実力至上主義の学校に数人追加したらどうなるのか。※1年生編完結   作:2100

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月一更新すらできなかったですね……ほんとすいません。
その、受験生でして……次回も気長に待っていてくだされば幸いです。
では、どうぞ。

展開に不都合が生じたので、一部修正しました。(10/21)


ep.59

 昨日はクリスマスだった。

 つまり、今日はクリスマスの翌日。12月26日である。

 今朝テレビを見ていると、クリスマス関連のCMや番組が一切なくなっていたのには少し吹き出しそうになってしまった。あれだけ早い段階からクリスマスクリスマス言ってたのに、今度は新年や正月関連のもの、具体的にいえば福袋などのCMが多く流れていた。恐らく新年明けた瞬間から「明けましておめでとうございます。今年も〜社をよろしくお願い申し上げます」みたいなCMで埋め尽くされるんだろう。同じ会社のものが何回も流れるもんだから、見せられてる側としてはかなり飽きる。いやまあ経営戦略上何回もやるのは当たり前のことではあるんだけどな。

 さて、俺のクリスマスは……結構キツい1日だった。外を見れば遊んでる人が多数確認できるのに、俺といえばあんな過ごし方してたからな。ただ、今までのどの年のクリスマスよりも有意義だった、と言えるだろう。

 ……いや、俺がどう過ごしたかなんてどうでもいいことだ。

 今はそれよりもやらないといけないことがある。

 

 今日は比較的暖かい日だ。

 時刻は午後2時。

 

「……そろそろ行くか」

 

 そう自分に言い聞かせるようにして立ち上がり、持ち物を確認して部屋を出た。

 外出はするが、遠出するわけではない。

 エレベーターの移動が止まり、チン、という音とともにドアが開く。

 誰も乗り合わせなかったのは都合がいいな。

 そこから少し歩き、到着だ。

 

「……やっぱり少しためらいがあるな……」

 

 目的地であるこの場所は、ある人物の部屋だ。

 なんの変哲もないドアが、まるで重厚な城壁であるかのような感覚に陥る。

 しかし、後回しにしてもいいことはない。

 意を決して、俺はその部屋のインターホンを鳴らす。

 その数秒後に、「はーい」という返事がドア越しに聞こえた。

 俺はその声に呼応し、ドアに向かって話しかける。

 

「あー……俺だ。速野だ」

「えっ……速野くん?」

 

 驚きが感じられる声色とともに、静かにドアが開けられる。

 ひょこっと顔を出したその部屋の住人。

 

 そう、Aクラスの藤野麗那である。

 

「悪いな、急に」

「大丈夫、だけど……えっと、どうしたの?」

 

 突然の俺の来訪に少し戸惑っている様子だったが、雰囲気や表情を見るに別に嫌がられているわけではなさそうだ。

 いやまあ俺に感じさせないだけで実際のところ藤野がどう感じているかなんて分かったもんじゃないが、もし藤野が内心嫌がってたとしてもその時は仕方ない。我慢してもらおう。俺が嫌がられていると感じられなかったんだからどうすることもできない。

 

 ……こんな意味不明な考えはやめだ。よし、言うぞ。

 

「あー……その、お前、イヴが誕生日だったよな」

 

 言うと、少し驚いたような表情になる。

 

「覚えてて、くれたんだ……」

「そりゃ、まあな……」

 

 忘れるわけはない。イヴが誕生日っていう時点で特徴的だし。それから……まあ、その他様々な要因も重なって、藤野の誕生日は俺の頭にしっかりインプットされていた。確か互いの誕生日を聞いたのは結構前のことだ。どんな会話の文脈でその話が出たのかは知らないが、少なくとも夏休みに入る前だったはず。こいつの誕生日がイヴと同日だということに少し驚いた覚えがある。

 

「あ、あのさ……取り敢えず、上がって話さない?」

 

 そう言う藤野の表情からは、恥じらいとともに……少し不安感が受け取れた。

 

「……いいのか」

「うん」

 

 比較的暖かい日だとは言ったが、それはここ数日の相対的評価であって寒いことに変わりはない。ありがたく入れてもらうことにしよう。

 靴を脱いで部屋に上がる。藤野の部屋に入るのは2回目か。1回目は2学期中間テストのとき、藤野が過去問を持っているとかで一緒に解いたっけ。前回はテスト勉強という大義名分があったが、今回は完全に私用だ。緊張の度合いが前とは全然違う。

