実力至上主義の学校に数人追加したらどうなるのか。※1年生編完結 作:2100
では、どうぞ。
ep.48
体育祭と中間テストを終え、着用が義務付けられたブレザーの存在がだんだんとありがたく感じ始める時期になった。
とはいえ、まだまだ寒さは本格的ではなく、今現在のように全校生徒が体育館に集まると空気がこもりがちになって心地が良くない。
そんな空気感の中、目の前の壇上では現生徒会から次期生徒会への引き継ぎ式が行われていた。
壇上の生徒会役員たちの中には、俺が知っている一之瀬の姿もある。
「現」会長である堀北兄からの簡素で義務的な挨拶を終え、次に「次期」生徒会長に既定路線で当選した南雲雅からの挨拶だ。
生徒会長が切り替わるのは厳密にいうといつなのかは知らないが、いちいち定義づけるのも面倒なので俺の脳内では次から変えることにします。
ポチッとな(切り替えるスイッチ)。
「現」生徒会長の南雲先輩が壇上に登り、挨拶を始める。
「改めまして、自己紹介をさせていただきます。この度、高度育成高等学校の生徒会長に就任することになりました、南雲雅です。これからどうぞよろしくお願いします」
そう言って頭を下げると、中規模の拍手が起こる。それは、特に2年生の方から大きく聞こえてきた。
頭を上げる。すると、纏っている雰囲気が一変した。
「早めではありますが、皆さんに私が掲げる公約を周知させていただきます」
先ほどまで見せていた控えめな姿勢ではなく、自らの公約を訴える姿には凄みがある。
その公約は、革新的なものだった。
会長を含めた全生徒会役員は、任期を在学中無期限とすること。
生徒会選挙制度と人数制限を撤廃し、いつ何時でも受け入れられる体制を作ること。勿論、除名の規約も作ること。
「ここで宣言させていただきます。私は生徒会長としての活動を通して……これまで生徒会が守ってきた、こうあるべきという学校の姿を壊していくつもりです。近々大革命を起こすと約束します。実力のある生徒はとことん上に。反対に、実力のない生徒はとことん下に。この学校を真の実力主義の学校に変えていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします」
力強い宣言に、体育館はしんと静まりかえる。しかし直後、やはり2年生の方から拍手喝采が巻き起こり、反対に3年生の方にはあまり元気がない。
上級生同士でも、色々とせめぎ合いがあったんだろう。
「現」会長の言う大革命が成功したら、綾小路には色々と生きづらい学校になるかもしれないな。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
10月中旬。
Dクラスの教室内には緊張の糸が張り詰めていた。
といっても、1学期中間テストのような世界が終わりそうな空気ではない。程よい緊張感。2学期の中間テストともなれば、Dクラス全体として成長したということだろう。
俺たちは、その2学期中間テストの結果の発表を待っていた。
「揃いもそろって真剣な顔つきだな。だが、赤点を取った者には覚悟を決めてもらうぞ。では、点数を発表する」
例によって、茶柱先生が黒板に全員の点数を貼り出す。
「全教科平均して40点以上がボーダーと思ってもらって結構だ。だが、この点数には体育祭での活躍で得た点数も加算されている。結果として満点を超えた者もいたが、100点として扱っている」
体育祭で点数が加算されたのは須藤や三宅など。逆に外村は、学年ワースト10の1人となってしまったので点数が引かれている。
ちなみに俺は全部ポイントを選んだ。個人競技では2位が3回、3位が1回だったので、合わせてちょうど1万ポイント。
点数が貼り出され、全員のテスト結果が白日のもとにさらされる。
「うわっ!まじかよ!」
貼り出される表は、点数の高い順に並んでいる。その一番下にあったのは、山内春樹の名前。その横にその点数。幸いなことに赤点のラインは上回っているものの、すれすれだ。
