競技そのものが成立しない場合があると思いますが」
「『全員参加』の競技で必要最低限の人数が確保できない場合は失格だ。例えば二人三脚の場合、一組少ない状態で臨むことになる。ただし救済措置もある。『推薦参加』競技の場合は特例として、ポイントを支払うことで代役を立てることを認めている」
「ポイント、ですか……」
最下位のDクラスにしてみればよくない条件だ。
「必要ポイントはいくらですか」
「各競技につき10万プライベートポイントだ。高いとみるか安いとみるかはお前たち次第だが」
「……分かりました」
一部の生徒、例えば船上試験で結果1となり巨額のポイントを獲得したグループKの櫛田、平田、王と、綾小路によって優待者の存在が守り通されたグループLの軽井沢にとっては出せない額じゃない。俺も支払い能力はあるものの、本来あるはずのないポイントのため出すつもりはない。堀北に俺のポイントを公開されたら流石に認めるしかないが。
「これ以上質問がないならここで打ち切る。次の時間は第一体育館に移動し、他学年との顔合わせとなるが、それまでの時間、どう使おうとお前らの自由だ」
茶柱先生が教卓を離れると、クラス内は一気に話し声でうるさくなる。思い思いに体育祭について語っている様子だ。
俺はどう動くか。運動は得意分野ではないが、今回のように複雑な利害が絡まっていない案件なら全力で挑まない理由はない。まあ俺の真後ろの住人は今回も手を抜くんだろうけど。
携帯を取り出し、ある人物にメールを送る。
すると、すぐに返信がきた。画面には「しないつもりだ」の文字。
逆方向に動くことを防ぐために確認を取ったのは正解だったな。これで方針は決まった。どちらにも動くことができたが、今回はこっちか。こそあど言葉ばっかで何言ってるか自分でも分からなくなりそう。
平田に少し提案があったものの、今話し合って決まることでもないし、あの状況で俺に話しかけるのはハードルが高すぎてくぐりたくなるレベルなので今は無理だ。チキン野郎め、と思ったかもしれないが、軽井沢、篠原を筆頭とするトップカースト女子たちと喋ってるんだぞ。今俺が平田に声をかけたら「邪魔すんなKY」という無言の圧力と視線が俺のハートにぐさりと刺さり、心の中で「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」と祝詞のように唱える羽目になるのは目に見えている。
俺の背後の堀北の席には須藤に池、山内が集まり、何やら話し合いをしている。どうやら、能力で優先度を決めるか、全員平等にチャンスを与えるかで意見が対立しているようだ。
勝つためには前者がいいことは火を見るより明らかだが、個人的な報酬や、単純に楽しむという視点から見た場合、後者の選択肢も全否定することはできないか。
「これから先、クラスでの話し合いは不可欠でしょうね……」
悩ましそうに呟く堀北。まあ、いらないなんてことはないだろうな。この場の対立だけでは済まされないことが予想されるので、機会を得てクラス内のコンセンサスを取ることは必要になってくる。
上から目線な言い方になるが、堀北に自分から話し合いをするという意見が出てきたあたり、しっかりと成長しているんだろう。
嬉しいことなんですが、お気に入りめっちゃ増えててびっくりしました。ありがとうございます。
前書き、後書き、コメントの返信でそれぞれテンションが違うことはご勘弁ください。自分でも自分のキャラがよく分かってないんで。丁寧な時もあれば、ちょっとふざける時もある。ただの情緒不安定かも。
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