実力至上主義の学校に数人追加したらどうなるのか。※1年生編完結   作:2100

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最近いい題名が思いつかないので、話数だけ残して題名つけるのやめようと思います。それに伴って過去の話の題名も消えると思いますがお気になさらず。
では、どうぞ。


第7.5巻
ep.57


 世間、もとい、高度育成高等学校の敷地内もクリスマスカラーに染まってきた。

 先々週くらいからだろうか。夜にベランダから外を眺めると、ライトアップされた景色が目に入るようになってきた。普通に綺麗なので少しの間眺めるのだが、数分後には寒くなって毛布にくるまっている。

 こう言った景色を見ると、「今年もクリスマスかー。もうすぐ今年も終わりだな」とか思ったりする。クリスマスツリーやライトアップは、そういった一種のシンボル的な役割も果たしているのかもしれない。

 ところで、クリスマスの元々の意味を知っているだろうか。

 まあ知らない人はあまりいないだろう。クリスマスという行事はキリスト教の開祖、つまりイエスキリストの生誕祭である。

 と言ってもキリシタンを除く日本人の中に、イエスキリストの生誕を本気で祝っている奴なんてほぼいない。学生ともなると、みんな友達と過ごしたり、恋人と過ごしたり、ぼっちで過ごしたりするわけである。

 ただ、ここで言及しておきたいのはクリスマスというイベントが持つ本来的な意味に立ち返るべきだとかそうでないとか、そういう話ではない。

 実はイエスキリストが誕生した日はクリスマス当日の12月25日でもなければ、その前日のクリスマスイブである24日でもない。つまり重要なのは、産まれた日と生誕を祝う日は別である、ということだ。キリストの誕生日は不明ということになっているらしいが、どちらにせよ、生誕を誕生日当日に祝うことに固執する必要はないと思う。

 キリスト教に関連して、宗教改革の先駆けとなったルターは、信仰義認説という概念を唱えている。信仰義認説とは、キリスト者が神の御加護を賜れるかどうかは戒律を守っているかではなく、その人自身の神への信仰心の強さに左右されるという考え方だ。

 俺は神さまを信じたりなどしてはいないが、重要なのはそこではない。

 ルターの信仰義認説は、生誕祝いの例に置き換えることができる。重要なのは誕生日当日におめでとうを言うことでも、プレゼントを渡すことでもなく、その人に対してどれだけ祝福の気持ちを持っているかだ。

 

 どことなく浮ついた雰囲気というのは、外に出かけていても感じられる。

 はいそこ、「お前外でんのかよ」とか思った奴……いや、そ、その通りなんだけど傷つくからやめて。

 それに今日は少し特殊な事情もある。直接出かけるのがいいと思ったわけですよ。

 

 店内のどこにいても、有名な「ジングルベル〜♪」のミュージックが耳に入ってくる。たまにJ-POPのクリスマスソングらしきものも聞こえてくるが、普段聴かないのでのでよく分からない。

 以前買ったイヤホンはほとんど英語のリスニング練習にしか使ってないしな……たまーに聞く音楽は変な曲ばっかだし。一般の高校生の間では有名どころであろう曲に関する知識はゼロに等しい。

 別に音楽に興味がないわけではない。ただ単純に新しいジャンルに手を出していないから知識が増えないというだけのことだ。

 

 周りを見渡しながら、店内をぶらぶら歩く。

 殆どの商品は何かしらクリスマスに関連づけて販売されていた。

 包装の色が赤や緑だったり、これから子供達に配るであろうプレゼントがたくさん入った袋を抱えているサンタが印刷されていたり。あの手この手を使って消費させようと商業戦略を展開している。

 サンタはフィンランドにあるコルバトントリという名前の山にいるらしい。このコルバトントリは、日本語で言うと「耳の山」。子供達の願いがよく聞こえるようにというのが名付けの由来らしいが……本当に聞こえているのかどうかは甚だ疑問だ。

 そもそもサンタって親だしな。俺がそれに気づいたのはなんと4歳。サンタって誰だろうと気になって、クリスマス当日の夜、ずっと寝たふりをして様子を伺っていた。子供なら途中で寝落ちしてしまうのがオチで、それが子供らしくかわいいエピソードになったりするわけだが、俺の場合はなんと成功してしまったのだ。あの時の父さんの慌てようは今でも覚えている。まさしく慌てん坊のサンタクロースである。

 少し子供の時のことを思い出しつつ、店内を徘徊する。

 時々だが、見覚えのある人ともすれ違う。Bクラスだったり、Cクラスだったり……Aクラスだったり。まあ全員名前は知らないんだけどな。Dクラスとすれ違わなかったのは幸いだ。