その上に池、井の頭、外村と続いていく。
恐らくこの教室のほとんどは、須藤が最下位だと踏んでいただろう。
しかし、須藤の名前が載っていたのは下から12番目。
「一気に自己記録更新!平均60までもあとすこしだぜ!」
「その点数で騒がない。今回は体育祭で稼いだ分もあるのだから。みっともないわよ」
「お、おう……」
騒ぐ須藤を一瞬で落ち着ける堀北。既に調教済みかよ。怖い。
堀北は休み返上で須藤に教えていたと聞く。その効果は抜群だったようだ。
ちなみに余談だが、三宅は16位、長谷部は17位と試験をクリア。苦手な文系科目でも、得点率は50パーセントほど取っていた。
「見ての通り、赤点による退学者はゼロだ。無難に乗り越えたな」
言いながら腕を組み、教室全体を見渡す茶柱先生。
「私が着任して過去3年間、この時期までにDクラスから退学者が出なかった年はなかった。よくやった」
普段茶柱先生が生徒を褒めるなんてことは滅多にない。その意外さから、数人の生徒はむず痒そうにしていた。
しかし同時に、茶柱先生(この学校の場合茶柱先生に限らずだが)はこれで終わる人ではないということを、わずか7ヶ月ほどの学校生活でいたいほど理解している。
案の定、何か話に続きがあるのか、教壇を降りて教室全体を歩き回る。そして平田の横で足を止めた。
「平田。この学校には慣れたか?」
「はい。設備には文句のつけようがありませんし、友達もたくさんできて、充実した学校生活が送れています」
「一度のミスで身を滅ぼすかもしれないリスクに不安は感じないか?」
「その都度、全員で乗り切っていくつもりです」
クラスの優等生、リーダーとして100点満点の回答だ。
茶柱先生は教壇に戻る。仕切り直し、とでも言いたげに、「さて」と言ってから連絡事項を告げ始める。
「お前たちも分かっていると思うが、来週、期末テストへ向けて8科目の問題が出される小テストを実施する」
「げ、中間終わったばっかりなのに!?」
勉強が不得意な池が頭を抱える。
「嘆きたくなるのもわかるが安心しろ。まず小テストは全100問の100点満点だが、その全てが中学レベルの問題だ。要は基礎の習得状況を確認する試験。0点だろうと100点だろうと取って構わない」
「おお!まじすか!」
安直な反応を示す山内に、「だが」と釘をさすように続けた。
「これが期末テストに大きく影響を及ぼすことも同時に伝えておく」
「影響?なんだよそれ。もっと分かりやすく言ってくれ」
須藤が言う。茶柱先生、いや、どちらかといえば学校全体のクセだろう。直接は言わず、遠回しな言い方で暗示し生徒にヒントを与える。
「お前に分かるよう説明できるといいんだがな須藤。まず前提として、その小テストの結果に基づいて、クラス内の誰かと2人1組のペアを組んでもらう」
「ペア、ですか?」
想定外の言葉に平田が疑問を呈する。
噛み砕くと、次のような内容だった。
・試験は8科目の各100点満点。
・ペア合計で、各科目60点以上取れていなければ赤点となり、ペアの2人は退学。
・ペア合計で、全科目合わせてボーダーを下回れば赤点となり、ペアの2人は退学。例年、ボーダーは700点前後。
・ペア決定の方法は、ペアの発表後に発表する。
「決定後って、最下位と一緒になったら最悪じゃねえか」
「うげ、健に屈辱受けた!絶対次挽回してやる!」
「無理すんなよ。口だけだろお前は」
山内と須藤のそんなやりとりが聞こえてくる。
須藤の動力源は堀北。そしてそれが結果に繋がっていることはさっき証明されたため、須藤の発言は説得力がある。
「そしてもう一つ。お前たちには違う側面からも試験に挑んでもらう」
「違う側面?」
「そうだ。次の期末テストは、通称ペーパーシャッフルとも呼ばれる。これは試験の問題をお前たち自身に作成してもらい、それを3つのクラスのどれかに割り当てるというものだ。問題は各科目50問の、8科目計400問。問題が割り当てられたクラスと、自クラスの総合点を比べ、勝ったクラスが負けたクラスから50ポイントを得る」
