実力至上主義の学校に数人追加したらどうなるのか。※1年生編完結   作:2100

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11.5巻の松下にびっくりして、ちょっと展開を変更しました。
違和感なく落ち着いたんじゃないかと思うんですが……


ep.71

『一之瀬帆波は犯罪者である』

 

 ポストに投函されていた紙には、それだけが書かれてあった。

 俺だけではなく、全員のポストに投函されていたようで、その紙の内容を読んだ生徒からは驚嘆の声が発せられていた。

 

 ことが起こったのは、俺と藤野が一之瀬に交渉を持ちかけてから丸々1週間が経った、金曜日の放課後だった。

 

「これは……」

 

 一緒に無料コーナーの食材調達に出かけ、寮まで一緒に帰ってきた藤野も、周りと同様、驚きを隠せていない。

 

 一之瀬の噂は、週明けの時点で、もはや学内で知らない者はいないんじゃないか、というほどに広がっていた。

 学校の掲示板にも、それ関連のスレッドが乱立。中には一之瀬の出身中学まで突き止めようとするものも見られた。

 多くの人間が、一之瀬に関してあることないことくっちゃべっている。

 そんな状況を一之瀬は、「無反応」という形で耐え続けた。

 そしてそれは……実を結んだ。

 潮目が変わったように感じたのは一昨日の水曜日。

 噂として流れていた一之瀬の悪評の中に、「噂は全部でっち上げで、一之瀬は何もしてないんじゃないか」という論調が混じるようになった。

 そこから徐々に、一之瀬に関する悪評を口にしにくい環境が形成されていった。

 まさに、Bクラスにとっては理想的な流れだ。

 これでこの一件は収束する。

 みんながそう思い始めていた。

 その矢先にこれだ。

 

「……」

 

 俺は無言でその紙を見つめる。

 いよいよ第二フェーズに移った、ってところか。

 これまでは、援助交際やら暴力やら、悪事が不特定にささやかれていた。

 だが、それがいま「犯罪」にまで絞られた。

 

 まあ、概ね予想通りだ。

 

 と、そこに張本人である一之瀬が来た。

 駆け足だったところを見ると、誰かに連絡を受けて急いでここに来たんだろう。

 友人から渡された紙を凝視する一之瀬。

 周りには、心配そうな顔をしたBクラスの生徒と思われる一之瀬の友人たち。

 いつの間にか、藤野も一之瀬のもとへと駆けよっていた。

 

「……これが、ポストに?」

「うん……ひどいことするよね……」

「もう先生に相談しようよ!帆波ちゃん、私、もうこんなの許せないよ!」

 

 一之瀬があの文章を目にしたとき、今まで一之瀬のダメージをせき止めていた防波堤、いわば「仮面」が一瞬崩れた。

 一之瀬の顔に明らかな動揺が走った。

 それは注意していなければわからないほどわずかな時間だったが、Bクラスの友人たちは、本能的にそれを感じ取ったのだろう。

 

「大丈夫。私、これくらいのこと気にしないから」

 

 どうやら一之瀬はまだ頑張るようだ。

 

「だ、ダメだよ。このままじゃ、どんどん悪いうわさが……」

 

 普通に考えて、ここまでくれば、もはや黙っていることは得策ではない。

 この事件が起こるまで、ことは一之瀬に有利に動いていた。

 第三者目線から見た今回の一件を時系列順に整理すると、こうだ。

 

 まず、一之瀬に対し悪意を持った何者か、まあ仮に犯人と呼ぶことにしよう。犯人が、噂を流し始めた。

 一之瀬はそれを取るに足らないものと判断し、無視、無反応を決め込んだ。

 それが功を奏し、一之瀬に関する噂のすべてはでっち上げなのではないかという論調になった。

 その流れをみた犯人は機嫌を悪くし、ついに一線を越えた行動に出た。

 

 ここで一之瀬が教師側に相談する決断をしたとしよう。

 第三者的には「一度目は穏便に済ませようとした一之瀬も、二度目の今回は流石に看過できなかったんだろう。わかるわかる」というふうに、一之瀬寄りの心情になりやすい。

 一度目にスルーを決め込んでいることで、「図星を言われたから過剰反応している」という論調も生まれづらくなる。

 だが、一之瀬は相変わらず無反応を続けるという。

 ここで無反応を続けることは、「本当に何かやましいことがあって、だから何もアクションを起こせないんじゃないか」という憶測が生まれることにつながる。

 得策ではない、と言ったが、それどころかむしろ悪手とすらいえる。

 そしてそれくらいのこと、一之瀬ならば理解できないはずがない。

 

