実力至上主義の学校に数人追加したらどうなるのか。※1年生編完結   作:2100

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体育祭本番です。原作とそこまで変化はないと思います。
では、どうぞ。


ep.44

 ついに開幕した体育祭。

 入場行進や開会宣言を終え、早速競技が始まる。

 初めは100m走。全員参加の個人種目は、全て1年生から始まる。最初に1年男子で始まって3年女子、途中休憩を挟んで1年女子から3年男子、という風に切り替わっていく仕組みだ。

 競技に参加するため、1年男子がぞろぞろとグラウンドへ出ていく。

 須藤は開幕スタートの1組目。俺は7組目で、綾小路は……確か5組目だったか。

 各クラス、どの組に誰が走るかは今初めて明らかになる。須藤がまず指定されたコースに入った。

 

「1位は健で決まりだなー。なんかデブとガリしかいないし」

 

 酷い言いようだが、確かに須藤以外に足が速いと聞く生徒はいなかった。池の言うとおり須藤のトップはほぼ確定だが、考えようによっては運がないとも言える。須藤としては、ここで有力な生徒を叩いておきたかっただろう。

 1つの組には各クラス2人ずつが配属され、合計8人で競う。Dクラスからは須藤ともう1人、外村(博士)が選出されていた。

 そして合図がなり、スタート。

 同時に全員が体を起こすが、須藤だけは別格で、初めから体二つ分ほど抜け出したかと思うと、最後には圧倒的な差をつけて1位でゴールした。

 

「っしゃ!!」

 

 ゴールでは須藤がガッツポーズ。そしてこのタイミングでようやく外村が最下位でゴールした。

 そして、間髪入れずに次の組の用意に入る。プログラム上、こういう風にぎゅうぎゅう詰めにしないと消化できないんだろう。

 1つの組が用意してからゴールするまで大体30秒ほど。1学年男女10組ずつの3学年なので、全員が走り終えるのには30分ほどかかる計算だ。

 そうこうしている間にも順番は進んでいく。葛城、神崎のいた3組目は神崎が1位、葛城が3位という結果に、平田、綾小路のいる5組目は平田が僅差で1位、綾小路は5位という結果に落ち着いた。また4組目には龍園がおり、1位を取っていた。ちなみに3組目には高円寺もいたのだが、やはりというか、出場していなかった。恐らく高円寺はこれから全ての競技に出ないつもりなんじゃないだろうか。

 まあ、それはもうどうしようもない。とりあえず今は俺の番だ。

 7組目のDクラスは俺と池。パッとしない組み合わせとなっている。

 他のコースも見てみるが、足が速いと有名な生徒はいない。これなら入賞は狙えるかもしれないな。

 パン、の合図と同時にスタートする。俺にはクラウチングスタートなんて無理なので、野球の盗塁スタイルだ。須藤が特殊なだけで、一部の生徒や陸上部以外は大体この走り方だろう。

 圧倒的でもなく接戦でもなく、特に盛り上がりどころのない7組目。ここでは1位のやつが頭半個分くらい抜けて速く、俺は2位という好順位を取ることになった。ちなみに池は5位。

 そこから2分と経たないうちに、1年女子へと交代する。すでに1組目はスタートしていた。

 そんな中、コテージの方が騒がしいことに気づく。それはまさに、須藤が高円寺に殴りかかる瞬間だった。

 

「おいおい……」

 

 しかし、その拳を高円寺は何事もなく受け止める。

 これだけでも状況は読めた。須藤のあの性格からして、不参加の高円寺を問い詰めようとしてたんだろう。

 平田が働きかけ、須藤は怒りを撒き散らしながらも身を引いた。

 そんな時、スタートの合図が耳に入った。どうやら2組目がスタートしたらしい。

 トラックの方向に目を向けると、すぐに目に入ったのは佐倉の姿。見知らぬ女子と抜きつ抜かれつの最下位争いを繰り広げている。

 1位がゴールしてから6秒ほど経った頃、その2人はほぼ同時にゴール。だが、わずかな差で佐倉が上回ったようだ。

 

「おお……」

 

 言っちゃ悪いが、佐倉は外村と同じ最下位要因だった。クラスでの練習も、最下位じゃなかったことはない。それを免れたことは、ポイント的にも大きいだろう。運が良かったと言える。

 少し経って、佐倉が息を切らしながらこちらに向かってくる。

 

