実力至上主義の学校に数人追加したらどうなるのか。※1年生編完結 作:2100
テスト勉強などでなかなか執筆する時間を作れず、ここまでの期間が空いてしまいました。
今回から原作10巻分の開幕となります。
ep.76
1
「先生、今日が結果発表の日ですよね!?」
朝のホームルーム、茶柱先生が教室に入って来るや否や、池がそう叫んだ。
学年末試験から数日が経過した今日。その結果が公表される日だ。
「そう焦るな池。すぐに分かることだ。手ごたえはあったのか?」
試すような言い方で、茶柱先生が池に聞く。
「そ、そりゃまあ、やれるだけはやりましたけど……」
「そうか。須藤、お前はどうだ?」
池や山内とともに、毎回のように最下位を争っている須藤。
いや、争っているというのは少し誤りか。
今までのほとんどのテスト、ほとんどの科目で、須藤は学年最下位を取っていた。
つまり須藤は現状、赤点による退学の可能性が学年で最も高い人物だ。
本来、誰よりも不安に駆られているはず。
しかし今の須藤の態度からは、そのようなものは微塵も感じられない。
「……俺は自信あるぜ。絶対に退学にはならねえ」
「ほう」
それは根拠のない自信などではない。
須藤はこれまで、想い人である堀北とともに、確かな勉強量をこなしてきた。
その努力に裏打ちされた自信だった。
「さて、前置きはここまでだ。本題のテスト結果を発表しよう」
いよいよだ。全員息をのむ。
例のごとく、クラス全員の全科目の点数が載った大きい紙が黒板に貼り出される。
赤点ラインには赤ペンで線が引かれ、その線の下に名前がある者は即時退学となる。
「今回の退学者は―――なし。全員合格だ。おめでとう」
茶柱先生の口から朗報が告げられた。
その瞬間、教室が一度わっと盛り上がる。
「っしゃあ!……あっぶねえ……」
喜びと恐怖の感情を同時に発したのは池。
今回のクラス最下位だ。
とはいえ池の点数は各科目とも、赤点ラインから10点ほど余裕がある。やれるだけはやった、という池の言葉に嘘はなさそうだった。
「ははは、ギリギリだな池。俺なんて前日にちょっと勉強しただけだぜ?」
「嘘つけ、お前も必死こいて勉強してたじゃねえかよ」
「そうだっけ? ははは!」
余裕そうに池を茶化す山内だが、順位としては池の次。それに点数で見ると二人の間にほとんど差はない。
また、残念ながら、という表現が正しいかわからないが、山内もしっかり勉強していたことを俺は知っていた。よくもあれだけの嘘を平気でつけるものだ。ただ、あんな自然に嘘をつけるのはある意味才能ともいえる。入学当初から思ってはいたが。
テストのクラス内順位は、池、山内の上に本堂、佐藤、井の頭、と続いていく。
先ほど自信を見せていた須藤は井の頭の上。クラス内総合35位という結果だった。
これまで最下位の座をほしいままにしていたことを考慮すれば、大躍進だ。
「先生、他のクラスはどうなんですか」
「お前たちと同様、退学者は出ていない。ちなみに、お前たちの平均点はAクラス、Bクラスに次いで3位だ」
おおむね予想通り、順当な結果だな。
「あなたは全科目満点……ね。テスト時間中、半分以上寝ていた記憶があるけれど?」
嫌味のこもった口調で堀北が聞いてくる。
「遅くまで勉強してたせいで寝不足だったんだ。てか解答時間中によそ見すんなよ」
「解答時間中に爆睡していたあなたにだけは言われたくないわね」
はは、ごもっともで。
だが勉強のせいで寝不足だったのは本当のことだ。
ただし一つ嘘があるとすれば、俺の言った「勉強」とは期末テストの対策ではないということ。
やっていたのは大学入試の勉強だ。
テストがあったのは木曜日。その週の土日は、国公立大学の個別学力試験の実施日だった。
俺はそれを受けた。
いや、もちろん受験資格を持って受けたわけじゃないが。
センター試験のときと同様、学習部の部員として「同日模試」を受けたということだ。
受けたのは、文系で日本最難関と言われる大学の入試問題。
テスト期間中だったことや一之瀬の件もあったことで少し勉強不足ではったが、感触としては悪くない。自己採点した結果、所謂「捨て問」であろう難問も含め、致命的なミスは確認されなかった。センター試験と合わせて、合格ラインはかなり余裕を持って越せているはずだ。
今年はかなり難化していたらしく、かなり難しかったしめっちゃ疲れた。そのせいで月曜日に寝坊しそうになったのは別の話。
