実力至上主義の学校に数人追加したらどうなるのか。※1年生編完結 作:2100
今回はかなり長いです。速野がだんだんとリア充になっていく様子が描かれています。
では、どうぞ。
2021/01/17、微細な点の修正を行いました。
ep.extra edition
いよいよこの日がやってきた。
12月31日。大晦日。
今年最後の日。
そして、俺が遊びに出かける日だ。
長谷部、三宅、綾小路、佐倉、幸村。そして俺を合わせた6人で「パリピ」とやらをやる。
パリピとは何ぞや、と思ってやり取りをしていた佐倉に聞いてみると、どうやら「party people」の略称らしい。
結局どういう意味かは謎だが、取り敢えず皆で遊び倒すという認識でいいようだ。語感が頭悪そうだからあんま使わないようにしよう。
持ち物は端末のみのため、移動が非常に楽だ。適当に小さいバッグでも持って行こうかとも思ったが、入れるものが思いつかない。何も入ってない空のバッグを持ち歩くのも馬鹿馬鹿しいということで、手ぶらだ。
集合時間は昼12時、場所は寮のロビー。俺がきっかりその時間に行くと、既に長谷部と幸村が来ていた。
「おっ、来た来たともやん」
「は、と、ともやん?」
名前に「とも」がつくのはこの場に俺しかいないため長谷部が俺のことを言ったのはすぐに分かったが、ちょっと想定していない事態だった。
「あまり気にするな速野。こいつは人にあだ名をつけないと気が済まない。綾小路はきよぽんなんて呼ばれてる」
「因みにゆきむーはゆきむーだよ」
幸村だからゆきむーか……こういうのって自分で呼んでて恥ずかしくならないんだろうか。
「はあ……なんか、色々あるんだな。三宅はみやっちだったか?」
「当たりだ。よく知ってるな」
頷きながら意外そうな表情を浮かべる幸村に、俺は訳を説明する。
「長谷部と三宅が2人でいるところに何回か居合わせてるからな」
「そうなのか?」
「まあね〜。2学期の中間テストの時とか。みやっちと一緒に勉強見てもらったっけ」
そんなこともあったな。あの時は本当にびっくりした。得意不得意、間違いのパターンや思考回路まで酷似してるなんて。
「お、残り3人も来たみたいだな」
幸村がエレベーターの方を見て、手を上げながら言う。
その方向を見ると、三宅、それに綾小路と佐倉がエレベーターから降りてきたのが確認できた。
「悪いな遅れて」
「ご、ごめんね、私が忘れ物しちゃって……清隆くんも明人くんも待たせることになっちゃって」
「だいじょぶだいじょぶ。私も時間にタイトってわけじゃないしね」
そんな会話が繰り広げられる中、俺は綾小路の方を見て軽く会釈をする。向こうもそれに気づき、軽く手を上げて応えてくれた。
なんというか、こういう所謂「日常」の中で綾小路と会うのは久しぶりだな。相変わらず感情の起伏の少ない無機質な表情だ。でも様子を見る限りちゃんと打ち解けてるんだな。
ただ、ここにいる4人は綾小路がこの学校で何をしてきたのか欠片も把握していないのだろう。
責める気は全くない。てか多分俺も半分くらい分かってないし。それに綾小路が秘密を明かさないからと言ってこの「綾小路グループ」が潰れるわけでもない。
「綾小路グループ」は成員上排他的な面はあるが、グループ内はラフな関係らしい。遊びたいときに遊んで、遊びたくないときは自由に不参加を表明できる。それでグループ内の雰囲気が変になるということもない。友達ではあるが決して近づき過ぎず。「仲が良い」というより「気の置けない」グループと言った方がより正確だろう。
少し悪意を込めて言うと「都合のいいグループ」とも言えるかもしれない。
俺が勝手にあれこれ分析しているうち、そろそろ移動しようという話になった。
「じゃ、まずは歩きますか。いつまでもロビーにいても始まんないし」
「まずは昼飯か。みんな食ってないだろ?」
三宅の質問に、みんな首肯で答える。
「じゃあファストフードでいい?あんまり重いのもキツイと思うし」
「異議なしだ」
「それでいいぞ」
「さんせ」
俺も佐倉も頷き、全会一致で昼飯の場所が決定した。
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「ともやんはファストフードとかあんまり食べなさそうだよね」
「その呼び方は継続なのか……まあ、初めてってわけじゃないんだが、ほとんどこういう店に来ないのは本当だ」
ファストフードということもあってものの数分で完食し終え、雑談タイム。
