実力至上主義の学校に数人追加したらどうなるのか。※1年生編完結   作:2100

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予告の通り、スピンオフです。原作では書かれていなかった二学期中間テストの時期のエピソードです。
では、どうぞ。


番外編
ep. extra ediction


「いててててててて……」

 

 どうも、体育祭で大した活躍してないくせに全身筋肉痛の速野です。

 こうなることは分かっていたので、体のあちこちにあらかじめ買っておいた湿布貼ってるんだが、今のところあんまり効き目がない代わりに部屋に独特のにおいが充満してちょっと臭い。なので、換気のために窓を開けていた。涼しくなってきたからこそできる。

 まあ、いずれこの湿布が痛みを吸い取ってくれるだろう。

 腕は痛いが、料理くらいはできる。まあ朝飯なので食べるのはパンくらいだが。パンを焼いて、その上にひたすらフライパンで混ぜたいり卵乗っけて食うだけなので合わせて10分もかからずに朝食を終えた。

 そういえば中間テストが近い時期だ。周りもそろそろ勉強を始める頃かもしれない。流石に今日は体育祭翌日の振替休日ということもあってあまりいないだろうが。

 勉強しようにも、匂いが取れきっていない部屋の中でする気にはなれない。この学校には窓を開けてても侵入してくるような不届き者はいないだろうし、俺は窓を放置したまま図書館へ向かった。

 

 

 そういえば、須藤や池、山内と櫛田は綾小路の部屋の合鍵を勝手に作って出入りしたことがあるらしいが……大丈夫だよね?

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 高1のこの時期になってくると、古典が煩わしく感じてくる。助動詞の活用とか、推量とか伝聞とか、副詞の呼応とか係り結びとか。教科書の巻末に載ってる分はほぼ全部覚えたが、大学入試レベルになると文章の分解もかなりの難度だ。

 まあ、古典の基礎から標準の部分は99パーセント暗記だ。応用レベルになるとかなりの読解力も求められるが、それはこれから積み重ねていけば身につくだろう。そのための問題集なわけだし、傾向からして中間テストは今解いている問題集より2、3段階レベルの低い問題になると思うのであまり不安はない。

 ひとまず問題をひとつ解き終わり、採点を終えた。点数は7、8割ほど。まあこんなもんだろう。

 一息つくために、図書館内にあるコーヒーサーバーへと向かい、ブレンドコーヒーを淹れる。俺は甘いものは割と好きだが、コーヒーには砂糖は入れない。今日はブラックでいい。

 席に戻ろうとした時、声をかけられた。

 

「速野。中間テストの勉強か?」

 

 俺の前に立っている男子。体育祭において二人三脚でペアだった三宅だ。

 

「まあな。お前もか?」

「一応。部活も休みだし、不安な科目も少なくないからな。できたら教えてくれないか?」

 

 三宅の得手不得手は知らないが、手に国語と世界史の教科書を持っていることからすると苦手科目はこの2つ、というか文系科目か。

 

「まあ、俺でいいなら」

 

 こうして、俺と三宅の勉強会が始まったのである。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

「これはここに構文があってな……だからこう読める」

「なるほど……」

 

 今は三宅に古文を教えているが、ちょっとこれは割とまずいレベルかもしれない。池、須藤、山内とまではいかないが、基礎的なところが大きく欠落していると言っていい。

 

「なあ、前回の期末テスト、国語何点だった?」

「実はかなり危なかった。44点だ」

「本当にギリギリだな……理系は?」

「数学は70点。化学は77点」

 

 ガチガチの理系か……世界史の点数も振るっていないだろうな。

 正直なところ、体育祭やる時期間違えたんじゃないかと思う。中間テストまでは残り10日。余裕があるようでない微妙な期間だ。国語に時間を費やせばいい点が期待できるが、それだとそれ以外の科目が疎かになってしまう。

 

「文系科目は赤点取らない自信あるか?」

「正直ほとんどないんだ。毎回40点から50点の間をうろうろしてる感じだ」

 

 ちょっとまずいなこれは。もし平均点が高い時、その点数だったら赤点もあり得る。といっても、今から本格的な勉強を始めてもタイムオーバーだ。

 どうやって危険ゾーンを抜け出させようかと考えていると、1人の女子がこちらに近寄ってくるのが見えた。

 