「堀北も点数伸びたんじゃないか? 特に英語。須藤に教えてるのがプラスに働いてるんだと思うぞ」
堀北は今回、俺、啓誠、高円寺に次ぐ4位。啓誠の調子が良かったことと、高円寺が普段より少し高めに点数を取っていることからこの順位に甘んじてはいるが、2位、3位も十分に狙える得点だ。
また、普段の堀北は英語で順位を落としていることが多いが、今回はしっかりと93点を取っている。
「そうね。その点に自覚がないわけではないわ」
意外にも素直に、須藤が自身にいい影響を与えていることを認めた。
ほんと、入学当初からは想像もつかないくらい丸くなったよなあ、こいつ。
「クラスの平均点を上げるためには、やはり下位組の底上げが急務ね」
「まあ、そうだな。希望を言えば、少なくとも全員半分以上は取れるようになってほしいところだ」
得点率4割台は須藤以下5名。須藤は全面的に堀北に任せていたからいいとして、残りの4名に関しては、勉強会においてチューター役だった俺にも責任がないわけじゃない。
来年度以降のテストでも、俺はチューター役を引き受けることになるだろう。もう少し頑張ってみる必要がありそうだ。
ただ、来年度は今とは少し事情が異なる部分もある。
それは、俺の所属する学習部に関してのこと。
俺は4月以降、学習部をフル稼働させることを決めている。
新入部員を募るとかではない。
今まで以上にハイペースで全国模試を受験するということだ。
学習部を発足してからいくつもの全国模試を受け、一つ分かったことがある。
それは、上の学年の試験で高得点を取ると、同学年の試験と比べて貰えるポイントが著しく増えるということだ。
そのため、来年度は高校3年生、および浪人生が受験する模擬試験を、文字通り見境なく受けるつもりだ。
一度日程を組んでみた結果、一番大変なのは11月。その1か月間、少なくとも土日は全て模試の受験に費やす必要があることが分かった。
まあ、仕方ないと割り切るしかない。そもそも俺の場合、土日に予定が入ること自体レア中のレアだしな。大した問題は生じないだろう。悲しい。
教室内の喧騒が落ち着いたところで、茶柱先生が再び口を開く。
「テストに関しては、よくやった、と言っておこう。だが、いつまでも楽しい話をしているわけにもいかない。お前たちも薄々感づいているだろうが、この後にはこの学年最後の特別試験が行われることになっている。試験開始日は3月8日だ」
「え、そ、そんなにすぐっすか!?」
3月8日というと、来週の月曜日。
期末テストが終わってからこのスパンで特別試験というのは、確かに急といえば急だ。池の言いたいことも分かる。
「気持ちは分かるが、スケジュール上やむを得ないことだ。お前たちも春休みを返上したくはないだろう?」
「そりゃそうっすけど……」
今までの経験上、特別試験はおおよそ1週間以上の期間をもって行われるからな。時間に余裕はないんだろう。
「みんな、とにかくこれが最後だ。今まで通り、力を合わせて乗り切ろう」
平田の力強い声に、クラス全体が頷いた。
そんな教室の様子を見た茶柱先生が、ふっと微笑む。
「お前たちなら、本当にこのまま3年間、退学者を出さずに卒業できるかもしれないな」
あまりクラスをほめたりすることのない茶柱先生。そんな先生からの賛辞の言葉を聞いて、生徒たちは少しうれしそうな表情になった。
「だが、決して気を抜かないことだ。当然、生易しいものではないからな」
一応の注意喚起が行われたが、少しばかり浮かれた雰囲気のまま朝のホームルームは終了した。
2
放課後。
迷わずに寮の自室に直帰することにする。
正直なところ、ここ最近いろいろなことをやって、疲れた。
自分自身、パワーはゴミだがスタミナがある方だとは思っていた。しかし今回の一連のことは、俺のキャパシティを少し超えてしまったようだ。
そのため、俺は今日と明日、完全休息日とすることを決めていた。
もちろん学校には行くが、それ以外は何もしない。昨日の時点で賞味期限の短い食材を使い切ったため、自炊もしない。綾小路グループの集まりにもいかない。放課後はただただ自室で寝たり、ボーっとしたり、テレビを見たり、寝たりして心身の回復に努める。
「ねむ……」
あくびによって出てしまった涙を拭きつつ、歩みを進める。
「おい」
今日の夕飯何食おうかな……
「おい、お前だお前」
そんな声とともに、誰かに肩を触られて止められる。
