実力至上主義の学校に数人追加したらどうなるのか。※1年生編完結 作:2100
では、どうぞ。
そして翌日。
Bクラスとの合同勉強会を終えた。
普通なら勉強会が終わればすぐに帰宅するところだが、今日は一つ予定が入っている。
堀北の言っていた話し合いだ。
参加者は堀北、平田、綾小路、軽井沢、須藤、櫛田、幸村、そこに俺を加えた合計8人。妥当な構成と言えるだろう。
Bクラスとの勉強会も結構続いたな。
やる気がありつつも落ち着いているBクラスの姿勢は、Dクラスの生徒にもある程度のカンフル剤の役割を果たしただろう。勉強会の2回に1回くらいは問題を作ってBクラスに共有したが、そこまで負担にはならなかった。
夜8時過ぎ、全員がカラオケルームに集まる。
集合場所は軽井沢の意向らしい。誰かの部屋でいい気もしたが、部屋の大きさを考慮してのことなんだろうと勝手に片付けている。
「ねえ歌っていい?」
「ちょっと待って。今日は遊びにきてるわけじゃないのよ」
「でもカラオケ来て歌わないって変じゃない?」
「あなたがどうしてもというからカラオケにしたのよ。今あるドリンクとフードで我慢して」
軽井沢はカラオケに入ってすぐ、堀北が止めるのをガン無視でドリンクとスナックの注文を勝手知ったる様子でパッと済ませていた。軽井沢と櫛田と平田あたりは行き慣れてるんだろうな。
「じゃあ話し合い終わったらデュエットしようよ洋介くん」
「そうだね。息抜きにはいいと思う」
「私も賛成かな。打ち合わせはしっかりしなきゃだけど、歌うの久しぶりだし」
まあ、話し合いが終わった後なら好きにすればいい。俺は速やかに退出させてもらうことにしよう。
「堀北」
「ええ。じゃあ始めるわよ。まずは勉強会の成果だけれど、上々と言っていいわ。全員がある程度対応できるようになっているはずよ。ここにいる須藤くんも以前に比べて格段に成長した。まだ中学1年生レベルだけれどね」
「こんだけやって中1かよ……」
「マシな方よ。この前まで円周率も知らなかったのよ?」
「え?さすがに馬鹿すぎでしょ!?」
これには軽井沢もびっくり仰天である。円周率は小学校でも繰り返し繰り返しやる算数の基本だと思うんだが。
「うるせえよ軽井沢。お前だって知らねえんじゃねえの」
「いやいや3.14くらい知ってるから」
「もうやめてくれ。お前らの学力は大体見えた。大丈夫なのか堀北」
レベルの低い会話を聞いていられなくなったのか、幸村が言う。
「大丈夫よ。基礎学力はこれだけれど、テスト範囲に関してはある程度答えてくれる。赤点は取らないわ。あなたこそ、長谷部さんたちの方は大丈夫なのかしら」
「問題ない。綾小路が保証してくれるはずだ」
「ああ。これ以上ないやり方だったと思う」
俺はその場にいることがほぼなかったので知らないが、カフェで一度見たときにはコミュニケーションはうまくいっていたように見える。
「問題作成の方はどうなのかな」
平田が俺の方を向いて聞いて来た。
「大体煮詰まってきた」
「ペースは問題ないわ。十分間に合うはずよ。質に関しても保証する。私たちでも8割は難しいくらいのレベルよ」
「そんなむずいのかよ。こりゃ退学者出るかもな!」
Cクラスには因縁のある須藤が少し嬉しそうに言う。少し釘を刺しておこう。
「Cクラスの退学者より、まずはDクラスが勝つことが優先だ。勉強はやめるなよ」
「わあってるっつーの」
堀北の教育の賜物か。素直だ。1学期とかと別人。
「テストに向けてバッチリみたいだね。クラスの誰かが欠けるなんて絶対嫌だから、皆で頑張ろうね」
「……あのさぁ」
櫛田の前向きな言葉に対する軽井沢の反応。俺含めて、恐らくここにいるほぼ全員が予想外の反応だっただろう。柔らかかった空気が一気に張り詰める。
「なんかさっきから綺麗事じゃない?櫛田さんは頭いいからいいかも知んないけどさ、テストのたびにギリギリなこっちのことも考えてよ」
「そんな……私はただ、全員が無事に合格してほしいって思ってるだけで……」
「冷静になってくれるかしら軽井沢さん。今はテストに向けての話し合いよ。無駄なことで時間を取らないで」
「堀北さんは黙っててよ。ねえ櫛田さん、ほんとはバカな私たちのこと心の中で笑ってるんじゃないの?」
「そんなことしないよ私っ」
「だったら簡単に大丈夫とか言わないでよ。赤点とったら責任取れるわけ?」
意味不明な軽井沢の逆ギレ。周囲もどう反応していいかわからない。
