実力至上主義の学校に数人追加したらどうなるのか。※1年生編完結   作:2100

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種明かしパート2です。今回が原作7巻分の最終話になります。
では、どうぞ。


ep.56

 12月下旬、某日。

 俺はいま、ある人物と待ち合わせをしている。

 現在地は、寮を通り過ぎたところにあるバスケットコート。1学期、俺が始めて佐倉と話した場所だ。

 少し懐かしいな。確かあのとき佐倉はアイドルとして自撮りをしていて、俺に見つかったことに焦って逃げようとして電柱に追突したんだっけ。そんな佐倉も、今では綾小路や長谷部たちのグループで一緒に行動していると聞いた。子供の巣立ちを見守る親鳥の心境ってこんな感じだろうな。いや違うか。

 

「うー、さむ……」

 

 そんなどうでもいいことを考えて寒さを紛らわせようとしたが失敗だ。カイロを両手で持ってなんとか暖をとる。

 もう完全に真冬だ。それに夜ともなればさらに温度が下がる。間違いなく気温は一桁だ。唯一の救いは風があまり強くないことか。

 初雪はまだ観測されていないが、近々降るだろう、と天気のお姉さんは言っていた。ここ最近は、雪が降らない所謂グリーンクリスマスが続いていたが、ホワイトクリスマスも期待できるかもしれない。といっても中学の頃、俺にとって雪に関するいい思い出はなかったが。今年は綺麗な雪景色を素直に綺麗だと思たらいいなと考えている。

 俺がここにきて5分ほど経過したころだろうか。外灯に照らされ、こちらに向かって歩いてくる人影が見える。

 この距離ではまだ誰かお互いに判別することはできないが、だいたい誰かというのは見当がつく。

 

「……速野くん?なんでこんなところにいるの?」

 

 本当に疑問に思っているような表情で、首を傾げて問いかけてくるその少女。

 

「実は人を待っててな」

「へえ、そっか」

 

 いつもの笑顔で、俺の目の前に佇んでいた。

 その少女は、俺の隣に立ったところで立ち止まる。

 

「私もここで待ち合わせなんだよね」

「……そうなのか」

 

 それはまた、面白いことも起こるもんだな。同じ時刻、同じ場所で待ち合わせなんて。

 まあ、ちょうどいい。始めるか。

 

「なあ、一つ相談していいか?」

 

 隣に立つ少女に、そんなことを問いかける。

 

「相談?うん、いいよ」

 

 承諾されたので、俺は早速話し始めた。

 

「実はいま、ちょっと厄介なことがクラスで起こっててな」

「え、どんな厄介ごとかな。ちょっと知らないかも」

「まあ、それでも不思議はない」

 

 その厄介ごとはほんの僅かな人間しか知らない。

 

「体育祭、覚えてるよな」

「もちろんだよ。負けちゃったけど、あの時からクラス一丸で、って感じになったよね」

「そうだったな」

 

 あそこがDクラスの一つのターニングポイントだ。堀北が一皮向け、須藤に心境の変化があった。現時点でクラスに必要不可欠であろう2人の成長は、Dクラスに確実に影響を及ぼしている。

 

「あの時、妙に堀北がCクラスから狙われてたの、分かったよな?」

「うん。少し可哀想だとは思ったけど……でも、堀北さんすごく優秀だから、マークされちゃっても仕方ないのかも」

「でも、変だろ。騎馬戦で集中攻撃食らうのはともかくとして、ランダムのはずの徒競走で、あいつは全部の出番でCクラスの陸上部2人とかち合った」

「運がなかった、ってことじゃない?本当にランダムだったんだし」

 

 普通ならそう思うだろうな。だが……

 

「俺もそう思ってたけどな。どうもそうじゃないって話があるんだ」

「どういうことかな?」

 

 そう聞き返された瞬間、俺は一拍おいて間を整える。

 ここからが本丸だ。

 

「どうも、Dクラスの参加表がCクラスに流れてた、って話がある」

「……」

「そして、それを流したのが……」

 

 目線を外さず、むしろより強めて、俺はその先の言葉を口にした。

 

「櫛田、お前らしい、っていう話があるんだよ」

 

 核心の一言を告げても、櫛田の表情はあまり変わらない。

 だが、しっかりと見ていればわかる。ほんの僅かだが、櫛田の纏う雰囲気が強張った。

 

