実力至上主義の学校に数人追加したらどうなるのか。※1年生編完結   作:2100

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原作5巻分最終話です。堀北と須藤、龍園の掛け合いはほぼほぼカットしているので、かなり駆け足になっています。
では、どうぞ。


ep.47

 昼飯を終え、午後からは推薦競技が始まる。

 今はその一つである借り物競走が行われていた。

 俺は推薦競技には一つも出場予定はない。したがって、午後は全て観戦だ。

 Dクラス全体の雰囲気としてはあまりよくない。須藤も抜け、堀北も抜けた。まあ、堀北に関してはあの足の様子だといても戦力になるかどうかはさておき、少なくともDクラスではトップクラスの身体能力を持つ二人が抜けたことで、強烈な敗北ムードが漂っていた。

 ……あまり良い居心地じゃないな。

 元からDクラスでの俺の肩身は広くない。俺はDクラスのテントから少し距離を取った。

 そしてそのタイミングで、ある人物がこちらに向かって走ってきた。

 

「速野くんっ。端末持ってない?」

 

 赤いハチマキを巻いた藤野だ。少し急いでいる様子だった。

 

「端末?」

「借り物競争で男子の端末が必要なの!ほかの人にあたってみたけど誰も持ってなくて、そういえば速野くんは持ってくるって言ってたの思い出したから!」

「あー……」

 

 そういえば電話でそんなこと言ったな。

 まあ、体育祭会場に端末持ってくるやつなんて普通いないわな。俺はひとまずポケットから端末を取り出して藤野に手渡す。

 

「ありがと!終わったら返すね!」

「ああ」

 

 そう言って、藤野はゴールへと全力疾走。様子を見ている限り1位でゴールしたようだ。

 にしても、クラスのテントから離れておいて正解だったかもな。今この状況で他クラスのやつに協力したなんてなったら俺は袋叩きにあっていただろう。平田は止めてくれるかもしれないが。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 体育祭も終了の時間が近づいてきた。

 結局Dクラスは推薦競技でも良い成績を残すことができなかった。公開されているのは組のポイントだけで、クラスごとのポイントの詳細は明かされていないが、Dクラスが最下位だということは分かる。それほどボロボロだったと思ってくれたら良い。

 平田は須藤と堀北の穴を埋める代役のために30万ものポイントを出していた。船上試験で平田のグループが50万、櫛田は100万を獲得したとはいえ、小さくない支出だ。それでもクラスや仲間のためなら、と躊躇わずに実行できるのが平田という人間なんだろう。

 俺がポイントを多く所持していることは平田には今のところ知られていないから、俺は出すに出せなかった。この場に堀北がいたら咎められていたかもしれないが。

 そんなことを考えていたとき、向こうの方から声がした。

 

「悪い!遅くなった!今どうなってる!?」

 

 それはDクラスのエース、須藤だった。後から少し遅れて堀北もこちらに向かってくる。

 

「戻ってきてくれたんだね」

「……悪い。ちょっとウンコが長引いた」

 

 今までの須藤とは持っている雰囲気が少し違っているように感じる。どこか晴れ晴れとした感じだ。

 だが、須藤に向けられる表情は歓迎とは程遠い。

 

「まず謝らせてくれ。俺がキレたせいで平田を殴っちまったし、クラスの雰囲気も壊した。今ピンチなのも俺の責任だ」

 

 そう言って、須藤は深々と頭を下げた。

 正直驚いた。須藤がこんな行動に出るとは、誰もが想像していなかっただろう。

 

「んだよ健。らしくねえな」

「間違ってたもんは認めねーとな。お前にも謝らせてくれ寛治」

 

 事あるごとにヘッドロックを決めていた須藤は何処へやら。池にも素直に謝っている。

 

「別に負けてんのはお前のせいじゃねーし。俺も運動あんまできねえしさ……役に立てなくてごめんな」

 

 そんな須藤をみた池もみんなも徐々に寛容的な態度になっていく。

 