そんな中俺の視線は……さっきから同じ人物に注がれていた。
その時、ビシャっ、という音がした。
音の方を向くと、びしょ濡れになった櫛田と、ジュースが入っていた空のコップを持った軽井沢が目に入る。
リアルタイムで見てなくても状況はわかる。軽井沢がコップの中身をかけたんだろうが……あいつが何がしたいのか今はよく分からん。
「軽井沢さん!今のはダメだよ。やっていいことと悪いことがある」
珍しく平田が少し大きな声を出した。
「だ、だって……私が悪いわけ?」
「あなたが全面的に悪いわ軽井沢さん。櫛田さんにはどこにも非はなかった」
「私は平気だから、みんな軽井沢さんを責めないであげて、ね?」
非常事態に、全員少し落ち着きがなくなってくる。かくいう俺も少し困惑していた。
「どう考えてもお前が悪いだろ軽井沢」
幸村も軽井沢を責め立てるようにして口を開く。
「あっそ。そうよね、櫛田さん人気者だもんね。速野くんはどっちの味方なわけ?」
ついに矛先が俺に向いた。
どう答えるのが正解か、一瞬考えてから言った。
「ん、ああ、まあとりあえず謝ったらどうだ」
ひとまず常識的な受け答えを行う。
何がしたいかはよく分からないが、ひとまず謝っとくのがいいだろう。
「速野くんのいう通りだよ軽井沢さん。櫛田さんに謝るべきだ」
「悪くないと思ってるのに謝らなきゃいけないわけ?」
「まずは口にすることだよ」
彼氏である平田に言われ、無言で立ち尽くす軽井沢。
「……ごめん」
平田の説得に折れるようにして、軽井沢が謝罪した。
「ううん、大丈夫だよ。私ももうちょっと軽井沢さんを理解した上で発言するべきだったなって」
「なんか、ほんとにごめん。冷静じゃなかったかも」
今の一瞬で頭が冷えたのか、何回か櫛田に謝る。なんとかその場がおさまり、平田は安心した様子だった。
空気が変わると、また新しい疑問が浮かんでくる。
「そういえば櫛田さん、替えのブレザーはあるの?明日大丈夫?」
平田が汚れた櫛田のブレザーを見ながら心配そうに言う。
「実は前にブレザー一着ダメにしちゃってて、ないんだよね……」
「だったら近くのクリーニング屋に持ってけばいいんじゃねえか。俺も部活とかで汚した服はそこに持ってくぜ。今から持ってって、明日朝イチで取りにいきゃ間に合うだろ」
部活をやっている須藤ならではの経験だ。まあ、俺も入学当日に持って行ったことあるんだけどね。味噌汁がかかったブレザー。あの時まじでびっくりしたし、その藤野との付き合いが今も続いていることはもっとびっくりしている。
「その、お詫びってわけじゃないんだけど、クリーニング代は私に出させてくれない?」
「いいよそんな、気にしなくて」
「でも、全部私が悪いから、それくらいはさせて」
こうして落とし所がつき、この謎の一連の騒動は収束した。
もしあいつの狙いがそれなら……これはちょっといただけないな。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
テストまで残り3日を切り、今日は問題の最終提出日。
少し遅くまで残っていた俺は、誰もいないDクラスの教室を出て職員室に向かった。
今頃堀北と綾小路が問題の提出を行なっているだろう。その現場に行くのだ。
階段を降りる。その時、不気味な笑みを浮かべながら職員室の方から歩いてきた龍園とすれ違う。向こうも俺に気づいたらしく、目を向けてきた。
「職員室に行ってみろよ。面白えもんが見れるぜ」
「言われなくてもそうするところだ」
「クク、そりゃいい。楽しみだぜ、今回の試験はよぉ」
まともに相手をするだけ無駄なやつだ。それ以降、俺は龍園に目もくれず職員室に直行する。
教室を出て3分ほど経ち、到着。入口のドアの窓から中の様子を覗いてみる。大丈夫そうだ。
そう判断し、俺はドアを開けた。
「来たわね」
誰よりも早く、俺の来訪に堀北が反応した。
「時間通りだろ」
「6時30分00秒……イヤミなほどちょうどね」
先程堀北に6時30分に職員室に来いと言われたのだ。
「どういうことだ堀北」
まだ事態を飲み込めていない綾小路が驚いた様子で俺を見る。
「彼にも協力してもらっていたのよ」
その協力の内容を聞いた時には本当にびっくりした。
「まさか『どんな難易度でもいいから、初めの一週間で期末テストの問題全てを作れ』なんてな」
「……初めの一週間で?」
