実力至上主義の学校に数人追加したらどうなるのか。※1年生編完結   作:2100

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お待たせしました。
なんか、月一更新みたいになってしまってますね……
今回は原作と展開に差異はあまりありません。
また、明日の朝には次話の投稿も行いたいと思います。


ep.86

 

 翌日の朝からの平田の様子は、さらに酷さを増していた。

 いつもの通りに、王は平田に声をかけた。

 それまでは無視するだけだった平田が、ついに王の声に反応した。

 

「もう放っておいてくれないか」

 

 反応と言っても、拒絶反応だが。

 

「鬱陶しいんだ」

 

 昨日の俺への対応と同じように、王に対しても明確な拒絶を行う。

 今まで、平田に対しては努めて笑顔で接してきた王。ようやく自分に応答してくれたかと思いきや、あまりにも非情な対応をされ、泣きそうな顔になってしまっていた。

 

「ちょっと洋介くん、そんな言い方はないんじゃないの?」

 

 平田の元交際相手、軽井沢も、見るに見かねて平田に声をかける。

 

「なれなれしく下の名前で呼ばないでくれるかな。君はもう僕とは何の関係もない赤の他人だよね」

「そ、それは……じゃあ平田くん、ちょっと言い過ぎじゃないの」

「君の普段の態度に比べれば、大きな違いはないよ」

「なっ……! あ、あたしはただ……」

「もう黙ってくれないかな。じゃないと……分かるよね?」

 

 脅しのようなセリフ。

 恐らく多くの人間には、平田の発言の意味するところは分からないだろう。

 交際期間中に何かしら軽井沢の弱みを平田が握った、くらいの発想にしか至ることはできない。

 しかし事情の一端を知る俺は、そして恐らくは清隆も、平田の発言が軽井沢の過去に関することだろう、と判断できる。

 平田のセリフを受けた軽井沢の表情が、露骨に歪んだ。

 

「っ、何よ、あーもうウザい。知らないからね」

 

 軽井沢にとっては絶対に知られたくないであろう秘密。これを盾に取られては引き下がるしかない。

 まったく、見ていられないな。本気ですべてを拒絶し続けるつもりらしい。

 昨夜は「希望はまだある」と考えたものの、このままでは、平田が退学という道を選ぶ未来もそう遠くないかもしれない。

 今日も悪い雰囲気のまま、Cクラスは授業を消化。

 放課後、特別試験へ向けての話し合いの時間となった。

 すぐに平田、そして高円寺が席を立ち、それぞれ教室を出る。

 女子生徒数人が席を立ち、それを追いかけようとする。その中には王もいた。

 もちろん対象は高円寺ではなく、平田。

 しかし……朝の光景がフラッシュバックしたのだろうか、その足が自身の席から動くことはなかった。

 そのまま座り込んでしまう。

 前に立つ堀北は、それでいい、というような表情をしていた。

 しかし。

 

「あ、あの、私……用事があるので……」

 

 一度座った王が、再び立ち上がった。

 

「平田くんを追うつもり?」

 

 王は小さく頷いた。

 

「何度も言っているはずよ。今は彼より、特別試験に集中してほしいのよ」

「平田くんも……Cクラスの1人です」

「ええ。でもこれは優先順位の話なのよ。特別試験期間でなければ私も何も言わないわ。けれどそうじゃないでしょう。今は試験に向けて少しでも前進しなければならないのよ」

 

 王は成績優秀。しかも「中国語」という種目設定において絶対に必要不可欠な存在だ。堀北も必死で止める。

 

「だからって……平田くんを放っておくのは違うと思いますっ!」

 

 堀北の説得とは裏腹に、王はそう言って教室を飛び出していった。

 

「ちょっと……」

 

 堀北も王がこのような行動に出るとは考えていなかったのか、王が出ていった教室の扉を見つめたまま教壇の前で立ち尽くす。

 堀北はこの話し合いの要だ。王を連れ戻すためとはいえ、自らが教室を出ていくわけにはいかないとわかっているんだろう。

 すると、俺の後ろから椅子を引く音が聞こえた。

 

「オレが行ってくる」

「ちょっと、あなたは……」

「話し合いに関しては全部任せる。司令塔とはいえ、オレはいてもいなくても変わらないだろ?」

「……じゃあ、頼めるかしら。早く戻ってきて」

 

