実力至上主義の学校に数人追加したらどうなるのか。※1年生編完結   作:2100

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更新遅れてしまい申し訳ありません。実はテストが近いので、次回の更新もまた少し遅れてしまう恐れがあります。テストが終わればまた少しペースが上がると思いますので、よろしくお願いします。
では、どうぞ。


ep.45

「合計54個で、赤組の勝利です」

 

 女子の玉入れの結果がアナウンスで報告される。先ほど敗北を喫した赤組の男子はホッとしただろう。

 だが、それも束の間。すぐに次の競技、綱引きに関する説明が始まる。

 綱引きも先ほどの棒倒しと同様、2本先取した組の勝利という規定になっている。

 

「綱引きは直接の接触がないから、向こうも単純な力で勝負するしかない。さっきみたいなことにはならないはずだよ」

「まあな……だからこそ負けらんねえ」

 

 互いの距離が離れているため、不正をすればその事実を隠すことはできない。勝つには正々堂々やるしかないだろう。

 

「打ち合わせ通りに一気に叩く。いいな?」

「うん、わかってるよ」

 

 平田と葛城が作戦の最終確認を行う。

 まあ作戦といっても複雑ではない。単に身長順に並ぶことだ。だが、事前に打ち合わせていなければできない作戦でもある。相手がこちらの手の内を今知っても真似はできないだろう。

 外患はクリア。しかし、内憂の方といえば。

 

「葛城くんさー、いつまでも偉そうに仕切らないでもらいたいねー」

「……どう言う意味だ橋本」

 

 長めの髪を後ろでまとめた男子生徒。身長は高い方で、雰囲気は柔らかそうだが葛城に対しては馬鹿にしたような目を向けていた。

 

「どういうって、そのまんまだよ。あんたのせいで今Aクラスが失速してるんじゃないか?本当にこの作戦で勝てるって言い切れるの?」

 

 おそらく、坂柳派の人間だろう。橋本と呼ばれた生徒に続き、葛城の作戦に異を唱える者が出てくる。

 拭えない今更感。ちょっとタイミングがおかし過ぎやしないだろうか。

 そもそもの話、今は作戦について話し合うべきときではない。クラス内で議論する時間はいくらでもあったはず。だが、状況から見てその時に異を唱えた者がいるとは思えない。

 坂柳の指示だというのは想像がつく。問題は目的だ。俺らにクラス内での対立、そして自らの派閥の優位性を見せつけるため?坂柳は攻撃的だと聞くし、ありえない話ではないかもしれない。

 

「Dクラスも動揺している。冷静に進めるべきだ」

「答えになってないなー」

 

 もしここで葛城が「何か案があるのか」と問えば、どうなるだろうか。

 いや、これは愚問か。葛城の性格上それはしないだろう。今ここでそれを話しても無意味だし、もし坂柳の側に戦略があるのであれば、提案された時点で葛城派はまた窮地に追い込まれる。葛城ならそこまで考えているはずだ。

 

「俺の決定を疑う気持ちは理解するが、これ以上場を乱すようなことがあれば坂柳の責任が生まれるだろう。それでも構わないか?」

「何も見えてないねー葛城くんは」

 

 橋本は何やら意味深なことを言うだけで、真面目に受け答えしている様子はない。

 そんな時、Aクラス陣営から声を上げたのは、この次の競技に当たる女子綱引きに向けて後ろでスタンバイしていた藤野だった。

 

「橋本くん、派閥が違うって言っても、今はなりふり構っていられないんじゃないかな?もし橋本くんたちがすごくいい案を今出しても、Dクラスのみんなはついてこれなくなっちゃうし。今は勝てるかどうかじゃなくて、勝つために全力を尽くすべきだと思うな」

 

 どちらの派閥にも属していない中立(表向きは)の立場からの発言に、葛城陣営は勢いづく。

 一方の橋本、および坂柳派は、初めから言葉通りのことは考えていなかったのだろう。さっきと特に変わった様子もなかったが、ここが引き際と見たのか、自分が担当する縄の位置につきながら言った。

 

「じゃあ、やろうか。連携不足と言われても癪だしねー」

 

 その点に関しては時すでに遅しの気もするが、始まるのならそれでいい。

 

「ったく、不安だぜ。やっぱただのガリ勉連中かもな」

 

 須藤もそれをひしひしと感じ取っている様子だ。

 俺は身長がほぼ同じ平田の前。俺の前は見知らぬAクラス生徒だ。綺麗に身長順になっている。他方で、1年白組は連携を取っていないためにクラス単位で前方後方の縄の担当が綺麗に分かれていた。縄の前方を握るBクラスは俺たちと真逆で、身長が高い順に前から並んでいる。縄を引く位置を高くすることが狙いか。Cクラスは特に何も決めていないのか、バラバラだ。

