実力至上主義の学校に数人追加したらどうなるのか。※1年生編完結   作:2100

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衝撃的なことが起こります。どうぞ。

2020/1/24、大幅な修正を行いました。すでに読んでくださっている方も、もう一度お読みいただけると幸いです。


ep.4

 

 

「おはようっ」

「……?」

 

 時計の針が朝の8時を回り、俺が教室に登校してきたとき、突如肩をトントンとたたかれ、朝の挨拶をされた。

 あまりにも突然の出来事だったため、一瞬無言になってしまうが、挨拶をされた以上はこちらも返さないわけにはいかない。

 後ろに振り返りつつ、挨拶をする。

 

「あ、ああ……おはよう」

 

 そこに立っていたのは……見覚えのある女子生徒だった。

 クラスメイトだからなんとなく見覚えがあるのは当然なんだが、そういう意味ではない。

 まずこの女子生徒、めちゃくちゃ美少女なのである。

 また、おととい昨日とみている限り、男女問わず多くの生徒が彼女に話しかけていた。そしてそれを本人もうれしそうに対応していたのを覚えている。つまりコミュニケーション能力もかなり高いということ。それは今この瞬間に俺に挨拶をしてきたことからもうかがえる。

 

「えっと、速野くん、で合ってるかな?」

「ん、ああ、合ってるけど……」

「あ、よかったー。初めまして、だね。櫛田桔梗です」

「はあ……速野知幸です」

 

 デジャブだ。昨日の平田との場面と被る。

 なんで俺の名前を知ってるかに関しては、人づてに聞いたんだろうと勝手に考えて質問はしないことにする。

 

「下の名前、知幸くんっていうんだ。よろしくね」

「あ、ああ……よろしく」

 

 なんというか……すごい可愛いと思います。

 元々の容姿が優れていることに加えて、櫛田本人が自分をさらに可愛く見せる方法を熟知している感じだ。

 意地の悪い言い方をすれば「あざとい」という表現になるわけだが、不思議と嫌な感じはしない。

 この点が男女問わず人気である要因の一つなんだろうか。

 一体どんな自己紹介をしたのかも同時に気になるところだ。

 

「速野くん、入学式の前に自己紹介があったのって知ってる?」

「ん、ああ、平田と綾小路から聞いたよ。ちょうどその時俺はトイレに立ってたから、参加できなかったんだ」

「そうだったんだ。でも、同じクラスの友達なのには変わりないからねっ」

「……あ、ああ」

 

 ちょっと待って、いまこいつ友達って言った?

 まだ顔合わせて2分も立ってないのに、同じクラスってだけで友達になるのか?

 櫛田の態度はこれ以上ないほどに友好的だが、いきなり「友達」と言われると違和感はぬぐえない。

 

「ところでさ。速野くんって、堀北さんと仲いいの?」

「……は?」

 

 唐突な質問。

 戸惑いつつも、返答する。

 

「いや……そんなことはないと断言する」

「でも、堀北さんが話してる相手、速野くんと綾小路くん以外に見たことないよ?」

「……まあ、多少話す関係ってことは事実だけど。でも、それがどうしたんだ」

「私ね、この学校のみんなと友達になるのが目標なの。でも昨日、堀北さんに話しかけたら拒絶されちゃって……」

「へえ……」

 

 いまの「へえ」は櫛田が堀北に拒絶されたことに向けてのモノではない。「この学校のみんなと友達になる」という櫛田の一見無謀ともいえる目標に向けてのモノだ。

 堀北が会話の相手を初手で拒絶するなんてもはや当たり前のことすぎて、反応を示すほどのことじゃない。

 

「堀北は誰かれ構わずそんな対応だと思うぞ。俺も最初に話しかけたときは滅茶苦茶いやそうな反応されたしな。気にしない方がいいんじゃないか?」

「そう、なのかな」

 

