実力至上主義の学校に数人追加したらどうなるのか。※1年生編完結 作:2100
オリ主とオリキャラはどう動いていたのか、紐解いていきます。
1
今回、俺は本当に何もせずに静観するつもりでいた。それが、俺が生き残るための最良の方法だと考えたからだ。
その目論見は、初日にして一気に崩れ去ったわけだが。
まず最初に、櫛田からの報告。
正直面倒だな、と思ったが、櫛田の使い勝手が悪くなるのは困る。
まあこれはいい。
初日の夜、俺はもう一人からある連絡を受けていた。
その主とは……Dクラス、小宮。
俺がこの前の一之瀬の件で協力を依頼した、元俺のスパイだ。
俺はその協力を、小宮への借り1つということで承認させた。
その借りを、この試験で返せと言ってきた。
そして、こんなことを頼まれた。
「速野、龍園さんの退学を阻止してくれ!」
「……は?」
俺への貸しをこんなに早く消費するとは思っていなかったし、何よりその内容にも驚かされた。
Dクラスの生徒のほとんどが、龍園のことをよく思っていないはず。もちろん、Dクラスが勝ち上がっていくために龍園の存在が不可欠だと考える生徒もいるだろうが、まさか小宮がそっちの考えを持っているとは思っていなかった。
また、そもそもちょっと頼みごとの大きさに差がありすぎやしないかと思ったが、仕方ない。口約束ではあるが、契約内容に「頼み事は等価でなければならない」といった制約は設けなかったため、俺はそれを承諾するしかなかった。
実際のところ、解決策そのものはすぐに思いついた。
龍園は、Aクラスとの契約で大量のプライベートポイントを入手している。
そのプライベートポイントをBクラスに譲渡して、Bクラスが退学を取り消すのに必要な2000万ポイントの不足分を埋める。その代わりに、Bクラスが持つ他クラスへの賞賛票を全て龍園に集め、龍園の退学を阻止する。
要するに、ポイントで票を買う、ってことだ。
こうして書いてみると、戦略はシンプル。しかし、それに至るまでの戦術は簡単にはいかない。
まずそもそもの話として、龍園は退学を拒んでいないという。
このままでは、何も行動を起こすことなく、大人しく退学していくだろう、とのことだった。
むしろ退学を止めようとすれば、龍園はより意固地になって自ら退学を望むようになる、と。
そしてあいつは頭も切れる。恐らく上記の戦略も思いついているだろう。
そんな相手から、退学を止めようとしていることを悟られずに、溜め込んでいるプライベートポイントを回収する手段がなかった。
少なくとも、その役目は小宮には務まらない。
小宮はポーカーフェイスが上手い。だが、もし小宮がノコノコと龍園の元にポイントの回収に向かえば、龍園は勘ぐる。そして理解する。小宮は自分を退学させないために送り込まれた刺客ではないかと。
ポイントの回収役として適任なのは、龍園との関りが浅くなく、龍園を訪ねても門前払いを受ける可能性の低い生徒。且つ、龍園の退学を望んでいる生徒、または、龍園の退学を望んでるわけではないが、龍園の退学を防ぐ術はない、と頭で結論付けてしまっている生徒。
俺が小宮に戦略を話してしまった時点で、小宮はポイント回収役には不適任となる。
では、誰に任せるのがいいか。
俺はDクラスの生徒をほとんど把握していない。その生徒の選定は小宮に任せるしかなかった。
小宮によれば、龍園との関りが浅くない、と言える人物は4人。石崎、山田アルベルト、椎名、伊吹。
このうち、少なくとも石崎、山田、椎名は、龍園の退学を望んでいるわけではないらしい。伊吹に関しては微妙なところだそうだ。
ならば、と、俺はまずその4人にターゲットを絞った。
龍園をこのまま退学させてしまってもいいのかどうか。そして、退学を阻止する手段が思いつかなければ、他に誰かそれを考えてもらえるような人物に心当たりはないか。大きく分けてこの2つの疑問について、その4人に伝えるよう、小宮に指示を出した。
俺の1日目の動きはここまで。
そして2日目。
朝比奈先輩から一之瀬についての話を聞いた。
正直これは渡りに船だった。交渉材料に使える。だが、なかったらなかったでどうにかしていただろう。一之瀬が自分のクラスの退学者をどうするかで頭を悩ませているのは、想像に難くない。交渉の余地は大きい。
その日の昼食時間、俺は清隆を呼び出した。
場所は、人気のない特別棟。1学期、須藤が暴力事件を起こした現場付近だ。
「どうしたんだ急に。オレに話って」
要件は伝えずに来てもらったため、当然と言えば当然の反応だ。
「悪いな……まあとりあえず、一つ聞きたいことがある」
「なんだ」
「Dクラス、どうなると思う?」