「リレーの代役がまだ決まってねえなら、俺に走らせてくれ」

「もちろんだよ。君以外に適任はいない」

 

 こちらとしても、須藤が走ってくれるなら拒否する理由はない。

 

「私は代走をお願いしてもいいかしら……この足では満足な結果は残せそうにないわ」

「いいのかよ堀北。お前、このリレーのために頑張ってきたようなもんだろ」

 

 実は堀北は、このリレーでアンカーを志望していた。

 それは、アンカーを走るであろう堀北の兄、堀北学と少しの間でも同じ空間にいたいという堀北の願望だった。

 

「仕方がないわ。この状態では……ごめんなさい」

 

 須藤に続き、堀北も頭を下げた。

 今までで一番素直になってるんじゃないだろうか。

 この体育祭で、堀北はとことん叩き潰されたはずだ。それが堀北の成長に繋がった。そういうことなんだろう。

 結局堀北の代役には櫛田が立つことになった。これで平田、須藤、三宅、前園、小野寺、櫛田の6人が代表になることが決まる。

 そんな時、平田が口を開いた。

 

「あの、急で悪いんだけど、実は僕……」

 

 しかし、それと同時に三宅が口を開いた。

 

「待ってくれ。悪いんだけど……俺も代役を頼めないか?実は午前中の200m走で足捻ってさ……少し経てば治ると思ったんだけど、まだ痛むんだ」

 

 そういえば、さっき見たときに歩き方に若干の違和感があったようにも思える。あれはそういうことだったのか。

 だが、こうなると男子からも1人、代役を立てる必要がある。

 

「なあ、俺が走ってもいいか?もちろん、代役のポイントは俺が出す」

 

 そんな声をあげたのは、綾小路だった。

 周りは、今まであまり目立たなかった綾小路が声をあげたことに驚いている。俺自身も驚いていたが、俺の場合は驚くところが少し違った。

 なんで今になって名乗りを上げたのか。全くもって理解できない。

 

「僕は賛成だよ。今までみんなを見てきたけど、きちんと結果を出してくれる人だと思う」

 

 平田のそんな言葉で、クラスの所々から出ていた反対意見がすぼんでいく。

 さっきから平田の様子も少し気になるな。あのとき龍園に言った「面白いもの」がこれなら、もしかしたら綾小路がリレーに出るところまで予定調和だったのかもしれない。さっき何か言いかけてたのが、自分が怪我をしたと言って綾小路に譲ろうとしてたんだとしたら説明がつく。

 イマイチ目的は掴めないが。

 

「Dクラスはベストメンバーじゃないから、先行逃げ切りの作戦はどうかな。最初に内側のコーナーを取れるのはプラスだと思う。須藤くんがとにかくリードを作って、後ろの人たちに託すんだ」

「……ま、しょうがねえな。勝つにはそれしかねえだろうし」

 

 スターターが須藤、2番手に平田。3、4、5に前園、小野寺、櫛田の女子3人を置き、アンカーに綾小路を配置することに決まった。

 各クラスの精鋭たちがグラウンドに集まる。その中には柴田や一之瀬、藤野の姿も確認できた。それに加えて生徒会長の堀北学、次期会長候補らしい南雲雅もいる。

 だが、一番のダークホースは綾小路。あいつの本気の走りを見たことがあるわけではないが、運動神経の良さの片鱗を俺と堀北兄、それに堀北は見たことがある。

 

「……少しいいかしら」

 

 レース展開を予想していたところ、まだ少し不自然な歩き方をした堀北に声をかけられた。

 

「なんだ」

 

 聞き返すものの、どうにも歯切れが悪い。何かを言おうとしては、再び口を閉ざしてしまう。

 それが数回繰り返された後、意を決したように口を開いた。

 

「……恥を承知で頼みたいことがあるの」

「……」

 

 プライドの高い堀北がこんな頼み方をするとは思わなかった。さっきから少し調子狂うんだが。

 

「……なんだよ」

「……あなたに借金を頼みたいのよ」

「待て待て。何があった?」

 

