実力至上主義の学校に数人追加したらどうなるのか。※1年生編完結   作:2100

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お待ちいただいていた方、そうでない方全てひっくるめて、皆さまお久しぶりです。センター試験終わったのでまた書いていこうと思います。



ep.61

 バスの昇降口で電子機器類を回収された俺たちは、茶柱先生の指示に従ってバスから少し離れた場所で待機している。

 バスは高速道路を降りたあと坂道を登り続けていた。その先にたどり着いたのがこの場所だ。標高は500mほどだろう。言うまでもなくめっちゃ寒い。両手はカイロの入っているジャージのポケットから出てこられず、身体は体温を上げようと必死で振動を続ける。

 目の前には、林間学校の施設と思しき巨大なグラウンドと木造校舎が広がっていた。巨大とはいっても、全校生徒約480人を収容し、9泊10日で宿泊、そして授業をするとなるとこれくらいの規模は妥当だろう。

 数分が経過し、普段関わりのない教師の先導に従って男女別々の施設に入っていく。

 男子生徒が使用するのは本校舎と呼ばれる大きめの校舎。古臭い感じはするが清潔感のある環境だ。

 校舎を歩くうちに、いくつかの教室を通り過ぎる。授業で使う教室だろう。見たところエアコンは設置されておらず、ポツンと置かれているストーブが暖房器具の役割を一手に引き受けているようだ。

 そのうちに、俺たちは体育館に通された。

 そこには数人の教師が待ち構えており、男子全員にクラス別で整列するよう指示が入る。

 ざわついていた体育館内が静まった頃合いを見計らって、数人の教師の1人がマイクを持って話し始めた。

 

「これより先は、バスの中での一通りの説明を全員が理解したものとして進行する。ではこれから、小グループを作成する時間を設ける。学年別で最大10人の8つのグループを作成するように。大グループの作成時間は午後8時から設けてある。また、大小関わらず、グループ作成に関して教師側は一切関与しないことを伝えておく。以上だ」

 

 説明終了と同時に列が解け、各自話し合いに入っていく。

 こんな感じのことは体育祭の時にもあったな。その時は「紅白それぞれの組みの顔合わせ」という名目だった。あの時は龍園率いる元Cクラス(現Dクラス)が真っ先に動いたが、今回はどうやら違うクラスが動き出すようだ。

 

「僕たちAクラスは、この9人で1つの小グループを組みます。あと1人加われば規定の人数です。では、加入希望者を募ります」

 

 確か……的場、だったか。そう言い放った。

 

「おいおい何勝手なことしてんだよ。お前らだけずりぃだろうが」

 

 須藤がその9人を睨みつける。

 

「そうでしょうか。ルールを破っているわけではありませんし、こちらは2クラス分の倍率しか得られません。言うほど傲慢な手法ではないと思いますが。それにグループは8つ分あるのですから、皆さんも同じような構成にすればいいだけの話です」

「いや、でも……」

 

 言葉に詰まる須藤。まあ的場の言うことに間違いはないからな。ただ、最後の説明には合点がいかない。倍率が低くていいと言えるのはクラスポイントトップであるAクラスだからであって、他のクラスも同じようにすればいいというのは理屈として成り立っているようで成り立っていない。

 他のクラスの代表格の様子を観察してみるが、今決断する者は出ない様子だ。慎重に事を運ぼうとしている。

 そんな中で、的場はこう付け加えた。

 

「残り5分。この間に僕らのグループに参加を決めた方には特別枠を用意しています」

「特別枠?」

「はい。このグループの責任者は葛城くんが務めますが、特別枠で加入した方には退学のリスクを一切負わせません。もちろん、わざとグループの足を引っ張るような行為をしたとしたら話は別ですが、純粋な実力不足は全て黙認します」

 

 この説明で、一部の生徒の顔色が変わった。これまでの試験で自信が持てず、自らが退学する可能性を危惧している生徒達だ。

 どの試験でも、ポイントを取れる生徒とそうでない生徒と2種類が存在する。クラスの作戦の中核を担ってポイントを稼ぎにいくのは前者の生徒。後者は出来るだけクラスのマイナスにならないように、そして何より自身の退学を確実に避けるために行動する。的場の言う特別枠は、この後者の生徒にとって渡りに船の提案というわけだ。

 