「はあ、はあ……み、見ててくれた?私、初めてビリじゃなかったよっ……!」

「お、おう、とりあえず呼吸整えろ、な?」

 

 興奮気味の佐倉を宥めるようにして言う。佐倉にとって最下位脱出は、俺が考えている以上に嬉しいことなのだろう。

 俺は一旦佐倉から目を切り、再びトラックの方へと視線を移した。

 

「堀北と……伊吹、だったか」

 

 伊吹澪。無人島試験の際、龍園からDクラスに送られたスパイの役割を果たしていた。その際に体調不良でボロボロだった堀北と一戦交えており、かなりの身体能力の持ち主だと記憶している。

 スタートの合図と同時に飛び出す女子。やはり抜け出したのは伊吹と堀北。その中でも、若干ではあるが伊吹がスタートダッシュを制した。

 付かず離れずの熾烈な争い。半分を走ったところで、堀北がほんの少し前へ出た。

 そしてラストスパート。この段階で、伊吹がジリジリとその差を詰めていく。並ぶか、並ばないか、という微妙なところで、2人ともゴールした。

 

「す、すごい速いね、堀北さんも、伊吹さんも……」

 

 隣の佐倉は2人の走りに感嘆の声を漏らす。まあ、佐倉の目にはあの2人が超人か何かのように映っていても不思議じゃないな。自分が走った直後だし。

 結果から言うと、堀北が接戦を制したようだ。ゴール付近には定点カメラが設置されており、恐らくビデオ判定を行ったんだろう。肉眼で差を見極めるのは不可能に近いものだった。

 だが見た感じ、伊吹は走っている途中、正面ではなく堀北の背中を見ていた。少し意識が強かったのかもしれないな。

 にしても、これまた少し残念といえば残念。堀北、伊吹を除くさっきの組の他の女子生徒のレベルはかなり低かった。

 

「速野」

 

 グラウンドに目を向けてぼーっと立ち尽くしていた俺に話しかけたのは、二人三脚で俺のペアとなる三宅だった。

 集団での行動を好まない三宅は、普段1人で行動することが多い孤独体質(最近はそうでもなくなってきている……と信じたいなあ)の俺と二人三脚以外でも割と気が合う。というか、気を使わなくて済む。お互い口数が少なく、話すのも楽だし、もちろん無言もオーケー。むしろウェルカム。こういうのがドライな関係というものなのかは知らないが、少なくとも俺はこの付き合い方は性に合っていると思っている。

 

「ああ、どうしたんだ」

「2位だったらしいな」

「まあ、組み合わせに恵まれてな。そっちは?」

「俺も2位だ。できれば1位になっておきたかったけどな」

「まあ、仕方ないだろ。1人や2人速いやつに当たるのが自然だ。お前もその速い方にカテゴライズされるだろうし」

 

 確かに、と言って、三宅は引き上げていった。そうそう、切り替えは大事だ。俺もたまに往生際悪いことあるけど。

 

「……ん、次は藤野か」

 

 女子の8組目の3コースにスタンバイしている藤野が見えたので、レースを見ることにする。

 スタートしてすぐ、2人の生徒が飛び出した。1人は藤野。もう1人は、さっきは藤野に隠れて確認できなかった一之瀬だ。

 

「おいおいかなり速いぞあれ……」

 

 勉学や頭脳においても性格においても非の打ち所がない2人には、どうやら運動能力まで備わっているらしい。伊吹と堀北の勝負と同じくらいの速さかもしれないぞこれは。

 2人はほぼ同時にゴール。だが、わずかな差で一之瀬が勝利した。

 

「すっげえええ!見たかよアレ!」

「ああ、やばかったな!」

 

 興奮したように池と山内が言う。伊吹と堀北のときもそうだったが、観客席から小さく拍手が巻き起こった。観客席には、この学校で働く従業員などが疎らだが来ている。あ、いつも使ってるスーパーのレジのおばさんだ。

 

 

「これで今日のは決まったぜ!」

「勿論だ!」

「「あの乳揺れっ!!!」」

 

 

 

 まあ、そんなこったろうと思ってたけどさ。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 続いての競技はハードル走。