「確か三食自炊だったよな」
「一応そうだ」
「弁当作るのって面倒じゃないのか?俺はいつもコンビニと寮の食堂で済ませてるんだが」
「別にそれも悪くないと思うぞ。俺だって好き好んでやってるわけじゃない。ポイントの節約のためにやってるだけだ」
一食3〜500円ほどでまともな飯にはありつける。炊事に時間を取るかポイントを払うか、どちらを取るかは人によって様々だろう。
「スーパーに無料の食材があって、ポイント無しで作れちゃうんだよ」
自炊の話に、同じく学校には自作の弁当を持ってきている佐倉も乗っかる。
「俺も自炊だが、無料の食材はちょっとな……」
佐倉や俺に反論する形で幸村がそう呟いた。
「無料の食材は賞味期限が間近に迫ってたり、品質も低いモノがほとんどだからな。夏休み中のバカンスで体調を崩して以来、健康にはかなり気を使うようになったから、安全性を考えると手が出ない」
俺はそんなにデリケートな身体ではないから気にしてなかったが、幸村のように決して体が強いわけじゃない生徒もいる。無料の食材を遠ざけるのも理解できる話だ。
「無料っていうのは魅力だけど、あのコーナー種類少ないし、同じものばっかりになって飽きちゃうんだよねー。たまに使う分にはいいんだけど」
「細かく味付けを変えてみるのもいいと思うぞ。普段味の素を使ってるところを自分で一から調合してみたり」
「それ面倒じゃない?」
「だったら食材にポイントを使う他ない」
「やっぱそうよねー」
無料コーナーに限ったときの品揃えは悪いが、普通のスーパーとして見たときの品揃えはかなりいい。ちゃんとポイントさえ払えば何を作るにしても困ることはない。
「料理できないのみやっちだけみたいだね」
長谷部が茶化すように言う。
「経験がないんだよ……ただ、今の話聞いてると料理も練習した方がいいな」
「無理することはない。明人は他の5人と違って部活に入ってるんだ。放課後に料理もってなると疲労が溜まる」
いま綾小路が言った「部活」というワードに少し肩が跳ねる。本当に少しだったため気づかれてはいないだろう。
1月中旬、受験生の最初の関門である「大学入学共通テスト」が行われる。数年前までは全てマーク式の「大学入試センター試験」が行われていたが、国数英に記述試験が追加されて新制度に移行となった。
俺は同日に全く同じ試験を行う予備校を通して参加するつもりだ。当然高得点獲得、それによるプライベートポイント支給を狙う。
そのためここ最近は勉強漬け。今日のことが少しでも息抜きになればいいと思っている。
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この「パリピ」に参加して驚いたのは、佐倉と綾小路の様子だ。
1学期あれだけオドオドしていた佐倉が、このグループの中だとリラックスして笑っている。
そして綾小路が普通に遊んでいる。
両者ともに今までの関わり方がアレだったこともあるだろうが、2人の新たな一面を今更見た気がする。
「じゃあ、次どこ行く?」
「カラオケに一票」
「俺はお前とのカラオケにトラウマがあるんだが……」
幸村が引きつったような表情を浮かべる。
他のみんなは事情を知っているんだろうが、このグループに初参加の俺はそのトラウマの中身を知るわけもなく。
キョトンとしていると、綾小路がフォローに入ってくれた。
「以前カラオケに行った時、6つのうち1つのたこ焼きが激辛っていう商品を注文して、激辛を引き当てた人が歌うって罰ゲームをやったんだ。そこで啓誠は5回連続という数字を叩き出した」
「……強運の持ち主だな」
それはトラウマにもなる。
「速野、お前はカラオケ行ったりするのか?」
「いや全く。歌える歌も数曲くらいだ」
「数曲歌えるなら大丈夫だよ。私たちは知らない歌でも気にしないし」
すかさず長谷部からのフォローが入る。
にしても、カラオケか……
人生でも1、2度ほどしか経験がない。この学校に入ってからは、この前の期末テストの時の話し合いの会場としてカラオケ店に入ったものの、あの時は遊び目的で行ったわけじゃないから実質未経験だ。
「……まあ、別に俺も反対はしない」
「幸村もそれでいいか?」
「今度はお手柔らかに頼むぞ……ほんとに……」
深刻そうな表情をしながらも嫌というわけではなさそうだ。
全員のコンセンサスをもって、カラオケに行くことが決定した。昼食のトレイを片付け、ケヤキモール内のカラオケ店へと足を向ける。
「カラオケ、空いてるかな?」
移動中、俺の隣を歩く佐倉が言う。