「ただし先ほども言った通り、この特別枠の有効期限は5分以内です。それを過ぎて参加を決めたとしたら、僕らが最下位を取った場合容赦なく道連れにします」

「だがそれだと、5分経てばAクラスの提案の価値はほぼ消滅する」

「そうだぜ。つかそんな約束信じれるかっつーの」

 

 神崎と須藤がそう言うが、的場は毅然としている。

 

「どう解釈してもらっても構いませんが、僕らは絶対に折れませんよ」

 

 それだけ言い残して、的場含むAクラスの9人は話し合いの輪から一歩、二歩と外れていく。

 

「無視でいいだろう。5分経てば向こうから話し合いに戻って来ざるを得ない」

「だな」

 

 Bクラスの神崎、柴田はその方向で行くようだ。Dクラスはどうやら金田がリーダー的存在らしいが、そっちも同様の姿勢のようだ。

 しかし我がクラスのリーダー・平田は違った。

 

「Aクラスの話、君たちはどう思う?」

 

 平田は明人、啓誠、清隆、俺の4人衆に相談を持ちかけてきた。

 

「どう、と言われてもな……」

「僕は悪くない提案だと考えてるんだ。Cクラス全員がこの試験をクリアすることが、高ポイント獲得より重要な絶対条件だと思ってるからね。クラス昇格したばかりでいい雰囲気を失いたくないし、敵ではあるけど彼らはAクラス。最下位になるリスクは低いはずだよ。それにあのグループには運動が苦手な生徒も少ないから、小グループ単位でやるって言うスキーの方もそれなりの報酬を期待できると思う」

 

 平田は安定を取る考えのようだ。

 

「問題は彼らが最後まで約束を守るつもりがあるかどうかだね。もし最下位になったら、約束を反故にして道連れにする可能性もないとは言えない」

 

 平田の懸念はもっともだ。が、俺はその点あまり心配していない。

 一年生男子全員の前で宣言した約束を反故にすれば、当然信頼を失う。

 だがそれ自体よりも、仮に約束を反故にして道連れにしたとして、信頼を失うことに対してのメリットが少なすぎるのが大きなポイントだ。

 もしここでBクラスのリーダー格である一之瀬や神崎の首がかかっていれば、信頼を失ってでもAクラスはやるかもしれない。だが今回Aクラスが道連れにできるのは、試験でポイントを稼げないと自覚している、決して有能とは言えない存在1人だけ。どう考えても悪手だし、今回の司令塔であろう坂柳がそうするとは思えない。

 まあそれを言うなら、クラス数の倍率を取りに行かず、堅実に順位を確保しに行った今回のAクラスの戦略自体、噂に聞く坂柳らしさは感じないんだが。

 

「……確かに、ありかもしれない」

 

 啓誠が呟く。その横で俺も首肯した。

 清隆と明人に反応は見えないが、異議を唱える様子はない。

 

「ありがとう。でもAクラスの提案に乗るとして、課題はBクラスとDクラスの反応だね」

 

 賛成の声が上がったとは言え、そう簡単に結論づけられるものではない。どう決断するにしても、何かしらの壁に突き当たる。

 的場の宣言がなされてから3分ほど経過しただろうか。神崎と平田がDクラスのまとめ役である金田に呼ばれた。

 それと同時に俺は「綾小路グループ」3人と少し距離を置いて立つ。それで3人から不思議がられることはない。大晦日に一緒に遊びに行って関係が深まったことは深まった。以降も放課後にこのグループで過ごす機会もあった。しかし俺だけ明らかに参加率が低い。まだ「綾小路グループ」に入りたてという現状を抜きにしても、だ。

 このグループに不満があるわけではない。いや、むしろ俺がこんな風に勝手に振舞ってても誰も責めないし気まずくならないからこそ、不満がない関係たり得ていると言っていい。

 

 そもそも俺にとって、この小グループ作成の話し合いにほとんど意味を持っていなかった。誰と組むか、始まる前から3割がた決まっている出来レースのようなものだからだ。そして俺はその出来レースに乗る必要がある。話し合いに参加することは俺にとってむしろマイナスになる可能性すらある。そのためこれ以上巻き込まれないよう、俺は話し合いの中心から出来るだけ距離を取った。

 数分ぼーっと立ち尽くしていたが、同じように話し合いからは距離を保っているある男の様子がふと目に留まり、声をかけに行く。

 

「1人か」

「見りゃわかんだろ」

 

 元Cクラスの前リーダー、今はDクラスのただの一般生徒、龍園翔だ。

 

「ほっといても、お前はいずれ話し合いの議題になるだろうな」

「羨ましいか?」

「まさか」

 

