実力至上主義の学校に数人追加したらどうなるのか。※1年生編完結 作:2100
すみません、辻褄の合う展開を考えるのに少し時間を要しまして……
オリジナル要素の追加による調整は所々にありますが、描写としては、今回はほとんど原作通りに話が進んでいきます。
1
いよいよやってきた、投票日当日。
生徒たちには、いつも通りの時間に登校するよう指示が出されたが、平日の登校日とは異なり、朝のホームルームは行われなかった。
教室に全員がそろったところで、投票開始時間まで待機していろ、とだけ言い残し、茶柱先生は教室を出て行ってしまった。試験の準備があるそうだ。
投票開始時間は9時と聞かされた。それまであと30分残っている。
教室内に流れるのは、静寂……かと思っていたが、ボリュームは小さいながらも、意外にもそこかしこから話し声が耳に入ってくる。
俺の後ろの席に座る二人も、何やら会話をしているようだった。
「あなたは結局、何もしなかったの?」
「どういうことだ」
「自らが危険に晒されても、傍観者で居続けたのか。それを聞いているのよ」
「見ての通りだ。俺は何もしてない。むしろお前に助けられてる」
「……そう」
清隆の「何もしてない」が嘘だということは分かる。少なくともこいつは櫛田に接触している。
もちろん、俺がここでそれを堀北に告げることはないのだが。
ここでの高校生活が始まってから約一年が経つが、堀北はまだ清隆の隠れ蓑から脱却できていない。
もちろん、堀北も成長した。入学当初とは見違えるほどに。しかし、清隆のそれには遠く及んでいないだけのこと。
「みんな、少し僕の話を聞いてほしい」
突然、全員の前でそう言ったのは平田だ。
一晩経って、少し落ち着いたか。表面上はいつもの冷静な平田に見える。あくまでも表面上は、だ。
「まず、昨日の件。僕が堀北さんに批判票を入れると言ったことを、謝罪させてほしい。そして撤回する」
「……どういうこと?」
深々と頭を下げる平田。
堀北はひどく困惑している。
「君はクラスに必要な存在だと判断した。それだけのことだよ」
「……では、誰がこのクラスに不要な存在だと判断したの?」
問われた平田は、一度目を閉じ、覚悟を決めたように口を開いた。
「……僕さ。だからみんな、僕に批判票を入れてほしい」
……やっぱりそうか。
平田の様子から、なんとなく察していた人も多いだろう。
クラスの誰も切り捨てることができない。なら、自分がこの場から去ってしまう。
昨日のベンチでの平田は、そんなことを言い出しそうな空気があった。「平田が退学したがるかもしれない」という予想を告げていた綾小路グループのメンバーが、俺に視線を注いでいるのを感じる。
「そ、そんなことできないですっ!」
ざわつく教室の中、誰よりも大きな声でそう叫ぶ人物がいた。
確か、王美雨。
Dクラスの中では学力が高く、特に英語が得意という印象がある。櫛田と特に仲が良い。そして愛理ほどではないが、引っ込み思案。
俺が彼女に対してもっている印象はそれだけ。話したことがないのだから仕方がない。
消極的な王がこのような行動に出たことに、少し驚きを感じた。
「何を言い出すかと思えば……」
「堀北さん、聞いてほしい。そもそも、この試験がみんなにとって辛いものになっているのは、本来誰も退学になりたがるはずがないからだ。退学したくない人を無理矢理退学させる必要がある。昨日も言った通り、とても理不尽だよ。でも誰かが退学を希望するのなら、その限りじゃないよね」
「あまりにも馬鹿げた話だわ。それで素直にあなたに批判票を入れる生徒が出てくると思う?」
「出てくるよ。退学したいと言っている人が退学する。何も難しくないことだ」
理屈の上ではそうだ。
しかし、ことクラスの重要人物となれば話は変わってくる。
それも平田だ。すんなり行くはずはない。