「確かに。俺たちと同じ発想のグループは結構いるだろうな」
「あ、それは大丈夫。今調べたけど空き部屋ふたつあったから」
どうやら杞憂だったらしい。
「速野くんはどんな曲歌うの?」
「あー……割とマイナーなやつだ。多分知ってる人の方が少ないぞ」
俺は狭い範囲をどんどん掘り下げるタチだ。気に入った曲は何回も繰り返し聴くが、そのほかは全く知らない。知識は自然と偏る。メジャーなものに関しては、CMで流れてる曲だったらサビだけ分かるか分からないか程度。大人数のカラオケに一番向かないタイプだな。
ここで佐倉にも同じ質問を返すのが定石なんだろうが、敢えて聞かないことにする。カラオケに入ってからのお楽しみだ。個人的な意見だが佐倉は声質がいいので期待している。
カラオケに着き、長谷部と三宅がカウンターで受付を済ませた。
空いているとはいえ混雑が予測されるためか、保証時間は2時間半と短め。ただ値段はドリンクバー付きで750ポイントと良心的だ。
「じゃあ時間もないし早速歌うか」
指定された部屋に移動してすぐ、意外なことに三宅が積極的にマイクを持ち、タッチパネルを操作して選曲を始める。実は歌うの好きなのか。
そんな様子を眺めながら、俺はコップが重ねられた小さいカゴを持って立ち上がる。
「飲み物、取ってくるから希望を言ってくれ」
「おっ、気が利くねー。じゃあカルピスでお願い」
「あ、じゃあ私もカルピスで……」
「俺はコーラ頼めるか」
「俺はウーロン茶で頼む」
「オレはなんでもいい」
全員の希望を端末に入力しつつ、了解、と言って部屋を出た。
俺たちが案内された部屋は11番。店の奥の方にあるためドリンクサーバーまでの距離は遠い。
通り道に何個か部屋を通り過ぎるが、みんな盛り上がっているようだ。
「あれ、速野くん。ご無沙汰だねっ」
声のした方を振り向くと、ひらひらと手を振ってこちらに向かってくる一之瀬の姿が確認できた。
「速野くんもカラオケ来るんだねえ。ちょっと意外かも。あ、変な意味じゃなくてね?」
「イメージに合わないのは自覚してる。今日はまあ、特殊な事情でな……そっちはBクラスのメンバーで?」
「うん。年末の打ち上げでパーっとね。速野くんは綾小路くんとか、池くんとかと一緒?」
「綾小路は一緒だが、池も山内も須藤もいないぞ」
「あれ、そうなんだ」
夏休みに行ったプールの時も勉強会の時も池や山内は俺と一緒にいたため、一之瀬がその発想に行き着くのも自然なことだ。
逆に長谷部や三宅は浮かばないだろうな。俺との接点がわからないはずだ。
もちろん、俺も一之瀬が誰と遊んでるかなんて見当もつかないわけだが。
「あ、そういえば速野くんたちは3学期からCクラスなんだよね?おめでとうっ」
「ありがとう。Bクラスとの協力関係も大きかったと思ってる」
「そう言ってくれると嬉しいよ」
そんな会話の合間に、俺はコップに次々とジュースを入れる。
一之瀬も俺と似たような用事らしい。まあドリンクサーバーの前に来る必要のある用事なんてこれくらいしかないが。俺と異なる点といえばコップではなくカップを3つほど持っている点か。
「結構大人数なんだね」
俺が持っていたコップの数を数えたようだ。
「大人数……といえば大人数か。6人だ」
「じゃあ2時間半保証だと物足りないんじゃない?」
6人で2時間半いっぱいいっぱい歌い尽くすとして、1人平均の持ち時間は25分。一曲4分ちょっとで計算すると1人当たり歌える曲は5、6曲がいいとこだ。
「俺はあんまり歌うつもりはないから他のメンバー次第だ。それに今日はカラオケだけじゃないから、何だかんだでいい具合の時間とも言える」
「わ、ポジティブだねー」
いいと思うよっ、と付け加える一之瀬。
「遊びでネガティブになっても仕方ないだろ」
「あはは、そりゃそっか」
俺は基本ネガティブシンキング寄りだが、常にネガティブな訳じゃない。
そんなやりとりをしながらも全員分の飲み物を入れ終わり、こぼれないように留意してボックスを持ち上げる。
「じゃあ、今日はお互い楽しもうね」
「ああ。じゃあな。来年もよろしく」
そう言うと、一之瀬はドリンクサーバーに向き直った。何を飲もうか悩んでるんだろう。
因みになんでもいいと言った綾小路には水を入れ、俺はコーンスープを飲むことにした。水を出された綾小路が「何か希望を言っておけばよかった……」と後悔していたと雰囲気から感じたのは気のせいだろうか。
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「口がヒリヒリする……」