 グループ構成がある程度固まり始めた段階で、龍園をどのグループが引き受けるかで揉めるだろう。要するに押し付け合いだ。龍園も分かっていてああいう受け答えをしている。

 

「ただ、随分と1人が板についてるな。石崎やアルベルトを侍らせてた時よりよっぽど自然体だ」

「ほっとけ。俺には元々こっちが性に合ってんだよ」

 

 性に合っているというのは本当だろう。惨めさが滲み出ずにちゃんと孤高を貫けてるのは感心する。それはそれでひとつの才能だ。

 

「で、何の用だよ」

「別に用はない。暇だから話しかけただけだ」

「なら消えろ」

「不愉快にさせて悪かったな」

 

 それに龍園が返答することはない。こちらも返答があるとは思っていなかったのですぐに背を向けて立ち去った。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 話し合いは、俺が目を離している間に随分と進展があったらしい。

 Aクラス9人で固めたグループには山内が参加することになり、一つ目のグループが完成。現在は仮グループを3つほど作って調整を図っているようだ。

 仮グループはそれぞれ神崎、平田、金田を責任者に据え、その3人が所属するクラスから7人、残りの3クラスから1人ずつを持ってきたグループ。要するにこのグループが各クラスの「主力」ということになる。仮とはいえ各クラス人選はしっかりしており、運動の得意な生徒が固まらないようにしていた。Bクラスは神崎と柴田は別のグループになっており、Cクラスでは平田と須藤が別グループだ。

 綾小路グループの3人は、話し合いを近くで見守りながらも今作られている仮グループには入っていないようだ。俺もここで変に誘われるのはマズイので、先ほどと同じように話し合いからは離れた位置にいた。

 残りの4グループは、バランスの観点から極端なクラス構成にはしない方向で意見がまとまったらしい。一応こちらの方も仮グループを作成するようだ。そこにも関与せずに流れに身を任せていると、Aクラス3人、Bクラス2人、Dクラス2人のグループの中に俺が入っていた。ちなみにBクラスのうち1人は柴田だ。俺を見つけて声をかけてくる。

 

「よっ、久しぶり」

「そうだな。話すのは体育祭ぶりか」

 

 まだどの仮グループに入るかが決まっていない人数は龍園を含めて3人。ひとまずまとまってきたものの……やはり最大の鬼門が待っていた。

 

 龍園をどこが引き受けるか。

 

 綾小路にけちょんけちょんにやられた事と、龍園の今後の姿勢を知っている俺や綾小路からすれば龍園は(少なくともこの試験では)何もしないと言い切れるが、事情を知らないその他の生徒からすれば龍園はタチの悪い爆弾でしかない。龍園がDクラスのリーダーを降りたことは学年全体に知れ渡っている。しかしほとんどの生徒は半信半疑という感じだ。

 そんな中、一歩踏み出した生徒がいた。

 

「なあ、一つ提案があるんだが。今揉めてるのは龍園の所属グループなんだよな?だったら俺が龍園を引き受ける。代わりに俺がそのグループの責任者になってもいい」

 

 前に出てそう発言したのは明人だ。

 正直ちょっと驚いている。

 

「何企んでんだ?」

「別に。単にポイントを多く稼ぎたいだけだ」

 

 それも理由の一つだろうが……どうも取ってつけたっぽい。恐らく明人はこのこう着状態を動かしたかったんだろう。

 

「最下位になったら、誰かを道連れにする気なんじゃないのか?」

「意図的な妨害をしなければそんなことはしないし、できないルールのはずだろ」

 

 同じ仮グループメンバーからの反論も制す。

 これでひとまず決定、だな。

 龍園を明人が引き受けたことにより、浮動人員の2人の所属グループは自動的に俺たちのところに決まる。

 こうして、長いようでそんなに長引かなかった1年生の小グループ決めが終了した。

 俺はCクラスから1人だけになってしまったが、俺の場合そう気にすることでもない。なんとか知り合い程度の関係性の柴田がいるだけマシ。それにグループ全体を見ても問題児はいなさそうだ。このグループには取り立てて大きな問題は発生しないと見ていいだろう。

