実力至上主義の学校に数人追加したらどうなるのか。※1年生編完結   作:2100

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8巻分本編最終話です。


ep.68

 この合宿中、全体集合の場では、常に緊張感が漂っていた。

 しかしカリキュラムがすべて終了した今は、もうその糸は切れ、今度は10日間もの合宿による疲労感が体育館全体を包んでいた。

 

 いよいよ運命の結果発表だ。

 場所は本棟体育館。男子は距離的に近かったため先に集まり、その数分後に女子が集まった。

 全員荷物を持って集合している。

 

「大丈夫だと思ってても、やっぱりいざ結果発表となると怖いな……」

「自信もっていいと思うぞ柴田。お前がまとめてくれたおかげでスムーズに試験が進んだんだ。ありがとう」

「あ、ああ。こちらこそ」

 

 そういって、柴田と宮平が握手を交わした。

 確かに。もし小グループができた最初のタイミングで、柴田が責任者として名乗りを上げていなかったら、大きな混乱は生まれないまでも、ここまで足並みがきれいに揃うことはなかっただろうな。

 俺も柴田には感謝している。

 俺が入ったのがこのグループでほんとによかった。

 

 全員が集まったことが確認できたところで、初老の男性が前に出て、マイクを握った。

 いよいよか。

 

「10日間の林間学校での生活、皆さんお疲れさまでした。この林間学校での特別試験は、数年に一度のペースで行われています。試験内容に違いはありますが、今回は、前回よりも評価の高い内容となりました。皆さんのチームワークの賜物でしょう」

 

 この男性は、林間学校の施設内で何度か見かけたことがある。

 ここを取り仕切っている人物なのだろう。

 

「発表する結果は主に2つ。スキーのタイム計測の報酬と試験の結果であることは、皆さんもご承知の通りでしょう。まず初めに、スキーの方から発表していきます」

 

 そういうと、職員が生徒全員に行き渡るように、各列の先頭に人数分の資料を配布する。

 

「皆さんには諸事情により、スキーの報酬の基準が発表されていませんでした。この資料に、1つめの報酬の基準と、報酬の内容が書かれています」

 

 俺にとっては、ここが一番緊張する瞬間だ。

 心拍数は跳ね上がる。冬なのに、少し暑く感じてきた。

 俺がわざわざ『基礎コース』に居座ったという行為は、意味のあることだったのか、それとも無駄だったのか。

 

「皆さんは、2日目に初めてあったスキー演習の時間から、1日も欠かさず、計9回のタイム計測を行ってきました。まずはそのタイムすべてを合計し、速い順に順位をつけていきました」

 

 配られた資料にはこうある。

 

 

 

 

 スキータイム計測 グループ報酬基準①

 

 学年別、小グループごとに、計測した計9回のタイムを合計し、その合計値が少ない順に1位~8位まで順位をつける。

 具体的な報酬の内容を以下に記す。

 

 

1位 プライベートポイント1万、クラスポイント5

2位 プライベートポイント5000、クラスポイント3

3位 プライベートポイント2000、クラスポイント1

4位 プライベートポイント1000

5位 報酬なし

 

 以上を、所属グループのメンバー全員に支給する。

 

6位 プライベートポイント5000、クラスポイント2

7位 プライベートポイント7000、クラスポイント4

8位 プライベートポイント12000、クラスポイント6

 

 以上を、所属グループのメンバー全員から没収する。

 

 

 

 

「え、最終日だけじゃないんですか!?」

 

 多くの生徒は、その点に驚きを隠せない。

 

「はい。タイム計測は最初から最後まで、本番扱いだったということです」

「マジかよ……」

 

 バスの中行われた、試験に関する説明の言い回しを思い出してみればわかる。

 茶柱先生は「タイムにより算出する」としか言っていない。

 多くの人は「最終日に合宿の試験が行われる」という説明につられて、「スキーに関しても、最終日のタイムで報酬が決まる」という先入観を抱いていたが、誰もそんなことは言っていないわけだ。

 

「では1年生の部から、この報酬基準に基づいた順位を発表します。なお、読み上げる際には、小グループの責任者の名前のみを読み上げます」

 

 恐らく俺たちのグループは、この採点基準では、あまり高い順位はとれていないだろう。

 

「1位、幸村輝彦くんのグループ」

 

