実力至上主義の学校に数人追加したらどうなるのか。※1年生編完結   作:2100

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長らくお待たせしました。多分これからもお待たせすることになると思いますし、11月以降は一切手がつけられないことも覚悟しています。受験生の2100と申します。最近センター型問題が不調で怖いです。

では、8巻分スタートです。


第8巻
ep.60


 3学期が始まって2週間ほどが経った木曜日。

 高度育成高等学校の全校生徒が、クラスごとに12台のバスに分かれて大移動していた。

 バスでの席順は名字のあいうえお順で決められており、俺は平田の隣に座ってバスに揺られている。たまに勘違いされてないか心配になるが、俺の名前は「すみの」じゃなくて「はやの」だ。幸いまだ間違えて読まれたことはないが。

 

 皆思い思いに移動時間を潰している。所持品に学校側からの制約は特になかったため、漫画やらスナック菓子やらを持ち込んでいる者が多い。トランプで遊んでるやつもいる。

 こんな調子なので、バスの中はいささか騒がしい。隣の平田も通路を通して女子と喋っている。たまにこちらに意識を向けてくるが、俺は「気にするな」オーラを全力で放出することで対抗して無言を貫いていた。意識を向けるだけで話しかけてこないのは平田の俺への配慮だろう。流石と言ったところか。

 俺はというと、間違っても乗り物酔いしないように車窓から景色を眺めて移動時間を潰している。景色といっても、バスは高速道路を走っていてさっきから何の代わり映えもないんだけど。

 にしても、移動中に遊べるやつが羨ましい。俺がバスの中でトランプなんてやろうもんなら、トランプ中なのにリバースというUNO用語が繰り出される怪異な現象が起こりかねない。……おっと、こんなことを考えてると余計に悲劇が起こりやすくなってしまう。一旦頭をリセットし、思考も歯垢もクリアクリーンしなければ。

 ……親父ギャグなんて冬に言うもんじゃないと実感した。暖房あるのに寒い。てかダジャレぶちかましたの久しぶりだな。学習部の一大イベント「大学入試センター試験本番と同じ問題の模試」が終わったことで気分が軽くなってるんだろう。

 テストの出来は上々。プライベートポイントも期待していいだろう。だいぶ前の一之瀬の話だと部活での戦績がクラスポイントにも反映されることがあるらしいから、こっそりクラスに貢献したり、なんてこともあるかもしれない。

 それはそうと、さっきの文章の中に「まあ、仮に酔わなくてもトランプ一緒にやるやつなんていないんだが」という自虐ネタを挟まずに済むようになっているのは俺の成長の証だ。やろうと思えば俺の席の後ろの松下の隣に座っている明人とプレイはできる。そうなった場合ちょっと松下がかわいそうだが。

 

 そんなどーでもいいことに思考を巡らせ、酔うことから必死に逃げている中、マナーモード設定している端末が震えた。メールだ。

 差出人は……藤野か。正月の午前0時に所謂「あけおめメール」というやつをもらって以来だ。

 俺と藤野はそこまでマメにメールする仲じゃない。今までも2週に1回くらいのペースだったし。それに話したいことは4日に1度の無料コーナーへの食材買い出しの際に話しているので、それで何も不都合はない。

 ひとまず内容を確認する。

 

『どこに向かってると思う?』

 

 シンプルにそれだけ書いてあった。

 

『分からん』

 

 こちらもシンプルにそれだけ書いて返信する。

 そう、俺たちはこのバスの行き先に関して、ほとんど説明を受けていない。

 出発前、替えの体操服、ジャージ、少し厚めのコートを持参すること、特に下着などに関しては多めに持ってくることを強く推められただけ。そのため泊りがけであろうことは恐らくほぼ全員が予想しているはずだが、それ以外はさっぱりだ。

 

『特別試験、かな』

『多分な』

 

 それも恐らく、この学校に在籍する者なら予測がついていることだろう。

 一口に泊りがけとは言っても日数によってその性質は大きく異なってくる。実は日数に関しても全く説明がないのだが、多めの着替えを推奨された点から少なくとも3、4泊以上は覚悟しておいたほうがいい。

 高度育成高等学校において、わざわざ学校から別の場所に移動し、それだけの日数をかける行事といえば、答えは自ずと絞られる。

 そして特別試験といえば、藤野にとっては他の生徒とは別にもう一つ「特別」な意味がある。

 