 まあとにかく、今は自分のやることに集中しないとな。

 

 対外試合の日程も決まったことだし。

 あとで藤野と一之瀬にも伝えておこう。

 

 来週の日曜日。テスト本番の5日前だ。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~

 

 

 

 

「明日15日には、予告の通り全科目の仮テストを行われるが、以前にも言った通り成績には一切影響がない。あくまでも自分たちの現在の実力を試し、可視化するため。そして来週木曜日に迫った期末テストに向けての予習だ。当然ながら全く同じ問題が出されることはないが、今回の仮テストは、本番と類似した問題も多い。真面目に取り組むことだ」

 

 週明け、2月14日の月曜日、帰りのホームルームが終了した。

 今日がバレンタインデーであるということは、俺でも知っている。

 由来は確か……3世紀くらいのローマで、セントバレンタインとかいう司祭がぶっ殺された日が2月14日だったことらしいが……世間ではそんなこと関係なく、チョコを渡した貰ったで盛り上がっている。

 ちなみに俺は親と櫛田からしかもらった経験がない。

 まあ、櫛田は今朝、教室に入ってきた男子に片っ端からチョコあげてたからな。誰かがぼやいてたが、ある意味究極の義理チョコだ。

 中学のころ、学年に一人くらいはいただろう。

 同じクラスの男子全員に義理チョコを渡す櫛田のような女子。

 中1のころ同じクラスにいて、渡されたことはあるが、その時は受け取りを拒否した。

 普通に貰えばよかったなーと今では後悔している。

 

 茶柱先生が出て行ってから数十秒後、平田がこちらに近づいて、声をかけられた。

 

「速野くん、今日はよろしくね」

「ん、ああ」

 

 明日に控えた仮テスト、ひいては期末テスト本番に向けて、Cクラスでは教室にて勉強会が開かれることになっており、今日俺はこれに参加することになっていた。

 まあ、そんなにたいそうなことをするわけではない。

 自分の席に座って自分の勉強をし、たまに来る質問に答えるだけ。

 頼まれた当初は少し迷ったが、夕飯をご馳走してくれるとの提案を受けた瞬間に参加を決めた。

 俺のあまりの変わり身の早さに、平田は戸惑いの表情を浮かべていたが。

 

 まずは理科の勉強に取り掛かろうと考え、理科の教科書、ノート、問題集を机の上に広げる。

 その準備中、聞き逃せない会話がどこからか聞こえてきた。

 

「ねえ、今日一之瀬さん休みってほんと?」

「え、うそ、初めて聞いたよ」

「Bクラスの子も言ってたけど、ほんとらしいよ?」

「じゃあやっぱりあの噂が……」

「酷いもんね、あれ……」

 

 ……一之瀬が休み、か。

 あの噂が関連しているのは間違いないだろうが……

 体調不良か?

 だとしたら恐らく、精神の病みが体調不良を招いたんだろう。

 体調に関しては、対外試合までにしっかり直してもらわないと困る。

 まあ、さすがに丸一週間も体調不良が続くとは思えないから、その心配は薄いか。

 仮病、という可能性もなくはないが……一之瀬に限って、それはちょっと考えにくいか。

 いや、今聞いた話が全部間違っていて、本当は学校に来てる、という可能性もゼロじゃない。

 とにかく正確な情報がないのが現状だ。

 

「あの、速野くん、国語のここ、教えてほしいんだけど……」

「ん?あ、ああ、分かった。どの部分だ?」

「えっと……」

 

 まあなんにせよ、今日の夜、一之瀬に関して藤野と話し合おう。

 今はこいつに国語を教えないと。

 

 

 