その後の説明で、問題を割り当てるクラスは、小テスト直前に指名すること。指名先が被った場合、くじ引きによって調節すること。直接対決の場合は100ポイント移動することなどが付け加えられた。
「てか、滅茶苦茶な引っ掛けとか出されたら無理っすよ俺ら!」
「そこは安心していい。提出する問題は学校で審査することになっている。学習指導要領を超えるなど、悪質な問題はその都度修正が指示されるだろう。それを繰り返すことによって、試験に公正さをもたらす。分かったか?」
「うーん……まあ、なんとか」
その説明を受けた瞬間、俺はノートにシャーペンを走らせ始めた。
「とはいえ、油断できないことはお前たちも理解しているだろう。このペーパーシャッフルでは、毎年1組か2組の退学者を出している。その殆どがDクラスだ。脅しではなく事実だ。以上が小テストと期末テストの説明となる。あとはお前たちで考えることだ」
そう言い残し、茶柱先生は教室を出た。
「作戦会議よ綾小路くん。平田くんたちを呼んできてもらえるかしら」
「了解」
ガタっという椅子の音で、綾小路が席を立ったのがわかる。
「あなたは……既に始めているようね」
「まあ、先に終わらせておいた方が修正もしやすいだろ。1ヶ月の猶予はあるが、悠長にしてる余裕はない」
俺のノートには今の5分で作り上げた2問の地理の問題が書かれていた。
期末試験の8科目は国語、数学、英語、化学、物理、現代社会、世界史、地理。問題作成班の負担は軽くない。
「そうね。中間テストの1位だもの。どうせあなたは問題作成に深く関わることになるわ。そのまま続けて」
「はいはい」
中間テストではきっちり見直し、全部満点を獲得することができた。まあ堀北もそれは同じだが。
学習指導要領を超えない範囲で、且つ出来るだけ難しく。
例えば数学なら、ややっこしい数字にして計算をかなり煩雑にさせれば点数は削れる。だが、露骨すぎると学校側によって恐らく訂正される。証明問題をずらりと並べれば3割解き切らずにタイムオーバーさせることもできそうだが、難解な証明は出題数が限定されるだろう。
だが、初めから妥協するのも得策ではない。だから早いうちから「超難問」と言われるくらいの問題を作成し、学校側に提出してどの程度なら許容されるのかを見極める必要がある。
特にクラス内に爆弾を抱えるDクラスでは。
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「遅いんですけど。今まで何やってたわけ」
「すぐに始めるわ。部活がある人もいるでしょうし」
「うわ無視。謝罪もないし」
小言を言う軽井沢。
作戦会議には、二学期最初にも集まった5人、綾小路、堀北、軽井沢、平田、俺に加え、櫛田と須藤が参加していた。
場所は、校舎隣接で生徒からも人気が高いカフェパレット。俺が一人で問題作成の続きをやっているうちに参加者から場所、時間までぜーんぶ決まり、「あ、これ俺いらないパターンかな?」と思って帰宅しようとしたところで堀北に止められた。
「それじゃあ、まずは来週の小テストのことから話しましょうか」
「あまり気にしなくていいんじゃないかな?立て続けの勉強はみんなの負担も大きいだろうし。成績には影響しないとも言ってたしね」
「小テストに関しては、私は無理に勉強させようとは思ってないわ。でも、単に点数を取ること以外に何か意味があるはずよ。茶柱先生の言っていた通り、小テストの結果が期末テストに影響を及ぼしてくる」
「ペアの決定には法則がある、ってことかな?」
小テストの結果に基づいて、と先生は言っていた。つまり、ペアの決定方法には何かしらの規則性がある。堀北はそう言いたいのだろう。
「点数が近い同士でペア、とか?」
「正解不正解が似てるとかもあんじゃね?」
