実力至上主義の学校に数人追加したらどうなるのか。※1年生編完結   作:2100

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ほんのちょっと短めですがお楽しみください。次々話で8巻分本編は完結するかと思います。


ep.66

 疲労がどれほどたまっていようとも、カリキュラムは滞ることなく進められていく。

 筋肉痛の体を無理やり起こし、朝食づくりと座禅を終わらせ、現在施設清掃の時間を迎えている。

 いまは室内清掃だが、あと15分もすれば外の清掃区域へと移動になる。

 俺たちの小グループは、廊下とその周辺の窓ガラスの掃除を担当していた。

 清掃範囲は広い。そのうえ拭くのに使用するのはモップではなく雑巾なので、よりいっそう体力の消耗が激しい。

 

「ふう……」

 

 雑巾がけを1往復終え、息を整えるために少し休憩を入れる。

 廊下長すぎ。マジできつい。片道20メートルくらいあるだろこれ。

 ていうかまず何でモップじゃないんだよ。

 一昔前の閉鎖的な男子校の中には、便器の掃除を素手でやらせるところがあったらしい。モップかける方が楽なのにわざわざ雑巾でやらせるのは、程度の差こそあれ、本質的にはそれと変わらない気がする。

 俺がいくら嘆いたところで、何かが変わるわけでもないのだが。

 

「お疲れだな、速野」

「……柴田は元気そうだな」

「ま、それが取り柄だからな」

 

 グループのリーダーである責任者が元気なのはいいことだ。

 廊下沿いの教室では、啓誠が責任者を務めるグループが掃除をしているが、啓誠のようすは柴田とは対照的。合宿のハードスケジュールにより、疲労困憊しているのが一目でわかる。

 俺が向こうのグループを見ているのに気づき、柴田もそこに視線をやる。

 

「っ、腰が……」

 

 啓誠は苦しそうにその場にうずくまってしまう。

 

「何が腰が痛いだ。ちゃんとやれよ」

 

 配慮も優しさもない乱暴な声をかけ、腕をつかんで強引に立ち上がらせたのはDクラスの石崎。

 

「わ、わかってる。わかってるから……手を放してくれ」

「ったく、情けねえ責任者だ。しっかりやれよな」

 

 そう言い放ち、石崎はつかつかと自分の持ち場に戻っていった。

 啓誠も掃除を再開しようとするが、その動きはぎこちない。

 今のワンシーンを見ただけでもわかる。このグループは空中分解寸前であると。

 ただ俺自身、このグループがこういう流れになることは想定していなかったわけではない。そのため心配はするもののそこまで大きな驚きはない。初日の時点で綾小路にも言ったが、このグループは構成からしてかなり悲惨だったからな。

 石崎は荒れてるし、高円寺はそもそも掃除に参加すらしていない。さらに、ただでさえリーダー向きではない啓誠は、自分の体力不足に負い目を感じ、グループをうまく引っ張っていけていないようだ。

 それだけではなく、誰一人石崎をなだめようとしないのも、このグループの惨状を現している。

 先ほどのやり取りが耳に入っていないはずはないが、みんな聞こえないふりを決め込み、石崎と目が合わないように黙々と掃除に取り組んでいた。こういうのが常態化してる証拠でもある。

 このままだとまずいことになる。それは恐らくグループメンバーを含め(高円寺を除く)、このグループの実情を知っている誰もが感じてることだろう。

 だが、このような惨状を目にしても、他のグループへの手出しはできない。俺からできることは、精々心の中で啓誠にエールを送ってやることぐらいだ。

 グループの問題はグループで解決してもらうしかない。混合合宿とはそういう試験だ。

 

「大変そうだな、向こうのグループ」

 

 俺らのグループがかなり平和なだけに、余計そう感じるのかもな。

 

「あ、そういえば昨日の綾小路、すごかったよな!」

 

 掃除に励む清隆の姿を見て、何かを思い出したように柴田が言った。

 

「……何がだ?」

「何って、決まってんじゃん!アレだよアレ!」

「……いや、決まってんじゃんとかアレとか言われてもわからないんだが」

「え、もしかしていなかったのか?」

「……いなかったってどこに?」

「あー、いなかったんだな……もったいない」

「いや……あの、まずは目的語をつけてしゃべってくれないか」

 