「最初にこいつが提出しに来た時は驚いたぞ」
こんなに早く問題を提出されたのは茶柱先生も初めてのことなんだろう。というかそもそも、クラス内に敵がいる状況が滅多にあることじゃないからな。
頼まれたのは、堀北が櫛田の話を俺にした時。その情報提供の交換条件がこれだ。初めは割りに合わないとは思ったが、有効な手ではあったので乗ることにした。
「もちろん、いくら彼でも初めの一週間で作った問題がCクラスに通用するものであるはずがない。そこで、わざと1問ありえない難易度の問題を入れるように言ったのよ」
堀北の作戦はこうだ。
最初に俺に全ての問題を適当に作らせ、提出。確実に審査に引っかかる問題があることで、完全な提出は完了しない。
その問題の審議中に誰が提出しに来ようと、そいつが出した問題は受理はされても審議には入らない。もし仮に俺が提出した問題の全てが審議をクリアした場合、問題の量が超過してしまうからだ。
問題の分量がどれだけであっても、審議が終了して結果が伝えられるのは提出から24時間後(休日を除く)らしい。
そして俺は毎日午後6時に問題を提出していた。もちろん、誰にも分からないように適当に理由をつけて校舎に戻って。
審議されていた問題の修正版と、新たな人物による問題の提出が同時にあった場合、前者が優先されるということを堀北は初日に先生に聞いていたらしい。毎日午後6時に提出し続けることで、誰かが問題を提出するタイミングを強制的になくしていたのだ。
そしてこの場合、その「誰か」とは言うまでもなく櫛田だ。
「本当は、他の誰かが提出して来ても保留にしてほしいといえばそれで良かったのだけれど……」
「私を信用できなかったのだろう」
茶柱先生が薄く笑って言う。
そういうことだ。要は確実な安心感が欲しかったのだ。制度上不可能であれば、校則でも変えない限りそれが可能になることはあり得ない。
最初はかなりきついことを予想していたが、適当でいいということで本当に適当に作ったので想定は下回った。数学の(1)に3+6とか。英語の(4)に「日本」を英語で書け、とか。そして理科の(12)に確実に審議に引っかかるであろう医師国家試験の最難問を突っ込んだり。問題作成というよりほぼ作業みたいなものだったので大変というより眠かったな。
「Dクラスの最終的な問題は、今私が持っているこれでいいんだな」
「そうです」
「櫛田が提出した分もあるが、審議にかけられないまま保留という形になるだろう。それで構わないな」
「はい」
というより、それが最高の形だ。
「お前らの狙い通り、ということだな。結果を楽しみにしておこうじゃないか」
「ええ。それでは、失礼します」
堀北がそういったのを合図に、俺たちは職員室をでる。
「黙っていてごめんなさい。騙すような形になってしまったわね」
「いや、それでいい。正直まったく気づいてなかった」
多分、綾小路の鼻をあかしたい、という気持ちも少しはあっただろう。今まで利用されてばっかりだったからな。
「それから、あなたにも。一つ黙っていることがあるのよ」
綾小路の次に、今度は俺に向けて謝って来た。
「そうなのか。ってことは、聞かせてくれるのか」
「あまりいい話ではないけれどね。櫛田さんと数学の点数で賭けをして、私が負けたら私と綾小路くんが自主退学。私が勝てば、これから私の邪魔をしないことを約束する。そんな話よ」
「……なるほどな」
なんであの日以降、堀北が目の色を変えて数学の勉強をしていたのか、その謎が解けた。
「……それ、勝算かなり低いだろ。大丈夫なのか」
龍園と繋がっている櫛田なら、模範解答を入手して満点を取ってくるに違いない。
「分からないわ。それでもやるしかない。ここで退学するわけにはいかないもの」
決心固いようだ。瞳には強い力が宿っている。
果たして、このままで大丈夫だろうか。
自身の退学もかかっている以上、綾小路が何もしないとは思えない。だが、それに期待してもいいのか。
「……現時点で、俺が一番安全圏にいるってことだな」
「そういうことになるわね。櫛田さんもあなたを警戒していないわけではないでしょうけど、危ない橋を渡る必要はない、ということでしょうね」
俺も賭けの対象に入れた場合、否が応でも俺に櫛田の秘密が知られることになる。俺が櫛田の秘密を知っている確証が本人にない以上、無駄な危険を冒すことはできない。
「……まあ、頑張ってくれ。できれば退学するなよ」