「それだけじゃない。僕は昨日、冷静に話す堀北さんに対して感情的にあたってしまった。あの場面で冷静でいられないのは、僕の能力が足りないからなんだ。昨日、高円寺くんが言った通りだよ。みんなを混乱させてしまったのは僕が原因だ。その責任を取るよ」
平田の口から名前が出た高円寺だが、話を聞いているのかいないのか、いつも通りに手鏡で自分の顔を鑑賞していた。
「僕はこのクラスが大好きだ。でもそれだけに、同時に失望もしたよ、君たちには。僕はもう、このクラスにいたくなくなったんだ。僕を退学にして楽にさせてくれ」
いつもの口調から繰り出される、平田らしからぬセリフ。
「お、俺は平田に入れる! 平田のためにもさ!」
昨日で退学の筆頭候補となってしまった山内は、当然それに乗っかる。
これで再び状況がかき回された形になった。
ぐちゃぐちゃになってしまったCクラス。
そんな中、時計が9時を回るころ、茶柱先生が教室に入ってきた。
「お前たち、試験の準備が整った。名前を呼ばれた者から、別室に移動して投票してもらう」
さあ、運命の投票だ。
誰が退学になるのか、そして誰がプロテクトポイントを手にするのか。
2
全員の投票が終了した。
すでに結果は出ている。
あとは発表を待つだけだ。
ある者は普段通りの表情を、またある者は不安に駆られた表情を、それぞれ浮かべていた。
しかし、中でもひと際目立っていたのは、やはり山内だった。
貧乏ゆすりをしたり、しきりに制服のしわを伸ばしたり、ひどくせわしない様子だ。山内が動くたび、机やいすがガタッ、ギシッと音を立て、教室内に響く。
「落ちつかない様子だねえ。もうすでに君の退学は決まっているようなものだよ」
高円寺が煽るように山内に話しかける。
「は……なに言ってんだよ。俺は退学になんかならねえって」
「このクラスでは、かなりの生徒が批判票に君の名前を書いたはずさ」
「違うよ高円寺くん。退学するのは僕だ」
「無駄さ平田ボーイ。これをみたまえ」
高円寺はポケットから携帯を取り出し、近づいてきた平田に差し出した。
「これは……!?」
「昨夜、女子数人から回ってきたメッセージだよ。『明日、平田くんは自分を退学にしてくれっていうつもりだと思う。それでみんなにひどいことを言ったりするかもしれない。でも、それはきっと本心じゃない。信じて賞賛票を入れてあげて』とね。多くの生徒に届いているはずさ」
「そんな……」
平田の期待とは裏腹の結果だった。
俺には回ってこなかったが、当然俺が平田に批判票を入れるはずはない。
「君たちの期待は崩れ去ったようだねえ」
自席に戻り俯く平田と、クラスのほぼ全員の視線を一手に受ける山内。
「……違う、違うんだよ。ははっ、そうさ、退学するのは俺じゃないんだよ」
「見苦しいよ。諦めて、腹をくくった方がずっと利口だと思うねえ」
「ははっ、やっぱりお前も何も知らないじゃないか、高円寺」
今まで煽られていたことの仕返しのつもりだろうか、こんどは山内が高円寺を挑発するような口調で話し始めた。
「ほう?」
「投票は終わったし、もういいか、話しちゃっても……」
そう言って、やおら立ち上がる山内。
「てかさ、お前は知ってるんじゃないの? 速野」
「……は?」
突然名前を出され、少し驚いてしまった。
先ほどまで山内に注がれていた視線が、今度は俺に向かってくる。
「いや……俺は何も……」
本当に知らない。櫛田からも、藤野からも何も聞かされてはいない。
しかし、推測は立つ。このクラスにも、何人か察している人間もいるはずだ。
「お前もしかして……坂柳から賞賛票貰うつもりか?」
俺がそう言うと、山内はわざとらしく大きな声で笑った。
「はははっ、そう、そうなんだよ。俺はさ、坂柳ちゃんから賞賛票を貰う約束してるんだよ。それも20票もさ! だからさ、俺の点数はどんなに低くてもマイナス10点とかだろ? 他のやつがちゃんと俺の点数を上回れるのか、むしろそっちの方が心配だよ俺は」