 経緯を説明してくれなければ、軽々しく借金なんて受けることはできない。

 

「……全ては私の無力さが原因。そこはしっかり理解しているわ。昼食時間、私がここを離れたのは気づいていたかしら。そのとき、櫛田さんに保健室に呼ばれたのよ。そこには龍園くんと、怪我をした木下さんがいた。向こうはこの問題を掘り返されたくなかったら、土下座して100万ポイントを支払えと言ってきたわ。……これが私が借金をする目的よ。もちろん、この分は時間をかけてでもしっかり返すわ。あなたが望むのなら、利子をつけてもいい」

 

 ふーん、なるほど。接触は昼休みだったか。

 

「……もう他に策はないのか?」

「あったらあなたに借金なんてしないわ。向こうが切り出してきた条件だもの」

 

 こちらからポイントを支払った形跡があれば、向こうがこの問題を掘り返してきたことこそが問題になる。

 もし櫛田とこいつの仲が良ければ、船上試験で巨額のポイントを手にした櫛田から借りるんだろうが、無理だ。色々問題がありすぎる。主に櫛田の側に、だが。堀北に非があるとすれば、相手の作戦にまんまとハマってしまったことだろう。

 これを掘り返されると、Dクラスとしても面倒だ。

 だが、ひとつ確認しておかなければならないことがある。

 

「……これから龍園と戦う覚悟はできたのか?」

「……ええ。もちろんよ」

 

 周りを見下してきた今までとは違う、決意を持ったと感じ取ることができる目。

 それで、俺も決めた。

 

「分かった。貸してやる。貸し出しの金額は30万。完済し切るまでの月末ごとに俺に100ポイントを払う。これが条件だ」

「……分かったわ。あなたにしては随分甘いのね」

「そうか?」

「ええ」

 

 まあ、たしかに甘いかもしれない。卒業まで返さなかったとしても、こいつが払わないといけないポイントは3000ポイントにも満たない。

 

 だが、別に構わないのだ。堀北はそれを払うことなく返済を終えるのだから。1ヶ月ごとや1年ごとにどれだけ法外な利子を設定したところで関係ない。

 

「別にこれでいいんだよ。卒業まで返済持ち越されたらかなわないしな」

「……ありがとう」

「……」

 

 それだけ言って、堀北は元いた場所に戻っていった。

 だから調子狂うんだっつの。

 俺は再び、リレーの出場者が並ぶトラックへと目を向ける。

 そしてついにスタート。須藤はその初動から他の追随を許さないスピードで走る。

 

「はっや!!」

 

 各所から須藤のスピードに感嘆の声が聞こえてくる。

 初めに飛び出した須藤は内側を獲得。2年3年も速いが、後ろは混戦しているお陰で須藤はさらにリードを大きく広げた。

 そして平田にバトンが渡る。手堅い足の速さを持つ平田は、須藤が作ったリードをキープしたまま3番手にバトンパス。だが、問題はここからだ。女子が続くDクラスのこの順番だと、順位ダウンは免れないだろう。

 案の定、前園が走り出す段階で2年Aクラスに抜かれ、その後も後続が追い抜いていく。櫛田にまわる段階で、Dクラスは7位にまでなってしまった。

 しかし、ここで異常事態が発生した。3位でバトンを受け取った堀北兄が、なぜかその場に留まって走り出さないのだ。

 

「……何やってるんだ?」

 

 前にもこれと似たような状況があったのを思い出す。あれは確か入学して間もないころ、部活動説明会の時だったか。全員が押し黙るまで、生徒会長が一言も発さなかった。

 しかし、直後にそのカラクリが明らかになる。綾小路が櫛田からバトンを受け取ると同時に、堀北兄も走り出した。

 お互いに全速力。驚異的な速さを見せる2人に、周囲からは歓声が湧き上がる。速さは須藤と同じか、それ以上。

 ものすごい速さで、前を走っていた走者を置き去りにしていく。

 