「あれ、みやっちと速野くんじゃん。ここで勉強してんの?」

 

 確か……長谷川?いや、長谷部か。みやっちとは三宅のことだろう。

 

「そうだ。あんまり邪魔しないでくれよ」

「私も混ざっていい?速野くん頭いいし」

 

 みやっち、じゃなくて三宅の話を聞いているのかいないのか、そんな問いを俺にしてくる。

 

「……まあ、三宅がいいなら」

 

 俺としてはどっちでもよかったので、三宅に選択権を渡した。

 

「はあ……分かった。静かにやってくれ」

「分かってるってー」

 

 返事からは不安しか感じなかったが、その後30分間、俺への質問以外は長谷部は本当に静かにやっていた。

 3人のキリのいいところで一旦休憩を挟む。静かだった雰囲気の糸が切れて、全員リラックスしている。

 今ならいいだろうということで、ひとつ気になっていることを長谷部に聞いた。

 

「長谷部、今まで話したことすらないやつと勉強するのって気まずくないのか」

 

 俺が聞くと、長谷部はうーんと少し考えてから答える。

 

「そりゃみやっちに比べたら気まずさはあるけど。でも速野くんも私たちと同じでクラスの子と付き合い薄い側じゃない?妙な親近感があるっていうか、とにかくそんな感じなんだよね」

 

 ふむ。特定のグループに属さない、所謂無派閥という共通点からくるシンパシーか。

 人付き合いやコミュニケーション能力に関しては、入学時と比べると格段に向上している自覚はある。でなければ三宅とこんなに関わることもない。まだコミュ障の域は脱していないだろうが、中学の頃の俺が見たらたまげるだろう。

 それでも、まだ長谷部のいう親近感を理解するには及んでいないらしい。

 

「速野くんって案外話せるね。もうちょっと暗くて取っ付きにくいイメージあったけど」

「話せるかどうかは置いといて、暗くて取っ付きにくいに関しては自覚がある」

 

 長谷部は割とストレートにものを言うタイプらしい。俺も以前、堀北に「発言をオブラートに包まない」と評されたことがあるが、この点俺と長谷部は少し似ているかもしれない。

 

「俺が意外なのは長谷部の方だけどな。お前誰かと一緒に勉強するような柄じゃなかっただろ」

 

 この2人が知り合うのにどういった経緯があったかは分からないが、三宅は長谷部のことを結構知っているらしい。

 

「まあ、それは偶然ってことで。図書館で勉強するつもりで来たら、同じように勉強してるみやっちと、質問したらどんなものでも答え返って来そうな速野くんがいたわけだし。実際返ってきたしね」

 

 なんか俺機械みたいに見られてない?まあでも、いきなりフレンドリーな奴よりは俺としてもそう扱ってくれた方が接しやすい。

 さっき俺と長谷部はちょっとだけ似ているかもしれないと言ったが、似ているといえば、俺よりも長谷部と三宅だ。この2人を見ていると色々驚かされる。さっきの30分間、長谷部も三宅も俺に4回ずつ質問してきたが、質問する箇所、内容、解き方全てが酷似している。

 

「長谷部、前回の期末テスト、国語の点数は44点だったか?」

「え?いや、惜しいけど違うよ。前回は45点。なんで分かったわけ?」

「お前ら2人とも、考え方が相当似てる。三宅からさっき点数聞いたからそれを言ってみただけだ。ちなみに前回、数学は70点前後だっただろ?」

「前後っていうかジャストだけど。ねえ、なんか運命感じないみやっち?」

「感じねえ」

「あ、そ」

 

 恐らくだが、点数だけじゃなく、当たっている箇所や間違い方なんかもほぼほぼ一致しているかもしれない。

 これは驚きを通り越して逆に面白いぞ。こんな偶然、なかなか目の当たりにできるものでもない。

 

「2人はこのあとも勉強するのか?」

 

 柱にかけられている時計を見ながら、三宅が俺と長谷部に聞いた。

 

「まあ、一応は」

「私は昼ごはんの時間まではやる気だけど」

「なら、席を離してやらないか。俺ら以外に人はいないみたいだし、そっちの方がお互い合ってるだろ」

 