『今回も何か動くのか』

『内容によるけど……多分そうなるかな』

 

 藤野にとって特別試験は、葛城、坂柳両名から政権を奪う手段の一つだ。

 現状「葛城下ろし」は成功し、現在は坂柳がAクラスの実権を握っている。だが期末テストでBクラスと点差がギリギリだったことでほんの少し微妙な空気が流れているらしい。

 Aクラスがピンチであるということは、藤野にとってはチャンスでもある。

 

『できる範囲で協力はする』

『ありがと』

 

 チャットはそこで途切れた。

 何分後になるかは分からないが、茶柱先生から行事の説明があるはずだ。その時になれば再び藤野とのチャットが再開されることになるだろう。

 取り敢えず、それまでは車窓一面に広がる単調な景色を鑑賞するとしよう。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

「盛り上がっているところ悪いが、静かにしろ」

 

 長いトンネルをくぐり終えた瞬間、茶柱先生がバスガイド用の拡声器を使って俺たちに言いつけた。

 このタイミングで一斉に説明を始めるという決め事があったんだろう。

 

「そろそろお前らも、このバスがどこに向かっているのか、お前たちがこれから何をさせられるのか、気になっている頃だろう。それを今から説明する」

 

 そろそろっていうか最初から気になってんだけど。

 

「まさか、また無人島とか……?」

「安心しろ池。あれは特別試験の中でもかなり規模の大きいものだ。そう何度もやるほど、私たちも鬼ではない。だが、全員察しがついているであろう通り、お前たちには今から特別試験を行うことになっている。だが無人島に比べれば、生活そのものは簡単だ」

 

 生活そのものは、ってことは、どこかで無人島試験よりも厳しい条件があるんだろうか。

 

「これからお前たちDクラスにやってもらう試験内容は……」

 

 と、言いかけて、言葉を止める茶柱先生。

 周りを見ると、みんな一様に誇らしい笑顔を浮かべていた。

 

「……すまなかった。これから『C』クラスの行う試験内容の説明を始める」

 

 俺たちの1月時点のクラスポイントは412。龍園クラスは292。よってクラスが逆転し、俺たちがCクラス、龍園がDクラスとなった。

 ちなみにBクラスは603、Aクラスは894。Bクラスの背中も見えている状態だ。

 

「これからお前たちをある林間学校へ案内する。恐らく1時間弱で着くだろう。説明がスムーズに進めば、それだけお前たちに与えられる『猶予』も大きくなる」

 

 猶予。つまり試験について話し合う時間ということか。

 

「林間学校って普通夏じゃないんですか?」

「池、わたしがいま『猶予』と言った意味を理解していないのか」

 

 怒る、というよりは少し愉快そうに言う茶柱先生。ツッコミを受けた池は「すんません」と軽く謝る。するとバスの中から「クスクス」という笑い声が聞こえてきた。

 まあ確かに、林間学校といえば夏の暑い時期にやるイメージはあるが。

 

「今までお前たちに課してきた特別試験は全て学年、あるいはクラス単位でのものだった。しかし、今回の特別試験は学年を超えての交流を9泊10日の日程でこなしてもらう。試験の名前は『混合合宿』。口頭だけでは分かりづらい面もあるだろう。これから試験に関する資料を配布する」

 

 バスの席の前から順々に資料が回されていく。

 10数ページくらいの手元の資料をパラパラと眺めていると、途中途中で施設の写真と思われるものが目に入る。大浴場、食堂、教室などなど。何かスキー施設のようなものも目に入った。試験内容にウインタースポーツでも関わってくるのだろうか。

 全員に行き渡ったところで、先生が説明を再開した。

 

「説明を続けるぞ。今回の試験は『成長』をテーマとしている。他学年との交流は、お前たちにさまざまな刺激を与え、『成長』を促すことだろう。それに加えて、普段慣れないものとの交流を通して、それへの対処や、人と円滑な関係を築けるかどうかを確認し、また学んでいくこともこの試験の大きな目的の1つだ」

 

 あー……これはもしかしなくても俺の苦手分野なんじゃないか。

 友人と呼べる存在ができたとは言え、俺のコミュ力が改善したかと言えば……多少なりともマシになったと自負はしているものの、まだまだヤバいレベルだ。

 