 と、そんな時。俺はある商品のコーナーで足を止める。というよりは足が止まった、と言ったほうが正確か。

 俺はそこに入っていき、その商品を見る。

 

「……いいかもな」

 

 俺がいくつか用意していた条件にもちゃんと合致している。

 あとは色か……

 色々手にとって、どれがいいかを吟味する。

 そんな時。

 

「何かお探しですか?」

 

 そんな女性の声が聞こえてきた。

 一瞬店員かと思ったが、それにしては聞こえてくる角度がおかしい。

 声は俺の腕関節のあたりから聞こえてきた。つまり、声の主はかなり身長の小さい女の人。そしてどこか聞き覚えもあった。

 俺はそれが誰かを知るために振り向く。

 

「……」

「おはようございます。体育祭の時の全体集会以来、でしょうか」

「……そうかもな。おはよう」

 

 Aクラスの筆頭、坂柳有栖。

 そしてその横には知らない人。黒髪で、持っている雰囲気は少し堀北に似ている気がしないでもない。

 

「今日はどうされましたか?」

「え……あー、ぶらぶらしていただけだが」

 

 言っておくが、俺と坂柳が話すのはこれで二度目。先ほどの坂柳も言っていたように一度目は体育祭で体育館に全員が集まった時で、そこでは藤野も隣にいたし、俺はほとんど話さなかったので実質これが初めてのようなものだ。未だにまともなコミュ力を有していない俺に普通の受け答えを望むの方が無意味というものである。

 

「うふふ、そうですか」

「……」

 

 俺かなりキョドッてるだろうなあ……それに明らかに嘘ついてるし。無意識のうちに頭を掻いていたり、瞬きの回数が多くなっていても不思議じゃない。

 

「……それで、お前は何してるんだ」

「私はこの真澄さんと一緒にお買い物を。あ、速野くんは真澄さんのことをご存知ありませんでしたか」

「まあ知らないけど……」

「これを期に関わりを持ってみてはいかがでしょう?」

「やめて。何をさせたいの……?」

 

 その真澄さんとやらに速攻で断られてしまう。いやまあ、俺も坂柳の言う通りにする気はなかったからいいんだけど。どうでもいいけど真澄さんとマスオさんて言い間違えそうになるよな。

 

「ところで、今お時間よろしいですか」

 

 坂柳からの突然の申し出。無意識のうちに警戒心を強める。

 

「……何かするのか?」

「ちょうどすぐそこにカフェがあるので、一緒にお茶でもしませんか?」

 

 おお……坂柳ってこういう感じの奴なのか。

 正直にいうとあまり気は乗らない。普通ならここで断るのだが……

 ……まあ、ちょうどいい機会か。

 

「分かった。あまり時間を取らないことを約束してくれ」

「ええ。分かりました」

 

 早く終わらせる約束を取り付け、俺は坂柳とともにカフェに向かった。

 マスオさん、間違えた真澄さんもついてくるそうです。

 言い忘れていたが、坂柳も真澄さんも容姿のレベルは高い。特に坂柳は先天性疾患か何かで杖をついているため余計に人の目を引く。そのせいで俺は結構いづらい。

 数十秒の移動後、坂柳の言っていたカフェテリアにたどり着く。

 人気店なのだろうか。割と繁盛していた。

 

「席は……あそこが空いているようですね」

 

 坂柳のエスコートに従い、席に着く。俺は入り口側、坂柳とマスオさんは奥側。……あれ、俺今マスオさんって言った?じゃあ訂正。真澄さん。

 店員が持ってきたメニューを見て、注文するものを決める。

 あー……こういう時、コーヒーや紅茶に関する知識がないと困る。普段無料の水とかしか飲んでないからこういう高尚なものに触れる機会がない。

 まあいいか。まさかハズレはないだろう。

 

「お決めになりましたか」

「ん、ああ、一応」

 

 俺がそう返すと、坂柳は隣の真澄さんに目配せした。そして真澄さんが店員を呼び、注文を取る。

 前から思ってたが、ちょっと異常だろこれ。態度が柔化しているように見えるだけで、やっていることは今までの龍園とあまり変わらない。家臣を従える王様、エンプレスだ。

 

「速野くんとこういう機会を持てて光栄です。他クラスの生徒とはあまり関わり合いがないものですから」

「は、はあ、そうか。こちらこそ……」

 

 まあ、こっちは他クラスどころかクラス内での関係も希薄だけどな。だがこれは言わない。言ったら俺のメンタルにダメージが来るだけだから。こういう自虐ネタは心の中だけに限る。

 

「でも、こういう風に声かければ関わりが持てるんじゃないか」

 