話しについて行っている軽井沢と、若干ついていけずに綾小路に質問しながら険しい顔をしていた須藤が言う。
「どの可能性も否定できないわね」
ここまでの話に少し疑問を感じたのか、平田が堀北に言う。
「ちょっと気になることがあるんだけど、いいかな」
「何かしら。どんな意見でもあると助かるわ」
「法則性の存在がちょっと疑問なんだ。例年同じ試験をやってるなら、上級生に聞けば教えてくれそうだよね。わざわざ学校側が隠すことじゃないと思うんだ」
これまでやってきた特別試験で「上級生に聞く」というカードを切れなかったのは、舞台が無人島や船の上だったからだ。学校にいる今なら、聞くことも可能かもしれない。
櫛田もそれに同調するように頷いた。
「あなたはどう思うかしら」
突如として、堀北から話が振られてしまう。おかげで何か言わないといけない空気になってしまった。勘弁してくれよぉ……
「あー……なんというか、学校側は隠してるんじゃなくて、いう必要がないってことじゃないのか。毎年毎年全クラスが法則性を見抜いて試験受けてるとも考えづらい。なのに、例年退学者が1組か2組しかいないんだろ」
「え?それっておかしくない?」
俺の発言に軽井沢が反応を示した。
「話が見えてきたよ。つまり、法則性を見抜けなくても、大量の退学者が出るような深刻な影響は出ないようになっている、ってことかな」
「正解よ」
「だめだわかんねえ。どういうことだ?」
ついに須藤がギブアップ。俺に顔を向けて説明を求めてきた。
「もし法則性があるとして、それを見抜けなかったら普通どうなる?」
「そりゃ、やばいだろ」
「退学者はかなりの数になるだろうな。なのに、茶柱先生の説明によれば退学者は1組か2組だ」
「あ?おかしくねーかそれ」
「だから今、その話になってるんだ」
須藤にもご理解いただけたようだ。
「平田くんの言う通り、法則性を見抜けなくても深刻な影響は出ない。そう考えると……ペアの法則は、『高得点者と低得点者から順に組んでいく』。おそらくそれで間違いないわ」
この話し合いを持つ前から堀北はたどり着いていたであろう結論に、いまたどり着いた。そう考えると全ての辻褄が合うし、異論は出ない。
「なるほどね。でもそれって平均点くらいの人が一番危ないんじゃない?」
「そうね。でも、そこは正面から実力をつけてかかる他ないと思うわ」
平均点くらいが危ない、か……あ。
「ちょっといいか」
「何かしら」
「平均点くらいの成績で、得意不得意も被ってたらまずいんじゃないか」
名前を出すことは避けたが、三宅と長谷部。あの2人が組むのはちょっとまずい気もする。軽く笑えるレベルで傾向が似ているのだ。
「……そうね。その配慮も必要になるわ。全員のカバーはおそらく無理でしょうけど、できる限りその組み合わせは避ける。得意科目と不得意科目の確認、お願いできるかしら」
「分かったよ」
「任せて」
こういうのには平田と櫛田が向いている。多分大丈夫だろう。
……いまふたりの名前出さなかったことで、後悔しないといいんだけどな。
「それが確認できたら、私たちは次の段階に行くことができるわ。指名するクラスだけれど、狙うべきはCクラスよ」
俺の心配をよそに、話し合いは次のフェーズに移行していった。
「それには賛成だよ。でも、AもBも多分そこをついてくる。最悪のパターンになることも予想されるんじゃないかな」
AクラスとDクラスの直接対決にでもなったら、かなり厳しい戦いになるだろう。
「でも、やはり無理をする理由はないと思うわ。各クラスにどれほどの学力差があるかはわからないけれど、Cを指名して、くじ引きで争うことになっても他のクラスがCを叩いてくれることに期待しましょう」
まあ、堀北の言う案が堅実だろう。平田のいう可能性を危惧したとしても、それでBクラスを狙って冒険する理由にはならない。
そしておそらく、Aクラスと直接対決することにはならないと思う。