 部屋はやはり暖かい。

 藤野の部屋は物が多くなく、清潔感があり整然としている。世間一般で言うところの女子らしい部屋とは少し違うかもしれないが、殺風景というわけでもない絶妙なバランスだ。

 ひとまず、俺の用事を済ませよう。俺は改めて藤野に向き直る。

 

「あー……さっきので気づいたとは思うんだが。取り敢えず……誕生日、おめでとう」

「う、うん。……ありがとう」

 

 なぜか少し恥ずかしそうに頷く藤野。

 

「それで……まあ、一応プレゼントというか」

 

 俺は持ってきていたバッグから、赤いリボンで装飾された箱を藤野に手渡す。

 

「これ……」

 

 手渡された藤野は、その箱をしばしじっと見つめている。

 

「開けてくれ」

 

 俺がそう促すと、藤野の手によってリボンが解かれ、箱が開封。

 俺が藤野への誕生日プレゼントに選んだものは……

 

「わあ、マフラーだ」

 

 箱の中身を目にした瞬間、藤野の表情が明るくなった。

 これはあの日……坂柳と妙な対談があった日に購入したものだ。おそらく坂柳は藤野の誕生日がクリスマスイヴであることを知っていた上で、あの日俺が藤野への誕生日プレゼントを買うと推測してたんだろうな。それであんな言い方をしてきたんだろう。少し、いやかなり心臓跳ね上がった。

 

「寒い日もつけてなかったから、持ってないかと思ってな」

「うんっ。ありがとう。私水色好きなんだよね」

 

 だろうとは思っていた。今もそうだが、以前この部屋に来た時も水色の配色が多い気がした。前に映画観に行ったときも服装は水色だったし、確か筆箱も水色だったはず。

 嬉しそうにしているのを見ると、こちらとしてもあげた甲斐があったというもの。ひとまずは良かった。

 

「私てっきり、忘れられちゃってたのかと思って……実は最近ちょっと落ち込んでたんだよ?」

「それは……まあ、悪かった」

 

 ただ、本当に忘れていたわけではない。元から今日渡す予定だったのだ。

 

「誕生日当日とその次の日は、いろんな人と遊んだりでお前も忙しいかと思ったんだ」

 

 藤野の交友関係を深く知っているわけではないが、少なくとも友達が多いことは確かだ。誕生日当日は誕生日会とか開かれてそうだし、クリスマスにも予定が入ってるのはほぼ間違いない。そう考えた結果、俺がプレゼントを藤野に渡すベストなタイミングは今日だと言う結論に至った。

 

「考えててくれたんだね」

「……一応な」

 

 俺なりの気遣いである。

 ただなあ……当日に祝わないことをキリストとかルターとか言ってあの手この手で正当化したものの、祝われる本人にこんな思いをさせてしまっては本末転倒というものだ。

 

「……来年は、ちゃんと12月24日に渡す」

 

 特に意味もなく、宣言しておく。

 すると、予想外の答えが返ってきた。

 

「えへへ、ありがとう。来年もくれるんだ」

「……」

 

 真意とは違う捉え方をされてしまったが……、まあ要はそういうことなので否定はしない。

 

「でも、マフラー、ありがとう。大切に使うね」

「そう言ってもらえると助かる」

 

 これから1月……長ければ2月までマフラーは重宝されるだろう。もはや必需品と言ってもいいレベル。

 誰かに誕生日プレゼントをあげたことなんて、これが初めてだ。小学校3、4年くらいまでは普通に仲のいい友達はいたが、そのときはまだ自分でプレゼントを用意して相手に渡すような年齢じゃない。

 

 まあ……いい経験をしたかもな。

 

「それじゃあ……俺はそろそろ」

 

 あまり長居しても悪いので、そろそろお暇することにする。

 

「うん。またね。マフラーありがと」

「……ああ」

 

 手を振ってくれる藤野を見ながら、玄関に並べてある靴を履き、俺は寒い外の世界へと出て行った。

 

 