「いやー、今日も見せてもらったよゆきむー」
カラオケに入る前に話に出た、激辛たこ焼きを当てたやつが歌うというゲームを決行し、幸村は4回のうち3回当たりを出した。幸村は多分なんかの呪いにかかってるんだろうな。
ちなみに残りの1回は長谷部が当てたのだが、幸村とは対照的に美味い美味いと言って食っていた。長谷部は辛いものを苦にしない、むしろ大好物なんだろう。
「速野くん、歌すごく上手だったよ」
「ああ。正直意外だったぞ」
「え、そうか」
「全然音程外してなかったしねー」
「まあ、音程はな……」
俺は音域が比較的広いと自覚している。地声は低い方だが、出そうと思えば高音も出せる。普段は全く使えない特技だが、今日に関しては俺の声帯に感謝だな。
「でも、それ以外はからっきしだぞ。ビブラートなんて出せない」
「そこは慣れるしかないだろ」
三宅はそう言うが、慣れるほどの回数カラオケに行くことはないと思う。つまり上手くなる必要もないのだが、やはり歌う以上は上手く歌いたいと思うのが必然だ。なんかいい方法ないかなー。
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カラオケを出た俺たち一行は、次の目的地を探しつつ店内をぶらぶら歩いていた。
やはり遊びに出ている生徒が多いようで、顔だけは知っている人とも何人かすれ違う。向こうは俺のことを知ってるかどうか怪しいので会釈はしないが。
そのうち、吹き抜けになっている広場のような場所に出た。
そこそこ人が集まっており、たまにチリンチリン、とハンドベルの音がする。
何より気になるのが、可動式のバスケットゴールがあることだ。
「なんだあれ?」
「福引じゃないか?」
「じゃあなんでバスケのゴールなんか……」
「さあ……」
とりあえず行ってみるかということになり、人混みの中に突入していく。
様子を見る限り、どうやら福引というのは間違いないらしい。
もう少し前の方へ進むと、「大晦日福引イベント開催中!」という案内板が張り出されていた。福引への参加資格は、今日、ケヤキモール内施設を1500ポイント以上分利用していること。
俺はファストフード店で650ポイント、カラオケで870ポイント使った。恐らく参加資格は全員満たしている。
「福引かあ。やってみる?」
条件を満たしているのだから、通常やらない手はない。
しかし、考えてみてほしい。いらないものを貰って持て余してしまい、行方不明になった挙句数ヶ月後にひょっこり出てきて「これいつ買ったんだっけ?つかこんなの買ったっけ?」となるときのことを。つまりやらない方がいい場合も存在する。
その案内板には福引の景品は書かれていなかったが、会社の名前が書かれていた。
「この会社は……スポーツ関係か」
なるほど、やたら体格のいい人が多いと思ったらそういう理由か。どうりでさっきから俺たちが場の雰囲気から浮いている感じがするはずだ。
俺の場合場に溶け込んでることの方が少ない気はするがそういう問題ではなく、綾小路グループ(+俺)という集団がこの場に似合っていないということを憂慮すべきなのだ。
にしても福引ということなら、あのバスケットゴールは景品の一つか?まあそうだとしても、いきなりゴール貰っても困る。俺は不参加を表明することにした。
「俺はいい。どうせ景品はスポーツ用品だろうからな」
「オレも遠慮しておく」
「うーん、あたしもいいかな」
次々に不参加を表明していく面々。最後まで迷っていたのは三宅だったが、結局全員が不参加ということでこの広場から離れることにした。
しかし、突然前を歩いていた長谷部が立ち止まる。ちょっとぶつかってしまった。
長谷部は俺との接触を全く気にしていない様子で、隣の柱を指差した。
「これ、さっきの福引の景品じゃない?」
見ると、たしかに。1等から6等まで、等数に見合った景品が表示されている。
その中で俺が注目したのは2等の景品。
2等の景品はAコースとBコースに分かれていた。
Aコースはランニングシューズ。2等という大当たりに見合ったなかなか豪華な代物だ。
そしてBコース。
景品の欄には「3ポイントチャレンジ!!」と書かれていた。
それで合点がいった。
「だからバスケのゴールがあったわけか……」
ゲームの内容はいたってシンプル。基準となる線の後ろからシュートを放ち、10秒の間に5本以上入れられたら景品を獲得できる。その景品も結構良さげで、敷地内のボウリング施設で、7人以下のグループ客2ゲーム無料券というものだった。