 ハードル走は、公式陸上と同じ110m区間。ハードルは10個ある。間隔は知らんが。

 だが、この体育祭のハードル走には大きな違いがある。

 普通、ハードルには触れても問題はないし、極端な話倒していってもオッケーだ。しかし今回、そのような行為にはゴールタイムに一定の秒数を追加するというペナルティが設けられている。ハードル一個倒すごとに0.5秒追加、接触で0.3秒追加だったはずだ。

 

「えー、外村くんいませんか?不在の場合は失格となります」

 

 スタート地点にいる審判からの警告。

 

「せ、拙者腹痛でござるよ……欠場してもいいでござるか……?」

「あ?どんな手使っても死んでも完走しろ」

「ひ、ひぃぃっ!こ、ここにいるでござるよ!!」

 

 須藤の脅迫に負け、怯えながらコースに入っていった。まあ、最下位でも得点は入るからな。失格よりはマシだ。結局、練習でもハードルをほとんど跳ぶことができていなかった外村は案の定全てのハードルを手で倒してゴールした。

 そんな外村は1組目。俺は今回2組目に配属されている。そしてそこには……

 

「よ、速野。よろしくな」

「……お、おう」

 

 Bクラスの快速柴田マンがいた。しばった(しまった)なー。はっはっは。少し冷え込む日も出てきた今日この頃である。

 まあ、こういう風に冗談で笑い飛ばしたくなるほどの速さが柴田にはあると思ってくれればいい。

 柴田以外は……速くも遅くもない、俺と同じ中堅層の選手みたいだな。これが100m走や200m走なら順位を覚悟した方が良かったかもしれない。

 俺は2コース、柴田は4コース。合図と同時に飛び出した。

 一歩目を早く踏み出したのは俺だった。だが、その後一瞬で柴田に追い抜かれる。俺はスタートが割と得意だが、その後のスピードがないので取れるリードは微々たるものだ。

 だが、このハードル走に関しては俺は柴田にも食らいついていく所存だ。俺はこの体育祭、比較的自信を持っている競技がいくつかある。三宅と組んでいる二人三脚、そしてこのハードル走がその一つだ。そしてクラスの練習では、とにかくその自信のある競技だけを練習し続けた。

 それぞれのハードルまでどの程度の歩幅で何歩進めばスムーズに跳ぶことができるのか。幾度となく検証し、なんとかそれをつかんだのである。

 おかげで減速することなくハードルを跳べる。一瞬柴田に追いつくが、次のハードルまでの直線でまた離される。跳んで追いつき、走って離される……を繰り返していき、9個目のハードルを跳んだところでついに前に出ることに成功した。

 だが当然、10個目までの区間で離される。そこからの直進では柴田に敵うはずもなく、結局ゴール地点では接戦とは言い難い差が出ていた。

 

「ふう……」

「速いな、速野。ハードル跳ぶのめっちゃスムーズじゃん!もしかして陸上やってた?」

 

 前評判通りに1位を取った柴田に声をかけられる。

 

「今まで部活とかクラブの経験は一回もない」

「それであの動きかよー。すげえな!」

「ああいうのは元々得意だったからな……でも、その得意分野でもお前には勝てないって分かった結果になったな」

「へっへー」

 

 得意げに胸を張る柴田。

 聞くところによると、須藤は堀北に対する名前呼びを賭けて学年1位を目指しているらしい。これは須藤もおちおちしていられないな。柴田も学年1位候補。須藤のライバルだ。

 ひとまず俺はその場を離れ、Dクラスのテントに戻る。

 1年男子は全員走り終え、次は1年女子だ。

 Dクラスの1組目には堀北と佐倉が選出されている。堀北に緊張の様子はないが、佐倉は緊張でカッチカチやで〜状態だ。

 

「ちょっと良くない組み合わせになったね、堀北さん」

「ん、そうなのか」

「うん。Cクラスで一番速いと言われてる陸上部の矢島さんと木下さんがいるんだ」

「ふーん」

 

 スタートするが、堀北はリードを奪えない。食らいついてはいるものの、ついた差が縮まる気配は残念ながらなかった。

 結局堀北は3位。平田の言っていた女子2人がワンツーフィニッシュとなった。

 

「やっぱダメか」

「……速野くん、これ、ちょっと変じゃない?」

 

 隣で見ていた平田が訝しむように呟く。

 まあ、それが自然な反応か。

 

「……まあ、確かにそうだな」

 

