実力至上主義の学校に数人追加したらどうなるのか。※1年生編完結 作:2100
9巻分です。
ep.69
「へえ、軽井沢と平田、別れたのか」
Cクラスの教室に入ってすぐ、堀北からそんなビッグニュースを耳にした。
堀北の隣に座る清隆も、それを聞いて「へえ」と反応する。
興味あるんだかないんだか。
「どっちが振ったんだ?」
「どうやら軽井沢さんの方らしいわね。……というか、あなたたちは平田くんや軽井沢さんと関りがあるみたいだし、知っていたんじゃないの?」
「んなわけないだろ」
俺はもちろん知らなかったが、多分清隆は知ってただろうな。軽井沢が自分で言ってそう。
知ってるか堀北。清隆と軽井沢は、関わりのある人同士、なんて言葉じゃ片付かない、ただならぬ関係なんだぜ……
しかも、だ。最近の軽井沢の動きを注視してみると、若干清隆に惚れてる節がある。
清隆はそれに気づいてるのか知らないが。
そういえば、自分と軽井沢の関係が俺にバレてること、清隆は気づいてるんだろうか。
……気づかれるタイミングはなかったとは思うんだが、気づいてそうだよなあ……
というか清隆の場合、俺がこいつと軽井沢の関係に気づくことも勘定に入れて動いてそうだ。
にしてもそうか。軽井沢が振ったか。
平田の彼女、というのは一種のステータスでもあるはずだが、それを自ら投げ捨てるとは。そんなに清隆が好きなのか。
まあそこらへんはどうでもいいか。
平田は清隆と軽井沢の関係を知っていたのか、とかいろいろ疑問は浮かんでくるが、そういうのは野暮、あるいは下種の勘繰りというやつだ。
軽井沢の周りにできているギャラリーも、ちゃんと引き際をわきまえ、根掘り葉掘り聞き出そうとしているわけではない。
軽井沢本人は明るい様子で「私もステップアップしようかなと思ってー」的なことを言っている。
振られた平田も、引きずっている様子はない。
真っ先にバカ騒ぎしそうな池や須藤も、会話の様子をうかがっているだけで、何か口を挟もうとする様子はない。
なるほど。先日の合宿は確かに「成長」をもたらしたのかもな。
「よう平田ー。お前軽井沢に振られたんだってー?ドンマイドンマイ!」
そう思った矢先のこれである。ちょっとため息が出てしまった。
平田をからかうような言葉を発したのは、他でもない山内。
Dクラス改め、Cクラスの3バカの中でも、山内だけは未だに成長の兆しが見られない。
……いつになったら一皮むけてくれんのかねえ。
「おいどうしたんだよ。お前らも平田を慰めてやろうぜ。イケメンが振られるなんて貴重だぞ?」
「やめろよ春樹。んな悪趣味な」
山内の行き過ぎた行動を池が止めるという、なんとも斬新なやりとりが繰り広げられていた。
ほんと、いつまでもこのままだといずれ退学になるぞ、あいつ。
「ねえ、そういえば……一之瀬さんについて、何か知ってる?」
急に、堀北がそんなことを言い始める。
「最近、彼女に対する誹謗中傷のようなものが、ずいぶんと増えた気がするのだけど」
「そうだな。ここで口にするのは躊躇われるくらいのやつもある」
「そうなのか?」
疑問を口にする清隆のために、その誹謗中傷の内容を具体例をノートに書きだす。
『薬物乱用歴がある』『援助交際を行っていた過去がある』『窃盗、強盗などの経験がある』『暴力沙汰を起こしたことがある』
これがもし全部本当であれば、一之瀬はヤク中のクソビッチということになるわけだが……
「まあ見ての通り、嘘としか思えないようなのばかりだ」
「人気者への妬みひがみ、とかじゃないのか?それかBクラスを崩したいための誰かの策略とか」
そう聞いて、真っ先に思い浮かべるのは坂柳だ。
藤野の話によれば、坂柳は一之瀬をターゲットにしているということだし。
「ただ、噂を立てて流すだけなら、罪には問えないからな」
「そんなことはないわ。名誉棄損罪は内容の真偽を問わず、公然、不特定多数に摘示した場合に成立する。訴えることは可能よ」
「ここが実社会なら、それでも通用するだろうな」
「……なるほどね」
ここは実社会ではなく、学校内。しかもここは普通の学校とは違って、かなりの閉鎖空間だ。