「……やだな。どこから聞いたの?」

「ああ、別にどこからってわけじゃないんだがな」

 

 小宮というツールを使ったにせよ、櫛田が裏切り者であるという真実を掴んだのは俺自身だ。

 

「だから、今日はその真偽を確かめようと思ってここにお前を呼んだんだ」

 

 櫛田がここを通りかかったのは偶然じゃない。俺が呼び出した。いや、正確には櫛田が来ざるを得ないようにした。

 

「……じゃあ、あのメールって速野くんが送ったんだね」

「そうだ」

 

 櫛田にメールを送る際、俺は体育祭の時に櫛田に龍園の暴力の映像を送ったときに使ったのと同じ匿名のフリーアドレスを使った。

 わざわざいらぬ情報を交渉相手に与える必要はないからな。

 

「どこでこんな映像を手に入れたかは分からないけど、あれ、なんの映像なの?私覚えがなくって」

 

 言い逃れができないように証拠映像も添付して送ったんだが、あくまでもシラを切るつもりか。案外肝が据わってるな。

 まあ、いいだろう。どうせ結末は変わらない。

 

「本当に覚えがないか?」

「うん。ちょっと分からない」

「そうか……俺にはこれが、ペーパーシャッフルに使用する問題をお前が勝手に提出しようとしてる場面にしか見えないんだけどな」

 

 送りつけたメールに添付されている映像を流しながら、徐々に徐々に、真実に迫っていく。

 

「違うよ。多分、先生に勉強の質問しに行った時じゃないかなあ」

 

 映像の再生が終了した瞬間、思い出すようにして櫛田が言った。

 

「覚えがなかったんじゃないのか?」

「そうだけど、私が職員室に行くんだとしたらそれくらいしか理由が思いつかなくって」

「ふーん……」

 

 なるほど確かに。それでも説明はつく。

 櫛田が裏切っているという事前情報の色眼鏡を外してみれば、櫛田の言うように勉強の質問に行っているようにも見えなくはない。それに、Dクラスのほとんどは、俺の主張よりも櫛田の主張の方を信用する。櫛田の言うことは辻褄が合っているし、俺より櫛田が得ている信頼の方が莫大だからだ。つまりこれは証拠映像、及び櫛田をおびき出す釣り針にはなっても、しっかりとした「材料」にはならない。

 

「なるほど。……自分で認めて欲しいってのはあったんだけどな」

「認めるも何も、私は何もしてないよ?」

 

 いつもの櫛田だ。そう言う顔をされると信じてやりたくなる、こいつが裏切っているなんて信じたくない、そう思う人間が何人いることか。

 だが、俺はさらに強く踏み込む。

 

「……本当か?」

 

 再度、疑いの目を向けて櫛田に確認を取る。

 

「うん。私、Dクラス好きだから。裏切るなんてできないよ」

 

 あくまでもいつもの笑顔でそう答える。

 ならば、と、俺はさらに踏み込んで行くことにした。

 

「そうか……つまり、これ以上は何も出て来ないんだな?」

 

 そう言うと、再び櫛田の雰囲気が僅かに強張るのがわかった。

 

「……どういうこと、かな?」

「お前が裏切ったと思わせるようは証言やら証拠やらは、もう出て来ないんだな?」

「それは分かんないよ。他のクラスの人が混乱させるためにそんなことをいい出しちゃう、なんてこともあるかもしれないし。でも私は本当に裏切るなんてことはしてないよ。それを言い続けるだけだから。信じて、くれないかな?」

 

 一歩詰め寄った櫛田は、懇願するような目で俺の顔を見つめてきた。

 表情を変えずに、俺も櫛田の顔を見返す。

 可愛い。

 完璧な笑顔だ。

 素直にそう思う。

 

 そして何より……薄ら寒い。

 

「なら、これも頑張って否定してくれ」

 

 俺は端末を取り出して操作し、「あるもの」を再生した。

 少しくぐもってはいるが、聞き取れるには十分な解像度だ。

 

『先生。期末テストの問題を提出しに来ました』

 

 端末から流れてくる流れてくるひとりの少女の声。

 