 あ〜……………緊張した。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 時刻は18時を回った頃。

 あたりは暗くなり、昼に比べて肌寒さも増してきた(当たり前だが)。

 俺はいま、寮から校舎へ向かう普段の通学路を制服で歩いている。

 この時期に制服着てるやつなんて滅多にいないため仕方ないといえば仕方ないが、通りがかる人に奇異の視線を送られるのはいささか気分がよくない。人通りがあまり多くないことが唯一の救いか。

 もう少し人のいない時間に移動するべきだった。人に見られるのはあまり好ましくないからな。

 まあいいか。みんな俺のこと知らないだろうし。休み中でも制服着ることがある生徒会役員かなんかと勘違いしてくれるだろう。

 そこから数分歩いて、校舎内に入る。

 当たり前だが、冬休み中の、しかもこんな時間に校舎内に人は見られない。相変わらず適温に調節された廊下には俺の足音だけが反響する。

 廊下の電気はまばらについていて、端末のライトをつかわなくても一応歩くことはできる。

 8ヶ月近くも過ごしていれば、いやでも校舎は覚えられる。頭にインプットされたルートを迷わず歩き、俺は目的地である応接室にたどり着いた。

 そこから指定された時間まで、端末をいじって暇を潰す。

 この端末はスマホと言っていいんだろうが、やっぱり電池が続く限り最強のアイテムだと思うんだよな。いつでもどこでも暇を潰せる。情報収集は基本限りがないし、飽きたら適当に問題を検索して勉強でもすれば良い。しかもこの学校敷地内においては電波を心配する必要もない。

 端末の右上に表示される時刻を小刻みに確認する。

 『6:30』になったところで俺は応接室のドアを4回叩いた。

 

「入れ」

 

 ドア越しにそんな指示が聞こえる。

 

「失礼します……」

 

 入ると、そこには教師2名が座っていた。

 教師のうち1人は茶柱先生だった。もう1人は知らない。学内でも会ったことのない職員だ。

 

「そこに座ってくれ」

「はい……」

 

 指示の通り、俺は椅子に腰掛ける。

 圧迫感があるな……血圧測定器かよ。

 

「あまり長くなっても意味はない。早速本題に入らせてもらう」

「はい」

 

 俺としてもその方がありがたい。

 ここからは引いた方が負けだろう。話の主導権を握るのが得策だ。

 

「すでに人数不足に対する学校側が提示した要件は満たされたはずです。『学習部』を部活として認めていただけますよね?」

 

 部活動発足には、初期の入部者数が3人以上必要だった。だがそんな人数、俺に用意できるわけもない。いや、正確には用意する気もなかった。

 

 俺が部活を作りたいと学校側に申し出たのは、「部活でプライベートポイントが入る」と知った直後だった。

 部活とは何もスポーツだけじゃない。

 この学校にはないが、将棋部や囲碁部なんかは対外試合や大会だってある。

 「学習部」もそれは例外ではない。

 

「その前に再確認しておきたい。『学習部』の活動内容はなんだ?」

 

 それまで口を開いていなかった茶柱先生が俺に問うてきた。

 俺は頭の中に用意されていたことを淡々と述べる。

 

「文字通り、学習です。もちろん主となるのは勉学ですが、それにとどまる訳ではありません。知的好奇心を高めることは、社会において重要なことであると認識しています」

 

 ここは適当にそれっぽいことを言っておけば良い。

 サッカー部に入る目的はサッカーをすることだ。学習部を立ち上げる目的が学習することで何らおかしくはない。

 そこで、数枚の資料を斜め読みしていた男性教師が、俺の方を見て言った。

 

「……分かった。速野知幸を部長とし、『学習部』の発足を認めよう」

 

 よし、と心の中でうなづく。

 

「ありがとうございます」

 

 ひとまずこれで部は発足された。

 活動場所はどこだっていい。なんなら用意されなくたって構わない。自分の部屋で勉強するなら、それも学習部の活動の一環だ。いわば、俺がいる空間が活動場所だ。

 

「顧問は、私がつとめる」

 

 あれ、そうなのか。てっきりもう一人の男性教師の方が顧問で、茶柱先生は俺の担任だからという理由で呼ばれたと思っていたのだが。どうやらこっちの男性教諭は部活動関連の担当なんだろう。

