実力至上主義の学校に数人追加したらどうなるのか。※1年生編完結 作:2100
今回は、展開はほぼ完全に原作通りで、主人公のモノローグがほとんどを占めています。
ep.84
『選抜種目試験』
〇試験日程
・3月8日
特別試験発表
対決クラス決定
・3月15日
相手クラスへ指定10種目の通知
・3月22日
試験日
〇試験詳細
・基本的な試験内容
各クラスより指定の数だけ選抜された種目で、対戦クラスと対決する。
・『司令塔』およびその役割
3月8日の放課後までに、各クラス1名ずつ、司令塔を選出する。
司令塔は、試験当日、種目に参加する生徒を指定する役割を持つ。
また、選抜された種目に直接参加をすることはできないが、全ての種目に関与を行うことができる。その関与の内容は各クラスの裁量によるが、最終的に学校側の承認によって決定する。
例)種目が仮に「じゃんけん3本勝負」の場合
司令塔の関与……任意のタイミングで、司令塔が一度だけ代わりにじゃんけんを行うことができる。
例2)種目が仮に「フットサル」の場合
司令塔の関与……任意のタイミングで、計3人まで交代できる。
・司令塔の関与の条件
関与の幅が大きすぎるときなどは、学校側が承認を見送る場合がある。注意して決定すること。
・対戦クラスの決定方法
対戦相手となるクラスは、3月8日の放課後、多目的室にて各クラスの司令塔4名によるくじ引きを行い、当たりを引いたクラスが対戦クラスを指名する。これにより、指名したクラスとされたクラス、そして余った2クラスという対決の組み合わせ2つが決定される。
・対決種目の決定
各クラスは、3月14日までに、対決する種目10種をリストアップする。リストアップされた10種目は、3月15日、相手クラスに通知される。ただし、一度学校側に申請した種目の変更、取り消しはできない。
そして、試験当日までに、リストアップした10種目から5種目にまで絞り込み、それを本命の対決種目として学校側に提出する。試験当日は、自クラスと相手クラスの合計10種目の中から、7種目を学校側がランダムで決定し対決を行う。この際、対決する種目は、各種目の対決時に1種目ずつ通知する。
・対決種目の条件
マイナー過ぎる種目や、複雑すぎるルール設定、日程上時間がかかりすぎる種目は採用を見送る場合がある。また、サッカーとPK対決など、同一種目として数えられる種目は行えない。そして、種目に参加する人数はリストアップする10種目全てで違っていなければならない。また、交代を含めて必要参加人数が10人を超える種目は各クラス2つまでしかリストアップできない。注意して決定すること。
・種目に参加する生徒の条件
参加に必要な人数は、交代も含めて各クラス1人~20人の間で決定すること。また、全ての生徒が既に種目に参加した場合を除き、異なる種目に同一の生徒を参加させることはできない。各クラスの生徒が1巡して初めて2回目の参加が可能となり、2巡して初めて3回目の参加が可能となる。注意して決定すること。
・試験中の注意
試験中、司令塔4名は多目的室に集まり、対決をリアルタイムで視聴する。参加生徒から司令塔へコンタクトを取ることはできない。司令塔は特殊なシステムを媒介し、参加生徒一名に関与の指示を行うことができる。
また、種目への参加生徒以外の生徒も、対決の様子をリアルタイムで知ることができる。応援などは基本的に制限を設けないが、種目の妨げになる行為は禁止とする。
〇勝敗
・勝利条件
7種目のうち、4種目以上の勝利でそのクラスの勝利とする。ただし、7種目終了より前の段階で一方のクラスが4勝を決めても、7種目を終えるまで試験は続行する。
・ポイントの変動
1種目の勝敗が決定するごとに、その種目の敗北クラスから勝利クラスに30クラスポイントが移動する。敗北クラスのポイントが不足していた場合、そのクラスのポイントはゼロとなり、不足分を学校側が補填する。ただし、その不足分は次のポイント増加の機会に相殺される。
また、勝利クラスには学校から30クラスポイントが付与される。
・勝利、敗北の際の司令塔
勝利したクラスの司令塔には、学校よりプライベートポイントが付与される。