『わかった。受理しておこう』

『それから先生、一つお願いがあります』

『なんだ櫛田』

『この問題文と解答は絶対に漏らさないでください。それから、私以外の誰が提出しに来ても、受け取るだけで保留にしてくれませんか』

『どういう意図だ櫛田』

『問題文をすり替えようとす「もういい。やめて」

 

 まだ再生の途中ではあるが、櫛田の声に応じて停止する。

 

「……最初から私が裏切り者だって証拠を持ってたんだね」

 

 こういった流れで展開していけば、逃げ道が狭まると考えた。

 事実、ここまでのやり取りの中で櫛田は自らで自らの首を絞め、もう言い逃れできないところに来てしまった。

 もっとも、弁明なんてつもりもないみたいだけどな。櫛田の様子を見ていればわかる。

 学校では見せない、異様な雰囲気。普段はくりくりとしている目は釣り上がり、怒気とも怨恨とも取れない、黒々しい、禍々しいオーラを纏った櫛田がそこにはいた。

 なるほど……これが「裏切り者」の櫛田か。初顔合わせだ。

 

「もう隠す気は無いようだな」

「馬鹿にしないで」

 

 人っていうのはこんなに豹変するものだったんだな。改めて目の当たりにすると少し驚いたが、努めて冷静に会話を進める。

 

「それで……何これ。どうやってこんなもの手に入れたの?監視カメラの映像にその録音なんて」

 

 一瞬、こいつに答えを伝えてもいいかを考える。

 ……まあ、問題ないだろう。すでに終わったモノだ。

 

「これは学校の監視カメラの映像じゃない」

 

 真実を告げるが、櫛田は呆然としている。

 

「……は?どういうこと?」

「俺が後から付けたものだ」

 

 学校のルールに触れるようなことでもなければ、学校側が一個人である俺に監視カメラの映像なんて提供するわけがない。

 

 体育祭の前、茶柱先生と接触した時。

 俺はある頼みごとをした。

 一つは、体育祭で成果が出なくても綾小路の身は保証すること。

 そしてもう一つ。

 茶柱先生に他言無用だとして頼んだこと。

 

「茶柱先生に頼んで、体育祭の話し合いが本格的に始まる前に教室に1台、監視カメラを設置する許可をもらった」

「……」

「殆どのやつは気づいてなかったみたいだけどな」

 

 俺が知っている中で、監視カメラが一台増えていることに気づいていたのは綾小路だけだ。

 あの時、天井を見て違和感を覚えていたのは俺の設置したカメラが原因だろう。

 

「そしたら面白いものが撮れた。午後8時、誰もいない教室に保管されてあったDクラスの参加表を写真に撮ってるお前の姿が」

 

 もちろん、その映像もいまこの端末の中にデータとして残っている。

 

「茶柱先生は、平田が全員に参加表を写真に撮らないよう指示したのを聞いている。それを破って、しかも夜8時に一人で参加表の写真を撮りにいくなんて、裏切ろうとしている人間以外に考えられない。撮れた映像を茶柱先生に見せてお前が裏切り者であることを確認させた上で、今度はペーパーシャッフルの前に、職員室の茶柱先生のデスクだけが映るようにカメラを設置することと、櫛田と先生が接触している際に会話を録音し、その音声の提供を約束してもらった」

 

 茶柱先生が上位クラスに上がることを心の中で熱望している以上、クラス内の裏切り者の問題は解決してもらいたいはず。そのため、俺の頼みは断らないという確信があった。

 

「それがこの映像と音声……ってことだね」

「そうだ」

 

 つまり正確に言えば、初めから櫛田に逃げ道なんてなかった。俺にとってここでのやり取りの肝は他にある。

 

「期末テストで私に点数をわざと下げるよう言ってきたのもあんたってこと?」

 

 櫛田が口にしたのは、綾小路が行なっていた櫛田退学計画につながるものだった。

 

「……半分はそうだ。だが、残りの半分に関しては俺じゃない」

「……どういう意味?」

 

 やはり、櫛田は「あれ」を全て俺がやったことだと思っていたらしい。

 