 

~~~~~~~~~~

 

 

 

 

「……ああ、いま終わった」

『こんな遅くまで勉強会してたの?』

「いや、勉強会自体は7時に終わったんだが、そのあとに俺含めた4人で夕飯食いに行ってた。平田からの奢りで」

『あれ、は、速野くんが奢られる側?ていうか平田くん、4人分払ったの?』

「もともとそういう条件で勉強会に参加したからな。それに、向こうから提示してきた条件だし。俺以外の2人は自腹だぞ」

『あはは、そういうことかあ……』

 

 電話の相手は藤野。

 勉強会が終わったら電話を入れると連絡したのは俺だったが、ちょっと遅くなってしまったな。

 時刻は現在、8時半に迫ろうとしている。

 

「それで、一之瀬に関してのことなんだが……」

『あ、それなんだけどさ、今から直接会えない?渡したいものもあるし』

「渡したいもの?」

『チョコだよー。わかってるくせにー』

 

 ……いや、なんとなくわかってたよ?

 でも自分から言うのはちょっと気が引けるじゃん?恥ずかしいじゃん?ねえ?

 

「……で、どこで会うんだ?この時間だし、寮の外になると思うが」

『この前のベンチでいいんじゃないかな。あそこなら誰も通らないし』

「わかった。じゃあそこに向かう」

『オッケー。私もすぐ行くね』

 

 通話を切り、端末をポケットにしまう。

 目の前の机には、今日もらった3つのチョコレートが置かれていた。

 それぞれ波瑠加、愛理、そして松下から。櫛田からのはもう食った。

 波瑠加と愛理のは、勉強会後の夕飯から帰ってきたときにポストに入れられていた。チャットでその旨伝えられていたので、寮に入る時にポストから2つのチョコを受け取り、部屋に戻った。

 先ほどから話に出ている夕飯には、平田、俺、松下、佐藤の4人で行ったのだが、松下からは、その夕飯からの帰り道で直接渡された。

 

「……行くか」

 

 面倒なので着替えてないが、別にいいだろう。

 端末と部屋のキー以外は何も持たず、約束のベンチへと向かう。

 俺がベンチに到着してから一分と経たないうちに藤野も到着した。

 なぜか藤野も制服姿だった。

 

「こんばんは。ごめんねわざわざ」

「いや、いい。ところでなんで制服なんだ」

「ああ、これね。私も図書館でクラスメイトと勉強してたから、そのままの流れで」

 

 要するに、藤野もわざわざ着替えるのが面倒だったってことだろう。

 俺と似たようなもんか。

 

「あ、もう早速渡しちゃうね。はい、バレンタインチョコレート」

「ああ、ありがとう」

 

 藤野は持っていた紙袋からチョコの入った箱を取り出し、俺に手渡した。

 シンプルなラッピングだが、箱は大きめの直方体だ。8個は入ってそうだな。

 

「とりあえず座ってチョコ食べながら話そ?私も持ってきたんだー」

 

 そう言って藤野は先ほどの紙袋から、俺のより一回り小さめの箱を取り出し、さっと開封した。

 

「ごめんね、ちょっと上手く包装できなかったんだけど……」

「え?自分でやったのか?」

「うん。チョコも全部私の手作りだよ?」

「……マジか」

 

 ちょっと驚いた。

 中身も気になり、包装を解いて箱を開ける。

 

「……おお」

 

 個数は俺の予想通り8個。

 だが、種類は3つ。ホワイトチョコ3個、ミルクチョコ3個、ブラックチョコ2個。

 手作りでここまでやるか……

 俺はミルクチョコレートを一つつまみ、口に入れる。

 

「口に合うかな?」

「……うんま」

 

 市販で売られていてもおかしくないレベルで、且つ市販とは違ったオリジナリティがある。

 いや、マジで美味いなこれ。

 今度ポイント払ってでも作ってもらおうかな。

 

「ほんと?よかったあ」

「すげえなお前」

「何回も味見して美味しかったから、あとは速野くんの口に合うかどうかだったけど……」

 

 合わないはずがない。

 

「ちょっと予想以上に美味くてびっくりしてる」

「もう、嬉しいけど、そこまで絶賛されるとちょっと恥ずかしいよ……」

「恥ずかしがることじゃないぞ」

 

 また一つ、今度はブラックチョコレートを口に入れ、やはり「うんま」と思う。

 

「夕飯、どこに食べに行ったの?」

「ピザだ」

「……ピザ?」

「ああ」

 

 目を丸くして固まっている藤野。

 いや、驚き過ぎだろ。

 