 ここで2人ともトップスピード。レースはさらに加速していった。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 走り終えた綾小路に好奇の視線が向けられる。

 結果から言うと、綾小路は堀北兄に敗北した。だが、これは2人の驚異的な追い上げに慌てた走者がこけて綾小路の進路を塞いでしまうという不確定要素が絡んだもの。それがなければどうなっていたか分からない。

 来年以降の体育祭がどうなるかは知らないが、その時は綾小路は初めから本気で挑んでくると思っていいんだろうか。

 レースの結果自体はそれほど重要ではない。着目すべきは、これで綾小路に注目が集まったということだ。

 とまれこうまれ、これで体育祭の全日程が終了した。

 得点が開示され、各クラスの順位が明らかになる。俺たちは他学年の順位には目もくれず、1年だけに注目した。

 

1位 1年Bクラス

2位 1年Cクラス

3位 1年Aクラス

4位 1年Dクラス

 

「うわ!やっぱ俺ら最下位かよ!」

 

 予想通りの順位。唯一の救いは、赤組白組の対決は赤組が制したということくらいだろう。これによってCクラスもDクラスもマイナス100ポイントとなり、差は開きも縮みもしなかった。1年は全クラス後退だ。圧倒的大差をつけて勝利した2、3年のAクラスには感謝しないといけないかもしれない。

 また、須藤が狙っていた学年別最優秀賞には柴田が選ばれた。やはり欠場が響いたか。須藤はとても悔しそうにしていた。

 

「須藤くん、約束は覚えているわよね?」

「……ああ。分かってるさ。これからは堀北って呼ぶ」

「いい心がけね。……そう、一つ思い出したことがあるわ。あの時、私はあなたに一方的に要求を突きつけられただけで、私は何も言っていなかったことを」

「は?なんだよそれ」

「あなたが目標を達成できなかった時の要求を、私がする権利はあるはずよ」

「まあ、そうだけどよ……」

「要求は……そうね。今後金輪際、正当な理由なく他人に暴力を振るうことを禁止する。クラス関係なく、ね。約束できるかしら」

「……ああ、罰ってやつだろ。守るさ」

 

 堀北の言葉にも大人しく従う須藤。

 今回一番成長したのはこの2人かもしれない。

 

「……そうだわ。今回、私はあなたのように結果を残せなかった」

「あ?怪我したんだからしゃーねえだろ」

「でも、私自身を許すことができないの。だから自分にも罰を与える。あなたが呼びたいのなら、私を下の名前で呼ぶことを許可しても構わない」

 

 堀北のそんな言葉を聞いた須藤は驚愕の表情を浮かべる。

 

「は?お、おい……」

「これが私の罰」

 

 そう言うと、堀北は須藤から視線を外して後ろを向く。

 

「最下位だったけれど、お陰でこれからの戦いに希望が持てた。感謝しているわ」

「お、おう……」

 

 須藤は、少し照れ臭そうに鼻の下を擦りながら、グラウンドを立ち去る堀北の姿を見つめている。

 

「うおおおおおおおおおっしゃああああああああああああああ!!!」

 

 勢いよく腕を振り上げた須藤の大絶叫が、体育祭の余韻の残るグラウンドに響いた。

 

「よかったな須藤」

「おう!」

「盛り上がってるところ悪いんだけど、ちょっといい?」

 

 そんな中、1人の静かそうな雰囲気を持つ女子が綾小路に声をかけていた。

 見たことがある。船上試験で俺や堀北と同じグループIになったAクラスの人間だ。確か名前は……神室真澄といったか。

 

「着替えた後でいいんだけど付き合ってもらえる?」

「……なんでオレが?」

「話があるから。5時になったら玄関に来て」

「お、おいおい、なんだよ、どういう展開だよ綾小路!?」

 

 須藤が言外に示しているのは告白の可能性だろうが、もしそうだとしたら、その相手にこんなにうんざりしたような態度で接してくるだろうか。

 

「おい、話って……」

 

 綾小路が質問しようとするが、神室はそれには反応すらせずにその場を立ち去ってしまった。

 