 

「……お願いします」

 

 一応礼節として頭を下げておく。

 まあ、どちらかといえばこれは好都合だ。

 

「これで学習部発足に関する話は終わりだ」

 

 男性教諭がそう宣言し、机に広がっていた資料を片付け始める。

 どうやらほんとうに話を終わらせる気らしい。

 だが……俺にとっての本題はここからだ。

 

「次の話題に移らせてもらってよろしいですか」

「……次の話題?」

 

 2人が手を止め、俺の方を見る。

 

「報酬の件です」

「……どういう意味だ?」

「この学校では、何らかの功績を残した者に報酬が支払われるものと記憶してますが」

 

 要はプライベートポイントだ。

 

「定期テストでいい成績を残したからと言って、プライベートポイントは支払われない。だが、模試で今まで通りの成績を残すことができれば、支払われることはあるかもしれない」

 

 ふむ。少し話を取り違えられたらしい。

 この人は、俺が「学習部の活動は勉強なのだから、本番である定期試験で好成績を記録した時に報酬を受け取りたい」と主張していると思ったようだが、そんなことはしない。

 

「俺が言っているのは今までの模擬試験での成績です」

「なに?」

 

 俺は規定人数に足りない状態での部の発足を認めてもらうために、部を申請した日、学校が指定する12月までに成績が返却される模試のすべてで「総合全国1位」を取り続けることを条件に設定した。

 俺は必死の勉強の結果、ついにそれを達成し、部活発足の権利を獲得した。

 ただし、その報酬だけで俺は満足していない。

 

「今までの成績に対する報酬は部活動の発足ということですでに支払われただろう」

「たしかにそれも報酬であることは否めません。しかしそれはポイントによる報酬が支払われないことにはならないはずです。申請時の話し合いの時も、ポイントによる報酬は否定されませんでしたし」

 

 俺が「全ての模試で総合1位を取る」と言った時には、その場にいた全員に驚かれた。

 そしてはっきりと覚えている。その時、誰一人ポイントの話には触れていなかった。

 

「今回の報酬はお前の念願だった部活の発足だ」

「でははっきりさせてください。この学校には様々なルールがあると聞いています。恐らく、『部活発足時の人数不足を補うのに必要なポイント』も言及があるんじゃないですか?そのポイントと、今までの全国模試の成績に対する報酬との差額分の報酬を受け取る権利はあるはずです。それに……いまこの場のいる誰も、ポイントの報酬は認めないとは断言してないですよね」

 

 断言していないこと。それが肝心なのだ。

 もし、発足時の人数の補完ルールがあるとしたら……

 

「……その通りだ速野。部活発足時の人数不足をポイントで補うルールは存在する」

 

 やはり。

 この学校の教師は、質問しない限り答えない。

 だが逆に言えば、質問されれば答える義務がある。

 

「具体的に言うと、1人補うごとに25万ポイント。つまり今回の場合は50万ポイントだ」

 

 50万ポイントか……予想より結構上を行ってたが、まあ問題はないだろう。

 次の質問に移行する。

 

「では、俺が今回獲得できるポイントは、全国模試の成績で本来獲得できるポイントから50万ポイントだけ引いた分、ということになるんでしょうか。どのようにして報酬が決まるのかは分かりませんが、精査をお願いします。どのくらいで結果が出ますか?」

「お前の報酬がマイナスになることもあり得るが、その場合はどうする?」

「もちろん、払います」

 

 当たり前だ。マイナスになったら払いません、なんて通るわけがない。

 まあそれに、俺自身マイナスにはならないと確信している。

 

「待つ必要はない。お前の報酬の精査はすでに行われた」

 

 今まで俺の要求に否定的なニュアンスで発言していた男性教師が口を開く。

 

「ポイントによる報酬の話は、本人が要求しない限り表には出てこなかっただろう」

「……そうですか」

 

 この学校らしい。

 最近何かと話題の過払金払い戻し請求みたいなものか。探らない限り決して表に出ない。探る以前に、まずはその可能性に気づく必要がある。

 俺お金大好きで良かった。

 

「お前への報酬は今日中に支払われることになるだろう。額に関しては送金と同時に確認するということでいいな?」

「分かりました」

 