「ええ、もちろん。『絶対に』退学しないわ」
強気だなあ……ただ、やっぱり危険が高いことに間違いはない。
今ここでこの2人に退場されると後々不利になる。
……仕方ない、か。
「じゃあ、俺はちょっと用があるから先に帰る」
「ええ。さようなら」
「じゃあな」
「ああ」
俺は2人の元を離れ、誰もいないと思われる校舎内を放浪した。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「ふぅ……」
それから3日後のテスト当日。……といってももう終わったんだけどな。
全ての科目はつつがなく終了した。4時間目の数学の時間に、櫛田が「なんでっ……!」と声を漏らしてしまうハプニングが発生したりしたが、テストに全神経を集中させていた多くの生徒にとっては取るに足らない出来事だっただろう。
俺も大きなミスはなく、しっかりとテストを終えることができた。軽井沢がどれだけ点数を取ったかは知らないが、おそらく俺1人分の点数でもノルマはクリアできていると思う。
「速野くん、答え合わせを頼めるかしら」
「はいはい」
なんの科目かはいうまでもない。数学だ。
(1)から順に、互いの答えが合っているか確認していく。
難易度はかなり高かった。いつもの勉強量ならあまりいい点数は期待できなかっただろう。だが、問題を作成していく過程で俺が作ってみた問題とかなり似ている問題もいくつかあり、個人的にはそこまで解きにくい問題ではなかった。
そして最後の(50)。空間図形の応用問題。
「a=2、b=4、c=1で体積は29だ」
「……同じね。私とあなたが同じ間違いをしていない限り、満点と言っていいんでしょうね」
「そうだな」
それだけ言うと、堀北は櫛田の元に向かった。綾小路もついていくらしい。
満点なら、堀北の勝利だ。間違いない。
とりあえず、一山は超えたか。
「ねえ、速野くん」
一安心していると、目の前に軽井沢が現れた。
「なんだ」
「その、テストちょっと自信なくて……大丈夫かなって思って」
表情には、いつもと違って申し訳なさが現れている。こいつこんな顔もするんだな。あまり軽井沢のようなイケイケ現役女子高生タイプと話したことないから分からなかったが、いつももうちょっとチャラチャラしているイメージを持っていた(偏見)。
「自信ないってどれくらいの点数だと思うんだ」
「全科目30点はあると思うけど……半分取れてるか分かんない」
「なら大丈夫だ。俺の方は全部80点以上は取れてるはずだ」
それを告げると、軽井沢の表情に安心感が宿る。
「あ、そうなの?よかったー」
と、同時にいつもの軽い感じも戻ってきた。名前の通り軽井沢ですね。ははは。
「あっ、別に速野くんの学力を疑ってたわけじゃなくってー」
「別に気にしてない。不安になるのはもっともだ」
そう返すと、軽井沢はありがとねー、バイバーイと言ってその場を離れ、いつもつるんでいる友人の元に向かっていった。
試験は明日も残っている。今日もまた帰って勉強だな。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
テスト終了から2日後。
クラス内は緊張に包まれていた。
「では、2学期期末テスト、ペーパーシャッフルの結果を発表する」
これまでも、テスト結果発表のときは緊張感が走っていた。しかし、今日のは段違いに強い。
理由は簡単。この結果次第では、Dクラスはついにクラスが昇格するかもしれないのだ。
茶柱先生がゆっくりと結果を張り出す。
1枚目の紙には、個人の成績とペア合計の成績。
そして2枚目に、各クラスの平均点が書かれてある。
Aクラス……70.39
Bクラス……69.75
Cクラス……46.91
Dクラス……61.27
「と、いうわけだ。よく試験を乗り越えたな」
「「「「「うおおおおおおおおーーー!!!」」」」」
平均点は15点離れている。文句なくDクラスの勝利だ。
「お前すげえぜ速野!平均46なんて、Cからは退学者出たんじゃねえか!?」
今まで散々Cクラスにコケにされてきた須藤がテンションを上げて俺に言ってくる。
「お前にとっては残念かもしれないがな須藤、今回の試験で退学者は出ていない。だが、Cクラスには明らかな勉強不足が見られた」
それゆえのこの平均点、ということだろう。