「この試験では、『大グループ』と『小グループ』の2つの括りのグループが存在する。合宿所となる林間学校に到着した後、お前たちは学年ごとに男女に分かれ、まず男女8つずつの小グループのメンバー決めを行なってもらう。小グループ決めのルールに関しては、いま配布した資料の5ページの上部にもれなく記載している」

 

 周りからページをめくる音が一斉に聞こえてくる。

 走行中の乗り物の中で下を向くと酔うので、俺は資料の方を持って自分の目線に合わせた。

 

・小グループとは、男女別に話し合いを持って作成された各学年8つずつのグループを言う。

・試験初日の指定時間内に小グループを作成し、担当の教師に報告すること。

・小グループは全員が納得する形で結成されなければならない。

・グループは最大10人までとする。

・1グループには、必ず2つ以上のクラスの生徒が属していなければならない。

・グループに1人ずつ『責任者』を選任すること。決定期限は試験2日目の朝食時間までとする。

 

 「最大」10人となっているのは、退学者がいた場合の人数変動を考慮してのことだろう。俺たち1年生はまだ1人も退学者を出しておらず、強制的に10人ずつでグループを作ることになる。

 ここまで聞いてると、9人を同じクラスで占めて、残り1人だけどっかから引っ張ってくるような策がいいように思われるが……多分そういうシステムにはなってないんだろうなあ。

 

「先生、『責任者』とはなんですか」

「『責任者』の存在は結果に大きく関与してくる。結果の説明と同時に責任者に関しても解説する。他にはないか?」

 

 その問いに対して誰も手を上げないことを確認し、話を続ける。

 

「大グループの説明も、その下にもれなく記載してある。目を通しておけ」

 

・大グループとは、各学年8つずつの小グループから1つずつを組み合わせた、合計3つの小グループによって作られる集団をいう。

・小グループを作成後、試験初日の就寝時間までに大グループを作成し、担当の教師に報告すること。

 

・なお、2種類のグループ決めの話し合いに関して教師は一切の接触を持たない。

 

 

 もれなく、とは言いながらも、書いてあることはこれだけだった。

 

「この小グループは非常に重要で、これから9泊10日の間、寝食をともにするメンバーとなる。また、朝食作りは大グループごとに持ち回りとなる。分担の組み合わせは自由だ。一応言っておくが、指定時間内に小グループを結成できない場合は、結成できなかったメンバー全員が退学処分となる」

 

 最後の忠告で全員に緊張が走る。茶柱先生は「まあ、そんな間抜けなグループは今までないがな」と付け加えた。

 

「今まで敵だったやつと一緒に過ごすとか冗談キツイぜ」

「はじめに説明しただろう須藤。それがこの試験の根幹でもある。質問がなければ次に移らせてもらう。お前たちが一番気になっているであろう『結果』についてだ。資料9ページに記載してあるが、口頭でも説明を加える」

 

 指定された9ページを開くと、大きく『結果及び基本報酬』と印字されていた。

 

「試験結果は、基本的に属している大グループの『平均点』によって決まる。そして全員の点数は、合宿最終日に行われるテストによって決する。詳しくは資料10ページに記載している」

 

・以下に大グループの基本報酬を記す。なお、この報酬によりポイントがマイナスになる場合、累積赤字として計上する。

 

1位〜4位

1位…プライベートポイント1万、クラスポイント3

2位…プライベートポイント5000、クラスポイント2

3位…プライベートポイント3000、クラスポイント1

4位…プライベートポイント1000

以上を、所属大グループのメンバー全員に支給する。

 

5位〜8位

5位…プライベートポイント2000

6位…プライベートポイント5000、クラスポイント2

7位…プライベートポイント1万、クラスポイント3

8位…プライベートポイント2万、クラスポイント5

以上を、所属大グループのメンバー全員から没収する。

 

 プラスよりマイナスがでかいな……

 

「また、所属している小グループのクラスの数に応じて、1位から4位までのポイントに倍率がかかることになっている」

 

 やはり。多クラスで組むメリットもしっかりと用意している。

 倍率に関しても同じ10ページに書いてある。2クラスなら1倍、3クラスで2倍、4クラスで3倍。

 なお、倍率に関しては全てプラスのみに作用し、マイナスに倍率がかけられることはないらしい。

 