敗北したクラスの司令塔は、退学とする。
1
「複雑だな……」
俺は小さくそうつぶやいた。
3月8日、月曜日、朝のホームルーム。
Cクラス総勢39人、誰一人欠けることなく「全員」がそろった教室で、1学年最後の特別試験、『選抜種目試験』の説明が執り行われていた。
茶柱先生の口頭説明を聞いただけではルールの7割も理解できなかった。
シンプルな設計だった先日の「クラス内投票」はうってかわって、非常に複雑、かつ難解な試験だ。
各クラスに一部ずつ配布されたという試験内容の資料に目を通すことで、ようやくその全貌が見えてきた。
学力、身体能力、その他の特技、連携、そして運。
それら全ての要素が絡み合った試験。
1学年の最後を締めくくるのにふさわしい試験内容と言える。
にしても、敗北した司令塔は退学処分か。相変わらず厳しい規定だ。
前回のクラス内投票でプロテクトポイントが付与されていなかったら、いったいどうなっていたか。想像するのも恐ろしい。
恐らく、クラス内投票のときよりもクラスは大きく混乱しただろう。
優秀な人物を司令塔に据えて敗北してしまった場合、そいつは退学。クラスにとって大きな人材を失うことになる。
それを恐れて、他の優秀とは言い難い生徒を司令塔に当てようにも、その生徒は実質、退学しに行くようなもの。やりたがるはずがない。
しかし、プロテクトポイントがあれば話は違う。
まあとにもかくにも、今日最低限やるべきことは司令塔の決定。
今日の放課後までに決めなければ、茶柱先生が適当に指名するとのこと。それだけは絶対に避ける必要があるため、迅速に決定しなければならない。
のだが……
「……相当堪えてるわね、彼」
そう呟く堀北の視線の先にいるのは、平田洋介。
本来であれば、真っ先に先頭に立って話し合いを進めているはずの存在だった。
しかし今は微動だにせず、ただ静かに目を伏せ、無言で着席して時間が過ぎ去るのを待っていた。
「私が話を進めるしかなさそうね」
そう言って堀北が立ち上がろうとしたとき。
池、須藤の二人が、こちらに……いや、清隆に近づいてきた。
「なあ。話し合う前に、確認したいことがあんだけどよ」
言葉にせずとも分かる。十中八九、先日の投票結果のことだろう。
須藤の持つ感情は、怒りではない。責め立てるとも少し違う、何とも形容しがたい複雑な表情を浮かべた須藤。
努めて冷静に言葉を発する。
「……ダチが消えたんだ。だからまだちゃんと受け止めきれてるわけじゃねーけど……春樹のヤツが退学になっちまったのは、俺の中ではわからない話じゃねーんだ」
須藤は一瞬こちらに視線を寄越した。
しかしすぐに向き直り、言葉を続ける。
わからない話じゃない、とは言いながらも、須藤は唇を噛んでいる。悔いの念はあるようだ。
「けどよ綾小路、納得いかねえのはお前の結果の方だぜ。なあ寛治」
「ま、まあ……多分、みんなよくわかってないと思うんだよ。なんで綾小路にあんなに賞賛票が入ったのかがさ」
口には出さずとも、池の言葉に共感するようにクラスの視線が清隆に集まっていく。
「それについては、私から説明するわ」
「ま、待てよ鈴音。俺は綾小路に説明させたいんだよ」
立ち上がる堀北を須藤が止める。
「気持ちはわかるけれど、それは恐らく無理なんじゃないかしら」
「無理……ってどういうことだよ?」
「彼自身にも、何が起こっていたのか理解が及んでいないはずだからよ」
「綾小路にも、分かってない……?」
「ええ。ただ説明すると言っても、私も当事者に直接話を聞いたわけじゃない。だからこれは推測の域を出ないけれど……簡単に言うと、全ては坂柳さんの戦略だったということよ。山内くんの退学も、綾小路くんの高得点も」
須藤だけでなくクラス全員に自身の声を行き渡らせるため、声のボリュームを上げる堀北。
「山内くんが最後に言っていたこと、覚えているかしら。坂柳さんたちAクラスから多くの賞賛票を貰う、という話。その賞賛票が山内くんには入らず、そのまま綾小路くんにスライドしたのよ」
「そりゃ、そうだろうけどよ。それが何で綾小路だったんだよ」
「それは恐らく、綾小路くんがクラス内でもあまり目立たない、普通の生徒だったからじゃないかしら。例えば幸村くんのように、何らかの能力に秀でている生徒を選んだら、山内くんが渋る可能性があったのは理解できるわよね?」