全校生徒約480人が多数といえるかどうかは議論の余地があるが、少なくとも「不特定」ではない。
「それで、それに関して一之瀬はなんていってるんだ?」
「知らないわよ。そんなに頻繁に話す仲ではないもの。それに下手に踏み込めば、私たちがやったんじゃないかと思われるかもしれないわ」
「まあ確かに、傍観しておくのが一番賢い選択だな」
「速野くんはどうなの? あなたと仲のいい藤野さんは合宿中、一之瀬さんとかなり親しくしていたようだけど」
「合宿中に一之瀬がつらそうにしてるってのは聞いたけど、それ以外は何も」
「そう……。確かに、今思えば少し疲弊していたかも。ただ、たとえ綾小路くんの言う通り、これが一之瀬さんやBクラスを貶めるためのものだったとしても、とても弱すぎる一手だと思わない?」
堀北の言う通りだ。
一之瀬がこの学校で築き上げてきた信頼は、悪質な嘘で簡単に崩れるものではない。与えられるダメージはわずかだ。むしろやった側が惨めなだけだろう。
「なら、戦略ミスか」
「そうね。ただ、火のないところに煙は立たない、とも言うわ」
「一之瀬が薬物や強盗を行ったことがあると?」
「さすがに全部はないでしょうけど、何か1つくらいは、事実も含まれているんじゃないかしら」
俺もそう思う。
だとしたらその一之瀬の秘密とやらが、いったいどこからAクラスに……いや、坂柳に漏れたのかってことだが……
そこらへんは、ちょっと想像がつかない。
「ところで話は変わるけれど、あなたいま何ポイント持っているの?」
「は?そんなこと聞いてどうするんだよ」
「単純な興味よ。別に答えたくなければ答えなくてもいいわ」
「いや、まあ別にいいんだけどさ」
端末を開いて数字を確認する。
「あー……大体160万ポイントぐらいだな」
「予想はしていたけれど……改めて聞くとすごい額ね」
「まあ、博打に勝ったみたいな感じだからな……」
この場では160万ポイントと言ったが、本当の俺の所持ポイントは460万ほどだ。残りの300万は、船上試験の際に俺に発行された仮IDの中に未だに入っている。
「あなたがスキー経験者だったなんて、意外だわ」
「まあ、少しだけな。スキー始めて一週間ちょっとの素人には負けないくらいの実力はある」
「それで、なぜ平田くんが経験者を募ったときに名乗り出なかったの?」
「混乱を防ぐためだ。平田本人も、後からこっそり報告するんでもいいって言ってたし」
「嘘ね。どうせ彼にクラスへの説明を押し付けるためでしょう?」
「……」
……合ってます。その通りです。
「まああなたの性格に問題があるのは置いておくにしても、賢明ではあるわね。あなたより、彼が説明したほうが波風が立ちにくいのは間違いないもの」
「そういうことだ」
事実、俺がトイレに逃げ込んでいた間に、平田はあの質問攻めの場を完璧に抑えてみせた。やっぱり餅は餅屋。
「本当に……あなたたちは底が見えないわ」
堀北は複雑な表情を浮かべながら、俺と清隆を交互に見やった。
「いや、オレたちより高円寺の方がよっぽど底が見えないだろ」
「同感だな。あいつはちょっとレベルが違う」
清隆はそういうが、清隆&高円寺と俺の間には越えられない壁があると思う。
高円寺が清隆に劣っているとは思えないし、清隆が高円寺に及ばない部分があるなんて想像もつかない。しかし俺は高円寺にも清隆にも全く及んでいない。
「高円寺くん……そうね。彼がスキーを本気でやったのもうれしい誤算ね。どういう風の吹きまわしかしら」
「ほんとはわかってんだろ。気分だ気分。あいつの場合、理由はそれで片付く」
「……やはりそうよね」
高円寺のことは考えるだけ無駄。
これはもはやCクラス全員の共通認識だが……
そうも言ってられないタイミングが、いつか堀北には来るんだろうかね。
~~~~~~~~~~
「茶柱先生」
授業終了後のホームルームを終え、教室を出ていこうとする茶柱先生を呼び止めた。
「なんだ。何か用か?」
「少し話がしたいので、応接室でお時間いただけませんか。あそこなら、誰かに話を聞かれる心配もないでしょうし」
「……わかった。来い」
俺は茶柱先生の2歩ほど後ろを歩いてついていく。
応接室に到着し、出入り口の手前側の席には俺が、奥側に茶柱先生が腰を下ろした。