あのゴールは景品ではなく、このチャレンジにあたっての道具だったということだ。
「2等だから、そもそもチャレンジまで行く人が少なそうね」
「そうだな。2等なんていったら大当たりだ」
あの福引機には何等の球がいくつ入ってるかなんて知る由も無いが、福引なんていいところが3等だろう。ほとんどの人は5、6等のティッシュを貰って終わりだ。
母親と一緒に買い物に出かけて福引を何度か経験したことがあるが、俺は母親がティッシュ以上のものを貰っているのを見たことがない。
そろそろいいかと俺が思ったと同時に、同じことを考えたらしい幸村が長谷部に言う。
「もう行かないか?立ってても時間が過ぎるだけだ」
「ん、そだね」
その声に長谷部も応じ、再び歩き出す。
「ところで、ちょっと思いついたんだけどさー」
人差し指をピンと立て、所謂ドヤ顔でこちらを振り向く長谷部。
「次の行き先、ボウリング場なんていかがでしょう?」
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球が床と摩擦する音と、ピンが倒れる音。並んで置かれたボール。滑りやすい床。
長谷部の提案に全員が乗っかり、俺たちはボウリング場に到着した。
「このメンバーでボウリングは初めてだな」
「意外だな。行ったことなかったのか」
「盲点だったね。なんで今まで誰も思いつかなかったんだろう?」
もちろん俺がここに来るのは初めてだ。
ボウリングを最後にやったのは確か……小4だったか。確か今と同じくらいの人数だったと思うが……
あれ、誰と行ったんだっけ……俺は一人っ子だったから、俺、両親合わせても3人だ。つまりあとひと家族分の参加者がいたことになる。親戚ではなかったことだけははっきりと覚えている。だが、誰だったかまでは……よく覚えていない。
ま、いいか。覚えてないってことは、つまりは「そういうこと」なんだろう。無理に思い出そうとする必要はない。
少し経って、受付を済ませた長谷部と幸村が戻ってきた。
「1番レーンだってさー」
「わかった」
1番レーンはボウリング場の最奥にある。そこに向かって移動すると、上部に取り付けられているテレビ画面に今からプレーする俺たちの名前が表示されていた。
「そういえば、何ゲームできるんだ?」
「2ゲームだよ」
「そうか。ちょうどいいくらいだ」
物足りないわけでもなく、疲れるわけでもない運動量。
「いま何時?」
「えーっと……3時半だ」
「じゃあ、ボウリング終わる頃には夕飯の時間かな?」
「ボウリングってそんな時間かかるのか……?」
夕飯にいいくらいの時間と言ったら、今から3時間後の6時半前後くらいだが……
「それは知らないけど……でもほら、運動したらお腹空くし」
「……まあ、そうか」
夕飯食べる時間なんて俺も普段バラバラだ。「夕飯にちょうどいい時間」なんて具体的に示す方がおかしいか。
「あ、そうだ。こんなのどうだ?2ゲームの合計スコアの最下位が1位に夕飯奢るとか」
「お、みやっち自信あり?」
「最下位にならない自信はある」
そう言って胸を張る三宅。
ただ、俺としては遠慮したいところだな……正直、最下位にならない自信はない。少なくとも上位に入ることはできないだろう。俺は完全な初心者だ。
見ると、佐倉も少し不安そうな顔をしている。
「オレ含めて得意じゃないやつもいるかもしれないし、やめた方がいいんじゃないか?」
綾小路は反対の意を示した。その瞬間、少し嬉しそうな表情になる佐倉。本人は表に出さないよう努めたかもしれないが、俺から見ると分かりやすい変化だった。
そして綾小路はここでも「俺は普通の人間ですよ」アピールを忘れない。もちろん綾小路が本当にボウリングが苦手という可能性もあるが……ボウリングっていうのは要するに球を転がしてピンを多く倒した方が勝ちという簡単明瞭なゲームだ。どのようにボウリングの球に指を引っ掛け、どれくらいの強さで放り、どのコースを狙えばストライクが取れるのか、それら全てを分析して修正することができてしまいそうなのが綾小路だ。
「ん……そうだな。悪い、配慮が足りなかった」
「じゃ、普通にプレイってことで」
「ああ」
といった塩梅に落ち着き、全員1番レーンの席に座った。
名前を登録した順番に、投げる順序も決められている。幸村、綾小路、長谷部、俺、三宅、佐倉の順番だ。
まあ、取り敢えず一つ気になるのが……
「長谷部、お前……」