「あ、ああ……優秀なヤツを消したくはない、ってことだろ」
「ええ。そうやって選択肢を絞っていき、最終的に残った目立たない生徒の中から綾小路くんが偶然選ばれた。これで一連の流れは全て説明がつくわ」
堀北の説明で、ほとんどの生徒は納得のようすを見せた。
しかし池や須藤など、山内と仲が良かった生徒は、まだ苦い表情を浮かべている。
「なあ……今回の特別試験、オレが司令塔になっても構わないか?」
清隆は立ち上がり、そう言った。
「綾小路、お前……」
驚きを見せる須藤。
いや、須藤だけじゃない。それ以外にも驚いている生徒は多い。
敗北した司令塔には退学規定がある。そのためプロテクトポイントを持つ清隆が司令塔になる、という展開は多くの生徒が予想していたはずだ。
だから恐らくこの驚きは、清隆自らが進んで司令塔に立候補したことに対してのものだろう。
「堀北の言う通り、正直オレも突然のことに混乱してたんだ。でも、不信感を与えたのは事実だからな。それを司令塔になることで払しょくできるなら、そうしたい」
「いーじゃんそれ! 誰も退学にならなくて済むしさ」
池が賛意を見せる。その他の生徒も、多くの人は頷き、賛成の意を示していた。
しかし、そこに待ったをかけたのは篠原だった。
「や、ちょっと待ってよ。そりゃ綾小路くんが引き受けてくれるのは嬉しいんだけどさ……それって、なんか勝ちを捨てにいってる感じがしない? 綾小路くんは普通なんだしさ。もっといい人が立候補してくれるなら、そっちの方がいいと思うんだけど……」
誰かいる?と教室全体に呼び掛ける篠原。
しかし、立候補者は現れない。
当然と言えば当然の展開だ。誰もかれも、退学のリスクだけは負いたくない。ここでの立候補は自殺行為でしかない。
俺も今回は清隆が司令塔になるべきだと考えている。
それは、清隆が非常に高い実力を隠し持っているからではない。
プロテクトポイントの保持者だからだ。
つまりたとえ清隆以外のどんな生徒であったとしても、プロテクトポイントを持つ生徒が司令塔になった方がいい、というのが俺の考えだ。
確かに、優秀な生徒を司令塔に立てた方が、勝率は上がるように思える。
しかしそれは単純な能力だけを考えた話だ。
優秀だが、プロテクトポイントを持たない生徒が司令塔になった場合のことを考えてみる。
ふつうこの学校の生徒にとって、何よりも避けたいのは退学だ。負けたら退学になるかもしれない。そのプレッシャーの大きさは想像を絶する。そんな状況下で、冷静な判断力が問われる司令塔が務まるか。能力を十分に発揮できるか。
答えは否。
それに、負けたらその優秀な人材を失ってしまうのだ。もしクラスに残っていれば以後多大な利益を生み出していたであろう存在を。それはとてつもない損害だ。
退学を取り消す手段のない丸裸な状態で司令塔をやるのは、あまりにも危険すぎる。そのうえポテンシャルをしっかり発揮できないため、勝率も高くはない。リスクとリターンが釣り合っていない。
それより、プロテクトポイントを持つ生徒を司令塔に据え、安心して全力を出してもらうのがいい。
「やはり、私を含めて退学のリスクを避けたいのはみんな一緒ね。篠原さん、提案はありがたいけれど、他に立候補がいない現状では綾小路くんに頼むしかないわ。これで納得してくれるかしら?」
「……まあ、仕方ないよね。私も退学したくないし」
「ありがとう。あなたの心配はもっともだけれど、実際のところ、誰が司令塔でも大した影響はないはずよ。こちらで事前に綿密に打ち合わせを行えばある程度は応用が効くわ」
堀北のセリフに一部の生徒が納得した様子だが、これは恐らく清隆の司令塔を決定づけるためのブラフと見ていい。
司令塔の関与の内容は決められても、そのタイミングは、司令塔にしか判断できない。
資料の例にあるような、「参加生徒の交代」が関与だった場合、どのような試合展開で交代を行うかの判断は司令塔のみが行える。そこに必要なのは冷静な判断力、勝負勘だ。
それに試験中、司令塔は一か所に集まるという。相手の司令塔から話術で動揺を誘われるようなこともあるだろう。そういったことに動じない胆力も重要だ。