「そしてこの順位だが、最終日に行われる『総合テスト』の平均点によってはじき出される。資料11ページを確認しろ」

 

 

 以下の科目の試験を最終日に行い、平均点を算出する。

・道徳 ・精神鍛錬 ・規律 ・主体性

 

 

 これはまた随分と抽象的な項目だ。

 各項目に関して解説文があるにはあるが、ヒントになりそうなものは確認できない。現時点で考察する優先度は低そうだ。

 

「また、最下位になった大グループにはペナルティが課せられる」

「え、ペナルティってまさか……」

「そう、『退学』だ」

 

 バスの中に一瞬の緊張が走る。

 

「だが大グループ全員が退学させられる訳ではない。ここで先程質問のあった『責任者』の制度が絡んでくる。退学するのは、学校の指定する平均点のボーダーを下回った小グループの責任者だ」

「責任者の選任方法はどのようなものですか?」

「小グループ内で話し合って決定する。それだけだ」

「んなもん、好き好んで責任者になる奴なんかいねーだろ?」

「メリットもある。責任者を務める生徒のクラスのグループ報酬が2倍になる仕組みだ」

 

 2倍か。それなら確かにやる価値はある。

 

 Cクラスから7人、他クラスから1人ずつ引き受け、4クラス構成のグループを作り、Cクラスが責任者を務め上げ、見事1位を獲得する。これを男女両方で達成したなら……

 クラス合計でプライベートポイント84万、クラスポイント252が得られる計算になる。

 もちろんこれは最高の想定だが、これだけのポイントが動けばクラス変動が起こるかもしれない。1年で言えば、これをDクラスがやった場合、俺たちCクラスはDクラスと入れ替わる可能性が非常に高い。

 

「また、退学になった責任者は、同じ小グループ内の人物1人を道連れにすることができる」

「はあ!?無茶苦茶じゃないですか!」

「安心しろ。道連れにすることができるのは平均点のボーダーを下回った原因であると学校側から認められた生徒のみだ。よほど質の悪いパフォーマンスをしない限りは対象にはならない」

 

 当然の制約だろう。

 ただ、道連れ制度なんて今までにないルールだ。特別試験の質というか、志向が変わっている気もする。

 

「それからもう一つ重要なことだが、退学者を出したクラスからは、退学者1人につきクラスポイント100ポイントを没収する。ただし、救済措置も存在する。課されたペナルティに加え、クラスポイント300、プライベートポイント計2000万を支払うことで退学を取り消すことができる。……が、お前たちにはまだ無理だろう」

 

 グループの報酬が2倍になるが、退学、そしてクラスポイント、プライベートポイントの大幅減のリスクを負う。予想外にマイナス面が大きいな。責任者に関しては慎重な検討が必要になる。

 退学取り消しのコストについては先生の言う通り無理だ。俺も常人よりポイントを多く保持しているとは思うが、退学を通告された生徒を救えるほどのポイントは持っていない。

 俺は藤野にある頼みごとをして、再び茶柱先生の方に向き直る。

 

「さて、ここからはこの特別試験期間中に組まれている『スキー演習』に関する説明だ。これよりプリントを配布する」

「え、スキー?」

「これからお前たちが向かう林間学校には併設でスキー場がある。そこで1日約3時間、天候の許す範囲で、講師のもとでスキー演習を行う」

 

 プリントが1枚ずつ、全員に行き渡る。

 試験期間中、昼食後の13時から16時まではスキー場にてスキー演習を行う、と記載があった。

 それを見て、車内からは「面白そう」とか「スキー1回やって見たかった」などの声が聞こえてくる。

 

「楽しむのは構わない。学校側もそういう意図でスキーの日程を組んだことは否定しないが、このスキーも今回の特別試験のテーマに沿って行われるテストの一環だ」

「つまり、スキーの実力によって報酬があるということですか?」

「そうだ。ただし、このスキー試験は先程伝えた項目とは独立したテストだ。テストは基本的に学年別の小グループ単位で行うが、『平均点』や総合順位には一切影響しない。報酬も違ったシステムで決定する」

「でも先生、報酬どこにも載ってなくないですか?」

 

 確かに。プリントには「報酬を与える」とは書いてあるが、具体的な記載はどこにもない。

 