 事の発端は、期末テスト本番前、カラオケでテストに向けての話し合いが行われていた際に軽井沢が取った不可解な行動だ。

 妙な言いがかりの上に、軽井沢が突然ジュースを櫛田にぶっかけたのだ。

 その後、平田や周りの参加者の説得や、軽井沢が結局素直に謝ったこともあり丸く収まったが……全員に違和感を与えたに違いない。

 しかも、あの時点ですでに綾小路と軽井沢が繋がっているかもしれないことを疑っていた俺からすれば、あの出来事は綾小路の差し金だと思わずにはいられない。

 軽井沢があんなことをしても、櫛田は軽井沢のことを責めたりはしないだろう。そして平田は軽井沢にしっかりと謝らせた後、櫛田の心配をする。その流れで、櫛田の「ブレザーの枚数」を尋ねるのは自然なことだ。ここまでは全て予想できる範囲だ。

 ブレザーの枚数が1枚だと分かれば、あとは簡単なことだ。体育の時間などに櫛田のブレザーにカンニングの材料を仕込むだけでいい。その可能性に気づいて、ある日の放課後に櫛田の机の周りをくまなく探したら、案の定、カンニングの材料と思しきものが複数仕込まれていた。

 

「俺はこの出来事の背景にいるもう1人の作戦を利用して、お前に点数を下げさせただけだ。もっとも、問題が変わっていたようだから意味はなかったが」

「もう1人……?」

「お前の身の回りにカンニングの材料を仕込んだのは俺じゃない」

 

 俺はそれを利用させてもらっただけ。

 俺はカンニングの材料の証拠写真をエサに、櫛田にこの写真を学校側に提出してカンニング疑惑を争うか、数学のテストでわざと3問間違えるかの二択を迫った。

 櫛田は間違いなくCクラスから模範解答をもらっていたはず。その確認が取れれば余計に疑惑は深まる。尚且つ、カンニングは厳罰に処される。つまり退学を宣告される可能性だって低くはないということだ。

 それらを加味すれば、櫛田に選択肢は残されていない。

 俺の予想した通り、櫛田はわざと間違える方を選んだ。

 堀北が満点だったのを見て同点の可能性を考えずに堀北の完全勝利を確信できたのは、櫛田が確実に数問間違えることを事前に知っていたからだ。

 

「これがどういうことか分かるか」

 

 櫛田にここまでの状況を整理させる。

 

「……どういう意味」

「お前が堀北を追い出したがってるのと同じように、お前を本気で退学させようとしてる奴がいるってことだ」

 

 つまり綾小路だ。

 だがそれは言わない。櫛田には常に退学の危険にさらされていてもらう必要がある。

 

「今回は俺が偶然見つけたからいいが、もし誰も気づけなかったら、お前は本当に退学処分になっていたかもしれない」

「……何が言いたいの」

「この状況を放置してたらお前がこの学校に居られる時間はそう長くはないだろうな」

 

 目の前に突きつけられる、「退学」の可能性。

 

「だから何が言いたいわけ!」

 

 俺の言い回しにイライラしたのか、櫛田が珍しく激昂する。

 そろそろ告げてもいいだろう。

 

「俺はお前を退学させる気は無い」

 

 ここに櫛田を呼び出した目的の核心的な一言を、俺は口にした。

 

「……はあ?」

 

 だが、櫛田はイマイチ呑み込めていないようだ。

 

「お前はDクラスから失うに惜しい。もっと役に立ってもらう」

「何その上から目線」

 

 心底嫌そうな顔で俺を睨みつける櫛田。

 

「クラスの一員として、邪魔されるより役に立ってもらいたいと思うのは当然だろ。……まあ、俺が言いたいのはそういうことじゃ無い」

 

 クラスの役に立ってもらいたいのは本心だ。

 逆に言えば、それ以外には全く興味がない。

 

「お前が堀北を追い出したいなら、好きにすればいい。クラスのマイナスにならない限りでお前が何をしても、俺は干渉したりしない」

「……意味、わかんないんだけど」

「そのままの意味だ。俺は堀北の安否には微塵も興味がない。堀北の追い出しに関しては協力もしないが邪魔もしない」

 

 少し驚いただろうか。恐らく堀北を退学させることを諦めろ、的なことを言われると予想していたんだろう。

 だが堀北も言っていた通り、これは堀北と櫛田の2人の問題であって、俺の関知するところではない。

 

「……結局あんたは何が目的なわけ?さっさと言ったらどうなの?」

 