「それで、なんの話だ」
「以前話した、学習部の対外試合の件です。調べていただけましたか」
茶柱先生は学習部の顧問。こういった部活関連の調査は顧問の仕事だ。
「なんだその話か……ああ。指定の方面の高校のうち、『クイズ研究会』や『謎解き研究会』、『勉強部』など、頭脳系部活動を有する高校だったな?」
「はい」
「ここにリストアップしておいた。場所に関しては自分で参照しろ」
「わかりました。ありがとうございます」
ざっと見た感じ20校弱くらいか……
クイズ研究部、クイズ研究会、数学部、生物部、テスト対策部、クイズ同好会等々……いろいろあるのな。この学校にはクイズ研究会と生物部があったっけ。
「速野。なぜ部活を作ったことを全員に秘密にしている?」
資料を眺めている中、茶柱先生がそんな質問を俺によこした。
「俺が全国模試で結果を出して、学校からポイント貰うための部活ですから。1人のほうが楽なんですよ。それに秘密って言っても、周りに話してないだけで、別に隠してるわけじゃないですし」
出身地と同じようなことだ。別に隠しているわけじゃないが、自ら進んで話すことでもない。
もちろん藤野には話してる。
だが藤野以外に話す相手と言えば、堀北、それに綾小路グループの面々ぐらい。
そうなると、堀北や啓誠が入る流れになる可能性があるのだ。
勿論、あの二人のことが嫌なわけではない。だが入るとなると、それは正直面倒くさい。
「大した自信だな」
「まあ、それだけの勉強量はこなしてきたんで」
正確には、勉強とバスケぐらいしかやることがなかった、だが。
俺がそうなった背景も、この学校なら当然把握していることだろう。
「隠し事と言えば、先生の方が多いでしょう。俺がスキーであんな報酬得られたの、先生の優しい説明のおかげだと思ってるんですけどね」
「……まあいい。それで、いつ対外試合をやるつもりだ?」
あ、流された。
この反応を見るに、「茶柱先生が、学校側が指定していたものとは違った言い回しでバス内でのスキーの説明を行った」という俺の仮説は当たっていたらしい。
さっきの「その話か……」って反応もそれを裏付けている。先生は、俺がこの部屋でスキーの話をすると思い込んでいたんだろう。
本人的にあまり言われたくないことのようだし、ひとまず俺もスルーの方向で。
「細かい日程はまだ……ただ、2週間から1か月以内には、やることになると思います。決まればまた連絡しますんで」
「そうか。わかっているとは思うが、早めに報告しろ。相手の学校も、急だと受けてくれない可能性がある」
「善処はします。日程が期末テスト期間と被るかもしれない件に関しては、学校側から許可が出たんですか」
「ああ。『学習部』の性質や活動内容、それにお前の成績を総合的に判断したうえでの、学校側の特別な措置だ」
「それは感謝ですね」
ただ日程に関しては、相手側の期末テスト日程や、学校への道のり等々、いろんな要素が絡んでくる。
それらを加味して、ベストな日程と相手を組まないとな。
「ところで、対外試合を行う場合、こちらから相手校に出向くことになりますけど、送迎の方は先生にお願いできるんですよね?」
「ああ、それはこちらが行う。一応言っておくが、高度育成高等学校において、部活の対外試合では、顧問の他に監視員を複数名連れていく決まりになっている。他校の生徒との交流をさせないためだ。だが学習部は部員数が極端に少ないため、例外的に同行者は私だけになる」
「……そうですか」
「まあ、助っ人を十人くらい連れていくなら話は別だが、お前がそんなに人数を集められるわけはないだろう?」
なんかむかつく言い方だ。事実だけど。
集められないし、集める必要もない。
「助っ人は2人を予定してますけど」
「誰を呼ぶかは決まっているのか?」
「1人は決まってます。もう1人は要交渉です」
助っ人としての参加が決まっている一人より、交渉が必要なもう一人の方が重要だ。
「もしそのもう一人の参加が無理だとなった場合、この対外試合の意味がなくなるので、中止になりますね」
「……これだけ調べさせておいて、勝手な奴だなお前は」