「スキー演習の具体的報酬はこの場では一切伝えない」

 

 先生がそう言った瞬間、バス内に騒めきが起きる。

 

「え、な、なんでですか?」

「それを考えるのも試験のうちだ。が、安心しろ。スキー演習の結果でマイナス報酬となることはあっても退学の措置を取ることはない。ただ、スキーの報酬が小さいわけでは無い。考えてグループを組むことをお勧めする」

「試験内容はどのようなものですか?」

「タイムにより決定する。それだけだ」

 

 これだけの材料で考えて組めと言われても、グループ決めに関しては「運動苦手なやつが固まらないようにしよう」くらいしか決められない気はするが。

 だが、もし仮にスキー経験者がいたらかなり心強いんだが。

 

「また、バスを降りたら所持している電子機器類は全て没収だ。持ってきた遊び道具などは持ち込み自由だが、飲食物は持ち込めないため、全て到着までに処理しろ」

 

 多くの生徒がその指示に悲鳴を挙げる。

 俺は携帯は無くても特に困らない派だが、常に携帯が手元に無いと気が済まない人は少なくないんじゃないだろうか。

 

「こちらからの説明は以上だ。何か質問はあるか?」

 

 すると、一番前の席の池が手を挙げる。

 

「先生!男女別って最初に聞きましたけど、具体的にどれくらい別々なんですか!?」

「林間学校は2棟あり、本棟は男子、分棟は女子が使用する。休み時間や放課後に無断で外に出るのは禁止だ。だが、昼食と夕食は男女合同でとることとなっている。また、スキー演習の時間は男女合同だ。それらの時間は男女の交流は自由だ。学校側から規制もしない」

「分かりました!」

 

 声が明らかに弾んでいる。誰か目当ての人物でもいるんだろうか。

 まあいいや。

 とりあえず、俺の中での今回の試験の方針は固まった。スキーの報酬の細かい内容は確定してないため運要素もあるが、損をすることはないだろう。

 隣の平田が仕切るために前に出ようと席を立った時、俺の端末が震える。

 藤野からだ。「わかった」という件名とともに、以下の文面が送られてきた。

 

『報酬の説明がないってどう思う?』

『それを考えろってことなんだろう。スキーについて、また一つ頼んでいいか』

『なに?』

 

 藤野に頼みごとを送ると、少し長めの間を置いて『了解』と返信があった。

 取り敢えずこれでオッケーだ。

 俺と同じような発想に至る奴は、おそらく複数人出てくるだろう。綾小路や龍園あたりは思いついていても不思議じゃない。他学年の中でも思い至る人物はゼロではないと思う。

 まあ綾小路は思いついても行動に移さないだろうし、龍園は前線から退いてる。だがそれを抜きにしても、よっぽどのことがない限りあの2人にも対抗できる一つの自信が俺にはあった。

 

「取り敢えず、この中にスキーを本格的に習ったことがある人はいないかな?」

 

 それに誰も手を挙げることはない。まあ野球やサッカーと違って環境がかなり特殊で、そうそう出来るスポーツでもないしな。

 

「分かった。経験者がいないのは残念だけど仕方がないね。もし習ってたけど手を挙げるのに気が引けたって人は、後でこっそり報告してくれても構わないから。じゃあ次に、この試験についてみんなの意見を聞かせてもらえるかな。どんなグループ決めで試験を乗り切るべきか」

「俺たちから7人出して、他から1人ずつ引っこ抜いて作ったらいいんじゃねえの?」

「確かにそれは理想だけど、他のクラスの人たちも絡んでくることだから簡単にはいかないと思う」

 

 本格的に話し合いに入っていく。

 そんな時、通知が来た。

 堀北からだ。

 

『何か考えはないの?』

『綾小路に聞けよ』

『ゼロ回答だったわ』

 

 まあそうだろうなあ。最近の綾小路は堀北を突き放し始めている。

 別に俺も合宿のグループ分けに関して何か妙案が浮かんでるわけじゃないから、有効なアドバイスができるわけじゃないんだが。

 

『俺も今のところ特に思いついたことはない』

 