 俺の頭の中には大量のはてなマークが次々と出現し、脳内を埋め尽くしていく。

 いくら俺がコミュ障といえども、さすがに今のは向こうに原因がある。

 さっきのやり取りだけで柴田のいわんとすることを理解できるのは、心理学などに恐ろしく精通した人物。具体的には「お主ぃぃ!」じゃない方のダイゴくらいのものだろう。

 

「あ、悪い、何言ってるかわからなかったよな……」

 

 うん。全然わからんかった。

 

「ちょっと耳貸してくれ」

 

 言われるまま、俺は左耳を柴田の口元に近づける。

 

「あんまでかい声では言えないんだけどさ、実は昨日大浴場で、誰のアソコが一番大きいかって話になったんだよ」

「……ああはい、アソコね」

 

 さすがの俺でもカタカナで表記された「アソコ」が何を指すかぐらいはわかる。要するに「アソコ」とは「アソコ」ことであり、「アソコ」以外の何物でもない。

 

「みんなアルベルトのデカさにビビってたんだけど、それを高円寺が上回ったんだよ」

 

 ……ああ、それはなんか想像つくな。

 

「それでそのあと、龍園に乗せられて綾小路も見せる雰囲気になったんだけど」

 

 龍園のやつ絶対私怨混じってるだろ。

 

「で、綾小路はその高円寺と同じぐらいだったんだよ!」

 

 え、マジ?すげえなそれは。

 清隆のはアルベルトよりもデカいってことだろ。

 

「へえ……」

「な、すごいだろ?その場にいなかったのもったいないなーマジで」

 

 いやすごいとは思うけど別にその場にいたかったとは思わねえよ。なんで俺が他人のモノ見たいと思ってる前提なんだよ。見たくねえよ。

 あーでも、周りの雰囲気が出来上がって、もはや見せるしかないことを悟って追い込まれている時の清隆の顔は、ちょっと見てみたかったかもしれない。

 にしてもそうか。清隆と高円寺がツートップで、次点にアルベルトか。全部啓誠のグループのメンバーじゃん。今度からあのグループのこと大艦巨砲軍って呼ぼうかな。

 いや、面白そうだけど名前長くて呼びにくいからやめとくか。命拾いしたな清隆。

 ちなみになぜ俺がこの話を知らなかったかに関しては、その遊びが始まる前に大浴場を出たからだろう。早めに出てよかったー……

 

「なあ、そういえば昨日、スキーの1年の『基礎コース』で誰かケガしたって聞いたんだけど」

 

 俺と同じく、雑巾がけをしていた太田が会話に混ざってくる。それによって話題がシモの話からスキーの話に入れ替わる。まさに霜から雪への入れ替わり。疲れた状態でボケるのはだめだなとおもいました。

 

「ああ。滑ってる途中で足がつって、コントロール失って森に突っ込んだらしい」

「マジかよ。超危ないな」

「木にぶつかった勢いで右足をケガしてた」

「確かケガしたのってCクラスの女子だっけ?」

「そうだ。だから結果に影響がないかちょっと心配ではあるんだが」

 

 松下のその後の経過は聞いてないが、一時は歩けないほどに足を痛めてしまった。最悪スキーには参加できないかもしれない。そうなると気の毒なのは松下の小グループだ。

 まあ、こればっかりは松下の回復力しだいだ。

 

「そういや、速野の方はどうなんだよ、スキー。大丈夫そうなのか?」

 

 スキー演習のタイム計測の形式はリレーだから、グループで合わせることが重要になってくる。ちなみに日下は昨日の時点で『演習コース』に移動していた。

 

「多分今日にはそっちのコースに行けると思う。遅くなって悪かったな」

「いやいいさ。待ってるぜ」

「ああ」

 

 一身上の都合でコース移動するのが遅くなったのは、自分でも本当に申し訳ないと思っている。

 その代わりといってはなんだが、最後のリレーでは一生懸命グループに貢献する所存だ。

 

 

 とりあえず今は掃除だ掃除。

 

 

 

 