「いいじゃんいいじゃん」
登録されている俺の名前が「ともやん」になってる。
はあ……まあいいや。店員に言って変えてもらうのも馬鹿らしい。
「じゃあ早速、啓誠から投げてくれ」
「分かった」
自分に合うボウルを見つけ、位置について転がす。
ボウルは床を滑るようにしてピンに向かっていったが、少し右に逸れて、倒れたのは7本にとどまった。
「あー、くそっ」
「ドンマイドンマイ」
今度こそ、と意気込んで放った幸村だったが、今度は狙いすぎたのか、左側のガーターに行ってしまった。
「ああっ!」
「ありゃー残念」
「ドンマイだ」
「くっそ、次こそは……」
投げ終えた幸村が悔しそうな表情を浮かべつつ席に座った。
配置は3人ずつが対面して座っている形だ。俺は右側の椅子のの真ん中で、右隣には佐倉、左には綾小路が座っていた(今綾小路は投げに行っている)。俺の正面には幸村が座り、長谷部が綾小路と、三宅が佐倉とそれぞれ向かい合う形で座っている。
2回で8本倒した綾小路が隣に戻ってくる。
「みんな上手だね。ちょっと緊張するかも……ボウリングなんてほとんどやったことないし……」
「まあ、頑張ってくれ。それに俺も初めてみたいなもんだから心配しなくていいぞ」
俺自身ボウリングは全く得意ではないため佐倉に対してもこんな言い方しかできない。小4の時のボウリングでもてんでダメだった記憶がある。
「あ、あのさ速野くん」
会話が途切れたかと思いきや、再び俺に話を振る佐倉。
「その、は「速野、お前の番だぞ」
佐倉の発言を遮るようにして幸村が俺を呼んだ。もちろん幸村に佐倉の声が聞こえていたはずもなく、悪気はないんだろうが、ちょっと佐倉がかわいそうだ。
とはいえ、順番もあるので待たせるわけにはいかない。
「悪い、後でな」
「あ、う、うん……」
残念そうな表情の佐倉を残し、俺は位置についた。
結果、2回投げて1本しか倒せなかった。
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「まさかともやんが本当にボウリングほぼ初心者だったなんて」
「悪かったな……いいだろ別に」
「いやいや、貶してるわけじゃないって。1ゲーム目は置いとくとして、2ゲーム目からすごかったじゃない」
長谷部に置いとかれた1ゲーム目。俺はガーターを連発し、圧倒的最下位のスコアを叩き出した。だが、7回目くらいから段々どう投げればいいかコツを掴んできて、2ゲーム目は一気に2位に躍り出た。
ちなみに1ゲーム目のトップは長谷部、2ゲーム目のトップは三宅だ。
俺たちはいま、ボウリング施設を出てベンチに座って雑談している。
既に日の入りの時刻は過ぎており、完全に夜だ。
先日降った雪がまだ解けずに残っており、点灯している外灯の発光色と相まってなんとも言えない雰囲気を作り出していた。
空気は冷たいがほぼ無風のため、耐えられないほどの寒さではない。
「速野くん、やっぱりすごいね」
隣に座っている佐倉が俺を褒めてくれた。
「ありがとう。まあ、多分ビギナーズラックみたいなところもあるだろ。出来過ぎだ今回は」
受け答えをしていて自分でも思う。素直じゃねえなあ、俺。褒め言葉すら正面から受け取れないんだから。
でも、これに関しては仕方のないことだ。
「じゃあ、いい時間だし夕飯行こう」
「そうだな。どこ行く?」
「うーん……」
「お前はどうだ」と三宅に目線で問われるが、普段外食なんてしない俺がそんなこと答えられるはずもない。
「えと、お、お好み焼き、とか」
俺の横から、そんな自信なさげな声が聞こえる。
佐倉だ。
「お好み焼き、いいかも」
「ああ。賛成だ」
「いいんじゃないか」
俺も異存はない。にしても佐倉からお好み焼きという提案が出るとは……意外なチョイスだ。
自分の案が受諾されたのが嬉しいのか、雰囲気が明るい。
「好きなのか、お好み焼き」
「特別好きってわけじゃないけど……なんか思い浮かんだの」
「ふーん……」
思ったことを言える。数ヶ月前の佐倉からは想像もできない姿だ。
実を言うと、俺はお好み焼き初体験である。
そのため好き嫌い以前の問題だ。ただ、本当に嫌いな人は完成したお好み焼きがゲ○に見えるらしいとどこかで聞いたことがあるので、その気持ちが理解できない俺は多分生理的には大丈夫だろう。
座っていたベンチから立ち上がり、お好み焼き屋に向かってみんなで歩き出す。
俺は場所を知らないので、後ろからみんなの背中に遅れないようについて行く。