正直、2組くらい退学者出るかと思ってたが、学校側に修正受けたのが大きかったかもな。
「それにしても……今回はAクラスがかなり危なかったわね。いつもの平均点を知っているわけではないけれど……いつもここまでギリギリなのかしら」
「Bクラスの調子が良かったんじゃないか。合同勉強会、案外効いたのかもな」
「そうね……」
堀北はまだ少しストンと落ちていないようだ。
「にしてもあなたは……本当にペーパーテストが得意なのね」
堀北は黒板に貼られている成績一覧を見ながら少し呆れ気味に言った。
「褒められてると捉えていいのか」
「少なくとも貶してはいないわね。数学で同点だった以外は全て負けているもの」
俺は必死の勉強の末に数学で満点、それ以外の科目でも全て98点以上を獲得するという高得点を出していた。堀北も点数的にはほとんど変わりはないが、2、3点俺に出遅れている。総合点では10点ほどの差がつくという結果に落ち着いた。
「まあ、取り敢えずは良かったな。退学することはなくなって」
「……そうね」
まずはあまり余計なことは考えず、その事実を素直に喜んでおくべきだろう。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
その夜。夕飯も食い終わり、そろそろ歯磨いて寝るか、というところで、携帯に短い通知が鳴る。
そしてその直後、今度は電話が鳴った。
充電していた端末を取り、相手を確認する。
予想通り、「藤野麗那」と表示されていた。
「もしもし」
『ごめんねこんな時間に。今大丈夫?』
「ああ」
『10000ポイント、入れておいたよ』
「確認した」
電話を取る直前に、しっかりとこの目で見た。
『今回もありがとね』
「別に俺はいいんだが……かなり危ない橋渡ったな」
『まあ、ちょっとね』
今回のAクラスとBクラスの平均点が異様に縮まっていた秘密は、藤野の暗躍にあった。
「クラスの反応はどうだった」
『あまり表立った不満は感じなかったけど、坂柳さんになってもこんなにギリギリなのかな?っていう不信感には繋がったと思うよ』
「期待通りではある、ってことか」
『うん』
この期末テストが始まると同時に、俺は藤野にこんなことを頼まれていた。
「Bクラスと合同勉強会を開いて、問題集にあるような少し高い難易度の作ってBクラスに共有して欲しい」と。
なぜこんなことを頼んだか。
期末テストへ向けての勉強も佳境を迎えていた頃のこと。藤野から一通のメールが届いた。
そこには、「次の勉強会の時にこの問題も一緒に共有して欲しい」という文章と、かなりの高難易度の数学の問題がファイルとして添付されていた。
恐らくこれは、Aクラス側が作った問題のうち、1番目か2番目に難易度の高い問題だろう。解いてみたが、正解にたどり着くまでに結構時間がかかった。
この問題のBクラスの正解率はかなり低くなると思われる。逆に言えば、Bクラスがこれを正解すると、それはクラスの平均点にかなり大きく影響する。
藤野は過去のすべてのテストのクラス別平均点を調べ、2、3点なら大丈夫だという判断のもと、俺にその問題を共有させたのだろう。
あの時の藤野の「順調?」という言葉には、問題づくりや俺の勉強の進捗状況だけではなく、「Bクラスとの合同勉強会は順調か」という意味も含まれていたのだ。
『万が一負けても、今はクラスが変わることはないから。負けた方が影響は大きかったと思うけど、ギリギリだったらどっちでもよかったかな』
藤野の目的はクラスの統一。現状は坂柳派を崩壊させることだ。もしそれが出来たなら、藤野の目標達成も近づくだろう。
そのためには藤野のこの活動がバレていないことが前提だが……
「……バレてはいないのか。坂柳はキレ者だと聞くが」
『バレてはない、と思う。ただ、今回の結果を受けて坂柳さんがどう動くかはちょっと予想つかないかな』
「……取り敢えず、バレないようにしろよ。明るみに出たら元も子もないからな」
『うん。ありがと』
ここで話題は片付いた。俺は電話越しの藤野にじゃあな、と言って、通話を終了。後にはツー、ツーという電子音が流れた。
こっちもひと段落ついたか。
あとは……
ひとまず原作6巻分は終了。引き続き7巻分も執筆して公開いたしますので、よろしくお願いします。ただ、7巻分というよりは6巻の続きと捉えていただいた方が分かりやすいかと思われます。お楽しみに。
感想、評価お待ちしております。