「どう、というと?」
「誰が退学になるのか……って話だ」
「それは……やっぱり龍園じゃないのか。誰もがそう思ってる」
まあ、そうだな。
「お前はそれについてどう思ってる?」
「……どういう意味だ?」
またまた、分かってるくせに。
「龍園の退学を望んでるかどうか、それが聞きたい」
「……正直、どうとも思ってない。今は自分が退学にならないようにすることで頭がいっぱいだ」
なるほど、そう答えるか。
まあ、ここで正直な答えが返ってくるとは思ってない。
根拠はない、ただの勘だが……こいつは、龍園の退学を歓迎してないような気がしてるんだけどな。
まあ、それはさして重要なことじゃない。
いずれにせよ、清隆には巻き込まれてもらう。
清隆がそうせざるを得ない、魔法の言葉を口にする。
「話は変わるが……船上試験で、お前が俺に一つ借りを作ったの、覚えてるか」
優待者当ての特別試験で、SIMカードの入れ替え工作に協力を求められた。その時にできた、こいつへの貸しだ。
こいつなら今この瞬間に、俺の言いたいことが何か、全て理解しただろう。
龍園を助ける作業に協力してもらいたい、ということを。
「……お前は龍園を助けたいのか」
「いや、個人的には退学してくれた方がうれしいと思ってる。でも、諸事情でそうもいかなくなってな」
小宮の名前は出さない。出す必要もない。
「このことに協力するなら、一之瀬に関する情報を一つ、お前に流す」
「……一之瀬に関する情報?」
「お前、一之瀬と個人的な信頼関係を作ろうとしてるだろ。この前、一之瀬の噂が流れたとき、お前一之瀬の部屋を訪ねたらしいな」
一之瀬を味方につけたい理由は恐らく、南雲会長関連だろうな。
少なくとも、一之瀬に恩を売りたい、というような理由がなければ、こいつが自主的にあの件に関りを持つとは思えない。
さて、外堀は埋まった。
「……わかった。借りを返す」
「そうか。よかった」
そして予告通り、一之瀬に関する情報、つまり、朝比奈先輩に頼まれた伝言役を務めあげた。
一之瀬の対応。そして、南雲会長が一之瀬に対しどのような見返りを求めているか。
「この話を聞いて……いや、多分お前なら聞く前から、龍園を助ける戦略は思いついてるだろ」
「龍園のポイントを使って、Bクラスの賞賛票を龍園に集めさせる、ってことか」
さすが。大正解だ。
「これで龍園は助けられるし、お前も一之瀬に恩を売ることができる。悪い話じゃないだろう」
「……そうだな」
計画自体に不服はないだろう。
俺に使われているところが少し気に食わない、ってところか。俺といい堀北といい、こいつは基本的に誰かを裏で操る側だからな。
だが、それは我慢してもらうしかない。俺に貸しを作ったのは清隆なんだから。
「具体的にはどうするんだ?」
「ああ、一応、石崎あたりがお前のところに相談を持っていくよう仕向けてはある。でも、絶対ではないからな。お前からもよきように動いてくれ」
「よきように、って……」
いやだって正直、俺が考えるより、こいつに勝手に動いてもらった方が上手くいきやすいと思うんだよ。
「俺よりDクラスとのパイプはあるだろ。そいつらにそれとなく言う、とかな。ただ、その時にこの戦略のことは言わないでくれ」
「龍園に悟られないようにするため、か。あいつの退学の意思は固そうだったからな。悟られたらポイントを引き出せない可能性もある。そうしたほうがいい」
ほんとマジで話が早いなあ。
「次に一之瀬だな。龍園のポイントが回収できるより前に一之瀬が決断してしまったら、計画も台無しだ。そうならないように俺から動く」
「どうするんだ?」
「一之瀬が最後の最後まで悩むように仕向ける」
その戦略が、この次の日の放課後に一之瀬に連絡を取って行ったことだった。
俺なら不足ポイントを出してやれる、という話。
あの時は冗談めかして言ったが、それでも一度この話を聞けば、頭のどこかでチラついてしまう。
南雲会長と付き合うか否か、ということの他に、クラスメイトが本来受け取れるはずだったポイントを奪ってしまっていいのかどうか、という新たな葛藤が生まれる。
それに加えて、俺が帰り際に言った「タイムリミットまで悩むといい」という言葉。
これで、一之瀬は悩みに悩み、最後まで判断を保留するだろう。
一之瀬の悩みの種を増やすこと。それが狙いだった。
俺がやったのはここまで。
結果は成功だ。Bクラスから退学者は出ず、龍園の退学も阻止できた。代わりに退学となった真鍋とやらには、黙とうをささげておこう。
一応、清隆から経過報告は受けていた。