 まあ、俺の言葉には微塵も説得力ないけどな。よりによってアドバイスを受ける相手が中学で一人も友達がいなかった俺とは。

櫛田は質問する相手を間違えている。

 

「うん、そうかも。私も頑張ってもう一度話しかけてみるね」

「お、おお……そうか」

 

 どうやら櫛田に諦める気はないらしかった。

 まあ、止める理由はないし、頑張ってくれとしか言いようがない。

 

「じゃあ、またね、速野くん」

「あ、ああ。また」

 

 櫛田は、また別のクラスメイトの元へと駆けよっていった。

 いつまでも突っ立っているわけにもいかないので、自分の席に向かい、荷物を置く。

 

「みんなと友達になる、か」

 

着席して一息つくと、櫛田のそんな言葉が耳に残る。

 友達という存在に特別性を見出している俺からすると、全員と友達になるという行為はその特別性を失わせるものでしかない。全員と友達になったら、その友達は果たして本当に「友達」と呼べるのか、俺には疑問だ。

 まずそれ以前に……俺には、初対面から数分しか経ってない人のことを友達と呼ぶことはできない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日もすべての授業を消化し終わると、Dクラスの生徒たちは今日もハイテンションで、敷地内の娯楽施設に遊びに行く約束を交わしている。

 それ自体を否定するつもりはない。

 せっかく大金を貰ったんだ。それを使って遊びたいと思うのは真理。俺にだってそういった願望がないわけじゃない。

 ただ、「今日カラオケ行かなーい?」や「ゲーセン行こうぜー!」みたいな会話を、授業中に、それも大声でするのは本当に遠慮してほしい。

 マジで超うるさい。

 俺や堀北などを含め、真面目に授業を受けたいと思っている生徒も少なからずいる。そんな生徒にとって、ああいう話し声は邪魔でしかない。

 ……まあ俺の場合は、話し相手がいないから授業を静かに受けるしかない、という見方もできるが。

 俺がこの学校に入ってから会話を交わした人の数は両手で足りる。

 具体的に挙げると、綾小路、堀北、コンビニ店員、学食の店員、藤野、平田、そして櫛田。

 つまり俺は綾小路、藤野以外に話し相手を作ることができないでいた。

 藤野と面と向かって話したのは学食での事件が最初で最後だが、チャットでのやり取りは継続的に行われている。昨夜もチャットで雑談を行った。

 だだ、藤野の人間関係を総合して見たときに、俺の序列は最下層だろう。

 実際に会ったのは一度だけだが、あいつに非常に高いコミュニケーション能力が備わっていることは明らかだ。初日からいきなり遊びに行ってたしな。その遊び相手とは昨日と今日で関係を深め、しっかりと友人関係になっているだろう。

 そういった人たちと比較すると、俺と藤野の関係は希薄というべきだ。つまり、現時点で藤野を友達に含めるのは不適切のはずである。

 知り合い数人、そして友達ゼロ。それが今、俺の置かれた現状だ。

 

 ……俺、めちゃくちゃ成長してるぞ。

 

 当然だ。以前まで話し相手すらゼロだったんだから。話し相手が「いる」ということ自体、確かな成長だ。

 以前の俺がどれほど酷かったかというと、中学で俺の声知ってるやつはいるのか、自分で疑問を持つレベル。

 あまりに会話をしなさすぎると声の出し方を忘れてしまう、という話を聞いたことがあるだろうか。あれマジの話だから注意したほうがいい(体験談)。

 ちなみに今日は綾小路、堀北と話したからセーフだ。

 さて。

 そんな俺だが、実を言うと今日の放課後、予定が入っている。

 俺がただの暇人じゃないことがこれで証明されたわけだ。

 ……まあとはいえ、当然のごとく一人なんだが。悲しい。

 そんなわけで、俺が学校を出て向かう先は寮ではない。

 目的地に向かうために、教室を出て廊下を歩きだそうとした時だった。

 

「あ、速野くん」

 