 苛立ちを募らせる櫛田。やはり勘は良いらしいな。俺が櫛田をこんな場所に呼び出し、このような話をしている目的。恐らくそれを分かった上で俺に聞いている。

 

「話が早いな」

 

 話の展開や組み立て方は、全部思い通りに行った。

 今ならもう言っても大丈夫だ。

 

「俺はお前を退学させようとしてる奴からお前の安全を保障する。その代わりにお前は俺に協力してもらう」

 

 先生に頼んで教室にカメラを仕掛けたこと、退学させようとしている綾小路からこいつを守ったこと。全ては「櫛田」という強力な手札を手に入れるためだった。

 

「……どうせ拒否権なんてないんでしょ」

「俺が言うのも変だが、お前にとっても悪い話じゃないと思うけどな」

「ふざけないで!……あんたみたいなのに利用されるなんて、嫌に決まってるでしょ」

 

 まあ……心中は察する。俺が櫛田の立場でも、俺みたいな根暗な奴にマウント取られるのは耐え難いだろうな。

 だが、それは俺の目的を取り下げる理由にはならない。

 

「あんたみたいなの、本当大っ嫌い」

「そうか……。別に好かれたいとは思ってない」

 

 俺が構築しようとしている櫛田との関係は、一方的な利用する、されるの関係。好印象を抱かれることがプラスなのは間違いないが、たとえ嫌悪感を持たれていても特に影響はない。

 藤野との協力関係とは全く別物。そこに「信頼」なんて言葉は存在せず、嫌悪感と不信感がドロドロと渦巻き、それを無理やり押さえつけて利用し、利用される禍々しい関係だ。

 

「それに、お前が俺を嫌悪してたのは、実はもっと前からだったんじゃないか」

「……どういうこと」

「いや、違うなら違うでいいんだけどな。……具体的には、1学期の最初にあったプール授業、お前はあの時すでに俺のことを気に入らない存在として認識してたんじゃないか」

「……」

 

 ……反応を見る限り、図星か。ようやくストンと落ちた。

 ずっと納得がいっていなかったのだ。

 俺と櫛田が誤ってプールに落ちた時、俺の腕を掴んでいた櫛田の右手が俺の左手と絡み合うなんて偶然が、果たして起こり得るのか。

 

「プール授業があったあの時点で、Dクラスの男子のほとんどは既にお前のミーハーみたいな感じだったからな。お前にプラスの感情を抱いていない者はほぼいなかった。ただし例外がいて、その例外が高円寺、綾小路、俺だった。そしてこの中では一番チョロそうな俺から落とそうとした、ってとこか」

 

 常識で言えば「自意識過剰だし。キモい」と言われて終わりだろう。

 しかしこいつの裏の性格を知った以上、そう推測したくもなる。

 こいつはあまりにも表裏のギャップが激しすぎる。恐らく池や山内なんかにも好印象なんて微塵も抱いていないんだろう。だが、好印象を抱いているかのように見せかけることで全員と仲良くできる。俺には到底到達できないほどのコミュニケーション力。だがその反動として、心には血反吐を吐くようなストレスがかかってくることだろう。

 やはり、櫛田は単純に凄い。語彙が乏しくて申し訳ないが、素直に凄い、とそう思った。

 改めて櫛田の方に向きなおると、櫛田が俺に聞いてくる。

 

「……で、私を利用して何がしたいの」

「今はなんとも言えない。だが俺たちは3学期からCクラスに上がる。必然的に課題は見えてくるはずだ」

 

 今度は追うだけでなく、追われる立場でもあるわけだ。今までとは違った戦い方も要求されるだろう。

 Cクラスの新たな牽引役として誰が担当するかは分からないが、油断はできない。

 

 必要に応じて櫛田を使い、有利な方向に持っていく。

 

 

 クラスは勿論、何よりも俺自身の利益になるように。




はい、7巻分終了です。主人公が櫛田を手に入れました。

7.5巻分はまさか佐藤とのエピソードを書くわけにも行きませんので、また違ったエピソードを考えようと思ってます。
また、7.5巻分の執筆が終わった後、原作の新刊が出るまでの間はオリジナルエピソードを数話書く予定ですが、それと同時に今までの話の文章の大幅添削をしようと考えています。
何かアドバイスがあれば遠慮なくコメントや活動報告にお書きください。お待ちしてます。
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