といっても俺は佐倉の歩幅に合わせており、他の4人とは3歩分くらい離れていた。
「あ、あの……さっきの続き、話していい?」
「ん?……ああ、あれか」
正直、ボウリングに夢中だったせいで今の今まで忘れてた。
「大事なことじゃ、ないんだけど……」
「お、おう……」
俺にとっては大事なことじゃない、という意味だろう。佐倉にとってどうかは知らない。
意を決したように、佐倉は口を開いた。
「そのっ、速野くんと藤野さんは、付き合ってたり、するのかな……?」
「……」
……1学期に池と山内にされた質問と同じじゃないのか、これ。いや、正確にはちょっと違うか。
「はあ……どこでそんなこと聞いたんだ」
「み、見ちゃったの」
「……見たって何を?」
「夏休みの船上試験の時……夜、速野くんに藤野さんが抱きついてるところ…」
「……」
あの時か……
須藤の時といい、佐倉はへんな光景の目撃者になりやすい呪いにでもかかっているらしい。
はあ、あれは何と説明すればいいのやら……てか説明なんてできねえよ。俺も何であんなことされたか分からないし。
「取り敢えず、答えはノーだ。俺と藤野は友人で、それ以上でも以下でもない」
まあ、利害関係者という別の繋がりはあるが、まさかここで言うわけにもいかないだろう。
「佐倉が見た光景は……何と説明していいか分からないが、取り敢えず何でもない。あの時は俺もびっくりしたくらいだ。あいつは人との距離が近いから、ああいう事もあるんじゃないか、多分」
これくらいの答えしか出てこない。まあ、あいつが誰彼構わず抱きつくとは思えないけどな……ひとまずこの場ではそういうことにしておくしかない。
「じゃ、じゃあ、私の考えすぎ、だったんだ……」
「そういうことだ」
どこかホッとしたような表情を浮かべる佐倉だが、「あなたもこっち側で良かったあ」とか思われてそうであんまり嬉しくない。
何にせよ、俺と藤野が恋仲にあるという事実はない。何度も言ってるが、大前提として俺と藤野じゃ人として不釣り合いだ。友人関係にあるだけでも奇跡に近いってのに。
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「あー食べた食べた」
「結構ボリュームあるな……胃がもたれそうだ」
お好み焼き、めっちゃうまかったです。
野菜と肉と小麦の集合体を鉄板で焼いてその上に塗りたくるソース。このB級グルメ感がたまらん。満腹。少し食べすぎてしまったくらいだ。
「てか、速野って意外と食べるんだな」
「そうか?」
「身体細いし少食かと思ってたよ」
「普段あんまり食わないだけで、食おうと思えば食える。スピードは速くないけどな。まあ確かに、今日はちょっと食い過ぎた」
俺は多分、腹8分目になる量は少なく、満腹になる量が多いんだと思う。8部目と満腹の間隙が大きいため持久力がある。ちょっと腹が膨れてからが粘り強い。
腹一杯食いたくなるのは疲れてクタクタになったときぐらいだと思ってたが、今日に関しては場の雰囲気が俺の食べる手を止めさせなかった。運動もしてないのに腹一杯食べると少し健康に悪い気がしてくる。外が寒いってのもあるが最近運動してなかったし、学習部の模試終わったらちゃんと体動かさないとな。
「じゃあどうしよっか。解散する?」
時刻は午後8時30分になろうとしている。頃合いとしてはちょうどいいくらいだろう。
「こんな時間まで遊んだのは初めてだ」
「ほんとほんと。いいストレス発散になったって感じ」
「お前あんまりストレスなさそうだけど?」
「女の子にはいろいろあるのよ」
こうした少しの会話でも、付き合いの期間の差というものを感じる。
この5人は俺のことをグループのメンバー同然に扱ってくれている。それには感謝するが、やはりその努力だけでは透過できない壁がある。
「楽しかった、かな?」
隣を歩く佐倉が俺の表情を伺うようにして聞いてくる。
取り繕っても仕方がない。今日一日過ごした感想を素直に述べよう。
壁は感じる。
だが。
「ああ」
今日過ごした時間は楽しかったし、いい息抜きにもなった。
「こんな夜遅くまで遊び倒したのは初めてだったよ」
「じゃ、じゃあ、また次も誘っていい?」
「ああ。是非」
迷うことなく承諾した。
誘われた時に気がすすまなければ断ればいい。
とは言っても、まあ……
「ともやんチャット入ってたっけ?」
「いいや」
「じゃあ入りなよ。連絡する時とか便利だし」
「ん……ああ、そうだな。じゃあ誰か入れてくれるか」