あいつは椎名に接触し、龍園のことをそれとなく伝えたらしい。そしてその日のうちに、石崎と伊吹が部屋に来て、龍園の退学を防ぐ策を教えてくれと言われたそうだ。
その場では計画のことは言わず、龍園の持つポイントを回収してこい、とだけ言って帰らせた。
そして伊吹がポイントの回収を行い、最終日に一之瀬に譲渡。代わりに一之瀬らBクラスから龍園への賞賛票の確約を行って、契約成立、というわけだ。
正直、清隆に協力を依頼することなく、全て俺自らが動くという手もあった。
しかし、龍園など、小宮以外のDクラスの人間に変な目のつけられ方をしたくなかった。
あいつらを相手取るのは清隆で充分。
俺はそれより、自分のクラスやAクラスのことに頭を使いたい。
2
現在時刻は夜の7時。
ちょうどいい夕飯時に、俺は台所で調理をしていた。
二人分の。
「もう少しでできる」
「うん、ありがとう。楽しみにしてるね」
俺の部屋にいるのは、藤野だった。
藤野はこの試験、だいぶ精神をすり減らしていた。
それを受け、今日の夕飯を俺が作ることで慰安をしようというわけだ。
ただ、傷心具合でいえば、藤野よりも平田の方がかなり大きいだろう。
もちろん見捨てたわけじゃない。ただ連絡がつかないのだから、現状俺にはどうすることもできない。
「できたぞ。ハンバーグ」
「うわ、美味しそう!」
いただきます、と手を合わせ、ハンバーグを口に運ぶ藤野。
そういえば、藤野の夕食の様子を見るのは、こいつと初めて学食で会ったとき以来のことだ。
相変わらず美味そうに食うなあ。
自分でも食べる。
うん、悪くない。
「それで、結局何点差だったんだ?」
「3点。坂柳さんが36点で、私が33点だったよ」
「へえ……すごいな」
いや、恐れ入った。
藤野は今回、自分がプロテクトポイントを獲得しないように動いた。
このクラスでプロテクトポイントを手にするのに最も相応しいのは坂柳。そのため試験期間中、葛城、戸塚、そして坂柳本人とそれに近しい人物を除いたAクラスの全員に、クラス内投票では坂柳を一位にするよう働きかけたのだ。
藤野の場合、クラス内だけではなく、他クラスからも比較的多くの賞賛票が集まることが予測される。
つまりこの働きかけの意味は、実質的に「自分にある程度批判票を入れろ」ということになる。
恐らく、藤野の動きとは別に坂柳も動いていただろう。
しかし坂柳としては、戸塚と違って藤野を退学に追い込みたくはないはずだ。葛城を残すということは、自分に従っているわけではなくても、有能であれば現時点で落とすつもりはないということ。
坂柳が指示した批判票の投票先の票数の大小関係は、戸塚>葛城>=藤野といった具合だろう。
それでも、坂柳と3点差の2位。
クラス外からどれほど多くの賞賛票が藤野に入ったかが伺える。
「葛城の点数は?」
「マイナス5点だよ」
「なるほど……」
試験が発表された当日。
坂柳が葛城をターゲットにすると宣告した時、藤野は坂柳の言い回しに微かな違和感を覚えていた。
それは、「組織にリーダーは2人も必要ない」という部分。
その違和感の正体は、坂柳が本当に葛城をリーダーとして見ているのか、というものだった。
たしかに、1つの組織に2人のリーダーが対立している構造は望ましくない。マネジメント的にも、一方に降りてもらうのが正しい。
しかし、もしも坂柳が、葛城を一つの駒としてしか見ていなかったとしたら。
それならば、葛城をクラスから排除する理由がない。リーダーでないなら、そこに対立は存在していないのだから。
ならなぜ坂柳はこの場で、このような宣言を行なっているのか。
そう考えた時、ある一つの仮説が立つ。
葛城派であり、且つ実力的にクラス内で一歩劣っている戸塚を、リスクを避けて確実に落とすためではないかと。
なぜあの一瞬で、藤野は坂柳の狙いを看破できたのか。
その答えはひどく単純。
藤野も、坂柳とほとんど同じようなことを考えていたからだ。
今回の試験が発表された時点で、藤野は心を鬼にし、戸塚を退学の第一候補とすることを決めていた。
その際、他クラスの票が戸塚に集まったら厄介であることも感じていた。それを解消するのに、坂柳の取った手法はうってつけのものだった。
だから藤野は、あの場では特に反論を行わず、葛城の犠牲に賛成したのだ。
もちろん、藤野は戸塚を退学させたかったわけではない。
誰も退学にならない手段があるなら、それに越したことはない。
しかし、そんな手段は存在しない。
ならば、退学しても、クラスにとって最も悪影響の少ない生徒に退学になってもらうしかない。
それが戸塚だったというわけだ。
もし坂柳が戸塚を落とそうとしているなら、自分と結論は一致している。