いまAクラスは坂柳の政権下にある。葛城派も潰れたわけじゃないだろうが、かなり弱体化しているだろう。この試験は坂柳が仕切ると考えると、まず間違いなくBクラスを指名してくるだろうからな。
「それにしても……随分と静かね須藤くん。こういうとき、あなたは大体口を挟んでくると思っていたけれど」
「俺が分かるレベルじゃねえし。うるさかったら邪魔だろ?」
須藤のそんな常識的な発言に、堀北は驚きを隠せない。
「んだよ、なんか変だったかよ」
「変じゃなかったから驚いているのよ……なんともいえない気分だわ」
確かにおとなしかったな、須藤。ただ、周りもその反応は結構ひどいと思うんだけど。まあいいか。今までの須藤を見ていれば、途中で話に変に介入して乱されると考えられてても文句は言えないだろう。
「まあ一つ言えんのは、いきなりAになれるわけでもねえし、目の前の相手を一個一個潰してくって考えたらわかりやすいぜ」
「なるほど、そういう面もあるかもしれないね。もし今回Cクラスに勝てれば、僕らは逆転できるかもしれないところまで来てるしね」
そう。現時点でCクラスは492ポイント、Dクラスは312ポイント。もしCクラスと直接対決になって勝利するか、Dクラスがどちらにも勝利し、Cクラスがどちらにも敗北した場合、DクラスはCクラスのポイントを逆転し、クラスが昇格するのだ。
「まじかよ!」
「うん」
「頑張らないとねっ」
もしかしたら平田は、この事実を言うのは終盤にしようと決めていたのかもしれないな。須藤はもちろん、みんなのモチベーションを上げるために。
全員で気合を入れ直し、その場は解散となった。
さて俺も帰るか、とカバンを持って席を立つ瞬間、堀北に声をかけられる。
「速野くん、あとで話があるわ。外で待っててもらえるかしら」
「話?何の?」
「その時に話すわ」
ここで話すつもりはないらしい。俺は首肯するほかなく、言われた通りに外のベンチに座って堀北の到着を待つ。
数分後、店のドアが開き、堀北が出てきた。
「歩きながら話すわ。寄り道はしないでしょう?」
「まあ。まっすぐ帰るつもりだったが」
なんか、入学したての頃にこれと同じようなことがあった気がするな。
少し懐かしいことを思い出していると、堀北が話題を切り出す。
「あなたにいくつか頼みたいことがあるの。その前に、いくつか聞いてもいいかしら?」
「なんだよ」
「あの時……いえ、体育祭であなたは何をしたの?」
……こいつと綾小路がさっきの話し合いに少し遅れてきたのは、その間にこのことを聞いてたのか。
「綾小路は何をしたって言ってたんだ?」
「彼は龍園くんの携帯に、Cクラスの話し合いの録音データを送りつけたそうよ。だとするともう一つの方……足に大怪我を負わせる映像データは、あなたが櫛田さんに送ったものと見ていいのよね?」
なるほど……あいつ「も」か。
「ああ。俺が送った。櫛田が裏切り者ってのは知ってたし、お前のあの転倒も変だとは思ってたからな。龍園にポイントやるのも癪だったし」
俺はポイントが龍園たちの手に移らないようにするために映像を送ったが、綾小路には違う狙いがあるんだろう。
「それで、なんだよ頼みごとって」
「……その前に、一つあなたに話すことがあるわ。これは頼みごとの代わりの情報提供だと思ってもらって構わない。櫛田さんの過去、私が知っていることを話すわ」
「……過去?」
ニュアンスから、この学校に入る以前のこと、ということは分かるが。
「……なんでお前が知ってるんだよ」
「私が櫛田さんと初めて会ったのは、あなたも乗っていたあのバスの中……ではなかったのよ。櫛田さんは私と同じ中学校にいた。非常に特殊な学校だったし、こことは場所も離れているから、同じ中学出身がいるなんて、彼女は考えもしていなかったでしょうね」
「つまりその時に、櫛田がお前を嫌うことになる原因ができたってことか」
「恐らくは、ね。知っていると言っても、私も噂でしか聞いていないことだから、ことの真相は櫛田さん本人にしか分からないわ」