~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 座学の授業を終え、スキー演習の時間がやってきた。

 掃除時間に言った通り、授業が始まってから一時間ほどが経過したころ、俺は講師に太鼓判を押され、晴れて『基礎コース』を卒業し『演習コース』へ移動して練習していた。

 『演習コース』で取り組む内容は『基礎コース』とは全く違う。

 『基礎コース』では、講師が生徒につきっきりで基礎を教え込んでいる。

 しかし『演習コース』は基本的に自主練習。もし何かコツなどを教えてほしい時には、個別的に講師に教えを乞う、という形をとっていた。

 そして自主練習とはいっても、みんな好き勝手に滑っているわけではない。

 明後日にある最後のタイム計測に向け、ほとんどの生徒は小グループで固まり、リレーの練習をしていた。

 グループ一丸となってタイムを縮めるために試行錯誤しながら、時には講師の手も借りつつ、練習を重ねていく。

 しかし、そのようなグループでの練習など目もくれず、颯爽とこの雪山を滑る生徒が一人。

 そう、高円寺六助である。

 高円寺のスキー技術は常人のそれをはるかに超えており、プロ講師ですら舌を巻くほど。

 スピードはもちろん、コントロール、姿勢、どれをとっても文句のつけようがない。この学校でスキーが一番速く、上手いのは高円寺であるということは、もはや全員の共通認識だった。

 ただし、高円寺は気まぐれで動く男だ。

 高円寺の属するグループは啓誠が責任者を務めている。そのため最下位を取り、且つ平均点が最低ラインを下回ったとしても、啓誠と同じクラスである高円寺が道連れで退学する可能性は限りなくゼロに近い。

 そのため、今はあれだけのものすごい技術を見せている高円寺だが、最終タイム計測でも同じように滑るかどうかはわからない。いや、そもそもタイム計測に参加するかすら怪しい。

 

 ただ、今はほかのグループの心配をしている場合ではない。俺がコース移動を果たすのが遅かったせいで、このグループは未だにちゃんとしたリレーをできていない。

 

「速野、リレーの手順はわかるか?」

「一応資料には目を通したからな。ただ実際にやってみないと何とも言えない」

 

 このリレーではバトンのようなものが存在しない。

 次の走者は、コースとコースの間にある待機スペースで待機し、前の走者は次の走者にタッチして走者をチェンジする。

 また前の走者は、コースを滑り切って待機スペースに入る前に止まり、スキー板を外してから次の走者にタッチしに行かなければならない。スキー板を外さないまま待機スペースに入ってしまったら、タイムが+15秒される。

 把握しておくべきルールはこれくらいか。そのほか細かい禁止事項もあるが、普通に滑ってれば違反することはない。

 

「じゃあタッチのところだけやってみようぜ。特に速野は慣れてないだろうからさ」

「助かる。ただ、先に順番決めてからにしないか。今日も計測はするんだし、早めに決めた方がいい」

「確かにそうだ。ちなみに速野は何番めがいいんだ?」

「特に希望はないが……スターター以外ならどこでも」

「スターターはもう決まってるから大丈夫だ。こいつスキー板つけるのめっちゃ早いんだぜ」

「それは頼もしいな」

 

 スターターはBクラスの生徒のようだった。

 スキー演習初日の説明にもあったが、スターターはスタートの合図があってから、スキー板をブーツに固定して滑り出す。

 これは恐らく、誰が最初にインコースをとるかで不公平が生じないようにするためだと思われる。

 最初にインコースを確保できれば、レースを有利に進めることができる。

 

「じゃあ日下の次とかどうだ?7番滑走」

「7番か。わかった」

「みんなもそれでいいよな?」

 

 異議を唱える者が出てこないのを確認し、柴田は満足顔になった。

 

「俺の次は誰だ?」

「えーっと、昨日の7番目だから……宮平だったよな」

「じゃ俺は日下からタッチされて、宮平につなげばいいわけだな」

「そういうことだ」

 

 面子を確認したあと、すぐに練習に入った。

 タッチは相手の右手首付近に軽く触れる程度。気持ち少しだけ押し出して、スタートの勢いをつけてやるような感じだ。講師にアドバイスをもらって、そこからいろいろと試して改良した結果、いまのこの形になったらしい。

 中々いいと思う。少なくともこれならやる方も簡単だし、受ける方もスタートダッシュで調子が狂うようなことはない。

 