 坂柳が本当に他クラスのやつと関わりたいと思っているなら、な。

 

「誰も彼もこのように声をかけるわけではありませんよ。私は以前からあなたに興味があったんです」

「……はい?」

 

 一ミリたりともドキッとしない。そりゃあ、こんな挑戦的な表情でそんなこと言われたら「何言ってんだこいつ」ってなるでしょうよ。

 

「学力であなたの右に出るものはいないでしょう。ですがあなたはこの学園でその長所を活かしきれていない気がします」

「……」

「しかし、学力とは違う面で、あなたはクラスに貢献しようとしていますよね」

「それは……まあそうだな」

「そして、プライベートポイントにも大きなこだわりを持っている」

「……ああ」

「そしてそのこだわりは……私にはどうも、あなたの過去に何か因果があるのではないか、そのように思えてならないのです」

「……」

 

 俺の過去、か。随分と話がジャンプしたな。

 別に語るほどのことは何もない。

 

「話すような過去はない、とお考えでしょうか?」

「えっ……」

「ふふ、人を形成するきっかけとなる出来事は、案外何気なかったりするものですよ」

「……」

 

 ふむ。

 もしかしたら、と疑ってはいたが……

 

「そうだな……」

 

 俺の過去にあった何気ないエピソード。

 いくつかあるが……どういう風に話そうかな。

 

「あれは3年前くらいだったか。ニュースでやってたの、覚えてると思うんだが……そこそこ大きい企業が不正カルテルで信用を落とした事件、あっただろ」

 

 思い出すようにして、俺は話し始める。

 

「そんなこともありましたね」

 

 相槌を打つ坂柳。

 

「実はあの企業、俺の親の取引先でもあってな。ちょっと被害を受けたんだ」

「……そうだったんですね」

 

 少し驚いた表情をしてみせる坂柳。隣にいる真澄さんは無表情を貫いている。

 

「その時の生活の状況は……まあ、今でも思い出したくないんだけどな。とにかくそれで、俺はお金、ここでいうポイントに大きなこだわりを持っているのかもしれない」

「へえ……そんなことが。少し嫌な話をさせてしまいましたね」

「いやいいさ」

 

 ここで俺は一呼吸おき、注文した青い紅茶をひとすすり。

 

「速野くん、嘘は感心しませんよ」

「……は、何だって?」

 

 坂柳から放たれた一言。

 俺の動きが硬直する。

 坂柳は攻撃的な笑みを浮かべながら種明かしを始めた。

 

「人は嘘をつくときに癖が出ます。初めに私があなたに声をかけたとき、あなたは瞬きの回数が増えていました。そして頭も掻いていた。嘘をつくときに出る癖としては典型的なものです。その癖が、私に過去の話をするときにも出ていましたよ」

「……こりゃ手強い」

 

 やっぱり、しっかりと見抜いたか。

 

「ある人物からのアドバイスで、坂柳に揺さぶられたら嘘を吐けと言われたんだが……その言葉を意識しすぎたな」

「その人物とは、噂に聞くDクラスの策士ですか?」

「それについては何も言えないな。俺も噂は耳にするが、正体を知ってるわけでも、そもそも存在を認識したわけでもない。実はDクラスにも謎なんだよ」

 

 こいつが綾小路の存在を嗅ぎつけているか分からない以上、何も言うことはできまい。それに他のDクラスの奴に質問しても、返答は同じだろう。以前幸村や三宅が答えたように。

 

「もしかしたら……そういう揺さぶりをかけられたことがあるやつなのかもな」

「……ふふ」

 

 口元に浮かぶ挑戦的な笑み。

 さて、坂柳は俺の言葉から何を汲み取ったのか。

 恐らく俺のクセは坂柳だけではなく、現在進行形で俺のことを失望したような目で見ている隣の真澄さんにも見抜かれていただろう。その真澄さんのように「何こいつ。嘘もつけないただの無能じゃない」という認識で終わればいいんだが……

 

 そこから数分は何の益体もない世間話が展開された。

 益体がないと言っても、真澄さんの名字が神室だということがわかったのは大きな収穫だな。これからは「神室」と呼び捨てできることと、マスオさんと間違えないで済むようになったのは大きい。

 そうこうしているうちに3人とも注文したものを食べ終わり、他の客の迷惑にならないよう早々に会計を済ませ、店を出る。

 

「今日は時間を取らせてしまってすみません。とても有意義な時間でした」

「そう言ってもらえると助かる」

 

 先ほどの攻撃的な表情は鳴りを潜め、今はおだやかな表情を見せている坂柳。神室は相変わらず無表情だ。

 

「それでは、またの機会に。プレゼント、喜んでもらえるといいですね」

「……どうも」

 