 そういう意味で言えば、啓誠のグループは悲惨だな……

 Bクラスはいいとして、まず高円寺が所属している。高円寺は実力面では申し分ないが、一緒にいると精神衛生上よろしくない。そして綾小路。あいつ単体では問題ないのだが、Dクラスから石崎と山田アルベルトが所属している。龍園の一件から何かと接しにくい関係性のはずだ。そして高円寺の姿勢を見て、沸点の低い石崎がいろんな意味でキレる可能性がある。何というか気の毒になってくるグループ構成だ。

 と、あれこれ考えているところに、グループ結成完了を教師に報告しに行っていた柴田ではない方のBクラスの生徒が戻ってきた。

 

「じゃあ、取り敢えず10日間よろしくな。責任者、やりたい人がいなければ俺が引き受けるけど、それでいいか?」

「ああ、頼む」

「よろしく」

 

 やはりというか、柴田が率先してまとめ役を引き受けてくれた。

 

「いいのか?そんな簡単に引き受けて」

 

 同じBクラスの生徒が不安そうに柴田に声をかける。

 

「大丈夫だって。みんな真面目だし。他グループには申し訳ないけど、ちゃんとやれば最下位なんてことにはならないと思うぜ」

 

 ポジティブな柴田だが、言っていることは俺と同感だ。このグループはかなりまともなグループであること、それは間違いない。顔の広い柴田が言ったことでより説得力のある説となった。

 そこで柴田が神崎に呼ばれ、断りを入れてから一時的に退席する。

 話題を振っていたまとめ役がいなくなると、当然話す空気でもなくなるわけで。普通ここは自己紹介でもしておくべきなんだろうが、まあそれは後ででもいいだろう。

 同じグループに所属することになったAクラスの3人に目線を移す。

 里中、宮平、太田。

 全員坂柳派でも葛城派でもない、隠れた藤野派のメンバーだ。

 藤野はバスの中でこの3人の顔と名前を俺に送り、「3人には固まって待機してもらうから、自然な流れで同じグループになってほしい」と頼んできた。

 一応この3人には俺が藤野と繋がっていることは伝えていないらしいが、薄々勘付いているだろうと聞いた。

 こんな事をする目的は、藤野によれば大きく分けて2つ。

 ひとつ目は、この3人の能力や適性を把握しておく事。俺が藤野派の生徒を裏から動かすとなった時に、これらの情報は重要になるだろうとのことだ。

 そしてもう一つ。

 この3人が坂柳に取り込まれていないかどうかを見極めること。

 この学校では誰が誰を裏切っているか分からない。この3人は初めから坂柳にも葛城にも懐疑的な考えで、藤野もこの3人のことは信頼しているらしいが、裏切っている可能性も排除しきれていない。

 やはり坂柳の天性のカリスマというのは凄まじいらしい。実際に相対したことは2度ほどしかないが、上に立つものの風格ってやっぱりあるもんだな、と思った。確かにあれにあてられたら、萎縮して屈服してしまうのも分からないではない。

 そしてその風格に見合う実力も、恐らくは持っている。言っちゃ悪いが、葛城や藤野とはレベルが違う。藤野はそれが分かって俺を頼ってるんだろうが……俺も坂柳に勝てるイメージなんて全くないんだけどなあ。

 まあ、2つ目に関しては念には念を入れて、ということだろう。

 そもそもこの3人が裏切っていたとしたら、その時点で藤野は終わる。それに、恐らく藤野が気づくだろう。同じ教室で過ごしていたからこそ分かる空気の変化があるはずだ。それを今まで感じていないということはこの3人が裏切っている可能性はかなり低い。

 そしてそれを抜きにしても、藤野の人間観察力は並大抵のものではない。櫛田ほどではないにせよ、藤野にはそれを補って有り余る頭の回転の速さがある。

 それよりも危険性があるのは、俺から藤野の隠れた派閥の存在が明らかになる流れだ。恐らく坂柳は俺と藤野の関係に違和感を覚えている。

 ただ、それはまだ「根拠のない違和感」程度の段階だろう。それに、一応坂柳が俺を藤野のバックにいる人物として決定付けていいものか迷うような布石を打ってはいる。坂柳が藤野と俺の繋がりにたどり着くとしても、それはもう少しだけ先、具体的には学年末くらいになるだろう。少なくとも今回の試験で何か想定外の弊害が生じる危険性は高くない。

 

 

 となると、俺が今回集中すべきは里中、宮平、太田の能力の見極め、そして未知数のスキー演習か。




久しぶりすぎて感覚忘れてますね……
これから1年生終了までにかけてオリジナル要素が多くなるので、頑張ってまとめあげていこうと思います。応援よろしくお願いします。
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