「そんなに意外か?」

「え?あ、うん」

「しかもこれ、実は俺の希望なんだ」

「さ、さらに意外だよ……速野くん、ピザ好きなの?」

「特別好きってわけじゃない。ただ、おごってもらえるって話だし、普段食べないものにしただけだ」

「あ、確かに。ピザなんて自分では作らないもんね」

「そういうことだ」

 

 ちなみに、俺が「ピザを食べたい」と言った時の周りの反応も、大体藤野と似たような感じだった。

 俺とピザという組み合わせには、相当な違和感があるらしいな。

 

「ピザかー。いいなー」

「Aクラスなら、いくらでも外食はできるんじゃないか?」

「ポイント的にはね。私は速野くんと買い物して自炊してるから、外食は全然しないんだよね」

「別に俺に合わせる必要はないぞ?」

「そんな、私がやりたいからそうしてるだけだよ。料理も好きだし、速野くんと買い物するのも、私の楽しみの一つだしね」

「……そうか」

「うん。だから今度、自分でピザ作ってみるよ」

「……マジで?」

 

 行動力あるなあ。俺なら絶対そんな面倒なことはしない。

 さて、閑話休題。

 いつまでも夕飯事情について語り合っている場合でも、藤野の手作りチョコレートの美味さに感心してる場合でもない。チョコうめえ。

 

「そろそろ本題に入るか」

「あ、うん。そだね。一之瀬さんのことだけど、休んでるのは本当だよ」

「体調不良か?」

「多分そうだと思う。さっき電話した時、電話口でも咳込んでたから。あんまり長く話すのは悪いと思ってすぐに切っちゃったけど……」

 

 賢明な判断だ。

 

「間違いなく、心理的ストレスが体調に響いてるな」

「そう、だよね……」

 

 そして今現在、そんな一之瀬に追い打ちをかけるかの如く、事態は一之瀬にとって望ましくない方向に動いている。

 一之瀬が再び沈黙を選んだこと、そして一之瀬が休んだらしいという話が逆効果となり、噂が再燃し始めた。

 

「体調だけでも、早く治ってほしいな……心のケアは、そう簡単にはできないだろうから……」

「……」

 

 簡単にはできない、というより、現状では、心のケアに関しては一之瀬本人がそれを望んでいない可能性がある。

 恐らくだが一之瀬はこの一週間、つまり金曜日まで、たとえ体調が治ったとしても、登校することはないだろう。

 今日学校を休んだことで、誰とも会わない「気楽さ」を感じているはずだ。

 今のままだと最悪、日曜日の対外試合への参加も断ってくる可能性がある。

 もちろん、そんなことにならないように努力はするが。

 

「……体調が戻った、と判断したタイミングで、一度一之瀬の部屋を訪ねてみるか」

「速野くんと私で?」

「ああ。このままズルズル行くと、対外試合もそうだが、最悪テストすら休む可能性もある」

「……否定は、できないね」

 

 俺が「一之瀬をなんとしても対外試合に引っ張り出したい」という利己的な考えで動いていることは、この際認めよう。

 だが、対外試合への参加は、俺にとってはもちろん、一之瀬にとっても非常に利益のあることだ。これだけは確実なのだ。

 

「じゃあ、その日までは静観……ってことかな?」

「ああ。何かしてやりたい気持ちも理解できなくはないが、今はそっとしておくのが得策だ」

「……うん、私もそう思う」

 

 これで、一之瀬の件に関する俺たちの当面の方針は「静観」という方向に定まった。

 まあ当面と言っても、静観するのは明日、長くても明後日まで。

 少なくとも72時間後までには、俺と藤野は一之瀬の部屋を訪ねることになるだろう。

 

「じゃあ、今日のところは終わりかな」

「ああ」

 

 チョコレートの箱のふたを閉じ、手に持ってベンチから立ち上がる。

 この話し合い中に、俺はすでに4つのチョコレートを平らげていた。食べすぎ?うるせー、マジで美味いんだから仕方がない。むしろ完食しなかった俺は褒められるべきだ。

 

「チョコ、美味かった。ありがとう」

「喜んでくれて私も嬉しいよ。これはホワイトデー、私も期待しちゃっていいかな?」

「……そうくるか」

 

 からかうような笑顔を向けてくる藤野。

 これは多分、ハンドメイドを求められてるんだよな……

 

「……まあ、頑張ってはみるが、あんまり過度な期待はしないでくれよ」

「あはは、ごめんごめん。そんな焦らなくって大丈夫だよ。頑張ってくれるだけで充分だから」

 