 

「こっちが有利だぜ!行くぞお前ら!」

 

 試合開始の合図とともに、思いっきり縄を引く。まあ俺の思いっきりって須藤0.3人分くらいだと思うが。

 

「オーエス!オーエス!」

 

 本当にこんな掛け声するんだな、と思いながらも、一応俺も声を出す。

 これはシャウト効果とかシャウティング効果とか言われていて、アスリートもよくやっていることだ。詳しいメカニズムは知らないが、声を出すことによってパワーが上がることは確かだろう。実感もある。

 

「オラオラオラ!余裕余裕!!」

 

 初めこそ均衡が保たれていたが、連携を取っているこちら側が優勢。20秒ほどで決着がつき、赤組の勝利となった。

 

「しゃー!見たかオラ!」

 

 縄の一番後ろを担当する須藤が吠える。

 

「BクラスとCクラスは、本当に協力してないみたいだね」

「……みたいだな。まあそっちの方がありがたい」

 

 可哀想なのはBクラスだが……

 

「なー、やっぱ協力した方がいいぜ?相手強いしさー」

 

 柴田がそう言うが、龍園は全く相手にしていない様子だ。

 

「よしお前ら配置変えるぞ。チビから順に並べ」

 

 指示というより命令という感じだ。龍園の指示通りに小さい順から並んでいく。完成した白組の並び方は、ちょうど弓なりになっていた。

 

「へっ、楽勝だな。あんなんで勝てるわけないぜ」

「いやそうとも言い切れん。全員気を抜くな」

「でもさっきも余裕だったじゃん?俺らみたいに小さい順に並んでるわけでもないしさ」

「そうじゃな……いや、今は時間がない。とにかく全力で引け」

 

 インターバルが終わったため、葛城は説明を諦めざるを得なかったようだ。

 

「オーエス!オーエス!」

 

 試合開始とともに掛け声が響く。だが、異変を感じたのはここからだった。明らかにさっきと重さが違う。

 

「おら粘れよお前ら。簡単に負けたら死刑だぜ」

 

 龍園の呑気な号令が飛ぶ。すると、また少し縄が重くなった気がした。

 あの弓なりの形に、何か秘密があるんだろうか。

 

「ぐああ、痛い痛い!!」

 

 前方で苦しむ声を出す池たち。

 1回目よりもさらに長引いた勝負は、わずかな差で白組が勝利を収めた。

 

「なんでさっきと違うんだよ!?誰か手抜いたんじゃねえだろうな!?」

「落ち着け須藤。相手が正しい陣形の一つを取ったこと、そしてこちらの油断が主な敗因だ。だがこれで分かっただろう。相手は連携がなくても戦う力がある。次は油断せず、気を引き締めて縄を引くことだ。それから縄を引くときは斜め上に向かって引くようにするといい」

 

 流石にAクラスをまとめ上げてきただけのことはある。荒ぶる須藤を止め、且つ的確なアドバイス。今打てる最善の手だ。

 

「よーしお前らにしちゃよくやった。次も同じようにやりゃいい。勝てると思ってるカスどもに思い知らせてやれ」

 

 クラスを支配しているからこその鼓舞の仕方。龍園の場合は飴と鞭とでもいうべきか。

 そして、最終戦が始まった。

 

「オーエス!オーエス!」

 

 掛け声とともに綱に力を込める。

 さっきと同様、なかなか決着はつかない。だが、試合開始時の足の位置より後ろにいるところを見ると、わずかではあるがこちらに引かれているようだ。

 

「ぜってえ勝つぞ!もう一息だ!引けええええ!!」

 

 須藤の叫び声に合わせ、気持ちさらに力を入れて引く。

 しかし。

 

「「「うわああ!!?」」」

 

 その瞬間、綱の重みが一気に解消され、体重が後ろに行ったまま倒れてしまった。

 前を見て状況が分かる。白組、それもCクラスが、急に縄から手を離したことが原因だろう。Bクラスとしてもこれは予想外だったらしく、数人倒れている生徒がいた。

 

「ふざけてんのか!?」

「勝てないと思ったから手を休めたんだよ。よかったなお前ら、ゴミみたいな勝ちを拾えて。這い蹲る様は面白かったぜ」

「テメエ!」

 

 棒倒しの件もあり、頭に血が上った須藤が走り出そうとする。しかし、葛城は腕を掴んでそれを止めた。

 