 たしかにそうかもしれない。言った本人の三宅はもちろん、長谷部も1人の方がいいらしいしな。俺は言わずもがな。

 

「さんせー。んじゃ、私あっちでやるね。質問あったら行くからよろしく」

「はあ……」

 

 言うが早いか、長谷部は広げていた勉強道具一式を持って向こうの机に行ってしまった。

 

「どうする速野。この席使いたいなら俺がどくけど」

「いやいい。そんだけ広げてると手間だろ」

 

 俺は問題集一冊しか広げていないのに対し、三宅は教科書、ノート、ワークブックなどが机の上にある。俺が移動した方が効率的だ。

 こうして、3人はそれぞれ離れた席で勉強を始めた。

 やはりというか、2人とも質問する箇所が全く同じだったので少し吹き出しそうになってしまう。

 なので、俺はこの中間テスト「だけ」をクリアするための勉強法を教えた。

 世界史は、教科書で太字になっているものとそれの説明を覚えるまでノートに書くこと。

 現代文は、選択問題に関しては本人達に頑張ってもらい、記述問題については、これじゃないかと思うところを抜き出し問題じゃなくても本文丸写しで書くこと。

 古典は、文法問題は捨て去り、出題範囲の本文と現代語訳をとにかく頭に叩き込むこと。

 これを10日かけてやれば、平均点には及ばないだろうが、赤点ラインはクリアできると思う。まさに中間テストのため「だけ」の勉強。学習内容はほぼ身につかないので本来はあまりやってはいけない方法だが、本格的にやるには時期が遅すぎた。

 だが、勉強に対する姿勢は前向きだし、1学期中間テストの時の須藤、池、山内よりは格段にいい。この2人ならなんとかするだろう。

 

 その後、各々自由に勉強し、3人バラバラで解散した。そしてそれ以来、この3人で集まって勉強するなんてこともなく、テストまでの期間を過ごした。

 最近は平田や藤野など、コミュ力がオーバーヒート気味の人といる時間が長かったのでわからなかったが、こういう良い意味で自分勝手な、緊張感ゼロの付き合い方もいいかもしれない。気を使う必要がなく、使わなくても何も言われないし、言わない関係。

 

 まあ、平田や藤野といるときに俺が気を使ってるのかは甚だ疑問だが。特に藤野との場合は、はっきりとした友人ではあるものの、それ以外にも様々な要素があって色々特殊だし、同列に考えない方がいいかもな。

 

 それにそもそもの話、平田や藤野との関わり方に現状文句があるわけでもない。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 テスト前日の放課後。今日は食材の買い出しの日だった。

 この藤野との買い物の習慣はかなり続いている。テスト前でもそれは例外ではなかった。唯一途絶えたのが夏休み前だが、それも色々事情があってのことだ。

 すでに買い物を終え、荷物を持って寮までの道を歩きながら、俺は英語を、藤野は世界史を勉強していた。たまに問題を出し合う。

 藤野の出す問題は高難度だ。絶妙なところに引っ掛けが潜んでいたりするため面白い。問題を慎重に聞いてなんとか正解していく。俺も出来るだけ難易度の高いものを出すが、藤野はそれらをことごとく正解する。

 問題の出し合いがひと段落して、藤野が口を開く。

 

「速野くんは、今日は部屋で勉強するんだよね?」

「まあ、そのつもりだけど」

 

 テスト前日ともなれば、今ごろ図書館は人でごった返しているだろう。そんな場所で好き好んで勉強しようとは思わない。自室の方が集中できるし、慣れている。

 

「私、去年の2学期中間テストの過去問持ってるんだけど、一緒に解かない?もちろん、速野くんが良ければなんだけど……」

「俺の部屋でか?」

「私の部屋でもオッケーだよ」

 

 過去問は非常に有効だが、今回はその過去問と同じような問題が出ることは期待しない方がいいだろう。1学期期末テストは、中間テストの時よりも過去問との類似点が少なかった。

 だが、出題形式はほぼ変わらない。演習ができるというなら乗らない手はないか。

 

「じゃあ頼めるか」

「オッケー。私の部屋、来る?」

「……分かった」

 

 そう返事すると、藤野は頷きながら微笑んだ。

 