いや、もし坂柳が本当に葛城を落とそうとしているんだとしても、Aクラスには中立派という名の浮動票が多くある。
説得すれば、葛城を残すことも十分可能、という結論に至ったのだ。
そして、それを実際に実行した。
先程話に出た、坂柳を一位にする働きかけをすると同時に、葛城はAクラスに必要な存在だと思う、という自身の意見、そして先程予測した坂柳の狙いを伝えたそうだ。
その結果が、葛城のマイナス5点というスコアだ。
坂柳派のほとんどは、葛城に批判票を入れたが、逆に中立派の多くは賞賛票を入れた。
そして藤野の予想通り、坂柳は最初から戸塚のことを落とそうとしていた。
これら全てが総合され、葛城は残留、戸塚は退学、そして坂柳がプロテクトポイントを獲得するという、当初藤野が思い描いていた通りの結果となったわけだ。
とはいえ。
相当な葛藤があっただろう。
戸塚に対して申し訳ないという気持ちも強かったはず。
学校側はなぜこんな試験を課すのか。本当に全員が助かる手段はないのか。そんなことを何度も何度も考えたはず。
それら全てを押し殺すのに、精神的にかなり負荷がかかったらしい。
試験終了後の藤野は、目に見えて顔色が悪かった。
「ごちそうさま。美味しかった〜」
「それはよかった」
ただ、こうして俺の作った飯をガツガツとかきこむ藤野は、少しは元気を取り戻しているように感じた。
「今度は私が何か作るね」
「ん、そうか。楽しみにしとく」
藤野の腕前がいかほどか、期待しておこう。
誰かの手料理を食べるのは、一学期の堀北以来だな。
「ねえ、速野くん。今回Bクラスから退学者が出なくて、Dクラスでは龍園くんが残ったのって、私たちAクラスが龍園くんとの契約で払ってるポイントが鍵だったんだよね?」
「ああ」
「そっか。結果的にあの契約が、2つのクラスを救うことになったんだね」
「そうなるな」
藤野はその件について、俺が関わっていることは知っている。
しかし、清隆のことは知らない。
藤野の清隆に対する認識は、何故か坂柳に目をつけられている、謎めいた生徒、というものだった。
俺も、現時点では清隆について藤野に話すつもりはない。
清隆はCクラスの戦力。これについて話すことは、クラスの裏切りに繋がりかねない。
それぞれのクラスの利益は侵害しないこと。これはこの学校において、違うクラス同士の人間が友人関係でいるために必要なマナーだ。
「さて、ちょっと食器片付ける」
「あ、手伝うよ」
「じゃあ頼む」
2人で台所に立ち、2人分の食器と、使用した調理器具を一通り洗っていく。
台所は広くないため、2人で使うのは窮屈だが、俺も藤野もそこそこ細身だったことが功を奏し、作業に支障は出なかった。
作業が終わると、時計は20時15分をさしていた。
「じゃあ、私は部屋に戻るね。今日は本当にありがとう。すごくおいしかった」
「ああ。お疲れさん」
「うん。また週明けに」
扉が閉まり、しっかりと鍵をかける。
なんか、この前の櫛田といい、一つの行事が終わるごとに誰かに料理作るのが習慣みたいになってるな。
まあ、料理が嫌ってわけじゃないから別に構わないんだが。
「……やっぱり、気になるな」
心の中で呟いておけばいいものを、意味もなく声に出して言う。
何故、山内を吊るのに使われたのが清隆だったのか。
Dクラスの中でも目立たないから、といえばそれまでだ。
しかし今回のこの結末、見方を変えると、坂柳が清隆を退学から守ったとも取れる。
トップが変わったとしか思えないような、特別試験の性質の変化。
教師ですら難色を示す、理不尽な内容。
いろいろ調べた結果、この学校の理事長の名が坂柳であることを知った。
因果関係は全く分からない。
だが、この一連のことは果たして偶然か?
胸騒ぎのようなものを、はっきりと感じた。
10巻分が完結しました。
いやー、難しかった。原作の世界を壊さず、オリジナル要素を出すにはどうしたらいいか、非常に悩まされた巻でした。
オリ主の速野の影に隠れがちではありますが、藤野も中々にキレ者なんですよね。
そして前巻と同じく、速野のお料理コーナー。今回はハンバーグでした。身も蓋もないことを言うと、これ終わり方として非常に楽なんですよ。「料理」と「ヒロインと2人きり」という展開で空気を弛緩させられますし、ヒロインが帰った後の余韻を利用して、新たな波乱の予感も描写できます。
流石に3回連続同じ展開、というのもアレなので、次巻はもっと違う描写の仕方を考えますね。
というわけで、次巻、11巻分もなるべく早く更新していきたいと考えています。これからもこの作品を、どうぞよろしくお願いいたします。