 そう返信したところで、茶柱先生が再び話を始めた。

 要約すると、報酬で得られたプライベートポイントをクラス内で均等に分け合うのは正しいことか否か、というものだった。

 茶柱先生は分け合うことのデメリットを説明した。明らかに「分け合わない」方向に意見を誘導しようとしていた。

 ポイントを分け合うことのメリットは俺も重々理解している。

 それを踏まえて、俺は分け合わない方に賛成だ。

 俺自身多くのポイントを所持しているというのも理由の一つだが、それ以外にも理由はある。

 分け合うことが定着し切った場合、一部の生徒がやる気を出さなくなってしまう恐れがある。

 ポイント獲得力のある生徒は「自分が頑張ってもどうせ40分の1しかポイントが入らない」、ポイント獲得力の低い生徒は「自分があんまり頑張らなくてもある程度ポイントが入ってくる」という風に。

 ポイントを分け合えば不平等がなくなる?果たしてそうだろうか。この主張はポイント獲得力のない生徒の立場に立ってのことだろう。だがポイントを獲得できないのは自分の実力不足でしかない。実力に見合ったポイントを獲得して何が悪いのだろう。むしろ完璧に均等にすることこそ、頑張った者が不平等を感じる結果になりはしないだろうか。

 俺は別に他者救済を否定しているわけじゃない。試験毎に報酬を分け合う必要性は無いと言ってるだけだ。ポイントを貸してくれと頼まれればよっぽど酷い理由じゃない限り貸すし、出してくれと頼まれれば出す。急を要する場合は俺もポイントを無理に出し惜しむことはしない。そしてクラスの殆どが同じ考えだろう。わざわざ報酬を分け合わなくても、その場その場で対応可能なのだ。

 あまりにポイントを持ちすぎると使い込む生徒が出てくるかもしれない。が、それは注意喚起すればいいだけの話だ。それにポイント獲得力の高い生徒はポイントを無駄にしたりはしないだろう。

 

「取り敢えず、多数決を取ってもいいかな。ポイントを分け合うかどうか。分け合う方がいいという人手を上げて欲しい。もちろん後で意見が変わっても構わないから」

 

 平田を筆頭にして、数人の手が挙がる。だが最終的な賛同者は両手の指で足りるほどの数しかいなかった。茶柱先生の説明を聞いた後だというのもあるだろう。

 

「ありがとう」

 

 ひとまずこれでよかった。

 

「それで、どうするの平田くん?グループ分けのこと」

 

 前の方に座っている女子が平田に言う。

 

「その前に、女子のリーダーを決めた方がいいと思う。携帯も没収されるし、男女に分かれるからアドバイスを送るタイミングもかなり限られてくるからね。だから堀北さん。お願いできるかな」

 

 そう言うと、みんなの視線が堀北に集中する。

 

「分かったわ。何か相談事があったら私に言ってくれて構わないから。ただ、私だと相談しづらい人もいると思う。だから櫛田さん、私の補佐をお願いできないかしら」

 

 ほう、ここで櫛田を起用するか。

 堀北なりにもがいてるのが読み取れる。

 

「えっと、私でいい、のかな?」

「ええ。クラスで誰よりも信頼されているあなたが間違いなく適任よ」

「そ、そう、かな。うん、分かった。私でよければ協力するよっ」

「ありがとう。これでみんな相談しやすくなったと思うわ。どんな些細なことでも相談に乗るから、遠慮なく話して欲しい」

 

 櫛田の裏の一面を知る奴からすれば櫛田ほど信頼できない奴もいないが、それを知らないクラスメイトは別だ。それに櫛田も自身の裏を知る者以外と敵対するつもりはないだろう。相談を持ちかけられたら親身になってくれるはずだ。

 とにかく、これでクラスの男女の統率は取れそうだ。

 

 まあ、この合宿で「クラス」の概念が通じるのか、それは甚だ疑問だが。




原作との変更点
・小グループの数が6から8になっている。それに伴い、人数にかかる倍率は消滅。
・スキー要素の追加。筆者はスキー全く経験したことがない(正確には幼稚園のころあるけど全く覚えてない)ので、描写がかなりおかしくなることが予測されます。許してください。
・7泊8日から9泊10日に日程が伸びている。これは単純にスキー要素が加わったことによる延長です。

取り敢えずこの3点でしょうか。

それでは、次話も首を長ーーーーーーーくしてお待ちください。

感想、評価お待ちしております。

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