この学校以前に櫛田と接触があったとは。予想外だ。
「私たちの学年が卒業を間近に控えた2月、あるクラスが集団で欠席するという出来事があったのよ。ある女子生徒がもとで、クラスが崩壊するほどの事件が起こった」
「それが櫛田だったのか?」
「恐らくね。けれど、具体的にどのような方法でそんな事態になったのかは分からない。しばらくはいろんな噂が飛び交ったわ。黒板や机は誹謗中傷の嵐だとか。にも関わらず少し時間が経ったら、誰もそのことを話さなくなったのよ」
「学校側の火消しか」
「そう考えた方が自然ね」
櫛田なら、中学の時でも今と同じようにみんなから絶大な信頼を得ていただろう。そんな生徒が学級崩壊の引き金なんて、学校側は隠蔽するに決まっている。
「あなたはどう思う?このことは綾小路くんにも共有したけれど、あの場では『嘘』と『暴力』を駆使して崩壊させた、という話になったわ」
櫛田がクラスを崩壊させた方法か……
「俺も同じような感じだ。ただ、嘘だけを使ったとも思えないな。嘘はいずれ露呈する。机に誹謗中傷が書かれるような事態になるまで、誰も異を唱えないのは不自然だろ」
「……確かにそうね」
覚えのないことであれば否定する。それに、嘘はつけばつくほどに危なっかしさが増す。ついた嘘が一つでも嘘であると見抜かれた場合、他のものに関しても嘘ではないかと疑念が生じる。そうなれば、攻撃力は大幅ダウンだ。
「だから、ついた嘘を信じ込ませる何かがあった、と考えられるんだが、それが何かはさっぱりだ」
1クラス分もの大人数を崩壊させようなんて、考えたことあるわけがない。
「やはりしっくりくる結論は出ないわね……」
はっきりさせたければ、櫛田に聞くしかない。だが現状、そんなことできるはずがない。
「体育祭直後のやり取りのとき、彼女は私にはっきり告げたわ。どんな手を使っても、私をこの学校から追い出すと。過去を知る人間は絶対に排除するとね」
「……つまり、俺はそこに巻き込まれちまったわけだな?」
「そうなるわね。でも、あなたに責任を負わせないよう努力する。もちろん綾小路くんにもね。これはあくまで私と彼女の問題だもの。きちんと向き合って対話し、片付けなければいけないわ。これからDクラスが上に上がっていくためにも」
対話、か。
さっきは須藤に驚いたが、堀北の口から対話なんて言葉が出るのも十分驚きに値する。こいつなりに考えることがあったんだろう。
「そうか。なら俺は櫛田とお前のやり取りには口を出さない」
「そうしてもらえると助かるわ」
その後堀北の頼みごとを聞いた。簡単に言えば、期末テストの問題づくりを手伝って欲しいとのこと。俺に情報提供した理由がわかった。大変になりそうだな。
その後寮のエレベーターで堀北と別れ、部屋に戻った俺は早速問題づくりの続きに取りかかった。
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櫛田がどんな方法でクラスを崩壊させたのかは知らない。
だが、いまの櫛田の目的は単純だと思う。
要は、自分の過去の汚点を知られないこと。それによって、この学校でも前と同じようにみんなから信頼される生徒を演じ、充実した学校生活を送ること。
なら、櫛田の裏切りを止めるにはどうしたらいいか。
答えは簡単。
クラスを裏切ることによっては、櫛田に平穏は訪れ得ないということを示せばいいのだ。
主人公が長谷部と三宅がペアになることを危惧しないのは変だと思い、一応指摘させましたが、綾小路グループは結成されます。それまでの過程でかなりのご都合主義があると思いますが、ご了承ください。
それから試験科目の8科目のうち、原作では物理と現社について記述がありませんが、これは作者が勝手に追加しました。
できる限り無駄を省いたつもりですが、どうですかね……?お楽しみいただけたら幸いです。
感想、評価お待ちしております。