「俺が勝手に作った部活だし、いいじゃないですか」
「まったく……」
やれやれ、という様子の茶柱先生。
仕方ないだろ。ほんとに無意味になっちまうんだから。
~~~~~~~~~~
進路指導室を出た俺は、荷物を回収しに教室へ戻る。
「……確か、ショッピングモールのイートインで集まってるんだったっけ」
綾小路グループの集まり。
普段あまり参加率の高くない俺だが、今日はなんとなくそこへ行ってみようという気になっていた。
「あ、やっほー速野くん」
教室への道すがら、すれ違った人物。
「ああ……どうも」
Bクラス担任、星之宮先生である。
「大金持ちになった気分はどうかしら?」
「そうですね、さいこーです」
「教師からの質問に真剣に答えないのは感心しないぞー?」
「はは……すいません」
思わず干からびた笑いが出てしまった。
あんまりこの人と関わりたくないんだよ。
多分俺がそう思ってることも見越したうえで、こうやって絡んできてるんだと思うけど。
「でもそっか。速野くんが大金持ちになったのって、別に今に始まったことじゃないもんねー?そりゃ無感動なわけだね」
「何を言ってるのか理解できませんけど、100万ポイントに感動しないほど、俺の金銭感覚は狂ってませんよ」
星之宮先生が言っているのは、十中八九船上試験のことだろう。
誰がどれだけのポイントを得たか、教師ならば当然把握している。
だが、それは保護されるべき個人情報だ。だからこそ、学校側は仮IDの発行などの策を講じている。
それをこんな公衆の面前で言ってしまう。こういうところに、この人の人間性が滲み出ているような気がする。
「サエちゃんと何話してたの?」
なんでこの人俺と茶柱先生がさっきまで会ってたこと知ってんだよ。見てたの?まあいいや。
「日本史談義ですよ。九州説と近畿説に分かれる邪馬台国の所在地に関して、楽浪郡までの航路や、卑弥呼の墓と言われる纏向遺跡と関連付けながらですね……」
「つれないなー。なんで嘘ばっかりつくの?先生悲しいよぉ……シクシク」
……ウザい。
ただ星之宮先生のウザさは、この人をそこら辺の粗大ゴミだと思うことでいくらか軽減はされる。
それよりも嫌だったのは、通りすがる生徒がこっちを変な目で見てくることだった。
早くどっか行ってくれよ、という目を先生に向けていると、ふと腕時計を見て、焦ったようにつぶやいた。
「あ、もう会議行かなきゃ。じゃあね速野くん、またねー」
おー!マジか!やっと解放される!サンキュー職員会議!
手をひらひらと振りながら、職員室の方へと歩いていく星之宮先生。
俺はそれを無言で見送った。
「……はぁぁ」
先生の姿が見えなくなった瞬間、思わず大きなため息が漏れてしまう。
話すだけでどっと体力が奪われる。もはや特殊能力の域だ。体育祭開幕直前とかに「星之宮先生とお話」の時間を設けたら、多分パフォーマンスが50パーセントくらいダウンするだろう。
やっとこさ教室に戻ってきた。
しかし、安心したのも束の間。
「あ、速野くん来た来た」
「……?」
教室に入るとすぐ、櫛田が俺の名前を呼びながら手を振っているのが見えた。
その微笑みの表情からは、善意しか感じ取ることができない。
櫛田は俺のことをそれはそれは猛烈に嫌っているはずだが、それをおくびにも出さないから恐ろしいったらありゃしない。
ったく、入学したての頃に櫛田のことを藤野と似てるとか言ったやつ誰だよ。俺だよ。
「……何か用か?」
俺の発する声は、どこかうんざりしている感が否めない。
いや、櫛田単体でも割と神経使うのに、今回は星之宮先生とのコンボだぞ。俺の知る限り、話してて疲れるランキングツートップ。普通にヤバイ。
「うん。でも、用があるのは私じゃなくてね」
「え?」
櫛田の隣に目を向けると、そこにいたのは意外や意外、ほとんど絡んだこともない松下だった。
「松下?」
「うん。じゃあ、頑張ってね」
「う、うん」
そう言い残し、櫛田は荷物を持って教室を出ていった。
……よく考えてみると、今のやり取り、非常にわけのわからないものだったぞ。
なんで櫛田が松下にエールなんか送るんだ。
松下は松下で、なんか緊張した面持ちだし。俺と話すのそんなに勇気いることなの?