 名前を呼ばれた方を見ると、そこには藤野の姿があった。

 他クラスの生徒の来訪は珍しい。それに来た生徒が藤野という美少女、さらにいえば最初に呼び掛けた相手が俺ということで、周囲から大きな注目を集めていた。

 なんで藤野がこんなところにいるんだろうか。

 

「どうしたんだこんなところで」

「実はちょっと用があってね」

 

 用というと、誰かに会いに来たのか。

 

「そうか。Dクラスの誰だ?」

 

 教室内に首を向けたが、藤野は首を横に振った。

 

「違う違う。用があるのは速野くんにだよ」

「……俺に?」

「うん。このあと、食品スーパーに行くんだよね?」

 

 そう。藤野の言う通り、俺が今から向かう目的地は、敷地内にある大型の食品スーパーだ。

 俺は今日から自炊を始める。そのための食材を買いに行くため、放課後にスーパーに行くことを決めていた。それを昨日、藤野とのチャット内やり取りの中で話した。

 

「ああ」

「それなんだけどさ。……私も一緒に行っていいかな?」

「……?」

 

 非常に急な申し出で、答えに窮してしまう。

 

「……なんで?」

「私も自炊始めようかな、って思ってさ」

「……そう、なのか」

 

 少し疑問が残るやりとりだったが、もちろん俺に断る理由はないので、頷いて承諾の意を示す。

 

「ほんと? ありがとう。じゃあ早速行こうよ」

「あ、ああ」

 

 藤野の方も荷物は持ってきていたので、ここから直接スーパーに向かうことになる。

 この時期に男女1対1の組み合わせというのは珍しいだろう。廊下ですれ違うタイミングで俺たちのことを二度見する生徒が多いことが、それを顕著に示している。

 俺はあまり居心地がよくなかったが、藤野の方は気にしていないようで、すました顔で歩を進めている。

 学校から食品スーパーまでは、ゆっくり歩いて5,6分の時間で到着した。

 店内に入ると、空調の効いた、ちょうどいい温度の空気が中から流れて出てくる。

 スーパーなので空調が効いているのは不自然なことではないが、この学校の凄いところは、校舎内のほとんどの場所で冷暖房が完備されているところだ。教室はもちろんのこと、廊下も過ごしやすい温度に調節されている。普通廊下にまではつけないよな。

 だから、というわけではないだろうが、俺たちは季節を問わず、一年中ブレザーを着用することが義務付けられている。

 今は大丈夫だが、夏にはちょっとつらいものがあるだろうな。

 カゴを手に取って、まずは入り口付近に位置する野菜コーナーから何を取ってやろうかと吟味しようとしていたとき。

 

「速野くん」

「ん?」

「ちょっと私についてきてくれないかな?」

「……わかった」

 

 あえて理由は聞かなかった。

 藤野の背中についていきつつ、店内を俯瞰する。コンビニ同様、品揃えはかなりのものだ。組み合わせ次第でなんでも作ることができるだろう。

 だが藤野はそれらには目もくれず、どんどん先に進んで行く。

 そして、一番奥に到達した。

 

「あったあった。ここを紹介したかったんだー」

 

 そこには、つい最近この学校の敷地内でよく見るようになった文字。

 

「……無料コーナー?」

「うん。友達に聞いてね。私も来るのは初めてだったんだけど」

「へえ……」

「驚いた?」

「ちょっと想定してなかった。スーパーにも無料のモノがあるなんて」

「よかったー。速野くんを驚かせたくってこんな紹介の仕方にしたんだよね」

 

 藤野の言う通り驚きはある。だがそれ以上に、助かったという気持ちの方が強かった。

 恐らくいま紹介されなかったら、無料コーナーの存在に気付くのに少し時間がかかっただろう。無駄なポイントを使わずに済んだ。

 品揃えも品質も、当然一般のコーナーと比べればかなり劣るが、目的は美味しいものを作ることではなく食費を浮かせることなので全く問題はない。

 期限ギリギリだろうと食えればそれでいい。

 なんならちょっと過ぎたモノでも、俺は大丈夫だ。

 