 堀北の指示に清隆は頷き、教室を出て行った。

 正直清隆はこの場にいた方がいいと思うんだが……まあでもあいつの場合、女子に限れば、生徒の情報や実力は軽井沢から聞き出せるか。恐らく櫛田にも頼るだろう。櫛田には「清隆に聞かれたら遠慮なく情報を話してやれ」と指示している。

 軽井沢と櫛田を総合すれば、このクラスの女子は恐らく網羅できる。本来であればここに平田が加わるはずなのだが……いまはそれができるような状況じゃない。

 平田、王、清隆、そして高円寺の計4人を欠いたCクラスの話し合いだが、形の上では滞りなく進んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あれは……?」

 

 木曜日の登校時間。

 寮から学校への道のりで、すこし妙な光景を目にした。

 俺の斜め前にいるのは、混合合宿の際に俺と同じ小グループに所属していたBクラスの生徒の1人。

 そいつは遅刻の危険性なんてないこの時間帯に、なぜか早歩きをしていた。

 朝に何か予定があるのか。

 いま考えても答えは分からないか。

 

「おはよ、速野くん」

 

 背後から声をかけられる。

 それが誰か、振り向かずとも声でわかる。松下だ。

 

「ああ、おはよう」

 

 答えがわからないといえば、松下の行動もなんだよな。

 何度も言うように、松下が「俺への好意をアピールしようとしている」というのは流石にわかっている。

 問題は、松下にはアピールするような「俺への好意」が存在しないということだ。

 だから非常に気持ちが悪い。

 お互いに腹を探り合っている状態のため、気疲れもする。この状態がすでに2ヶ月も続いている。

 いい加減、すっきり片付けたい。遅くとも年度が変わる前には。

 

「平田くん、大丈夫かな」

 

 松下の方から話題を振ってくる。

 大丈夫か大丈夫じゃないかでいえば、間違いなく大丈夫じゃない。

 

「さあ……でも俺にはどうすることもできない」

「このまま試験を迎えたら……勝てるかな、Cクラス」

「厳しいだろうな」

 

 相手は坂柳率いるAクラス。平田が機能していても、勝つ確率は高くない。平田が抜けている現状では尚更だ。

 

「速野くんは、どの種目に出るとか、堀北さんに言われた?」

「いや……俺に限らずまだみんな言われてないだろ。期限まで時間はあるし、慎重に決めたいんだろう」

「そっか」

 

 本当はほぼ決まっているが、ここで言う必要はない。

 いつぞやの櫛田のように、松下がCクラスを裏切らないという保証はない。

 

「お前は得意種目、なんて報告したんだ」

「私は白紙回答だよ」

「……そうなのか」

「Aクラスにも負けない、っていえるような種目はないかな」

 

 まあ、それでも不思議じゃないか。

 ほとんどが平均値、って感じのキャラだもんな、こいつは。

 誰かさんと同じように、たぶんやればもっとできるんだろうけど。

 

「決まってないとはいってもさ、きっと学力系の種目には出るよね?」

「……たぶん、そうなるとは思うが」

「その……頑張ってね」

 

 ……こういうことするから、気疲れするんだよな。

 

「……ああ」

 

 とはいえ、応援の言葉はそれとして素直に受け取っておこう。

 

 

 

 

 

 

「なあ、絶対抗議したほうがいいって!」

 

 その日の昼食時間。

 綾小路グループで集まり、どこで昼食を食べようか散策していたところで、少し異様な光景に遭遇した。

 

「でも、単なる偶然、って可能性はない?」

「それはないって。今日で3回目だぜ?」

 

 珍しく声を荒らげる柴田と、それを諭すようにしている一之瀬。隣には神崎も立っている。

 その光景に目を向けていると、向こうもこちらの集団に気づいたらしく、一之瀬が声をかけてきた。

 

「こんにちは。みんな今からお昼?」

 

 特定の誰かではなく、全体に向けての呼びかけ。

 俺や清隆、それに愛理を除けば、一之瀬と直接の関わりを持つ人物は綾小路グループにはいない。また愛理も強い結びつきとはいえない。

 となると、応対すべきは俺か清隆。

 清隆に目を向けると、任せる、と視線で言われたので、俺が一之瀬の問いに首肯で答える。

 すると、次に一之瀬は相手を俺に絞って話しかけてきた。

 