 まあ、1位の予想はほとんど全員ついていただろう。

 本気を出した高円寺の存在は、この上なく大きいということだ。正確なタイムはわからないが、あの速さなら800メートル1分台だろ多分。

 名前を呼ばれた啓誠のグループだが、その反応は1位を取った割に微妙なものだった。

 それもそうか。合宿で掃除すらせず、グループがまとまらない理由の一環である高円寺がスキーで活躍したという事実を、素直に喜ぶことはできないだろう。

 

「2位、葛城康平くんのグループ」

 

 次いで呼ばれたのは、Aクラス9人が固まったグループだ。

 Aクラスはこの1グループだけで、27ものクラスポイントを稼ぎだしたということだ。Aクラスの采配は的中したといっていい。

 その後も次々に順位が発表されていく。

 俺たちのグループは、6位という順位に終わった。

 マイナス報酬だ。

 

「あー、やっぱりマイナス行っちゃったか……」

 

 この順位に関しては、間違いなく俺のせいだ。

 最初から俺が本気でやっていれば、少なくともマイナスなんてことにはならなかったはず。

 

「とりあえず、申し訳ない……」

「いや、いいんだよ。速野は速野で考えてやったことなんだ」

「悪いな」

 

 グループのメンバーには、俺が最初に『基礎コース』にいた理由をすでに説明した。

 柴田はそう言ってくれるが、もしこのグループが平均点を割るようなことがあれば……俺は間違いなく道連れ第一候補だろうな。スキーもそうだし、俺は座禅でも点数をしょっ引かれてるはずだ。

 もちろん、試験で最下位をとるようなことはないとは思うが。ましてやこのグループなら、平均点のボーダーを割るなんてことは確実にないはずだ。

 

「では次に、この報酬基準に従った個人順位も発表します」

「こ、個人順位!?」

「そんなのがあるのか!?」

 

 どんどん剥がされていく、スキー報酬のベール。

 想像していたものと大きく異なるその姿に、生徒の多くは狼狽している。

 

 これに関しては、さっきより一回り小さいサイズの資料が配布された。

 

 

 

 

 スキータイム計測 個人報酬基準①

 

 先ほど配布された資料に記載された報酬基準に則り、男女別、学年無差別で個人の順位をつける。

 具体的な報酬の内容を以下に記す。

 

1位 プライベートポイント50万、クラスポイント15

2位 プライベートポイント30万、クラスポイント10

3位 プライベートポイント10万、クラスポイント5

4位 プライベートポイント5万、クラスポイント3

5位 プライベートポイント2万、クラスポイント1

 

 以上を支給する。

 

ワースト3位 プライベートポイント3万、クラスポイント5

ワースト2位 プライベートポイント8万、クラスポイント10

ワースト1位 プライベートポイント10万、クラスポイント15

 

 以上を没収する。

 

 

 

 なるほど。プラスにしてもマイナスにしても、かなり高額な報酬だ。

 

「ここでは1位から5位までの生徒を発表します。1位、1年Cクラス、高円寺六助くん」

 

 これに関しても、先ほどと同様驚きは全くない。

 本人はそのつもりはないだろうが、今回は高円寺がかなりクラスに貢献した形となっている。

 

「堀北先輩、タイムをお互いに開示しましょうよ。どちらが速かったか。こっちは初日から最終日まで記録してますけど、そっちはどうですか?」

「俺も記録している。問題はない」

 

 ああ、そういえば、こっちも勝負に含まれてたな。

 にしても、初日から最終日までばっちり記録していたということは、2人とも、タイム計測は全て採点に含まれるって可能性を考慮してたってことか。

 この辺りは、やはりさすがといったところだな。

 

「俺の勝ちのようだな、南雲」

 

 堀北先輩が勝利を宣言すると、3年生の一部からは歓声が上がる。

 

「どうやら、スキーでは俺の負けのようですね。さすがです、堀北先輩」

 

 言葉ではそういう南雲会長だが、表情からは悔しさが微塵も見て取れない。

 それはポーカーフェイスが上手いからとかではなく、単に悔しくないからだろうけどな。

 

「以上で、始めの採点基準による順位の発表を終わります」

 

 その言い回しに、多くの生徒は疑問を覚え、体育館中がざわつく。

「始めの」ということはつまり、次の採点基準があるということなのだから。

 

「続いての報酬基準を発表します。これに関しても資料を配布しますので、確認してください。こちらの方も、小グループと個人の2パターンの報酬がありますが、今度は2つの報酬が、表裏で1枚になって掲載されています」

 

 資料が配られていくと、前の方から後ろの方へと、ざわめきの波が伝わっていく。

 

 そして俺の手元に資料がきたとき。

 

 

「……っっしゃあっ」

 

 