「なんだよ、お前にも春が来たのかよ」

「そんな風には見えなかったが……」

「いや、最後の走りを見て一目惚れしたやつがいてもおかしくはないぜ」

「参ったな……」

 

 なんとも青春っぽい会話をしながら着替えに戻っていく綾小路と須藤を見ながら、俺はその場にとどまる。

 グラウンドには、片付けをしているスタッフ以外はほぼ誰もいない。

 いるとすれば、俺。そして……

 

「お疲れさま。速野くん」

 

 その後ろにいる、藤野だけだ。

 

「端末返そうかなと思って」

「ああ、助かる」

「はい」

 

 藤野が手渡してきた端末を受け取り、ポケットの中に入れる。

 すると、藤野が思い出したように聞いてきた。

 

「そういえばさ、なんで速野くん端末持ってたの?男の子は殆どの人が教室に置いてきてたのに」

「まあ、そうだろうな……」

 

 競技中に携帯触る馬鹿はいないだろうし、紛失の可能性も高まる。女子なら思い出づくりのために持ってくる人も割といそうだが、男子は女子に比べそこらへんが無頓着だ。

 

「ちょっと撮りたいもんがあってな」

「あれ、もしかして写真好き?」

「いや、全く違うけど。まあ目的物は撮れたよ」

「?そうなんだ……」

 

 藤野はまだ腑に落ちていない様子だ。協力関係がある以上いずれは話すだろうが、壁に耳あり障子に目ありというし、今ここで話す必要はないだろう。それに、Aクラスとは直接の関係はない。

 

「じゃあ、俺は戻るけど」

「あ、待って待って」

 

 頭に巻いていたハチマキを外しながらロッカーに戻ろうとするが、腕を掴まれ止められてしまう。

 

「なに」

「折角速野くんが携帯持ってるからさ、一緒に写真撮ろうよ」

「写真?」

「うん」

 

 ニコニコしながら手を広げてくる藤野。携帯貸してという意味だろう。

 ……まあいいか。

 俺は承諾して頷きながら、端末のカメラアプリを開いて手渡す。

 

「ありがと。じゃあ行くよ?」

「あ、ああ」

 

 インカメラモードで、こちら側の映像が反転した状態で映し出される。藤野の顔が近い近い。あと俺の肩に髪の毛当たってる。いいのかこれ。そんな感じで頭が錯乱状態のまま、藤野の親指によってシャッターが切られた。

 あー……なんかどっと疲れた。自分の携帯を持つようになってから人と写真を撮ったことなんてなかったから知らなかったが、写真1枚撮るのってこんなに疲れるのか……

 

「ん、撮れたよー」

「お、おう……」

 

 ようやくこれで緊張の瞬間が終わるかと思ったが、あろうことか、藤野は撮った写真を俺にも見せるためにさらに密着してきてしまった。こ、今度は胸が……主張のめっちゃ強い胸が……ちょっと当たってるんだが……気づいてないのか?こりゃ気づいてなさそうだな。

 ようやく離れてくれて、上がりきった心拍数が落ち着きを取り戻す。

 

「あとで私にも送ってくれない?」

「分かった」

 

 藤野から手渡された端末をポケットに仕舞い、俺はロッカーに向かって歩き出した。

 

「途中まで一緒に戻ろうよ」

「ん、ああ、いいけど」

 

 藤野が俺の隣に並んで歩いてくる。一応の配慮として少しだけ歩幅を縮めた。

 

 体育祭で撮れる写真は酷いものだけかと思っていたが、最後にいい思い出ができただけ喜んでおくべきだろう。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 その40分ほど後。高度育成高等学校のある廊下には、速野から30万ポイントを譲ってもらった堀北と、櫛田、龍園の3人がいた。

 櫛田、といっても、それは普段Dクラスで見せている善意の塊のような姿ではない。自らの過去の汚点を消すために、その一端でも知る者は排除しようとする凶悪な姿だった。そしてそのために龍園と手を組み、Dクラスの体育祭の参加リストのすべてをCクラスに流した。