「こんな感じか」

「それで大丈夫だ。本番もその調子で頼む」

「わかった」

 

 バトンタッチの方も何とかなりそうだ。

 おおむね順調だな。

 そしていよいよ、7日目のタイム計測を迎える。

 タイム計測は毎日行われ、その結果は公表されているため、今までこのグループがどれくらいのタイムだったかは把握している。

 最初は1時間20分ほどだったのが、昨日はついに1時間の大台を突破して、8グループ中3位にランクインしていた。全員がしっかり成長している証拠だ。

 

 ちなみに計測は学年別、男女同時に行われ。その順番も日によってランダムだが、今日は1年生→2年生→3年生の順で計測していくとのことだ。

 

 そんな調子で本番を迎え、滑り終えたのだが、レースについて特筆すべき点は、高円寺がちゃんと本気で滑っていたことと、その高円寺と俺の滑走順が被っていたこと、それにレースコースは割と滑りやすかったということ、あとタイム計測は滑ってる人以外はかなり暇な行事だったってことくらいだな。

 自分の学年のレース以外の時間は練習が認められてるからまだいいが、自分のレースのときは指定のスペースでレースを見守らなければならない。つまり少なくとも40分以上は拘束されることになる。

 

「お前結構速くね?」

 

 同じ『基礎コース』出身の日下が、少し驚いた表情で尋ねてきた。

 

「そうか?まあきっちり基礎仕込まれたからな」

「いや、それは俺も同じだけど……」

 

 スピードを出すためには、速いスピードを恐れないことだ。

 初心者だから恐れる気持ちもわかる。その恐怖心が腕の振りを委縮させる。それによってストックで地面を蹴る力が弱くなり、結果的にスピードが抑えられてしまう。

 そんな恐怖心さえ克服してしまえば、さらにタイムは改善することだろう。

 事実、高円寺やそのほかの経験者とみられる生徒は全員、ストックを思いっきり振って前に進んでいる。

 

「まあでも、俺たちからすればうれしい誤算だからいいけどさ。正直、Cクラスから出てるのがお前一人だからって、ちょっと手を抜いてるんじゃないかと疑ってたんだ」

 

 なるほど確かに。日下の言うことも分からない話ではない。

 混合合宿は、最終日の試験の平均点の順位で報酬が決まる。

 当然、高ければ高いほど報酬も増える。逆に低いほど報酬は減り、5位以下はマイナス報酬だ。

 そしてすべてのグループの報酬を総合したとき、できるだけ高い報酬を獲得したいと思ったなら、クラス全員が全力を注いで試験に取り組むことが最善というわけでもないのだ。

 平田が責任者を務め、Cクラスが7人所属するグループが1位にランクインし、俺や山内が所属している、Cクラスが1人しかいない2つのグループがそれぞれ下位を取るのが理想だ。そうすればプラス報酬は大きくなり、マイナス報酬は小さくすることができる。

 スキーの報酬は現時点で発表されていないが、もしも試験の報酬と同じような形をとっているとしたら、俺が手を抜いてこのグループの順位を落とすことは、クラスの報酬を増やすための有効な作戦の1つといえる。

 しかし、これを実行するのはリスクが高すぎる。

 

「……それは心外だな。低い順位を取ればプライベートポイントを没収されるんだ。俺はそんな余裕があるほどポイント持ってないし、そういう手抜きを防止するための道連れのルールだろ?」

 

 スキーは試験の順位に関係ないとはいえ、手を抜けば責任者に恨みを買う。それでもしグループが指定の平均点を割ったら、俺が退学させられるリスクが高まる。

 ポイント持ってないってのは嘘だけど。

 

「確かに、そりゃそうだ。退学させられたら本末転倒だもんな」

「そういうことだ」

 

 俺はこの試験、かなり一生懸命取り組んでいる。

 もちろんスキーもだ。

 というかスキーに関しては手を抜いていたどころか、むしろ一番一生懸命やったと断言できる。

 

「おーい2人とも、残り時間で練習しようぜー」

「ああ、今行く」

 

 

 

 その一生懸命さが実るかどうかは、まだ公表されていない報酬の内容によるけどな。




主人公は風呂場にいなかった設定にしました。

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