 思わず俺はガッツポーズをしてしまった。

 

「は、速野、お前すげえよ!」

「全部お前の読み通りじゃねえか!」

「よかった……マジで……」

 

 

 資料にはこう書いてあった。

 

 

 

 

 スキータイム計測 グループ報酬基準②

 

 学年別、小グループごとに、最終日と初日のタイムを比較し、タイムの成長幅が大きい順に1位~8位まで順位をつける。

 具体的な報酬の内容を以下に示す。

 

1位 プライベートポイント1万5000、クラスポイント9

2位 プライベートポイント1万、クラスポイント6

3位 プライベートポイント5000、クラスポイント3

4位 変動なし

 

 以上を、所属グループのメンバー全員に支給する。

 

5位 プライベートポイント2000、クラスポイント1

6位 プライベートポイント8000、クラスポイント4

7位 プライベートポイント1万5000、クラスポイント7

8位 プライベートポイント2万、クラスポイント10

 

 以上を、所属グループのメンバー全員から没収する。

 

 

 スキータイム計測 個人報酬基準②

 

 オモテ面の報酬基準に則り、男女別、学年無差別で個人の順位をつける。

 具体的な報酬の内容を以下に示す。

 

1位 プライベートポイント100万、クラスポイント30

2位 プライベートポイント50万、クラスポイント15

3位 プライベートポイント25万、クラスポイント10

4位 プライベートポイント10万、クラスポイント5

5位 プライベートポイント5万、クラスポイント3

 

 以上を支給する。

 

ワースト3位 プライベートポイント10万、クラスポイント10

ワースト2位 プライベートポイント20万、クラスポイント15

ワースト3位 プライベートポイント30万、クラスポイント25

 

 以上を没収する。

 

 

 

 

 

「では、まずは1年男子小グループから発表していきます。1位は……柴田颯くんのグループ」

 

 そう発表された瞬間、俺の前後から喜びの声が発せられる。

 

「よっしゃ!」

「完全にさっきのマイナス報酬チャラにだぜ!」

「マジですげえよ速野!」

「いや、だから提案者は俺じゃなくてだな……」

「関係ねえよそんなの!」

 

 はあ……とりあえず、よかったよかった。

 俺が賭けた可能性が、最高の形で実現した。

 賭けに勝ったのだ。

 

「では次に、先ほどと同じく1位から5位の生徒を発表します。1位は……1年Cクラス、速野知幸くん」

 

 俺のやっていたことが、完全に実った瞬間だった。

 

 では、そもそもなんで俺が、知らされてもいない「タイム成長順」という順位付けの存在を予測することができたのか。

 これも先ほどと同じ、バス車内での先生の説明がカギだ。

 スキーについての茶柱先生の説明を要約すると、「スキー演習については、学校側も生徒が楽しむことを目的として日程を組んだ面はある。しかし、これもまた、今回の特別試験のテーマに沿って行われるテストの一環である。そして報酬はタイムにより決定する」となる。

 ここから読み取れることは、スキーはエンタメ目的というだけではなく、通常試験と独立してはいるものの、特別試験のテーマに沿ったテストの一環ではあること。

 最重要なのは「テストの一環」というところ……ではなく、「特別試験のテーマに沿った」という部分だ。

 この部分から、スキーには特別試験のテーマに沿った採点基準が採用されているだろう、という予測がたつ。

 そして今回の特別試験のテーマとは……「成長」だ。

 これらすべてを組み合わせると、「スキー試験では、生徒たちのタイムの成長を見る」という文が浮かび上がってくる。

 

 「テーマに沿って行われる試験」という言葉の意味を深く考える人はそう多くはいないだろう。試験はふつう、テーマに沿って行われるものなのだから。逆にテーマに沿っていない試験というのは変だ。だから多くの人は「まあ当たり前だよな」で流してしまうのだ。

 

 恐らくだが学校側は、俺のように謎解きをしてほしかったわけではないだろう。純粋に生徒の成長度合いを見たかったはずだ。

 しかし採点基準を公表してしまえば、恐らく全学年全クラスが、俺と同じようなことをするだろう。それではしっかりとした観測ができない。だから学校側はそれを防ぐために、採点基準を公表しなかった。

 

 しかし、ここで一つ疑問が残る。

 学校側にそのような狙いがあったのならば、どうして茶柱先生は「テーマに沿って行われる」なんて説明の仕方をしたのか。

 少し頭が回る人なら、あのセリフによってこの程度のからくりに気づくことはできるはずだ。

 少なくとも坂柳、南雲会長、堀北先輩あたりは気づいてもおかしくない。もしかしたら、それ以外にも気づく人が出てくるかもしれない。

 そんな危険性がありながら、どうしてそんなことをしたのか。

 