 体育祭でボロボロにやられ、会話の内容を録音するという最後の抵抗も龍園に看破され、打てる手を全て失った堀北は、今まさに櫛田と龍園の前に跪こうとしていた。

 その時、この場には似合わない、ピロリンという電子音が立て続けに2回鳴り響いた。

 一つは龍園の携帯。もう一つは櫛田の携帯。

 龍園は特に何かあるとは思っていなかっただろう。ただ気になったから画面に目を向けただけ。しかしその瞬間、それまで不気味な笑みが浮かんでいた表情から余裕が消える。

 

『今からDクラス、そして鈴音を潰す策を授けてやる。木下、お前が鈴音に接触して転ばせろ。なんでもいいから転倒するんだよ。そのあと俺がお前に怪我を負わせて鈴音から金をぶんどってやる』

 

 そんな録音データだった。

 龍園の表情の変化を見て何かを予感した櫛田も、携帯の画面を見る。もちろん、メールの差出人は不明。

 

『りゅ、龍園くん、私、やっぱり……』

『おいおい、50万やるっつったら承諾したのはお前だぜ木下。安心しろ。すぐに終わらせてやんよ』

『ぎゃあああああああああああ!!!』

 

 少々グロテスクな映像に、櫛田は思わず画面から目を逸らした。その映像は、人気のない校舎で、龍園が木下の足を踏み潰しているものだった。

 

「……なるほど。なるほどなるほど。なるほどなあ。クク、面白え。これがどういうことかわかるか?裏切り者はCクラスにもいるってことだ。そしてそれを影で操ってるそいつは、桔梗の裏切りも、鈴音が敗れることも全て計算尽くで、お前らだけじゃなく俺も手のひらの上で踊らせてたってことさ!面白え!お前の裏にいるやつは最高だぜ鈴音!」

「ねえ、どういうことなの?」

「利用されたんだよ桔梗。お前の裏切りは最初から予想されてた。じゃなきゃお前にこんな映像送りつけたりしねえよ」

「裏切りを読んでた……?誰にそんなことできるっていうの?もしかして綾小路くん?たしかにあの足の速さは知らなかったし……」

「まあ決めつけはしねえ。鈴音も綾小路も、場合によっちゃ平田すら操れる存在の可能性も考えて、これからじっくりあぶり出すんだよ」

 

 この瞬間、2つの影が堀北の脳裏に浮かんだ。何をしたのかはわからない。でも、あの2人が櫛田と龍園に何か罠を仕掛けた。それだけは確信できた。

 と同時に、1つの推測も立った。

 あの2人は、私の裏でずっと前から高次元のやり取りをしているのかもしれない。

 

「今回はこれで終わりだ。メールに差出人も、これ以上は追求してこねえよ」

「それでいいの?もしこのネタでゆすられたら……」

「そうするつもりならもっと後で出す。土下座こそさせそこなったが、目的は半分達成できた。俺としちゃそれで十分だ」

 

 

 

 

 

 これではまだ証拠として弱い。

 築いてきた信頼を崩す可能性があると思わせるためには、もっと強固なものにしなければならない。

 あとひとつ。

 材料が揃えば、そこが動く時だろう。




はい、原作5巻分が終了しました。今回はあまり大きな動きはなかったですね。いずれ明らかになりますので、この作品を粘って読み続けていただければ幸いです。
ここで少し雑談を。
まあ雑談といっても、今日の朝ハーメルンにいこうとしたら、急にログインIDとパスワード聞かれて答えられず、新しくパスワード発行し直したって言うつまらない事件なんですが。マジでビビりました。

自分の中で、5巻から7巻まではひとまとまりみたいな扱いになっているので、このまま投稿したいと思……っていましたが!原作6巻分に入る前に、ちょっとしたスピンオフ的なものを書こうと思います。
では、これからもどうぞ、この作品をよろしくお願いします。

感想、評価お待ちしております。
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