「やめろ須藤。こうやって怒らせるのもあいつの作戦の一部だ。体力を消耗させる、それから暴力行為で反則勝ちを狙っているかもしれない」

「けどよ!」

「落ち着け。龍園のやったことは褒められたことじゃないが、ルール違反ではない」

 

 龍園のやり方は低空飛行だが、一線を超えているわけではないからな。

 これ以上はいても仕方ないと思ったのか、龍園はCクラスを従えてせっせと立ち去ってしまった。

 

「くそ、勝ったのになんかスッキリしねえ」

 

 恨み言を漏らす須藤。その様子を見ながら、俺も自陣へと歩いていく。

 その時、俺の隣に並んで歩幅を合わせてくる人影が現れた。

 

「あはは……さっきはみっともないところ見せちゃったね」

 

 少し苦笑いを浮かべながら話すのは、先ほど橋本を説得(?)していた藤野だった。

 

「いや、お互い様だろ。須藤がうるさくて悪いな」

 

 アレは一応気合いが有り余ってのことだからフォローのしようはあるんだけどな。限度は考えて欲しいが。

 

「すごいね、須藤くん。とっても頑張ってるの、見たら分かるよ。今のところ全部1位だよね?」

「多分な。最初から学年1位は狙ってるだろうし、狙えるやつだからな、あいつは」

 

 柴田も確か全部1位だったはずだ。どこかで直接対決をする場面があれば、そこが一つのポイントとなるだろう。

 

「須藤くんも言ってたけど、ちょっと水差されちゃったね。流石、って言った方がいいのかな……?」

「まあ俺はあんまり気にしてないけどな。結果的には勝ったんだし」

「でも気持ちよく勝たせてもらえないのって、次に向けてのモチベーションとかテンションにも響かない?」

「……まあ確かに」

 

 試合に勝って勝負に負けるとはよくいったものだが、俺は基本的に試合に勝ってんならいいじゃんみたいな感じだからな。だが、転んでもただでは起きないという龍園のスタンスは、須藤みたいな人間には効果てきめんだろう。

 どの場面でも必ず何かを仕掛けてくる。そしてそれが当たり前になってくると、面白いことに「何もしない」ことすら仕掛けたことになってしまうのだ。

 

「まあ、頑張ってくれ」

「うん。オッケー」

 

 そう言い残し、藤野は女子の綱引きへと向かっていった。

 

 ちなみに結果から言うと、女子の方は負けてしまった。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 続いての競技は障害物競争。

 用意されている障害物は、平均台、網潜り、頭陀袋。難易度は高くないが、どれもスピードダウンを余儀なくされるものだ。まあ当たり前か。障害物だし。

 今から俺が配属された7組目のレースが始まる。6組目のレースには綾小路が出て、結果は3位だった。100m走やハードルの時よりちょっと速かったんじゃないかと思ったのは気のせいか?

 そして俺と同じ組には、Cクラスの石崎がいた。

 なんていうか、よく会うなこいつと。船上試験の時も同じグループだったし。こいつとは色々あるが、というかあったが、変な縁でもあるんだろうか。

 

「おい速野!変な順位取るんじゃねえぞ!」

 

 最終組に配属された須藤からそんな声が飛び、俺は振り返って頷くことでそれに答える。

 前に言った俺が自信を持っている競技。それの2つ目がこの障害物競争だ。

 開始の合図とともにスタートする。

 初めの平均台までの直線で1位だったのはBクラスの生徒だ。

 俺はその生徒と石崎に続き、3位で平均台に突入する。

 だが、俺はここで前の2人を抜き、一気にトップに躍り出ることに成功した。走るスピードほぼそのままで平均台を渡りきり、次の網潜りへと向かう。

 網潜りに関してはスピードにほぼ差が出ないため、そのまま順位をキープ。急いで頭陀袋に足を通してぴょんぴょんぴょんぴょん。この時点ではリードを保つことができていたが、ラスト50mの直線で先ほどのBクラスの生徒に追い抜かされ、3回連続の2位となってしまった。

 ちなみに頭陀袋が異常に速いやつがいて、そいつに抜かれた石崎は4位だったことを報告しておく。

 走り終え、歩いて戻っていくと、俺の正面に堀北が立っていた。

 

「どうした。女子はもう向こうで準備してるが」

「……お手洗いよ」

「……」

 

 ……うん、ちょっとまずいことを聞いてしまったな。

 そんな微妙な空気を払拭するためか、ただ単に気にも留めていないのかは知らないが、堀北が言葉を続けた。

 