しかし、あえてそのことを指摘はしない。
そのまま放置し、結局司令塔は清隆にやってもらうということで話は決した。
2
放課後。
クラス内で、特別試験についての話し合いが始まる。
しかしその前に、司令塔による対戦クラス決めのくじ引きがある。
「司令塔になった者は、すぐに廊下に出るように。私と移動してもらう」
茶柱先生から指示が飛ばされる。
その後、真っ先に立ち上がったのは司令塔である清隆……ではなく、平田だった。
「ひ、平田くんっ!」
多くの生徒がその様子に唖然とする中、一人の女子生徒、王美雨が平田の名前を呼んで制止しようとする。
しかし、平田はそれを完全に無視。
荷物を持って教室を出ていく。そのまま帰宅してしまうのだろう。
「ごめんなさい、私……ちょっとトイレに行ってきます。すぐに戻りますからっ」
そう言って、平田に続いて王も教室を後にした。
トイレと言うが、平田を追いかける目的なのは確実だ。
しかし、恐らくは何の成果も得られないまま……いや、それどころかより絶望して戻ってくることになるだろう。
「おい清隆、早く行った方がいいんじゃねーの」
廊下に出ず、先ほどの一連の様子を見ていた清隆に声をかける。
茶柱先生が指示を出してから、少し時間が経ってしまっている。
「そうだな。悪いが、あとは頼んだ」
「ええ。もし当たりを引いたら、Dクラスを選んで」
「分かってるが、4分の1だからな。あまり過度な期待はしないでくれ」
そう言って清隆は出て行った。
当たりを引いたらDクラスを選ぶ。これにはクラス内のコンセンサスが取れていた。
総合力で上回るA、Bクラス。それより、学力などでは多少上回っており、且つ龍園も失脚してしまったDクラスを選んだ方が確実、という話だ。
龍園の機能していないDクラス。正直言って全く怖くない。
逆に言うと、龍園が復活でもすれば……一気に厄介なクラスとなる。
やっぱり退学させておくべきだったな。
仕方のないことではあったが。
「みんな、ルールの把握がまだしっかりとはできていないと思うわ。今日はまずそこを徹底する。それが終わってしっかりとスタートラインに立ってから、本格的な話し合いを始めましょう」
機能していない平田の代わりに教壇に立った堀北が、教室内の全員にそう告げた。
俺の方はルールの把握はできている。
そのため次のステップ、種目の設定に関して考えるが……これに関しては、清隆が持ち帰ってくる対決クラスによるところも大きい。
例えば、Bクラス相手に連携を要する種目は望ましくない。
Dクラス相手に格闘系の種目はよろしくない。
このように、各クラスの得意不得意を考慮に入れる必要があるからだ。
だがしかし、全クラスに共通的に通用する種目もある。
例えば須藤の身体能力。
体育祭でも明確になったように、須藤の総合的な身体能力に関しては、他クラスの生徒で右に出る者はいない。
スピードに関してはBクラスの柴田が対抗に上がるが、パワー面では一歩も二歩も劣る。
パワーに関してはDクラスの山田アルベルトが圧倒的だ。これに関しては須藤も敵わないだろうが、俊敏性は須藤に分がある。
スポーツ系の種目であれば、須藤個人の勝利は必至とみていい。
また先ほど出て行った王も、中国語テストであれば恐らく誰にも負けないだろう。
Cクラスは、総合力はそこまで高くない。しかし個々人に目を向ければ、案外粒はそろっている。
それをどのように種目決定に生かすか、だな。
ルールの把握に苦労しているクラスメイトを俯瞰しつつそんなことを考えていると、急に堀北が話し合いを中断し、端末を取り出した。
「たったいま綾小路くんから連絡がきたわ。対戦クラスは……Aクラス」
お世辞にも、朗報とは言えないものだった。
学年で一番の強敵との対戦。つまり、最も勝率の低い戦いを強いられるということだ。
「……マジ?」
「うそだろー……」
口々に不安、動揺が漏れ出る。
それを見た堀北は、パンパン、2回手をたたいて自身に注目を向けさせる。
「落ち着いて。確かにAクラスは強敵よ。けれど、戦う前から負けていてはどうにもならないわ。相手がどのクラスでもいまやれることを全力でやりましょう。そして今、それはルールの把握よ。中断してごめんなさい。質問を続けて」