櫛田が現場からいなくなってしまい、残されたのは向かい合っている俺と松下の2人。
どちらからも口を開くことがないため、非常に気まずい沈黙の時間が流れる。
……この沈黙は、俺がコミュ障ってこととは関係ないよな……?
そもそも呼び止められたのは俺。つまり俺に用があるのは松下。ならば会話を主導すべきは松下のはず。なのに沈黙が流れているのはどう考えても松下が悪い。
マジで何の用なんだろう。スキーのときに助けたお礼、くらいしか思い当たる節はない。
とっとと話してくんないかなーと思っていると、ようやく松下が口を開いた。
「その、スキーの件、ありがとう。ほんとに助かった」
「え、ああ。怪我は大丈夫なのか」
「うん。翌日にはもう治ってたし」
「そうか。それは何よりだ」
やっぱりこの件か。そりゃそうだ。
「それで、ってわけじゃないんだけど……連絡先、教えてくれない?」
「……はい?」
え、わからん。全くわからん。
「……なぜ?」
「その、お礼?みたいなのしたいから、連絡先知っておいた方が便利かなって思ったわけ。……ダメ?」
「……」
助けたお礼かあ。別に見返りを求めてやったわけじゃないんだが、何かしらの施しを受けられるなら喜んで受けたい。
それを抜きにしても、誰かと連絡先を交換するのはやぶさかではないし。
「あ、それとも、誰か付き合ってる人がいるからまずい、とか……?」
「……なんでそういう話になるんだ?」
「だって速野くん、藤野さんとすっごく仲いいじゃん?付き合ったりしてるのかなーって……たまにうわさも聞くし」
……ちょっと待った。俺と藤野が付き合ってるなんて噂があるのか?
今まで個人的な勘違いは何度かあったが、そんな噂があるなんていうのは初耳だ。
「それはない」
「そ、そうなんだ。じゃあ藤野さんとはただの友達ってこと?」
「ああ、そうだ」
どこかほっとしたような表情を浮かべる松下。
……ふむ。
「ただの」かどうかに関しては、ちょっと議論の余地があると思うけどな。いろんな意味で。
「で、連絡先だったな」
「交換してくれるの?」
「ああ。端末渡すから、そっちで登録しといてくれ」
「う、うん」
ポケットから端末を取り出し、手渡す。
「人に端末みられるの、抵抗ない?」
「別に。見られてまずいもんはないし」
ほんとはあるけど。
ポイントをため込んでる仮IDの中身見られるのはマジで困る。
簡単にはたどり着けないような場所に保存してあるから心配はしてないけど。
「終わったよ。ありがと」
「ああ」
返された端末を見てみると、連絡先一覧に「松下千秋」という項目が追加されていた。
「話変わるけどさ、その、今からパレットでお茶とか……どう?」
パレット。
というと「カフェパレット」のことだろう。
学校の校舎に併設されている、オサレな感じのカフェテリア。
行ったことないからよく知らないが、値段が高め、という以外の悪い評判は聞かない店だ。
「今からは無理だな。予定がある」
「あ……そっか。ごめん、急に誘って」
「いや、別にお前が謝ることじゃ……」
断ったのは俺なんだから、本来まず一言「悪いな」と言うべきはこっちだ。
「じゃあ、もう行っていいか」
「あ、うん。ごめん急に呼び止めて」
「いやいい。じゃあな」
「ま、またねー」
手を振ってくる松下に、俺も手を挙げて応え、そのまま教室を出ていった。
今回は「予定がある」と言って断ったが、もしも何も予定がなかったら、俺は松下の提案に乗っただろうか。
多分乗ってないだろうなあ。
主人公は平田と軽井沢が偽カップルだったことを知りませんが、綾小路と軽井沢の主従関係(?)は知っているので、こんな感じの理解になってます。