 Dクラスは勝つために、速い人を同じ組には入れなかった。しかし、Cクラスは足の速い2人を同じ組に突っ込んだ。あの速さなら、違う組に入れて両方に1位を取ってもらう作戦がいいはずなのに。

 それをしなかったCクラス、龍園には、何か別の作戦があるというのか。なんとも不気味さの残るレースとなった。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 続いて、男子団体競技の棒倒し。

 

「お前ら絶対勝つぞ。高円寺のクソがいない分気合入れろよ!」

 

 須藤が前に出て、A、Dクラスの男子に喝を入れる。

 俺は対戦相手となるB、Cクラスの方を見た。

 棒倒しでは、速さと同じかそれ以上にパワーが要求される。体格でみると、俺らにとって1番の脅威はCクラスにいる黒人のハーフ、山田アルベルトという生徒か。それ以外にも屈強そうな生徒はいるが、果たしてどうなるのか。

 今回は、二本先取した方の勝ちとなる。事前の話し合いで、クラスごとに攻めと守りを交互にやることを取り決めていた。まずはDクラスからオフェンス。須藤の突破力を考えてのことだろう。

 

「ま、心配いらねえぜ。俺が1人でも相手ぶっ倒すからよ」

「倒すのは人じゃなくて棒で頼むぞ……?」

「保証できねーな。高円寺の件でイラついてるからよ」

 

 言いながら相手に向かってファッ◯サインを示す須藤。

 暴力行為は違反なので非常に心配だが……まあ、うん。大丈夫であることを願うしかないな。

 そして試合開始のホイッスルが鳴り響く。鳴る前から前のめり状態だった須藤はすぐに飛び出していった。

 俺も全力ではないが走り出す。相手側の攻撃陣の数人とすれ違うが、接触は禁止されている。あくまで攻撃側は防御陣に向かって攻めていかなければならない決まりになっていた。

 どこかのバスケアニメの「僕は、影だ」くんなら気づかれないうちに敵陣に侵入し棒を倒してしまうだろう。だが俺は存在感があるわけではないにしても、流石に長所になる程の影の薄さは持ち合わせていない。人目を盗んで、なんてことは無理そうだ。

 

「止めろー!須藤を止めるんだ!」

 

 防御側のBクラスの男子が叫ぶと、一斉に須藤に人が集まる。

 

「がっ、くっそ、何人来るんだよ!?」

 

 初めこそ、言葉通り相手を吹っ飛ばしながらとにかく前進を続けていた須藤だが、棒に近づくにつれ苦しくなっていく。

 俺も棒を目指して進んでいくが、そこに1人の生徒が立ちはだかった。

 

「久しぶりだな、速野」

 

 Bクラスの神崎。確かに、相対するのはプール以来、話すのは2ヶ月ぶりくらいかもしれない。

 

「ああ、お手柔らかにな」

「お互い様だ」

 

 俺は素早く右足を一歩踏み出す。神崎が反応したところで、今度は左へ。もちろんこれも阻んでくる。それを見て次は右、と見せかけてそのまま左へ突っ切る。だが、神崎の運動神経は並ではない。置き去りにしたと思いきや、追いついてきた。そして前に行かせないよう服を掴まれる。

 そこで一旦ストップ、したところで間髪入れずに再びダッシュをかけた。

 

「く……!」

 

 普段冷静な神崎から悔しがる声が聞こえる。なかなかレアだな。

 神崎の足は速い。追いつかれるわけにもいかないのでダッシュを続けるが、今度は2人の壁に阻まれる。

 俺は進行方向を右にいる方の生徒に向け、全力ダッシュ。当然相手は身構える。そして組み合いになるか、というギリギリのところで、俺はさらに右へ移動した。人の壁を完全に避け切ることはできないが、相手はさっき身構えた分体重が前に行っている。その体をさらに前に押してやれば、必然、相手は倒れる。

 

「うわっ!」

 

 俺はパワーがゴミクズな分、こういう風に工夫しないと全く役に立たない。

 そしてこういう戦術が通じるのは、相手が少人数の場合だけだ。

 

「これは……」

 

 当たり前だが、棒の周りには人が密集していて、一度入ろうものならもみくちゃにされて放り出されてしまうだろう。ここからはまさにパワー勝負。通用する人員は限られている。

 

「や、やばいぞAクラスが!山田なんとかってハーフが暴れてる!!」

 