確かグループへの招待は端末の連絡先を交換している者同士でしかできなかったはずだ。つまり俺を招待できるのは綾小路か佐倉ということになるが……
「オレがやろう」
綾小路が端末を操作すると、俺の端末にグループに招待されたという通知が届いた。
「参加、と」
グループ名はやっぱり「綾小路グループ」なのか。
「まさかグループのメンバーが増えるなんてな」
俺がグループに参加したのを端末で確認しながら幸村が呟いた。
「私は最初っからアリじゃないかって思ってたけどねー。クラスでのはぐれ者って立ち位置的に」
「そ、そうでございますか……」
はぐれ者って……いや、わかってるし事実なんだけどね。でも表現をオブラートとカプセルで二重に包んで欲しいときってあるじゃん?薬飲む時とか。
「じゃあ、ともやんは綾小路グループに参加ってことで」
「……そうなるな。じゃあ、色々と宜しく」
「ああ、宜しく」
「宜しくな」
どうやら、歓迎はされてるらしい。
まあそりゃそうか。ここまで遊んだのに今更突っぱねられたら俺の人間不信具合がさらに増加する。
「じゃあこれからともやんはみんなの事下の名前で呼んでね。あだ名でも可」
「え……」
「そういえばそうだったな」
「あー……マジで?」
「「マジで」」
「……ど、努力します」
まさかそんな決まりがあったとは……どうりで全員が全員お互いを名前で呼びあってるはずだ。そして長谷部、お前のそのニヨニヨした表情から次の展開が読めるぞ。
お前が次に出す指示はきっと……
「じゃあ今呼んでみよう」
「分かった、波瑠加」
「ぇ……」
やっぱり予測した通りだ。
こういうのは恥ずかしがれば恥ずかしがるほど周りのおちょくり具合が増していく。それを防ぐためには初めからおちょくる余地をなくしてしまえばいい。正しい先手必勝とはこういうことだ。
「ちぇ、つまんないの」
「お前割と考えが表情に出やすいぞ」
「え、ほんと?」
首肯で返す。事実俺の読みは当たったわけだしな。
「ポーカーフェイスは慣れといたほうがいいぞ。あやのk……んんっ、清隆あたりから指南を受けてみたらどうだ」
名前を言い直したところで、長谷b……波瑠加が再びニヨニヨとした表情に……こいつ……とっととポーカーフェイスに慣れろ。
「よし、めでたく知幸も参加したことだし、そろそろ帰るか」
「そうだな。時間もいい感じだ」
早速三宅が俺のことを名前で呼んだ。
名前で呼ばれたのが久しぶりすぎて、なんというか新鮮な感じだ。多分小4以来じゃないだろうか。あの頃は俺も普通に友達いたし。いたどころか、今振り返って客観的に見てみると裏のない櫛田の男子バージョンみたいな感じだったかもしれない。……ちょっと美化しすぎか。
ただ、あの頃は本当に毎日が楽しかった。
そう、「あの頃は」。逆に言えばそれ以降は地獄だったわけだが。まあそんなことはいい。
「悪い、先に帰っててくれ。トイレ行ってくる」
「あ、そうか。じゃあ、また来年」
「ああ」
明人と挨拶を交わす。
「ばいばいともやん」
「そのあだ名まだ使うのか……ああ、じゃあな」
波瑠加に続き、清隆、愛理、啓誠も手を振って来たので、こちらも振り返した。
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佐倉から「大晦日に遊ばないか」と提案があった時は少し戸惑い、あまつさえ参加しない理由を探して断ろうとさえしていた。
だがそもそも、今日の遊び、俺にとってはメリットしかなかった。
息抜きができること。普通に楽しいこと。
そして俺にとって最大のメリットは……
清隆に近づけることだ。
あいつは櫛田を退学させようとしている。
俺は櫛田を利用しようとしている。
つまりあいつは俺にとって利害の対立した敵同士。
敵の腹を探るなら近づいてしまうのが一番いい。
今回の場合は、探るというよりは動きを封じ込めるといった意味合いの方が圧倒的に強いけどな。
そしておそらく、俺のこの行動は清隆にとって相当なストレス要因になるだろう。これもまた狙いの一つ。
まあそういうの抜きにしても、この時間は俺にとって楽しい時間だった。
……早いとこ名前呼びに慣れとかないとなあ。
結局リア充になり切れてない速野でした。
更新速度をさらに下げようと思います。申し訳ないのですが、正直なところ、受験勉強と執筆を両立できる気がしません……
受験を突破するまでは、息抜きで書く、くらいの感じになると思います。失踪はしません。ツイッターにて生存報告はいたしますので、今後もこの作品をよろしくお願いします。