「あなた、足が特別速いわけではないのに身のこなしが上手いわね。何か訓練していたの?」

「訓練って……別にそんな軍隊みたいなことはしたことないぞ」

 

 そう、訓練なんかじゃない。俺がしたくてやったこととも言えるし、状況的にそうせざるを得なかったとも言える。

 

「まああれだ。どこかの綾小路よりは素直でいいだろ?」

「……そうね。彼は謎の多い人間だから。それから、あなたは物言いがずけずけとしている時がたまにあるけれど、素直だと思ったことは一度もないわ」

「そうですか……」

 

 やっぱりこいつの中で俺はひねくれ者らしい。嬉しくない情報だ。

 そろそろ時間もやばくなってきたところで、堀北に列に戻るよう促す。

 

「まあ取り敢えず、次も強敵と当たるだろうけど頑張れよ」

「?……ええ、負ける気はないわ」

 

 そう言って、堀北は駆けていった。

 俺も、レースが行われているトラックに目を向ける。

 それと同時に、池の叫び声がこだました。

 

「はあ!?健のやつまた野村と鈴木じゃん!ズルすぎだろ!」

 

 ちょうど最終組がスタートする直前だった。確かにCクラスから出ている生徒は、いっちゃ悪いが明らかに運動音痴だろってやつだ。

 だが、その組に現状須藤の最大の敵が立ちはだかる。

 Bクラスの快速柴田マンだ。

 スタートした瞬間、やはりというか、須藤と柴田が一気に抜け出した。

 その中でも、わずかではあるが須藤がリードしているように見える。誰よりも速く平均台を渡った。柴田もそれを背後から追いかける。

 網潜りも、2人ともとてつもない速さでクリアした。まだ須藤がリードを保っている状態だ。

 須藤は跳躍も得意だ。次の頭陀袋で少し離したが、それでもわずかだ。ラスト50m、いよいよ柴田の本領発揮。須藤は背後の柴田の気配を感じているだろう。

 柴田がどんどん追い上げてきている。これはやばいか、と思ったが、わずかなリードをなんとか保ったまま須藤が1位でゴールした。

 かなり厳しい戦いだったんだろう。須藤は肩で息をしていた。

 それより驚きは、純粋な直線の勝負なら柴田に分がありそうだという事実だ。組み合わせ次第では須藤も磐石とは言い難いのかもしれない。

 

「オラ見てたぞ寛治!おめえ6位だっただろ!」

「お、お前だって危なかったじゃんかよ!アイコだろ」

 

 いや、全然違うと思うけど。

 

「1位取ったじゃねえかよ。ま、柴田のやつも結構速かったけどな」

 

 池を羽交い締めにしながらも、1位という結果に須藤は一安心していたようである。池は離してやれよ……

 次は女子の障害物競争だ。その後には二人三脚も控えており、あまりダラダラしていられない。

 女子の1組目には堀北がいる。そして同じ組には、先ほども同じ組だった矢島と木下がいた。

 

「さっきも見た展開だな」

 

 隣にいた綾小路がそう呟いた。

 

「ああ」

 

 一応返事をしておく。

 スタートすると、まず抜け出したのは木下。二番手が矢島、その後ろを堀北が追っている状態だった。

 堀北の足は速い。だが、その道を極めている人には敵わない。

 だが、向こうもいつもの土俵ではないため、多少の苦戦は強いられている様子だ。差は案外ついていなかった。

 この時点で抜き出たのは矢島。しかし少し驚いたのは、木下が頭陀袋を外す際にバランスを崩したことで堀北がリードを奪ったことだった。

 

「お……」

 

 そしてラストの直線を全力で走り抜ける。後ろの様子が気になるのか、堀北は何度も木下の方を振り返っていた。それが失速につながったのか、木下に追いつかれてしまう。

 そして次の瞬間、2人の足が互いに絡まり合い、かなりのスピードのまま転倒してしまった。

 

「おおお!?なんか凄いことになったぞ!?」

 

 倒れた2人の横を5人が通り過ぎ、順位が一気に落ちる。ようやく堀北が起き上がって7位でゴール。対する木下は競技続行不可能ということになり、最下位という扱いになった。

 

「……」

「どうしたんだい綾小路くん」

「次も同じ『偶然』が起こるなら、もう『偶然』ではないかもしれないな」

 

 隣で静かに綾小路がそう呟いた。

 

「やっぱり君もそう思う?他の生徒たちも気づき始める頃だと思う。状況は悪いみたいだね。速野くんはどうかな?」

 

 平田がこちらを向いて、俺の意見を求めてくる。

 