堀北がそう告げると、またルールに関する質問が飛び交い始める。うまい具合に軌道修正したな。
落ち着くよう呼びかけた堀北だったが、自身もAクラスと聞いて多少の動揺はあっただろう。端末の画面を見た瞬間、表情が強張っていた。
しかしそれは表に出さず、平田が不在ながらもしっかりとクラスのリーダー役を全うしていた。
にしてもそうか、Aクラスか……
となると、坂柳か。
今回といい、前回のクラス内投票といい、一之瀬の件といい……坂柳を相手取るケースが多いな。
こちらとしてはあまり喜ばしくない展開だが、坂柳にとっては嬉しい出来事なんじゃないだろうか。
ずっと目をつけていた清隆と、司令塔として対決できる。
これで気が晴れて、清隆に対する好奇心が薄れるといいんだがな。
ところで、Aクラスには藤野もいるが、それは俺にとってはあまり関係ない。
戦いづらいなんてことはない。友人ではあるが、出場種目が被った場合は全力で叩かせてもらう。それだけだ。
結果的には、それが友人関係の持続にもつながるからな。
対戦相手も決まったところで、俺は頭の中でいくつか種目の候補を挙げる。
現時点で思いつけるだけで、ほぼ100%勝ちを拾えるであろう種目、勝負形式および関与方法は3つ。
明らかにこちらに分があるため、それらの種目がAクラス側に通知された場合、どれが本命の種目かが非常に分かりやすいだろう。
だがまったく問題はない。恐らくはそれでも勝てるからだ。
問題があるとすれば、種目への参加者だな。バスケでないことに須藤が納得するかどうか。
まあ、そこは追々考えていこう。
と、その前に。
俺は席を立ちあがり、教室の出入り口へと歩を進める。
それを目にした堀北は、当然それを見咎める。
「ちょっと、どこへ行くの?」
「……トイレだよ。すぐ戻る」
「……そう」
不服そうではあるが、トイレと言われてしまえば、堀北も止められない。我慢しすぎて教室でジョー、なんて事態は誰も望まないからな。
堀北のお墨付きをもらい、教室を出る。
するとすぐ、ある人物が目に入った。
Aクラスの生徒、橋本正義。
こいつとの間にかかわりがあるわけではないが、お互いに認識はしている。
俺は橋本……もとい、Aクラスからの偵察者に声をかける。
「盗み聞きか?」
単刀直入に、誤魔化すことなく尋ねる。
「おいおい、直球な質問だな、速野」
へらへらとしてそう言う橋本だが、肝心の問いには答えない。
もちろん俺も、ちゃんとした答えをもらえるとは初めから思っていないため、それ以上は何も言わない。
いま教室内でやってるのはルール確認。聞かれてもさほど悪影響はないからな。
橋本から目を切り、歩き出す俺。
そこに、今度は橋本から質問が飛んでくる。
「どこに行くんだ?」
「言わなくてもわかるだろ?」
「はは、まあな。何しに行く気だよ?」
「さあ、なんだろうな。お前と同じことかもしれない」
行き先、目的。その両方とも、あえてぼかして答えた。
しかし橋本は会話の流れで、それらを推定する。
「無駄だと思うぜ?」
「どうだろうな。案外そうでもないかもしれないぞ」
それだけ言って、俺は橋本の前を立ち去った。
「言わなくてもわかるだろ」そして「お前と同じことかもしれない」という俺のセリフに対する答え。
橋本は暗に、盗み聞きをしていることを認めたわけだ。
そしてこいつは、俺も自身と同じように、Aクラスに偵察に行くと思っているんだろう。
俺はAクラスに行くとも、盗み聞きをするとも言ってないのに。
まあそれはどうでもいい。さっきのやりとりは単なる言葉遊びだ。
結局俺は堀北に伝えた通り、どこにも寄り道せずにトイレに行き、普通に用を足して普通に教室に戻ってきた。
俺は最初から嘘など一つも吐いていない。堀北にトイレに行くと伝えたのは、マジでトイレに行きたかったからだ。茶柱先生が教室を出るちょっと前くらいから我慢していた。
ハンカチで手を拭きながら、ノコノコ歩いて戻ってきた俺を目にした橋本の表情が面白かった、ということだけ伝えておこう。
勝利したクラスの司令塔に支払われるプライベートポイントの額が原作には書かれてないんですが、どうなんでしょう。勝敗の数によって増減するんでしょうか。