「速野くんは、いつから料理やってるの?」

「えーっと……小6とか」

「あ、私も同じくらいだよ」

 

 俺の場合、「料理を始めた」という表現は少し不適切だ。

 正確には、「料理を始めざるを得なかった」。

 だがいちいち訂正するほどのことでもないので、スルーして会話を続ける。

 

「こうやって友達と食品館に行くの、初めてなんだよね。普通友達と買い物っていったら、洋服とかファッション系だしさ」

「……」

 

 そんな藤野のセリフに、少し黙り込んでしまう俺。

 

「どうしたの?」

「え、ああいや、悪い」

 

 いま出てきた「友達」というワード。

 今朝、櫛田にも言われた言葉だ。

 

「どこからが友達なのか、って思ってな」

「え?」

「いや、はっきりした基準がないことは分かってるんだが……」

 

 例えば恋人同士ならば、どちらかが想いを告げて付き合ってほしいと言い、それをもう片方が了承することでその関係がスタートする。つまり明確な基準が存在するわけである。

 しかし、友達は違う。

 なんとなく話すようになって、なんとなく遊ぶようになって……気づいたら友達、というパターンが多いだろう。どこまでが赤の他人で、どこからが友達なのか、その基準はグラデーションのように曖昧で、はっきりしない。

 

「うーん、確かに、普通はないよね……」

 

 藤野も少し考えこんでいる様子。

 俺がまだたくさんの友達を持っていた小学校のころは、そんなこと全く気にもしていなかった。

 今のように余計なことを考えなくても、自然と友達ができていた。恐らく、「友達」という曖昧な概念を、感覚だけで使いこなすことができていたんだろう。

 

「でも私は速野くんのこと、友達だと思ってたよ。速野くんは……違った、のかな?」

「……いや、悪いな。分からないんだ」

 

 藤野と比較的仲が良いことは間違いない。少なくとも、今のように一緒に出掛けるくらいには。

 だが、友達かどうか、と問われると、俺は自信を持って頷くことはできない。

 

「じゃあ、質問を変えるね。速野くんは、私と友達になりたいって思ってくれてる?」

 

 その問いには、俺は自信を持って肯定した。

 すると、藤野の表情がぱっと明るくなる。

 

「じゃあさ……」

 

 そういいつつ、藤野は俺の手を取り、握手のような形にさせる。

 

「今この瞬間から、私たちは友だち。これでどうかな?」

「……」

 

 面食らってしまった。

 どこからどこまでが友達なのかは、俺には分からない。話を聞く限り、恐らく藤野もわかってはいないだろう。

 しかし、客観的に見てある程度の仲の良さがあって、お互いに友達になりたいと思っているなら、その二人はもう限りなく友達に近い存在だ。あと一押しがあれば、友だちになることができるだろう。

 その一押しを、藤野はこのように目に見える形でやってみせた。

 

「改めてよろしくね、速野くん。友達として」

「……ああ、分かった。よろしく」

 

 俺は少しの間の後、藤野の手を握り返した。

 そして10秒ほど経った頃、どちらからともなく手を離した。

 

「じゃあ買い物、しよっか」

「……そういや、何にもカゴに入れてないな」

 

 友達がどうこうという俺が持ち出した変な話題に時間を費やし、まだ肝心の買い物が出来ていなかった。

 

「速野くんなに買う?」

「一回全部見てから決める」

「それ時間かからない?」

「まあかかるだろうけど……どうせ無料だしな」

 

 

 

 

 藤野の言葉を素直に信じるなら、俺は藤野と友達になった。

 久々の友達だ。

 うれしくないわけはない。

 

 だが、俺が友達なんて持ってもいいのだろうか。

 

 

 鶏肉の炒め物でも作るか、と今日の夕飯のメニューを決めつつ、そんなことを思っていた。

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