「カフェの方かな?」

「具体的に決めてたわけじゃないけど……まあその方面だな」

「そうなんだ。偶然、私たちもなんだ。よかったら一緒にどうかな」

 

 意外な誘いに驚く俺たち。

 いや、正確には神崎も、少しギョッとしたような表情を浮かべている。

 

「一之瀬、どういうつもりだ?」

「どういうつもりって……対戦クラスじゃないんだし、問題はないと思うけど」

 

 どうやら向こう側でもコンセンサスが取れていないらしい。

 

「それは、そうだが……」

「時間もないしさ。いこうよ」

 

 神崎は渋々といった様子で引き下がり、いつもより少し大掛かりなランチタイムが決定した。

 一之瀬の案内で、カフェに入店し、少し大きなテーブルに腰かけた。

 グループを代表してやりとりを行っていた俺が、一之瀬の隣に座ることになる。

 

「ごめんね、急に誘っちゃって。私がご馳走するから遠慮しないで」

「おい一之瀬……」

 

 神崎が怪訝そうな表情で一之瀬を止めようとする。

 さっきからこの2人の足並みが揃ってないな。大丈夫か。

 

「いやいい。この前の試験の影響で、Bクラスの財布事情、結構キツいだろ。俺たちもそんなつもりで誘いに乗ったわけじゃないし、自分たちで出す」

 

 俺の言葉に賛同する綾小路グループの面々。

 

「気にしないでいいのに……」

「言っただろ、そんなつもりじゃなかったって」

 

 まあもし綾小路グループと一緒でなく、俺ひとりだったら、お言葉に甘えていたかもしれないが……

 

「それで……俺たちを誘ったのはどうしてなんだ?」

 

 グループを代表して、啓誠が疑問を一之瀬にぶつける。

 

「あ、うん。さっきの柴田くんの話、聞こえてたよね? 変に誤解を与えるくらいなら、正直に話した方がいいかな、って思ったの」

「いいのか、話しても。Cクラスに内通者がいないとは限らない」

「そうだとしても、問題はないんじゃないかな。どっちみちここまで来ちゃったら、話すのが最善だと思うよ」

「……」

 

 無言でうなずく神崎。

 

「あ、ごめんね。単刀直入に言うとね、Bクラスの生徒が、Dクラスから嫌がらせを受けてるみたいなの」

「嫌がらせ?」

「そうなんだよ。なんか無意味に絡んでくるってゆーかさ。あとは追い回されたりとか。中にはアルベルトのヤツに壁際まで無言で追い込まれて、かなり怖かったらしいぜ」

 

 あの巨体にそんなことされたら、そりゃ怯むわな。

 柴田の話を聞いて、俺は朝目撃した光景を思い出した。

 あのときのBクラスのあいつは、もしかしたらDクラスの誰かから追い回されていたんじゃないか。

 

「なあ、もしかして……」

 

 俺はそれを柴田に話す。

 

「多分そうだぜ。今朝同じような話を聞いたしな。ああいう感じの嫌がらせを、俺も含めて何人かが受けてるんだ」

「へえ……ぶえっくしょい!!!!」

 

 突然、俺がかなりでかいくしゃみをぶちかました。

 口の中から唾が飛び散らないよう、顔を後ろを向け、またブレザーの袖で抑えてエチケットはしたが、店中に響くほどの音の大きさだったので、こちらに注目があつまってしまう。

 

「あー……悪い」

「大丈夫? 風邪?」

「いや、体調は万全だ。……続けてくれ」

 

 そう言ったが、全員まだ気になっている様子だ。

 隣の一之瀬は、心配そうな、申し訳なさそうな……そして少し残念そうな表情を浮かべていた。

 鼻がむずむずするのを感じながら、Bクラス3人の話を聞く。

 

「じゃあ続けさせてもらうが……Dクラスの一連の行動は、恐らく陽動作戦だろう。うちに心理的な負荷を与えて、試験本番のパフォーマンスを低下させるのが狙いだと考えている」

「こう言っちゃなんだけど……仕方のないことではあるんじゃないか。聞いた限りじゃ、暴力沙汰とか、校則に違反するようなことはしてないんだよな? Dクラスは、正面からぶつかってもBクラスには勝てないと思ってるだろうし、向こうとしても勝つための一手なんだと思うぞ」

 