「え?ああ、まあ、そう考えるのが自然だな」

 

 特に不自然なポイントは、今の堀北と須藤だろう。Cクラスに都合のいい偶然が起きすぎている。

 

「もし気づく生徒が出てきたら、ケアを頼めるか?」

「もちろんだよ。それが僕の役目だからね。でも……何か手はないのかな?」

「あればいいんだけどな」

 

 そう言い残すと、不自然な足取りで堀北が歩いてきたのを見て、綾小路はそちらへ向かった。

 

「……大丈夫、かな」

 

 不安そうに呟く平田。

 

「さあ……まあ、一つでも高い順位を目指すしかないだろうな」

「……そうだね。頑張ろう」

「ああ」

 

 女子の障害物競争が後半を迎え、そろそろ次の競技への準備に入る。直前、前方のテントの方を見やると、木下はまだ保健室には向かっていないらしかった。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 二人三脚のスタンバイ中。隣には三宅がいる。

 俺と三宅の組の前には、俺の少し前に準備を済ませたと見られる龍園の姿も確認できる。

 そして今、須藤と池のコンビがスタートしたのだが……

 

「どわああああああ!!」

 

 須藤は池を半ば持ち上げた状態でトラックを暴走していく。一応池の脚は地面に付いているので違反にはならないが、作戦を分かっていても池はびっくりしただろう。

 そして結果、1位を獲得してしまった。

 

「おいおい……」

 

 ゴールした2人を苦笑いで見る三宅。

 

「……須藤ならではの勝ち方だな」

「頼もしいんだかなんだか……」

 

 頼もしいことは頼もしいが……あのじゃじゃ馬を制御できる人間が現時点ではいないんだよな。人材はいるのに。

 そんなことを考えていると、次の組にいた平田&綾小路がスタート。ペースは順調。相性の良さもあり、須藤に続いて1位を獲得した。あ、こっちはちゃんと正攻法で。

 

「きゃー!平田くんかっこいい!!」

 

 平田に向けられた女子の黄色い声援が耳に入る。

 ああいうミーハーみたいなのが本当にいるんだな……と思いながら、心の中で綾小路に手を合わせておく。チーン。まあ、あいつはそういうの求めてないだろうけど。

 

「龍園も一位か」

 

 三宅がそう呟く。

 そういえば龍園もほとんどの競技で1位を取ってたな。

 

「……とりあえず、今は競技に集中だな」

「ああ」

 

 スタートのコールと同時にハイペースで飛び出す。全速力とまではいかないが、この時点で他の組を置き去りにすることができた。練習の通り、動きに狂いはない。そのまま2位と5、6mの差を保ったまま1位でゴールした。

 男子の障害物競走10組のうち3組目の1位。まあ躍進した方ではあるだろう。

 

「ふう……目標は達成だな」

 

 呼吸を整えながら三宅に言う。

 

「ああ。お疲れ」

 

 お互いの脚を結んでいた紐を解き、どちらのペースに合わせるでもなくDクラスの場所へ戻って女子の観戦に移る。

 2組目のDクラスは、櫛田と堀北のペアとなっている。正直事情をある程度知る身としてはこの上ないほど不安なのだが、一応一番タイムが良かったペアらしいので大丈夫だとは思う。

 堀北が大丈夫なら、だが。

 

「綾小路、堀北の足の状態はどうなんだ?」

「正確なことはよくわからないが……期待しない方がいいな」

 

 スタートした2人の姿を見ながら答えた。

 出だしは良かったものの、堀北の怪我の影響もあってか徐々に失速していく。速く走りたいという意思に反し、堀北の足は全くついていかない様子だ。

 

「やっぱり動き固いな」

 

 気づけば最下位争いに転落していた。

 競う相手はBクラス。現時点ではわずかにリードしている。

 2人はBクラスの進行方向を妨げ、逃げ切る戦法を取ることにしたようだ。Bクラスの2人も必死に追う。

 そんな時、一瞬の隙が生まれ、Bクラスに追い越されてしまった。

 

「ああ!惜しい!!」

 

 結果、堀北と櫛田は最下位という順位に終わった。

 堀北の足の状態が悪かったにしても、1位を取ることを狙っての組み合わせだったため、この敗戦はDクラスにとっては痛手になるだろう。

 

 障害物競争の次の競技は騎馬戦だが、その間に10分間の休憩がある。それ以降は男女の競技順が逆転する決まりになっていた。

 その場にとどまると体が固まってしまう恐れがあるため、グラウンドの外側を軽くウォーキングしながら休憩時間を過ごした。




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