やっぱりそうか。
そりゃ、藤野に話が伝わってるわけがない。坂柳を慕い、信奉している生徒の中でのみ共有されている話だろうからな。
もしその通りになれば、確かに山内が退学になることはないだろう。
「悪かったな健、寛治、心配かけて」
「え、あ、ああ……」
戸惑いつつもうなずく須藤と池。話の展開についていけないようだ。
隠していた奥の手を全員の前で明かし、山内は余裕を気取っていた。
しかし、その裏にある焦りや不安を、全く隠し切れていない。
「でも山内……その約束、ちゃんと形として残したのか?」
山内に問う。
ちゃんと証拠は残したのか、と。
「それは……」
「票をもらう約束をした時、坂柳にこんな感じのことをいわれたんじゃないのか? 自分の言葉を信じてほしい、信じられないなら、この話は無しだ、って」
「だ、だから、それは!」
様子を見る限り、図星らしい。
「やめてあげよう、スマートボーイ。彼が大丈夫だと言うなら、きっと大丈夫なんだろうさ」
「いや……」
「そ、そうさ! 大丈夫なんだよ!!」
「おい山内、廊下まで声が響いてきたぞ。静かにしろ」
そこに、書類を持った茶柱先生が教室に入ってきた。
教壇に向かい、席に着くよう全員に指示が飛ぶ。
いよいよ、結果発表だ。
「待たせたなお前たち。結果が確定したので、この場で発表する。まずは得点の上位を3位から発表していく」
ここで名前を呼ばれる上位陣は、大体予想がつく。
「3位……25点の平田洋介、お前だ」
「っ!」
名前を呼ばれた瞬間、平田は天を仰いだ。
あれほどの醜態をさらしたうえ、自ら退学を望んでも、この高得点、そして高順位。
平田への信頼はそれほどに強固だったということだ。
「2位は32点、櫛田桔梗」
それを聞き、櫛田はそっと胸をなでおろした。
かなりの高得点だ。本来なら1位になっていてもおかしくない得票数。
あのような形で山内の件に関わっていたことが、逆に同情を呼んだのだろう。
俺の立てた作戦の成功を意味している。
平田を上回ったのは、恐らくDクラスあたりの賞賛票が入ったからか。
「な、なあ、この二人がこの順位ってさ……一位は誰なんだよ」
そう、期待通りの高得点ではあるものの、この二人を抑えての1位がいるということだ。
大方の予想は、この二人がツートップ、あとは大体どんぐりの背比べ、というものだった。
それが大きく裏切られた。
「1位は……」
一瞬の間を作る茶柱先生。
「……35点の綾小路清隆、お前だ」
衝撃の結果に、教室内がざわつく。
「な、なんで!?」
本来なら清隆と退学を争うはずだった山内は、泡を食ったような顔をしている。
いや、山内だけじゃない。予想だにしなかった結果に、全員が全員衝撃を受けていた。
「あなた、何をしたの……?」
「言っただろ、オレは何もしてない」
なぜ清隆がこのような高得点を獲得できたのか。
その謎解きは簡単だ。
本来山内に入るはずだったAクラスからの賞賛票が、そのまま清隆にスライドしただけのこと。
つまり……
「そして、最下位はマイナス34点のお前だ、山内」
「ま、マイナス34点!?」
退学者は山内春樹。これで結果が確定した。
定期試験のときと同様、全員の得点が黒板に貼り出される。
山内に続き、マイナス20点で同率39位の須藤、池。
自分のスコアを確認すると、6点。9位という順位だった。
しかし、多くの人にとって、自分のスコアは関心事じゃないだろう。
全員、視線は山内に向いている。
「なんで! どうしてだよ! なんでこんな試験で退学しなきゃいけないんだよ!」
「どう言おうと自由だが、決定は覆らないぞ」
「俺は絶対認めねえよ! こんな、こんな試験で!」
必死に叫ぶ山内。
しかし、突き付けられた現実は変わらない。