 啓誠が冷静に指摘する。

 

「その通りだ。これ以降も、校則に触れない程度の陽動は仕掛けてくるとみるべきだろう」

 

 神崎も啓誠の分析に同意した。

 校則に触れない程度に、相手を陽動する。これもある意味では正攻法だ。むしろやって当然、やられて当然の策ですらある。現に俺たちCクラスも、Aクラスから偵察のような行為を受けていた。

 これが、現在Dクラスをまとめているであろう金田や石崎の指示ならまだいい。

 だがもし……万が一龍園が背後にいるとしたら……単なる陽動作戦では収まらない、なんて可能性が非常に高い。

 

「っくしょぅぁっ!!!!」

 

 そんなことを考えつつ、俺は再び大きいくしゃみをかました。

 先ほどから、テーブルに備え付けられているティッシュを十枚ほど消費している。

 再び集まる視線。痛い。

 

「本当に大丈夫か知幸」

「あ、ああ……」

 

 本当に体調は悪くない。

 こんなことになったのは、俺が店内に入り、この席に座ってからのことだ。

 

「悪い啓誠、ちょっと席変わってくれ」

 

 ティッシュで鼻をかみつつ、啓誠に頼む。

 

「え? あ、ああ……」

 

 突然の申し出に戸惑いを見せる啓誠。

 啓誠以外にも、なんのために席交換なんて、と思われているだろうが、しっかりと意味はある。この行動のおかげで恐らく症状は治まるだろう。

 席交換を済ませ、再び話に耳を傾ける。

 

「金田がこのような作戦を敢行するとは思えない」

「ってことは、石崎の指示か」

「だと思うけど、私たちのやることは変わらないよ。今まで通り、正面から戦って必ず勝つ。そうだよね?」

 

 一之瀬の宣言に、神崎も柴田もうなずいた。

 足並みがそろっていないように見えても、このあたりの方針は一致しているらしい。

 

「私たちは、こういう作戦には動じない。だからこそ、変な憶測をされたり、噂を流されたくないの」

「効いてると思われたら、向こうはより増長する、ってことか」

「うん」

「わかった。俺たちとしてもBクラスを敵に回したくはないからな。この件に関しては、これ以上不用意に発言したりしない」

 

 俺に代わって一之瀬の隣に座る啓誠が告げた。

 

「ありがとう。あ、じゃあお昼ご飯にしよっか。もう時間の余裕もなくなっちゃったし」

 

 気づけば昼食時間は残り30分ほど。のんびりしている時間はなさそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 昼食を終えて一之瀬たちと別れ、教室へと帰る道中。

 

「やっぱり一之瀬さんって可愛いよねえ」

 

 ため息交じりにそう言う波瑠加。

 

「ねえ、そう思うでしょゆきむー。ともやんから一之瀬さんの隣譲ってもらった時、顔赤くなってたの見逃してないからねー?」

「なってない」

「あはは、そんなムキにならなくていいって。女子の私でもそう思うんだからさ」

 

 からかうように笑う。愛理も波瑠加の意見に同意のようだ。

 

「ともやんはアレ? 美少女の隣は藤野さんで慣れっこ、って感じ?」

 

 俺が啓誠に一之瀬の隣の席を譲ったことを言っているようだ。

 

「いや、そんなんじゃねーよ。……一之瀬、香水つけてただろ」

「あ、やっぱりそうだよね。シトラス系かな?」

 

 愛理がすかさず俺に同調した。続いて波瑠加もうんうんと頷く。

 

「香水と席を譲ったことと、何か関係があるの?」

 

 俺の発言に脈絡を感じられなかったらしく、愛理が聞いてくる。

 

「たぶん、その香水が含んでる化学物質の一部が、俺の体質的に受け付けなかったんだろ。ショッピングモールの通路沿いに香水売ってるところ通ると、あんな感じでくしゃみと鼻水が止まらなくなることが時々ある」

 

 一種のアレルギー症状だろう。実を言うと、子どものころからその兆候はあった。

 そこで、一之瀬から一番遠い位置に座っていた啓誠に、席の交換を頼んだということだ。

 恐らく一発目のくしゃみをしたときから、一之瀬は自分の香水が原因であることに気づいていただろう。だからこそのあの表情というわけだ。

 

「不便な体質だねー、それは」

「まったくだ」

 