初めの「おい」が聞こえていなかったわけではないが、「俺じゃない俺じゃない」と自分に言い聞かせてスルーしようとした。
俺の帰宅を邪魔してきた犯人。
それは、この学校ならば誰もが知る人物。現生徒会長の南雲雅先輩だった。
その周りには数人の取り巻きもいる。
「……何でしょうか」
「お前、速野だよな?」
「はあ、そうですけど……」
南雲会長の突飛な行動に、周りの人たちも少し戸惑っている様子。
「ちょっと雅、どうしたの急に」
取り巻きの一人、茶髪の女子生徒が会長に尋ねる。
「速野だよ。合宿のとき、スキーで100万獲った奴さ」
「あ……そういえばなんか噂になってたっけ。ただ一人、採点方式を見抜いてたって」
「そうだ。速野、お前に少しだけ話がある。時間はあるな?」
ここで「ない」と言って立ち去ったらどうなるだろうか。
興味本位でそんなことを考えたが、少なくともいい方向に転ばないであろうことは明白なので、素直にうなずくことにした。
俺の首肯を確認した会長は、満足そうに微笑する。
「あまり時間を取るのもこっちの本意じゃないからな。単刀直入に聞く。お前はいつからあの採点方法を見抜いていた?」
南雲会長は、俺の視線を自分から逃すまいとしてくる。
表情は穏やかだが、それは表面上だけ。射抜くようなその鋭い眼光は「真実を言え」と語っている。
だが、俺が従来と返答を変えることはない。
「……もう会長の耳にも入ってるかもしれませんけど、俺はあるクラスメイトからアドバイスを受けただけなんで」
「ああ、お前がそう言い張ってるってのは知ってるさ。でも、どうにもキナ臭いんだよなあ」
そう言って、一層眼光を強める南雲会長。
やはり、というべきか。勘が鋭いな。
だがいくらその勘が当たっていたとしても、俺が認めるか、客観的な証拠があがることがなければ、それは憶測の域を出ない。
少しの間、俺と南雲会長との間でにらみ合いが続いた。
徐々に南雲会長から発せられる気迫が高まっていくのを感じる。
俺は目線はそのまま外さず、体だけ半歩後ずさった。
その様子を見た南雲会長が俺から目線を外し、ようやく場の空気が弛緩した。
「おっと、悪いな。怖がらせたか?」
「いや、えっと……」
「そんなつもりはなかったんだが、ついな。聞きたかったことはこれだけだ。時間を取らせて悪かったな」
「いえ……」
そう言って、取り巻きとともに俺のもとを離れていく。
先ほどの女子生徒が、俺の方を振り返って「ごめんね」と口パクで言ってきたので、俺はそれに軽く頭を下げて答えた。
「……はあ……」
ただでさえ疲れてるってのに、余計に疲労がたまってしまった。
だが、変な目のつけられ方をするのを避けるためには、ああするしか方法はなかった。
南雲会長は恐らく、自身の勘が当たっていることを前提に、俺が目をつけられないようなムーブメントをできるかどうかを、2段階に分けて試していた。
まず最初に、ポーカーフェイスができるかどうか。
これは当然「俺が何者かからアドバイスを受けた」という嘘をつき通せるか、ということを意味する。こちらは単純で、ひたすらポーカーフェイスを貫き通せばいいだけだ。
少し難しかったのは次。
それは、何でもない一般生徒としての振る舞いができるかどうかだ。
もし仮に、俺が南雲会長に睨まれた場面で何の反応も示さなかったら。それは一般的な生徒の反応とはかけ離れたものであり、不自然だ。
上級生、ましてや生徒会長に睨まれれば、たとえ何もやましいことがなかったとしても、下級生は委縮する。例えば目が泳いだり、俺のように後ずさったり。それが自然な反応だ。
これで南雲会長は、俺が本当に何者かにアドバイスをもらっただけの人間なのかどうか、疑いを強めることができない。
つまり、俺に目をつける客観的根拠がないわけだ。
俺がボロを出さなかったことで、南雲会長の中にあるであろうモヤモヤはそのまま。向こうからするとあまりいい気分じゃないだろう。
願わくば、そのまま俺を視界から外してほしい。
その方がお互いに余計な気を回さなくて済むし、いいことずくめのはずだ。
まあそのためにはまず、俺が目を付けられるような行為を慎まないとな。
何にせよ、今は休息をとるべき時だ。
部屋に戻ったら寝よう。
超久しぶりの投稿なのに、構成の関係上、ちょっと短めになってしまいました…
大学も春休みに入ったので、これから更新スピードを上げていけたらなと思っています。