 坂柳の視線は、先ほどの店の方向に注がれていた。

 いや、まあ、バレてるとは思ってたけども。

 こんなタイミングで言われると驚くので遠慮して欲しかった。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

「……で、結局なんだったわけアレ。私にはただ勉強ができるだけにしか見えないんだけど。嘘もまともに隠せてなかった」

 

 少しイライラしていた。

 私は坂柳から、速野を見かけたら知らせるように言われていた。

 一緒にいたくもない坂柳に振り回された挙句、成果がこれだけなんて。

 無駄だとは分かっているけれど、それでも文句をぶつけるのがささやかなストレス発散だ。

 

「ふふ。真澄さんには、彼はそう映りましたか」

 

 私の不満をそこら辺に落ちている石ころと同じような態度で受け流し、その代わりに意味深な言葉を発する坂柳。

 

「……どういう意味?」

「たしかにあの対応をされたら、お世辞にも有能な人間とは判断できないでしょう。しかし彼は私の目に留まった人ですよ」

 

 だから実力が高いに決まっている、と言いたいのだろう。一々自信家だ。

 でも、こいつにはその自信を裏打ちするに十分なほどの実力がある。私にはどうすることもできないほどの実力の差が、私とこいつの間にはある。そうじゃなかったらこいつに振り回される生活なんてとっくに抜け出してる。

 

「私は彼にコールドリーディングを行いました。しかし彼は誘導されるどころか、私に対してコールドリーディングを仕返してきた」

 

 言われて思い出す。

 たしかに一度、会話の主導権が速野に移った場面があった。そこでのやり取りは……普段坂柳が行なっているものと酷似していた気がする。

 

「コールドリーディングは、相手がコールドリーディングされていると気づいた時点で効果を発揮しません。彼は初めからそれに気づき、対処した。だから私は無意味と判断して会話を打ち切ったんです」

「……でも、嘘を吐くのは下手だったじゃない」

「そう捉えても仕方ないかもしれませんね。速野くんはそういう風に振舞っていましたから。恐らく彼の狙いは、私をあなたと同じように混乱させることだったんでしょう。つまり私が最初に彼に声をかけた時点から、嘘をつくときに瞬きの回数が増えたのも頭を掻く癖も全てはフェイクだった、ということです」

「まさか……」

 

 あの一瞬でそんな判断が……?

 

「……じゃあ、あんたに声をかけられたら嘘を吐くように言われたっていうのは……」

「私に嘘を指摘されてから彼が言った言葉のほとんどは出鱈目でしょう。不正カルテルなんて毎年のように起きていますから、嘘とも言い切れませんけどね。私たちを混乱させるために嘘とも本当とも取れないことを言った、と捉えるのが自然でしょう」

 

 速野がそのことを喋っていた時、速野からは嘘っぽさがまるで感じられなかった。その前の意図的に作り出された癖を見せられていたから、余計に分からなかったのだろう。

 

「もちろん、彼がただの無能という可能性もわずかながらありますが……その時は、私の視界から勝手にフェードアウトしていくでしょう」

 

 正直、私は未だに信じられない。

 成績が良く、運動もそこそこできて、比較的有能だってことは知ってる。でも、あそこまで嘘を吐くのが上手いなんて……

 

「龍園くんは自滅、一之瀬さんも、既に攻略したも同然です。もし速野くんが私の期待通りなら……ふふふふ、メインディッシュを葬る前の、いい前菜になりそうですね」

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 まあ、多分ふつうに気づかれてるだろうなあ。

 坂柳のコールドリーディングは熟練者の域だ。俺みたいに見よう見まねで初めて実践するひよっ子と比べられるものではないはず。ほぼ確実に目をつけられたな。

 少しの時間対面して1対1で話していただけでも、坂柳の挑戦的で攻撃的な性格はよく伝わってきた。今頃面白そうだとか思ってるんだろうな。

 隣の神室は自分の意思で動いているわけじゃなさそうだ。恐らく櫛田や軽井沢と同様、弱みを握られて動かされている。

 弱みを握られている人間がこの他にもいるなら……坂柳派の結束は思っているほど強くないのかもしれない。まあ、俺が人に言えたことではないが。

 少なくとも、結束の強さで言えば藤野たちに分があるのは間違いない。

 ただ、坂柳の視界に俺が入った以上、藤野との協力関係は少し難しいものになる。といえ、俺にメリットがある以上やめる気は無い。

 

 俺には楽しむとか遊ぶとか、そういう余裕はない。

 坂柳を上回りたい、とかそんな気持ちもない。

 

 俺の欲求は、そんなところには存在しない。




坂柳って書くの難しいっすね……少し勉強します。
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