 ポン、と背中をたたかれる。

 ……こうやって俺を振り回すのはやめてほしい。

 

「じゃあまたね」

「ああ、一之瀬について何かあったら、すぐに知らせてくれ」

「うん、オッケー」

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 藤野との会談から3時間ほど後。

 すでに日付は14日から15日に変わっている。

 そんな深夜、俺はある人物と電話をしていた。

 

「それで、どうだった?」

『……あんたの言う通り、来た』

「誰が?」

『本当に知らないの?』

「ああ」

『……綾小路くんだよ』

 

 電話の相手は……そう、櫛田桔梗。

 俺にはもう愛想を振りまく必要がなくなったと判断しているためか、声のトーンは普段より数段低く、口調も普段と比べると粗い。

 だが、普段の猫なで声で話されるより、俺としてはこっちの方が気持ちが楽だ。

 

「……へえ、そうか。清隆が」

 

 驚いているように聞かせてはいるものの、来るとしたら清隆だろうな、とは思っていた。

 

『あんたが知らなかったとは思えないんだけど。じゃあなんでこんなこと……』

「一之瀬の噂を止めるには、これが最適な方法だからな。そして今それをやられるのは、俺にとっては望ましくない。だから先手を打っておいた。誰がやるか、なんてさして重要なことじゃない」

 

 俺の思い描いた通りの展開にするためには、「この手」を使われることを、少なくとも木曜日までは封じる必要があった。

 清隆が来たってことは、あいつはあいつで思い描く展開があるんだろうけど……ま、そんなことは俺には関係ないわな。

 

「それで、どうなった」

『言われた通り、精査するからって言って水曜日まで待ってもらった』

「十分だ。水曜日の……そうだな、放課後になったら、精査したものを清隆に伝えてやってくれ」

『それでいいの?』

「ああ」

『わかったよ』

 

 素直でよろしい。

 でも、裏では俺のことを相当恨んでいるに違いない。

 俺を退学させたいとすら思っているだろう。

 しかし、それはできない。

 櫛田は俺に致命的な弱みを握られ過ぎた。俺を退学まで追い込んだら、自分のやってきたことがバラされる可能性がある。そうなれば、櫛田の楽しいスクールライフは終わりを告げる。

 つまり俺には手を出せない。

 ストレス溜まるだろうな、これは。

 

「おい」

『なに?』

「あんま溜め込むなよ。爆発しそうになったら俺にぶつけろ」

 

 目的語のない文章だが、何が言いたいか、櫛田には通じるだろう。

 

『……何それ。全部あんたのせいなんだけど』

「ああ、そうだな」

『……馬鹿にしてるの?』

「いいや。ただ、ストレスが爆発してクラスに迷惑かけるより、俺一人にぶちまけた方がいいだろ。お前はクラスからの信頼を保ったままでいられるし……」

『あんたも、クラスから信頼されてる私を上から目線で使いたい、ってわけ』

「ああ、そうだ」

『否定しないの?』

「事実だからな」

『……ムカつく』

「そういうのも含めて、俺にぶちまけろ」

『あんたM?キモイよ?』

「そうだ、それでいい」

 

 言われて気分のいい言葉じゃない。ただ、心理的ダメージはほとんどない。

 俺がマゾヒストではないことは、俺自身がよくわかってるからだろう。的外れなディスを受けても、それが心に響くことはない。

 これでもう、話したいことは話しつくした。

 明日……いや、もう今日になるのか。

 仮テストが控えている。これ以上の夜更かしはよくないだろう。

 

「じゃあ、手はず通りに頼むぞ」

 

 そんな俺の呼びかけに返ってきたのは、了承の返事ではなく、うんざりしたような櫛田の溜息だった。

 櫛田の心情も、まあ理解はできる。

 しかし俺は気に留めず、遠慮なく通話を切った。




裏櫛田の口調ってこんなんでいいんですかね。

それはそうと、平田、松下、佐藤、速野のピザ夕食会編が丸々すっ飛ばされてますが、別枠でep.71.5という形で投稿します。ていうか元々はこのep.71に入れる予定だったので、その話もほとんど完成はしてるんですが、11.5巻の松下を見て急遽変更しました。
松下の性質を垣間見て驚かれた方、多いんじゃないでしょうか。
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