 とはいえ、全ての香水に対して、ってわけじゃない。

 櫛田も香水をつけているが、櫛田に対してああいった症状が出たことはない。

 

「でも一之瀬さんって、香水つけるようなタイプだったのかな。それとも何か心境の変化でもあったとか?」

 

 波瑠加は俺に顔を向けてきたので、手を広げて「知らない」ということをジェスチャーで伝える。

 

「他の三人はどう思う?」

 

 今度は清隆、明人、啓誠に問う波瑠加。

 

「まず……香水なんてつけてたか?」

「え、うそでしょ、そこから?」

 

 明人も、そして一之瀬の隣に座っていた啓誠も、香水に気づいていないようだった。清隆は無表情すぎてどっちかわからん。

 

「つけてたとしても、今日はたまたまそういう気分だったってだけじゃないのか?」

「はあ、男子ってホント……」

 

 呆れる波瑠加だが、男子は基本的に香水には精通していないんだから容赦してやってほしい。俺もアレルギー症状が出ていなければ、一之瀬の香水には気づかなかっただろう。

 まあ女子としては、そのあたりの無頓着さに呆れを感じるのかもしれないが。

 

「あっ、ゆきむーちょっとストップ」

「え? なん……」

 

 突如呼び止めた波瑠加に聞き返そうとした啓誠が、目の前の光景を見て言葉を途切れさせる。

 

「あー、し、篠原」

「何よ」

「そ、その、日曜、なんだけど……」

 

 そこにいたのは池と篠原の2人。

 どうやら池が篠原を遊びに誘っている最中のようだ。

 こういうのは気づかないふりをして素通りするのがいいと思うんだが、その場から動こうとしない波瑠加。声を潜めて会話を続ける。

 

「日曜って確か……ホワイトデーよね?」

「そういえばそうだな」

「ホワイトデーに遊びに誘うなんて……篠原さん、もしかして池くんにチョコ渡したのかな?」

「義理でなら、渡してそうだけどねー」

 

 そこらへんの事情には疎いのでよく分からないが、池と篠原の関係が比較的親密であるということは、少なくとも事実らしい。

 

「そういえば……ともやん、最近松下さんと仲良さげだよね〜?」

 

 波瑠加が俺をからかうような視線を向けてくる。

 

「ん……まあ、そうなるのか」

 

 あえて否定はしなかった。わざわざここで松下の俺への好意の有無を話す必要はない。話が面倒な方向に向いてしまう。

 側から見ているだけの人間なら、最近の俺と松下は親密であると判断しても不思議ではない。

 

「チョコ貰ったり?」

「したな」

「ふーん」

「……なんだよ」

「別に〜? ね、愛理」

「えぇっ!? いや、その……」

 

 急に焦り出す愛理。

 

「でもさ、流石にともやんもそこまで鈍くはないでしょ?」

 

 好意を寄せられていることに気付いていないはずはないだろう、と暗に言われる。

 言葉は俺に向けたものだったが、波瑠加は明人と啓誠にも目を向けた。

 

「まあ……結構露骨だからな」

「混合合宿の後から急に、って感じだ。下世話かもしれないが……その、何かあったのか?」

 

 2人とも、第三者として率直な印象を述べる。

 正直こういう展開は気分の良いものではないが、松下の俺への接近に関して、完全な第三者目線からの意見を聞く機会はそうそうない。ここは活かす道を探すべきか。

 

「まあな……スキーの時に、ちょっと色々あったんだ」

「あ、そういえば2人とも最初は滑れないコースだったんだっけ。でも、ともやんは滑れないフリしてただけなんだよね?」

 

 スキーの結果発表後の平田からの説明で、そこらへんは全員に周知されている。

 

「何があったのか気になるけど……もう昼休み終わるし、放課後に聞かせてもらうってことで」

 

 気づけば授業開始10分前。池と篠原の姿も見えなくなっている。

 

「……お手柔らかにな」

 

 今日、この機会に答えに近づきたいが……あまり期待は寄せないでおこう。

 と、そんな心意気で放課後に臨んだわけだが……

 結果はご想像の通り。

 松下との絡みを洗いざらい白状させられて、いじり尽くされ、結果答えには一歩も近づくことはできなかった。




なぜ松下は、速野に近づいているのか……


一之瀬のシトラス系香水作戦は失敗に終わりました。
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