「あ、悪いが一回部屋寄っていいか」

 

 言いながら俺は、手に持っている買い物袋を藤野に示し、部屋に置いておきたいということを言外に暗示した。

 

「うん、いいよ」

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 俺の部屋の玄関に買い物袋を置いて、藤野と俺は藤野の部屋に向かう。今すぐに冷蔵、冷凍しないといけないものは買ってないし、大丈夫だろう。

 藤野の部屋は12階にあった。エレベーターを降りて背中に着いて行き、部屋に到着。

 

「ここだよ」

 

 言いながら鍵を開け、俺を招き入れてくれる。

 

「お邪魔します……」

 

 女子の部屋に入るのは佐倉以来2度目だが、やっぱりちょっと緊張する。空気感が男子とは全く違う。まあ男子の部屋も俺のと綾小路のしか知らないんだけど。それに行き慣れてるのもそれはそれで問題ある気がするし。

 

「いま過去問持って来るから」

「ああ」

 

 俺の部屋に寄った際、買い物袋と同時にバッグも置いてきたため、手元にあるのは筆箱だけ。それを足の短い丸テーブルに置き、カーペットに座り込んで待っていると、紙の束と、コップ一杯の水を持った藤野が戻ってきた。

 それらを手渡しながら藤野が言う。

 

「はい。解くのそこで大丈夫?」

「お前が机使うんだから、他に場所ないだろ。それに特に不満はない」

「なら、いいんだけど」

 

 受け取った過去問を広げ、早速解き始める。それを見て、藤野も机に向かって問題を見始めた。お互いに無言の状態がしばし続く。

 男子が女子の部屋の階に居られる時間は制限されているので、スピードを意識して解いた結果、全て合わせて80分で終わってしまった。背伸びをすると、身体中からゴキゴキゴキ、というものすごい音がする。

 その音に反応してか、藤野がこちらを振り向いた。

 

「すごい音だね……」

「あー、悪い。集中乱したか」

「ううん、ちょうど2科目おわったところだから……え、速野くんもう終わったの?」

 

 テーブルの上の様子から察したらしい藤野は、驚愕の表情を見せる。

 

「ああ、まあ」

「速いね……」

「スピード重視でやったからな。その分いくつか間違いはあると思うが」

「いや、それにしてもだよ……私も解こうっと」

「落ち着いてな」

「うん」

 

 まあ藤野は俺と違って変なミスを3つもしないだろう。先に丸つけをしておくか。

 

 採点結果。

 国語100点。数学100点。英語97点。理科98点。社会98点。合計493点。英語はスペルミス、理科は単位のつけ忘れ、社会は漢字ミスと、ザ・凡ミスのオンパレードである。数学で計算ミスがなかったこと、国語で漏れがなかったことは誇っていいだろう。今回は全部15分から20分ほどで解いたが、明日は見直す時間が30分以上ある。しっかりやれば、取りこぼしも無くすことができる。

 ……まあ、女子の部屋という緊張のなかでこんだけ取れれば十分だろう。

 自分の採点が終わった1時間後、藤野も全科目の回答を終えた。

 

「んー、やっと終わったー……」

 

 藤野が先ほどの俺と同じように伸びをする。その姿勢は当然、豊満な胸元を強調する形になるわけで。俺は反射的に目を逸らし、すでに全てを終えた過去問に視線を移した。

 

「速野くん、全部で何点だった?」

 

 丸をつける時にペンから発せられる特有の音とともに藤野が聞いてくる。

 

「493点」

「高いね……敵わないかも」

 

 ペーパーテストは俺の得意分野だ。これに関しては堀北にも勝ちを譲る気はない。まあ、いまあいつに求められてるのは学力とは別の力なんだけどな。

 教室では堀北が須藤に懸命に教え、須藤が必死で理解しようとしている光景を最近よく目にするようになった。体育祭でのアドバンテージもあるし、須藤に関しては多分大丈夫だろう。

 そんなことを考えながらぼーっとしていると、赤ペンを机にぱっと放り出して、藤野が言った。

 

「できた。490点。化学の最後、ちょっと難しくなかった?」

 

 藤野が失点したのはどうやらそこらしい。確かに少し立式が複雑だったかもしれないな。答えは出たが、俺が単位のつけ忘れで失点したのもそこだった。

 