 今日中というと、あと5時間半以内には振り込まれるのか。

 どれほどの額か、楽しみだ。

 他に何か聞いておくことや、ポイントを獲得できる隙がないか、頭の中で様々考えを巡らせる。

 ……今は特にはなし、か。

 結論を出したところで緊張を解き、ふう、と一息ついた。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

「ふぅーっ……」

「ゴホッ、ゴホッ……あの、タバコの煙苦手なんですやめてもらえますか」

「風下にいるからじゃないか?」

「そういうことじゃないでしょう……」

 

 とは言いつつも、大人しく煙の行かないところに移動する。

 

 話し合い(のようなもの)が終わり、俺は茶柱先生に屋上についてくるように言われた。

 帰りたいのが本音だったが、教師の指示ということもあって一応従った。

 

「それで……なんの話ですか」

 

 俺が聞くと、ふう、と煙を吐き出してから答えた。

 

「これも、ポイント稼ぎの一環か?」

「は……?え、まあ、そうですけど……」

「ふっ、正直だな」

「誤魔化す必要もないですし……違うと言ったら、納得してくれたんですかね」

 

 そう答えると、茶柱先生は肩をすくめて微笑を浮かべた。

 そしてもう一度口を開く。

 

「お前のポイント集めの目的はなんだ?」

「……はい?」

 

 意図がわからず、反射的に聞き返してしまう。

 

「例えば今の質問を堀北にしたなら、あいつはすぐに『Aクラスに上がるため』と答えるだろう。だがお前は以前聞いたとき、Aクラスにこだわりは持っていないと答えた。なら、お前の目的はなんだ?」

 

 ……全く、そんなことを聞いて何になるんだろうか。

 

「そんな目的なんて大層なものはないですよ。金はいくらあっても困らない。それが真理じゃないですか」

 

 そもそも金を稼いでどうするか、なんてことを考えて生きている人がこの世界にどれだけいるのかって話だ。

 それに、さっき先生は堀北の例を持ち出してきたが、それならAクラスに上がるためにポイントを稼ぐと主張する人に、じゃあなぜAクラスを目指すのか?特権を得た暁に何をしたいのか?なんて問い方も出来るわけだ。そういった問答を繰り返していけば、最後には「では、何のために生きているのか?」という質問に行き着く。

 しっかりとしたビジョン、目的を持って生きている人もいるだろう。だがそれはごく僅かだ。大多数の人間にとって、生存目的なんて興味の湧くものじゃない。そんなことは、物好きな哲学者が勝手に悩んで勝手に結論を出せばいいだけだ。

 

 ……とは言いつつ、俺も別に何の目的もなくポイントを集めているわけではない。

 まあ、その目的ってのもかなり大それたもので、そのためには圧倒的にポイントが足りない……無論、2000万ポイントなんかで足りるわけはない。

 というより、いくらあっても足りない。何億、何十億集めても実現できない可能性の方が高い。

 それに、本気で実現したいと思ってるわけでもないしな。できなかったらできなかったで、卒業前に今まで貯めたポイントを馬鹿みたいに使うだけだ。

 

「俺は出来る限りポイントを集め続けます。何も問題はないでしょう?」

「私は初めから問題視はしていない。ただの個人的な疑問だ」

 

 個人的な疑問、ね。

 

「じゃあ、もうこれで終わりでいいですか」

「ああ。引き止めて悪かったな」

「いえ……では」

 

 軽く頭を下げて、まだ煙草を吸っている茶柱先生を置いて屋上を後にした。

 

 まあ何にせよ、部活発足できて一安心だ。それに報酬も支払われるということで、全国模試でいい点を取ることがポイントにつながることも明確になった。ポイントの合計額とこれまでの成績表から、ポイント査定の基準をある程度割り出すことも可能だろう。

 

 

 その夜。

 俺の端末には、236000pt振り込まれていた。




部活に関しては完全な後付け設定&ご都合主義です。速野くらいの学力があればなーって思いながら書いてますよ。ポイント報酬は、全国トップならこれくらいもらえるんじゃないかなーって想像で書きました。
次回もオリジナルになると思います。8巻に大晦日と正月の話が書かれないことを望みます……

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