 Cクラスにはそれがいる。Dにもいるが、須藤は人海戦術により食い止められているため、接近もままならない。

 これはダメか、と思ったところで、1試合目終了を告げるホイッスルが鳴った。

 後ろを振り向くと、赤組陣営に立っていた棒の姿が確認できない。防御していたAクラスの足元に無残にも転がっているはずだ。

 

「クソ、何やってんだよお前ら!もっと死ぬ気でいけよ!」

「そ、そんなこと言ってもよ……あいつら結構強いぜ?いつつ、脚ちょっと擦りむいてるしよ……」

「一本取られてしまったことは仕方がないよ。今度は僕たちが守る番だ。頑張ろう」

 

 須藤の怒りも上手くまとめ上げる平田。流石といったところか。

 

「わーってるよ……ちっ、お前ら次は絶対守り通すからな!」

「分かってるよ!やれる限りはやるって」

「やれる限りじゃねえんだよ。死守だよ!何時間でもよ!」

 

 その気合いには感服するが、残念なことにそれについて来る者は少ない。

 こういう行事に積極的なBクラスと、龍園の絶対王政を敷くCクラス。それに対し、Dクラスのモチベーションは高いとは言えなかった。

 

「Cが攻めてこい……」

 

 そう呟く須藤の声が聞こえてくる。俺としては、体格のいい生徒が多いCクラスは避けたいんだが……

 

「っしゃ来た!」

 

 開始のホイッスルと同時に、Cクラスの生徒が勢いよく走ってきた。そして突撃してくる。

 

「おおっ……」

 

 俺はすぐに吹っ飛ばされ、防御の機能を果たさなくなる。他の生徒もCクラスの勢いに押され、防御壁はみるみるうちに枚数を減らしていく。

 ここでも活躍しているのは山田アルベルト。圧倒的な体格差とパワーで、須藤ですら追いすがるのがやっとという感じだ。

 

「ぐっ、がっ!誰だ今腹殴りやがったのは!?」

 

 須藤の苦悶の声が聞こえてくる。どさくさに紛れて須藤に直接攻撃を加えている輩がいるようだ。

 さっきも言った通り、暴力行為は違反だ。つまり、バレないと絶対の自信を持ってやっている。そして事実、やり方はうまい。人が入り乱れて砂塵が巻き起こっている中、その接触が偶然なのかそうでないのかを見極めるのは非常に難しい。

 だが、間近で見ている者にはわかる。

 先ほどから須藤に攻撃を仕掛けているのは、Cクラスのトップに君臨する男、龍園だ。

 その素足が、須藤の背中を踏みつける。

 

「がっ!」

 

 その一撃で、今までなんとか踏ん張っていた須藤が崩れ、防御が意味をなさなくなり、人と一緒に崩れるようにして棒が倒れた。

 勝敗が決し、須藤は龍園を睨みつける。

 

「はあ、はあっ……てめえ、反則だろうが……!」

「なんだ、そんなところにいたのか。気づかなかったぜ」

 

 そう言って悪びれる様子もなく去っていく龍園。

 

「ぐっ……」

 

 背中の痛みからか、須藤はすぐに立ち上がることができないようだった。

 

「クソが……次やったら殴り飛ばしてやる」

「よせ、それこそ龍園の思うツボだ」

 

 相手の思う通りにさせたくない。そういう気持ちを喚起させる言い方をする事でなんとか踏みとどまらせる。

 

「あー、イラつくぜ!全勝するつもりだったのによ!」

 

 須藤の叫びは1年の赤組陣営に浸透する。Aクラスの数人から睨まれていた須藤だが、頭に血が上っているせいか、元々敏感なタイプでないのも相まって全く気づいていなかった。

 反論しようとする者に関しては葛城が抑える。

 

「すまない、攻めきることができなかった」

「ううん、僕らもしっかりと守れなかったから。また次頑張ろう」

 

 こんな時でも、平田と葛城は落ち着きを持ってクラスのまとめ役という大役を全うしている。

 

 果たして、平田の言う「次」という名のチャンスがいつまであるのか。

 そもそも、今の時点でチャンスなるものは存在するのか。

 まあ、それは体育祭の全日程が終了して初めて、結果論として言えることだ。

 

 全員、一度陣営に戻り、女子の玉入れを見守ることにした。




苗字が速野の割に特段速いわけでもない。遅くもないですが。

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