「な、なあ速野! 助けてくれよ! 本当に俺は坂柳に賞賛票を貰うって約束してたんだって!」
必死な山内に気圧され、席を立って後ずさってしまう。
なぜ俺に泣きついてきたか、理由はなんとなく分かる。
今回の件にある程度深く関わっている者の中で、俺は唯一山内を直接的に非難していない。
俺ならわずかでも希望があると考えているんだろう。
「いや……無理だって」
「な、なんでだよ!!!」
近距離で大声で叫ばれ、思わず耳を塞いでしまう。
「口約束だけで証拠がないなら、無理だ……お前も理解してるだろ?」
「くそ、くそくそくそ!!!!」
せめて昨日の時点で相談をくれていれば、まだやりようはあった。
山内を使ってクラスに混乱を招いた、的な主張はできなくもないからな。少なくとも坂柳が大嘘を吐いたことは間違いないわけだし。それでCクラスに何らかの利益が出るかもしれない。
しかし、山内を助ける気があるかといえば、嘘になる。
俺も山内へ批判票を投じた1人だからな。
「山内、退室だ」
「嫌だ! 俺が退学なんてあり得ねえって!」
「現実を受け入れたまえ。君はこのクラスから不要と判断されたのだよ」
山内のいる俺の席に近付きつつ、そう言い捨てる高円寺。
「うるせえ! るっせえー!!」
「素直に認めて引き下がれば、潔いのだがねえ。君は最後の最後まで、救いようのない不良品……いや、廃棄物というわけか」
高円寺は、ひたすらに山内の神経を逆撫でするセリフを吐き続ける。
退学通告を受け、ただでさえ不安定な精神状態の山内。
それに加えてこのような言葉を浴びせられ続け、何かがプツン、と切れてしまったのだろう。
「あああ……ぁぁああああああ!!!」
目の前にあった俺の椅子を掴み、高円寺に向かって振り上げた。
「ちょっと……」
静観していた堀北もさすがに止めようとしたが、もう遅い。
火事場の馬鹿力というやつか。片手で軽々と持ち上げられた椅子が、高円寺に強く振り下ろされた。
しかし、高円寺はそれを何食わぬ顔でつかみ取った。
「なっ……!」
そして山内の胸ぐらを掴み、自分に引き寄せる。
「私に殺意を向けたんだ。覚悟はできているんだろうね?」
「高円寺」
このままではまずい、というところで、茶柱先生が高円寺に制止をかける。
それには逆らうことなく、高円寺は山内から手を離した。
「これ以上はやめておけ山内。……お前のためだ」
「うぅ……」
声にもならない声を出し、うなだれ、膝をつく。
「ぁぁああああ~!!」
全員の耳に響く大きな咆哮だけを残し、山内はこの学校を……実力至上主義の教室を去っていった。
3
「1位は……36点の坂柳、お前だ」
場所は変わり、Aクラスの教室内。
そこでも他クラスの例にもれず、特別試験の結果発表が行われていた。
「まさか私が選ばれるなんて思ってもみませんでした。ありがとうございます」
社交辞令のように、坂柳はそう言ってのけた。
「2位は33点、藤野だ。惜しかったな」
「あはは……はい」
担任の真嶋の言葉に、藤野は苦笑いを浮かべた。
数字を見れば確かに惜しいかもしれないが、その実、まったく惜しくもなんともないことを、藤野は理解していた。
「では最後に……最も得点の低かった生徒を発表する。すでに理解しているとは思うが、ここで名前を呼ばれた生徒は退学となる。直ちに教室を退出し、私とともに職員室に来てもらうことになる」
感情を入れることなく、淡々と事実を述べる真嶋。
「最下位は、マイナス36点……」
クラスのほぼ全員から批判票を受けた生徒。
「戸塚弥彦。お前だ」
告げられた一人の名前。
「な……どういうことだ!」
「そ、そんな……どうして……」
狼狽している葛城、戸塚の両名。
先日、坂柳はこう告げた。
葛城を退学させる、と。
しかし、ふたを開けてみればどうだ。
退学になったのは戸塚。