 ……これは俺の勝手な予想だが、このセリフは学校側の方針ではなく、茶柱先生が勝手に繰り出した策略なのではないだろうか。

 

 先ほどから言っているように、もし「テーマに沿って行われる」というセリフがあったなら、坂柳、南雲会長、堀北先輩がそろいもそろって気づかないのはおかしい。あの3人の頭脳はそんなレベルではないだろう。

 対して、俺が仮に「テーマに沿って行われる」との説明を受けていなかったら、恐らくは気づけていない。

 しかし実際はどうだ。

 坂柳は恐らく気づいていない。さっきグループのメンバーに(念のため「テーマに沿って行われる」と説明があったことはぼかして)説明した時に見せた里中、宮平、太田の反応は、間違いないく初めて聞いた時のそれだった。

 南雲会長も堀北先輩も、この結果を見る限り気づいてはいないらしい。気づいていたとすれば、俺が1位を取れるはずはない。

 このおかしな状況を説明できる仮説は、ただ1つ。

 あのセリフは俺にだけ伝えられていて、他には伝えられていなかった、という場合。

 すなわち、「テーマに沿って行われる試験」という言い回しで説明が行われたのは、1年Cクラスだけだった、ということだ。

 もちろん、茶柱先生もルールの穴をついてやったことだろう。

 そうだとしても、これが非常に危険な綱渡りであることには違いない。

 だが茶柱先生は、Aクラスに上がりたいがために、清隆に脅しをかけるような人物だ。そのくらいのリスクを冒していても何ら不思議じゃない。

 

 もし俺の仮説が正しいとすれば、俺は今回、茶柱先生にうまく利用されたことになる。

 だが、別にそこはどうでもいい。

 利用されたのが気に入らないとか、そんな感情はない。

 結果として、俺は100万ポイントを手にした。

 利用されていようがいまいが、その事実さえあれば十分だ。

 

 

 さて。

 そういえば、俺が勝手に仮説を立てていたことがもう一つあったな。

 堀北先輩と南雲会長の対決について。

 そろそろその結果が出るころだ。

 

「では続いて、試験結果の大グループの順位を発表します。読み上げる際には、3年生グループの責任者のみを読み上げます。また、先に結果に触れることにはなりますが、男子全員、退学者を出さずに試験を乗り切ることができました。おめでとうございます」

 

 そう発表されると同時に、男子からは安堵の声が漏れる。

 

「退学なしだってよ」

「ああ、よかった」

 

 ……いや、よくないんじゃないか。

 なんでこの初老の男性は「男子」に限定した?

 

「では、まず男子総合1位は……3年Cクラス、二宮倉之助くんのグループです」

 

 直後、先ほどと同じく、3年Aクラスの方から歓声が上がる。

 それによって、この大グループは堀北先輩の属するグループであることがわかる。

 つまり堀北先輩と南雲会長の勝負は、スキーでも試験でも、堀北先輩の勝ちだ。

 

「やったな堀北。勝ちだぜ」

 

 その後、2位から8位までの順位が発表される。

 そして南雲会長のいたグループは、2位という結果だった。

 惜しくはあるが、負けは負けだ。この点は南雲会長も認めるしかない。

 ちなみに、俺たちは4位という結果に終わった。

 

「こっちでも勝てませんでしたか。やっぱりさすがですね、堀北先輩」

 

 そういいながらも、南雲会長の表情は、やはり全く悔しそうではない。

 

「お前の負けだな、南雲」

 

 藤巻先輩が南雲会長に向かってそういい放つ。

 

「そうですかね。まだ発表は始まったばかりですよ」

「悪あがきはよせ。決着はついた」

「ええ、確かにつきました。男子の方は」

 

 南雲会長がそう言った瞬間に、俺の仮説は確信に変わった。

 

「男子の方は?何を言ってる。女子は関係ない」

「ええ。関係ありませんよ。この勝負にはね」

 

 気づくと、堀北先輩も深刻な顔をして、南雲会長を見つめている。

 

 大多数の生徒たちは、そんなことに気づくこともなく、女子の上位グループ発表で盛り上がっている。

 しかしそんな中、男性から、ある一言が告げられる。

 

「えー、大変残念なことではございますが……女子の方から、平均点のボーダーを割る小グループが、1つ出てしまいました」

 