「今は多分焦ったからだろ。本番で落ち着けば解けないレベルじゃない」

「うーん……早く解けるようになるコツとかってあるの?」

「とにかく演習していろんなパターンを経験しとく、とかか」

 

 通信教材の宣伝に入ってくる漫画なんかで、「あ、これベネ○セで出たやつだ!」とか「あ、これZ○で出たやつだ!」とかいう場面があるのをご存知だろうか。要はあの状況を頑張って作るのだ。勉強は量だけでは伸びない。ただ、量をこなさなければできるようにはならない。高1のガキが当たり前のことを何を偉そうにって感じかもしれないが、今までにやってきた勉強量なら、俺はそこらの受験生とも張り合える自信がある。狂ったようにバスケと勉強だけしかやってなかった時期があるからな。

 

「やっぱりそれしかないよね……」

「少なくとも俺はそれしか知らない」

 

 他に効率的な方法があるなら是非とも教えてほしい。特に藤野に。

 その後、お互いの解き方などを確認して十数分が経過。ふと時計を見ると、時刻は8時40分を過ぎようとしていた。

 ……ちょっと遅くなったな。

 

「藤野、これ持ってっていいか?」

「いいよ。どっちもコピーだし」

 

 要るのは国語と社会だけなんだが、それ以外を残していくのも変だし、全部持っていかせてもらおう。

 

「ちょっと遅くなっちゃったね……」

「まあ、全部解いたしな……」

 

 藤野も1科目30分ほどで解いている計算だから、決してスピードが遅いわけではない。

 

「じゃあ、解散しよっか」

「ああ。長居して悪かったな」

「そんな。私から誘ったんだもん」

 

 もちろん、こんな時間になることは予想していなかったわけではないが、「こんな夜に女子の部屋にいる」という事実を体感すると、こうも重くのしかかってくるのか。

 雰囲気が変になる前に出よう。

 

「じゃあ」

「うん。また一緒にやろうよ」

 

 言われて、少し考えてみる。

 緊張はしたが、心地が悪かったわけではない。そもそも藤野といる時間はそういう感じであることが多い。その時々でどんな感情を抱くにせよ、嫌気が差すとか、帰りたいとかそういった類のものは感じたことがない。流石に初対面のあの状況のときはかなり居心地が悪かったし、帰りたいと思ったが。

 

「わかった」

「ほんと?ありがとっ。またね」

「ああ」

 

 出て行く直前、軽く手をあげると、ドアが閉まって見えなくなるまで、藤野がこちらに手を振り返してくれた。

 この場面を誰かに見られるのはあまり望ましくない。ささっとエレベータホールに移動すると、片方のエレベーターが到着した。

 そこから、制服をきた女子生徒が降りてくる。

 

「あ、速野くんじゃん」

 

 数日前に図書館で一瞬一緒に勉強したクラスメイト、長谷部だった。

 

「なんでこんな時間に?あ、もしかして彼女?」

「違う」

「なーんだ」

 

 聞いてきた割に超興味なさそう。

 まあ、遭遇したのが長谷部だったことは、ラッキーと同時に好機と捉えるべきだろう。見られたのが池や山内だったらまた変に追求されてたかもしれないし。今ここでもう一つの目的も果たせる。

 

「お前、三宅の連絡先持ってるよな?」

「みやっちの?まあ一応」

「なら、これ、お前に渡すから三宅にも送ってやってくれ」

「?」

 

 一瞬渡されたものが分からなかったようだが、中身を見てすぐに理解する。俺が渡したのはさっき藤野から譲り受けた過去問のうち、国語と社会の問題だった。

 

「あったんだ。助かるよー。みやっちにも送っとくね」

「ああ、頼む」

 

 そこでちょうどエレベーターが到着し、長谷部と別れることにする。

 

「じゃあねー」

「ああ。明日な」

 

 それだけ言い残し、長谷部はその場を立ち去る。俺もエレベーターに乗り込んでやり取りを終えた。

 

 とりあえず、是非とも赤点は回避してほしいものだ。




原作を読んでいる方なら、私がこの話をいれた目的が見え見えだと思います。
引き続き原作6巻分に入っていきますので、よろしくお願いします。

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