そして葛城はマイナス5点。高くはないが、退学になどなり得ない得点だった。
「何をした坂柳!? お前は俺を退学にすると言ったはずだ!」
らしくなく、激高する葛城。
「うふふ、そんなことも言いましたね。あれは嘘です」
笑顔で、悪びれることもなく、あっさりとそう告げた。
「実力ベースで見れば、戸塚くんが他のみなさんに比べて一歩劣ります。これは私だけの見解ではありませんよ。彼の得点を見ればおわかりでしょう?」
「くっ……」
現状、Aクラスの生徒の中で坂柳が投票先に影響を与えることのできる人間は、約半数の20名ほど。
しかし、戸塚の得点はマイナス36点。
坂柳に何も言われずとも、批判票の投票先としてほとんどの生徒が戸塚を選択したことが読み取れる。
「なぜこんな回りくどいマネをした……?」
「他クラスの持つ賞賛票が、戸塚くんに入ってしまうのを防ぐためですよ」
初日の時点で戸塚が退学宣告を受け、戸塚が他クラスに賞賛票を自分に入れるよう持ちかけ、それが通ってしまうリスクを避けたということだ。
他クラスとしても、Aクラスで一番実力が低いのは戸塚と認識している生徒が多い。そんな戸塚を残すことにメリットを感じて、票を入れる可能性もあった。
「戸塚……退出だ」
この特別試験が発表されたとき、いの一番に反論を行ったのは真嶋だった。
真嶋としても、それほどに受け入れがたい試験だった。
静かに退出を告げる声色にも、どこか悲痛さが感じられた。
「ぐっ……くそっ、くそっ……!」
退学になるのは葛城。自分ではない。
葛城が退学になるのは当然気に入らないが、同時にターゲットが自分でなかったことに安心もしていた。
ある種、高をくくっていた戸塚。
それが、一気にどん底に突き落とされた。
戸塚が姿を消した教室には、一瞬の静寂が流れる。
それを破ったのは葛城だ。つかつかと坂柳に詰め寄っていく。
坂柳に鋭い目線を向ける葛城だが、坂柳は全く意に介していないようすだ。
「言っておきますが葛城くん、私を恨むのは筋違いですよ。どんな形であれ、これがクラスの意思なのです。結果は受け止めていただかないと」
「……わかっている。だが、もう他の生徒を狙うような真似はするな……!」
「話が早くて助かります。やはりあなたを残したのは正解でしたね」
坂柳はそう言い残し、葛城の元を離れようとした。
しかし、急に立ち止まり、付け加えるようにして言った。
「これは余計なお世話かもしれませんが……彼女にお話を伺うことをお勧めしますよ、葛城くん」
「彼女……?」
「そこで苦悶の表情を浮かべている、藤野さんです」
葛城は、藤野に目を向ける。
同じく視線を傾けていた藤野と目が合った。
「……ちゃんと話そうと思ってたことだから。葛城くん、放課後、時間貰えないかな……?」
小さくつぶやくようにしてそう言った藤野。
要領を得ない葛城だが、静かにうなずいた。
4
全クラスの結果は、1階の掲示板に張り出されている。
Aクラス、戸塚弥彦。
Bクラス、退学者なし。
Cクラス、山内春樹。
Dクラスは、龍園翔……ではなく、真鍋志保。
「やっぱり、Aクラスは戸塚か。Bクラスは誰も退学せず、で……Dの真鍋って誰だ?」
聞いたことのない生徒だ。
しかし、龍園が退学にならなかったのは俺の予想通り……というより、戦略通りだった。
もちろん俺としては、龍園に退学になってもらう方がうれしかった。
しかし、そうもいかない事情があったのだ。
龍園はおそらく、俺が関与していることにはまだ気づいていない。
いや、俺がいてもいなくても、結果はあまり変わらなかったんじゃないだろうか。そういう意味では俺はほとんど関与していないともいえる。
だが、少なくとも俺は龍園の退学阻止に向けて行動し、結果が出た。
今回の「依頼主」も、きっとこれで満足だろう。
俺の仕事はこれで完了だ。
次回は10巻分最終話、種明かしパートとなります。