 やはり。

 先ほどの発表のときに「男子」とわざわざ限定したのは、女子からは退学者が出ることが確定していたからだ。

 さっきまでの喧騒はどこへやら。

 体育館は一気に静まり返る。

 

 「女子の最下位のグループは、3年Bクラス、猪狩桃子さんのグループです。そしてボーダーを割ってしまったグループは……」

 

 

 大勢の生徒の緊張。

 堀北先輩、藤巻先輩の不安。

 そして南雲会長の怪しげな笑み。

 

 

 

「……同じく3年Bクラス、猪狩桃子さんの小グループです。これで混合合宿の結果発表を終わります」

 

 

 

「何をしたんだ南雲!」

 

 発表の直後、藤巻先輩が南雲会長に詰め寄る。

 

 もはやその後の流れを見なくてもわかる。

 最下位を取り、且つボーダーを下回った猪狩グループ。

 そのメンバーには十中八九、橘先輩が入っている。

 そして責任者である猪狩先輩は、連帯責任の道連れとして、橘先輩を指名する。

 

 ここまですべて、南雲会長の思惑通りだ。

 

 涙を流す橘先輩。

 その横にかけつけた堀北先輩の表情は、後悔に歪んでいく。

 どうしてもっと早く報告しなかったんだと、そんなことを言っているのだろうか。

 初めて見たな。あんなに感情を露にするあの人は。

 

「どうですか橘先輩。今の気持ちは。生徒会役員として会期を全うし、Aクラスでの卒業間近で退学していく今の気持ちは?そして堀北先輩もどうですか?きっと、今までにない苛立ちを感じてるんじゃないすか?」

 

 さらに挑発するような言動を繰り広げる南雲会長。

 

「方針こそ違っていたが、俺はお前に信頼を寄せていた。だが、すべて俺の勘違いだったようだな」

「信頼は生まれていくものでもあるし、作ることのできるものでもあります。俺は生徒会に入って1年間、方針は違っても、あなたとの信頼関係を作り上げてきました。ですがきっと、あなたも俺のことを10割信頼していたわけではないでしょう。……しかし、たとえ疑ったとしても、全生徒の手本であり、見本である堀北先輩が、後輩である俺を先に裏切るわけにはいかない」

「たった一度の好奇心で、大きなものを失ったぞ、南雲」

「失ったんじゃなくこっちから捨てたんですよ。先輩とすべてを取っ払って勝負してほしいという俺の思いを、わかっていただくために」

 

 ……なるほど。

 堀北先輩がこの策に関してなんの対策も取らなかったのは、取る必要がないと感じていたと同時に、プライドが邪魔して、取ることもできなかったのか。

 いや、それでもできる限りは尽くしたんだろう。

 しかし、南雲会長の悪意はそれを上回った。

 

「お前は橘が退学する前提で話を進めているようだが、勘違いするな」

「へえ、まさかあの大量のポイントを吐き出すんですか?この時期に。Aクラスの椅子を明け渡すお膳立てと同義ですよ?」

「これまで3年間、Aクラスがクラスとして機能できた理由を、クラスメイトはよく理解している」

「そうですか。ま、それもそれでいいんじゃないスかね」

 

 そのやり取りを見届けて、俺はクラスのところに行く前に、教師の許可を取ってトイレに行った。

 便意はなかったが、この後に予測されるクラスメイトからの質問攻めを避けるためだ。

 

 俺はあの策略のことを、ただ一人、平田だけにはメールで伝えていた。

 そうすればたとえ成功しても失敗しても、クラスメイトへの対応は全て、平田が上手くまとめあげてくれるだろうと踏んだからだ。

 まあ、結果的に成功だったし、そのあたりは問題ないだろう。

 

 

 

 

 最後に、各クラスのポイント変動だけ見て、この混合合宿の幕を閉じるとしよう。

 

 

 Aクラス -13ポイント

 Bクラス -11ポイント

 Cクラス +59ポイント

 Dクラス -23ポイント




正直主人公にポイントあげすぎかとも思ったんですが、船上試験では優待者に100万ポイント上げるって制度もあったし、まあいいやと思ってこうしました。後悔はしていない。

やっぱりこの程度のからくりなら、作中で挙げてる坂柳、南雲、堀北兄の3人は気づいてきますよね。
書いてる途中で気づかないのは不自然だなと思ったんで、最後は茶柱を悪者にして片付けました。見切り発車だとこういうことが結構起こります。

次は9巻分ですが、短い番外編も書くかもしれません。どちらにせよよろしくお願いします!

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